説明

遺伝子導入方法、ジーンターゲッティング方法及びトランスジェニック植物の製造方法

【課題】 第1の目的は、より効率的で、ジーンサイレンシングの抑制が可能な植物の遺伝子導入方法の提供であり、第2の目的は、相同的組換え効率が向上したジーンターゲッティング方法の提供である。
【解決手段】 前記第1の目的を達成するために、本発明の遺伝子導入方法は、DNA複製に伴うヌクレオソーム形成反応に関与する因子をコードする1又は2以上の遺伝子が機能発現抑制される植物の変異体を準備し、前記変異体に外来遺伝子を含むポリヌクレオチドを導入して、外来遺伝子導入変異体を得ることを含む方法である。前記第2の目的を達成するために、本発明のジーンターゲッティング方法は、標的遺伝子及び/又は該標的遺伝子に隣接する領域と相同な部分と外来遺伝子とを含むポリヌクレオチドを、前記植物の変異体に、本発明の遺伝子導入方法を用いて導入し、相同的組換えによる外来遺伝子導入変異体を得ることを含む方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子導入方法、ジーンターゲッティング方法及びトランスジェニック植物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物に外来遺伝子を導入する方法としては、大きく分けて2つの方法がある。第1の方法は、物理的に植物細胞の一部に穴を空け、この穴から植物細胞に遺伝子を導入する直接的・物理的方法であり、第2の方法は、微生物やウイルスの遺伝子導入能力を利用した間接的・生物的方法である。
【0003】
前記第1の方法としては、例えば、パーティクルガン法(特許文献1参照)、ポリエチレングリコール法(PEG法)、エレクトロポレーション法等が挙げられる。前記パーティクルガン法は、微小な金属粒子に外来の遺伝子を付着しておき、この金属粒子を空気銃で植物細胞に打ち込み遺伝子を導入する方法である。前記第2の方法としては、アグロバクテリウム法(特許文献2〜6参照)、ウイルスベクター法(特許文献7〜8参照)等が挙げられる。前記アグロバクテリウム法は、土壌細菌Agrobacterium tumefaciensが植物に感染するときにプラスミド上のT−DNA領域と呼ばれる部分を植物染色体に挿入する仕組みを利用して遺伝子を導入する方法である。前記ウイルスベクター法は、例えば、タバコモザイクウイルス(TMV)、ブロモモザイクウイルス(BMV)、キュウリモザイクウイルス(CMV)等の植物RNAウイルスを改変して作製されたベクターを用いて外来遺伝子を導入する方法である。
【0004】
これらの遺伝子導入技術によれば、交雑育種では付与することが困難な有用な形質が付与されたトランスジェニック植物を効率的に製造することができる。トランスジェニック植物の製造技術を、食糧用植物、飼料用植物、観賞用植物、環境用植物、実験用植物、資源用植物等に利用することは、農業、商業、工業を含む産業一般において、重要な意義がある。
【0005】
トランスジェニック植物の実用化への技術的問題点としては、次の3つの問題が挙げられる。第1の問題は、植物の遺伝子導入効率の低さである。すなわち、動物細胞の場合と異なり、植物細胞への外来遺伝子の導入効率が低いという問題がある。この問題を解決すべく、上述したように、様々な物理的、生物的な遺伝子導入方法が開発されている。しかし、植物においては、さらなる第2の問題がある。すなわち、外来遺伝子を植物のゲノムに導入できたとしても、導入した遺伝子の発現が、いわゆるジーンサイレンシングにより低下するという問題である。この問題を解決すべく、例えば、特殊なプロモーター配列を使用する方法(特許文献9参照)や、エキソヌクレアーゼ遺伝子を導入する方法(特許文献10参照)等が開発されている。
【0006】
トランスジェニック植物の実用化への第3の問題は、相同的組換え効率の低さである。特に、高等植物においては、導入された外来遺伝子の相同的組換え効率が低く、ジーンターゲッティングが困難であるという問題がある。植物における相同的組換えを向上させる従来法は、幾つか知られている。例えば、植物細胞内で、微生物のDNA複製・修復・組換えに関与するタンパク質を発現させることで相同的組換え効率を向上させる方法がある。具体的には、大腸菌のRecA遺伝子(特許文献11、非特許文献1参照)、RuvC遺伝子、RecQ遺伝子(特許文献12参照)、酵母菌のRad52遺伝子(特許文献13参照)、HOエンドヌクレアーゼ遺伝子、I−SceIエンドヌクレアーゼ遺伝子、アカパンカビのUVDE遺伝子(特許文献14参照)等の発現により、シロイヌナズナにおける相同的組換えの向上が図れることが開示されている。また、タバコにおける相同的組換えが、PARP阻害物質を用いることにより増加できることがわかっている(非特許文献2参照)。さらに、遺伝子の組み込みが相同的組換え又は非相同的組換えのいずれによるものであるかの選択を、ポジティブ選択マーカーとネガティブ選択マーカーを利用して容易に可能とする方法も開示されいる(特許文献15参照)。
【0007】
【特許文献1】特表平5-508316号公報
【特許文献2】特開2003-274777号公報
【特許文献3】特開平9-252674号公報
【特許文献4】特開平6-209779号公報
【特許文献5】特開昭60-70080号公報
【特許文献6】特許第1633546号公報
【特許文献7】特開2005-013164号公報
【特許文献8】特開2004-065009号公報
【特許文献9】特表2002-533057号公報
【特許文献10】特表2004−504839号公報
【特許文献11】WO97/08331号パンフレット
【特許文献12】特開2001-321169号公報
【特許文献13】特表2003-526376号公報
【特許文献14】特開2004-275012号公報
【特許文献15】WO2003/020940号パンフレット
【非特許文献1】Reiss Bら(1996)Proc Natl Acad Sci USA 93 (7): 3094-3098
【非特許文献2】Puchta Hら(1995)Plant J. 7: 203-210
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの従来技術を踏まえても、トランスジェニック植物の製造技術については、より効率的で、ジーンサイレンシングの抑制解除も可能な遺伝子導入方法についての新たな技術や、相同的組換え効率が向上したジーンターゲッティング方法についての新たな技術が望まれている。
【0009】
そこで、本発明は、より効率的で、ジーンサイレンシングの抑制解除が可能な植物の遺伝子導入方法の提供を第1の目的とし、相同的組換え効率が向上したジーンターゲッティング方法の提供を第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記第1の目的を達成するために、本発明の遺伝子導入方法は、植物に外来遺伝子を導入する遺伝子導入方法であって、DNA複製に伴うヌクレオソーム形成反応に関与する因子をコードする1又は2以上の遺伝子が機能発現抑制される植物の変異体を準備する準備工程と、前記変異体に外来遺伝子を含むポリヌクレオチドを導入して、外来遺伝子導入変異体を得る遺伝子導入工程とを含む遺伝子導入方法である。
【0011】
前記第2の目的を達成するために、本発明のジーンターゲッティング方法は、植物ゲノムの標的遺伝子の遺伝子座に、相同的組換えにより外来遺伝子を組込むジーンターゲッティング方法であって、標的遺伝子及び/又は該標的遺伝子に隣接する領域と相同な部分と外来遺伝子とを含むポリヌクレオチドを調製するポリヌクレオチド調製工程と、本発明の遺伝子導入方法により、前記ポリヌクレオチドを前記植物の変異体に相同的組換えにより導入して外来遺伝子導入変異体又は外来遺伝子導入植物を得る遺伝子導入工程とを含むジーンターゲッティング方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の遺伝子導入方法よれば、非相同的組換えによる導入効率が向上した外来遺伝子の導入により、例えば、非相同的組換えによる外来遺伝子導入トランスジェニック植物を効率よく製造できる。また、本発明の遺伝子導入方法によれば、植物ゲノムにランダムに挿入された外来遺伝子のジーンサイレンシングが、脱抑制される。
【0013】
本発明のジーンターゲッティング方法によれば、相同的組換えによる導入効率が向上した外来遺伝子の導入により、例えば、外来遺伝子導入トランスジェニック植物を効率よく製造できる。この相同組換えによる外来遺伝子導入トランスジェニック植物の製造方法であれば、植物ゲノム上の標的遺伝子に外来遺伝子が挿入されるから、ランダムに挿入される非相同的組換えに比べ、予測不能な危険を回避でき、人体や自然環境に対する安全性が向上する。
【0014】
また、本発明の方法に使用する植物の変異体は、ヌクレオソーム形成に関する因子をコードする遺伝子が機能発現抑制された変異体であるから、本発明のトランスジェニック植物は、直接的にDNA複製、複製、組換え等に関わる因子の変異体を用いる他の方法を用いる場合に比べて、遺伝情報そのものに変異が蓄積されるおそれが低いと考えられる。なぜなら、ヌクレオソーム形成反応に関与する因子は、遺伝子の塩基配列そのものに影響を与える因子ではなく、DNAの修飾、ヒストンの修飾、クロマチンの構造等といった、いわゆるエピジェネティックなクロマチン情報に関与する因子だからである。したがって、本発明によれば、ヒトや自然環境に対して安全性がさらにより一層向上し、例えば、食糧用、飼料用、観賞用、環境用、実験用、資源用等の実用的な目的に使用可能なトランスジェニック植物、及び、その効率的な製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の遺伝子導入方法は、変異体の準備工程及び外来遺伝子導入変異体を得る遺伝子導入工程に加え、さらに、前記外来遺伝子導入変異体から、前記変異体における遺伝子の機能発現抑制を除去し、外来遺伝子導入植物を得る抑制除去工程を含むことが好ましい。前記抑制除去工程は、前記外来遺伝子導入変異体を野生型植物と交配させることにより、機能発現抑制の原因となる遺伝子変異を野生型に戻す工程であることが好ましい。
【0016】
前記変異体において機能発現抑制される1又は2以上の遺伝子は、CAF−1の3つのサブユニットをコードする遺伝子のオーソロガス遺伝子、及び、ASF1遺伝子のオーソロガス遺伝子から選択される1又は2以上の遺伝子であることが好ましい。
【0017】
前記変異体において、前記遺伝子の機能発現抑制は、前記遺伝子の変異、前記遺伝子産物のドミナントネガティブ変異体の発現、又は、前記遺伝子に対するRNA干渉によりもたらされることが好ましい。
【0018】
前記ポリヌクレオチドの導入は、エレクトロポレーション、粒子打ち込み、ウイルス感染、及び、アグロバクテリウム感染から選択される手段により行われることが好ましい。
【0019】
前記植物は、食糧用植物、飼料用植物、観賞用植物、環境用植物、実験用植物及び資源用植物から選択される植物であることが好ましい。
【0020】
本発明の第1のトランスジェニック植物の製造方法は、本発明の遺伝子導入方法を用いて、外来遺伝子を非相同的組換えにより植物のゲノムに組込む工程を含むトランスジェニック植物の製造方法である。
【0021】
本発明の第2のトランスジェニック植物の製造方法は、本発明のジーンターゲッティング方法を用いて、外来遺伝子を相同的組換えにより植物のゲノムに組込む工程を含むトランスジェニック植物の製造方法である。
【0022】
本発明の第1のトランスジェニック植物は、前記本発明の第1のトランスジェニック植物の製造方法により製造された非相同的組換えによる外来遺伝子導入トランスジェニック植物である。
【0023】
本発明の第2のトランスジェニック植物は、前記本発明の第2のトランスジェニック植物の製造方法により製造された相同的組換えによる外来遺伝子導入トランスジェニック植物である。
【0024】
本発明の変異体は、本発明の遺伝子導入方法、本発明のジーンターゲッティング方法、又は、本発明のトランスジェニック植物の製造方法に用いる植物の変異体であって、DNA複製にともなうヌクレオソーム形成反応に関与する因子をコードする1又は2以上の遺伝子が機能発現抑制される植物の変異体である。
【0025】
本発明の変異体において機能発現抑制される1又は2以上の遺伝子は、CAF−1の3つのサブユニットをコードする遺伝子のオーソロガス遺伝子、及び、ASF1遺伝子のオーソロガス遺伝子から選択される1又は2以上の遺伝子であることが好ましい。
【0026】
本発明の変異体の遺伝子の機能発現抑制は、前記遺伝子の変異、前記遺伝子産物のドミナントネガティブ変異体の発現、又は、前記遺伝子に対するRNA干渉によりもたらされることが好ましい。
【0027】
本発明の変異体の植物は、食糧用植物、飼料用植物、観賞用植物、環境用植物、実験用植物及び資源用植物から選択される植物であることが好ましい。
【0028】
本発明の変異体の具体例として、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の変異体であって、ASF1a遺伝子(アクセッション番号:AB078339)及びASF1b遺伝子(アクセッション番号:AB078340)が機能発現抑制される変異体が挙げられ、その他の例として、シロイヌナズナの変異体であって、FAS1遺伝子(アクセッション番号:AB027229)、FAS2遺伝子(アクセッション番号:AB027230)及び、MSI1(アクセッション番号:NM_125208)の少なくとも一つの遺伝子が機能発現抑制される変異体が挙げられる。
【0029】
本発明において、「DNA複製に伴うヌクレオソーム形成反応に伴う因子」とは、細胞の染色体DNA複製過程において、複製DNAを速やかにヌクレオソームに変換する真核生物に普遍的な反応に関る因子群をいう。同因子群は、DNA複製装置(Shibahara 及び Stillman Cell 96: 575-85, 1999)やチェックポイント (Takamiら under revision in MCB) と機能的にリンクし、DNAの修飾、ヒストンの修飾、クロマチン構造等の塩基配列以外の情報(いわゆる、エピジェネティックなクロマチン修飾情報)の安定的な維持にも関与することが最近の研究により明らかにされている(Kayaら Cell, 104, 131-142, 2001、Onoら in preparation)。前記因子の具体例としては、CAF−1、ASF1等のヒストン結合タンパク質が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、今後、CAF−1と協同してDNA複製に伴うヌクレオソーム形成反応に関ることが示される因子を含む。これらの因子の候補としては、例えば、tousled、PCNA、TopoI、TopoII、ACF等が予想される。
【0030】
CAF−1(クロマチンアセンブリーファクター1)タンパク質は、ヒト細胞の核抽出物から、新規に合成されたDNAのヌクレオソームアセンブリーを促進する活性を指標に精製されたタンパク質である(Kaufmanら (1995) Cell, 81, 1105-1114.、Smithら(1989) Cell, 58, 15-25.)。CAF−1タンパク質は、p150、p60、p48といった3つのサブユニットからなる複合体であり、酵母からヒトの広範な生物種で保存され、さらに、シロイヌナズナにおいても保存されている(Kayaら Cell 104: 131-42, 2001)。シロイヌナズナのCAF−1タンパク質のオーソログは、それぞれ、FAS1(アクセッション番号:AB027229)、FAS2(アクセッション番号:AB027230)及び、MSI1(アクセッション番号:NM_125208)と呼ばれる。
【0031】
ASF1(アンチ−サイレンシングファンクション1)タンパク質は、S期後半で発現される酵母の遺伝子産物であって、過剰発現により、位置依存性のジーンサイレンシングの抑制解除を引き起こすものとして同定されたが、その後、CAF−1による複製に伴うヌクレオソーム形成反応を促進する活性を有するヒストンH3及びH4結合タンパク質として、再同定されたタンパク質である(Tylerら Nature 402; 555-560, 1999)。ASF1タンパク質は、CAF−1のp60サブユニットと相互作用する。ASF1タンパク質は、CAF−1と同様に、酵母からヒトまで保存されているが、シロイヌナズナのASF1オーソログは、遺伝子重複により、AtASF1a(アクセッション番号:AB078339)及びAtASF1b(アクセッション番号:AB078340)の2つが存在する(本発明では、それぞれ、ASF1a及びASF1bという)。シロイヌナズナASF1オーソロガス遺伝子であるASF1a及びASF1b遺伝子は、本発明者らが、初めて単離した遺伝子である。
【0032】
これらのDNA複製に伴うヌクレオソーム形成反応に伴う因子については、様々な研究がされ、次第にその機能が明らかになりつつある。しかし、これらの因子の機能を阻害すると、遺伝子導入頻度が上昇し、ジーンサイレンシングが解除されること、加えて、相同的組換え頻度が上昇することについては、先行技術により、何ら開示も示唆もされていない。
【0033】
本発明において、遺伝子が「機能発現抑制」されるとは、前記遺伝子配列の変異、転写阻害、翻訳阻害、タンパク質の活性化阻害等により、前記遺伝子及び遺伝子産物の機能発現が阻害されることを含む。本発明における「機能発現抑制」は、本来植物ゲノムに存在する遺伝子についてものもであって、植物へ導入された外来遺伝子のジーンサイレンシングとは異なるものを意味する。特定の遺伝子の機能発現を抑制する方法は、特に制限されず従来公知の方法を適用できる。例えば、該遺伝子配列に置換・欠失・付加(挿入)等の変異を導入して、完全なタンパク質の合成を阻害する方法、転写促進因子を阻害若しくは転写抑制因子を活性化することで、該遺伝子の転写を阻害する方法、RNA干渉を利用してタンパク質の合成を阻害する方法、該遺伝子産物のドミナントネガティブ変異体を過剰発現させる方法等が挙げられる。前記遺伝子配列に変異を導入する方法としては、例えば、宿主植物にT−DNAやトランスポゾンが挿入されたトランスジェニック植物ライブラリーを作製し、あるいは、既存の変異体ライブラリーをスクリーニングし、目的とする遺伝子座に前記T−DNAやトランスポゾンが挿入された変異体をスクリーニングする方法が挙げられる。前記RNA干渉の方法としては、例えば、アンチセンスRNA、短い阻害RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)等を利用する方法が挙げられる。ある遺伝子が「機能発現抑制される変異体」とは、上述の方法により、安定して又は一時的に、その遺伝子の機能発現が抑制された植物個体、植物組織又は植物細胞をいう。
【0034】
本発明において、「外来遺伝子」は、特に制限されず、宿主植物変異体に導入する任意の遺伝子をいう。前記外来遺伝子は、宿主植物を形質転換するための遺伝子、宿主植物細胞内で動作可能に連結したプロモーター及びターミネーター等を含むことができる。前記外来遺伝子は、選択マーカー遺伝子又は選択マーカー遺伝子発現カセットであってもよい。また、本発明において、「遺伝子」とは、生体機能と関連するDNAの任意の断片をいい、例えば、遺伝子は遺伝子発現に必要なコーディング配列、発現調節配列等を含む。
【0035】
本発明において、「外来遺伝子を含むポリヌクレオチド」とは、特に制限されないが、例えば、前記外来遺伝子が組込まれたベクターであって、例えば、従来公知のウイルスベクター、Tiプラスミド、バイナリーベクター等を使用して調製できる。前記ポリヌクレオチドは、前記外来遺伝子とは別に、適宜、選択マーカーを含んでもよい。なお、前記ヌクレオチドは、外来遺伝子そのものであってもよい。
【0036】
本発明において、「ジーンターゲッティング」とは、植物のゲノム上の標的遺伝子の遺伝子座に、相同的組換えを介して外来遺伝子を導入することをいう。
【0037】
本発明において、「トランスジェニック植物」は、遺伝子導入により植物のゲノムに組込まれた外来遺伝子を保持する植物細胞、植物組織又は植物個体をいう。外来遺伝子の組込みは、ランダムでも、相同的組換えによってもよいが、好ましくは、相同的組換えにより外来遺伝子が組込まれたトランスジェニック植物が好ましい。人体や環境に対する安全性が向上するからである。
【0038】
本発明において、「オーソロガス遺伝子」は、異なる種における対応する遺伝子をいう。また、オーソロガス遺伝子又はタンパク質を、単にオーソログともいう。あるタンパク質に対応する異なる種におけるオーソログは、例えば、前記タンパク質のアミノ酸配列や塩基配列との相同性を指標に決定することができる。すなわち、前記異なる種の遺伝子のうち、最も高い相同性を示す遺伝子を、オーソロガス遺伝子として決定できる。ここで、相同性とは、2本以上の配列間の同一性又は類似性のことをいう。
【0039】
本発明において、2本のポリヌクレオチド配列が「相同」であるとは、植物細胞内において、相同組換えが起こりうる程度の相同性を有することをいう。また、遺伝子のポリヌクレオチド配列、又は、タンパク質のアミノ酸配列が「相同」であるとは、その機能を維持できるほど十分に類似していることをいう。例えば、遺伝子塩基配列に、点変異、欠失又は付加による相違があるとしても、これらが前記遺伝子の機能に影響を与えないならば、両者は相同であるといえる。相違する塩基数としては、例えば、1〜20個、1〜15個、1〜10個、1〜5個、1〜3個、1〜2個又は1個である。また、2つ以上の配列において、少なくとも、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%若しくは約99%の同一性を示す場合、これらは相同であるといえる。また、2つのポリヌクレオチドが、ストリンジェントな条件でハイブリダイズする場合には、両者は相同といえる。前記ストリンジェントな条件としては、特に限定されないが、例えば、6×SSC、0.5%SDS、5×デンハルト、0.01%変性サケ精子核酸を含む溶液中、〔Tm−25℃〕の温度で一晩保温する条件等が挙げられる。前記Tmは、例えば、下記式により求められる。
Tm=81.5−16.6(log10[Na+])+0.41(%G+C)−(600/N)
上記式中、Nはオリゴヌクレオチドプローブの鎖長であり、%G+Cはオリゴヌクレオチドプローブプライマー中のグアニン及びシトシン残基の含有量である。
【0040】
本発明において、同一性及び類似性は、2以上の塩基配列又はアミノ酸配列間で、これらの配列を比較して決定される関係を参照する。同一性が、アライメントされた場合の同一文字列の割合を示すのに対し、類似性は、同一文字に加え、同類置換された文字も含む。同一性及び類似性は、従来公知の様々なコンピュータープログラムにより、容易に決定できる。
【0041】
本発明において、「植物」は、特に制限されず、例えば、食糧用、飼料用、観賞用、環境用、実験用および資源用等に用いられる植物を使用できる。また、宿主植物は、例えば、種子植物であって、裸子植物であってもよく、被子植物であってもよい。また、宿主植物は、単子葉植物であってもよく、双子葉植物であってもよい。食糧用、飼料用植物としては、例えば、コムギ、オオムギ、モロコシ、キビ、ライムギ、ライコムギ、トウモロコシ、コメ、オートムギ、サトウキビ等の単子葉植物、ナタネ、コショウソウ、シロイヌナズナ、キャベツ又はキャノーラ等のアブラナ科、ダイズ、アルファルファ、エンドウ、インゲンマメ又は落花生等のマメ科、ジャガイモ、タバコ、トマト、ナス又はコショウ等のナス科、ヒマワリ、レタス又はキンセンカ属等のキク科、メロン、カボチャ又はズッキーニ等のウリ科、及び、ニンジン等のセリ科等の双子葉植物を含む。観賞用植物としては、バラ等のバラ科、シャクナゲ、アザレア等のツツジ科、ショウジョウソウ及びクロトン等のトウダイグサ科、セキチク等のナデシコ科、ペチュニア等のナス科、アフリカスミレ等のゲスネリア属、ホウセンカ等のツリフネソウ科、ラン等のラン科、グラジオラス、アヤメ、フリージア、クロッカス等のアヤメ科、マリーゴールド等のキク科、ゼラニウム等のフウロソウ科、ドラセナ等のユリ科、イチジク等のクワ科を含む。環境用・資源用植物としては、各種樹木が挙げられ、実験用植物としては、シロイヌナズナ等が挙げられる。また、本発明において、「植物」は、植物個体のほか、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等の植物細胞や植物組織を含む。
【0042】
本発明の遺伝子導入方法の植物の変異体の準備工程における前記変異体として、本発明の植物の変異体を使用できる。本発明の植物の変異体を製造する方法は、特に制限されず、例えば、前述の遺伝子の機能発現を抑制できる方法を用いて製造できる。
【0043】
本発明の遺伝子導入方法の遺伝子導入工程は、大きく2つの段階に分けることができる。まず、外来遺伝子を前記変異体に導入する第1段階と、前記外来遺伝子が導入された宿主変異体細胞を選別し、個体へ再分化させる第2段階である。前記第1段階における遺伝子導入手段は、特に制限されず、従来公知の方法、例えば、パーティクルガン法等の直接的・物理的手段や、アグロバクテリウム法等の間接的・生物的手段を用いることができる。一旦、外来遺伝子が導入された変異体細胞が得られれば、次の第2段階において、その細胞から植物変異体を再生させ、有性生殖又は無性生殖により、子孫を得ることが可能となる。また、前記変異体における遺伝子の機能発現抑制が一時的なものである場合には、前記変異体は、自然に野生型に戻るから、前記第2段階で、外来遺伝子が導入された植物を得ることもできる。
【0044】
しかし、前記変異体における遺伝子の機能発現抑制が、例えば、遺伝子配列の変異等によるものである場合には、本発明の遺伝子導入方法は、前記準備工程、遺伝子導入工程に続く第3の工程として、さらに、前記遺伝子導入工程で得た外来遺伝子導入変異体から、前記遺伝子の機能発現抑制を除去する除去工程を含むことが好ましい。この除去工程により、野生型のバックグラウンドを有する前記外来遺伝子導入トランスジェニック植物を得ることができる。前記機能発現抑制を除去し野生型のバックグラウンドに戻す方法としては、例えば、外来遺伝子が導入された変異体と、野生型株との戻し交雑が挙げられ、その方法は、従来公知の方法を採用できる。
【0045】
本発明のジーンターゲッティング方法は、ポリヌクレオチド調製工程で調製される標的遺伝子及び/又は該標的遺伝子に隣接する領域と相同な部分と外来遺伝子とを含む外来遺伝子を含むポリヌクレオチドを、本発明の遺伝子導入方法を用いて本発明の変異体に導入することで実施できる。前記相同な部分は、導入する外来遺伝子の両端に位置することが好ましい。相同的組換えが生じた細胞の選択を容易化するため、前記ポリヌクレオチドは、さらに、従来公知の2段階選択が可能な2つの選択マーカー遺伝子を含むことが好ましい。第1の選択マーカーは、前記ポリヌクレオチドがゲノムに組込まれたことを確認できるポジティブ選択マーカーであり、第2の選択マーカーは、非相同的組換えにより組込まれたものを排除できるネガティブ選択マーカーである。この場合、導入するポリヌクレオチドは、直線状であってもよく、環状であってもよい。また、前記ポジティブ選択マーカーは、外来遺伝子として使用できる。
【0046】
本発明の第1のトランスジェニック植物の製造方法は、本発明の遺伝子導入方法を用いて、外来遺伝子を非相同的組換えにより植物のゲノムに組込む工程を含む製造方法であって、本発明の第1のトランスジェニック植物である非相同的組換えによる外来遺伝子導入トランスジェニック植物を製造できる。
【0047】
本発明の第2のトランスジェニック植物の製造方法は、本発明の遺伝子導入方法を用いて、外来遺伝子を相同的組換えにより植物のゲノムに組込む工程を含む製造方法であって、本発明の第2のトランスジェニック植物である相同的組換えによる外来遺伝子導入トランスジェニック植物を製造できる。
【0048】
本発明のトランスジェニック植物のバックグラウンドは、本発明の変異体のものであってもよく、野生型に戻されたものであってもよい。また、本発明のトランスジェニック植物は、上記2つのいずれかで方法で製造されたトランスジェニック植物の子孫、クローン、並びに、これらから得られる繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を含む。
【0049】
植物としてシロイヌナズナを用いる場合、本発明の変異体の第1の好ましい態様は、2つのASF1オーソロガス遺伝子、ASF1a(アクセッション番号:AB078339)及びASF1b(アクセッション番号:AB078340)の両方の遺伝子の機能発現が抑制された2重変異体である。シロイヌナズナのASF1オーソロガス遺伝子は、遺伝子重複した2つの遺伝子、ASF1aとASF1bとが存在しており、本発明の変異体として用いるためには、どちらか一方の変異のみでは足りず、両遺伝子についての2重変異体とする必要がある。
【0050】
また、本発明の変異体の第2の好ましい態様は、CAF−1オーソロガス遺伝子であるFAS1遺伝子(アクセッション番号:AB027229)、FAS2遺伝子(アクセッション番号:AB027230)及び、MSI1(アクセッション番号:NM_125208)の少なくとも一つの遺伝子が機能発現抑制された変異体である。
【0051】
さらに、その他の本発明の変異体の好ましい態様は、ASF1a遺伝子又はASF1b遺伝子の機能発現抑制と、FAS1遺伝子、FAS2遺伝子及びMSI1遺伝子のいずれか1つの機能発現抑制との2重変異体である。
【0052】
以下の実施例を用いて本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例1】
【0053】
シロイヌナズナfas2変異体における導入遺伝子のサイレンシング脱抑制
高等植物における導入された遺伝子の発現は、多くの場合、転写後ジーンサイレンシング(PTGS)又は転写ジーンサイレンシング(TGS)のいずれかにより抑制されている。トランスジェニックシロイヌナズナL5株は、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子が導入されているが、そのGUS遺伝子は、転写レベルでサイレンシングを受けており、野生型のバックグラウンドでは、ほとんどの場合検出されない。そこで、野生型L5株と、fas2変異体又はmom1変異体とを掛け合わせてGUS遺伝子の発現を確認した。前記mom1変異体は、対照であって、転写ジーンサイレンシング(TGS)が欠損した変異体である。掛け合わせて得たF2及びF3世代の子孫のL5株fas2ホモ接合体及びL5株mom1ホモ接合体について、GUSの発現を検出した。GUS発現の検出は、従来公知の組織化学的染色により行った。
【0054】
その結果、野生型L5株では、GUSの発現は、僅かな例外を除き、確認できなかった。その様子を図1Aに示す。同図の囲みの写真は、GUSを発現した例外的な細胞の写真である。また、mom1ホモ接合体では、以前の報告にあるとおり、植物体全体で均一に発現していた(図示せず)。一方、fas2ホモ接合体では、GUSの発現は確認されたものの、mom1ホモ接合体とは対照的に、発現している領域のサイズは非常に小さく、その領域のサイズや大きさは、fas2ホモ接合体個体間でさまざまであった。その様子を図1B及びCに示す。これらの結果は、fas2変異体において、導入遺伝子のジーンサイレンシングが、偶発的に、抑制解除されていることを示す。
【実施例2】
【0055】
シロイヌナズナasf1a;asf1b変異体におけるジーンサイレンシングの脱抑制
1.シロイヌナズナのASF1オーソログの同定と単離
ASF1ファミリーのタンパク質は、酵母からヒトまでの様々な生物において保存されている。そこで、既知のASF1の配列に基づき、データベースから、2種類のASF1のシロイヌナズナ(arabidopsis)オーソログを予測した。第1染色体上の短い方のオーソログを、AtASF1aと、第5染色体上の長い方のオーソログを、AtASF1bと命名し、以下、それぞれ、ASF1a及びASF1bと呼ぶ。
【0056】
データベースに基づき設計したプライマーを用いた逆転写PCR(RT−PCR)により、ASF1a及びASF1bのcDNAを単離した。単離したそれぞれのcDNAについて、cDNA末端の高速増幅法(RACE−PCR)を行い、5’及び3’非翻訳領域を決定した。その結果、前記cDNAが、それぞれ、196アミノ酸(予測分子量22.1kDa)のORFを含むASF1aの完全長cDNAであること、及び、218アミノ酸(予測分子量24.7kDa)のORFを含むASF1bの完全長cDNAであることを確認した。ASF1a遺伝子及びASF1b遺伝子の配列を、それぞれ、配列番号1及び2に示す。
【0057】
2.ASF1の機能欠損変異体のスクリーニングと単離
シロイヌナズナにおけるASF1の機能欠損変異体を得るため、T−DNAが挿入されたトランスジェニック植物ライブラリーのPCRを利用したスクリーニング及びデータベースサーチを行った。その結果、T−DNAがASF1a遺伝子のゲノム領域に挿入されたasf1a−1変異体、及び、T−DNAがASF1b遺伝子のゲノム領域に挿入されたasf1b−2変異体を単離した。それぞれの変異体におけるT−DNAのゲノムにおける挿入位置を、図2の模式図に示す。同図に示すとおり、asf1a−1変異体において、T−DNAは、ASF1a遺伝子のエキソン2とエキソン3との間に挿入されており、60bpのゲノムDNAが欠失していた。また、asf1b−2変異体において、T−DNAは、ASF1b遺伝子のエキソン1とエキソン2との間に挿入されており、12bpのゲノムDNAが欠失していた。asf1a−1変異体は、ウィスコンシン大学のAKF(arabidopsis Knockout Facility)のライブラリーから単離した、Wassilewskiija(Ws)生態型シロイヌナズナにpD991由来のT−DNAが挿入された変異体である。また、asf1b−2変異体は、かずさDNA研究所のライブラリーから単離した、Columbia(Col)生態型シロイヌナズナにpPCVICEn4HPT由来のT−DNAが挿入された変異体である。本実施例で使用したasf1a及びasf1b変異体は、これらのF2世代より後代のホモ接合変異体である。
【0058】
ASF1a変異体では、ASF1a遺伝子の全長cDNAが、RT−PCRにより確認でなかった。また、RT−PCRにより確認された不完全なエキソン1及びエキソン2は、微量であった。したがって、asf1a変異体は、ASF1a遺伝子が、機能を欠失しているか、又は、非常に弱くなっているASF1aの機能欠損変異体であることが示された。同様に、ASF1b変異体でも、ASF1b遺伝子の全長cDNAが、RT-PCRによっては確認できず、RT-PCRにより確認された不完全なエキソン1は、微量であった。したがって、asf1b変異体は、ASF1b遺伝子が、機能を欠失しているか、又は、非常に弱くなっているASF1bの機能欠損変異体であることが示された。
【0059】
3.asf1a;asf1b変異体の作製
上記Ws生態型のasf1a−1変異体及びCol生態型のasf1b−2変異体を用いて、これらの二重変異体を作製した。Ws型に3回バッククロスしたasf1a−1(wB3)ホモ変異体、又は、Ws型に3回バッククロスした後、さらにCol型に3回バッククロスしたasf1a−1(cB3wB3)ホモ変異体と、Col型に3回バッククロスしたasf1b−2(wB3)ホモ変異体とを掛け合わせ、F2/F3世代で、T−DNAのホモ・ヘテロの遺伝子型をPCRを用いて特定し、二重変異体を作製した。
【0060】
4.asf1a;asf1b変異体における部分的な転写ジーンサイレンシング(TGS)の抑制解除
TSI反復配列は、セントロメア近傍領域に位置する配列である。TSI反復配列は、野生型シロイヌナズナにおいて、転写レベルでサイレンシングを受けているが、多くのTGS変異体において、活性化されて転写されている。前記TGS変異体としては、例えば、前記mom1変異体、bru1変異体、ddm1変異体が知られている。そこで、野生型、asf1a変異体、asf1b変異体、及び、asf1a;asf1b変異体について、TSI反復配列の転写が行われているか否かを、総RNAのRT−PCRを利用して確認したところ、asf1a;asf1b変異体のみで、非常に弱い発現が認められた。次に、野生型、及び、ddm1、fas2、asf1a、asf1b、asf1a;asf1bの各変異体の15日目のシードリングから総RNAを調製し、DNase処理後、RT−PCR(+RT)又はPCR(−RT)にかけ、TSI転写産物を検出した。その結果を図3Aに示す。同図において、AP2は、増幅反応のコントロールである。
【0061】
図3Aに示すとおり、ddm1及びfas2変異体の2つのシードリングからは、再現性をもってTSI転写産物が検出できた(図3レーン3〜6)。一方、野生型、asf1a及びasf1b変異体からは、シグナルが検出されなかった(図3レーン1,2及び7〜10)。そして、asf1a;asf1b変異体では、一方のシードリングからのみ、弱いシグナルが検出された。PCR(−RT)ではシグナルが検出されないことから、このシグナルは、ゲノムDNAの混入に由来するものではない。よって、asf1a;asf1b変異体の一部では、転写ジーンサイレンシング(TGS)の抑制解除が起きていることが確認された。
【0062】
次に、TSI配列が転写されるシードリング個体の割合が経時的に増加することを確認した。野生型、ddm1、fas2、及び、asf1a;asf1bの各変異体について、5日目又は15日目のシードリングから総RNAを調製し、同様にRT−PCRを利用して、TSI配列の転写を確認した。その結果を図3Bに示す。図3に示すとおり、asf1a;asf1b変異体では、5日目のシードリングでは、TSI配列の転写が確認されたのは、22個体中1個体のみであったが、15日目では、22個体中5個体となった。このように経時的に、TGSの抑制解除の割合が増加する傾向は、fas2及びasf1a;asf1b変異体で一致した。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上説明したとおり、本発明の方法によれば、導入効率が向上し、ジーンサイレンシングが脱抑制した植物の遺伝子導入方法が可能である。さらに、本発明によれば、植物のジーンターゲッティング方法が可能であり、より安全性の高いトランスジェニック植物の製造が可能である。したがって、本発明は、農業、商業、工業を含む幅広い産業分野において有用であり、とりわけ、遺伝子改変(GM)作物の開発分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1Aは、野生型におけるGUS発現の様子の一例を示す写真であって、図1B及びCは、fas変異体におけるGUS発現の様子の一例を示す写真である(実施例1)。
【図2】図2は、asf1a変異体及びasf1b変異体におけるT−DNAの挿入位置を示す説明図である(実施例2)。
【図3】図3Aは、TSI転写産物をRT−PCRにて検出した結果を示す図である(実施例2)。図3Bは、TSI配列の転写が検出された個体の割合を経時的に表したグラフである(実施例2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物に外来遺伝子を導入する遺伝子導入方法であって、
DNA複製に伴うヌクレオソーム形成反応に関与する因子をコードする1又は2以上の遺伝子が機能発現抑制される植物の変異体を準備する準備工程と、
前記変異体に、外来遺伝子を含むポリヌクレオチドを導入して外来遺伝子導入変異体を得る遺伝子導入工程とを含む遺伝子導入方法。
【請求項2】
さらに、前記外来遺伝子導入変異体から、前記遺伝子の機能発現抑制を除去して外来遺伝子導入植物を得る抑制除去工程を含む請求項1に記載の遺伝子導入方法。
【請求項3】
前記抑制除去工程が、前記外来遺伝子導入変異体を野生型植物と交配させることにより、機能発現抑制の原因となる遺伝子変異を野生型に戻す工程である請求項2に記載の遺伝子導入方法。
【請求項4】
前記変異体において機能発現抑制される1又は2以上の遺伝子が、CAF−1の3つのサブユニットをコードする遺伝子のオーソロガス遺伝子、及び、ASF1遺伝子のオーソロガス遺伝子からなる群から選択される請求項1から3のいずれかに記載の遺伝子導入方法。
【請求項5】
前記遺伝子の機能発現抑制が、前記遺伝子の変異、前記遺伝子産物のドミナントネガティブ変異体の発現、又は、前記遺伝子に対するRNA干渉によりもたらされる請求項1から4のいずれかに記載の遺伝子導入方法。
【請求項6】
前記ポリヌクレオチドの導入が、エレクトロポレーション、粒子打ち込み、ウイルス感染、及び、アグロバクテリウム感染からなる群から選択される手段により行われる請求項1から5のいずれかに記載の遺伝子導入方法。
【請求項7】
前記植物が、食糧用植物、飼料用植物、観賞用植物、環境用植物、実験用植物及び資源用植物からなる群から選択される植物である請求項1から6のいずれかに記載の遺伝子導入方法。
【請求項8】
植物ゲノムの標的遺伝子の遺伝子座に、相同的組換えにより外来遺伝子を組込むジーンターゲッティング方法であって、
標的遺伝子及び/又は該標的遺伝子に隣接する領域と相同な部分と外来遺伝子とを含むポリヌクレオチドを調製するポリヌクレオチド調製工程と、
請求項1から7のいずれかに記載の遺伝子導入方法により、前記ポリヌクレオチドを前記植物の変異体に相同的組換えにより導入して外来遺伝子導入変異体又は外来遺伝子導入植物を得る遺伝子導入工程とを含むジーンターゲッティング方法。
【請求項9】
トランスジェニック植物の製造方法であって、請求項1から7のいずれかに記載の遺伝子導入方法を用いて、外来遺伝子を非相同的組換えにより植物のゲノムに組込む工程を含むトランスジェニック植物の製造方法。
【請求項10】
トランスジェニック植物の製造方法であって、請求項8に記載のジーンターゲッティング方法を用いて、外来遺伝子を相同的組換えにより植物のゲノムに組込む工程を含む製造方法。
【請求項11】
トランスジェニック植物であって、請求項9又は10に記載の方法により製造されたトランスジェニック植物。
【請求項12】
請求項1から7のいずれかに記載の遺伝子導入方法、請求項8に記載のジーンターゲッティング方法又は請求項9若しくは10に記載のトランスジェニック植物の製造方法に用いる植物の変異体であって、DNA複製に伴うヌクレオソーム形成反応に関与する因子をコードする1又は2以上の遺伝子が機能発現抑制される植物の変異体。
【請求項13】
機能発現抑制される1又は2以上の遺伝子が、CAF−1の3つのサブユニットをコードする遺伝子のオーソロガス遺伝子、及び、ASF1遺伝子のオーソロガス遺伝子からなる群から選択される請求項12に記載の植物の変異体。
【請求項14】
遺伝子の機能発現抑制が、前記遺伝子の変異、前記遺伝子産物のドミナントネガティブ変異体の発現、又は、前記遺伝子に対するRNA干渉によりもたらされる請求項12又は13に記載の植物の変異体。
【請求項15】
植物が、食糧用植物、飼料用植物、観賞用植物、環境用植物、実験用植物及び資源用植物からなる群から選択される植物である請求項12から14のいずれかに記載の変異体。
【請求項16】
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の変異体であって、ASF1a遺伝子(アクセッション番号:AB078339)及びASF1b遺伝子(アクセッション番号:AB078340)が機能発現抑制される請求項12に記載の変異体。
【請求項17】
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の変異体であって、FAS1遺伝子(アクセッション番号:AB027229)、FAS2遺伝子(アクセッション番号:AB027230)及び、MSI1(アクセッション番号:NM_125208)の少なくとも一つの遺伝子が機能発現抑制される請求項12に記載の変異体。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−246744(P2006−246744A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−65442(P2005−65442)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【出願人】(504202472)大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 (119)
【Fターム(参考)】