説明

遺伝子発現の定量方法

【課題】対象遺伝子すなわち「標的核酸配列」と比較して1塩基の差を有するように設計されている標準を用いて、試料中の標的核酸の量を測定する方法の提供。
【解決手段】対象遺伝子すなわち「標的核酸配列」と比較して1塩基の差を有するように設計されている標準を、例えば、変異部位の右側における塩基伸長反応により、標準核酸と試験核酸試料の差を「強化する」方法を併用することで、標準核酸と標的核酸の同じ効率による増幅が可能となり、かつ標的核酸の定量が促進される。この後に、「強化された」標準核酸および標的核酸試料を定量する手段によって標的核酸の量を決定する。好ましい態様では、定量手段は質量分析である。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
さまざまな良性および悪性の腫瘍、神経疾患、心疾患、および自己免疫疾患などの、いくつかの病理学的症状で発現の異なる遺伝子の検出および定量は、これらの病理学的症状の診断、予後予測、および治療に有用な場合がある。遺伝子発現の定量は、感染症の診断、および薬物またはトキシンの分子レベルにおける作用を追跡する段階にも有用な場合がある。例えば、遺伝子発現データを用いて、薬剤またはトキシンの薬理機構を決定することができる(Libutti et al., Microarray technology and gene expression analysis for the study of angiogenesis. Expert Opin Biol Ther. 2002 Jun; 2 (5): 545-56(非特許文献1))。
【0002】
転写物を検出および定量する方法には現在、ノーザンブロットハイブリダイゼーション、リボヌクレアーゼ保護法、および逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)に基づく方法などがある。しかしこれらの方法は、感度が低いこと(RT-PCRを除く)に加えて、さまざまな供給源に由来する試料中の個々の転写物の相対発現変化の粗い推定のみに有用である。RT-PCRに基づくさまざまな手法は、診断時に最も適した定量法である。というのは、このような方法は感度が極めて高いために、診断検査に望ましい必要試料サイズが少量で済むからである。
【0003】
試料中の転写物の絶対コピー数の定量は、試料間の遺伝子発現の比較、さらには同一試料中における遺伝子発現の比較時の必要条件である。しかし、核酸のコピー数の定量は、PCRに基づく方法では困難である。なぜなら、PCR反応には特有の非線型性があるからである。PCRによる増幅は、指数期から、試薬の消費または酵素の不活性化に伴い定常期へと変化する。PCRの指数期は、さまざまな時点におけるPCR反応物の採取を行ったり、多様な希釈段階のテンプレートを対象にPCRを実施したりするために個別に決定しなければならない場合がある。また増幅効率にはテンプレート間で差があるので、異なるPCR産物の初期量を、たとえ直線範囲にある場合であっても直接比較することはできない。PCR産物の検出は従来、増幅完了後に実施されてきた。典型的には、PCR反応産物のアリコートをアガロースゲル電気泳動でサイズに基づいて分離し、臭化エチジウムで染色し、紫外光で可視化する。あるいは、プライマーを蛍光色素または放射性分子で標識することができる。試料間のバンド強度を比較することで、増幅対象のテンプレートの相対初期濃度を質的には推定できるが、この方法は定量的ではなく、絶対コピー数は決定されない。
【0004】
PCRおよび相補的DNA(cDNA)アレイ(Shalon et al., Genome Research 6 (7): 639-45, 1996(非特許文献2); Bernard et al., Nucleic Acids Research 24 (8): 1435-42, 1996(非特許文献3))、プライマー伸長反応に基づく固相ミニシークエンシング法(米国特許第6,013,431号(特許文献1), Suomalainen et al., Mol. Biotechnol. Jun; 15 (2): 123-31, 2000(非特許文献4))、イオン対高速液体クロマトグラフィー(Doris et al., J. Chromatogr. A May 8; 806 (1): 47-60, 1998(非特許文献5))、および5'ヌクレアーゼアッセイ法またはリアルタイムRT-PCR(Holland et al., Proc Natl Acad Sci USA 88: 7276-7280, 1991(非特許文献6))を用いるRNAの定量を始めとする、いくつかの定量RT-PCRに基づく方法が報告されている。
【0005】
mRNA転写物の高感度で正確な定量を可能とし、自動化およびスケールアップして大量の試料の検討に容易に対応可能であり、かつPCRによる増幅に伴う問題を克服する方法を開発することが有用であると考えられる。このような方法では、ウイルス、細菌、および寄生虫による、さまざまな病理学的症状、ならびにさまざまな良性および悪性の腫瘍、神経疾患、心疾患、ならびに自己免疫疾患の診断が可能となると考えられる。このような方法は、診断、予後予測、および治療の目的で、対象転写産物の定量を可能にすると考えられ、また究極的には薬理ゲノム学的な応用を促すと考えられる。このような方法はまた、遺伝子発現に及ぼす作用に関する大量の薬剤のスクリーニングを可能とするとも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,013,431号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Libutti et al., Microarray technology and gene expression analysis for the study of angiogenesis. Expert Opin Biol Ther. 2002 Jun; 2 (5): 545-56
【非特許文献2】Shalon et al., Genome Research 6 (7): 639-45, 1996
【非特許文献3】Bernard et al., Nucleic Acids Research 24 (8): 1435-42, 1996
【非特許文献4】Suomalainen et al., Mol. Biotechnol. Jun; 15 (2): 123-31, 2000
【非特許文献5】Doris et al., J. Chromatogr. A May 8; 806 (1): 47-60, 1998
【非特許文献6】Holland et al., Proc Natl Acad Sci USA 88: 7276-7280, 1991
【発明の概要】
【0008】
本発明は、対象遺伝子すなわち「標的核酸配列」と比較して1塩基の差を有するように設計されている標準を用いて、試料中の標的核酸の量を測定する方法に関する。このような標準を、例えば、変異部位の右側における塩基伸長反応により、標準核酸と試験核酸試料間の差を「強化する」方法を併用することで、標準核酸と標的核酸の同じ効率による増幅が可能となり、かつ標的核酸の定量が促進される。この後に、「強化された」標準核酸および標的核酸試料を定量する手段によって標的核酸の量を決定する。好ましい態様では、定量手段は質量分析である。
【0009】
本発明の方法は高感度であり、正確であり、また再現性が高く、ならびにPCRサイクル数に依存しないので、解析が大きく単純化される。本発明の方法では、同一遺伝子の異なる対立遺伝子を同時に測定することが可能であり、遺伝子発現の絶対的な定量が可能であるためにデータを他の実験と直接比較することが可能であり、またハイスループット解析に応用可能であり、またPCRに関する最適化が実質的に必要ない点が独特である。また、本発明の方法では、ヒトの体液(血清、血漿など)などの生物試料中のウイルス、細菌、および寄生虫などの感染性物質(infectious agent)のコピー数の正確な決定が可能である。
【0010】
本発明は、既知濃度の核酸標準を生物試料に添加する段階(標準は、標的核酸配列に対して1塩基の差をもつように設計されている);標的核酸および標準核酸を含む試料を(例えばポリメラーゼ連鎖反応で)増幅する段階、過剰なdNTPを例えば、増幅後の試料をホスファターゼ(例えばエビアルカリホスファターゼ)で処理して除去する段階、ならびに結果として(例えば標的核酸および標準核酸試料中の異なる塩基を伸長させることで)標準核酸と試験核酸間の核酸の差を強化する段階を含む、生物試料中の標的遺伝子/核酸、または複数の標的遺伝子/核酸の量を定量する方法を提供する。標準核酸および標的核酸は、2種類の異なる産物(典型的には1〜2個の塩基の差を有する)を生じ、これを後に定量する。転写物の濃度は、増幅された試料中に存在する標準の量を元に計算することができる。
【0011】
例えば本発明は、感染性物質の検出を可能とし、またさらに重要なことには、その定量を可能とする。本発明は、約100種類の感染性物質を384フォーマットのシリコンチップ上で定量することが可能なハイスループットの方法に容易に用いることができる。
【0012】
1つの好ましい態様では、このような定量は、質量スペクトルのピークの比を用いて標準核酸と標的核酸の比を計算するMALDI-TOF質量分析(例えばSequenom社のマスアレイ(MassArray)(商標)システムを使用)で、「強化された」標的および標準核酸産物のさまざまな質量を元に実施される。転写物の濃度は、増幅前に使用された(試料中に添加された)標準の初期量を元に計算することができる。
【0013】
1つの好ましい態様では、標準核酸と標的核酸間における核酸の差の強化をプライマー伸長法で行う。
【0014】
別の態様では、PCR後の標的と標準間における核酸の差の強化を、塩基伸長時に蛍光標識dNTP/ddNTPを用いることで行う。
【0015】
さらに別の態様では、PCR後の標的と標準間における核酸の差の強化を、プライマー伸長反応で標的核酸および標準核酸中に異なって取り込まれるさまざまな色素標識ddNTPを用いて行う。
【0016】
1つの態様では、PCR後の標的と標準間の核酸の差の強化をリアルタイムPCRで行う。
【0017】
別の態様では、PCR後の標的と標準間の核酸の差の強化を、標的または標準のいずれかに特異的な2つのオリゴヌクレオチドがハイブリダイゼーション用に設計されているハイブリダイゼーションに基づく方法で行う。
【0018】
別の態様では、PCR後の標的と標準間の核酸の差の強化を、ピロシークエンス法で行う。
【0019】
別の態様では、PCR後の標的と標準間の核酸の差の強化を、内部基準として人工的な1ヌクレオチド多型(SNP)を用いるサードウェーブ社のインベーダー(invader)法で行う。別の態様では、ピロシークエンス法を用いる際に、事前の増幅は必要ない。
【0020】
1つの態様では、標的核酸は、少なくとも1種類の感染性物質に由来する核酸である。
【0021】
さらに別の態様では本発明は、少なくとも1つ(好ましくは複数)の標的核酸と少なくとも1つの核酸が異なるように設計された少なくとも1つ(好ましくは複数)の異なるプライマーを、異なるバイアルに含むか、または好ましくは全ての標準核酸を上述の標準核酸と、対応する標的核酸間の差を強化するのに適したPCRもしくは直接的な強化反応に適した緩衝液中に既知の所定濃度で含む1本のバイアルに含むキットを提供する。本発明のキットはまた、反応条件、および1つまたは複数の標準核酸を用いる1つまたは複数の標的核酸の量の測定について記載したマニュアルも含む。本発明で対象とされるキットは、生物試料中の感染性物質の量を決定するためのキット、および薬物もしくは薬剤の投与後に、または癌などの疾患状態の結果として増加もしくは減少すると予想される1つまたは複数の転写産物の量を決定するためのキットを含むがこれらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】遺伝子発現を測定するためのリアル競合PCRおよび質量分析法のフローチャートを示す。単純化のために、一方のDNA鎖のみを示す。また伸長されるオリゴは一般に、フローチャートに示すような7塩基ではなく20塩基程度である。
【図2】同じ濃度の同じオリゴに関するピーク面積の分布を示す。0.3 μMのオリゴ47954(5'-ATGGCCACAGTTGTATCA-3')を使用し、15 nLを、3-ヒドロキシピコリン酸(HPA)のマトリックスを事前にスポットしておいたシリコンチップ上へのスポッティングに用いた。同じチップ上の異なる位置にスポットした同じ濃度のオリゴの絶対ピーク面積から、適度の多様性の存在が伺われる(平均ピーク面積=12395(任意の単位)、標準偏差=3737)。
【図3】図3A及びBは、質量スペクトルのピーク面積比がオリゴ濃度比と正確に相関することを示す(Kai Tang (Sequenom)の好意による)。異なる比(1:1、1:2、1:5、1:10、1:20)の2種類のオリゴ混合物の溶液(4.5 nL)をマスアレイ(MassArray)(商標)(Sequenom)を用いて解析した。図3Aは質量スペクトルを示し、図3Bは、質量スペクトルのシグナル強度(ピーク面積)の比に対する実際の濃度比のプロットを示す。
【図4A】図4Aは、1塩基のみが異なり、異なる比で混合した2種類のDNAテンプレートの質量スペクトルを示す。図4Aでは比は1:1であり、図4Bでは比は3:1であり、図4Cでは比は10:1であり、図4Dでは比は1:3であり、図4Eでは比は1:10であるが、総濃度(2*10-7 μg/μL)は一定である。テンプレートをPCR(30サイクル)、塩基伸長(40サイクル)で増幅した後に、3-ヒドロキシピコリン酸(HPA)のマトリックスを事前にスポットしておいたシリコンチップ上にスポットし、MALDI-TOFで解析した。
【図4B】図4Bは、1塩基のみが異なり、異なる比で混合した2種類のDNAテンプレートの質量スペクトルを示す。図4Aでは比は1:1であり、図4Bでは比は3:1であり、図4Cでは比は10:1であり、図4Dでは比は1:3であり、図4Eでは比は1:10であるが、総濃度(2*10-7 μg/μL)は一定である。テンプレートをPCR(30サイクル)、塩基伸長(40サイクル)で増幅した後に、3-ヒドロキシピコリン酸(HPA)のマトリックスを事前にスポットしておいたシリコンチップ上にスポットし、MALDI-TOFで解析した。
【図4C】図4Cは、1塩基のみが異なり、異なる比で混合した2種類のDNAテンプレートの質量スペクトルを示す。図4Aでは比は1:1であり、図4Bでは比は3:1であり、図4Cでは比は10:1であり、図4Dでは比は1:3であり、図4Eでは比は1:10であるが、総濃度(2*10-7 μg/μL)は一定である。テンプレートをPCR(30サイクル)、塩基伸長(40サイクル)で増幅した後に、3-ヒドロキシピコリン酸(HPA)のマトリックスを事前にスポットしておいたシリコンチップ上にスポットし、MALDI-TOFで解析した。
【図4D】図4Dは、1塩基のみが異なり、異なる比で混合した2種類のDNAテンプレートの質量スペクトルを示す。図4Aでは比は1:1であり、図4Bでは比は3:1であり、図4Cでは比は10:1であり、図4Dでは比は1:3であり、図4Eでは比は1:10であるが、総濃度(2*10-7 μg/μL)は一定である。テンプレートをPCR(30サイクル)、塩基伸長(40サイクル)で増幅した後に、3-ヒドロキシピコリン酸(HPA)のマトリックスを事前にスポットしておいたシリコンチップ上にスポットし、MALDI-TOFで解析した。
【図4E】図4Eは、1塩基のみが異なり、異なる比で混合した2種類のDNAテンプレートの質量スペクトルを示す。図4Aでは比は1:1であり、図4Bでは比は3:1であり、図4Cでは比は10:1であり、図4Dでは比は1:3であり、図4Eでは比は1:10であるが、総濃度(2*10-7 μg/μL)は一定である。テンプレートをPCR(30サイクル)、塩基伸長(40サイクル)で増幅した後に、3-ヒドロキシピコリン酸(HPA)のマトリックスを事前にスポットしておいたシリコンチップ上にスポットし、MALDI-TOFで解析した。
【図5】推定DNA濃度比と、測定DNA濃度比(ピーク面積の比で表される)の間に相関が見られることを示す。PCRによる増幅は、それぞれ20サイクル、30サイクル、および40サイクルであり、結果はPCRサイクル数に依存していない。各データ点について4回繰り返し(n=4)、エラーバーを示す。
【図6】図6A〜Hは、リアル競合PCRおよび質量分析による遺伝子発現(GAPDH、HMBS、およびCXCR4)の解析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明の詳細な説明
本発明は、遺伝子発現または試料中の核酸の量の新しい測定法に関する。この方法は、競合PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)と塩基伸長、そして後の測定段階を組み合わせたものである。この方法で、特定の遺伝子のコピー数を直接測定することができるほか、異なる試料に由来する特定の遺伝子の発現の相対的な増加または減少の調節を比較することができる。
【0024】
既知濃度の標準核酸(DNAまたはRNA)を、RNA試料(RNA標準の場合)または逆転写産物(DNA標準の場合)に添加する。次に、標準を含む逆転写産物をPCRで増幅する。標準は、対象遺伝子(すなわち標的核酸)と比較して1残基の塩基変異の差を有するように設計されている。したがって、標準核酸および標的核酸はPCRで同じ効率で増幅される。また両者を、変異部位の右側における、例えば塩基伸長反応で同定することができる。
【0025】
したがってPCR産物の量を、任意のさまざまな手段によって、好ましくは質量分析(MALDI-TOF、すなわちMatrix Assisted Laser Desorption Ionization - Time of Flight)によって測定する。標準と対象遺伝子に由来する産物間のピーク面積比は、標準と対象遺伝子の比を示す。標準の濃度は既知なので、対象遺伝子の濃度を計算することができる。
【0026】
本発明の方法は、少なくとも以下の局面について独特である。第1に、遺伝子上の天然の変異を、標準を構築するために選択することができる。したがって、遺伝子の発現レベルを決定可能なだけでなく、発現される遺伝子の遺伝子型も決定可能である。第2に、PCRで1つの点突然変異を利用することで、本質的に同一な増幅が保証される。このため、標準が一般に異なる長さの遺伝子である他の競合PCR法における異なる増幅から生じる問題が解決される。
【0027】
好ましい態様では、塩基伸長とMALDI-TOF MSによる検出の併用は、ゲル電気泳動などの従来の検出法で遭遇するヘテロ二重鎖形成に起因する問題も解決する。また、標準に由来する伸長産物は、MALDI-TOF MSにおける内部基準となる。したがって核酸の量を、反応物に添加された標準の量が既知の場合に定量的に測定することができる。
【0028】
この方法には少なくとも以下の利点がある。第1に、この方法ではPCRにおける最適化がほとんど必要ない。第2に、この方法はPCRのサイクル数に依存しない。第3に、この方法は、精度が高く、高感度で、また再現性に優れている。第4に、この方法は、少なくとも50〜100個の遺伝子、またはさらには少なくとも最大1000個の遺伝子の発現が1枚の384シリコンチップ上で測定可能なハイスループット遺伝子発現解析に使用することができる。
【0029】
実施例に示すように、この方法によるヒト培養細胞におけるGAPDH、HMBS、およびCXCR4の発現の解析では、他の方法と矛盾しない結果が得られた。
【0030】
本明細書で用いる「生物試料」という表現は、任意の供給源(例えば、ヒト、動物、植物、細菌、真菌、原生生物、ウイルス)から得られる任意の生物材料を意味する。本発明における使用に関しては、生物試料は核酸分子を含む。本発明で使用される適切な生物試料の例は、固体材料(例えば、組織、細胞ペレット、生検試料)、および体液(例えば、尿、血液、唾液、羊水、洗口液)を含む。核酸分子を、当技術分野で周知で、特定の生物試料に適するように選択された特定の単離法の任意のいくつかの手順で単離することができる。
【0031】
ウイルス、細菌、真菌、および他の感染性生物は、宿主細胞に含まれる配列とは異なる別個の核酸配列を含む。感染性生物に特異的な核酸配列を検出または定量することは、感染の診断またはモニタリングに重要である。開示されたプロセスで検出可能な、ヒトおよび動物に感染する疾患を引き起こすウイルスの例には、レトロウイルス科(例えば、HIV-1などのヒト免疫不全ウイルス(HTLV-III、LAV、またはHTLV-III/LAVとも呼ばれる)(Ratner, L. et al., Nature, Vol.313, Pp.227-284 (1985); Wain Hobson, S. et al., Cell, Vol.40: Pp.9-17 (1985)を参照);HIV-2(Guyader et al., Nature, Vol.328, Pp.662-669 (1987); European Patent Publication No. 0 269 520; Chalcraborti et al., Nature, Vol.328, Pp.543-547 (1987);およびEuropean Patent Application No.0 655 501を参照);ならびにHIV-LPなどの他の分離ウイルス株(International Publication No. WO 94/00562, "A Novel Human Immunodeficiency Virus");ピコルナウイルス科(例えば、ポリオウイルス、A型肝炎ウイルス(Gust, I. D., et al., Intervirology, Vol.20, Pp.1-7 (1983);エンテロウイルス科、ヒトコクサッキーウイルス、ライノウイルス、エコーウイルス);カリシウイルス科(例えば胃腸炎の原因株);トガウイルス科(例えば、ウマ脳炎ウイルス、風疹ウイルス);フラビウイルス科(例えば、デング熱ウイルス、脳炎ウイルス、黄熱病ウイルス);コロナウイルス科(例えばコロナウイルス);ラブドウイルス科(例えば、水疱性口内炎ウイルス、狂犬病ウイルス);フィロウイルス科(例えばエボラウイルス);パラミクソウイルス科(例えば、パラインフルエンザウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、麻疹ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス);オルトミクソウイルス科(例えばインフルエンザウイルス);ブニヤウイルス(例えば、ハンタンウイルス、ブニヤウイルス、フレボウイルス、およびナイロウイルス);アレナウイルス科(出血熱ウイルス);レオウイルス科(例えば、レオウイルス、オルビウイルス、およびロタウイルス);ビルナウイルス科、ヘパドナウイルス科(B型肝炎ウイルス);パルボウイルス科(パルボウイルス);パポバウイルス科(パピローマウイルス、ポリオーマウイルス);アデノウイルス科(大部分のアデノウイルス);ヘルペスウイルス科(単純ヘルペスウイルス(HSV)1型および2型、水痘-帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、ヘルペスウイルス);ポックスウイルス科(痘瘡ウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス);ならびにイリドウイルス科(例えばアフリカブタ熱ウイルス);ならびに未分類のウイルス(例えば、海綿状脳症の病原体、デルタ肝炎の病原体(B型肝炎ウイルスの欠損型サテライト(defective satellite)であると考えられている)、非A非B型肝炎の病原体(クラス1=内因的に伝染するもの;クラス2=非経口的に伝染するもの(例えばC型肝炎);ノーウォークウイルスおよび関連ウイルス、ならびにアストロウイルス)などがある。感染性細菌の例には、ヘリコバクターピロリ菌(Helicobacter pyloris)、ボレリア・ブルグドルフェリ(Borelia burgdorferi)、レジオネラ菌(Legionella pneumophilia)、マイコバクテリウム科(Mycobacteria sps;例えば、M.ツベルクローシス(M. tuberculosis)、M.アビウム(M. avium)、M.イントラセルラーレ(M. intracellulare)、M.カンサシイ(M. kansaii)、M.ゴルドネ(M. gordonae))、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、リステリア菌(Listeria monocytogenes)、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)(A群連鎖球菌)、ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactiae)(B群連鎖球菌)、連鎖球菌(緑色)、大便連鎖球菌(Streptococcus faecalis)、ストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)、連鎖球菌(嫌気性)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、病原性カンピロバクター菌(Campylobacter sp.)、腸球菌(Enterococcus sp.)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、炭疽菌(Bacillus antracis)、ジフテリア菌(corynebacterium diphtheriae)、コリネバクテリウム科(corynebacterium sp.)、豚丹毒菌(Erysipelothrix rhusiopathiae)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringers)、破傷風菌(Clostridium tetani)、エンテロバクター・エアロゲネス(Enterobacter aerogenes)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、パスツレラ・ムルトシダ(Pasturella multocida)、バクテロイデス科(Bacteroides sp.)、フソバクテリウム ナクレタム(Fusobacterium nucleatum)、ストレプトバシラス・モニフォルミス(Streptobacillus moniliformis)、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidium)、熱帯苺腫トレポネーマ(Treponema pertenue)、レプトスピラ科(Leptospira)、およびアクチノマイセス・イスラエリ(Actinomyces israelli)などがある。
【0032】
この手法は、ハイスループットかつ高精度の遺伝子発現解析の手法の開発に直接応用可能である。また疾患の診断に少なくとも約2個、5個、10個、25個、50〜100個、および多くて少なくとも1000個の遺伝子の測定に使用可能な臨床診断用チップの開発に使用することもできる。
【0033】
標準核酸と標的核酸間の塩基の差が本発明にしたがって強化される、PCR産物を「強化する」方法は、PYROSEQUENCING(商標)、リアルタイムPCR、ハイブリダイゼーションに基づく手法、サードウェーブ社のインベーダー法、蛍光ベースのPCR法、固相ミニシークエンシング法を含むがこれらに限定されない。したがって、「強化された」PCR産物の定量は、標的と標準(例えばMALDI-TOF質量分析(MS))で強化された核酸産物間の質量の差を利用して実施することができる。
【0034】
本発明で用いる「強化する」という表現は、標的核酸および標準核酸が質量の差を生じるようにする、さまざまな手法を含む。したがって標準核酸と標的核酸は、好ましくは1塩基のみの差を有するので、両者を区別することが可能であり、また差を増幅するか、または例えば標識核酸を用いるプライマー伸長法で強化することができる。あるいは質量の差を、対立遺伝子特異的なハイブリダイゼーション用プローブ、またはインベーダー(INVADER)法におけるような異なる産物の酵素切断によって作り出すことができる。
【0035】
1つの態様では、1塩基対が異なるPCR産物は、本質的には合成による配列決定を行うPYROSEQUENCING(商標)(Uppsala, Sweden)によって強化される。標的と標準間で異なる核酸に直接隣接するように設計された配列決定用プライマーを最初に、1本鎖の、PCRで増幅されたDNAテンプレート(標的および標準の両PCR産物を含む)とハイブリダイズさせ、酵素、DNAポリメラーゼ、ATPスルフリラーゼ、ルシフェラーゼ、およびアピラーゼ、ならびに基質であるアデノシン5'ホスホ硫酸(APS)およびルシフェリンとともにインキュベートする。次に、4種類のデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)のうち、例えば標準テンプレート中に存在するヌクレオチドに対応する1種類を反応物に添加する。DNAポリメラーゼは、標準DNA鎖へのdNTPの取り込みを触媒する。個々の取り込み段階は、取り込まれたヌクレオチド量に対して等モル量のピロリン酸(PPi)の放出によって達成される。結果的にATPスルフリラーゼは、アデノシン5'ホスホ硫酸の存在下でPPiをATPへと定量的に変換する。このATPが、ルシフェラーゼによるルシフェリンの、(ATPの量に比例する量の視認可能な光を生成する)オキシルシフェリンへの変換を駆動する。ルシフェラーゼが触媒する反応で生じた光を電荷結合素子(CCD)カメラで検出し、ピークとしてPYROGRAM(商標)で観察する。個々の光シグナルは、取り込まれたヌクレオチドの数と比例するので、標準核酸配列の量の決定が可能となる。この後に、ヌクレオチド分解酵素であるアピラーゼによって、取り込まれなかったdNTPおよび過剰なATPを連続的を分解させる。分解完了後に、標的テンプレート中に存在するdNTP(この量が決定対象となる)に対応する別のdNTPを添加する。最後にdNTPの添加を1回行う。デオキシアデノシンアルファ-チオ三リン酸(dATPαS)を、天然のデオキシアデノシン三リン酸(dATP)に代えて使用する。というのはdATPαSはDNAポリメラーゼによって効率的に使用されるが、ルシフェラーゼには認識されないからである。PCR系に添加された標準の量は既知なので、取り込まれたdNTPの比から標的の量を計算することができる。反応条件に関する詳細な情報については、例えば参照として全体が本明細書に組み入れられる米国特許第6,210,891号を参照されたい。
【0036】
標準核酸と標的核酸のPCR産物の塩基の差を強化する有用な方法の別の例が「リアルタイムPCR」である。全てのリアルタイムPCR系は、蛍光レポーターの検出および定量に基づく(シグナルは反応系中のPCR産物量に正比例して増加する)。本発明に有用なリアルタイムPCR法の例には、TaqMan(登録商標)および分子ビーコン(molecular beacon)などがある。いずれも定量目的で蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用するハイブリダイゼーション用プローブである。TaqManプローブは、蛍光色素を典型的には5'側の塩基に有し、また消失色素が典型的には3'側の塩基に位置するオリゴヌクレオチドである。光を照射すると、励起された蛍光色素が、蛍光を生じる代わりにエネルギーを近傍の消失色素分子へ移動させ、結果として非蛍光性の基質を生じる。TaqManプローブは、PCR産物の内部領域とハイブリダイズするように設計されている(ABI 7700(TaqMan(商標)), Applied BioSystems, Foster City, CA)。したがって、2種類の異なるプライマー(一方は標的とハイブリダイズし、もう一方は標準核酸テンプレートとハイブリダイズする)を設計する。したがって、これらのプライマーは、リアルタイムPCR反応で対応核酸とハイブリダイズ可能である。PCR中にポリメラーゼが、TaqManプローブが結合した状態のテンプレートを複製する場合、ポリメラーゼの5'エキソヌクレアーゼ活性がプローブを切断する。この結果、蛍光色素と消失色素が分離するのでFRETは生じなくなる。蛍光は、プローブ切断速度に比例して、各サイクルで増す。
【0037】
分子ビーコンも蛍光色素および消滅色素を含むが、FRETは消失色素が蛍光色素に直接隣接する場合にのみ起こる。分子ビーコンは、溶液中で遊離した状態で存在する場合には、蛍光色素と消失剤が十分近接してヘアピン構造をとるように設計されている。したがって2種類の異なる分子ビーコンを設計する(1つは標的核酸を認識するもので、もう1つは標準核酸を認識するもの)。分子ビーコンが標的核酸および標準核酸とハイブリダイズすると、蛍光色素と消失剤が分離してFRETが起こらず、蛍光色素が光の照射によって光を放出する。TaqManプローブとは異なり、分子ビーコンは、増幅反応中に完全な状態を保つように設計されているので、シグナル測定の全サイクルにおいて標的と再結合するはずである。TaqManプローブと分子ビーコンは、同一試料中の複数のDNA分子種の測定を可能とする(多重PCR)。というのは、異なる放射スペクトルをもつ蛍光色素が、異なるプローブと結合する可能性があるからである(例えば、標準プローブと標的プローブの作製時に異なる色素を用いる)。多重PCRでは、内部基準の同時増幅が可能であり、1本のチューブにおける均質アッセイ法(homogenous assay)で対立遺伝子の区別が可能となる(Ambion Inc, Austin, TX, TechNotes 8 (1)-February 2001, Real-Time PCR goes prime time)。
【0038】
標的核酸と標準核酸間の差を強化する際に有用なさらに別の方法が、固相ミニシークエンシング法に用いられるプライマー伸長法である(Hultman, et al., 1988, Nucl. Acid. Res., 17, 4937-4946; Syvanen et al., 1990, Genomics, 8, 684-692)。原著論文では、放射標識ヌクレオチドの取り込みが測定されており、ヒトのアポリポタンパク質E遺伝子の3つの対立遺伝子多型の解析に使用されている。可変性ヌクレオチドの検出法は、プライマー伸長と、検出段階における検出用ヌクレオシド三リン酸の取り込みに基づく。検出段階用のプライマーを、可変性ヌクレオチドのすぐ近くの領域から選択することで、変異を、わずか1個のヌクレオシド三リン酸の取り込み後に検出することができる。可変性ヌクレオチドに対応する標識ヌクレオシド三リン酸を添加し、検出段階用プライマーへの標識の取り込みを測定する。検出段階用プライマーを標的核酸のコピーにアニールさせ、少なくとも1つの標識または修飾されたヌクレオシド三リン酸を含む1つまたは複数のヌクレオシド三リン酸を含む溶液を重合化剤ともに、プライマーの伸長に適した条件で添加する。標識デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)、または鎖停止ジデオキシリボヌクレオシド三リン酸(ddNTP)のいずれかを使用することが可能であり、また標識は、好ましくは蛍光色素を含む色素である。固相ミニシークエンシング法については例えば、米国特許第6,013,431号、ならびにWartiovaaraおよびSyvanen, Quantitative analysis of human DNA sequences by PCR and solid-phase minisequencing. Mol Biotechnol 2000 Jun; 15 (2): 123-131に詳述されている。
【0039】
PCR産物中の標的核酸と標準核酸の差を強化する別の方法では、蛍光標識dNTP/ddNTPを用いる。固相ミニシークエンシング法における蛍光標識の使用に加えて、標準的な核酸配列決定用ゲルを用いることで、PCR増幅産物中に取り込まれた蛍光標識の量を検出することができる。配列決定用プライマーを、テンプレートと標準では異なる塩基に隣接してアニールするように設計する。プライマー伸長反応を、蛍光色素で標識した鎖停止ジデオキシリボヌクレオシド三リン酸(ddNTP)を用いて行う(一方の標識は、標準核酸に付加されるddNTPに結合し、もう一方は、標的核酸に付加されるddNTPに結合する)。プライマー伸長産物を後に、蛍光検出用の核酸配列決定装置内の変性ゲルによって、またはキャピラリーゲル電気泳動で分離する。また標準核酸および標的核酸に取り込まれた蛍光標識の量が蛍光ピークを生じるので、ピークのサイズからこの量を決定することができる。標準的な蛍光シークエンス決定プロトコルは当業者に周知である(例えば、Amersham Life Sciences, Uppsala, Sweden, and Applied BioSystems, Foster City, CAを参照)。
【0040】
あるいはINVADER(登録商標)法を用いることができる(Third Wave Technologies, Inc (Madison, WI))。このアッセイ法は一般に、標的依存性の切断構造の切断に使用されることで、試料中における特定の核酸配列、またはこの特定の変異の存在を示す、さまざまな酵素の構造特異的なヌクレアーゼ活性に基づく(例えば米国特許第6,458,535号を参照)。例えばINVADER(登録商標)オペレーティングシステム(OS)は、DNAおよびRNAを検出ならびに定量する方法となる。INVADER(登録商標) OSは、「完全一致(perfect match)」の酵素-基質反応に基づく。INVADER(登録商標) OSは、INVADER(登録商標)プロセスで形成される特定の構造を認識して、この構造のみを切断する独自のCLEAVASE(登録商標)酵素(Third Wave Technologies, Inc (Madison, WI))を利用する。INVADER(登録商標) OSは、標的の指数的増幅ではなく、INVADER(登録商標)プロセスによって発生するシグナルの線型増幅に依存する。このため標的濃度の定量が可能となる。
【0041】
INVADER(登録商標)プロセスでは、2本の短いDNAプローブが標的とハイブリダイズして、CLEAVASE(登録商標)酵素によって認識される構造を形成する。この酵素は後にプローブの一方を切断して、短いDNAの「フラップ」を放出させる。放出された個々のフラップは、蛍光標識されたプローブと結合し、別の切断構造を形成する。CLEAVASE(登録商標)酵素が標識プローブを切断すると、プローブは、検出可能な蛍光シグナルを放出する。
【0042】
好ましい定量法はMALDI-TOF MSである。MALDI-TOF MSによる定量法の詳細については、実施例で説明する。
【0043】
本発明は、少なくとも1つ(好ましくは複数)の標的核酸とは1つの核酸が異なるように設計された少なくとも1つ(好ましくは複数)の異なるプライマーを別個のバイアルもしくはチューブ内に、または好ましくは、少なくとも2種類の異なる標準を既知量の乾燥標準核酸とともに同じバイアルもしくはチューブ内に含む一連の混合型の標準と、PBSなどの適切な緩衝液による試料の、定量反応で使用される既知濃度への希釈処理に関する指示書を含むキットも含む。あるいは標準は、PBSなどの適切な緩衝液で既知濃度に事前に希釈されている。適切な緩衝液は、核酸の保存に、また上述したように標準核酸と対応標的核酸間の差を強化するための例えばPCRまたは直接強化反応の両方に適している場合がある。または緩衝液は試料を単に保存するためだけであり、後のPCR反応、強化反応、および定量反応にさらに適した、別の希釈用緩衝液が提供される。好ましい態様では、全ての標準核酸は1本のチューブまたはバイアル内の緩衝液中に混合されているので、1つの標準混合物のみを、標的核酸を含む核酸試料に添加することができる。
【0044】
本発明のキットは好ましくは、反応条件、および標準核酸またはこの混合物を用いる標的核酸の量の測定について記載したマニュアルも含み、また全ての標準および緩衝液の種類の詳細な濃度も示す。本発明の対象となるキットは、生物試料中の感染性物質の量を決定するためのキット、および薬物もしくは薬剤の投与後に、または癌などの疾患状態の結果として増加または減少することが予想される1種類もしくは複数の転写物の量を決定するキットを含むがこれらに限定されない。
【実施例】
【0045】
MALDI-TOF MSは定量的な方法である
質量スペクトルのピーク面積によって測定される絶対シグナルは、マスアレイ系におけるMALDI-TOF MS実験で比較的一貫している(図2)。これは、正確な定量的解析には十分とは言えない。しかし、内部対照と配列の似たオリゴを用いることで、オリゴ濃度を正確に測定することができる(図3)。
【0046】
リアル競合PCRは2つのDNA混合系でPCRサイクル数と無関係に作用する
この実験では、1個のヌクレオチドのみが異なる2つのDNAを、総濃度(2*10-7 μg/μL)は一定として、さまざまな比(10:1、3:1、1:1、1:3、1:10)で混合する。ホットスタート(HotStart)DNAポリメラーゼによるPCRによる増幅の実施後に、エビアルカリホスファターゼ(SAP)処理を行って過剰なdNTPを除去した。次に塩基伸長実験を、適切なddNTP/dNTP混合物(一般に3種類の異なるddNTPと1種類のdNTP)を用いてThermoSequenaseで実施した。この伸長産物をMALDI-TOFで検出し、ピーク面積をRT(リアルタイム)ソフトウェア(Sequenom Inc.)で解析した。図4は、5つの異なる比のテンプレート混合物に関する質量スペクトルを示す。図5は、質量スペクトルのピーク面積比と、解析に先だって決定されたDNAテンプレート比との間に相関があることを示す。
【0047】
同じ実験を、別の対の2つのDNAを対象に繰り返し行い、上記と類似の結果を得た。このような予備的データは、少なくともこの単純で人工的な系では、リアル競合PCRと質量分析による同定の併用が、遺伝子発現を測定する潜在的に正確な方法であることを明らかに示している。測定されたピーク面積比は、最大100倍の範囲まで既知のDNA濃度比と直線的に相関している(R2 > 0.999)。標準DNAの100倍の分離における3つの勾配は、ダイナミックレンジを、極めて実際的な応用に十分な106まで容易に拡張することができる。
【0048】
ヒトの遺伝子発現を対象としたリアル競合PCRの検討
培養細胞におけるGAPDH、HMBS、およびCXCR4の発現を、リアル競合PCRおよびMALDI-TOF法で解析した。各遺伝子の競合分子をcDNA試料に濃度を高めながら個別に添加する。内因性遺伝子およびこの競合分子の頻度をリアル競合PCRおよびMALDI-TOF MSで測定する。競合分子の濃度はわかっているので、対象遺伝子の発現レベルを計算することができる。
【0049】
ハイスループット遺伝子発現解析のスケールアップ
マイクロアレイは、小さな集団/条件のスケール(典型的には50を超えない)で数万の遺伝子をスクリーニングする、少なくとも現時点では理想的な方法である。また一般的には、数百の遺伝子が、対照と試料間で有意に異なるいくつかの統計標準によって選択されている。例えばGolubらは、38の骨髄試料をマイクロアレイ解析に用いて、50の遺伝子を選択し、急性リンパ芽球性白血病(ALL)と急性骨髄性白血病(AML)を集団的に区別できたと報告している。小さな試料数(38試料)および大きな遺伝子数(6817遺伝子)から統計的に大きく自由であることは、マイクロアレイ法の低い精度とあいまって、この予測因子(50の遺伝子)が、どの程度適切に大きな患者試料サイズを対象に実施できるかということに関して無視できない疑念を投げかけている。経済的には、これを数百の患者試料のサイズを対象にマイクロアレイで検討することは可能ではない。発明者らの方法では、約100個の遺伝子の発現を384チップ上で容易に測定することが可能であり、また数百の患者試料を検討することができる。マイクロアレイは遺伝子数に関してハイスループットであるが、発明者らの方法は患者数に関してハイスループットであり、これら2つの方法は高度に相補的である。
【0050】
また、この方法で、遺伝子発現の化学量論的関係を調べることができる。この場合の科学的な推定は、基本単位として密接に作用する遺伝子(またはその産物であるタンパク質)は発現レベルも似ているということである。質量分析によってタンパク質複合体の解析が行われている(Gavin et al., Ho et al.)。同じ複合体中で遺伝子のmRNAの発現を解析することが可能であり、またこれらの関連の化学量論的関係を推定することができる。
【0051】
計算
1番の問題はPCR用オリゴの設計である。リアルタイムPCRなどの他のRT-PCR法の場合、これは、増幅が対象遺伝子に関して非特異的な場合に大きな問題となる場合がある。というのは、発現レベルの有意な過小評価につながるからである。またさらに厄介な問題として、非特異的な増幅が試料に依存する場合があることが挙げられる。発明者らの場合では、対象遺伝子を含む同じ反応系中に内部基準を常に設けているので、この問題は、それほど深刻とはならないと考えられる。この件に関しては、非特異的な増幅を避けることが現在でも重要である。増幅用オリゴを設計する上での別の問題は、PCRを多重化する際に生じる。プライマーどうしの相互作用を避ける際には一層の注意を要すべきである。
【0052】
計算および統計的手法を応用してスペクトルを解析することもできる。MALDI-TOF実験では、同じ試料のスポットについて5つの異なる位置にレーザー光を照射する。仮に各試料について4回の繰り返し実験を行う場合は、正規分布などの統計モデルを、より正確に計算可能なピーク比に応用するのに十分な20のデータ点を設ける。標準化に関しても問題がある。さまざまなハウスキーピング遺伝子(GAPDH、β-アクチン、サイクロフィリン、18s rRNA)が用いられている。標準化の際には、これらの遺伝子の併用が適しているかもしれない。
【0053】
参考文献


【0054】
本明細書に、また本明細書を通じて引用された参考文献は、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、生物試料中の標的核酸配列の量を測定する方法:
(a)少なくとも1塩基が標的核酸配列とは異なるヌクレオチド配列を有する既知量の標準核酸を標的核酸を含む生物試料に添加することで、標的核酸と標準核酸間に相違部位を生成することによって、試料を調製する段階;
(b)段階(a)の試料を増幅する段階;
(c)標準核酸と標的核酸の配列間の差を、相違部位において強化する段階;ならびに、
(d)増幅された標準核酸に対する増幅された標的核酸の比を測定して、生物試料中に存在する標的核酸配列の量を測定することによって、段階(c)で強化された産物を定量する段階。
【請求項2】
標的核酸が感染性物質に由来する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
標的核酸がmRNA転写物である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
定量段階をMALDI-TOF質量分析により実施する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
段階(c)を、相違部位におけるプライマー伸長により実施する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
段階(c)を、相違部位における対立遺伝子特異的な酵素切断により実施する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
段階(c)を、相違部位における対立遺伝子特異的なハイブリダイゼーションにより実施する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
定量段階をMALDI-TOF質量分析により実施する、請求項1、5、6、および7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
チューブ内に含まれる、少なくとも1つの対応標的核酸と異なるように設計された少なくとも1つの標準核酸、および請求項1記載の方法にしたがって核酸試料中の対応標的核酸の量を定量する段階における標準の使用法に関する指示書を含むキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−268812(P2010−268812A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175829(P2010−175829)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【分割の表示】特願2004−534748(P2004−534748)の分割
【原出願日】平成15年9月5日(2003.9.5)
【出願人】(595094600)トラスティーズ オブ ボストン ユニバーシティ (37)
【Fターム(参考)】