説明

遺伝子フィンガープリンティング及び同定方法

本開示は、生物の特徴付け及び同定のための分子フィンガープリンティング方法を提供する。より詳細には、一局面において、本発明はサンプル中の生物を同定する方法を提供し、該方法は:(a) 生物を含むサンプルを提供すること[該生物は少なくとも1つの核酸を含む];(b) 該サンプル又は該サンプル由来の少なくとも1つの核酸を、少なくとも1つの標識されたオリゴヌクレオチドプライマーを含む増幅ミックスと混合すること;(c) 該少なくとも1つの標識されたオリゴヌクレオチドプライマーを使用するヌクレオチド増幅技術を使用して、該生物の少なくとも1つの核酸から少なくとも1つの標識された増幅生成物を生成すること;(d) 該少なくとも1つの標識された増幅生成物をDNA配列決定反応の生成物と混合して分離ミックスを作製すること;及び(e) オリゴヌクレオチド長に基づいて蛍光DNA配列決定機器で該分離ミックスを分離して、該生物についての配列に埋め込まれたフィンガープリントパターンを生成することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国仮出願第61/235,999号(2009年8月21日出願、これは参照により全体として本明細書に加入される)の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は分子生物学の分野に関し、より詳細には、生物の特徴付け及び同定のための分子フィンガープリンティングの方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
微生物学の分野の中心は、微生物を属、種又は血清型のレベルで確実に同定する能力である。正確な同定は、研究所における必須のツールであるだけでなく、食料品の加工、農産物の製造、及び地下水のような環境媒体のモニタリングにおける微生物混入の管理において重要な役割を果たす。病原性微生物の検出及び管理に最も関心が持たれる。典型的には、病原体同定は表現形の特徴、例えば増殖又は運動性の特徴、並びに免疫学的及び血清学的な特徴について識別するための方法に依存する。選択的増殖手順及び免疫学的方法は、細菌同定に一般的に好まれる伝統的方法であり、そしてこれらは特定の属内の多数の種の推定検出には有効であり得る。しかし、これらの方法は時間を消費し、そして誤りやすい。選択的増殖法は選択培地での培養及び継代培養、続いて経験を積んだ研究者による主観的分析を必要とする。免疫学的検出(例えばELISA)はより迅速で特異的であるが、これは生物の相当量の集団及び関連する抗原の単離を必要とする。これらの理由から、核酸配列に基づく細菌性病原体の検出に関心が向けられている。
【0004】
核酸多型性は、それらの遺伝子構成(genetic make up)における差異に基づいて種、血清型、系統、変種、品種又は個体を同定するための手段を提供する。核酸多型はヌクレオチドの置換、挿入、又は欠失により引き起こされ得る。遺伝子多型を決定する能力は、ゲノムマッピング、遺伝的連鎖研究、医療診断、疫学研究、法医学、及び農芸のような分野で幅広い応用を有する。DNAの相同セグメントを比較して多型が存在するか否かを決定するためのいくつかの方法が開発されている。
【0005】
遺伝子多型を決定するための1つの方法は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりDNAを増幅するために任意の配列のプライマーを使用する(非特許文献1;特許文献1、参照により本明細書に加入される)。プライマーは特定の配列を増幅するように設計されていないので、この技術は多型DNAのランダム増幅(RAPD)又は任意プライムPCR(APPCR)と呼ばれる。使用されるプライマーは少なくとも7ヌクレオチド長をである。適切な条件下で、単一のヌクレオチドほどの小さな差異がテンプレートDNAへのプライマーの結合に影響を及ぼし得、その結果、産生された増幅生成物の分布における差異がゲノム間で生じる。
【0006】
遺伝子多型を同定及びマッピングするための別の方法は増幅断片長多型と呼ばれている(AFLP;特許文献2、参照により本明細書に加入される)。AFLPは制限酵素の使用をPCRの使用と組み合わせる。手短には、単一又は一対の制限酵素を用いてゲノムDNAの消化により制限フラグメントを産生させる。一対の酵素が使用される場合、制限酵素の一方が「頻繁なカッター(frequent cutter)」であり、残りの酵素が「稀なカッター(rare cutter)」となるように酵素はゲノム中の制限部位の頻度の差異に基づいて対にされる。2つの酵素の使用は単一又は二重の消化フラグメン
トの産生を生じる。次に、10〜30塩基の二本鎖合成オリゴヌクレオチドアダプタが生成したフラグメント上に連結される。次いでプライマーをアダプタ及び制限部位の配列に基づいて設計する。制限酵素の対が使用される場合、両方の酵素の作用に起因して生じたフラグメント(二重切断フラグメント)のみが増幅されるように、制限部位に及ぶヌクレオチドをプライマーの3’末端に加える。この方法を使用して、制限部位に又は制限部位の近傍に存在する多型はプライマーの結合に影響を及ぼし、従って増幅生成物の分布に影響を及ぼす。さらに、プライマーに隣接する領域におけるヌクレオチド配列の差異も検出される。AFLPは複数のフラグメントの同時共増幅(co-amplification)を可能にする。
【0007】
さらなる方法は直接的線形解析(Direct Linear Analysis)(DLA)であり、これは配列特異的タグと結合した個々のDNA分子を分析する(非特許文献2;特許文献3を参照のこと、参照により本明細書に加入される)。この方法はDNA中の反復情報を同定することを意図され、これは少なくとも1つのステーションを通して移動され、そこでDNAの標識された単位がステーションと相互作用してDNA依存性インパルスを生じる。伸長した対象物(extended objects)は類似しているか又は好ましくは同一であり、そして類似しているか又は好ましくは同一の、標識された単位のパターンを含み、相互作用の特徴的なシグナチャーはそれぞれの伸長した対象物が1つ又は複数のステーションを通って移動するにつれて繰り返される。この反復情報は自己相関関数を用いて全体の未加工データから抽出され、次いでDNAについての構造情報を決定するために使用される。
【0008】
別の方法は反復要素の増幅(REP-PCR)である。この技術は、多様な細菌種のゲノム全体にわたって存在する反復DNA配列のファミリーに基づくものである(Versalovicらによる総説、非特許文献3)。反復性遺伝子外パリンドローム(Repetitive extragenic palindromic)(REP)配列は細菌ゲノムの構築において重要な役割を果たすと考えられる。ゲノム構築は選択により形作られると考えられており、そして密接に関連する細菌系統のゲノム内のこれらの要素の異なった分散が系統間を区別するために使用され得る(例えば非特許文献4を参照のこと)。REP-PCRは、これらの反復配列に相補的なオリゴヌクレオチドプライマーを、それらの間にある可変的なサイズのDNAフラグメントを増幅するために利用する。得られた生成物を電気泳動により分離して各系統に対するDNA「フィンガープリント」を確立する。
【0009】
これらのフィンガープリンティングシステムの出力データは一般的に、バンドサイズを割り当てることにより測定されるが、これらの割り当ては、比較のために使用されるサイズ分類ラダー(sizing ladder)に依存していくらか不正確である。さらに、出力データを研究所間で比較することは困難であり得、しばしばデータを扱うために高価な専用のソフトウェアプログラム(例えばBioNumerics,Applied Maths,Austin,TX)の使用に依存する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,126,239号
【特許文献2】米国特許第5,874,215号
【特許文献3】米国特許第6,263,286号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Williams et al., Nucleic Acids Res. 18:6531-35 (1990)
【非特許文献2】Chan et al., Genome Res. 14:1137-46 (2004)
【非特許文献3】Versalovic et al., Methods Mol. Cell. Biol. 5:25-40 (1994)
【非特許文献4】Louws et al., Appl. Environ. Micro. 60:2286-95 (1994)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の要旨
出願人らは、サイズの小さな差が分解可能であるようにいずれかの増幅ベースのフィンガープリント法からのフィンガープリントバンドをDNA配列内に埋め込むことにより上述の問題を解決した。フィンガープリント出力はテキストファイル形式で提供され、次いでこれを強力なフリーウェアのバイオインフォマティクスツールにより解析することができる。
【0013】
一局面は、サンプル中の生物を同定する方法に関するものであり、該方法は:(a)生物を含むサンプルを提供すること[該生物は少なくとも1つの核酸を含む];(b)該サンプル又は該サンプル由来の少なくとも1つの核酸を、少なくとも1つの標識されたオリゴヌクレオチドプライマーを含む増幅ミックスと混合すること;(c)該少なくとも1つの標識されたオリゴヌクレオチドプライマーを使用するヌクレオチド増幅技術を使用して、該生物の少なくとも1つの核酸から少なくとも1つの標識された増幅生成物を生成すること;(d)該少なくとも1つの標識された増幅生成物をDNA配列決定反応の生成物と混合して分離ミックスを作製すること;及び(e)オリゴヌクレオチド長に基づいて蛍光DNA配列決定機器で該分離ミックスを分離して、該生物についての配列に埋め込まれたフィンガープリントパターンを生成することを含む。
【0014】
いくつかの局面において、本方法は、工程(e)の後に:(f)該生物についての配列に埋め込まれたフィンガープリントパターンを、既知の生物についての配列に埋め込まれたフィンガープリントパターンを含むデータベースと比較すること;及び(g)該データベースとの比較の相関関係(function)で該生物を同定することのさらなる工程を含む。
【0015】
別の局面は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、又は配列番号5に示される核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドに関するものである。
【0016】
他の目的及び利点は、本明細書以下の詳細な説明を参照すれば当業者に明らかとなるだろう。
【0017】
配列の概要
配列番号1〜4及び25は、本発明において有用なオリゴヌクレオチドプライマーのヌクレオチド配列である。各プライマーは単独で、又は1つ若しくはそれ以上の他のプライマーとともに使用され得る。例えば、配列番号1〜4はFB1D1プライマーミックスを生成するために一緒に使用され得、配列番号25はFP5プライマーとして単独で使用され得る。
【0018】
配列番号5〜7、13、及び14は、FB1D1プライマーセットを使用して得られたネガティブコントロールPCR反応を用いた本発明の方法の実施によって生じたヌクレオチド配列である。
【0019】
配列番号8〜12は、FB1D1プライマーセット及び出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)DNAを使用して得られたPCR反応を用いた本発明の方法の実行によって生じたヌクレオチド配列である。
【0020】
配列番号15〜19は、FB1D1プライマーセット及びサルモネラ菌(Salmonella enterica)DNAを使用して得られたPCR反応を用いた本発明の方法の実行によって生じたヌクレオチド配列である。
【0021】
配列番号20〜24は、FB1D1プライマーセット及び黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)DNAを使用して得られたPCR反応を用いた本発明の方法の実行によって生じたヌクレオチド配列である。
【0022】
配列番号26〜30は、FP5プライマーを使用して得られたネガティブコントロールPCR反応を用いた本発明の方法の実施によって生じたヌクレオチド配列である。
【0023】
配列番号31〜35は、FP5プライマー及び黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)DNAを使用して得られたPCR反応を用いた本発明の方法の実施によって生じたヌクレオチド配列である。
【0024】
配列番号36〜40は、FP5プライマー及びサルモネラ菌(Salmonella enterica)DNAを使用して得られたPCR反応を用いた本発明の方法の実施によって生じたヌクレオチド配列である。
【0025】
配列番号41〜45は、FP5プライマー及び出芽酵母(Saccharomyces
cerevisiae)DNAを使用して得られたPCR反応を用いた本発明の方法の実施によって生じたヌクレオチド配列である。
【0026】
配列番号46は、配列番号21〜23の配列比較により得られたコンセンサスヌクレオチド配列である。
【0027】
配列番号47は、配列番号33〜35の配列比較により得られたコンセンサスヌクレオチド配列である。
【0028】
配列番号48は、配列番号9〜11の配列比較により得られたコンセンサスヌクレオチド配列である。
【0029】
配列番号49は、配列番号41、43、及び45の配列比較により得られたコンセンサスヌクレオチド配列である。
【0030】
配列番号50は、配列番号17〜19の配列比較により得られたコンセンサスヌクレオチド配列である。
【0031】
配列番号51は、配列番号36〜38の配列比較により得られたコンセンサスヌクレオチド配列である。
【0032】
これらの配列は、37C.F.R.§§1.821-1.825(「ヌクレオチド配列及び/又はアミノ酸配列の開示を含む特許出願の要件-配列規則」)に従っており、そして世界知的所有権機関(WIPO)標準ST.25(1998)並びにEPO及びPCTの配列リスト要件(規則5.2及び49.5(a-bis)、及び実施細則の細則208号及び付属書C)に従う。ヌクレオチド配列及びアミノ酸配列データに使用される記号及
び形式は37C.F.R.§1.822に記載される規則に従う。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1A】実施例1のプライマーミックスFB1D1からの全ての配列読み込みのClustal W整列から生じた系統樹を示す。
【図1B】実施例1の単一プライマーFP5からの全ての配列読み込みのClustal W整列から生じた系統樹を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
詳細な説明
出願人らは、本開示における全ての引用される参考文献の内容全体を具体的に組み込む。さらに、量、濃度又は他の値若しくはパラメーターが範囲、好ましい範囲、又は最大の好ましい値及び最小の好ましい値のリストのいずれかとして示される場合、これは、範囲が別々に開示されているかどうかに関わらず、いずれかの範囲の上限又は最大の好ましい値といずれかの範囲の下限又は最小の好ましい値との対から形成される全ての範囲を具体的に開示すると理解されるべきである。数値の範囲が本明細書に記載される場合、別の記載がなければ、その範囲はその終点、並びにその範囲内の全ての整数及び分数を含むことを意図される。本発明の範囲が範囲を規定する場合に記載される特定の値に限定されるということは意図されない。
【0035】
用語「含む(comprising)」は、用語「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」及び「〜からなる(consisting
of)」により包含される具体的表現を含むことを意図される。同様に、用語「本質的に〜からなる」は、用語「〜からなる」により包含される具体的表現を含むことを意図される。
【0036】
本明細書で使用される用語「オリゴヌクレオチド」は、2つ又はそれ以上のデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドから構成される分子を指す。
【0037】
本明細書で使用される用語「プライマー」は、精製された制限消化物におけるような天然に存在するものであっても合成的に製造されたものであっても、核酸鎖に対して相補的であるプライマー伸長生成物の合成が誘導される条件下、すなわちヌクレオチド及び重合のための薬剤(例えばDNAポリメラーゼ)の存在下でかつ適切な温度及びpHに置かれた場合に合成の開始点として作用することができる、任意の配列のオリゴヌクレオチドを指す。プライマーは、プライマー又は配列の他のコピーと塩基対合することにより「ヘアピン」構造を形成する二次構造を形成しない配列であることが好ましい。配列は、コンピューターにより都合よく生成することができるか、遺伝子バンクから無作為に選択することができる。プライマーは好ましくは増幅における最大の効率のために一本鎖であるが、あるいは二本鎖であってもよい。二本鎖の場合、プライマーは伸長生成物を製造するために使用される前にその鎖を分離するために最初に処理される。好ましくは、プライマーはオリゴデオキシリボヌクレオチドである。
【0038】
本開示において、増幅ベースのフィンガープリント法に使用されるプライマーを蛍光(fluor)で標識する。増幅によるフィンガープリント生成物の生成後に、フィンガープリントアンプリコンを以前に行ったDNA配列決定反応の生成物と混合する。次いで混合した生成物を、DNA配列を生じさせるために蛍光DNA配列決定機器から流す。配列出力は、フィンガープリント生成物がサイズの似ているDNA配列決定フラグメントと共に移動している位置において摂動を受ける。これらの摂動は、機器からの変更されたDNA配列出力を生じる。これらの変更は再現性があり、そして出力配列の比較を使用して、そのDNAがフィンガープリンティング方法の影響を受けた生物を特徴付け及び/又は同定することができる。
【0039】
本明細書に記載される方法により分析しようとする核酸はDNAでもRNAでもよく、そしてDNA又はRNAは二本鎖でも一本鎖でもよい。いずれかの供給源の核酸を精製された形態又は未精製の形態で出発核酸として利用することができる。例えば核酸は、ウイルス、細菌、及びより高等な生物、例えば植物、動物、及び微生物を含むいずれかの供給源由来の天然のDNA又はRNA由来であっても、クローン化されたDNA又はRNAであってもよい。さらに、核酸は核酸全体を構成していても、核酸の複雑な混合物の一部であってもよい。好ましくは、核酸はデオキシリボ核酸である。
【0040】
本明細書に記載される方法は、食物及び同類製品、ワクチン及びウイルス又は細菌に感染したミルク、全血、血清、バフィコート、尿、糞便、脳脊髄液、精液、唾液、組織、並びに細胞培養物(例えば哺乳動物細胞培養物及び細菌培養物)を含む任意の核酸含有出発物質に適用可能である。本方法は、核酸を回収するための別の方法の比較的純粋な入力材料、例えばPCRの生成物又はさらに精製しようとする生成物にも適用可能である。
【0041】
増幅された核酸生成物を生成する工程は、例えばRAPD PCR、AFLP PCR、REP-PCR、又はDLAにより行われ得る。例としてRAPDを使用して、伸長反応において使用される核酸ポリメラーゼの選択は、テンプレートの性質に依存する。DNAテンプレート鎖について、適切な市販のDNAポリメラーゼとしては、好熱性細菌サームス・エクアティカス(Thermus aquaticus)(Taqポリメラーゼ)又は他の耐熱性ポリメラーゼから得られるDNAポリメラーゼが挙げられる。このDNAポリメラーゼ及び他のDNAポリメラーゼの構造変異体及び改変された形態もまた本発明の方法において有用であると期待されるだろう。RNAテンプレートについては、逆転写酵素も有用であると期待されるDNAポリメラーゼの一例である。ヌクレオシド三リン酸基質(天然又はアナログ)の存在下で、ポリメラーゼはプライマー長を3’方向に伸長する。伸長生成物の配列は、一般的にはテンプレート鎖の対応する配列に対して相補的である。
【0042】
ヌクレオシド三リン酸基質は、PCR Protocols、A Guide to Methods and Applications,M.A.Innis,D.H.Gelfand,J.-J.Sninsky及びT.J.White編、pp.3-12,Academic Press(1989)(これは参照により加入される)、並びに米国特許第4,683,195号及び同第4,683,202号(両方とも参照により加入される)に記載されるように使用される。基質は種々の実験目的のために当業者に公知の方法で改変され得る。例としては、天然ヌクレオシド三リン酸基質の少なくとも1つを、米国特許第4,879,214号(参照により加入される)において教示される移動度シフト(mobility-shifting)アナログで置き換えてもよい。
【0043】
具体的には、Mullisへの米国特許第4,683,202号は、核酸又はそれらの混合物中に含有されるいずれかの所望の特定の核酸配列を増幅するための方法に関する。Mullisの方法は、核酸の別々の相補鎖をモル過剰の2つのオリゴヌクレオチドプライマーで処理すること、及びこれらプライマーを伸長して相補的プライマー伸長生成物を形成することを含み、これらは所望の核酸配列を合成するためのテンプレートして作用する。Mullisのプライマーは、増幅しようとするそれぞれの特定の配列の異なる鎖に対して十分相補的であるように設計される。反応工程は段階的に行われても同時に行われてもよく、そして望まれるだけ頻繁に繰り返してもよい。
【0044】
一実施態様において、7つのヌクレオチドより長い少なくとも1つのプライマーが提供される。プライマーは当業者に公知の標準的な技術により合成することができる。いくつ
かの実施態様において、9〜10ヌクレオチド長の少なくとも1つのプライマーが使用される。1つのプライマーが都合よく使用される。少なくとも1つのプライマーが好ましくはフルオロフォアで標識され、このフルオロフォアは、例えばdR6G、dR110、dTAMRA、dROX、VIC、NED、PET、LIZ、6-FAM、TAMRA、DyeMer488/615、DyeMer488/630、PE-TexasRed、ECD、Alexa Fluor 610RPE、FITC、Oregon Green 488、又はQdot525であり得る。他のフルオロフォアも使用され得る。
【0045】
いくつかの実施態様において、核酸を本明細書に記載されるような少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマーと接触させる。伸長生成物を、そこで伸長生成物が合成された相補的でランダムな核酸から解離させて一本鎖分子を生成させ;そして、テンプレートとして産生された一本鎖(すなわち、解離した伸長生成物)を使用して増幅伸長生成物が合成されるように、例えばPCR Protocols及び米国特許第4,683,202号に開示される条件下で上記からのプライマーと一本鎖伸長生成物を接触させることにより、ランダムな核酸セグメントを増幅する。
【0046】
次いで混合された生成物を蛍光DNA配列決定機器から流してDNA配列を生成させる。配列出力は、フィンガープリント生成物がサイズの似ているDNA配列決定フラグメントと共に移動している位置において摂動を受ける。これらの摂動は、機器からの変更されたDNA配列出力を生じる。これらの変更は再現性があり、そして出力配列の比較を使用して、そのDNAがフィンガープリンティング方法の影響を受けた生物を強力なフリーウェアの配列解析ツール(例えばBLAST及びClustal W)を使用して特徴付け及び/又は同定することができる。
【0047】
本明細書に開示される方法を使用して核酸「フィンガープリント」を構築することができる。このようなフィンガープリントは個々の生物に特異的であり、そして個々の生物の同定又は識別の問題に適用され得る。ちょうどJeffreys,A.J.,「Individual-Specific ‘Fingerprints’ of Human DNA」, Nature 316:76-79(1985)(参照により本明細書に加入される)においてフィンガープリントを作製するために多型が使用されるように、このようなフィンガープリントは、異なるプライマーにより生成された複数の多型を使用して構築され、そして本発明により検出されるだろう。すなわち、ゲノムを多型の欠如の存在について比較する。
【0048】
いくつかの実施態様において、増幅生成物を生成する工程及び増幅生成物をオリゴヌクレオチドサイズラダー(size ladder)と混合した後に増幅プロフィールを生成させる工程は、最初の実施により生成されたものと比較して異なる増幅プロフィールを生じさせるように、この過程を経る最初の実施の条件と比較して異なるストリンジェンシー条件で繰り返すことができる。複数回の反復は当然のことながら可能である。
【実施例】
【0049】
本発明は以下の実施例においてさらに明確にされる。当然のことながら、これらの実施例は、本発明の好ましい実施態様を示しているが、例としてのみ示される。上記の考察及びこれらの実施例から、当業者は本発明の好ましい特徴を確認することができ、そしてその精神及び範囲から逸脱することなく、本発明を種々の用途及び条件に適合させるために種々の変更及び改変を行うことができる。
【0050】
実施例1
本発明の手段により、標識された増幅ベースのフィンガープリンティング生成物を検出し、そしてDNA配列内に再現性良く配置することができるという仮説を、多型DNAの
ランダム増幅(RAPD)フィンガープリンティングを使用し、フィンガープリンティング生成物を生成させて試験した。5’末端をFAM蛍光(fluor)で標識された4つのプライマーの混合物(集合的にプライマーミックスFB1D1として知られる)及び単一プライマーFP5を使用してPCRを行った(表1を参照のこと)。
【0051】
【表1】

【0052】
プライマーミックスFB1D1について、各プライマーは、30μlの総反応体積でポリメラーゼ連鎖反応を行うために必要な他の成分(ヌクレオチド、ポリメラーゼ、緩衝液)の存在下で0.25μMの濃度で反応中に存在した;単一プライマーFP5については、ポリメラーゼ連鎖反応に必要な他の成分の存在下で、30μlの総反応体積にて0.1μMの濃度で反応中に存在した。
【0053】
反応あたり30ngの濃度で3つの様々な生物(1つの酵母、1つのグラム陽性菌及び1つのグラム陰性菌(表2))からの精製された微生物DNAを加えて、又は加えずに(ネガティブコントロール)、いずれかで反応を行った。ネガティブコントロール及び微生物DNAの各々についてそれぞれ5回反復して実行した。
【0054】
【表2】

【0055】
2分95℃で保持、続いて95℃で15秒、40℃で5分、そして70℃で1分を10サイクル、続いて95℃で15秒及び70℃で3分を30サイクルを使用してPCRを行った。
【0056】
PCR反応生成物をキャピラリー電気泳動配列装置にロードする前にDNA配列反応のために必要に応じて浄化し、そのときにPCR生成物を15μl体積のH2O中に回収した。
【0057】
次いで2μlアリコートのPCR生成物を脱イオン水20μlに加えた。市販の配列標準(hsp 60,Applied Biosystems,Foster City,CA)を以下のように準備した。1μlアリコートの配列標準をホルムアミド9μl(HiDi,Applied Biosystems)と混合した。次いで希釈したPCR生成物1.5μlを配列標準/ホルムアミド溶液10μlに加えた。次いでサンプルを混合し、標準配列決定反応に関して変性し、そしてApplied Biosystems 3730 DNA配列決定装置にロードし、そして標準的なDNA配列決定条件を使用して実行した。次いで標準的なDNA配列解析ツールを使用して出力配列ファイルを解析した。
【0058】
ある群に属するとして生物を特徴付けする(キャラクタリゼーション)本発明の能力を試験するために、これらの配列をClustal Wプログラム(欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bioinformatics Institute)ウェブサーバー)を使用して調べた。実施例1のプライマーミックスFB1D1及び単一プライマーFP5から生じた配列の二組の整列を表3A及び3Bに示し、そして得られた系統樹を図1A及び1Bに示す。仮定したとおり、RAPDフィンガープリンティング反応からのPCR生成物の混合に起因する配列の摂動が、機器からの配列出力における変化として検出された。Clustal W整列は、単一の生物クラスターからの複製サンプルを一緒に示し、非同一微生物についてのクラスターとは別々にされている。
【0059】
【表3】

【0060】
【表4】

【0061】
【表5】

【0062】
【表6】

【0063】
【表7】

【0064】
【表8】

【0065】
【表9】

【0066】
【表10】

【0067】
【表11】

【0068】
【表12】

【0069】
【表13】

【0070】
【表14】

【0071】
【表15】

【0072】
【表16】

【0073】
【表17】

【0074】
【表18】

【0075】
【表19】

【0076】
データベースとの比較により同定の手段を提供する本発明の能力を試験するために、各微生物について生成された配列に埋め込まれたフィンガープリントの最初の3つ(番号1〜3)を、その生物についてのコンセンサスフィンガープリント配列を製造するために使用した(表4〜6)。次いでこれらのコンセンサス配列を、BLASTデータベース(NCBI BLASTウェブサーバー)を作製するために使用した。各生物についての第五の配列に埋め込まれたフィンガープリント(番号5)をデータベースにクエリーを行うために使用した。得られたblastスコア(表7〜9)は、BLASTプログラムの比較により、各微生物の配列に埋め込まれたフィンガープリントが正しい種に属すると同定される(最も高い総スコア)ということを示す。
【0077】
【表20】

【0078】
【表21】

【0079】
【表22】

【0080】
【表23】

【0081】
【表24】

【0082】
【表25】

【0083】
【表26】

【0084】
【表27】

【0085】
【表28】

【0086】
【表29】

【0087】
【表30】

【0088】
【表31】

【0089】
【表32】

【0090】
【表33】

【0091】
【表34】

【0092】
【表35】

【0093】
【表36】

【0094】
【表37】

【0095】
【表38】

【0096】
【表39】

【0097】
【表40】

【0098】
【表41】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中の生物を同定する方法であって:
(a) 生物を含むサンプルを提供すること[該生物は少なくとも1つの核酸を含む];
(b) 該サンプル又は該サンプル由来の少なくとも1つの核酸を、少なくとも1つの標識されたオリゴヌクレオチドプライマーを含む増幅ミックスと混合すること;
(c) 該少なくとも1つの標識されたオリゴヌクレオチドプライマーを使用するヌクレオチド増幅技術を使用して、該生物の少なくとも1つの核酸から少なくとも1つの標識された増幅生成物を生成すること;
(d) 該少なくとも1つの標識された増幅生成物をDNA配列決定反応の生成物と混合して分離ミックスを作製すること;及び
(e) オリゴヌクレオチド長に基づいて蛍光DNA配列決定機器で該分離ミックスを分離して、該生物についての配列に埋め込まれたフィンガープリントパターンを生成すること
を含む、方法。
【請求項2】
工程(e)の後に:
(f) 該生物についての配列に埋め込まれたフィンガープリントパターンを、既知の生物についての配列に埋め込まれたフィンガープリントパターンを含むデータベースと比較すること;及び
(g) 該データベースとの比較の相関関係で該生物を同定すること
のさらなる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生物が微生物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
生物が未知のものである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
ヌクレオチド増幅技術が多型DNAのランダム増幅(RAPD)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの核酸がDNAである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程(e)の後に、工程(c)〜(e)を経る最初の実施のストリンジェンシー条件と比較して異なるストリンジェンシー条件で工程(c)〜(e)を繰り返して、工程(c)〜(e)を経る最初の実施により生じた増幅プロフィールと異なる増幅プロフィールを生じるさらなる工程を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程(e)がキャピラリーゲル電気泳動により行われる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
工程(b)〜(c)が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5又はそれらの組み合わせからなる群より選択される核酸配列を含む1つ又はそれ以上のプライマーにより行われる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、又は配列番号5に示される核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項10に記載の単離されたポリヌクレオチドを含むプライマー。

【図1A】
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【図1B】
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【公表番号】特表2013−502222(P2013−502222A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525685(P2012−525685)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/046004
【国際公開番号】WO2011/049669
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】