説明

選択マーカー遺伝子配列の除去方法

本発明は、dif様部位特異的リコンビナーゼ認識部位を利用することを特徴とする、選択マーカー遺伝子配列、特に抗生物質遺伝子配列を核酸分子から除去する方法に関する。本発明はさらにこの方法の染色体遺伝子の無標識組み込みおよび欠失におけるならびに遺伝子発現の制御における応用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、選択マーカー遺伝子配列、特に抗生物質遺伝子配列を核酸分子から除去する方法に関する。本発明はさらにこの方法の、染色体遺伝子の無標識組み込みおよび欠失ならびに遺伝子発現の制御における応用に関する。
【0002】
本明細書に引用した全ての文献は参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
抗生物質耐性遺伝子または他の選択マーカー遺伝子は、細菌の新しい株を作製するにあたって異種遺伝子の染色体挿入または天然遺伝子の欠失を選択するために日常的に利用される。これらの選択マーカー遺伝子はまた、細菌細胞中のプラスミドの存在を選択するためにも日常的に利用される。しかし、細菌宿主細胞中の選択マーカー遺伝子の保持はそれが染色体中に組み込まれようとまたはプラスミド中に存在しようと、いくつかの問題を生じる。
【0004】
第1に、宿主染色体中に選択マーカー遺伝子が存在すると、細胞内で増殖しうるプラスミドの多様性はそれを選択および維持する選択マーカー遺伝子に依存するので低下する。さらに、染色体抗生物質耐性遺伝子を含む遺伝子的に改変された細菌は、染色体DNAが最終産物の低レベル汚染を起こして患者または環境の病原性細菌への抗生物質遺伝子導入のリスクを有しうるので、特にDNAワクチンおよび遺伝子治療に応用する生物学的治療薬生産用には望ましくない。プラスミド上の抗生物質耐性遺伝子もまた、プラスミドを遺伝子治療およびDNAワクチン応用に用いるために製造する場合、これらの遺伝子は組換えタンパク質生産における代謝負荷および生物安全性懸念を構成するので好ましくない。
【0005】
従って抗生物質耐性遺伝子または他の選択マーカー遺伝子を置き去りにすることなく、細菌細胞染色体中に遺伝子を挿入するまたは細菌細胞染色体から遺伝子を欠失することができ、そして必要がなくなるとこれらの選択マーカー遺伝子をプラスミドから除去できることは非常に望ましい。今まで、細菌細胞における無標識(すなわち、選択マーカー遺伝子を使わない)染色体遺伝子挿入および欠失、ならびにプラスミドからのマーカー遺伝子の欠失について、2、3の方法が開発されている。
【0006】
無標識遺伝子挿入および欠失に対する1つの方法は、選択マーカー遺伝子を含むプラスミドを細菌宿主細胞染色体中に1回の相同組換え事象を介して組み込み、次いでそのプラスミドを第2の相同組換え事象(分解(resolution))により除去して、希望する所望の遺伝子型を作ることによる(Leenhoutsら, 1996;Linkら, 1997)。この手法の大きな欠点は、挿入または欠失が細胞の生存能力における適合性を低下すると、分解事象により突然変異体遺伝子型よりむしろ野生型を常に再生しうることにある。従ってこの手法は非常に非効率である。
【0007】
代わりの方法は、2回組換え事象を用いて、染色体相同性領域に隣接した抗生物質耐性遺伝子カセットを細菌染色体中に効率的に組み込む方法である。部位特異的リコンビナーゼ(SSR)に対する認識部位を抗生物質耐性遺伝子に直接隣接させる。染色体組み込み後に、トランスに(in trans)発現したリコンビナーゼが抗生物質耐性遺伝子を切除する。抗生物質遺伝子切除に用いられる部位特異的リコンビナーゼ/標的部位の例としては、バクテリオファージP1由来のCre/loxP(DaleおよびOw、1991)、FLP/FRT(DatsenkoおよびWanner、2000)および酵母由来のR/RS(Sugitaら、2000)が挙げられる。あるいは、内部分解部位をもつ隣接する抗生物質耐性遺伝子はin transに発現したトランスポザーゼによる切除を可能とする(Sanchisら、1997)。この方法の欠点は、外来性のリコンビナーゼまたはトランスポザーゼを標的細胞内に発現させる必要があることである。それ故に細胞を2回形質転換しなければならない。
【0008】
選択マーカー遺伝子は現在また、先に染色体の応用について記載した部位特異的リコンビナーゼを用いてまたはもっと一般的には制限酵素消化により、プラスミドから除去される。リコンビナーゼ手法はシスに(in cis)またはヘルパープラスミド上にin transに存在するさらなる部位特異的リコンビナーゼ遺伝子を必要とする。制限酵素消化手法は、プラスミドDNA操作の複数の追加ステップを必要とする。これらの手法は両方ともいくつもの複雑な遺伝子操作に関わる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
選択マーカー遺伝子、特に抗生物質耐性遺伝子をもたない核酸分子を作製することは益々重要になっているので、無標識遺伝子挿入および欠失のためおよび選択マーカー遺伝子をプラスミドから除去するための改善されたかつより簡便な方法を開発することに対するニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概要
本発明の第1の態様によれば、細胞内の核酸分子から選択マーカー遺伝子を除去する方法であって、部位特異的リコンビナーゼ認識部位によって隣接される選択マーカー遺伝子を含む核酸分子を含む細胞を、細胞内の内在性部位特異的リコンビナーゼが作用して部位特異的リコンビナーゼ認識部位間の部位特異的組換えにより選択マーカー遺伝子を切除する条件下で培養するステップを含んでなる上記方法が提供される。好ましくは、上記部位特異的リコンビナーゼ認識部位はdif様部位である。
【0011】
原核細胞は、RecAにより作製された染色体二量体を分解する内在性部位特異的リコンビナーゼを含む。これらのリコンビナーゼはグラム陰性菌、例えば大腸菌(Escherichia coli)のXerC/XerD(Leslie and Sherratt、1995)およびグラム陽性菌、例えば枯草菌(Bacillus subtilis)のRipX/CodV(Sciochetti ら 2001)である。これらの内在性部位特異的リコンビナーゼは原核細胞染色体中に存在するdif部位に作用する。単一のdif部位が通常原核細胞染色体中に存在する。染色体二量体を作製すると、その部位特異的リコンビナーゼが作用して2つのdif部位間の組換えを促進し、介在するDNAを切除して染色体単量体を作製する。
【0012】
内在性原核細胞部位特異的リコンビナーゼ、例えばXerC/XerDおよびRipX/CodVはまた、プラスミド中に自然に存在する二量体分解部位に作用することにより、RecAにより作製されたプラスミド二量体を分解する。例えば、ColE1プラスミドはcerと呼ばれる二量体分解部位を含み、そしてpSC101プラスミドはpsiと呼ばれる二量体分解部位を含む。プラスミド二量体が形成されると、内在性部位特異的リコンビナーゼが作用して2つの二量体分解部位間のDNAを切除し、プラスミド単量体を生じる。しかし、dif部位と異なり、もしほぼ200bpのアクセサリー配列もプラスミド上に存在すれば、部位特異的リコンビナーゼはプラスミドが保持する二量体分解部位にだけ作用する(HayesおよびSherratt、1997)。
【0013】
真核細胞も、作用して2つの部位特異的リコンビナーゼ認識部位間のDNAを切除する内在性部位特異的リコンビナーゼを含む。例えば、酵母2ミクロンプラスミドのFlpリコンビナーゼは、作用してFRT部位間のDNAを切除することによりコンカテマーを単量体化する。
【0014】
原核細胞中のdif部位における部位特異的リコンビナーゼの作用機構に対する実験研究は、これらの部位特異的リコンビナーゼが作用してプラスミド上または原核細胞染色体上に存在するタンデムdif部位間のDNAを切除することを示している(Barreら、2000、Recchiaら、1999)。しかし、内在性部位特異的リコンビナーゼを遺伝子工学に利用して、無標識遺伝子組み込みおよび欠失の改善された方法を提供することならびに選択マーカー遺伝子をプラスミドから除去する簡便な方法を提供することができるという示唆はなかった。
【0015】
本発明の第1の態様の方法は、部位特異的リコンビナーゼ認識部位、好ましくはdif様部位に作用して選択マーカー遺伝子を核酸分子から除去する細胞内の内在性部位特異的リコンビナーゼの能力を利用するものであり、選択マーカー遺伝子を除去する現行方法で必要とされる外来性リコンビナーゼをin transに導入しない。
【0016】
本発明の第1の態様の方法を行う細胞は、部位特異的リコンビナーゼ認識部位に作用する内在性部位特異的リコンビナーゼを含むいずれの細胞であってもよい。細胞は原核細胞または真核細胞であってもよい。好ましくは、細胞は、dif様部位に作用する内在性部位特異的リコンビナーゼを含む原核細胞である。好ましくは、dif様部位に作用する原核細胞中の内在性部位特異的リコンビナーゼは原核細胞染色体中に存在する。
【0017】
細胞が原核細胞である場合、該細胞は好ましくは細菌細胞であって、グラム陰性菌細胞またはグラム陽性菌細胞であってもよい。本発明に有用なグラム陰性菌細胞としては、限定されるものでないが、大腸菌、赤痢菌、ビブリオ菌およびサルモネラ菌、例えばSalmonella typhimurium由来の細胞が挙げられる。好ましくは、グラム陰性菌は大腸菌細胞である。大腸菌細胞はdif様部位に作用するXerC/XerD部位特異的リコンビナーゼを含む。本発明に有用なグラム陽性菌細胞としては、限定されるものでないが、バシラス菌、ストレプトマイセス菌、リステリア菌、放線菌、乳酸桿菌およびラクトコッカス菌が挙げられる。好ましくは該グラム陽性菌細胞は枯草菌細胞である。枯草菌細胞はdif様部位に作用するRipX/CodV部位特異的リコンビナーゼを含む。細胞が原核細胞である場合、該細胞はRecA+細胞またはRecA-細胞であってもよい。好ましくは、該細胞はRecA+細胞である。細胞が真核細胞である場合、酵母細胞が好ましい。
【0018】
本明細書に使用される用語「部位特異的リコンビナーゼ認識部位」には、タンデムに核酸分子中に存在すると、細胞中の内在性部位特異的リコンビナーゼが作用して、本発明の第1の態様の方法によりタンデム部位間の核酸分子の部分を切除して単一の部位特異的リコンビナーゼ部位を含む核酸分子を産生することができる、いずれの部位も含まれる。選択マーカー遺伝子に隣接する部位特異的リコンビナーゼ認識部位は同じものであってもまたは異なってもよい。
【0019】
好ましくは、部位特異的リコンビナーゼ認識部位はdif様部位である。用語「dif様部位」は、本発明の第1の態様の方法が起こる原核細胞中の内在性部位特異的リコンビナーゼが作用することができる二量体分解部位である部位特異的リコンビナーゼ認識部位を意味する。選択マーカー遺伝子に隣接するdif様部位は同じものであってもまたは異なってもよい。
【0020】
好ましい部位特異的リコンビナーゼ認識部位の1つは酵母由来のFRT部位である。好ましいdif様部位としては、細菌染色体に見出されるdif部位、例えば大腸菌染色体由来のdif部位(Cornetら、1996)および枯草菌染色体由来のdif部位(Sciochetti ら 2001)が挙げられる。さらなる好ましいdif様部位としては、細菌プラスミド中に見出されるdif様部位、例えば大腸菌プラスミドColEI由来のcer部位、またはサルモネラ菌プラスミドpSC101由来のpsi部位が挙げられる(Cornetら、1996)。これらのdif様部位の配列を以下の表1に掲げる。しかし、表1に掲げた以外の他の細胞染色体およびプラスミド由来のdif様部位も本発明の方法に用いることができるのは当業者に明らかであろう。
【0021】
本発明はまた、天然のプラスミドおよび染色体由来のdif様部位を組合わせることにより形成したハイブリッドdif様部位の使用も包含する。かかるハイブリッド部位の例は、pif部位としても知られるdif-psiハイブリッド部位(Cornetら、1996)であり、その配列を以下の表1に掲げる。本発明の方法に用いるさらなるハイブリッド部位は、ハイブリッド配列を作製してこれらのハイブリッド配列のdif様部位として作用する能力を、例えば、Barreら(2000)が記載した簡単な組換え試験を用いて確認することにより開発することができる。
【0022】
本発明の方法に用いるdif様部位をあるプラスミドから誘導する場合、その核酸分子はさらに、部位特異的リコンビナーゼが作用するために必要なアクセサリー配列を含まなければならない。これらのアクセサリー配列はタンパク質PepAおよびArgRに対する180bp結合部位であり、これらはPhamら(2002)およびBreguら(2002)が記載している。
【表1】

【0023】
本発明の第1の態様の方法の核酸分子に含まれる部位特異的リコンビナーゼ認識部位、好ましくはdif様部位の性質は、上記方法が起こる細胞にとって内在性である部位特異的リコンビナーゼに依存しうることは当業者に明らかであろう。本発明の方法は、外来性リコンビナーゼのin trans導入を必要としない点で、従来技術の方法を越える利点を提供する。部位特異的リコンビナーゼ認識部位はそれ故に、本方法が起こる細胞中で内在性部位特異的リコンビナーゼが作用することができる部位特異的リコンビナーゼ認識部位でなければならない。しかしこのことは、部位特異的リコンビナーゼ認識部位も本方法が起こる細胞にとって内在性でなければならないことを意味しない。例えば、ある種由来の部位特異的リコンビナーゼは他の種由来のdif様部位に作用することができるという確証がある(Neilsonら、1999)。さらに、部位特異的リコンビナーゼは異なるdif様部位、例えば大腸菌dif部位およびpsi-difハイブリッドを分解(resolve)することが示されている(Cornetら、1994)。選択マーカー遺伝子に隣接する部位特異的リコンビナーゼ認識部位、好ましくはdif様部位はそれ故に、同じものであってもまたは異なってもよい。当業者は、本発明の方法が起こるように選択マーカー遺伝子に隣接させるのに用いる部位特異的リコンビナーゼ認識部位、好ましくはdif様部位を選択または開発することができるであろう。
【0024】
選択マーカー遺伝子は、核酸分子の存在を検出するために使用できるいずれの遺伝子であってもよい。一般的に当技術分野では、抗生物質耐性遺伝子を利用してプラスミド、または染色体に組み込まれた直鎖DNAカセット、などの特定の核酸分子を含む細胞を同定する。好ましくは、選択マーカー遺伝子はそれ故に、抗生物質を含む培地における培養によって核酸分子を含む細胞の同定を可能にする抗生物質耐性遺伝子である。抗生物質耐性遺伝子は当技術分野で公知であり、これらの遺伝子のいずれを使用してもよい。使用しうる抗生物質耐性遺伝子の例としては、限定されるものでないが、カナマイシン、アンピシリン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、ネオマイシン、ブラスチシジン、ハイグロマイシン、ピューロマイシンおよびゼオシンに対する耐性を運ぶ遺伝子が挙げられる。
【0025】
好ましくは、本発明の第1の態様の方法は、選択マーカー遺伝子に対する選択圧の存在下で細胞を培養するステップおよび次いで選択マーカー遺伝子に対する選択圧を取り除くステップを含んでなる。選択マーカー遺伝子に対する選択圧の存在下で細胞を培養することは、選択マーカー遺伝子を含む核酸分子を含む細胞の選択を可能にする。選択マーカー遺伝子に対する選択圧の除去は、選択マーカー遺伝子を切除する部位特異的組換えが起こった細胞の生存を可能にする。選択マーカー遺伝子が抗生物質耐性遺伝子である場合、本発明の方法は従って、好ましくは、上記細胞を抗生物質の存在下で培養して該核酸分子を含む細胞を選択するステップ、および次いで上記細胞を抗生物質の非存在下で培養するステップを含む。
【0026】
本発明の第1の態様の方法のさらなる実施形態によれば、該核酸分子はさらに選択マーカー遺伝子が切除されている細胞のポジティブ選択を可能にする第2の遺伝子を含む。好ましくは、ポジティブ選択を可能にする第2の遺伝子を選択マーカー遺伝子の隣りに取り込み、その両方の遺伝子が部位特異的リコンビナーゼ認識部位、好ましくはdif様部位に隣接するようにし、それによって、もし部位特異的組換えが起こると両方の遺伝子が切除される。核酸分子が選択マーカー遺伝子を切除した細胞のポジティブ選択を可能にする第2の遺伝子を含む場合、本方法は、好ましくは、さらに該細胞を、もし第2の遺伝子(従って、および選択マーカー遺伝子)が切除されていなければ細胞死が起こる条件下で培養するステップを含んでなる。
【0027】
ポジティブ選択を可能にする好適な遺伝子には、ある特定の条件下で細胞に対して有毒な遺伝子が含まれる。例えば、sacB遺伝子はスクロースを大腸菌に有毒である化合物に変換する酵素レバンスクラーゼを発現する(Linkら、1997)。部位特異的リコンビナーゼ認識部位に隣接した抗生物質耐性遺伝子およびsacB遺伝子を含む核酸分子を含む細胞を抗生物質の存在下で培養し、該核酸分子を含む細胞を選択することができる。その細胞を次いで抗生物質の非存在下で培養すると、抗生物質耐性遺伝子が切除された細胞ならびに組換えが起こらなかった細胞の生存が可能になる。もし次いで細胞をスクロースを含む栄養寒天上にまくと部位特異的リコンビナーゼ認識部位間の組換えの結果、抗生物質耐性遺伝子とsacB遺伝子の両方を失わなかった細胞は死滅するであろう。
【0028】
しかし、実施例で示すように、本発明の第1の態様の方法による内在性部位特異的リコンビナーゼによるマーカー遺伝子の切除は、驚くほど、十分な効果があるので、一般的にポジティブ選択のための第2遺伝子を含む必要はない。これが本発明のさらなる利点である。
【0029】
以上記載した本発明の第1の態様の方法はさらに、核酸分子を細胞中に導入するステップを含むものであってもよい。原核細胞を形質転換する方法および真核細胞をトランスフェクトする方法は当技術分野では周知であり、例えば、Sambrook(Molecular Cloning; A Laboratory Manual, Second Edition, 1989)に記載されている。
【0030】
本発明の第1の態様の方法による、部位特異的リコンビナーゼ認識部位、好ましくはdif様部位によって隣接される選択マーカー遺伝子を含む核酸分子は、好ましくは細胞染色体またはプラスミド中に組み込まれた直鎖DNAカセットである。
【0031】
選択マーカー遺伝子を含む核酸分子が細胞染色体中に組み込まれた直鎖DNAカセットである場合、本発明の第1の態様の方法は、該選択マーカー遺伝子を染色体から除去する、そしてそれ故に、無標識核酸を細胞染色体中に組み込む方法の一部として利用することができる。
【0032】
本発明の第2の態様によれば、無標識核酸を細胞染色体中に組み込む方法であって、
a) i)選択マーカー遺伝子;
ii)上記選択マーカー遺伝子に隣接する2つの部位特異的リコンビナーゼ認識部位;および
iii)上記部位特異的リコンビナーゼ認識部位に隣接する2領域であって、細胞染色体中の組み込み部位に隣接する2領域と相同性のある上記2領域;
を含む直鎖DNAカセットを細胞中に導入するステップ;
b) 上記細胞を、直鎖DNAカセットが相同的組換えにより細胞染色体中に組み込まれる条件下で培養するステップ;および
c) 上記細胞を、細胞内の内在性部位特異的リコンビナーゼが作用して部位特異的リコンビナーゼ認識部位の間の部位特異的組換えにより選択マーカー遺伝子を切除する条件下で培養するステップ
を含んでなる上記方法を提供する。
【0033】
本発明の第2の態様の方法に使われる細胞、部位特異的リコンビナーゼ認識部位、部位特異的リコンビナーゼおよび選択マーカー遺伝子は、本発明の第1の態様の方法の関係で記載したものと同じである。特に、部位特異的リコンビナーゼ認識部位は好ましくはdif様部位である。
【0034】
本発明の第2の態様による方法を無標識遺伝子欠失または無標識遺伝子組み込みに用いることができ、それにより核酸分子の性質は変わりうる。本発明の第2の態様の方法を内在性遺伝子の欠失に用いる場合、部位特異的リコンビナーゼ認識部位、好ましくはdif様部位に隣接する2領域は、欠失すべき遺伝子に隣接する2領域と相同性である。本発明の第2の態様の方法を外来性遺伝子の組み込みに用いる場合、部位特異的リコンビナーゼ認識部位、好ましくはdif様部位に隣接する2領域は組み込み部位に隣接する2領域と相同性であり、かつ直鎖DNAカセットはさらに組み込むべき外来性遺伝子を含み、ただし、該外来性遺伝子は2つの部位特異的リコンビナーゼ認識部位間に位置しない。組み込むべき外来性遺伝子は、部位特異的リコンビナーゼ認識部位の間に位置してはならないことは当業者に明らかであろう、というのは、もしそのように位置すると、外来性遺伝子が内在性部位特異的リコンビナーゼにより選択マーカー遺伝子とともに切除されるからである。
【0035】
本発明の第2の態様による方法は、完全な遺伝子を欠失するためだけでなく遺伝子の部分および遺伝子の調節領域を欠失するために用いることができる。同様に、完全な外来性遺伝子よりもむしろ外来性遺伝子の部分を組み込むために用いることができる。
【0036】
相同的組換えにより核酸分子を組み込むそして従って内在性遺伝子を欠失するまたは外来性遺伝子を組み込むことができる研究の可能性は、従来の技術分野において広く報じられている。従来の技術的方法を越える本発明の方法の利点は、本方法が、選択マーカー遺伝子を置き去りにすることなくかつ当技術分野の現行の方法で必要とする選択マーカー遺伝子の除去を促進するために外来性リコンビナーゼをin transに導入することなく、核酸組み込みを起こすことを可能にすることである。
【0037】
本発明の第2の態様の方法に用いる直鎖DNAカセットは、所要のエレメントを含むプラスミドを構築しかつそのプラスミドを制限酵素を用いて直鎖化することにより作製することができる。あるいは、直鎖DNAカセットを、直鎖DNAを産生するPCRにより組み立てることができ、その場合、PCRプライマーは5'末端に染色体標的と相同性である配列を含む。次いで標的株のコンピテント細胞を作り、直鎖プラスミドDNAまたはPCR産物を用いて形質転換するかまたはトランスフェクトする。
【0038】
相同的組換えによるDNAカセットの組み込みに必要な条件は、本発明の方法に用いる細胞に応じて変化しうる。特に、直鎖DNAカセットの組み込みに必要な条件は、原核細胞においては様々である。直鎖DNAカセットを枯草菌の標的染色体中に組み込むためには、簡単な形質転換とクローン選択(例えば抗生物質耐性による)で十分である。しかし、大腸菌では、RecBCD酵素が直鎖DNAを急速に分解するので、RecBCD-菌株中への染色体組み込みを用い(JasinおよびSchimmel、1984;Winasら、1985)、次いで、もし所望であれば、RecBCD+菌株中へのPI形質導入を行う(Williamsら、1998)。標的菌株がRecA-である場合、recAを発現するヘルパープラスミドが必要でありうる。代わりの方法はλRed機能bet、exoおよびgamを発現するヘルパープラスミドを用いることであり、これらはRecBCDを阻害しかつRecAが非存在であっても染色体組み込みを可能にする(Murphy、1998)。
【0039】
好ましくは、本発明の第2の態様の方法のステップb)はさらに、選択マーカー遺伝子に対する選択圧の存在下で細胞を培養するステップを含む。選択マーカー遺伝子に対する選択圧の存在下で細胞を培養すると、染色体中に直鎖DNAカセットが組み込まれた細胞の選択が可能になる。選択マーカー遺伝子が抗生物質耐性遺伝子である場合、このステップは抗生物質の存在下で細胞を培養することを含む。好ましくは、ステップc)は選択圧の非存在下で、例えば抗生物質の非存在下で細胞を培養することを含む。選択圧の非存在下で細胞を培養すると、選択マーカー遺伝子が切除された細胞の生存が可能になる。図1は本発明の第2の態様の好ましい方法の概要を与える。本発明の第1の態様の方法に関係して記載したように、核酸分子はさらに、組換えが起こった細胞をポジティブ選択するための遺伝子を含んでもよい。しかし、先に示した通り、内在性部位特異的リコンビナーゼによる選択マーカー遺伝子の切除は十分効率的であるので、組換えが起こった細胞をポジティブ選択する遺伝子は一般的に必要でない。
【0040】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第1の態様の方法で言及した選択マーカー遺伝子を含む核酸分子はプラスミドである。本発明のこの態様の好ましい実施形態によれば、プラスミドから選択マーカー遺伝子を除去する方法であって、部位特異的リコンビナーゼ認識部位によって隣接される選択マーカー遺伝子を含むプラスミドを細胞中に導入するステップ、および上記細胞を内在性部位特異的リコンビナーゼが作用してプラスミドから部位特異的リコンビナーゼ認識部位の間の部位特異的組換えにより選択マーカー遺伝子を切除する条件下で培養するステップを含んでなる上記方法を提供する。
【0041】
本発明の第3の態様の方法で使われる細胞、部位特異的リコンビナーゼ認識部位、部位特異的リコンビナーゼおよび選択マーカー遺伝子は、本発明の第1の態様の方法に関係して記載したものと同じである。特に、部位特異的リコンビナーゼ認識部位は好ましくはdif様部位である。
【0042】
本発明の第3の態様によれば、細胞が原核細胞である場合、該細胞は好ましくはRecA+細胞である。DNAワクチンまたは遺伝子治療などの応用のためのプラスミドDNAの工業的製造においては、超らせんの単量体DNAである産物の比率について厳しい規制がある。これらの要件は、RecAによる相同的組換えが単量体プラスミドの比率を低下するプラスミド多量体を作製するので、プラスミドDNAは常にRecA-株において増殖されてきたことを意味する。しかし、RecAは染色体複製中に生じる停止した複製フォークを修復するために必須であるので、RecA+株はRecA-株より有意に生存可能である。RecA-菌株の培養においては、50%以下の細胞は染色体を含まないであろう(Coxら、2000)。本発明の第3の態様の方法で用いるプラスミド中には部位特異的リコンビナーゼ認識部位、特にdif様部位が存在するので、RecA+細胞中でプラスミド多量化が起こることなくプラスミドを産生することを可能にする。
【0043】
好ましくは、選択マーカー遺伝子に対する選択圧の存在下で細胞を培養し、次いで選択マーカー遺伝子に対する選択圧の非存在下で培養する。選択圧の存在下で細胞を培養することはプラスミドを含む細胞の選択を可能にする。選択マーカー遺伝子に対する選択圧の除去は、選択マーカー遺伝子が切除された細胞の生存を可能にする。核酸分子はさらに、本発明の第1の態様の方法に関係して記載した、組換えが起こった細胞のポジティブ選択のための遺伝子を含んでもよい。しかし、先に示した通り、内在性部位特異的リコンビナーゼによる選択マーカー遺伝子の切除は十分効率的であるので、組換えが起こった細胞をポジティブ選択するための遺伝子は一般的に必要でない。
【0044】
好ましくは、本発明の第3の態様の方法はさらに、選択マーカー遺伝子に依存しない代わりの系を用いて、細胞中のプラスミドを維持することを含む。好ましくは、細胞およびプラスミドは、選択マーカー遺伝子の除去後に、選択マーカー遺伝子に依存しない代替維持系によりプラスミドを維持できるように構築する。好ましくは、本発明の第3の態様による選択マーカー遺伝子が抗生物質耐性遺伝子である場合、本発明の第3の態様による方法は、プラスミドを含む形質転換細胞の選択を抗生物質の存在下で可能にし、そして、抗生物質耐性遺伝子の欠失後に、抗生物質を含まない系によるプラスミドの維持を可能にする。
【0045】
好ましくは、抗生物質耐性遺伝子の除去後にプラスミドの維持を可能にする抗生物質を含まない系はオペレーターリプレッサータイトレーション(Operator-Repressor Titration; ORT)である。ORTを抗生物質耐性遺伝子の欠失後にプラスミドを維持するために用いる場合、プラスミドはさらにリプレッサーによる結合に感受性のあるオペレーターを含み、そして細胞はさらに上記リプレッサーをコードしていて染色体上に存在する第1遺伝子および細胞増殖に必須でありかつプラスミド上に存在する同じオペレーターと機能的に結合する染色体上に存在する第2遺伝子を含む。プラスミドの非存在下では、リプレッサーは必須な第2の遺伝子の上流のオペレーターと結合し、それにより必須遺伝子の発現を抑制するので細胞増殖は起こらない。対照的に、プラスミドが十分な数だけ存在するときは、プラスミド上のオペレーターはリプレッサーをタイトレーションして必須遺伝子を発現させて細胞が増殖する。ORTの詳細はWO97/09435、HanakおよびCranenburgh、2001、ならびにCranenburghら、2001に記載されている。WO97/09435、HanakおよびCranenburgh、2001ならびにCranenburghら、2001が言及する必須遺伝子、オペレーター配列およびリプレッサー配列のいずれかを本発明の細胞およびプラスミドに用いて抗生物質耐性遺伝子の欠失後のプラスミドの維持を可能にすることができる。
【0046】
好ましくは、プラスミドはlacオペレーターを含みかつ細胞は染色体上に存在してlacリプレッサーをコードする第1の遺伝子および染色体上に存在して細胞増殖に必須でありかつlacオペレーターと機能的に結合する第2の遺伝子を含む。本発明のこの第2の態様による方法は図2に示され、この場合、lacオペレーターはプラスミド上に含まれる。
【0047】
本発明の方法に対するさらなる応用は遺伝子発現の制御にある。遺伝子発現の制御は重要である、というのは誘導前の低レベルの発現は組換えタンパク質からの代謝負荷または毒性作用をもたらし、そして細胞増殖を低下または抑制しかつ収率を有意に低下するからである。原核細胞および真核細胞において、プロモーターは効果的な転写のために遺伝子またはオペロンに隣接していなければならない。伝統的に、遺伝子発現の調節は、目的の遺伝子のプロモーター領域中のオペレーターと結合するリプレッサータンパク質を発現する第2の遺伝子を用いてその発現をブロックすることにより行われてきた。目的の遺伝子の発現はこうしてリプレッサーの発現を制御することにより制御される。あるいは、転写ターミネーターをプロモーターと目的の発現のトランスジーンとの間に挿入して発現を阻止する。転写ターミネーターまたは遺伝子カセットを部位特異的組換え部位に隣接させて、外来性の部位特異的リコンビナーゼ遺伝子が発現されるまで、カセット中の遺伝子の発現を阻止し、こうしてプロモーターをトランスジーンの直ぐ近位に運んで遺伝子を発現できるようにする。しかし、これらの戦術は両方とも外来性の部位特異的リコンビナーゼまたはリプレッサーの低レベルの発現に問題がある。これらの問題は、外部選択圧(例えば抗生物質選択)が除去されると、組換え事象により部位特異的リコンビナーゼ認識部位、好ましくはdif様部位に作用して発現を制御する内在性部位特異的リコンビナーゼの使用により回避される。
【0048】
本発明の第4の態様によれば、それ故に、目的の遺伝子の発現を制御する方法であって、
i)オペレーターと機能的に関連している目的の遺伝子を含む第1の核酸分子;ならびに
ii)部位特異的リコンビナーゼ認識部位によって隣接されるリプレッサー遺伝子および選択マーカー遺伝子、ここで該リプレッサー遺伝子は該オペレーターとの結合に感受性を有する、を含む第2核酸分子を含む細胞を、
細胞内の内在性部位特異的リコンビナーゼが作用して選択マーカー遺伝子および上記リプレッサー遺伝子を部位特異的組換えにより、部位特異的リコンビナーゼ認識部位の間で切除し、それにより目的の遺伝子の発現を可能にする条件のもとで、培養するステップを含んでなる上記方法が提供される。
【0049】
本方法に用いる第1および第2の核酸分子はプラスミドDNAまたは細胞染色体中に組み込まれた直鎖DNAカセットであってもよい。好ましくは、両方の核酸分子は細胞染色体中に組み込まれた直鎖カセットである。あるいは、第1の核酸分子は細胞染色体中に組み込まれた直鎖DNAカセットであってもよくかつ第2の核酸分子はプラスミドであってもよい、または逆もしかりである。
【0050】
本発明の第4の態様の第2の実施形態によれば、目的の遺伝子の発現を制御する方法であって、
i)プロモーターと機能的に連結された目的の遺伝子;ならびに
ii)目的の遺伝子と目的の遺伝子の発現を制御するプロモーターとの間に位置する、部位特異的リコンビナーゼ認識部位によって隣接される選択マーカー遺伝子および転写ターミネーターを含む核酸分子を含む細胞を、
細胞内の内在性部位特異的リコンビナーゼが作用して部位特異的リコンビナーゼ認識部位の間の部位特異的組換えにより、選択マーカー遺伝子および上記転写ターミネーターを切除し、それにより目的の遺伝子の発現を可能にする条件のもとで培養するステップを含んでなる上記方法が提供される。
【0051】
本発明の第4の態様の方法に使われる細胞、部位特異的リコンビナーゼ認識部位、部位特異的リコンビナーゼおよび選択マーカー遺伝子は、本発明の第1の態様の方法の関係で記載したものと同じである。特に、部位特異的リコンビナーゼ認識部位は好ましくはdif様部位である。核酸分子はプラスミドであってもよいしまたは染色体中に組み込まれた直鎖DNAカセットであってもよい。
【0052】
好ましくは、細胞を選択マーカー遺伝子に対する選択圧の存在下で培養し、次いで選択圧を除去して培養する。この実施形態を図3および4に示す。核酸分子はさらに、組換えが起こった細胞をポジティブ選択するための遺伝子を含んでもよく、その場合、組換えは本発明の第1の態様の方法に関係して記載したように行ってもよい。
【0053】
本発明の第1、第2、第3および第4の態様の方法はまた、選択マーカー遺伝子を核酸分子からin vitroで除去するために行うことができる。例えば、本方法をin vitroで用いて、プラスミドを細胞中に導入する前にプラスミドから選択マーカー遺伝子を除去することができる。これらの状況において、プラスミドは細胞中への導入後にプラスミドを含む細胞のポジティブ選択を可能にする第2の遺伝子を含んでもよい。本発明の第5の態様によれば、選択マーカー遺伝子を核酸分子からin vitroで除去する方法であって、部位特異的リコンビナーゼ認識部位、好ましくはdif様部位によって隣接される選択マーカー遺伝子を含む核酸分子を、作用して部位特異的リコンビナーゼ認識部位の間の部位特異的組換えにより選択マーカー遺伝子を切除する部位特異的リコンビナーゼとともに供給することを含んでなる上記方法が提供される。本発明の第5の態様の方法で供給される部位特異的リコンビナーゼは、先に記載のように、部位特異的リコンビナーゼ認識部位、好ましくはdif様部位に作用することが公知である原核細胞または真核細胞のリコンビナーゼのいずれであってもよい。
【0054】
本発明はさらに、以上記載した本発明の方法で使用するための宿主細胞および核酸分子を提供する。
【0055】
本発明の第6の態様によれば、部位特異的リコンビナーゼ認識部位によって隣接される選択マーカー遺伝子を含む核酸分子が提供される。本発明の第6の態様の核酸分子に含まれる好適な部位特異的リコンビナーゼ認識部位および選択マーカー遺伝子は、本発明の第1の態様の方法に関係して先に考察した。好ましくは、部位特異的リコンビナーゼ認識部位はdif様部位である。好ましくは、核酸分子は直鎖DNAカセットまたはプラスミドである。核酸分子が直鎖DNAカセットである場合、それはさらに、組み込むことを意図する染色体位置に隣接する領域と相同性である相同性領域を含むことが好ましい。直鎖DNAカセットはさらに外来性遺伝子を含んでもよい。核酸分子がプラスミドである場合、それはさらにオペレーター配列を含み、選択マーカー遺伝子の欠失後に該プラスミドをORTにより維持できることが好ましい。
【0056】
本発明の第7の態様によれば、本発明の第6の態様による核酸分子を含む細胞が提供される。該細胞は原核細胞または真核細胞であってもよい。好適な細胞には本発明の第1の態様の方法に関係して先に考察した細胞が含まれる。細胞が選択マーカー遺伝子の欠失後のORTによる維持のためのオペレーターを含むプラスミドを含む場合、該細胞は好ましくは、先により詳細に記載したように、プラスミド上のオペレーターと結合するリプレッサーをコードする染色体上に存在する第1の遺伝子および同じオペレーターと機能的に結合するかつ細胞増殖に必須である染色体上に存在する第2の遺伝子を含む。プラスミドを含む細胞が原核細胞である場合、その細胞はRecA+細胞であってもよい。先に記載したように、本発明のプラスミド上には部位特異的リコンビナーゼ認識部位、好ましくはdif様部位が存在するので、RecA+細胞において多量化の問題なしにこれらを培養することができる(図5)。
【0057】
本発明の第8の態様によれば、それ故に、RecA+細胞において超らせんの単量体プラスミドDNAを産生する方法であって、部位特異的リコンビナーゼ認識部位、好ましくはdif様部位を含むことで特徴付けられるプラスミドを含むRecA+細胞を培養するステップを含んでなる上記方法が提供される。部位特異的リコンビナーゼ認識部位、好ましくはdif様部位の存在は、多量体化の問題を防止し(図5)、それにより、規制要件に適合するスーパーコイルの単量体のDNAを可能にする。本発明の第8の態様の方法のプラスミドに含まれる好適な部位特異的リコンビナーゼ認識部位、好ましくはdif様部位は先に記載の通りである。好ましくは、RecA+細胞は大腸菌細胞である。
【0058】
以下に、染色体の遺伝子欠失および組み込みに関する例を用いて、本発明をさらに詳細に記載する。実施例に記載の系に変形をなしうることは理解されるであろう。
【実施例】
【0059】
実施例1:無標識染色体遺伝子欠失
本実施例は、大腸菌染色体からmsbB遺伝子(Somervilleら、1995)を欠失して内毒素活性の低下した新しい菌株を作製する方法を説明する。
【0060】
最初に、クロラムフェニコール耐性遺伝子catをプラスミドpKO3(Linkら、1997)からプライマー5DIFCATおよび3DIFCATを用いて増幅した。これらの81ntプライマーは、pKO3中のcat遺伝子に隣接する3'相同領域を28bpのdif部位ならびに制限部位Bsu36IおよびNsiIを含む5'テールと合体したものである。このPCR産物をpCR2.1(Invitrogen)中にTOPOクローニング法を用いてクローニングし、前駆体遺伝子欠失プラスミド、pTOPO-DifCAT(図6)を作製した。
【0061】
msbB遺伝子を欠失した菌株を作製するために、pTOPO-DifCATからのdif-cat-difカセットを、msbBに隣接する染色体領域と相同的な5'末端をもつプライマー(msb.int Fおよびmsb.int R)を用いてPCRにより増幅してDifCAT PCR産物を作製した。大腸菌株DH1を、直鎖DNAの保護と組み込みのためのλRed遺伝子機能を与えるテトラサイクリン選択性プラスミドpTP223を用いて形質転換した(Murphy、1998)。次いでDH1(pTP223)をDifCAT PCR産物を用いて形質転換し、組み込み体(DH1::DifCATΔmsbB)をクロラムフェニコール上で選択した。
【0062】
プライマーSMLとSMRを用いてmsbB遺伝子座の一部分を診断PCRにより増幅した(図7)。野生型DH1において、このPCRは未変性msbB遺伝子座に対して1428bpの産物を与えた(レーン2)。組み込み体遺伝子座は1460bpであったが、このPCRはまた、クロラムフェニコールが存在してもXerCDを仲介した組換えの行われた集団の部分としてmsbB欠失を示す462bpの産物も増幅した(レーン3)。抗生物質の非存在下での継代培養によってpTP223は消失して分解体(resolvant)が作製された。この分解体はクロラムフェニコール感受性クローンであり、PCRにより462bpmsbB欠失遺伝子座だけが検出された(レーン4〜7)。msbBの欠失をDNA配列決定により確証した。
【0063】
実施例2:無標識染色体遺伝子挿入
この実施例は、大腸菌株DH1lacdapDにおける2つの天然遺伝子(ubiBおよびfadA)間の染色体スペース中への外来性遺伝子、ウシ膵臓リボヌクレアーゼ遺伝子rbpAの挿入を示す。
【0064】
Dif-CATに隣接したrbpAをもつプラスミドprbpA-DifCATをpTOPO-DifCATから構築した。prbpA-DifCATをPCRテンプレートとして、70ntプライマーIntFおよびIntRとともに用いた。それぞれのプライマーの3'末端の20bpはテンプレートと相同性でありかつ50bpの5'テールは標的ubiB-fadA遺伝子座と相同性があった。1691bpのPCR組み込み断片を産生してDH1lacdapD(pTP223)中に形質転換し、組み込み体DH1lacdapD::rbpA-DifCAT(pTP223)を作製した。
【0065】
プライマーUbiB FおよびUbiB Rを用いてubiB-fadA遺伝子座の部分を診断PCRにより増幅した(図8)。野生型DH1lacdapDにおいて、このPCRにより天然msbB遺伝子座に対する510bpの産物を得た(レーン2)。組み込み体遺伝子座は1936bpであったが、このPCRはまた、クロラムフェニコールが存在してもXerCDを仲介した組換えの行われた集団の部分としてrbpA挿入を示す938bpの産物も増幅した(レーン3)。組み込み体菌株を抗生物質なしで培養することによりヘルパープラスミドpTP223を取り除きかつDH1lacdapDからcat遺伝子を切除すると、組み込まれたrbpA遺伝子が938bpのPCR産物として検出された(レーン4〜7)。rbpAの挿入をDNA配列決定により確証した。
【0066】
実施例3:遺伝子切除頻度の評価
本実施例はdif部位におけるXerCDを仲介する組換え頻度を決定するものであり、2種の大腸菌DH1の染色体遺伝子座中に組み込まれたdif隣接抗生物質耐性遺伝子の切除により測定した。
【0067】
2種の組み込み体菌株(DH1::ΔmsbB-DifCATおよびDH1::rbpA-DifCAT)を用いたが、これらはdif隣接クロラムフェニコール耐性遺伝子を異なる染色体遺伝子座(それぞれmsbBおよびubiB-fadA遺伝子座)に挿入したものである。これらに三重で20μg ml-1のクロラムフェニコールを含むLBブロス5mlを接種し、そして1日中増殖して光学密度(OD600)をほぼ0.5とした。LBブロス50mlを含む振盪フラスコに、0.005の出発時OD600を接種した。振盪フラスコを37℃にて200r.p.m.で24時間インキュベートした。最初の24時間増殖期の後にOD600を記録し、そして計算した体積を用いて他の50ml振盪フラスコに接種して再び0.005の出発時ODとした。この継代培養手順を24時間間隔で全96時間繰り返した。6つのフラスコのそれぞれから継代培養における世代数を計算した。
【0068】
48および96時間増殖の後、培養をLBブロスに連続して希釈し、単一コロニーを得るためにLB寒天上にまいた。dif部位におけるXerCDを仲介する組換え頻度を求めるために、6つの培養のそれぞれについて100コロニーをLB寒天+/-20μg ml-1クロラムフェニコール上でレプリカストリークした。クロラムフェニコール感受性になったクローンを診断PCRプライマーを用いてPCRによりスクリーニングし、改変された遺伝子座領域を増幅した(msbB遺伝子座に対してSMLおよびSMRプライマー;ubiB-fadA遺伝子座に対してUbiB FおよびUbiB R)。得られるデータを用いてXerCDを介する抗生物質耐性遺伝子切除頻度を計算した。結果を表2に示す。
【表2】

【0069】
これらのデータは、わずか2日間の組み込み体菌株の培養後に切除頻度が十分高い(1〜6%)ので、所望の組換えを同定するためにスクリーニングする必要のあるコロニーは100未満であることを説明する。
【0070】
添付:プライマー
プライマーは5'から3'へ記述する。
【0071】
5DIFCAT:
CCTTAGGATGCATGGTGCGCATAATGTATATTATGTTAAATCCCTTATGCGACTCCTGCATCCCTTTCGTCTTCGAATAAA
3DIFCAT:
CCTTAGGATGCATATTTAACATAATATACATTATGCGCACCATCCGCTTATTATCACTTATTCAGGCGTAGCACCAGGCGT
Msb-int F:
TGCGGCGAAAACGCCACATCCGGCCTACAGTTCAATGATAGTTCAACAGAAGTGTGCTGGAATTCGCCCT
Msb-int R:
TTGGTGCGGGGCAAGTTGCGCCGCTACACTATCACCAGATTGATTTTTGCATCTGCAGAATTCGCCCTTA
Int F:
AAACCCGCCCCTGACAGGCGGGAAGAACGGCAACTAAACTGTTATTCAGTTTGCGCCGACATCATAACGG
Int R:
GCCGGATGCGGCGTGAACGCCTTATCCGGTCTACCGATCCGGCACCAATGGCTACGGTTTGATTAGGGAA
SML:
TGACCTGGTGATTGTCACCC
SMR:
TAAACCAGCAGGCCGTAAAC
UbiB F:
GATCGCCTGTTTGGCGATGC
UbiB R:
GAATCTGATGGAACGCAAAG
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【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】はdif部位における部位特異的組換えを用いる遺伝子欠失および選択マーカー切除を示す。遺伝子挿入のために、ある遺伝子をマルチクローンサイト中にクローニングすることができ、その挿入部位は、もし必要であれば、遺伝子間領域であってもよい。
【図2】は選択圧(例えば抗生物質)除去後のdif部位における部位特異的組換えを用いる、プラスミドからの選択マーカー切除を示す。
【図3】は選択圧(例えば抗生物質)除去後のdif部位における部位特異的組換えを用いる、プラスミドからの選択マーカーとリプレッサー切除を示す。リプレッサー遺伝子を除去すると、プロモーターからのトランスジーンの発現は構成的になる。
【図4】は、選択圧(例えば抗生物質)除去後にdif部位における部位特異的組換えを用いてプラスミドから選択マーカーを切除し、トランスジーンを上流プロモーターの制御下に置くことを示す。トランスジーン発現は、プロモーターとトランスジーン間に配置した抗生物質耐性遺伝子および転写ターミネーターから成る遺伝子カセットにより阻止される。組換えによりdif部位間を除去したこのカセットを用いて、プロモーターからのトランスジーンの発現が可能になる。
【図5】はRecA+細胞中のプラスミド多量体の分解を示す。RecAは相同的組換えによりプラスミド単量体を二量体に変換する。もし二量体分解部位dif(例えばcerおよびそのアクセサリー配列)が存在すると、天然の部位特異的リコンビナーゼ(例えばXerCおよびXerD)はこの二量体を変換して単量体型に戻しうる。
【図6】はプライマー5DIFCATおよび3DIFCATを用いてcatを増幅して隣接するdif部位と合体し、これをpTOPO中にクローニングして作製した前駆体欠失プラスミドpTOPO-DIFCATを示す。
【図7】A)は染色体のmsbBを欠失する過程における野生型、組み込み体、分解体の遺伝子座の図を示す。B)はプライマーSMLとSMRを用いて作製したPCR産物のアガロースゲルを示す。野生型msbB遺伝子座は1428bpの産物を与える。ΔmsbB-ADifCATカセットを組み込むと、サイズは1460bpに増加し、そしてdif部位においてcatを切除すると最終的に462bpのPCR産物を得る。
【図8】A)は染色体のrbpAを欠失する過程における野生型、組み込み体、分解体の遺伝子座の図を示す。B)はプライマーInt FとInt Rを用いて作製したPCR産物のアガロースゲルを示す。ubiBとfadRの間の野生型組み込み遺伝子座は510bpの産物を与える。rbp-DifCATカセットを組み込むと、サイズは1936bpに増加し、そしてdif部位においてcatを切除すると最終的に938bpのPCR産物が生じる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原核細胞内の核酸分子から選択マーカー遺伝子を除去する方法であって、dif様部位特異的リコンビナーゼ認識部位によって隣接される選択マーカー遺伝子を含む核酸分子を含む原核細胞を、該細胞内の内在性部位特異的リコンビナーゼが作用してdif様部位特異的リコンビナーゼ認識部位間の部位特異的組換えにより選択マーカー遺伝子を切除する条件下で培養するステップを含んでなる上記方法。
【請求項2】
該細胞が細菌細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該細胞がグラム陰性菌細胞である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
該細胞がグラム陽性菌細胞である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
該細胞が大腸菌細胞である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
該細胞が枯草菌細胞である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
該細胞がRecA+細胞である、請求項2〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
選択マーカー遺伝子に隣接するdif様部位特異的リコンビナーゼ認識部位が同じものである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
選択マーカー遺伝子に隣接するdif様部位特異的リコンビナーゼ認識部位が異なる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
dif様部位の少なくとも1つが大腸菌dif部位および枯草菌dif部位から選択される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
dif様部位の少なくとも1つがプラスミドdif様部位cerおよびpsiから選択されかつ核酸分子がさらにアクセサリー配列を含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
dif様部位の少なくとも1つがハイブリッドdif様部位pifでありかつ核酸分子がさらにアクセサリー配列を含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
選択マーカー遺伝子が抗生物質耐性遺伝子である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
上記細胞を選択マーカー遺伝子に対する選択圧の存在下で培養するステップおよびその後に選択マーカー遺伝子に対する選択圧を除去するステップを含んでなる、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
上記核酸分子が選択マーカー遺伝子を切除された細胞のポジティブ選択を可能にする第2の遺伝子をさらに含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
細胞内に該核酸分子を導入する最初のステップをさらに含む、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
該核酸分子が細胞染色体中に組み込まれた直鎖DNAカセットである、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
該核酸分子がプラスミドDNAである、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
原核細胞染色体中に無標識核酸を組み込む方法であって、
a)i)選択マーカー遺伝子、
ii)上記選択マーカー遺伝子に隣接する2つのdif様部位特異的リコンビナーゼ認識部位、および
iii)上記dif様部位特異的リコンビナーゼ認識部位に隣接する2領域であって、細胞染色体中の組み込み部位に隣接する2領域と相同性のある上記2領域
を含む直鎖DNAカセットを細胞中に導入するステップ;
b)上記細胞を、直鎖DNAカセットが相同的組換えにより細胞染色体中に組み込まれる条件下で培養するステップ;および
c)上記細胞を、細胞内の内在性部位特異的リコンビナーゼが作用してdif様部位特異的リコンビナーゼ認識部位間の部位特異的組換えにより選択マーカー遺伝子を切除する条件下で培養するステップを含んでなる上記方法。
【請求項20】
請求項2〜13のいずれか1項の特徴を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
上記dif様部位特異的リコンビナーゼ認識部位に隣接する2領域が細胞染色体中の欠失する遺伝子に隣接する2領域と相同性がある、請求項19または20に記載の無標識遺伝子を欠失する方法。
【請求項22】
上記dif様部位特異的リコンビナーゼ認識部位に隣接する2領域が組み込みの部位に隣接する2領域と相同性がありかつ上記直鎖DNAカセットが組み込むべき外来性遺伝子をさらに含み、ただし、該外来性遺伝子は2つのdif様部位特異的リコンビナーゼ認識部位間に位置しない、請求項19または20に記載の無標識遺伝子を組み込む方法。
【請求項23】
ステップb)が選択マーカー遺伝子に対する選択圧の存在下で該細胞を培養するステップをさらに含む、請求項19〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
ステップc)がいずれの選択圧の非存在下で細胞を培養するステップを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
核酸分子が、組換えが起こった細胞をポジティブ選択するための遺伝子をさらに含む、請求項19〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
プラスミドから選択マーカー遺伝子を除去する方法であって、dif様部位特異的リコンビナーゼ認識部位によって隣接される選択マーカー遺伝子を含むプラスミドを原核細胞に導入するステップ、および上記細胞を、内在性部位特異的リコンビナーゼが作用してdif様部位特異的リコンビナーゼ認識部位間の部位特異的組換えによりプラスミドから選択マーカー遺伝子を切除する条件下で培養するステップを含んでなる上記方法。
【請求項27】
請求項2〜15のいずれか1項の特徴を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
選択マーカー遺伝子に依存しない代替系により細胞中のプラスミドを維持することをさらに含む、請求項26または27に記載の方法。
【請求項29】
選択マーカー遺伝子が抗生物質耐性遺伝子でありかつ上記方法がオペレーターリプレッサータイトレーションによりプラスミドを維持することをさらに含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
該プラスミドがlacオペレーターを含み、かつ該細胞がlacリプレッサーをコードする第1の染色体遺伝子および該lacオペレーターと機能的に結合する細胞増殖に必須である第2の染色体遺伝子を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
目的の遺伝子の発現を制御する方法であって、
i)オペレーターと機能的に連結された目的の遺伝子を含む第1の核酸分子;および
ii)dif様部位特異的リコンビナーゼ認識部位によって隣接されるリプレッサー遺伝子および選択マーカー遺伝子を含む、ここで上記リプレッサーは上記オペレーターとの結合に感受性を有する、第2の核酸分子
を含む原核細胞を、細胞内の内在性部位特異的リコンビナーゼが作用してdif様部位特異的リコンビナーゼ認識部位間の部位特異的組換えにより、選択マーカー遺伝子および上記リプレッサー遺伝子を切除し、それにより目的の遺伝子の発現を可能にする条件下で、培養するステップを含んでなる上記方法。
【請求項32】
請求項2〜15のいずれか1項の特徴を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
第1および第2の核酸分子が細胞染色体中に組み込まれた直鎖DNAカセットである、請求項31または請求項32に記載の方法。
【請求項34】
第1および第2の核酸分子がプラスミドである、請求項31または請求項32に記載の方法。
【請求項35】
第1の核酸分子が細胞染色体中に組み込まれた直鎖DNAカセットであり、および第2の核酸分子がプラスミドである、請求項31または請求項32に記載の方法。
【請求項36】
第1の核酸分子がプラスミドであり、および第2の核酸分子が細胞染色体中に組み込まれた直鎖DNAカセットである、請求項31または請求項32に記載の方法。
【請求項37】
目的の遺伝子の発現を制御する方法であって、
i)プロモーターと機能的に連結された目的の遺伝子;および
ii)dif様部位特異的リコンビナーゼ認識部位によって隣接される転写ターミネーターおよび選択マーカー遺伝子、ここで上記dif様部位特異的リコンビナーゼ認識部位によって隣接される転写ターミネーターおよび選択マーカー遺伝子は目的の遺伝子と上記目的の遺伝子の発現を制御するプロモーターとの間に位置する、
を含む核酸分子を含む原核細胞を、細胞内の内在性部位特異的リコンビナーゼが作用してdif様部位特異的リコンビナーゼ認識部位間の部位特異的組換えにより、選択マーカー遺伝子および上記転写ターミネーターを切除し、それにより目的の遺伝子の発現を可能にする条件下で、培養するステップを含んでなる上記方法。
【請求項38】
請求項2〜15のいずれか1項の特徴を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
核酸分子がプラスミドであるかまたは染色体中に組み込まれた直鎖DNAカセットである、請求項37または請求項38に記載の方法。
【請求項40】
dif様部位特異的リコンビナーゼ認識部位によって隣接される選択マーカー遺伝子を含む核酸分子。
【請求項41】
直鎖DNAカセットである、請求項40に記載の核酸分子。
【請求項42】
プラスミドである、請求項40に記載の核酸分子。
【請求項43】
挿入しようと意図する染色体位置に隣接する領域と相同性がある相同領域をさらに含む、請求項41に記載の核酸分子。
【請求項44】
外来性遺伝子をさらに含む、請求項43に記載の核酸分子。
【請求項45】
オペレーター配列をさらに含む、請求項42に記載の核酸分子。
【請求項46】
請求項40〜45いずれか1項に記載の核酸分子を含む原核細胞。
【請求項47】
染色体上に存在してプラスミド上のオペレーターと結合するリプレッサーをコードする第1の遺伝子および染色体上に存在して同じオペレーターと機能的に結合するかつ細胞増殖に必須である第2の遺伝子をさらに含む、請求項45に記載のプラスミドである核酸分子を含む原核細胞。
【請求項48】
細胞が細菌細胞である、請求項46または請求項47に記載の細胞。
【請求項49】
細胞がグラム陰性菌細胞である、請求項48に記載の細胞。
【請求項50】
細胞がグラム陽性菌細胞である、請求項48に記載の細胞。
【請求項51】
細胞が大腸菌細胞である、請求項49に記載の細胞。
【請求項52】
細胞が枯草菌細胞である、請求項50に記載の細胞。
【請求項53】
細胞がRecA+細胞である、請求項46〜52のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項54】
選択マーカー遺伝子に隣接するdif様部位特異的リコンビナーゼ認識部位が同じものである、請求項40〜54のいずれか1項に記載の核酸分子または原核細胞。
【請求項55】
選択マーカー遺伝子に隣接するdif様部位特異的リコンビナーゼ認識部位が異なる、請求項40〜54のいずれか1項に記載の核酸分子または原核細胞。
【請求項56】
少なくとも1つのdif様部位は大腸菌dif部位と枯草菌dif部位から選択される、請求項54または請求項55に記載の核酸分子または原核細胞。
【請求項57】
少なくとも1つのdif様部位はプラスミドdif様部位cerおよびpsiから選択されかつ核酸分子がアクセサリー配列をさらに含む、請求項54〜56のいずれか1項に記載の核酸分子または原核細胞。
【請求項58】
少なくとも1つのdif様部位はハイブリッドdif様部位pifでありかつ核酸分子がアクセサリー配列をさらに含む、請求項54〜57のいずれか1項に記載の核酸分子または原核細胞。
【請求項59】
選択マーカー遺伝子が抗生物質耐性遺伝子である、請求項40〜58のいずれか1項に記載の核酸分子または原核細胞。
【請求項60】
RecA+細胞において超らせんの単量体プラスミドDNAを産生する方法であって、dif様部位特異的リコンビナーゼ認識部位を含むことによって特徴付けられるプラスミドを含むRecA+細胞を培養するステップを含んでなる上記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2008−505620(P2008−505620A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−518698(P2007−518698)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【国際出願番号】PCT/GB2005/002590
【国際公開番号】WO2006/003412
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(506170591)コブラ バイオロジックス リミテッド (2)
【Fターム(参考)】