説明

遮断器及び遮断器操作機構部の固渋予防方法

【課題】操作機構部の固渋を予防することが可能であり、さらには遮断器を投入した状態で操作機構部の動作の良否を診断することができる遮断器を提供する。
【解決手段】遮断指令によりリンク機構とトリップフックとの係止を解除し、遮断ばねを放勢させ電路を遮断する操作機構部を有する遮断器において、互いに独立して動作可能な、トリップフック33A、33B及びトリップフック33A、33Bを動作させるトリップコイル43A、43Bを含むトリップユニット31A、31Bを2組設け、2組のトリップユニット31A、31Bが動作すると遮断状態となるが、2組のトリップユニット31A、31Bのいずれか一方及び/又は両方のトリップユニット31A、31Bが動作しないときは投入状態が保持され、投入状態を保持したまま2組のトリップユニット31A、31Bのうちいずれか一方のトリップユニット31A、31Bを動作可能に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電路を遮断する遮断器及び該遮断器の操作機構部の固渋予防方法に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な電磁操作式の真空遮断器は、リンク機構、投入電磁石、引き外し電磁石、遮断ばね、トリップフックを含み構成される操作機構部を有し、該操作機構部を通じて真空バルブを投入、遮断する。真空バルブを投入するときは、投入電磁石を励磁し、可動鉄心でリンク機構の接続部を押圧することでリンク機構を伸長させ真空バルブを投入する。一方、真空バルブを遮断するときは、引き外し電磁石を励磁し、リンク機構に係止しているトリップフックを回動させ、投入時に蓄勢された遮断ばねによりリンク機構の伸長を解き、真空バルブを遮断する。電磁操作式の遮断器の他、電動機を用いて投入ばねを蓄勢する電動ばね操作方式の遮断器も多く使用されているが、この遮断器の遮断機構は、電磁操作式の遮断器と同じである(例えば特許文献1参照)。
【0003】
変電所などに設置されている上記遮断器は、事故等がなければ動作しないため長期間投入状態が保持されたままである。このため操作機構部に塗布されているグリスが固まり操作機構部が固渋してしまうことがある。遮断器は、電路に事故が発生した場合に、直ちに遮断する役目があり、遮断不能という事態は避けなければならない。このためには、遮断器が正常に動作することを診断、点検すること、あるいは操作機構部が固渋しないようにすることが重要である。しかし通常、遮断器は長期間投入状態が保持されたままであるため、この間は診断、点検を行うことができない。遮断器の定期点検において動作確認を行うことができるが、定期点検の間隔は一般的に3年ないし6年と長いため定期点検のみでは十分とは言い難い。
【0004】
上記問題に対応すべく、グリス硬化による操作機構部の不具合に対しては、グリスレス構造の遮断器が開発されている。また遮断器監視装置も多く提案されている。例えば、投入指令に応じて励磁される投入コイルを流れる電流を検出する電流検出器を備え、投入コイルを流れる電流の波形から遮断器の不具合の兆候の有無を判断する遮断器監視装置がある(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−228600号公報
【特許文献2】特開2011−70838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
グリスレス構造の遮断器は、グリス固化による不具合は発生しないが、その他の原因による操作機構部の不具合は防止できない。また操作機構部に不具合が発生しているか否かの診断、確認を行うことができない。特許文献2に記載の遮断器監視装置は、遮断器が動作する事由があった場合には診断することができるが、長期間動作しない場合には、動作の良否を診断することができない。以上のようにこれまで遮断器の動作不良を改善する提案、遮断器の動作を診断、点検又は監視する装置が開発されているが十分とは言い難く、特に長期間動作しない遮断器の動作診断、監視が可能な、さらには固渋を防止することができる遮断器の開発が待たれている。
【0007】
本発明の目的は、操作機構部の固渋を予防することが可能であり、さらには遮断器を投入した状態で操作機構部の動作の良否を診断することができる遮断器及び遮断器操作機構部の固渋予防方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、リンク機構と係止するトリップフックと、前記リンク機構と前記トリップフックとの係止を解除させるトリップコイルとを含むトリップユニットを備え、遮断指令により前記トリップユニットが動作し、前記リンク機構と前記トリップフックとの係止を解除し、遮断ばねを放勢させ電路を遮断する操作機構部を有する遮断器において、互いに独立して動作可能な前記トリップユニットを2組設け、2組のトリップユニットが動作すると遮断状態となるが、2組のトリップユニットのうち少なくともいずれか一方のトリップユニットが動作しないときは投入状態が保持され、投入状態を保持したまま2組のトリップユニットのうちいずれか一方のトリップユニットを動作させることが可能なことを特徴とする遮断器である。
【0009】
本発明の遮断器は、リンク機構と係止するトリップフックと、リンク機構とトリップフックとの係止を解除させるトリップコイルとを含む、互いに独立して動作可能なトリップユニットを2組有し、投入状態を保持したままいずれか一方のトリップユニットを動作させることができる。このため遮断器が長期間動作しない場合であっても、トリップユニットを動作、具体的にはトリップコイルを励磁しトリップフックを回動させ、リンク機構との係止を解除させ、このときの動作を監視すれば、トリップユニットの動作が正常か否か診断することができる。また2組のトリップユニットを交互に、定期的に動作させればトリップフックの固渋を予防することができる。
【0010】
また本発明の遮断器は、前記構成に加え、前記2組のトリップユニットのトリップフックは、前記リンク機構の同一のローラーに係止するように並設されていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、2組のトリップユニットのトリップフックがリンク機構の同一のローラーに係止するように並設されているので、既存の遮断器にも本発明の遮断器を容易に適用することができる。
【0012】
また本発明の遮断器は、前記構成に加え、さらに前記2組のトリップユニットに対し、トリップユニットを交互に動作させるように指令を送る点検指令手段と、前記トリップフックの動作完了を検知する動作検知手段と、前記トリップユニットへの動作指令開始から前記トリップフックの動作完了までのトリップユニット動作時間を計時する計時手段と、前記トリップユニット動作時間が予め定める閾値を超えると警報手段に信号を送る判定手段と、を含むトリップユニット動作点検装置を備えることを特徴とする。
【0013】
さらに本発明の遮断器は、トリップユニットへの動作指令開始からトリップフックの動作完了までのトリップユニット動作時間を計時し、この時間が予め定める閾値を超えると警報手段を動作させるように信号を送るトリップユニット動作点検装置を備えるので、簡単にトリップユニットの動作を点検することができる。日々点検を行うことで信頼性の高い遮断器とすることができる。
【0014】
また本発明は、前記遮断器において、遮断器が投入された状態で前記2組のトリップユニットを交互に動作させ、前記トリップユニットの固渋を予防することを特徴とする遮断器操作機構部の固渋予防方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の遮断器は、トリップユニットを2組有し、投入状態を保持したままいずれか一方のトリップユニットを動作させることができるため、遮断器を投入した状態で操作機構部のトリップユニットの動作の良否を診断することができる。また2組のトリップユニットを交互に、定期的に動作させることで操作機構部のトリップユニットの固渋を予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の一形態である遮断器1の全体構成を示す模式図である。
【図2】図1の遮断器1のトリップユニット31の概略構成を示す図である。
【図3】図1の遮断器1の動作点検装置51の概略構成を示す図である。
【図4】図1の遮断器1の他のトリップユニット71の概略構成を示す図である。
【図5】図1の遮断器1のさらに他のトリップユニット81の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の実施の一形態である遮断器1の全体構成を示す模式図であり、(A)は、投入状態、(B)は、遮断状態を示す。図2は、遮断器1のトリップユニット31の概略構成を示す図、図3は、遮断器1の動作点検装置51の概略構成を示す図である。
【0018】
遮断器1は、電路を開閉する遮断器本体11と、遮断器本体11の操作機構部17の一部を構成するトリップユニット31の動作を点検する動作点検装置51とに大別される。
【0019】
遮断器本体11は、電磁操作方式の真空遮断器であり、操作機構部17を介して真空バルブ13を開閉する。操作機構部17は、リンク機構19、投入コイル29、トリップユニット31を備え、リンク機構19は、真空バルブ13の可動軸15及び遮断ばね(図示省略)と連結し、両端部を固定軸25、27に連結する。
【0020】
トリップユニット31は、同一構造からなる2組のトリップユニット31A、トリップユニット31Bで構成されている。トリップユニット31A(31B)は、リンク機構19の第1ローラー21に係止するトリップフック33A(33B)と、トリップフック33A(33B)を回動させトリップフック33A(33B)と第1ローラー21の係止を解除するトリップコイル43A(43B)とを有する。
【0021】
トリップフック33A(33B)は、3本のアーム35A(35B)、37A(37B)、39A(39B)が略Y字形状に一体的に形成され、中央部に支持軸が貫通する貫通孔(図示省略)が穿設されている。両トリップフック33A、33Bは、固定された支持軸49に摺動自在に並べて挿入され、支持軸49に対して回動自在であり、互いに独立して回動することができる。第1アーム35A(35B)には引張りばね47A(47B)が取付けられている。第2アーム37A(37B)には、トリップコイル43A(43B)の可動軸45A(45B)が押圧する台座41A(41B)が設けられ、第3アーム39A(39B)は先端部をリンク機構の第1ローラー21に係止する。
【0022】
トリップコイル43A(43B)は、トリップフック33A(33B)の第2アーム37A(37B)の台座41A(41B)の上方であって、励磁すると突出する可動軸45A(45B)が、第2アーム37A(37B)の台座41A(41B)を押圧し、第3アーム39A(39B)の先端部とリンク機構の第1ローラー21との係止が解除される位置に固定されている。トリップコイル43A(43B)は、励磁されていない状態で、可動軸45A(45B)が第2アーム37A(37B)の台座41A(41B)と接触することはない。図2に示すトリップコイル43A(43B)は、励磁していない状態である。
【0023】
動作点検装置51は、トリップユニット31A(31B)を動作させ、動作が正常か否か点検、診断する装置であり、これを自動的に行う自動点検装置である。またこのような動作点検装置51は、トリップフック33A(33B)がリンク機構の第1ローラー21と固渋することを予防する固渋予防装置としても機能する。
【0024】
動作点検装置51は、トリップフック33A(33B)の動作を検知するリミットスイッチ53A(53B)と、点検のためにトリップユニット31A(31B)を動作させる指令を出す点検指令手段56、動作指令開始からトリップフック33A(33B)の動作完了までの時間を計時する計時手段61、データを記憶する記憶手段63、トリップユニット31A(31B)の動作の良否を判断する判定手段65を含み構成される点検制御装置55とを備える。
【0025】
リミットスイッチ53A(53B)は、トリップフック33A(33B)の動作を検知するための検知手段であり、第2アーム37A(37B)がトリップコイル43A(43B)の可動軸45A(45B)に押圧され、トリップフック33A(33B)の回動が完了したとき、第1アーム35A(35B)が当接する位置に固定されている。リミットスイッチ53A(53B)は、点検制御装置55と接続し、第1アーム35A(35B)が当接するとリミットスイッチ53A(53B)は、ON信号を点検制御装置55に送る。
【0026】
リミットスイッチ53A(53B)に代え、マイクロスイッチ、又は光電スイッチなど非接触式のスイッチを用いて、トリップフック33A(33B)の動作を検知するようにしてもよい。既存の遮断器を改造して本遮断器1とするような場合には、取付スペースも制約されるためトリップフック33A(33B)の動作を検知する検知手段は、小型のものが好ましい。また信頼性が高く安価な検知手段であることが好ましい。
【0027】
点検制御装置55は、トリップユニット31A(31B)を定期的に動作させ、トリップフック33A(33B)の固渋を防止すると共に、トリップユニット31A(31B)が正常に動作するか否かの点検動作を制御する装置である。トリップユニット31A(31B)を動作させるとは、トリップコイル43A(43B)を励磁し、トリップフック33A(33B)を回動させ、トリップフック33A(33B)とリンク機構の第1ローラー21との係止を解除させることをいう。
【0028】
点検インターバル設定部57は、トリップユニット31A又はトリップユニット31Bを動作させるインターバルを設定する。インターバルは、特定の時間、期間に限定されるものではないが、両方のトリップユニット31A、31Bを同時に動作させることはできない。このため一方のトリップユニット31A(31B)に動作指令出力中に、他方のトリップユニット31B(31A)に動作指令を出す設定を行うことができず、点検インターバル設定部57は、2つのトリップユニット31A、31Bの動作指令が一瞬でも重なり合うようなインターバルの設定は受付けない。
【0029】
点検起動部59A、59Bは、点検インターバル設定部57で設定された時刻になるとトリップコイル43A又はトリップコイル43Bに励磁信号を送る。同時に計時手段61に点検動作開始の信号を送る。本実施形態では、点検インターバル設定部57と点検起動 部59A、59Bとで点検指令手段56を構成する。
【0030】
計時手段61は、点検起動部59A(59B)から点検動作開始信号を受けてからリミットスイッチ53A(53B)から信号を受けるまでの時間、トリップユニット31A(31B)の動作時間θ(θ)を計時し、計時終了後、このトリップユニット動作時間θ(θ)を判定手段65及び記憶手段63に送る。記憶手段63は、メモリーカードなどデータ記憶領域にトリップユニット動作時間θ(θ)を日時と関連付けて保存する。
【0031】
判定手段65は、閾値設定部67と判定部69とを備え、判定部69は、計時手段61からトリップユニット動作時間θ(θ)を受け取ると、閾値設定部67で設定された設定時間θを読み出し、この設定時間θと計時手段61から送られるトリップユニット動作時間θ(θ)とを比較する。判定部69は、トリップユニット動作時間θ(θ)が設定時間θを超えていると判断すると警報装置に警報信号を送る。
【0032】
閾値設定部67で設定される設定時間θは、通常、トリップユニット31A(31B)の正常動作時間θA(N)、θB(N)、又はトリップユニット31A(31B)の動作のばらつきを考慮し、正常動作時間θA(N)、θB(N)に余裕代αを加算した時間が設定される。トリップユニット31A(31B)の正常動作時間とは、トリップユニット31A(31B)の動作正常時における点検動作信号の発信からリミットスイッチ53A(53B)から信号を受けるまでの時間、より具体的にはトリップコイル43A(43B)への励磁信号開始からリミットスイッチ53A(53B)がONとなるまでの時間である。
【0033】
上記構成からなる点検制御装置55は、コンピュータ、プログラマブルロジックコントローラなどを用いることで容易に実現することができる。点検制御装置55は、遮断器本体11側に設置しても、遮断器本体11と離して設けてもよい。
【0034】
次に、遮断器本体11の基本動作について説明する。遮断器1は、投入指令が発せられると投入コイル29を励磁させ、可動軸30でリンク機構19の第2ローラー23を押圧し、リンク機構19を伸長させる。リンク機構19が伸長すると真空バルブの可動軸15が押し上げられ、真空バルブ13を閉じる。このときトリップフック33A及びトリップフック33Bは、リンク機構の第1ローラー21に係止する(図1(A))。
【0035】
一方、遮断指令が発せられると2つのトリップコイル43A、43Bが同時に励磁し、可動軸45A、45Bが押圧することでトリップフック33A、33Bが支持軸49を中心に反時計回りに回動し、トリップフック33A、33Bとリンク機構の第1ローラー21との係止が解除される。トリップフック33A、33Bとリンク機構の第1ローラー21との係止が解除されると、遮断ばねの放勢力でリンク機構19に連結する真空バルブの可動軸15が引き下げられ、真空バルブ13が開く。
【0036】
遮断器1は、2つのトリップユニット31A、31Bが動作し、トリップフック33A及びトリップフック33Bと第1ローラー21との係止が解除されてはじめて遮断される。トリップユニット31A(31B)のいずれか一方が動作し、トリップフック33A(33B)と第1ローラー21との係止が解除されても、他方のトリップフック33B(33A)が第1ローラー21と係止している限り遮断されない。両方のトリップユニット31A、31Bが動作することなく、両方のトリップフック33A、33Bが第1ローラー21と係止しているとき、遮断されないことは言うまでもない。
【0037】
次に、動作点検装置51を用いたトリップユニット31A、31Bの点検要領について説明する。動作点検装置51は、2つのトリップユニット31A(31B)のうちいずれか一方が動作しても、遮断器1は、遮断されることなく投入状態を保持することができることを利用し、トリップユニット31A(31B)の点検を行う。
【0038】
動作点検装置51の点検動作に先立ち、点検インターバル設定部57にトリップユニット31A及びトリップユニット31B各々の点検時刻、点検間隔が設定される。例えばトリップユニット31Aは、点検時刻が午前10時、点検間隔24時間、トリップユニット31Bは、点検時刻が午後3時、点検間隔24時間が入力される。設定時間θとして、トリップユニット31A及びトリップユニット31Bの正常動作時間θA(N)+α、θB(N)+αが設定されているものとする。
【0039】
点検制御装置55は、時刻が午前10時となると、点検起動部59Aを介してトリップコイル43Aに所定の時間励磁指令を送る。トリップコイル43Aが励磁されるとトリップフック33Aが反時計廻りに回動する。トリップフック33Aが所定の位置まで回動すると第1アーム35Aがリミットスイッチ53Aに接触し、リミットスイッチ53AはONとなる。計時手段61は、点検起動部59Aがトリップコイル43Aに励磁指令を送ったときから、リミットスイッチ53AがONとなるまでの時間を計時する。
【0040】
点検起動部59Aがトリップコイル43Aへ送る励磁信号の長さ、励磁指令時間は、設定時間θより長い時間である。トリップコイル43Aへの励磁信号が停止すると、トリップフック33Aは、引張りばね47Aにより時計廻りに回動し、第1ローラー21と係止する。
【0041】
点検制御装置55は、励磁指令時間が終了すると、計時手段61から送られるトリップユニット動作時間θを記憶手段63に記憶すると共に、判定部69を介してトリップユニット動作時間θと設定時間θとを比較し、トリップユニット動作時間θが設定時間θを超えたとき、警報出力を発する。
【0042】
トリップユニット31Aの動作が不調、例えばトリップフック33Aが第1ローラー21に固渋し、トリップコイル43Aに送られる励磁指令時間が終了しても、リミットスイッチ53AがONとならず、トリップユニット31Aの動作時間θを計時できないときもある。このときには、計時手段61は、励磁指令時間をトリップユニット31Aの動作時間θとして、判定部69に送る。励磁指令時間は、設定時間θよりも長い時間が設定されているので、判定部69は励磁指令時間が送られると警報出力を発する。これによりトリップユニット31Aの異常が分かる。
【0043】
点検制御装置55は、午後3時になるとトリップユニット31Aと同様の要領でトリップユニット31Bの動作を点検する。翌日以降も同じ要領でトリップユニット31A及びトリップユニット31Bの動作を点検する。
【0044】
トリップユニット31A又はトリップユニット31Bの動作点検中に遮断器1に対して遮断指令が発せられる場合も想定される。遮断指令の場合は2つのトリップコイル43A及びトリップコイル43Bに同時に励磁信号が送られるので、動作点検中であっても遮断器1は当然に遮断される。
【0045】
以上のように本遮断器1は、遮断器本体11を投入した状態で定期的にトリップユニット31A又はトリップユニット31Bを動作させ、トリップユニット31A又はトリップユニット31Bの動作を点検することができるので、このとき異常が発見されれば必要な措置を講じることも可能であり、信頼性の高い遮断器1とすることができる。また定期的にトリップユニット31A又はトリップユニット31Bを動作させるため、トリップフック33Aと第1ローラー21との固渋、トリップフック33Bと第1ローラー21との固渋を防止することができる。
【0046】
上記実施形態では、トリップフック33A(33B)及びトリップコイル43A(43B)の動作を個別に点検するのではなく、トリップユニット31A(31B)全体としての動作を点検している。これはトリップコイル43A(43B)の動作不良は発生し難く、トリップユニット31A(31B)の動作不良の大半は、トリップフック33A(33B)の動作不良に起因するためである。このようにすることで少ない数のリミットスイッチ、簡便な回路構成で、トリップユニット31A(31B)の動作を点検することができる。もちろんトリップコイル43A(43B)の動作を検知するリミットスイッチ、又はセンサーを設け、トリップユニット31A(31B)全体の動作と、トリップコイル43A(43B)の動作とを同時に点検するようにしてもよい。これによりトリップフック33A(33B)及びトリップコイル43A(43B)の動作を個別に診断することができる。
【0047】
図4は、他のトリップユニット71の概略構成を示す図である。図1から図3に示すトリップユニット31と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0048】
トリップユニット71は、トリップユニット31と同様に、同一構造からなる2組のトリップユニット71A、トリップユニット71Bで構成され、トリップユニット71A、トリップユニット71Bが同時に動作したときのみ遮断器1が遮断され、投入状態の遮断器1においてトリップユニット71A又はトリップユニット71Bの少なくともいずれか一方が動作しないときには、遮断器1は投入状態が保持され、遮断しない点など基本的な機能、動作はトリップユニット31と同じである。
【0049】
一方で、トリップユニット31では、トリップコイル43A(43B)が直接トリップフック33A(33B)を押圧し、トリップフック33A(33B)とリンク機構の第1ローラー21との係止を解除するが、トリップユニット71A(71B)は、トリップコイル43A(43B)が押圧するレバー73A(73B)と、リンク機構の第1ローラー21と係止するトリップフック34A(34B)とが分離している点が異なる。
【0050】
レバー73A(73B)は、上方の一部が切り取られアーム部75A(75B)が形成された矩形板状体であり、中央部に連結軸77A(77B)が挿通する貫通孔(図示省略)が設けられている。トリップフック34A(34B)は、中央部から上方にかけて一部が三角形に切り取られ、さらに中央部から下方にかけて一部が三角形に切り取られた矩形板状体であり、中央部に連結軸77A(77B)が挿通する貫通孔(図示省略)が設けられている。
【0051】
連結軸77A(77B)は、レバー73A(73B)とトリップフック34A(34B)とを連結する部材であり、レバー73A(73B)とトリップフック34A(34B)の中心を連結軸77A(77B)が貫通し、レバー73A(73B)及びトリップフック34A(34B)は連結軸77A(77B)に固着され、レバー73A(73B)とトリップフック34A(34B)と連結軸77A(77B)とは一体的に回動する。
【0052】
レバー73A及びトリップフック34Aと、レバー73B及びトリップフック34Bとは、トリップフック34Aとトリップフック34Bが中央部に並ぶように左右対称に配置されている。連結軸77A(77B)は、レバー73A(73B)を挟むように設けられたベアリング79A(79B)で回動自在に支持されている。このためレバー73Aとトリップフック34Aと連結軸77A、レバー73Bとトリップフック34Bと連結軸77Bは、互いに独立して回動することができる。
【0053】
トリップフック34A及びトリップフック34Bは、先端部をリンク機構の第1ローラー21に係止し、トリップコイル43A(43B)は、レバー73A(73B)のアーム部75A(75B)を押圧可能に配置されている。トリップコイル43Aを励磁すると、可動軸45Aがレバー73Aのアーム部75Aを押圧し、レバー73A及びトリップフック34Aが一体的に時計回りに回動し、トリップフック34Aとリンク機構の第1ローラー21との係止が解除される。このときトリップフック34Bは、リンク機構の第1ローラー21に係止したままである。トリップコイル43Bを励磁した場合も同様である。
【0054】
図5は、他のトリップユニット81の概略構成を示す図である。図1から図3に示すトリップユニット31、図4に示すトリップユニット71と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0055】
トリップユニット81は、トリップユニット31、トリップユニット71と同様に、同一構造からなる2組のトリップユニット81A、トリップユニット81Bで構成され、トリップユニット81A、トリップユニット81Bが同時に動作したときのみ遮断器1が遮断され、投入状態の遮断器1においてトリップユニット81A又はトリップユニット81Bの少なくともいずれか一方が動作しないときには、遮断器1は投入状態が保持され、遮断しない点など基本的な機能、動作はトリップユニット31、トリップユニット71と同じである。
【0056】
トリップユニット81は、トリップユニット71と類似の形態からなり、トリップユニット71と同様に、トリップコイル43A(43B)が押圧するレバー73A(73B)と、リンク機構の第1ローラー21と係止するトリップフック34A(34B)とが分離している。トリップユニット71では、レバー73A及びトリップフック34Aと、レバー73B及びトリップフック34Bとが左右対称に配置されているが、トリップユニット81では、レバー73Aとレバー73Bとが並ぶように配置されている。
【0057】
レバー73Aとトリップフック34Aは、連結軸83に挿通、固着され、レバー73Aとトリップフック34Aと連結軸83は一体的に回動する。連結軸83は中心部が貫通したスリーブ状の軸である。レバー73Bとトリップフック34Bも、連結軸85に挿通、固着され、レバー73Bとトリップフック34Bと連結軸85とは一体的に回動する。
【0058】
レバー73A、レバー73B、トリップフック34A、トリップフック34Bは次のように組み立てられる。レバー73A及びトリップフック34Aが固着された連結軸83の中心に連結軸85が挿通され、レバー73A及びトリップフック34Aの外側にレバー73B及びトリップフック34Bが配置され、レバー73B及びトリップフック34Bが連結軸85に固着される。連結軸85は、両端部がベアリング(図示省略)で回動自在に支持されている。連結軸85は、連結軸83に隙間なく挿通され、連結軸83に対して回動自在であり、連結軸83と連結軸85とは互いに独立して回動することができる。
【0059】
トリップフック34A及びトリップフック34Bは、先端部をリンク機構の第1ローラー21に係止し、トリップコイル43A(43B)は、レバー73A(73B)のアーム部75A(75B)を押圧可能に配置されている。トリップコイル43Aを励磁すると、可動軸45Aがレバー73Aのアーム部75Aを押圧し、レバー73A及びトリップフック34Aが一体的に時計回りに回動し、トリップフック34Aとリンク機構の第1ローラー21との係止が解除される。このときトリップフック34Bは、リンク機構の第1ローラー21に係止したままである。トリップコイル43Bを励磁した場合も同様である。
【0060】
上記のようにトリップユニット31と、トリップユニット71及びトリップユニット81の機能は同一であるが、構成部材、配置が異なるので遮断器の構造、配置等に応じて好ましいトリップユニットを選択すればよい。一方で上記実施形態に示すトリップユニットは、いずれも2つのトリップフック33A、33B、トリップフック34A、34Bが第1ローラー21に係止するように並んで配置されているので既存の遮断器へも適用し易く、既存の遮断器を改造し、本遮断器1とする場合も、簡単な改造で済む。
【0061】
本発明の遮断器は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の遮断器の最大の特徴は、トリップユニットを2重化し、遮断器投入状態においても、投入状態を保持したまま、いずれか一方のトリップユニットを動作可能に構成した点にある。遮断器がこの点を有していれば、種々変更してもよい。
【0062】
例えば、上記実施形態に示す遮断器1は、トリップユニットを自動点検可能な動作診断装置51を備えるが、動作診断装置51を設けることなく、遮断器投入状態において、適宜、交互にトリップコイル43A(43B)を励磁させトリップフック33A(33B)、34A(34B)を回動させてもよい。これによりトリップユニット31A(31B)、71A(71B)、81A(81B)の動作確認、トリップフック33A(33B)、34A(34B)の固渋を防止することができる。
【0063】
また上記実施形態では、トリップフック33A(33B)、34A(34B)の復帰に引張りばね47A(47B)を使用しているが、引張りばね47A(47B)に代え、ねじりコイルばねを使用してもよい。例えば、図2の遮断器1において、ねじりコイルばねを使用する場合には、ねじりコイルばねを支持軸49に取付け使用することができる。また上記実施形態では、電磁操作方式の真空遮断器を示したが、本発明は、電動ばね操作方式の遮断器にも適用可能であり、ガス遮断器、油遮断器にも適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 遮断器
11 遮断器本体
13 真空バルブ
17 操作機構部
19 リンク機構
21 第1ローラー
29 投入コイル
31、31A、31B トリップユニット
33A、33B トリップフック
34A、34B トリップフック
43A、43B トリップコイル
51 動作点検装置
53A、53B リミットスイッチ
55 点検制御装置
56 点検指令手段
61 計時手段
63 記憶手段
65 判定手段
71、71A、71B トリップユニット
81、81A、81B トリップユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンク機構と係止するトリップフックと、前記リンク機構と前記トリップフックとの係止を解除させるトリップコイルとを含むトリップユニットを備え、遮断指令により前記トリップユニットが動作し、前記リンク機構と前記トリップフックとの係止を解除し、遮断ばねを放勢させ電路を遮断する操作機構部を有する遮断器において、
互いに独立して動作可能な前記トリップユニットを2組設け、
2組のトリップユニットが動作すると遮断状態となるが、2組のトリップユニットのうち少なくともいずれか一方のトリップユニットが動作しないときは投入状態が保持され、投入状態を保持したまま2組のトリップユニットのうちいずれか一方のトリップユニットを動作させることが可能なことを特徴とする遮断器。
【請求項2】
前記2組のトリップユニットのトリップフックは、前記リンク機構の同一のローラーに係止するように並設されていることを特徴とする請求項1に記載の遮断器。
【請求項3】
さらに前記2組のトリップユニットに対し、トリップユニットを交互に動作させるように指令を送る点検指令手段と、
前記トリップフックの動作完了を検知する動作検知手段と、
前記トリップユニットへの動作指令開始から前記トリップフックの動作完了までのトリップユニット動作時間を計時する計時手段と、
前記トリップユニット動作時間が予め定める閾値を超えると警報手段に信号を送る判定手段と、を含むトリップユニット動作点検装置を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の遮断器。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の遮断器において、遮断器が投入された状態で前記2組のトリップユニットを交互に動作させ、前記トリップユニットの固渋を予防することを特徴とする遮断器操作機構部の固渋予防方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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