説明

選針装置

【課題】 一段階で、必要な選針が可能となる選針装置を提供する。
【解決手段】 選針アクチュエータ50は、B選針バット44cおよびH選針バット44dを押圧するためのB選針爪50aおよびH選針爪50bを、それぞれ対応する数だけ備えている。選針アクチュエータ50は、電磁的にB選針バット44cおよびH選針バット44dへの押圧をそれぞれ個別に制御可能である。B選針爪50aが押圧すると、セレクタ44は針溝42c内で沈んで、B選針の状態となる。H選針爪50bが押圧すると、セレクタ44は針溝42c内でB選針より浅く沈み、H選針の状態となる。B選針爪50aおよびH選針爪50bによる押圧が行われなければ、セレクタ44は針溝42c内で沈まず、A選針の状態となる。一段階の選針で、前進バット44bを、軌跡44bA,44bH,44bBに分け、セレクトジャック43を三つのポジションに案内することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機のキャリッジに編針駆動用のカムシステムとともに搭載され、セレクタとセレクトジャックとが設けられる編針を、セレクタに作用して選択する選針装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、横編機では、多数の編針が並設されている針床に沿って、キャリッジが一方から他方に走行方向を反転することを繰返しながら、キャリッジに搭載するカムシステムで編針を選択的に駆動して編地を編成している。各編針にはセレクタがセレクトジャックと組合わされて設けられる。編針のセレクタに作用して、カムシステムによる駆動を切換え可能にするために、キャリッジには選針装置も搭載されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
図5(a)は、特許文献1の図1のように、キャリッジの地板1に搭載されるカムシステム2の例を示す。カムシステム2は、地板1の中央線1aを挟む両側で線対称となるように、二組が搭載されている。地板1には、カムシステム2とともに、選針装置3も搭載されている。一組のカムシステム2は、渡し受け両用目移しカム11、固定ニードルレイジングカム12、可動ニードルレイジングカム13、二つのステッチカム14、およびニードルガイドカム15などを、駆動用のカムとして含む。選針装置3は、後退用セレクタガイドカム16、前進用セレクタガイドカム17、セレクタレイジングカム18、および選針アクチュエータ20などを含む。カムシステム2には、さらに、タックプレッサ21、ハーフプレッサ22、および固定プレッサ23も含まれる。セレクタ浮上カム24は、選針装置3に含まれる。
【0004】
図5(b)は、図5(a)のカムシステム2および選針装置3による駆動および選針の対象となる編針30の例を示す。編針30は、特許文献1の図4と同様に、図示を省略している針床の針溝に収容されている状態の側面の構成として示す。針溝では、図の左方が上、右方が下となり、編針30は図の上方の歯口に向って前進、または歯口から後退するように、進退するように駆動される。図5(a)に示すキャリッジの地板1は、針床の上面に臨みながら、キャリッジの往復走行によって、図5(a)の左右の方向に移動する。
【0005】
編針30は、前から後に、ニードル本体31、ニードルジャック32、セレクトジャック33およびセレクタ34を含む。ニードルジャック32には、編成動作用バット32aおよび目移し動作用バット32bが設けられる。セレクトジャック33には、バット33aが設けられる。セレクタ34には、前方の後退バット34aと後方の前進バット34bとともに、その中間に、単一の選針バット34cが設けられる。ただし、選針バット34cの位置は、細線で示す複数の位置のうちの一つであり、隣接する針溝の編針30間では、位置が順次ずれるようにされている。
【0006】
カムシステム2では、渡し受け両用目移しカム11と可動ニードルレイジングカム13とのうちのいずれか一方が地板1から突出し、他方が地板1に没するように切換えられ、編目形成動作と目移し動作とが選択される。選針装置3は、キャリッジの走行中、セレクトジャック33のバット33aがA,H,Bの三つのポジションのいずれかに移行するように切換えることが可能である。Aポジションにはプレッサが設けられておらず、Hポジションにはタックプレッサ21およびハーフプレッサ22が設けられ、Bポジションには固定プレッサ23が設けられている。三つのポジションを、たとえば、編目形成動作として基本的なニット、タック、ミスに対応させれば、各編針30毎に動作の切換えが可能となり、多様な編地を編成することができる。
【0007】
図5(a)で、たとえば中央線1aの左側のカムシステム2が右方に移動しながら編針30を駆動する場合、中央線1aを挟む二つの選針アクチュエータ20を使用して二段階の選針が行われる。中央線1aの右側のセレクタ浮上カム24の作用によって針溝内を浮上し、後退用セレクタガイドカム16の後退部16aを通過後にBポジションに対応する基準位置となっているセレクタ34に対し、右側の選針アクチュエータ20が一段階目の選針作用を行う。選針爪20aが選針バット34cを押圧すると、以降はこの基準位置を維持する。セレクトジャック33は、ニードルガイドカム15の後側に設ける後退部15aでA,Hポジションのバット33aがBポジションまで後退させられ、後退部15a通過後は全てBポジションとなる。一段階目の選針で選針爪20aによる選針バット34cへの押圧がなければ、セレクタ34は、前進バット34bが前進用セレクタガイドカム17の前進部17aでHポジションに対応する位置まで前進し、セレクトジャック33をバット33aがHポジションとなるまで前進させる。二段階目の選針でも選針爪20aによる選針バット34cへの押圧がなければ、セレクタ34の前進バット34bは、セレクタレイジングカム18でさらに前進し、セレクトジャック33のバット33aをAポジションまで前進させる。二段階目の選針で選針バット34cが選針爪20aで押圧されると、前進バット34bはセレクタレイジングカム18の作用を受けず、セレクトジャック33のバット33aはHポジションを維持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2007/074944号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図5(a)に示す構成では、二組のカムシステム2間に、選針アクチュエータ20が二つ並設され、選針アクチュエータ20間にもスペースが必要となるため、キャリッジの走行方向への幅が大きくなってしまう。二組のカムシステム2の外側には、一つずつの選針アクチュエータ20を設ければよい。ただし、一つの選針アクチュエータ20で、編針30に対してキャリッジが抜ける際に一段階目を予備選針として行い、キャリッジの走行反転後に、予備選針された編針30に対し、二段階目の本選針を行う必要がある。
【0010】
本発明の目的は、一段階で、必要な選針が可能となる選針装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、横編機の針床に沿って走行するキャリッジに編針駆動用のカムシステムとともに搭載され、キャリッジの走行時に、針床に並設される針溝に収容される編針の後端側にセレクトジャックと組合せて設けるセレクタに作用して、各編針のセレクトジャックの位置を、基準位置と複数の前進位置とのうちのいずれかとなるように選択することで、カムシステムによる駆動動作を編針毎に切換え可能な選針装置において、
各編針のセレクタには、基準位置からいずれかの前進位置へ移動するための駆動を受ける前進バットと、前進位置の数に等しい数の選針バットとをそれぞれ配置しておき、
各選針バットに対応する選針爪をそれぞれ備え、編針毎に、いずれか一つの選針爪で対応する選針バットを押圧するか、またはいずれの選針バットも押圧しないかを選択可能で、選針バットの押圧時には、キャリッジ側への前進バットの高さが異なるように、セレクタを針溝内に沈める深さが選針爪に応じて異なる選針アクチュエータと、
セレクタの前進バットに作用し、キャリッジ側への前進バットの高さに応じて異なる経路でセレクタを前進させて、セレクトジャックの位置を切換える前進用カムとを、
含むことを特徴とする選針装置である。
【0012】
また本発明で、前記キャリッジには、前記選針アクチュエータの前記選針爪が前記選針バットを押圧する位相に合わせて、押圧で針溝内に沈められたセレクタの下端に当接し、セレクタを浮上させる浮上用カムが搭載され、
浮上用カムには、セレクタが針溝内に最も深く沈められる場合の深さと沈められない場合の深さとの間となる、少なくとも一つの中間の深さで、セレクタの下端に当接する平坦部が設けられており、
選針アクチュエータで、セレクタを該中間の深さよりも深く針溝内に沈める選針爪は、選針バットに対して該平坦部が設けられている範囲内では該中間の深さ以下の範囲でセレクタを針溝内に沈め、該中間の深さよりも深く沈めるために行う押圧を、該平坦部が設けられる範囲外で行う形状を有する、
ことを特徴とする。
【0013】
また本発明で、前記セレクトジャックの位置は、前記基準位置としてのBポジション、前記前進位置としてのHポジションおよびAポジションの三つのうちのいずれか一つとなるように選択され、
前記セレクタは、Bポジションの選針で針溝内に最も深く沈められ、Hポジションの選針で針溝内に沈められる深さがBポジションよりも浅い深さとなり、Aポジションの選針で針溝内に沈められない、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、選針アクチュエータの選針爪でセレクタの選針バットを、セレクトジャックが複数個の異なる前進位置と基準位置とのうちのいずれか一つとなるように、キャリッジ側への前進バットの高さを異ならせて押圧することができる。前進用カムは、前進バットのキャリッジ側への高さに応じて、セレクタを異なる位置まで前進させ、選針アクチュエータによる一段階の選針で、セレクトジャックを複数個の前進位置のいずれかに移動させるか基準位置に留めるかを切換えることができる。
【0015】
また本発明によれば、選針アクチュエータの選針爪でセレクタの選針バットを押圧し、セレクタを針溝内で中間の深さまで沈める場合に、浮上用カムに設ける平坦部で沈める深さを制限することができる。中間の深さよりも深くセレクタを沈める場合、選針バットへの押圧は浮上用カムの平坦部が設けられる範囲外で行うので、セレクタを沈める深さが中間の深さに制限されることはなく、確実に深く沈めることができる。
【0016】
また本発明によれば、Bポジション、HポジションおよびAポジションの3個のうちのいずれか一つの位置への選針を、一段階の選針で行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の一実施例としての選針装置40およびその関連部分の構成を示す、部分的なカム配置図、右側面断面図である。
【図2】図2は、図1の選針装置40の主要部分の正面断面図、ならびにセレクタ44の右側面図である。
【図3】図3は、図1に示す選針装置40を含むカム配置図である。
【図4】図4は、図1の選針装置40の動作を示す部分的な右側面断面図である。
【図5】図5は、従来から、キャリッジの地板1にカムシステム2とともに搭載される選針装置3の概略的な構成を示すカム配置図、および編針30の右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1および図2では、本発明の一実施例としての選針装置40およびその関連部分の構成について説明する。図3では、図1に示す選針装置40を含むカム配置について説明する。図4では、図1の選針装置40の動作を説明する。これらの各図の説明では、図5を含んで、先に説明してある部分と対応する部分に同一の参照符を付して重複する説明を省略する場合がある。また、説明対象の図面には記載されていない部分について、先に説明してある参照符を付して言及する場合がある。
【実施例】
【0019】
図1(a)は選針装置40の主要部分の構成を示し、図1(b)は選針装置40で選針する編針に関する構成を示す。選針装置40は、図示を省略しているキャリッジの地板41に搭載されている。選針装置40は、地板41が針床42に臨む表面に、中央線41aに対して線対称となるように配置される。針床42では、基板42aから一定の間隔でニードルプレート42bが立設され、ニードルプレート42b間に針溝42cが形成されている。針溝42c内には、基本的に、図5(b)に示す編針30と同様な編針が収容される。ただし、図1(b)では、編針の後部のセレクトジャック43およびセレクタ44のみを示す。編針の前部は、編針30のニードル本体31およびニードルジャック32と同等である。セレクタ44には、前方の後退バット44aと後方の前進バット44bとの間に、B選針バット44cおよびH選針バット44dが設けられる。B選針バット44cとH選針バット44dとは、相互に間隔をあけて、二つずつ示される位置のうちのいずれか一つの位置に設けられる。
【0020】
選針アクチュエータ50は、B選針バット44cおよびH選針バット44dを押圧するためのB選針爪50aおよびH選針爪50bを、それぞれ対応する数だけ備えている。各B選針爪50aおよびH選針爪50bは、B選針バット44cおよびH選針バット44dへの押圧を、それぞれ電磁的に行い、個別に制御可能である。
【0021】
図1(b)のように、セレクタ44は、Bポジションに相当する基準位置まで後退していると、前方のワイヤ45を支点として、前進バット44bなどを備える後方部分が針溝42c内で浮沈する揺動変位が可能となる。B選針爪50aがB選針バット44cを押圧すると、セレクタ44は針溝42c内に最も深く沈むように揺動変位し、B選針の状態となる。H選針爪50bがH選針バット44dを押圧すると、セレクタ44は針溝42c内に、B選針よりも浅く沈むH選針の状態となる。B選針バット44cおよびH選針バット44dへのB選針爪50aおよびH選針爪50bによる押圧が行われなければ、セレクタ44は針溝42c内へは沈まないで、A選針の状態となる。選針アクチュエータ50は、セレクタ44を針溝42cに深く沈めるB選針爪50aを支点側に有するので、前進バット44bの高さを大きく変化させることができる。
【0022】
なお、セレクタ44は、針溝42cに対する摺動抵抗が比較的大きくなるようにしておき、揺動変位や進退の状態を維持させるようにしておく。また、セレクタは、複数の選針バットに対して、揺動支点を後方、キャリッジ側に突出する高さが変化する前進カムを前方に配置してもよい。選針アクチュエータおよび前進用セレクタガイドカムの配置は、選針バットおよび前進バットに合わせて対応させればよい。
【0023】
選針装置40は、A選針、H選針またはB選針で、セレクトジャック43のバット43aの位置を、Aポジション、HポジションまたはBポジションのいずれかに切換える点で、図5の選針装置3と同様である。ただし、選針装置40は、選針アクチュエータ50による一段階のみの選針で、三つのポジションの切換えを行うことができる。選針装置40の中央線41a付近の位相には、浮上用カムであるセレクタ浮上カム54の頂部54aが設けられている。この位相では、B選針爪50aおよびH選針爪50bがB選針バット44cおよびH選針バット44dをそれぞれ押圧する。セレクタ浮上カム54は、ホルダ41bによって、針溝42cの後端側から内部に進出する位置で保持され、セレクタ44の下端後部を針溝42cの下方から押上げて、セレクタ44を針溝42c内で浮上させる。
【0024】
たとえば左行する場合は、中央線41a付近で、ニードルガイドカム55の後側の後退部55aを通過後、セレクトジャック43のバット43aは全てBポジションとなり、後退用セレクタガイドカム56の後退部56aを通過後、セレクタ44の後退バット44aがBポジションに対応する位置まで後退させられる。
【0025】
図2(a)および図2(b)に示すように、セレクタ浮上カム54には、頂部54aの両側に、H選針の状態のセレクタ44の下端後部に当接する高さで、平坦部54bが設けられている。図2(b)に示すように、H選針バット44dをH選針爪50bで押圧するときには、平坦部54bでセレクタ44が沈む深さが制限される。図2(a)に示すように、B選針爪50aは、丈50aLがH選針爪50bの丈50bLよりも高くなる部分が平坦部54bの範囲外となるような形状を有する。この形状のB選針爪50aは、平坦部54bの範囲内でセレクタ44をH選針の中間深さまで沈め、平坦部54bの範囲外でB選針の最大深さまで沈める。
【0026】
図1(a)に示すように、選針アクチュエータ50よりも後方には、セレクタ44の前進バット44bに作用して、セレクタ44を前進させる前進用カムとしての前進用セレクタガイドカム57が設けられている。前進用セレクタガイドカム57には、選針アクチュエータ50のB選針爪50aまたはH選針爪50bによる選針結果を反映させるために、A用カム面57aおよびH用カム面57bが設けられている。A用カム面57aとH用カム面57bとの間は、中間高さ面57cとなっている。A用カム面57aは地板41の表面から中間高さ面57cまでの側面に形成される。H用カム面57bは、中間高さ面57cと前進用セレクタガイドカム57の表面との段差面に形成される。前進用セレクタガイドカム57には、A用カム面57a、H用カム面57b、および中間高さ面57cが形成されている領域に続いて、地板41の表面まで高さが低下する傾斜面57dが設けられている。
【0027】
選針アクチュエータ50でA選針の状態となっているセレクタ44は、前進バット44bがキャリッジ側に高く突出しているので、A用カム面57aに当接して、軌跡44bAに沿って前進する。この結果、後退バット44aは、軌跡44aAに沿って前進し、セレクトジャック43のバット43aを軌跡43aAに沿って前進させ、Aポジションに移動させる。
【0028】
選針アクチュエータ50でH選針の状態となっているセレクタ44は、針溝42cに中間の深さまで沈む。前進バット44bは、キャリッジ側へ中間の高さまで突出するので、H用カム面57bに当接して、軌跡44bHに沿って前進する。この結果、後退バット44aは、軌跡44aHに沿って前進し、セレクトジャック43のバット43aを軌跡43aHに沿って前進させ、Hポジションに移動させる。
【0029】
選針アクチュエータ50でB選針の状態となっているセレクタ44は、針溝42c内に中間の深さより深く沈む。前進バット44bは、H用カム面57bに当接する高さに達しないで、軌跡44bBに沿ってH用カム面57bの作用を受けずに通過してしまう。この結果、セレクタ44およびセレクトジャック43は後退用セレクタガイドカム56の後退部56a、およびニードルガイドカム55の後側の後退部55aで、それぞれ後退させられた位置を保つ軌跡44bB,44aB,43aBに沿い、バット43aはBポジションに留まる。なお、前進用セレクタガイドカム57の傾斜面57d側から相対的に接近するセレクタ44は、前進バット43bが傾斜面57dを通って、中央線41a付近まで達することができる。図5のカム配置では、各選針アクチュエータ20毎に設けられるセレクタレイジングカム18に対し、キャリッジの走行方向に応じて、先行側を没にするために、出没可能であることを必要とする。しかしながら、前進用セレクタガイドカム57は出没させる必要がない。
【0030】
図2(c)および図2(d)は、二種類のセレクタ44について、B選針バット44cおよびH選針バット44dの位置の違いを示す。編針の配置のピッチが狭い細ゲージの場合は、セレクタ44の種類を多くして、種類の数に応じて、B選針バット44cおよびH選針バット44dとともに、B選針爪50aおよびH選針爪50bの数も増やすようにすればよい。
【0031】
なお、セレクタ44の前進バット44bは、セレクタ44の後端側に設けられ、複数のB選針バット44cおよびH選針バット44dは、前進バット44bよりも前方に配列される。揺動支点となるワイヤ45は、図1(b)に示すように、B選針バット44cよりも前方となる。B選針バット44cの背の高さよりも、揺動支点から遠いH選針バット44dの背の高さを高くすれば、B選針でセレクタ44が針溝42cに沈む状態で、B選針バット44cおよびH選針バット44dの高さを同等にすることができる。
【0032】
図3は、図1に示す選針装置40を含むカム配置を示す。地板41には、中央線41aの両側にそれぞれカムシステム72が設けられる。選針装置40は、中央線41aに関して左右対称の構成を有する。地板41の左右に設ける選針装置60,70では、後退用セレクタガイドカム66,76と、前進用セレクタガイドカム67,77とに、後退用セレクタガイドカム56および前進用セレクタガイドカム57の半分とそれぞれ同等のカムを設ける。すなわち、選針装置40の右側半分が左側の選針装置60と同等であり、選針装置40の左側半分が右側の選針装置70と同等であり、それぞれ三つのポジションへの選針が可能である。選針装置40での三つのポジションへの選針が一段階で可能となるので、カムシステム72の間隔を狭くして、キャリッジのコンパクト化を図ることができる。キャリッジの走行方向に応じて先行側となる選針装置60,70では、一段階で三つのポジションへの選針が可能となるので、キャリッジが抜ける際の予備選針が不要となる。
【0033】
図4は、図1の選針装置40の動作を示す。図4(a)は、選針直前の状態を示す。セレクタ44の後端は、セレクタ浮上カム54の頂部54aで押上げられている。図4(b)、(c)、(d)は、A選針、H選針、B選針の状態をそれぞれ示す。A選針およびH選針では、セレクタ44の前進バット44bが前進用セレクタガイドカム57のA用カム面57aおよびH用カム面57bでそれぞれ前進させられる。B選針では、前進用セレクタガイドカム57はセレクタ44の前進バット44bを前進させない。
【0034】
なお、選針装置40,60,70では、セレクトジャック43をAポジションおよびHポジションの二種類の前進位置とBポジションの基準位置とに切換えるために、セレクタ44に二種類の選針バット、選針アクチュエータ50に二種類の選針爪、前進用セレクタガイドカム57,67,77に二種類のカム面を設けている。セレクタ44に設ける選針バットの種類を増やし、対応して選針アクチュエータの選針爪の種類、および前進用セレクタガイドカムのカム面の種類をそれぞれ増やせば、三種類以上の前進位置を切換えることも可能になる。セレクタ44を針溝42cに沈める中間の深さも二種類以上になるけれども、セレクタ浮上カム54に設ける平坦部54bは、いずかの中間の深さに対応して一つだけ設けるようにしてもよい。また、複数の平坦部を設けることもできる。選針爪で選針バットを平坦部よりも深く沈める部分は、平坦部を設ける範囲外にしておけばよい。
【符号の説明】
【0035】
40,60,70 選針装置
42 針床
42c 針溝
43 セレクトジャック
43a バット
44 セレクタ
44a 後退バット
44b 前進バット
44c B選針バット
44d H選針バット
50 選針アクチュエータ
50a B選針爪
50b H選針爪
54 セレクタ浮上カム
54b 平坦部
57 前進用セレクタガイドカム
57a A用カム面
57b H用カム面
57c 中間高さ面
72 カムシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横編機の針床に沿って走行するキャリッジに編針駆動用のカムシステムとともに搭載され、キャリッジの走行時に、針床に並設される針溝に収容される編針の後端側にセレクトジャックと組合せて設けるセレクタに作用して、各編針のセレクトジャックの位置を、基準位置と複数の前進位置とのうちのいずれかとなるように選択することで、カムシステムによる駆動動作を編針毎に切換え可能な選針装置において、
各編針のセレクタには、基準位置からいずれかの前進位置へ移動するための駆動を受ける前進バットと、前進位置の数に等しい数の選針バットとをそれぞれ配置しておき、
各選針バットに対応する選針爪をそれぞれ備え、編針毎に、いずれか一つの選針爪で対応する選針バットを押圧するか、またはいずれの選針バットも押圧しないかを選択可能で、選針バットの押圧時には、キャリッジ側への前進バットの高さが異なるように、セレクタを針溝内に沈める深さが選針爪に応じて異なる選針アクチュエータと、
セレクタの前進バットに作用し、キャリッジ側への前進バットの高さに応じて異なる経路でセレクタを前進させて、セレクトジャックの位置を切換える前進用カムとを、
含むことを特徴とする選針装置。
【請求項2】
前記キャリッジには、前記選針アクチュエータの前記選針爪が前記選針バットを押圧する位相に合わせて、押圧で針溝内に沈められたセレクタの下端に当接し、セレクタを浮上させる浮上用カムが搭載され、
浮上用カムには、セレクタが針溝内に最も深く沈められる場合の深さと沈められない場合の深さとの間となる、少なくとも一つの中間の深さで、セレクタの下端に当接する平坦部が設けられており、
選針アクチュエータで、セレクタを該中間の深さよりも深く針溝内に沈める選針爪は、選針バットに対して該平坦部が設けられている範囲内では該中間の深さ以下の範囲でセレクタを針溝内に沈め、該中間の深さよりも深く沈めるために行う押圧を、該平坦部が設けられる範囲外で行う形状を有する、
ことを特徴とする請求項1記載の選針装置。
【請求項3】
前記セレクトジャックの位置は、前記基準位置としてのBポジション、前記前進位置としてのHポジションおよびAポジションの三つのうちのいずれか一つとなるように選択され、
前記セレクタは、Bポジションの選針で針溝内に最も深く沈められ、Hポジションの選針で針溝内に沈められる深さがBポジションよりも浅い深さとなり、Aポジションの選針で針溝内に沈められない、
ことを特徴とする請求項1または2記載の選針装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−82531(P2012−82531A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226860(P2010−226860)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】