説明

選択的な光透過特性を有する金属薄膜複合体およびその製造方法

【課題】波長選択性に優れた光透過特性を有する光透過金属薄膜複合体およびその製造方法の提供。
【解決手段】本発明によれば、基板と、前記基板表面上に形成された第一および第二の金属薄膜を具備する光透過性金属薄膜複合体と、その製造法が提供される。ここで、前記第一の金属薄膜は前記金属薄膜を貫通する複数の開口部を有し、前記開口部の開口径が透過光の最大ピーク波長以下であり、かつ前記第二の金属薄膜は、前記開口部内側に、前記第一の金属薄膜と空間的に離れて形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択的な光透過特性を有する金属薄膜、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属薄膜に波長以下の開口径を持つ複数の開口が周期Pで配列した開口アレイを有する光透過性開口アレイが知られている(特許文献1)。また、この金属薄膜が特定の波長を主に透過する特性を利用して、波長以下の開口径の貫通孔を有する金属薄膜を利用した光制御透過表示装置も知られている(特許文献2)。
従来、Betheの回折理論(非特許文献1)に基づいて、波長よりも小さい微小開口が設けられた金属薄膜の光透過効率ηは(開口半径a/光の波長λ)の四乗に比例し、開口半径aが小さくなるほど急激に光の透過が減少すると考えられている。しかしながら、このような金属薄膜は、開口径aよりも大きな特定の波長の光を透過することが可能であり、金属薄膜に設けられた開口部の面積の総和から期待される以上の透明性を有することを大きな特徴とするものである。
金属薄膜に照射する光の波長よりも小さい開口径を有する開口部を周期的に形成することで、金属薄膜に光が照射された際に金属の表面プラズモンと入射光とが結合し、特定の波長領域の透過を強める働きがある。この現象は次のように説明される(非特許文献2)。
表面プラズモンの波数ベクトルと、表面に正方格子の周期構造を有する金属薄膜との関係は、運動量保存の法則から
【数1】

と表すことができる。
式中、
【数2】

は表面プラズモン波数ベクトルであり、
【数3】

は、金属薄膜の面にある入射光の波数ベクトルの成分であり、
【数4】

は、
【数5】

である正方格子についての逆格子ベクトルであり、Pは開口部配列の周期であり、θは入射波動ベクトルと金属薄膜の表面法線との間の角度であり、iおよびjは整数である。
【0003】
一方で、表面プラズモン波数ベクトルの絶対値は、表面プラズモンの分散関係から以下の通り求めることができる。
【数6】

【0004】
式中、ωは入射光の角周波数であり、εおよびεはそれぞれ、金属および誘電体媒質の比誘電率であり、大気中からの照射の場合ε=1である。ここで、金属および誘電体媒質が、バルクプラズモンエネルギー以下の金属およびドープ半導体の場合である場合には、ε<0および|ε|>εと仮定される。垂直入射(θ=0)の場合の透過が極大となる波長は、入射光の金属面に平行な波数ベクトルは0となり、正方格子の配列の場合、これらの式をつなぐことで、
【数7】

となり、透過の極大を示す波長は、金属の誘電率、発光面側の空気等の誘電率に加えて、開口部配列の周期Pに依存した関数となる。つまりは、周期を有する開口構造は、周期に応じた特定波長の光の透過を生じさせる。上記の原理に従い、たとえば波長以下の孔を正方格子で金属表面全面にわたって作製することで、金属全面が光を透過するようになる。上記原理によれば周期Pに従って、特定波長の光が透過されることとなり、i=1、j=0(i=0、j=1でも等価)のとき、透過の最大ピークが得られる。しかしながら、このような金属薄膜は、iまたはjがそれ以外の場合にも透過ピークが生じるため、最大透過ピークよりも短波長側に複数の高次の透過ピークが生じることとなる。そのため、特定波長とは異なる波長の光も多少透過してしまうために改良の余地があった。
【特許文献1】特開平11−72697号公報
【特許文献2】特開2000−111851号公報
【非特許文献1】H.A.Bethe, Theory of Diffraction by Small Holes, Physical Reviews 66, 163−82, 1944.
【非特許文献2】H.F.Ghaemiら, “Surface Plasmons Enhance Optical Transmission ThroughSubwavelength Holes,” Physical Review B, Vol.58, No.11, pp.6779−6782(Sep.15,1998).
【非特許文献3】C. F. Bohren, D. R. Huffman、Adsorption and Scattering of Light by Small Particles, John Wiley & Sons, New York, 1983.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、高い波長選択性を有する金属薄膜およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様にかかる光透過性金属薄膜複合体は、
基板と、前記基板表面上に形成された第一および第二の金属薄膜を具備するものであって、
前記第一の金属薄膜が前記金属薄膜を貫通する複数の開口部を有し、前記開口部の開口径が透過光の最大ピーク波長以下であり、
前記第二の金属薄膜が、前記開口部内側に、前記第一の金属薄膜と空間的に離れて形成されていることを特徴とするものである。
また、本発明の他の態様にかかる光透過性金属電極は、上記の光透過性金属薄膜複合体を具備したことを特徴とするものである。
また、本発明の他の態様にかかるカラーフィルターは、上記の光透過性金属薄膜複合体を具備したことを特徴とするものである。
また、本発明の他の態様にかかる光デバイスは、上記の光透過性金属薄膜複合体を電極として用いたことを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明の一態様にかかる金属薄膜複合体の製造方法は、
基板上に金属薄膜を形成させる工程と、
前記金属薄膜上に転写層を形成させる工程と、
前記転写層上にドット状の第一のエッチングマスクを形成させる工程と、
前記第一のエッチングマスクを前記転写層に転写する工程と、
前記転写層に形成された隙間を第二のエッチングマスクで埋め込む工程と、
第一のエッチングマスク及び第二のエッチングマスク材をエッチバックして、第一のエッチングマスク及び第二のエッチングマスクを完全にエッチングせずに転写層を露出させる工程と、
第一のエッチングマスク及び第二のエッチングマスクをエッチングマスクとして転写層をエッチングして金属薄膜を露出させる工程と、
露出した金属薄膜層をエッチングする工程と、
転写層及び第一のエッチングマスク及び第二のエッチングマスクを剥離する工程と、
を有することを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の一態様にかかるナノインプリントスタンパーは、
基板もしくは前記基板上に形成した基材上に、転写層を形成させる工程と、
前記転写層上にドット状の第一のエッチングマスクを形成する工程と、
前記第一のエッチングマスクを前記転写層に転写する工程と、
前記転写層に形成された隙間を第二のエッチングマスクで埋め込む工程と、
第一のエッチングマスク及び第二のエッチングマスクをエッチバックして、第一のエッチングマスク及び第二のエッチングマスクを完全にエッチングせずに転写層を露出させる工程と、
第一のエッチングマスク及び第二のエッチングマスクをエッチングマスクとして転写層をエッチングして基板、もしくは前記基材を露出させる工程と、
前記基板もしくは前記基材をエッチングする工程と、
転写層及び第一のエッチングマスク及び第二のエッチングマスクを剥離する工程と、
前記基板もしくは前記基材を原盤に用いて反転パターンを有する型を形成する工程と、を有する製造方法により製造されたことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の一態様にかかる光透過性金属薄膜複合体の製造方法は、上記方法で作製されたナノインプリントスタンパーを用いて金属薄膜を加工する工程、を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の態様によれば、特定の波長の光だけを透過し、短波長側の高次の透過光がフィルタリングすることができる、波長選択性に優れた光透過金属薄膜が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0012】
本発明の一実施形態にかかる、選択的な光透過特性を有する金属薄膜の構造を表す図を図1に例示する。図1は、本発明の実施形態の理解を助けるために典型的な例を示したものであって、本発明の実施形態にかかる金属薄膜が図示した構造に限定されないことはいうまでもない。
【0013】
本発明の一実施態様による光透過性金属薄膜複合体100は、基板1と、基板の表面上に形成された金属薄膜を貫通する複数の開口部を有する第一の金属薄膜2と、第一の金属薄膜2の開口部の内側に、第一の金属薄膜2と空間的に離れて形成された第二の金属薄膜3から構成される。
【0014】
第一の金属薄膜1は、その金属薄膜を貫通する複数の開口部を有している。この開口部の配置は特に限定されず、任意の配置とすることができる。例えば、すべての開口部が規則正しく、周期的に配置されている構造(図2)をとることができる。このとき、開口部の配列周期は、面内方向に周期Pを中心にした分布を有し、前記周期Pの分布を、動径分布曲線で表した場合、そのピーク半値幅が1μm以下であることが好ましい。この場合には、面内配列方向が揃った周期構造であるということができる。特にピーク半値幅が実質的にゼロである場合、すなわち開口部の配列周期が完全に一定である場合には、完全周期構造であるということができる。また、多結晶のように開口部が面内方向に周期的に配列した複数のミクロドメインを形成して、このミクロドメインは面内配列方向が互いに独立に隣接したミクロドメイン構造(図3)をとることもできる。このとき、それぞれのミクロドメイン内では開口部は周期的に配列している。さらには、それぞれの開口部がランダムに配置したランダム構造(図4)であってもよい。
【0015】
ここで定義した動径分布関数曲線とは、ある対象物からある距離だけ離れた点における、他の対象物の存在確率を示す統計的分布曲線である。本発明における動径分布関数は、ある任意の開口部中心から、ある距離Rだけ離れた位置に他の開口の中心が存在する確率を示す曲線である。なお、本発明でいう開口の中心とは、開口形状が円形の場合はその中心のことを意味するが、円形以外の開口形状の場合は、その開口の重心と等価である。開口の重心とは、幾何学的には、ある図形の、その周りでの一次モーメントが0であるような点として定義される。
【0016】
本発明の開口部の動径分布関数曲線は、次のように決定することができる。開口部のある面に対して、端部から等間隔に円周状の線を描いていく。具体的には、電子顕微鏡や原子間力顕微鏡で得られた画像より、画像中の開口部に対して、端部から等間隔に円周状に線引きをしていく。この円周状の線の中央が、開口部の重心に相当する。この部分を画像処理し、さらに重心を割り出す。この処理を行うことで、任意の形状の開口部に対しても動径分布関数曲線が得られる。
【0017】
動径分布関数曲線は、開口部を有する金属薄膜の上面像をフーリエ変換して得られる二次元逆格子空間像から考えると理解しやすい。図5は、金属薄膜に様々な様式の開口部が存在する場合の二次元逆格子空間像と、動径分布関数曲線D(r)、及びそのような開口部を持つ金属薄膜に光を垂直入射した場合の透過スペクトル形状の模式図を示したものである。図5(a)は開口部の面内配列方向が、金属薄膜全体にわたって完全に揃った完全周期構造の場合を、図5(b)は、金属薄膜の開口部が相互に隣接した複数のミクロドメインから形成されており、そのドメインの範囲内では開口部が周期的に配列されていて、かつそれぞれのミクロドメインがランダムに隣接しているミクロドメイン構造の場合を、図5(c)は開口部がランダムに配置したランダム構造の場合を、それぞれ示している。
【0018】
次元逆格子像について簡略に述べると、金属薄膜中に開口部の繰り返し構造があると、その繰り返しの周期に対応したスポットが現れる。金属薄膜全体にわたって、周期軸が揃った完全周期構造の場合、その繰り返しの周期に対応したスポットが現れる。例えば正方格子であれば、図5(a)のような四回対称の明瞭なスポットとなる。一方、それぞれのドメインの繰り返し周期は一定であるが、ドメイン間の周期軸方向が揃っていないミクロドメイン構造の場合、図5(b)のような、リング状の明瞭なスポットが現れる。さらに、開口部の配置がランダムであり、特定の周期軸を持たないランダム構造では、図5(c)のような、リングがぼやけたリング状スポットが現れる。
【0019】
各々の動径分布関数曲線は、逆格子空間中でのある距離において円周上に積分した形となる。そのため、周期が完全に揃った完全周期構造では、その周期に非常にシャープなピークが見られる。一方、周期に分布があると、図5(c)のようなランダム構造では、動径分布関数曲線は、緩やかな曲線を描くようになる。したがって、周期の分布は、動径分布関数曲線のピーク半値幅によって記述することができる。本発明において、動径分布関数曲線のピーク半値幅とは、上記の手法により得られた動径分布関数曲線の一次のピーク、すなわち最近接の開口部重心間の距離を示すピークの半値幅のことを意味する。
【0020】
上記の方法により得られたピーク半値幅が1μm以下である場合、金属薄膜の透過スペクトルは、開口径以上の波長領域に透過光が最大となるピーク波長を持ち、そのピーク波長より短波長側に高次のピークを複数持った特徴的なものとなる。
【0021】
本発明の第一の金属薄膜における開口部分布を示す動径分布関数のピーク値(周期P)は、この金属薄膜の透過スペクトルから得られるピーク波長より小さければ特に限定されない。
【0022】
第一の金属薄膜1における開口部の配列は、完全周期構造やミクロドメイン構造のように一部の領域に周期性を持つ構造の場合は、面内配列方向に周期性を有していれば特に限定されず、三角格子配列や四角格子配列でもよい。
【0023】
また、第一の金属薄膜の開口形状は、金属薄膜に開口を有していれば特に限定されず、円形でも、楕円形でも、多角形でも、その他の閉曲線でもよい。
【0024】
本発明の第一の金属薄膜の平均開口径は、その金属薄膜を透過光の最大ピーク波長より小さければ特に限定されない。また、開口径の大きさは、すべて均一である必要はなく、開口部の動径分布関数曲線のピーク半値幅が1μm以下であれば、分布を持っていても構わない。
【0025】
、第二の金属薄膜は、上述の第一の金属薄膜を貫通する開口部の内側に形成されている。この第二の金属薄膜は、第一の金属薄膜と同一の基板上に形成されており、第一の金属薄膜と、第二の金属薄膜は空間的に離れて形成されている。ここで第二の金属薄膜は第一の金属薄膜の開口部内側に、第一の金属薄膜と空間的に離れて形成されていればよく、第二の金属薄膜の重心位置は、第一の金属薄膜の重心と一致する必要はない。第二の金属薄膜の形状は、第一の金属薄膜の形状と同様に、円形でも、楕円形でも、多角形でも、その他の閉曲線でもよい。また、第二の金属薄膜の大きさは、第一の金属薄膜と空間的に離れていれば特に限定されず、それぞれの開口部で完全に同じ大きさである必要はなく、分布を持っていても構わない。
【0026】
本発明における金属薄膜複合体において、第一の金属薄膜の膜厚は、10nm〜300nmの間であることが好ましい。膜厚が10nmより小さいと、金属薄膜の導電率が低すぎるため、光が入射した際、金属膜中の自由電子の分極が起こらず、光の異常透過現象が起こりにくく、本発明の金属薄膜における第一の金属薄膜としての光学特性を満足しないことがある。また、膜厚が300nmより大きいと、第一の金属薄膜を透過する光が金属膜中で減衰してしまい、透明性が失われてしまうため好ましくない。
【0027】
本発明の金属薄膜において、第二の金属薄膜の膜厚は、10nm以上であることが好ましい。膜厚が10nmより小さいと、金属薄膜の導電率が低すぎるため、光が入射した際、金属薄膜内で自由電子の分極が生じにくくなる。この結果、第二の金属薄膜の形状に由来した特定波長での表面プラズモン共鳴が起こらなくなって、光が透過してしまうことがあるためである。
【0028】
なお、本発明の金属薄膜における光透過現象は、主に第一の金属薄膜1の光学特性によって決定されるため、第二の金属薄膜の膜厚の上限が、光学的な理由によって限定されることはない。さらに第一の金属薄膜と第二の金属薄膜の膜厚は、必ずしも一致させる必要はないが、物理的応力によって構造が壊れることを防ぐため、また製造方法の容易さから一致している方が好ましい。
【0029】
本発明の金属薄膜複合体において、第一の金属薄膜と第二の金属薄膜の材質は、金属であれば特に限定されず、また、同一であっても異なっていてもよい。これらの金属薄膜の材質は、例えば、金、銀、白金、アルミニウム、鉛、亜鉛、ニッケル、コバルト、マグネシウム、クロム、およびこれらの合金から選択することができる。
【0030】
本発明の効果について説明すると以下の通りである。
【0031】
本発明の一実施態様である金属薄膜複合体は、上述したような構造を有する第一の金属薄膜と第二の金属薄膜が、互いに接することなく形成されることによって、第一の金属薄膜と第二の金属薄膜、それぞれの特徴的な光学特性が独立に発現する。まず、貫通した微小開口部が複数設けられた第一の金属薄膜のみの場合に特定の波長の光が金属薄膜を透過する。このとき、透過光の最大ピーク波長よりも短波長側に高次の透過ピークが現れる。そして、開口部の内側に形成された第二の金属薄膜で発生する表面プラズモン共鳴による反射・吸収効果によって、この高次のピークを有する光だけが、第一の金属薄膜の透過光の最大ピーク波長における透過率を減衰させることなくフィルタリングされる。このようにして、波長選択性に優れた金属薄膜が得られることが、本発明による最も特徴的な効果である。
【0032】
図6は、本発明の効果を説明するための模式的な透過スペクトルを示すものである。図6には、それぞれ、金属薄膜に複数の開口部を設けた第一の金属薄膜、第二の金属薄膜、および本発明の金属薄膜複合体の、それぞれの特徴的な透過スペクトルを示した。
【0033】
図6(a)に示された第一の金属薄膜のみの透過スペクトルは、本明細書の背景技術において説明された式(5)で表されるような、周期Pに依存した透過スペクトルが得られる。この場合、最も長波長側の透過光の最大ピーク波長以下には、高次のピークが複数表れている。
【0034】
一方、図6(b)に示された第二の金属薄膜のみの透過スペクトルでは、スペクトル形状は大きく変化する。まず、第二の金属薄膜の大きさよりも十分大きな波長領域では、第二の金属薄膜に光が入射した際、第二の金属薄膜中の自由電子の振動が、構造的に阻害されることによって、いわゆるプラズマ反射が抑制され、光は第二の金属薄膜をほぼ損失なしで透過する。このような波長領域から、短波長側になると、第二の金属薄膜の端面で自由電子の分極が起こり、第二の金属薄膜の大きさに依存した電気双極子を生じる。この電気双極子と、入射光が共鳴すると、入射光は反射または吸収され、いわゆる表面プラズモン共鳴が起こり、透過スペクトルの特定波長の透過率が大きく減少し、ディップ形状が現れる。さらに短波長になると、第二の金属薄膜では主に、通常の金属薄膜と同様のプラズマ反射が生じ、第二の金属薄膜のない部分の面積の比率に対応した光透過が起こることとなる。
【0035】
第二の金属薄膜における表面プラズモン共鳴波長は、金属種と、その形状によって決定される。入射電場によって、第二の金属薄膜に誘起される双極子モーメントpは、
【数8】

となる。ここで、εαは第二の金属薄膜の周りの媒質の誘電率、αは分極率、Eは入射電場である。ここで、第二の金属薄膜が直径a、厚さbの円柱形状の場合、円柱形状をスフェロイド(回転楕円面)形状で近似し、入射電場を第二の金属薄膜に垂直入射した場合の、分極率αは、
【数9】

となる。(非特許文献3)。ここで、εは第二の金属薄膜の誘電率、Lは第二の金属薄膜のアスペクト比(a/b)の関数である構造因子である。表面プラズモン共鳴が起こる条件は、
【数10】

であり、この式から第二の金属薄膜の表面プラズモン共鳴波長は、第二の金属薄膜の誘電率、周りの媒質の誘電率、第二の金属薄膜の形状によって決まる。
【0036】
このような第一の金属薄膜と、第二の金属薄膜を、構造的に重ねあわせた本発明の金属薄膜複合体では、図6のような二つの特徴的な特性が重なった特性を得ることができる。第一の金属薄膜の透過光の最大ピーク波長より、短波長側に第二の金属薄膜の局在プラズモン共鳴波長が来るような金属薄膜を形成することで、透過光の最大ピーク波長における透過率を減衰させることなく、透過光の高次のピークを抑制することが出来、波長選択性に優れた金属薄膜を形成させることが出来る。
【0037】
本発明の金属薄膜複合体は、その優れた波長選択性を有し、第一の金属薄膜が面内で切れ目なく繋がっていることにより、特定波長を透過する透明電極として用いることができる。本発明の金属薄膜複合体は、金属をその構成材料とするため、既存の透明電極材料であるITO(Indium Tin Oxide)などの酸化物系透明電極材料と比較して、優れた導電性が得られ、大面積領域の光デバイスにも応用することができる。また、本発明による金属薄膜複合体は、これら酸化物系透明電極材料で用いられるインジウムなどの希少金属を必要としないため、将来的な資源枯渇の問題からも有意義である。
【0038】
本発明の一実施態様である金属薄膜複合体は、例えば、液晶ディスプレイ(LCD)の画素電極用の透明電極に用いることができる。液晶ディスプレイは、液晶を配向させるため、一般的にはITOを画素電極に用いている。しかし、本発明による金属薄膜複合体を画素電極に用いることによって、希少金属のインジウムなどを用いずに、資源的に豊富なAlなどの金属で画素電極を形成させることができる。また、本発明の金属薄膜複合体の大きな特徴である優れた波長選択特性により、この画素電極にカラーフィルター機能を付与することも出来る。これによって、ガラス基板に形成していたカラーフィルターが不要となり、製造コストの抑制や、超薄膜の液晶ディスプレイを作製することが可能となる。
【0039】
また、本発明の一実施態様である金属薄膜複合体は、太陽電池の受光面側に形成する透明電極として用いることができる。薄膜シリコン太陽電池や、色素増感太陽電池では、キャリア寿命が短いため、受光面全面に集電用電極を形成させる必要がある。ここで、集電用電極は発電素子に光を入射させるために、透明である必要がある。しかしながら、紫外光まで透過する透明導電性材料を用いると、例えば薄膜シリコン太陽電池では、強い紫外光によってシリコン結晶中のダングリングボンドが増加し、導電率が劣化して、変換効率が落ちることが知られている。本発明による金属薄膜複合体を透明電極として用いることによって、発電効率の高い波長に金属薄膜の透過光のピーク波長を合わせ、それより短波長側の紫外光はフィルタリングすることによって、発電に寄与する波長の光を効率よくデバイス内に透過させ、紫外光は表面電極によって遮断することができるため、太陽電池の劣化を抑制することが可能となる。また、色素増感太陽電池においても、紫外光による色素の劣化は大きな問題であるため、本発明の金属薄膜複合体を電極として用いることでこれを抑制できる。
【0040】
本発明による金属薄膜複合体は、その他の光デバイス用電極として用いることがでる。また、カラーフィルター単体として用いることもできる。
【0041】
本発明の一実施態様である金属薄膜複合体の製造方法について説明すると以下の通りである。
【0042】
本発明の一実施態様による金属薄膜複合体は、上記した通りの構造を特徴とするものである。このような構造を形成するためには、例えば、光リソグラフィー法や、電子線リソグラフィー法、ナノインプリント法など、広く公知の微細加工技術を用いることができる。第一の金属電極と第二の金属電極は、同時形成しても、どちらか片方を形成した後、位置合わせをして、他方を独立に形成させてもよい。
【0043】
なお、本発明による金属薄膜複合体は、そのパターンが微細な構造のため、光リソグラフィー法により直接形成させるためには最先端の光リソグラフィー装置が必要であり、かつ加工コストがかかる。また、露光装置を用いないナノインプリント法を用いる場合においても、ナノインプリント用スタンパーは何らかの方法、例えば微細な構造を形成できる光リソグラフィー法で作製する必要があり、結局大幅なスタンパー加工コストが生じることとなる。そのため、本発明による金属薄膜を製造する方法として、以下に示すような比較的低コストの方法を用いることもできる。
【0044】
図7の工程図は、本発明の金属薄膜複合体の製造方法のひとつの例を説明するためものであって、本発明がこれに限定されないことは言うまでもない。
【0045】
基板1上に、まず金属薄膜4が形成される。基板1の材質は特に限定されず、無機材料、有機材料、無機および有機材料が混在したもののいずれであってもよい。また、基板1のサイズや厚さも特に限定されず、表面形状も任意であり、平坦でも曲面形状を有していてもよい。例えば、ガラス基板や、石英基板、Si基板、化合物半導体基板等を、基板として用いることができる。また、基板1上に形成させる金属薄膜4との密着性を考慮して、基板1の表面に適当な表面処理を行ってから、金属薄膜4を形成させることができる。また、基板1上に、後述するエッチングに対する耐性の高い透明材料をストッパー層として堆積させてから、金属薄膜4を形成させることもできる。金属薄膜4の形成方法は特に限定されず、スパッタ法や蒸着法、プラズマCVD法など、広く公知の方法を用いることができる。金属薄膜4の材質は、上述したような各種金属材料を用いることができる。また、熱処理により金属薄膜4をシンタリングしてもよく、保護膜等を形成させてもよい。
【0046】
金属薄膜4を形成させた後、転写層5を形成させる(図7(A))。転写層5の形成方法は、特に限定されず、広く公知の薄膜形成方法を用いることができる。例えば、スピンコート法、ディッピング法、スキージ法などのウェットプロセスや、スパッタ法、蒸着法、プラズマCVD法などのドライプロセスを用いることができる。
【0047】
転写層5を形成させた後、第一のエッチングマスク材からなるドット状(島状)の第一のエッチングマスク6を形成させる(図7(B))。第一のエッチングマスク6の形成方法は特に限定されず、例えば光リソグラフィー法や、電子線リソグラフィー法によって形成させることができる。また、微粒子や高分子の自己組織化パターンを利用して形成させることもできる。第一のエッチングマスク6を形成する前に、密着性や耐性を向上させるため、転写層5表面に適当な表面処理を行ってもよい。
【0048】
第一のエッチングマスク6を形成させた後、ドライエッチング法によって転写層5に、第一のエッチングマスク6のパターンを転写する(図7(C))。サイドエッチングなどの問題を防ぐため、異方性の高いエッチング条件により転写することが好ましい。このとき、第一のエッチングマスク6は、すべてエッチングされないようにする必要がある。残存したエッチングマスクを開口部の内側に第二の金属薄膜を形成させるためのマスクとするためである。
【0049】
ここで、転写層5の材料および第一のエッチングマスク6の材料は、特に限定されず、有機材料、無機材料、有機および無機材料が混在したものの、いずれであってもよい。しかしながら、上記したように第一のエッチングマスクを残存させて転写層をエッチングするために、第一のエッチングマスク6の材料と転写層5の材料のエッチング選択比(転写層5のエッチング速度に対する第一のエッチングマスクのエッチング速度の比、すなわち第一のエッチングマスクのエッチング速度を転写層5のエッチング速度で割った値)をE01とした場合、
0<E01<1
の関係がある材料の組み合わせを用いることが好ましい。このような組み合わせとして、例えば、転写層5がポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ノボラック樹脂などの有機高分子系材料の場合には、第一のエッチングマスク材として、シリカ系材料、シリコーン系材料、シルセスキオキサン系材料のいずれかを主成分とする材料を用いることが一般に好適である。また、エッチング条件に応じてその反対の組み合わせを用いることができる場合もある。すなわち、エッチング条件によっては、転写層5にシリカ系材料、シリコーン系材料、シルセスキオキサン系材料のいずれかを主成分とする材料、第一のエッチングマスク6の材質がポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ノボラック樹脂などの有機高分子系材料を用いることもできる。
【0050】
続いて、第一のエッチングマスク6のドット状パターンが転写された転写層5の間隙を、第二のエッチングマスク7によって埋め込む(図7(D))。第二のエッチングマスク7の形成方法は、転写層5の間隙に、大きなボイドができることなく埋め込むことができれば特に限定されないが、ドライプロセスでは一般的に埋め込み性が悪いため、スピンコート法などのウェットプロセスで形成させるのがよい。第二のエッチングマスク7は形成後、熱処理や光照射などによって硬化させることもできる。また、第二のエッチングマスク7は、この後の第一のエッチングマスク6と第二のエッチングマスク7のエッチバックを行うが、第一のエッチングマスク6の材料と第二のエッチングマスク7の材料とのエッチングレートの差が大きいと、どちらか一方のエッチングマスクが先にすべてエッチングされてしまい、本発明における第一および第二の金属薄膜を形成させるためのマスクを形成させることが困難となる。そのため、第一のエッチングマスク6の材料と第二のエッチングマスク7の材料のエッチング選択比(第二のエッチングマスクのエッチング速度に対する第一のエッチングマスクのエッチング速度の比、すなわち第一のエッチングマスクのエッチング速度を第二のエッチングマスクのエッチング速度で割った値)をE12としたとき、
0.25<E12<4
の間となるような材料をそれぞれ選択することが好ましい。また、第二のエッチングマスク7と転写層5のエッチング選択比が小さいと、後述の転写層5の除去工程において、第二のエッチングマスク7もまた、すべてエッチングされてしまうため、第二のエッチングマスク7と転写層5のエッチング選択比(転写層5のエッチング速度に対する第二のエッチングマスクのエッチング速度の比、すなわち第二のエッチングマスクのエッチング速度を転写層5のエッチング速度で割った値)をE02としたとき、
0<E02<1
の関係を持つ材料をそれぞれ用いることが好ましい。このような組み合わせとして、例えば、転写層5の材料がポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ノボラック樹脂などの有機高分子系材料の場合には、第二のエッチングマスク7の材料として、シリカ系材料、シリコーン系材料、シルセスキオキサン系材料のいずれかを主成分とする材料を用いることが一般に好適である。また、エッチングの条件に応じて、その反対の組み合わせにすることができる場合もある。
【0051】
第二のエッチングマスク7で転写層5の間隙を埋め込んだ後、ドライエッチングにより、第一のエッチングマスク6と第二のエッチングマスク7をエッチバックして、転写層5を露出させる(図7(E))。このとき、第一のエッチングマスク6と第二のエッチングマスク7をすべてエッチングしないようにエッチバックを行う。このとき、第一のエッチングマスク6の直径を、最終的に得ようとする第二の金属薄膜2の直径までエッチバックして、直径が小さくなったエッチングマスクを形成させる。一方、第二のエッチングマスク7は、後の工程で金属薄膜をエッチングするのに十分な膜厚を残してエッチバックする必要がある。これらの条件を満足するような膜厚に、転写層5、第一のエッチングマスク6、第二のエッチングマスク7の膜厚および材質を決定するのがよい。
【0052】
第一のエッチングマスク6と第二のエッチングマスク7を残存させるようエッチバックして、転写層5を露出させた後、転写層5を異方性エッチングして、金属薄膜を露出させる(図7(F))。さらに、金属薄膜4を、転写層5、第一のエッチングマスク6、第二のエッチングマスク7をエッチングマスクに用いて、エッチング加工し、金属薄膜4をパターニングする(図7(G))。最後に、転写層5、第一のエッチングマスク6、第二のエッチングマスク7を剥離して、本発明の一実施態様である金属薄膜が得られる(図7(H)および(I))。このような方法によれば、最初に形成させた第一のドット状エッチングマスク6に対応する開口部を有する第一の金属薄膜1と、ドライエッチングによりエッチングされた後の第一のドット状エッチングマスク6に対応する直径を有する第二の金属薄膜2を有する金属薄膜が得られる。マスクの剥離は、転写層5と、第一のエッチングマスク6と、第二のエッチングマスク7とで、それぞれのエッチング耐性が異なるため、それぞれの材料に対して、高いエッチングレートが得られるガス種を混合したドライエッチングなどを用いることができる。例えば、転写層材料が有機高分子材料であり、第一および第二のエッチングマスク材がシリカ系材料である場合には、酸素と、フッ素炭素ガスを用いたドライエッチングによって同時に除去することが可能である。
【0053】
また、本発明による金属薄膜複合体は、ナノインプリント法により製造することもできる。本発明の一実施形態にかかるナノインプリントスタンパーは、上記した本発明の金属薄膜複合体の製造方法において、金属薄膜4を形成する工程の代わりに、パターンを形成するための基材を形成するほかは、全く同様の工程を行うことによってパターン基板を作製し、これを原盤に用いてNi電鋳などによって製造することができる。
【0054】
また、このナノインプリントスタンパーを用いて、基板上に形成された金属層の上にマスクパターンを形成させ、そのマスクを介してドライエッチングすることで、本発明の金属電極を形成させることができる。
【0055】
諸例により本発明を具体的に説明すると、以下の通りである。
【0056】
(実施例1) 本発明の金属薄膜
洗浄した石英基板(合成石英ガラスAQ(商品名)、旭硝子株式会社製)上に、Alを真空蒸着して、膜厚50nmのAl薄膜を形成させた。Al薄膜上に転写層として、i線用ポジ型レジスト(THMR−ip3250(商品名)、東京応化工業株式会社製)をスピンコートした後、熱硬化アニールをして、膜厚400nmのレジスト薄膜を形成させた。レジスト薄膜上に、第一のエッチングマスクとして、30wt%の平均粒子径700nm(触媒化成工業株式会社、真絲球(商品名)0.7μm)のシリカ水分散液をスピンコートして、シリカ単粒子層を形成させた。CFガスを用いたRiactive−Ion Etching(以下、RIEという)を12分間行って、シリカ粒子のスリミングエッチングを行い、シリカ粒子の粒子径を500nmまで減少させた。Oガスを用いたRIEによって、レジスト層をエッチングして、レジストピラーを形成させた。第二のエッチングマスクの材料として、乳酸エチルで希釈した有機SOG(OCD−T7(商品名)、12000−T(商品名)、いずれも東京応化工業株式会社製)をスピンコートし、レジスト膜厚350nmまで埋め込みを行った。CFガスを用いたRIEを4分間行って、SOG膜厚が100nmになるまでエッチバックすると同時に、シリカ粒子の粒子径を300nmまで減少させた。この状態でOガスを用いたRIEを行い、SOG、シリカ粒子間に出来た隙間部分のエッチングを行った。続いて、Cl/BCl混合ガスを用いたドライエッチングによって、Alのパターニングを行った。最後に、CF/O混合ガスを用いたRIEによって、マスクを除去した。走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、以下SEMという)を用いて加工したAl薄膜の形状観察を行った結果、平均周期は当初の粒子径を反映して700nmであり、開口径500nmの第一の金属薄膜内部に、直径300nmの第二の金属薄膜が空間的に離れて形成されている様子が観察された(図8)。
【0057】
(比較例1)
有機SOGをスピンコートするまでは、実施例1と同様に処理した。CFガスを用いたRIEを10分間行って、SOG膜厚が100nmになるまでエッチバックすると同時に、シリカ粒子をすべてエッチングした。Oガスを用いたRIEによってレジスト層をエッチングし、Cl/BCl混合ガスを用いたドライエッチングによって、Alのパターニングを行った。最後に、CFガスを用いたRIEによって、マスクを除去した。SEMを用いて加工したAl薄膜の形状観察を行った結果、平均周期は粒子径を反映して700nmであり、開口径500nmの金属薄膜が形成されている様子が観察された(図9)。この金属薄膜に形成された開口部の内側には、第二の金属薄膜が認められなかった。
【0058】
(比較例2)
シリカ単粒子層を形成させるまでは、実施例1と同様に処理した。CFガスを用いたRIEを16分間行って、シリカ粒子のスリミングエッチングを行い、シリカ粒子の粒子径を300nmまで減少させた。Oガスを用いたRIEによって、レジスト層をエッチングして、レジストピラーを形成させた。続いて、Cl/BCl混合ガスを用いたドライエッチングによって、Al薄膜のパターニングを行った。最後に、CF/O混合ガスを用いたRIEによって、マスクを除去した。SEMを用いて加工したAl薄膜の形状観察を行った結果、平均周期は粒子径を反映して700nmであり、直径300nmの金属薄膜が形成されている様子が観察された(図10)。
【0059】
(評価)
実施例1、比較例1、および比較例2のサンプルを、UV−Vis−IR分光器(PC−3101PC(商品名)、株式会社島津製作所製)を用いて、基板の全光束透過率を評価した。得られたスペクトルは図11に示すとおりであった。
【0060】
比較例1のスペクトル(a)は、開口径よりも大きな波長1200nm付近に約70%の最大透過ピークを持ち、それより短波長側に高次のピークが現れ、複数の開口部が形成された金属薄膜に特徴的な透過スペクトルとなっていることがわかる。このスペクトルは、第一の金属薄膜のスペクトルに対応する。また比較例2のスペクトル(b)は、波長1400nm以上で、入射電場に対するAl薄膜中の自由電子の振動が構造的に阻害されるため、透過率は90%以上であり、波長900nm付近では表面プラズモン共鳴による透過率のディップが観察される。このスペクトルは、第二の金属薄膜のスペクトルに対応する。さらに、短波長になると基板部分の面積率に相当する透過率に飽和している。このような二つの構造を重ね合わせた本発明の金属薄膜複合体のスペクトル(c)では、比較例1の最大透過ピーク強度を減衰させることなく、比較例2の表面プラズモン共鳴によって、高次のピークがフィルタリングされており、本発明に特徴的な、高い波長選択性のある金属薄膜が得られていることが示された。
【0061】
(実施例2) 本発明の透明電極
実施例1と全く同様の方法により、石英基板上に作製した本発明による金属薄膜複合体を用意した。この金属薄膜複合体の抵抗率を測定した結果、17Ω・cmであった。既存の透明電極材料である膜厚100nmのITOの抵抗率は100〜200Ω・cmであり、これと比べて低抵抗であり、透明電極として十分な電気特性を有することが確認された。
【0062】
(実施例3) 本発明のカラーフィルター
洗浄した石英基板(AQ(商品名)旭硝子株式会社製)上に、Alを真空蒸着して、膜厚50nmのAl薄膜を形成した。Al薄膜上に転写層として、i線用ポジ型レジスト(THMR−ip3250(商品名)、東京応化工業株式会社製)をスピンコートした後、熱硬化アニールをして、膜厚200nmのレジスト薄膜を形成させた。レジスト薄膜上に、第一のエッチングマスク材として、30wt%の平均粒子径400nm(扶桑化学工業株式会社)のシリカ水分散液をスピンコートして、シリカ単粒子層を形成させた。CFガスを用いたRIEを8分間行って、シリカ粒子のスリミングエッチングを行い、シリカ粒子の粒子径を300nmまで減少させた。Oガスを用いたRIEによって、レジスト層をエッチングして、レジストピラーを形成させた。第二のエッチングマスク材として、乳酸エチルで希釈した有機SOG(OCD−T7(商品名)、12000−T(商品名)、いずれも東京応化工業株式会社製)をスピンコートし、レジスト膜厚200nmまで埋め込みを行った。CFガスを用いたRIEを2分間行って、SOG膜厚が80nmになるまでエッチバックすると同時に、シリカ粒子の粒子径を150nmまで減少させた。この状態でOガスを用いたRIEを行い、SOG、シリカ粒子間に出来た隙間部分のエッチングを行った。続いて、Cl/BCl混合ガスを用いたドライエッチングによって、Alのパターニングを行った。最後に、CF/O混合ガスを用いたRIEによって、マスクを除去した。SEMを用いて加工したAl薄膜の形状観察を行った結果、平均周期は粒子径を反映して400nmであり、開口径300nmの第一の金属薄膜内部に、直径150nmの第二の金属薄膜が空間的に離れて形成されている様子が観察された(図12(A))。
また、上記の方法において、第一のエッチングマスク材として平均粒子径300nmのシリカ粒子を用いて、周期300nmで、開口径200nmの第一の金属薄膜内部に、直径120nmの第二の金属薄膜が空間的に離れて形成されている金属薄膜を作製した(図12(B))。
さらに、上記の方法において、第一のエッチングマスク材として平均粒子径200nmのシリカ粒子を用いて、周期200nmで、開口径120nmの第一の金属薄膜内部に、直径70nmの第二の金属薄膜が空間的に離れて形成されている金属薄膜を作製した(図12(C))。
【0063】
このように作製した三種類の異なる形状を持つ本発明の金属薄膜の透過スペクトルを調べたところ、周期400nmでは波長640nm付近に、周期300nmでは波長550nm付近に、周期200nmでは波長450nm付近に透過ピークを持ち、それぞれの透過光のピーク波長以下には、開口部内部の金属薄膜のフィルタリング効果によって、特徴的なピークを持たない透過スペクトルが得られた。これらの構造を図13のようにガラス基板上にアレイ状に配置することにより、RGB各色に対応した電極機能を持つカラーフィルターが得られた。
【0064】
(実施例4) ナノインプリントスタンパー
洗浄した石英基板(AQ(商品名)、旭硝子株式会社製)上に、転写層として、i線用ポジ型レジスト(THMR−ip3250(商品名)、東京応化工業株式会社製)をスピンコートした後、熱硬化アニールをして、膜厚600nmのレジスト薄膜を形成させた。レジスト薄膜上に、第一のエッチングマスク材として、30wt%の平均粒子径700nm(触媒化成工業株式会社製、真絲球(商品名)、0.7μm)のシリカ水分散液をスピンコートして、シリカ単粒子層を形成させた。CFガスを用いたRIEを12分間行って、シリカ粒子のスリミングエッチングを行い、シリカ粒子の粒子径を500nmまで減少させた。Oガスを用いたRIEによって、レジスト層をエッチングして、レジストピラーを形成させた。第二のエッチングマスク材として、乳酸エチルで希釈した有機SOG(OCD−T7(商品名)、12000−T(商品名)、いずれも東京応化工業株式会社製)をスピンコートし、レジスト膜厚550nmまで埋め込みを行った。CFガスを用いたRIEを4分間行って、SOG膜厚が300nmになるまでエッチバックすると同時に、シリカ粒子の粒子径を300nmまで減少させた。この状態でOガスを用いたRIEを行い、SOG、シリカ粒子間に出来た隙間部分のエッチングを行った。続いて、CF/CHF混合ガスを用いたドライエッチングによって、石英基板を深さ250nmまでエッチングした。硫酸と過酸化水素水を混合した溶液を用いて酸洗浄し、残ったエッチングマスクを除去した後、石英基板の純水超音波洗浄を行った。SEMを用いて加工した石英基板の形状観察を行った結果、平均周期は粒子径を反映して700nmであり、開口径500nmの第一の金属薄膜内部に、直径300nmの第二の金属薄膜が空間的に離れて形成されたパターンが形成されていた。断面観察の結果、石英基板のパターン深さは250nmであった。
【0065】
続いて、この石英基板上にNiを平坦膜換算で70nmスパッタした後、浴温53度、電流値22.7A/dmにてNi電鋳を行い、膜厚300μmまでNi電鋳膜を成長させた。石英基板からNi電鋳膜を離型した後、イソプロピルアルコールで超音波洗浄を行ってスタンパーを洗浄した。Niスタンパー表面を、原子間力顕微鏡を用いて非破壊観察を行った。その結果、石英基板に形成したパターンと逆パターンを有するNiスタンパーが作製されていることが確認された。得られたNiスタンパー表面を離型剤(デュラサーフシリーズ(商品名)、ダイキン化学工業株式会社製)で処理して、本発明によるナノインプリントスタンパーが得られた。
【0066】
(実施例5) ナノインプリントによる金属薄膜複合体の作製
20mm□の石英基板上に抵抗加熱式の真空蒸着装置を用いて、膜厚50nmのAl薄膜を形成させた。Al薄膜上に乳酸エチルで希釈したi線用ポジ型レジスト(THMR−ip3250(商品名)、東京応化工業株式会社製)をスピンコートして、膜厚150nmのレジスト薄膜を形成させた。実施例4で作製したナノインプリントスタンパーを用いて、基板温度120℃、押印圧力0.3MPaで1分間ナノインプリントした。基板温度が80℃に低下した後、押印圧力を解除し、Niスタンパーを離型した。Oガスを用いたRIEによってエッチングを行った。続いて、Cl/BCl混合ガスを用いたドライエッチングによって、Al薄膜のパターニングを行った。最後に、Oアッシングにより、レジストを除去した。SEMを用いて加工したAl薄膜の形状観察を行った結果、スタンパーと逆パターンの、平均周期700nm、開口径500nmの第一の金属薄膜内部に、直径300nmの第二の金属薄膜が空間的に離れて形成されている様子が観察された。この構造は図4に示されるような、開口部がランダムに配置された構造であった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明による金属薄膜複合体は、波長選択性に優れた光透過金属薄膜として機能し、面内での導通を得ることが出来ることから、透明電極、およびそれを用いた太陽電池等の光学デバイスに好適に用いることができる。また、LCDにおいては、カラーフィルターと電極機能の二つの効果を合わせたカラーフィルター電極として機能し、極薄膜LCDに好適に用いることができる。しかも、この金属薄膜複合体は、酸化物ではなく、金属を用いることによって既存の酸化物透明電極材料に比べて低抵抗であり、かつ希少金属が必須ではないので資源的にも有意義である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の金属薄膜の模式図。
【図2】本発明の金属薄膜の模式図。
【図3】本発明の金属薄膜の模式図。
【図4】本発明の金属薄膜の模式図。
【図5】本発明の金属薄膜のフーリエ変換画像。
【図6】本発明の金属薄膜の透過スペクトル。
【図7】本発明の金属薄膜の製造方法の工程図。
【図8】実施例1の金属薄膜のSEM像。
【図9】比較例1の金属薄膜のSEM像。
【図10】比較例2の金属薄膜のSEM像。
【図11】実施例1、比較例1、比較例2の透過スペクトル。
【図12】実施例2の金属薄膜の開口部を示す図。(A)周期400nm、(B)周期300nm、(C)周期200nm。
【図13】実施例2のカラーフィルターの模式図。
【符号の説明】
【0069】
1 基板
2 第一の金属薄膜
3 第二の金属薄膜
4 金属薄膜
5 転写層
6 第一のエッチングマスク
7 第二のエッチングマスク
100 光透過性金属薄膜複合体
101 ガラス基板
102 画素駆動用回路部
103 画素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板表面上に形成された第一および第二の金属薄膜を具備する光透過性金属薄膜複合体であって、
前記第一の金属薄膜が前記金属薄膜を貫通する複数の開口部を有し、前記開口部の開口径が透過光の最大ピーク波長以下であり、
前記第二の金属薄膜が、前記開口部内側に、前記第一の金属薄膜と空間的に離れて形成されていることを特徴とする光透過性金属薄膜複合体。
【請求項2】
前記開口部が周期的に配列している、請求項1に記載の光透過性金属薄膜複合体。
【請求項3】
前記開口部が周期的に配列してミクロドメインを形成し、複数の前記ミクロドメインが、それぞれ前記開口部の配列方向がランダムになるよう隣接して前記第一の金属薄膜を形成している、請求項1に記載の光透過性金属薄膜複合体。
【請求項4】
前記開口部の配列周期がある値を中心にした分布を有し、前記周期の分布を動径分布曲線で表した場合、その半値幅が1μm以下である、請求項1に記載の光透過性金属薄膜複合体。
【請求項5】
前記開口部の配列周期が完全に一定である、請求項4に記載の光透過性金属薄膜複合体。
【請求項6】
前記第一の金属薄膜および前記第二の金属薄膜を構成する材料が、金、銀、白金、アルミニウム、鉛、亜鉛、ニッケル、コバルト、マグネシウム、クロム、もしくはこれらの合金からなる群からそれぞれ選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の光透過性金属薄膜複合体。
【請求項7】
前記第一の金属薄膜の膜厚が10〜300nmである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の光透過性金属薄膜複合体。
【請求項8】
前記第二の金属薄膜の膜厚が10nm以上、前記第一の金属薄膜の厚さ以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の光透過性金属薄膜複合体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の光透過性金属薄膜複合体を具備したことを特徴とする、光透過性金属電極。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の光透過性金属薄膜複合体を具備したことを特徴とする、カラーフィルター。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の光透過性金属薄膜複合体を電極として用いたことを特徴とする光デバイス。
【請求項12】
基板上に金属薄膜を形成させる工程と、
前記金属薄膜上に転写層を形成させる工程と、
前記転写層上にドット状の第一のエッチングマスクを形成させる工程と、
前記第一のエッチングマスクを前記転写層に転写する工程と、
前記転写層に形成された隙間を第二のエッチングマスクで埋め込む工程と、
第一のエッチングマスク及び第二のエッチングマスク材をエッチバックして、第一のエッチングマスク及び第二のエッチングマスクを完全にエッチングせずに転写層を露出させる工程と、
第一のエッチングマスク及び第二のエッチングマスクをエッチングマスクとして転写層をエッチングして金属薄膜を露出させる工程と、
露出した金属薄膜層をエッチングする工程と、
転写層及び第一のエッチングマスク及び第二のエッチングマスクを剥離する工程と、
を有することを特徴とする金属薄膜複合体の製造方法。
【請求項13】
前記第一のエッチングマスクを前記転写層に転写する工程において、前記転写層のエッチング速度に対する、前記第一のエッチングマスクのエッチング速度の比をE01とした場合、
0<E01<1
であり、
前記第一のエッチングマスク及び第二のエッチングマスク材をエッチバックして、第一のエッチングマスク及び第二のエッチングマスクを完全にエッチングせずに転写層を露出させる工程において、前記第二のエッチングマスクのエッチング速度に対する、前記第一のエッチングマスクのエッチング速度の比をE12としたとき、
0.25<E12<4
であり、
前記第一のエッチングマスク及び第二のエッチングマスクをエッチングマスクとして転写層をエッチングして金属薄膜を露出させる工程において、前記転写層のエッチング速度に対する第二のエッチングマスクのエッチング速度の比をE02としたとき、
0<E02<1
である、請求項12に記載の金属薄膜複合体の製造方法
【請求項14】
前記転写層の材料が有機高分子材料を主成分とする材料であり、前記第一のエッチングマスクの材料及び前記第二のエッチングマスクの材料が、シリカ系材料、シリコーン系材料、またはシルセスキオキサン系材料のいずれかを主成分とする材料である、請求項12または13に記載の金属薄膜複合体の製造方法。
【請求項15】
前記転写層の材料がシリカ系材料、シリコーン系材料、またはシルセスキオキサン系材料のいずれかを主成分とする材料であり、前記第一のエッチングマスクの材料及び前記第二のエッチングマスクの材料が有機高分子材料を主成分とする材料である、請求項12または13に記載の金属薄膜複合体の製造方法。
【請求項16】
基板もしくは前記基板上に形成した基材上に、転写層を形成させる工程と、
前記転写層上にドット状の第一のエッチングマスクを形成する工程と、
前記第一のエッチングマスクを前記転写層に転写する工程と、
前記転写層に形成された隙間を第二のエッチングマスクで埋め込む工程と、
第一のエッチングマスク及び第二のエッチングマスクをエッチバックして、第一のエッチングマスク及び第二のエッチングマスクを完全にエッチングせずに転写層を露出させる工程と、
第一のエッチングマスク及び第二のエッチングマスクをエッチングマスクとして転写層をエッチングして基板、もしくは前記基材を露出させる工程と、
前記基板もしくは前記基材をエッチングする工程と、
転写層及び第一のエッチングマスク及び第二のエッチングマスクを剥離する工程と、
前記基板もしくは前記基材を原盤に用いて反転パターンを有する型を形成する工程と、
を有する製造方法により製造されたナノインプリントスタンパー。
【請求項17】
前記ナノインプリントスタンパーの材質が、Ni、石英、シリコーン樹脂、熱硬化性樹脂、または光硬化性樹脂のいずれかである、請求項16に記載のナノインプリントスタンパー。
【請求項18】
請求項16または17に記載のナノインプリントスタンパーを用いて金属薄膜を加工する工程、を有することを特徴とする光透過性金属薄膜複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−160212(P2010−160212A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−988(P2009−988)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】