説明

遺伝子ホモ改変哺乳動物細胞、遺伝子ホモ改変非ヒト哺乳動物、及びそれらの樹立、作出方法。

【課題】 マウス以外の他種哺乳動物(家畜等)に対しても適用可能な、体細胞の任意遺伝子が組換体ゲノム中においてホモに改変されたホモ改変哺乳動物細胞、及び、ホモ改変非ヒト哺乳動物を効率的に作出する方法、及び、該方法によって樹立或いは作出されたホモ改変哺乳動物細胞或いはホモ改変非ヒト哺乳動物を提供すること。
【解決手段】 耐性遺伝子ユニットがターゲッティング操作後に脱離可能に組み込まれたターゲッティングベクターを構築し、該ターゲッティングベクターを用いて第1のターゲッティング操作を行い、ヘテロ改変哺乳動物細胞を取得し、耐性遺伝子ユニットを耐性遺伝子ユニット脱離操作によって脱離させた後、第2のターゲッティング操作を行って、体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞を樹立する。該樹立細胞を用いて、任意遺伝子がホモに改変されたホモ改変非ヒト哺乳動物を作出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体細胞の任意遺伝子が組換体ゲノム中においてホモに改変された、ホモ改変哺乳動物細胞の効率的な樹立方法;該方法により樹立された体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞;及び、該ホモ改変哺乳動物細胞を用いたゲノム中においてホモに改変されたホモ改変非ヒト哺乳動物の効率的作出方法;該方法により作出されたホモ改変非ヒト哺乳動物に関する。更に詳細には、本発明は、遺伝子ターゲッティングを用いた哺乳動物体細胞の任意遺伝子の改変において、耐性遺伝子ユニットがターゲッティング操作後に脱離可能に組み込まれたターゲッティングベクターを用いて、体細胞の任意遺伝子が組換体ゲノム中においてホモに改変された、ホモ改変哺乳動物細胞を効率的に樹立する方法、及び、ホモ改変哺乳動物細胞を用いて、ゲノム中において任意遺伝子がホモに改変されたホモ改変非ヒト哺乳動物を効率的に作出する方法、及び、該方法により樹立或いは作出された、ホモ改変哺乳動物細胞又はホモ改変非ヒト哺乳動物に関する。また、具体例としては、本発明の方法を体細胞を用いたゲノム上の任意遺伝子のノックアウト(不活化:以下、「KO」という)に用いて、ゲノム上の任意遺伝子が双方のゲノムにおいてKOされたホモKO哺乳動物細胞及びホモKO非ヒト哺乳動物、すなわち、任意遺伝子が双方のゲノムにおいてKOされた正常クローン哺乳動物細胞及び正常クローン非ヒト哺乳動物を、効率的に作出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
相同遺伝子組換えを利用してゲノム上の任意の遺伝子を改変(KO等)する遺伝子ターゲッティング技術は、胚性幹細胞(ES細胞)が樹立されているマウスでは一般的な手法として広く用いられており、種々の遺伝子KOマウスの作製に貢献している。すなわち、動物細胞の体細胞は二倍体であるため、KO動物の作製の目的を達成するためには少なくても2度同一の方法を実施して、双方のゲノムの目的遺伝子をKOする必要がある。しかし、このこの双方のゲノムの目的遺伝子をKOするのは極めて困難である。
【0003】
そこでマウスにおいては、半数体である生殖細胞にキメラマウスを通して分化することができる胚幹細胞(ES細胞)を用いて、実施されている。具体的には、マウスES細胞に特定遺伝子を導入し、突然変異体ES細胞を選択する。この細胞を正常胚盤胞に注入し、キメラマウスを作製する。このキメラマウスの生殖細胞を通して子孫へ突然変異がヘテロに伝達され、ヘテロ型の雌雄の交配によって二倍体の対立遺伝子をホモ型の突然変異を有するマウスを作出することができる。この方法を用いて特定遺伝子が破壊されたKOマウスが作製されている。
【0004】
遺伝子ターゲッティング技術が、マウス以外の他種哺乳動物(家畜等)においても可能となれば、各種産業分野への貢献度は非常に大きなものになると期待されている。しかし、家畜等においては有効なマウスのように、ES細胞が樹立されていないこと、及び、マウスと同様の作製方法では遺伝子改変個体を得るために非常に長期間を要することなどから、この技術の活用はほとんど進展がなかった。
【0005】
一方、1997年にWilmutらにより、ヒツジ体細胞を用いた核移植クローン技術が報告された(Nature, 385,810-813,1997)。この体細胞クローン技術とドナー体細胞に対する遺伝子ターゲッティング技術を組み合わせることにより、家畜等での遺伝子ターゲッティング手法による遺伝子改変動物作製が現実化してきた。実際、これまでにヒツジおよびブタにおいて体細胞に対し遺伝子ターゲッティング操作を行い、クローン個体を作製した例が数例報告されている(McCreathら; Nature, 405, 1066-1069, 2000; Dai ら;Nat Biotechnol., 20, 251-255, 2002)。本発明者らも、ウシにおいて体細胞を用いた遺伝子ターゲッティング(ヘテロKO:1染色体上の遺伝子をKO)を成功させている(特開2002−17360号公報;Sendaiら、Transplantation, 76, 900-903, 2003)。
【0006】
しかし、体細胞を用いた遺伝子ターゲッティング技術は多くの不確定要素があり、相同遺伝子組換えを起こした細胞の樹立効率は極めて低く、解決すべき課題も多い。具体的には、遺伝子ターゲッティングに使用する体細胞の種類、培養法、ターゲッティングベクター(以下「TV」という)の構築、遺伝子導入・選別法など各段階での最適条件の確立が必要とされる。特に、体細胞を用いて任意遺伝子を完全にKO(ホモKO)するためには、1対の染色体上それぞれに存在する対象遺伝子をターゲッティングする必要があるため、2回ターゲッティング操作が必要であり、それぞれの操作には選別用耐性遺伝子を変えた2種類のTVを構築・使用する必要がある。しかしここで、構築した2種類のTVが同程度に相同組換えを起こすという保証は無く、これはホモKO細胞を効率的に取得する上で非常に大きな課題となっている。
【0007】
本願発明者らは、既報(特開2002−17360号公報;Sendaiら、Transplantation, 76, 900-903, 2003)においてα1,3GT遺伝子(以下「α1,3GT」という)の遺伝子ターゲッティング(ヘテロKO)を実施しており、先に述べたいくつかの基本的課題を解決している。しかし、ホモKO細胞樹立のため選別用耐性遺伝子を変更したTVを構築・使用し、ターゲッティング操作を実施したが、ホモKO細胞は樹立出来ず、TVの違いによるターゲッティング効率の違いを確認するに至った。
【0008】
したがって、これまで、マウス以外の他種哺乳動物(家畜等)においても、確実かつ効率的にゲノム上の特定遺伝子をホモに改変できる(例えば、ホモKOが可能な)遺伝子ターゲッティング技術は開発されておらず、マウス以外の他種哺乳動物(家畜等)については、その遺伝的な改変が要望されつつも、その現実的な実現が難しい状況にあった。そこで、該技術が開発されれば、各種産業分野への貢献度は非常に大きなものになると期待される。
【0009】
【特許文献1】特開2002−17360号公報。
【非特許文献1】Nature, 385,810-813,1997。
【非特許文献2】Nature, 405, 1066-1069, 2000。
【非特許文献3】Nat Biotechnol., 20, 251-255, 2002。
【非特許文献4】Transplantation, 76, 900-903, 2003。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、マウス以外の他種哺乳動物(家畜等)に対しても適用可能な、哺乳動物体細胞を用いた任意遺伝子の遺伝子ターゲッティングを効率的に達成し、体細胞の任意遺伝子が組換体ゲノム中においてホモに改変されたホモ改変哺乳動物細胞を効率的に樹立する方法、該ホモ改変哺乳動物細胞を用いてゲノム中において任意遺伝子がホモに改変されたホモ改変非ヒト哺乳動物を効率的に作出する方法、及び、該ホモ改変哺乳動物細胞の樹立方法或いはホモ改変非ヒト哺乳動物の作出方法により樹立或いは作出された、ゲノム中において任意遺伝子がホモに改変されたホモ改変哺乳動物細胞、或いは、ゲノム中において任意遺伝子がホモに改変されたホモ改変非ヒト哺乳動物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、哺乳動物体細胞を用いた任意遺伝子(α1,3GT:α1,3ガラクトシルトランスフェラーゼ )の遺伝子ターゲッティングを効率的に達成する方法を提供することを目的とし、更に、任意遺伝子の改変として、該遺伝子のKOを題材として、該遺伝子が組換え体ゲノム中においてホモにKOされたホモKO哺乳動物細胞の効率的な取得方法の開発を目指して鋭意検討した結果、相同組換えが高頻度で起きたTVをもとに、ヘテロKO及びホモKO化のターゲッティング操作の両方に使用できるTVを構築すれば、この問題点を解決できると考えた。
【0012】
具体的には、ゲノム中の任意の領域を特異的に改変するCre/loxP組換えシステムを利用し、ターゲッティングが成功したTVの耐性遺伝子ユニットを挟むように2個のloxP配列を挿入したTVを構築した。ここで、loxP配列に挟まれた耐性遺伝子ユニットは、Cre組換え酵素発現処理により組換え体ゲノム中より除去される。1回目のターゲッティング操作で得られたヘテロKO細胞に対してCre組換え酵素発現処理をすることにより耐性遺伝子ユニットを除去し、この細胞を用いて体細胞核移植を行い、ヘテロKO胎子を作製し胎子由来線維芽細胞を取得、続いて、このヘテロKO胎子由来線維芽細胞に対して同様のTVを使用し2回目のターゲッティング操作を行うことにより、2本の染色体中に存在するα1,3GTを完全にKOしたウシ線維芽細胞を樹立することに成功した。
【0013】
この方法により、同じTVを用いて2回のターゲッティング操作を行うことが可能となり、ターゲッティング操作における相同組換えの確実性を増して、確実かつ効率的にホモ改変哺乳動物細胞の取得が可能となることを見い出し、本発明を完成するに至った。本発明で樹立される組換え体ゲノム中においてホモに改変された哺乳動物細胞は、これを用いて、マウスのようにES細胞が樹立されていないような哺乳動物(家畜)においても、ゲノム中において遺伝子がホモに改変された非ヒト哺乳動物を確実かつ効率的に作出することができる。本発明の方法は、哺乳動物細胞における任意遺伝子の改変、「ノックアウト」及び「ノックイン」の場合に適用することができる。
【0014】
すなわち、本発明は、遺伝子ターゲッティングを用いた哺乳動物体細胞の任意遺伝子の改変において、耐性遺伝子ユニットがターゲッティング操作後に脱離可能に組み込まれたターゲッティングベクターを構築し、該ターゲッティングベクターを用いて第1のターゲッティング操作を行って、任意遺伝子が組換え体ゲノム中においてヘテロに改変されたヘテロ改変哺乳動物細胞を取得し、該ヘテロ改変哺乳動物細胞から、耐性遺伝子ユニットを耐性遺伝子ユニット脱離操作によって脱離させた後、第1のターゲッティング操作に用いたターゲッティングベクターを用いて第2のターゲッティング操作を行って、任意遺伝子が組換え体ゲノム中においてホモに改変されたホモ改変哺乳動物細胞を取得することからなる体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞の樹立方法からなる。
【0015】
また、本発明は、該ホモ改変哺乳動物細胞の樹立方法によって樹立された体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞を包含する。更に、本発明は、本発明の方法によって樹立されたホモ改変哺乳動物細胞を用いて、ゲノム中において任意遺伝子がホモに改変されたホモ改変非ヒト動物の作出方法及び該方法により作出されたホモ改変非ヒト動物を包含する。
【0016】
すなわち具体的には本発明は、(1)遺伝子ターゲッティングを用いた哺乳動物体細胞の任意遺伝子の改変において、耐性遺伝子ユニットがターゲッティング操作後に脱離可能に組み込まれたターゲッティングベクターを構築し、該ターゲッティングベクターを用いて第1のターゲッティング操作を行って、任意遺伝子が組換え体ゲノム中においてヘテロに改変されたヘテロ改変哺乳動物細胞を取得し、該ヘテロ改変哺乳動物細胞から、耐性遺伝子ユニットを耐性遺伝子ユニット脱離操作によって脱離させた後、第1のターゲッティング操作に用いたターゲッティングベクターを用いて第2のターゲッティング操作を行って、任意遺伝子が組換え体ゲノム中においてホモに改変されたホモ改変哺乳動物細胞を取得することを特徴とする体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞の樹立方法や、(2)耐性遺伝子ユニットがターゲッティング操作後に脱離可能に組込まれたターゲッティングベクターが、耐性遺伝子ユニットがloxP配列に挟まれて組込まれたターゲッティングベクターであることを特徴とする前記(1)記載の体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞の樹立方法や、(3)耐性遺伝子ユニット脱離操作が、Cre組換え酵素発現処理による耐性遺伝子ユニットの組換体ゲノム中よりの除去操作であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の哺乳動物体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞の樹立方法や、(4)第1のターゲッティング操作を行って取得したヘテロ改変哺乳動物細胞から、耐性遺伝子ユニットを耐性遺伝子ユニット脱離操作によって脱離させた後、第1のターゲッティング操作に用いたターゲッティングベクターを用いて第2のターゲッティング操作を行って、任意遺伝子が組換え体ゲノム中においてホモに改変されたホモ改変哺乳動物細胞を取得する操作が、第1のターゲッティング操作を行って取得したヘテロ改変哺乳動物細胞に対して、Cre組換え酵素発現処理を行って耐性遺伝子ユニットを除去した後、この細胞を用いて体細胞核移植を行い、ヘテロ改変胎子を作成し、該胎子由来線維芽細胞を取得し、続いて該胎子由来線維芽細胞に対して第2のターゲッティング操作を行うことにより任意遺伝子が組換え体ゲノム中においてホモに改変されたホモ改変線維芽細胞を取得することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか記載の体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞の樹立方法や、(5)哺乳動物体細胞の任意遺伝子の改変が、任意遺伝子のノックアウトであることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか記載の体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞の樹立方法や、(6)哺乳動物体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞が、ウシ、ブタ、又はヒツジのホモ改変線維芽細胞であることを特徴とする前記(4)又は(5)記載の体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞の樹立方法や、(7)前記(1)〜(6)のいずれか記載の哺乳動物体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞の樹立方法により樹立された体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞からなる。
【0017】
また本発明は、(8)哺乳動物体細胞の任意遺伝子として、α1,3ガラクトース転移酵素遺伝子についてノックアウトしたことを特徴とする前記(7)記載の体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞や、(9)前記(7)記載の哺乳動物体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞をドナーとし、クローン胚を形成した後、受卵動物に移植し、産子を出産することを特徴とする任意遺伝子がホモに改変されたホモ改変非ヒト哺乳動物の作出方法や、(10)前記(7)記載の哺乳動物体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞をドナーとするクローン胚の形成、該クローン胚の受卵動物への移植、及び、産子の出産が、前記(7)記載の体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞を、除核卵子に挿入することにより核移植を行い、該核移植胚を培養後、受卵哺乳動物に胚移植し、妊娠確定後飼養して産子を出産することにより行われることを特徴とする前記(9)記載の任意遺伝子がホモに改変されたホモ改変非ヒト哺乳動物の作出方法や、(11)哺乳動物体細胞の任意遺伝子の改変が、任意遺伝子のノックアウトであることを特徴とする前記(9)又は(10)記載の任意遺伝子がホモに改変されたホモ改変非ヒト哺乳動物の作出方法や、(12)ホモに改変されたホモ改変非ヒト哺乳動物が、ウシ、ブタ、又はヒツジであることを特徴とする前記(9)〜(11)のいずれか記載の任意遺伝子がホモに改変されたホモ改変非ヒト哺乳動物の作出方法からなる。
【0018】
更に本発明は、(13)前記(9)〜(12)のいずれか記載のホモ改変非ヒト哺乳動物の作出方法により作出された任意遺伝子がホモに改変されたホモ改変非ヒト哺乳動や、(14) ホモ改変非ヒト哺乳動物が、α1,3ガラクトース転移酵素遺伝子についてノックアウトされたホモ改変非ヒト哺乳動物であることを特徴とする前記(13)記載のホモ改変非ヒト哺乳動物からなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、胎子由来線維芽細胞のような体細胞を用いて任意遺伝子を効率的にターゲッティングする方法が提供される。すなわち、本発明の方法により、胎子由来線維芽細胞のような体細胞を用いた遺伝子ターゲッティングにより遺伝子改変哺乳動物細胞を樹立するに際して、同じTVを用いて2回のターゲッティング操作を行うことが可能となり、ターゲッティング操作における相同組換えの確実性を増して、確実かつ効率的にホモ改変哺乳動物細胞の取得が可能となった。この本発明のホモ改変哺乳動物細胞の樹立方法は、体細胞クローン生産技術と併用することにより、マウス、ヒト以外の哺乳動物でも任意遺伝子を自由に改変した個体を効率的に作製する基盤技術として展開することができる。すなわち、この遺伝子改変哺乳動物細胞を用いて、ゲノム中において遺伝子がホモに改変された非ヒト哺乳動物を確実かつ効率的に作出することができ、マウスのようにES細胞が樹立されていないウシ、ブタ、ヒツジのような哺乳動物(家畜)に適用して、従来、その遺伝的な改変が困難であった、これらの哺乳動物についても、確実かつ効率的にゲノム上の特定遺伝子がホモに改変されたホモ改変哺乳動物を作出することを可能にした。
【0020】
本発明の方法は、上記のとおり、マウス以外の哺乳動物(家畜)においても、哺乳動物細胞における任意遺伝子の「ノックアウト」及び「ノックイン」の改変を行って、有用な特性を有する遺伝的に改変された哺乳動物を作出することができる。したがって、本発明の方法は、その遺伝的な改変が要望されていた、マウス以外の他種哺乳動物(家畜等)について、その遺伝的な改変の現実的な手法を提示し、該手法の開発によって、各種産業分野への大きな貢献が期待されるものである。また、本発明の実施例で樹立したα1,3GT−KO細胞は、該KO細胞を用いて体細胞クローニングを行い、得られたホモにKOされたα1,3GT−KO動物は、全ての組織・臓器においてそれを構成する細胞表面の糖鎖構造が変化しヒトに類似したものとなり、これらの哺乳動物の組織・臓器をヒトに移植しても超急性拒絶反応が起きず、異種臓器移植の有効なドナーとなる。従って、本発明は、ヒトにとって有用な遺伝子改変動物を作製する上で大いに威力を発揮するものと期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、遺伝子ターゲッティングを用いた哺乳動物体細胞の任意遺伝子の改変において、耐性遺伝子ユニットがターゲッティング操作後に脱離可能に組み込まれたTV(ターゲッティングベクター)を構築し、該TVを用いて第1のターゲッティング操作を行って、任意遺伝子が組換え体ゲノム中においてヘテロに改変されたヘテロ改変哺乳動物細胞を取得し、該ヘテロ改変哺乳動物細胞から、耐性遺伝子ユニットを耐性遺伝子ユニット脱離操作によって脱離させた後、第1のターゲッティング操作に用いたTVを用いて第2のターゲッティング操作を行って、任意遺伝子が組換え体ゲノム中においてホモに改変されたホモ改変哺乳動物細胞を取得することからなる。
【0022】
本発明において、対象とされる哺乳動物体細胞は、特に限定はされないが、本発明においてその作出を目的とするホモ改変非ヒト動物との関連において、従来、ES細胞を用いての遺伝子のホモ改変が既に行われているマウス以外の哺乳動物(家畜)の体細胞の場合が、特に有益に利用できる対象として挙げることができる。特に、入手の容易性や体細胞クローン技術が比較的安定化している家畜が好ましく、とりわけ、ウシ、ブタ、ヒツジ等が好ましい。また、本発明の体細胞の種類は特に限定されるものではないが、増殖能力の高さおよび遺伝子導入の容易さから線維芽細胞が好ましく、特に胎子に由来する線維芽細胞が最も好ましい。
【0023】
本発明において、本発明のTVの構築に用いられるTVとしては、動物細胞のターゲッティング操作に用いられている公知のTVを適宜用いることができるが、
本発明の実施例においては、ウシα1,3GTゲノミックDNAの触媒領域をコードしている部位を含んだクローンを用いた(Transplantation, 76, 900-903, 2003;特開2002−17360号公報)。本発明において用いられるTVの構築に際しては、構築されたTVの耐性遺伝子ユニットがターゲッティング操作後に脱離可能なように組込まれる。耐性遺伝子ユニットがターゲッティング操作後に脱離可能に組込まれたTVとしては、耐性遺伝子ユニットがloxP配列に挟まれて組込まれた構造を採用することができる。
【0024】
本発明の方法において、該耐性遺伝子ユニットは、第1のターゲッティング操作を行ってヘテロ改変哺乳動物細胞を取得した後に、Cre組換え酵素発現処理による耐性遺伝子ユニット脱離操作によって、組換体ゲノム中より除去される。これらのターゲッティング操作やCre組換え酵素発現処理は、いずれも公知の操作手段にしたがって実施することができる。
【0025】
本発明において、任意遺伝子のホモ改変動物細胞を構築するには次のような操作によって実施することができる:すなわち、ターゲッティング操作用のTVを構築した後、第1のターゲッティング操作を行って、任意遺伝子が組換え体ゲノム中においてヘテロに改変された哺乳動物細胞を取得する。該ヘテロ改変哺乳動物細胞に対して、Cre組換え酵素発現処理を行って耐性遺伝子ユニットを除去した後、この細胞を用いて体細胞核移植を行い、ヘテロ改変胎子を作成し、該胎子由来線維芽細胞を取得し、続いて該胎子由来線維芽細胞に対して第2のターゲッティング操作を行うことにより任意遺伝子が組換え体ゲノム中においてホモに改変されたホモ改変線維芽細胞を取得する。この方法によれば、同じTVを用いて2度のターゲッティング操作が可能となり、相同組換えの確率を上げて、確実にかつ効率的に任意遺伝子が組換え体ゲノム中においてホモに改変された哺乳動物細胞を取得することができる。
【0026】
本発明の方法により、マウス以外の哺乳動物(家畜)においても、哺乳動物細胞における任意遺伝子の「ノックアウト」及び「ノックイン」の改変を行い、任意遺伝子が、組換え体ゲノム中においてホモに改変された哺乳動物細胞を取得することができるが、特に、任意遺伝子のKOされた哺乳動物細胞の樹立に用いて、任意遺伝子のKOされたホモ改変哺乳動物細胞の取得に有利に用いることができる。
【0027】
本発明のホモ改変哺乳動物細胞の樹立方法の具体的方法について、遺伝子のKOの場合例示して、説明すると:本発明のα1,3GTを用いた効率的ターゲッティングの具体的方法は、以下の実施例に記述されており、その原理は図1に模式的に示されている。以下の実施例では、ウシα1,3GTゲノム遺伝子の2領域(エクソン8を含む6.3kb EcoRV断片及び酵素触媒領域のエクソン9中の0.8kb HindIII−BamHI断片)が5´側及び3´側に位置するように、loxP配列に挟まれた選別用耐性遺伝子ユニット(IRES/lacZ−neo)を配して構築した1種類のTVを使用してターゲッティング操作(1回目)を行い、正しく相同組換えが起きたヘテロKO細胞株に対してCre組換え酵素発現処理(Cre/loxP組換え)をして選別用耐性遺伝子ユニットをゲノム中より除去し、再度同様のTVを用いて最終的なホモKO細胞株取得のためのターゲッティング操作(2回目)を行うことにより、ウシ胎子由来線維芽細胞のウシα1,3GTを効率的に完全KOした。この細胞は活発に増殖し、凍結保存可能な細胞であり、更に、体細胞クローン個体作製のためのドナーとして使用することができる。
【0028】
本発明においては、本発明において樹立された体細胞の任意遺伝子のホモ改変動物細胞を用いて、任意遺伝子がホモに改変されたホモ改変非ヒト動物を作出することができる。該ホモ改変非ヒト動物を作出するには、該ホモ改変哺乳動物細胞をドナーとし、クローン胚を形成した後、受卵動物に移植し、産子を出産することにより行うことができる。該ホモ改変哺乳動物細胞をドナーとするクローン胚の形成、該クローン胚の受卵動物への移植、及び、産子の出産は、該ホモ改変哺乳動物細胞を、除核卵子に挿入することにより核移植を行い、該核移植胚を培養後、受卵哺乳動物に胚移植し、妊娠確定後養育して産子を出産することにより行うことができる。これらの操作における、細胞の処理方法及び核移植は、公知の方法を用いて実施することができる(Theriogenology 62, 714-728,2004;特開2003−523369号公報)。
【0029】
本発明のホモに改変された哺乳動物細胞の作出方法は、ES細胞の樹立されていないウシ、ブタ、又はヒツジのようなマウス以外の哺乳動物(家畜)の遺伝的に改変された哺乳動物の作出に適用して、任意遺伝子がゲノム中においてホモに改変された哺乳動物を、確実かつ効率的に作出することができる。
【0030】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
[1.ターゲッティングベクター(TV)の構築]
TV(pGT−22)の構築はSendaiらの方法(Transplantation, 76, 900-903, 2003)により、黒毛和牛α1,3GTゲノムDNA(clone−JA8)からベクター構築に必要な領域をサブクローニングして行った。pGT−22ベクターはIRES/lacZ−neoユニット(IRES配列を持つβガラクトシダーゼ結合ネオマイシン耐性遺伝子)(pBIKS(-)IresBgeopAベクター(理化学研究所)由来)の5´側及び3´側にα1,3GTゲノムDNAが位置するように構築した。5´側には、α1,3GTゲノムDNAのエクソン8(E8)領域を含むEcoRV(タカラバイオ社製)消化断片(6.3kb)を使用し、3´側には、α1,3GTの酵素触媒領域のエクソン9(E9)のHindIII(タカラバイオ社製)−BamHI(タカラバイオ社製)消化断片(0.8kb)を使用した(図1)。
【0032】
更に、TVはIRES/lacZ−neoユニットを挟むようにloxP配列(34bp:pBS246ベクター(GIBCO BRL社製)由来)を2箇所に挿入した。TVを導入し正しく相同組換えが起こった場合、ウシα1,3GTゲノムDNA中の酵素触媒領域(E9)のRNA転写が阻害され、α1,3GTは不活化する。また、TVのloxP配列に挟まれたIRES/lacZ−neoユニットは、Cre組換え酵素発現処理により組換え体ゲノムDNAより除去される(図1)。ここでIRES/lacZ−neoユニット除去後のα1,3GTも、酵素触媒領域(E9)のRNA転写が阻害され(フレームシフト等によるタンパク質合成阻害)、不活化状態を維持する。
【0033】
[2.ウシ胎子由来線維芽細胞株の樹立]
全農ETセンター所有の黒毛和種の雌牛(ふくみ)に凍結精液(黒毛和牛,第7糸桜)を人工授精し、7日後に得られた受精卵4卵を発情を同期化させた受卵牛に移植した。胎齢49日目、胎子を無菌的に回収し、頭部および消化器官を除去した後、解剖バサミで細かく切り刻み、0.1%トリプシン−EDTA(GIBCO BRL社製)処理(4℃、12時間)して細胞を分散・分離し、培養して増殖してくる線維芽細胞を初代培養(37℃、5%C0/95%空気)して細胞株とした(#906株)。この株を用いTVの導入・選別培養を実施した。
【0034】
[3.ウシ胎子由来線維芽細胞へのTVの導入および選別培養]
胎子由来線維芽細胞を10% FCSを含むMEMα培地(GIBCO BRL社製)2mlを培養液とし、2万細胞/穴となるよう6穴細胞培養プレート(greiner社製)4枚に播種した。播種後2日目、制限酵素Not I(タカラバイオ社製)消化し、直線化したTVを導入した。導入方法は、以下の通りである。まず、培養プレートより培養液を除去した後、そこへ1ml(1穴当たり)の遺伝子導入用培地(TransFast試薬(Promega社製)使用時:1ml MEMα培地に2μgのTV、6μlのTransFast試薬を使用、Lipofectamine−PLUS試薬(GIBCO BRL社製)使用時:1ml MEMα培地に2μgのTV、8μlのLipofectamine試薬、12μlのPLUS試薬を使用)を添加し、インキュベーター(タバイエスペック社製)(37℃、5% CO/95%空気)内で60分(TransFast試薬使用時)若しくは180分(Lipofectamine-PLUS試薬使用時)間培養した。
【0035】
その後、10% FCSを含むMEMα培地、1穴当たり2mlを上記に加え、インキュベーター(37℃、5% CO/95%空気)内で培養した。24時間後、0.4mg/mlの濃度となるようにネオマイシン(商品名 Geneticin,GIBCO BRL社製)を各穴に加えた。更に、24時間後、0.05%トリプシン−EDTA(GIBCO BRL社製)処理(5分)し、6穴細胞培養プレートより細胞を剥がして48穴細胞培養プレート(greiner社製)8枚に播き直した。播き直し後、3日目、6日目に培養液を交換し、10日目前後になるとネオマイシン耐性コロニーが出現するので、それぞれをトリプシン処理により剥がし48穴細胞培養プレート2枚に分割し継代した(1枚目をPCR解析、2枚目をサザンブロット解析及び凍結保存用に使用)。48穴細胞培養プレートでの培養に用いる培養液量は400μl/穴、その他の条件は6穴細胞培養プレート使用時と同じである。
【0036】
[4.PCR解析による相同組換え体の判定]
48穴細胞培養プレート2枚に分割して継代したネオマイシン耐性細胞は、2〜3日後にコンフレントとなり、1枚をPCR法による相同組換え体の判定に使用した。48穴細胞培養プレートにDNA抽出バッファー(10mM Tris−HCl(pH8.5)、50mM KCl、2mM MgCl、0.45% NP−40、0.45% Tween−20)を1穴当たり50μl加えた。そこにProteinase K(ナカライテクス社製)(100μg/ml)を加え、55℃で70分間インキュベートし、さらに100℃で10分間インキュベートした。インキュベート終了後、DNAサンプルは4℃で保持し、PCRに使用した。PCRは1サンプル当たり、テンプレート(DNA抽出サンプル)5μl、anti-Taq high用10×PCR buffer(TOYOBO社製)2.5μl、センスプライマー(10pmoles/μl)0.25μl、アンチセンスプライマー(10pmoles/μl)0.25μl、dNTPs mixture (2mM each) 2μl、anti-Taq high(TOYOBO社製)+ rTaq DNAポリメラーゼ(TOYOBO社製)混合液0.25μl、滅菌蒸留水にて計25μlになるように調整し実施した。
【0037】
解析に用いたプライマーの塩基配列は次の通りである。センスプライマー(P1):5’-ACCGCTATCA GGACATAGCG TTGG-3’、アンチセンスプライマー(P2):5’-CTGGAGACCA CCCACACTGC CTGG-3’(図1)。また、Cre組換え酵素発現処理後のIRES/lacZ−neoユニット除去の確認に用いたプライマーの塩基配列は次の通りである。センスプライマー(P3):5’-AGTAGTTGCC AAGGGTCGGC-3‘、アンチセンスプライマー(P2)(図1)。PCRの条件は、94℃ 2分を1回の後、94℃ 1分、57℃ 1分30秒、72℃ 2分を35回、その後,72℃ 10分を1回行った。反応終了後,1% アガロースゲルを用いて,電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色により相同組換えの判定をおこなった。正しく相同組換えが起きている場合は、約1.6kbのPCR産物が増幅される。また、Cre組換え酵素発現処理によりIRES/lacZ−neoユニットが除去された場合、約1.4kbのPCR産物が増幅される。
【0038】
[5.Cre組換え酵素発現処理によるIRES/lacZ−neoユニットの除去]
ヘテロ相同組換え細胞及びホモ相同組換え細胞のゲノム中からのIRES/lacZ−neoユニットの除去は、Cre/loxP組換えシステムを使用することにより行った。PCR陽性となった細胞と同一クローン由来の細胞を継代していく段階で、Cre組換え酵素を一過的に発現する組換えアデノウイルス(AxCANCre:理研ジーンバンク、RDB No.1748)を定法に従い感染処理することにより、細胞内にCre組換え酵素を発現し、loxP配列に挟まれたIRES/lacZ−neoユニットを除去した。IRES/lacZ−neoユニットの除去確認はPCR解析およびサザンブロット解析により行った(図2)。
【0039】
[6.サザンブロット解析による相同組換え体の判定]
PCR陽性となった細胞と同一クローン由来の細胞を、48穴細胞培養プレートから回収し、12穴細胞培養プレート(greiner社製) に継代、48時間後更に6穴細胞培養プレートの2穴に継代、その48時間後に75cm細胞培養フラスコ(greiner社製)に継代してコンフルエントになった段階で一部を凍結保存,一部をサザンブロット解析のゲノム調整での確認用に75cm細胞培養フラスコ2本に継代した。サザンブロット解析用ゲノムDNAの調整は、定法に従い行った。サザンブロット解析は、細胞より調整したゲノムDNAを制限酵素XbaI(タカラバイオ社製)で充分消化後、0.8%アガロース電気泳動、ナイロンメンブレンへの転写、プローブハイブリダイゼーション、BAS5000(富士フイルム社製)による視覚化の手順で行われた。
【0040】
プローブはTVの短椀領域(0.8kb HindIII−BamHI消化断片)を32P−標識して使用した。正しく相同組換えが起こった場合は,ヘテロ相同組換え体においては13kb(野生型アレル由来)と7kb(組換え体アレル由来)の二本バンドが確認できる(図1,2)。また、Cre組換え酵素発現処理によりIRES/lacZ−neoユニットが除去された場合、組換え体アレル由来の7kbのバンドは、IRES/lacZ−neoユニット中のXbaI切断部位が消失することにより10.5kbへシフトする(図1,2)。
【0041】
[7.遺伝子改変体細胞クローン胚作製と胎子回収、及びKOクローン牛の生産]
と蓄場由来のウシ卵胞卵子を体外成熟培養(5%ウシ胎子血清添加TCM199培地(GIBCO BRL社製)、5%CO/95%空気、38℃)し、培養開始19〜20時間目に卵丘細胞を除去した後、第1極体側から卵細胞質を約1/3取り除き除核した。PCR及びサザンブロット解析でヘテロまたはホモKOが確定した細胞(#3−46Cre又は#H1−38Cre)を10%ウシ胎子血清添加D−MEM培地(GIBCO BRL社製)(5%CO/95%空気、38℃)で3日間培養して核移植に使用した。細胞の処理方法及び核移植は、浦川らの方法(Theriogenology 62, 714-728, 2004:特開2003−523369号公報)に従って行った。
【0042】
細胞融合は、除核卵子の囲卵腔に樹立したヘテロまたはホモKO細胞(#3−46Cre又は#H1−38Cre、又は#270)を挿入し、微少電極で直流パルス(Bex社製、25V/150μm、10μ秒)を1回負荷した。その後,ステンレスチャンバー中で再度電気負荷を1回与えた(ECF−2001:理工化学研究所、100V/mm、60μ秒)後、5μM Ca−イオノホア(SIGMA社製,C−7522)及び10μg/mlシクロヘキシミド(SIGMA社製,C−7698)で活性化を行った(Aoyagi ら; Thriogenology 41,Abstr. 157,1994)。核移植の翌日、核移植胚は5%ウシ血清添加CR1aa培地でウシ卵管上皮細胞と共培養を行い、6日目に移植可能胚を発情後7日目の受卵牛(ホルスタイン種)1頭に3胚移植し、41日齢の遺伝子改変胎子を回収した。
【0043】
#B270細胞をドナーとしたクローン胚は、受卵牛に移植し妊娠確定後、胎子回収はせず産子の作出試験に供した。受卵牛への核移植胚の移植から胎子回収及び出産までの飼養管理は全農ETセンター所有閉鎖系牛舎内で「組換えDNA実験指針」および「遺伝子組換え生物等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」に則って実施された。胎子を回収した後のと体および糞便は焼却処理した。回収した遺伝子改変胎子は細断し、線維芽細胞の初代培養を行った。培養開始数日後、増殖中の細胞の一部よりゲノムDNAを調整しPCR及びサザンブロット解析でヘテロ相同組換えおよびホモ相同組換えの確認を行った。
【0044】
[8.細胞表面αGal糖鎖解析]
細胞表面のαGal糖鎖の解析は、αGal糖鎖を特異的に認識するバンデリアマメレクチン(BS-I Isolectin B4)を用いた蛍光標識レクチン−FACS解析により行った。培地を吸引除去し、PBSで2回洗浄した後、細胞を0.05%トリプシン−EDTA処理により単離・浮遊化する。浮遊化した細胞を、FITC標識−BS−I(B4)(SIGMA社製, L2895)で処理し、結合性をFACS解析装置(ベクトン・デッキンソン社製)で調べた。
【0045】
[9.細胞の増殖能力試験]
樹立した細胞株(#270)の増殖能力の解析は、一定期間培養後の細胞数を#906株(オリジナル株)と比較することにより行った。24穴細胞培養プレートに、#B270細胞及び#906細胞をそれぞれ1穴あたり4000細胞播種し、播種後2日目、及び4日目の細胞数をトリプシン−EDTA処理で分散させた後、コールターカウンター(ベックマン-コールター社製)で算出した。
【0046】
[結果]
1.#906株(α1,3GT+/+)に対して4回のヘテロKO化の導入実験(TransFast試薬、2回:Lipofectamine−PLUS試薬、2回)をした結果、4個(4/1152)のPCR陽性細胞が得られた(表1)。順調な細胞増殖を示した細胞株に対してサザンブロット解析を行い、相同組換え体(#3−46株:α1,3GT+/−・IRES/lacZ−neo+)を同定した(図2:レーン2)。
【0047】
【表1】

(表1に、この実施例で行った、胎子線維芽細胞(#906株)及びα1,3GTヘテロKO胎子線維芽細胞(#3−46CrN株)に対してpGT−22ベクターを用いてヘテロKO化及びホモKO化を実施した結果をまとめた。)
【0048】
2.ウシ胎子由来線維芽細胞を用いた遺伝子ターゲッティングにおいて、相同組換え体取得にはLipofectamine−PLUS試薬よりTransFast試薬の方が相同組換えを起こす頻度が高く組換え体取得が効率的あることが示唆された(表1)。
【0049】
3.#3−46株に対して組換えアデノウイルス導入系Cre組換え酵素を一過的に発現することにより、loxP配列で挟まれたIRES/lacZ−neoユニットを除去した(#3−46Cre株:α1,3GT+/−・IRES/lacZ−neo−)(図2:レーン3)。組換えアデノウイルス導入系Cre/loxP組換えシステムがウシ体細胞においても有効に機能することが確認できた。
【0050】
4.#3−46Cre細胞を用いて核移植を行い35個の核移植胚を作製した。核移植後3日目に22個(62.9%)の核移植胚が卵割し、6日目に4個(11.4%)の核移植胚が小型化桑実胚以降のステージに発生した(表2)。小型化桑実胚以降に発育した3個の移植可能胚を1頭の受卵牛に移植し、胎齢41日目に胎子回収を試みた結果、1個体が回収できた。
【0051】
【表2】

(表2に、この実施例で行った、α1,3GTヘテロKO細胞(#3−46Cre株)及びα1,3GTホモKO細胞(#Hl−38Cre株)を用いた核移植試験の結果をまとめた。)
【0052】
5.回収したクローン胎子(#3−46Cre細胞由来)より線維芽細胞株(#3−46CrN株)を樹立し、増殖細胞の一部でヘテロ相同組替えの確認をサザンブロット解析により行った結果、ヘテロ相同組換え体(α1,3GT+/−・IRES/lacZ−neo−)であることが確認できた(図2:レーン4)。
【0053】
6.pGT−22ベクターを使用し、#3−46CrN株に対して3回のホモKO化の導入実験をした結果、27個(27/508)のPCR陽性細胞が得られた。順調な細胞増殖を示した細胞株に対してサザンブロット解析を行い、相同組換え体(#Hl−38株:α1,3GT−/−・IRES/lacZ−neo+)を同定した(図2:レーン5)。また、Cre組換え酵素を発現しloxP配列で挟まれたIRES/lacZ−neoユニットを除去した(#Hl−38Cre株: α1,3GT−/−・IRES/lacZ−neo−)(図2:レーン6)。
【0054】
7.#Hl−38Cre細胞を用いて核移植を行い36個の核移植胚を作製した。核移植後3日目に23個(63.9%)の核移植胚が卵割し、6日目に7個(19.4%)の核移植胚が小型化桑実胚以降のステージに発生した(表2)。小型化桑実胚以降に発育した3個の移植可能胚を1頭の受卵牛に移植し、胎齢41日目に胎子回収を試みた結果、1個体が回収でき、胎子は正常な発育形態を示していた(図3)。
【0055】
8.回収したクローン胎子(#Hl−38Cre細胞由来)より線維芽細胞株(#B270株)を樹立し、増殖細胞の一部でホモ相同組換えの確認を行った結果、サザンブロット解析でホモ相同組換え体(α1,3GT−/−・IRES/lacZ−neo−)であることが確認できた(図2:レーン7)。
【0056】
9.#B270株の細胞表面αGal糖鎖を調べる目的で、αGal糖鎖を特異的に認識するレクチン(BS−I Isolectin B4)の結合性をFACS解析で調べた結果、α1,3GTホモ相同組換え細胞(#B270株)は、α1,3GTが不活化し、細胞表面のαGal糖鎖が消失していることが確認できた(図4)。
【0057】
10.#B270株の細胞増殖能力を調べた結果、#B270株は遺伝子改変前のオリジナル株である#906株と同等の増殖能力を持つことが確認できた(図5−A)。また、#B270株は凍結・融解後においても高い細胞増殖能力を保持していることが確認できた(図5−B)。
【0058】
11.#B270細胞をドナーとしてクローン個体の作製を検討した結果、借り親牛3頭にクローン胚移植を行い、その内1頭は妊娠を継続し、分娩まで至った。産子は分娩後まもなく死亡したが(生後直死)、形態的異常は見られなかった(図6−A)。死因としては、誘起分娩を実施した時期が少し早かったため肺機能等が未発達状態であったことが考えられる。また、産子の腎臓組織より細胞を分離し、細胞表面のαGal糖鎖の解析を実施した結果、細胞表面のαGal糖鎖が消失していることが確認できた(図6−B)。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施例で使用したα1,3GT−KO用TV(pGT−22ベクター)、相同組換え、及びCre組換え酵素発現処理によるIRES/lacZ−neoユニットの除去を模式的に示す図である。
【図2】本発明の実施例の各段階で樹立した相同組換え体(細胞)のサザンブロット解析を示した図である。レーン1:#906株(野生株:α1,3GT+/+)、レーン2:#3−46株(ヘテロKO:α1,3GT+/−・IRES/lacZ−neo+)、レーン3:#3−46Cre株(ヘテロKO:α1,3GT+/−・IRES/lacZ−neo−)、レーン4:#3−46CrN株(ヘテロKO:α1,3GT+/−・IRES/lacZ−neo−)、レーン5:#Hl−38株(ホモKO:α1,3GT−/−・IRES/lacZ−neo+)、レーン6:#Hl−38Cre株(ホモKO:α1,3GT−/−・IRES/lacZ−neo−)、レーン7:#B270株(ホモKO:α1,3GT−/−・IRES/lacZ−neo−)*:α1,3−GTとは関連のない、プローブと反応する遺伝子断片。
【図3】本発明の実施例で回収した#Hl−38Cre由来核移植胎子(41日齢)の写真である。胎子は羊膜に包まれた状態で、正常な発育形態を示している。この胎子から#B270株を樹立した。
【図4】本発明の実施例で樹立した細胞の表面糖鎖をαGal糖鎖結合性レクチン(BS−I(B4))を用いてFACS解析した結果を示す図である。実線:蛍光色素標識レクチン染色細胞、点線:非染色細胞。
【図5】本発明の実施例で樹立した細胞(#B270株)の増殖能力(A)および凍結保存の影響(B)を解析した結果を示す図である。
【図6】本発明の実施例で樹立した細胞(#B270株)をドナーとして生産されたα1,3GT−KOクローン子牛(A)及び産子腎臓組織由来細胞の表面糖鎖をαGal糖鎖結合性レクチン(BS−I(B4))を用いてFACS解析した結果(B)を示す図である。実線:蛍光色素標識レクチン染色細胞、点線:非染色細胞。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子ターゲッティングを用いた哺乳動物体細胞の任意遺伝子の改変において、耐性遺伝子ユニットがターゲッティング操作後に脱離可能に組み込まれたターゲッティングベクターを構築し、該ターゲッティングベクターを用いて第1のターゲッティング操作を行って、任意遺伝子が組換え体ゲノム中においてヘテロに改変されたヘテロ改変哺乳動物細胞を取得し、該ヘテロ改変哺乳動物細胞から、耐性遺伝子ユニットを耐性遺伝子ユニット脱離操作によって脱離させた後、第1のターゲッティング操作に用いたターゲッティングベクターを用いて第2のターゲッティング操作を行って、任意遺伝子が組換え体ゲノム中においてホモに改変されたホモ改変哺乳動物細胞を取得することを特徴とする体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞の樹立方法。
【請求項2】
耐性遺伝子ユニットがターゲッティング操作後に脱離可能に組込まれたターゲッティングベクターが、耐性遺伝子ユニットがloxP配列に挟まれて組込まれたターゲッティングベクターであることを特徴とする請求項1記載の体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞の樹立方法。
【請求項3】
耐性遺伝子ユニット脱離操作が、Cre組換え酵素発現処理による耐性遺伝子ユニットの組換体ゲノム中よりの除去操作であることを特徴とする請求項1又は2記載の哺乳動物体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞の樹立方法。
【請求項4】
第1のターゲッティング操作を行って取得したヘテロ改変哺乳動物細胞から、耐性遺伝子ユニットを耐性遺伝子ユニット脱離操作によって脱離させた後、第1のターゲッティング操作に用いたターゲッティングベクターを用いて第2のターゲッティング操作を行って、任意遺伝子が組換え体ゲノム中においてホモに改変されたホモ改変哺乳動物細胞を取得する操作が、第1のターゲッティング操作を行って取得したヘテロ改変哺乳動物細胞に対して、Cre組換え酵素発現処理を行って耐性遺伝子ユニットを除去した後、この細胞を用いて体細胞核移植を行い、ヘテロ改変胎子を作成し、該胎子由来線維芽細胞を取得し、続いて該胎子由来線維芽細胞に対して第2のターゲッティング操作を行うことにより任意遺伝子が組換え体ゲノム中においてホモに改変されたホモ改変線維芽細胞を取得することを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞の樹立方法。
【請求項5】
哺乳動物体細胞の任意遺伝子の改変が、任意遺伝子のノックアウトであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞の樹立方法。
【請求項6】
哺乳動物体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞が、ウシ、ブタ、又はヒツジのホモ改変線維芽細胞であることを特徴とする請求項4又は5記載の体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞の樹立方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載の哺乳動物体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞の樹立方法により樹立された体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞。
【請求項8】
哺乳動物体細胞の任意遺伝子として、α1,3ガラクトース転移酵素遺伝子についてノックアウトしたことを特徴とする請求項7記載の体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞。
【請求項9】
請求項7記載の哺乳動物体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞をドナーとし、クローン胚を形成した後、受卵動物に移植し、産子を出産することを特徴とする任意遺伝子がホモに改変されたホモ改変非ヒト哺乳動物の作出方法。
【請求項10】
請求項7記載の哺乳動物体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞をドナーとするクローン胚の形成、該クローン胚の受卵動物への移植、及び、産子の出産が、請求項7記載の体細胞の任意遺伝子のホモ改変哺乳動物細胞を、除核卵子に挿入することにより核移植を行い、該核移植胚を培養後、受卵哺乳動物に胚移植し、妊娠確定後飼養して産子を出産することにより行われることを特徴とする請求項9記載の任意遺伝子がホモに改変されたホモ改変非ヒト哺乳動物の作出方法。
【請求項11】
哺乳動物体細胞の任意遺伝子の改変が、任意遺伝子のノックアウトであることを特徴とする請求項9又は10記載の任意遺伝子がホモに改変されたホモ改変非ヒト哺乳動物の作出方法。
【請求項12】
ホモに改変されたホモ改変非ヒト哺乳動物が、ウシ、ブタ、又はヒツジであることを特徴とする請求項9〜11のいずれか記載の任意遺伝子がホモに改変されたホモ改変非ヒト哺乳動物の作出方法。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれか記載のホモ改変非ヒト哺乳動物の作出方法により作出された任意遺伝子がホモに改変されたホモ改変非ヒト哺乳動物。
【請求項14】
ホモ改変非ヒト哺乳動物が、α1,3ガラクトース転移酵素遺伝子についてノックアウトされたホモ改変非ヒト哺乳動物であることを特徴とする請求項12記載のホモ改変非ヒト哺乳動物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−288283(P2006−288283A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−113674(P2005−113674)
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(591038923)株式会社機能性ペプチド研究所 (6)
【出願人】(000201641)全国農業協同組合連合会 (69)
【Fターム(参考)】