説明

避難用建物

【課題】洪水や津波が発生した際の水位に関わらず、安全に避難することを可能とした、避難用建物を提案することを課題とする。
【解決手段】車庫室2が上階に配設された高床式の車庫用建物(避難用建物)1であって、車庫室2の床面6の一部に出入口8が形成されていて、車庫室2は出入口8以外は密閉された空間であり、出入口8に開閉扉9が形成されており、開閉扉9は、開扉時にスロープを形成するとともに洪水時の浮力により出入口8を遮蔽するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、避難用建物に関する。
【背景技術】
【0002】
洪水、津波等の災害時や高潮等により水位が大幅に上昇すると、道路上や駐車場内において、自動車が水没するおそれがある。
【0003】
駐車場の冠水を防ぐ方法として、例えば特許文献1には、ピット内に昇降可能に設けられた自動車積載部に浮き部材を設けておくことで、ピット内に水が浸入した場合に自動車積載部が浮き上がるように構成したものが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、建物の入口部に袋体を設けておき、この袋体を膨張させることで、建物内への冠水時等の水の流入を防止する方法が開示されている。
【0005】
ところが、前記従来の方法は、集中豪雨等により地下部分に流入する水を主に対象としているものであって、建物全体を飲み込むような大規模な洪水や津波から車両等を守ることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−203230号公報
【特許文献2】特開2003−119755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
大規模な洪水や津波から自動車等の水没を免れるためには、高台や頑丈な立体駐車場等に自動車を移動させる必要があるが、避難する自動車で道路が混雑すると、移動そのものが困難になるおそれがある。
また、高台等に避難させた場合であっても、想定以上の大規模な洪水や津波が発生した場合には、水没するおそれがある。
【0008】
また、大規模な洪水や津波が発生した際には、人も高台や高層建物などに避難する必要があるが、避難に手間取るおそれがある。
【0009】
本発明は、前記の問題点を解決するものであり、洪水や津波等が発生した際の水位に関わらず、安全な避難を可能とした、避難用建物を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明の避難用建物は、避難室を内部に備えており、出入口が下部に形成されていて、前記避難室と外気とが、前記出入口のみで連通しており、前記避難室と前記出入口とをつなぐ空間の床面の少なくとも一部または前記避難室の床面が、前記出入口の上端以上の高さに形成されていることを特徴としている。
【0011】
かかる避難用建物によれば、避難室が空気溜まりとなるため、洪水や津波などにより大幅に水位が上昇した場合であっても、空気の圧力により避難室内の水位の上昇が抑制され、内部の自動車が水没することを防止できる。
【0012】
前記避難用建物は、前記避難室が上階に配設されていて、前記避難室の床面の一部に前記出入口が形成されていてもよい。
この場合において、前記車庫用建物の出入口に開閉扉が形成されており、前記開閉扉が開扉時にスロープを形成していれば、開閉扉により密閉空間を形成することが可能となり、車庫室への水の流入を防止することができる。また、開閉扉がスロープを形成することで、出入のための進入路の形成を省略あるいは簡略化することができる。
【0013】
また、前記開閉扉が洪水時や津波時の水の浮力により前記出入口を遮蔽するように構成されていれば、水位の上昇に伴い自動的に出入口を遮蔽するため、安全性がより高まる。
【0014】
また、避難用建物は、前記避難室と前記出入口との間にスロープが形成されており、前記スロープの頂が、前記出入口の上端以上の高さとなるように形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の避難用建物によれば、洪水や津波等が発生した際の水位に関わらず、安全に避難することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第一の実施の形態に係る避難用建物の概要を示す斜視図である。
【図2】図1に示す避難用建物の断面図である。
【図3】第二の実施の形態に係る避難用建物の概要を示す断面図である。
【図4】第三の実施の形態に係る避難用建物の概要を示す斜視図である。
【図5】図4に示す避難用建物の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。
第一の実施の形態の車庫用建物1は、鉄筋コンクリート造であって、図1に示すように、車庫室(避難室)2と、車庫用建物1の四隅に配設された柱3,3,…とを備えている。
【0018】
車庫室2は、柱3,3,…により支持された状態で、地上面よりも高い位置に形成されている。つまり、車庫用建物1は、車庫室2の直下に開放空間4が形成された、いわゆる高床式構造により構成されている。
【0019】
開放空間4は、自動車の進入が可能な高さを有しており、また、車庫室2への自動車の出入に使用するスロープ部材11の配置が可能なスペースが確保されている。
【0020】
車庫室2は、図2に示すように、天井版5と床版(床面)6と側壁7,7,…により全体が覆われている。すなわち、車庫室2の上面は天井版5で覆われており、車庫室2の下面は床版6で覆われており、車庫室2の側面は側壁7,7,…で覆われている。
【0021】
床版6には、床版6を貫通する開口部である出入口8が形成されている。また、出入口8には、開閉扉9が形成されている。
一方、天井版5および側壁7,7,…には開口部は形成されていない。
つまり、車庫室2は、出入口8以外は密閉された空間であり、出入口8のみで外気(室外)と連通している。
【0022】
ここで、出入口8は、車庫用建物(避難用建物)1の内部と外部とをつなぐ開口である。本実施形態では、出入口8を、床版6を貫通するように形成している。つまり、避難室(車庫室)2の床面(床版)6の高さは、出入口8の上端の高さと一致している。
【0023】
開閉扉9は、出入口8の平面形状と同等以上の平面形状を有した版状部材により構成されている。また、本実施形態の開閉扉9は、自動車の走行に耐え得る強度を備えている。
【0024】
また、開閉扉9には、図示しないフロートが取り付けられており、水に浮くように構成されている。なお、開閉扉9が水よりも比重が小さい材料により構成されている場合には、フロートは省略してもよい。
【0025】
開閉扉9の一端は、出入口8の一方の端部に設けられたヒンジ10を介して床版6に取り付けられている。
つまり、開閉扉9は、ヒンジ10により横軸を中心とした回転(他端側が上下動する回転)が可能に取り付けられている。
【0026】
開閉扉9は、回転することで出入口8を開閉するとともに、開扉時には、自動車の走路としてのスロープを形成する。
【0027】
なお、開閉扉9は、水の流れに対して上流側が床版6に取り付けられているのが望ましい。例えば、津波が予想される地域では、出入口8の海側の開口縁部に開閉扉9を取り付けるものとする。
こうすれば、水の流れにより、開閉扉9の上昇(開閉扉9による出入口8の遮蔽)が妨げられることがない。
【0028】
本実施形態では、車庫用建物1の四隅に柱3,3,…が配設したが、柱3の配置は限定されない。また、柱3の断面形状も限定されるものではなく、適宜設定すればよい。
【0029】
本実施形態では、柱3は、基礎(図示省略)に立設されている。
なお、車庫用建物1は、津波による衝撃、水流による洗掘、水位上昇で生じる浮力による引きに抜き力等を考慮して、一般の建物より頑強な構造であることが望ましい。また、車庫用建物1の基礎構造は限定されるものではなく、ベタ基礎、布基礎や独立基礎により構成してもよい。また、基礎は杭基礎であってもよい。
【0030】
車庫室2からの自動車の出入は、開閉扉9により出入口8を開口させた状態で、開閉扉9を自動車の走行用のスロープとして利用する。
本実施形態では、開閉扉9の他方の端部にスロープ部材11を配設するが、地表面から床版6までの高さに対して、開閉扉9がスロープとして十分な長さを備えている場合には、開閉扉9を直接地表面に設置させることで、スロープ部材11を省略してもよい。
【0031】
本実施形態の車庫用建物1によれば、車庫室2には、下面(床版6)に出入口8が形成されているのみで、それ以外は密閉されているため、洪水や津波により水位が大幅に上昇した場合であっても、気圧により車庫室2内の水位の上昇が抑制されて、内部の自動車の水没を防ぐことができる。
【0032】
また、出入口8を開閉扉9により遮蔽すれば、車庫室2が密閉空間となり、内部への水の流入を防止できる。そのため、車庫用建物1が水没したとしても、車庫室2の内部が水没することはなく、自動車が水没することもない。
【0033】
開閉扉9にフロートが取り付けられているため、水位の上昇に伴い、開閉扉9が上昇し、出入口8が自動的に遮蔽される。そのため、緊急時に開閉扉9を操作する余裕がない場合であっても、出入口8からの水の浸入を防ぐことができる。また、開閉扉9の操作を必要としないため、洪水や津波等の緊急時であっても、ギリギリまで出入口8を開口させておくことができる。
【0034】
また、水位が下がった後は、開閉扉9が自動的に下降してスロープとして機能するため、緊急車両等を直ちに出動させることができる。
【0035】
なお、前記実施形態では、開閉扉9を開扉時にスロープとして利用する場合について説明したが、地上から出入口8までのスロープを形成するスロープ部材を配設する場合等には、開閉扉9をスロープとして利用する必要はない。
また、開閉扉9が水に対する浮力により出入口8を遮蔽する構成としたが、開閉扉の開閉手段が限定されるものではなく、例えば、手動により遮蔽してもよい。
【0036】
また、車庫室2への自動車の出入は、スロープを走行させる場合に限定されるものではなく、例えば、昇降手段を介して機械的に自動車を上昇させるものとしてもよい。
【0037】
また、開閉扉9の床版6への取り付け構造は限定されるものではない。
また、開閉扉9に代えて、スライド式の扉を出入口8に設置してもよい。
【0038】
車庫室2の下方の開放空間の高さは、自動車の進入が可能の高さを有していれば限定されるものではない。
【0039】
第二の実施の形態の車庫用建物1は、鉄筋コンクリート造であって、図3に示すように、内部に車庫室(避難室)2と、倉庫室12とを備えている。
車庫室2は上階(2階)に形成されていて、倉庫室12は下階(1階)に形成されている。
【0040】
車庫室2は、天井版5と床版(床面)6と側壁7,7,…により全体が覆われている。すなわち、車庫室2の上面は天井版5で覆われており、車庫室2の下面は床版6で覆われており、車庫室2の側面は側壁7,7,…で覆われている。
【0041】
床版6には、床版6を貫通する開口部13が2箇所形成されている。一方の開口部13には、出入口8につながるスロープ14が形成されており、他方の開口部13には、倉庫室12につながる階段15が形成されている。
【0042】
一方、車庫室2の天井版5および側壁7,7,…には開口部は形成されていない。
つまり、車庫室2は、開口部13,13以外は密閉された空間である。
【0043】
ここで、出入口8は、車庫用建物(避難用建物)1の内部と外部とをつなぐ開口である。本実施形態では、出入口8を、車庫用建物1の側壁7の下部を貫通するように形成している。
なお、出入口8には、必要に応じて扉を形成してもよい。
【0044】
スロープ14は、出入口8から床版6につながる走路であって、その頂14aが床版6の高さとなるように形成されている。
そして、車庫室2の床版6の高さは、出入口8の上端8aよりも高くなるように形成されている。
【0045】
倉庫室12は、床版(床面)6と側壁7,7,…とスロープ14と基礎16とにより全体が覆われている。すなわち、倉庫室12の上面は車庫室2の床版6とスロープ14で覆われており、倉庫室12の下面は基礎16で覆われており、倉庫室12の側面は側壁7,7,…で覆われている
そして、倉庫室12は、階段15を介して上階の車庫室2と連通している以外は、密閉された空間である。
つまり、車庫室2および倉庫室12は、外気と出入口8のみで連通している。
【0046】
本実施形態では、基礎16により、倉庫室12の下端を覆うものとしたが、床版により倉庫室12の下端を覆ってもよい。
【0047】
本実施形態の車庫用建物1によれば、車庫室2および倉庫室12は、出入口8以外は密閉されているため、洪水や津波により水位が大幅に上昇した場合であっても、気圧により車庫室2および倉庫室12内への水の進入が抑制されて、内部の水没を防ぐことができる。
また、出入口8から水が浸入したとしても、スロープ14により水の浸入が抑制される。
【0048】
第三の実施の形態の車庫用建物1は、鉄筋コンクリート造であって、図4に示すように、内部に車庫室(避難室)2と、エントランス室17とを備えている。
【0049】
車庫室2は、天井版5と床版(床面)6と側壁7,7,…により全体が覆われている。すなわち、車庫室2の上面は天井版5で覆われており、車庫室2の下面は床版6で覆われており、車庫室2の側面は側壁7,7,…で覆われている。
【0050】
車庫室2とエントランス室17との境界部に形成された側壁7には、開口部13が形成されている。
車庫室2は、この開口部13を介してエントランス室17と連通されている。
【0051】
一方、車庫室2の天井版5、床面6およびその他の側壁7,7,…には開口部は形成されていない。
つまり、車庫室2は、開口部13以外は密閉された空間である。
【0052】
エントランス室17は、天井版5と床版(床面)6と側壁7,7,…により全体が覆われている。すなわち、エントランス室17の上面は天井版5で覆われており、エントランス室17の下面は床版6で覆われており、エントランス室17の側面は側壁7,7,…で覆われている。
本実施形態では、エントランス室17の天井版5が車庫室2の天井版5よりも高く形成されているが、両天井版5,5は、同じ高さに形成されていてもよく、天井版5の高さは限定されるものではない。
【0053】
エントランス室17の車庫室2と反対側の側壁7の下部には、出入口8が形成されている。
エントランス室17は、出入口8のみを介して外気と連通されている。したがって、車庫室2は、この出入口8のみを介して外気と連通されている。
なお、出入口8には、必要に応じて扉を形成してもよい。
【0054】
エントランス室17には、出入口8から開口部13までの間に床面6が凸状に盛り上がるスロープ14が形成されており、その頂は、出入口8の上端8aよりも高くなるように形成されている。
【0055】
本実施形態の車庫用建物1によれば、内部(車庫室2およびエントランス室17)は、出入口8以外は密閉されているため、洪水や津波により水位が大幅に上昇した場合であっても、気圧により内部への水の進入が抑制されて、内部の水没を防ぐことができる。
【0056】
また、出入口8から水が浸入したとしても、スロープ14により水の浸入が抑制される。
【0057】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
【0058】
前記各実施形態では、自動車を水没から守る車庫用建物について説明したが、車庫室を避難室として、人や家畜等の避難用建物として使用してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 車庫用建物(避難用建物)
2 車庫室(避難室)
6 床版(床面)
8 出入口
8a 出入口の上端
9 開閉扉
14 スロープ
14a スロープの頂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
避難室を内部に備えており、出入口が下部に形成された、避難用建物であって、
前記避難室と外気とが、前記出入口のみで連通しており、
前記避難室と前記出入口とをつなぐ空間の床面の少なくとも一部または前記避難室の床面が、前記出入口の上端以上の高さに形成されていることを特徴とする、避難用建物。
【請求項2】
前記避難室が上階に配設されていて、
前記避難室の床面の一部に前記出入口が形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の避難用建物。
【請求項3】
前記出入口に開閉扉が形成されており、前記開閉扉が、開扉時にスロープを形成することを特徴とする、請求項2に記載の避難用建物。
【請求項4】
前記開閉扉は、水の浮力により前記出入口を遮蔽するように構成されていることを特徴とする、請求項3に記載の避難用建物。
【請求項5】
前記避難室と前記出入口との間にスロープが形成されており、
前記スロープの頂が、前記出入口の上端以上の高さであることを特徴とする、請求項1に記載の避難用建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−76271(P2013−76271A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216950(P2011−216950)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】