説明

部位−特異的ヌクレアーゼを用いた標的ゲノムの再配列

本発明は、ゲノムDNAを再配列させる方法に関し、より詳細にはゲノムの2つの部位またはそれ以上を標的する部位−特異的ヌクレアーゼの対を使用してゲノムDNAを欠失、重複、逆位、置換、または再配列させる方法、前記方法によってゲノムDNAが欠失、重複、逆位、置換、または再配列された細胞、前記部位−特異的ヌクレアーゼを細胞内で発現させる方法に関する。また、本発明はゲノムの予定された部位を標的する部位−特異的ヌクレアーゼを使用してゲノムに合成DNA分子を挿入させる方法、前記方法によってDNA挿入が発生した細胞、及び前記部位−特異的ヌクレアーゼを細胞内で発現させる方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゲノムDNAを再配列させる方法に関し、より詳細にはゲノムの2つまたはそれ以上の部位を標的する部位−特異的ヌクレアーゼを使用してゲノムDNAを欠失、重複、逆位、置換、または再配列させる方法、前記方法によってゲノムDNAが欠失、重複、逆位、置換、または再配列された細胞、前記部位−特異的ヌクレアーゼを細胞内で発現させる方法に関する。また、本発明はゲノム内の特定の部位を標的する部位−特異的ヌクレアーゼを使用してゲノムに合成DNA分子を挿入させる方法、前記方法によってDNA挿入が発生した細胞、及び前記部位−特異的ヌクレアーゼを細胞内で発現させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の遺伝子工学で広く使用されているDNA組換え技術は、生命科学(life science)発展に中枢的な役割を果たしたし、生命工学(biotechnology)産業の誕生に直接的な動機として作用した。制限エンドヌクレアーゼ(restriction endonuclease)は、DNA組換え技術の主要成分であり、試験管内でDNA断片を切って貼り付けるのに使用される。しかし、この制限酵素はDNAをあまりにも頻繁に切断するから細胞内でゲノムスクリプト(script)の操作に使用できない。したがって、DNA組換え技術は、生体内ではなく、試験管内での制限酵素(restriction enzyme)の使用に制限される。次世代DNA配列分析技術によって多くの生物のゲノムは、加速相で配列分析され、急速な進歩がポストゲノム(post-genomic)時代でゲノムエンジニアリングのために要求される。新規なゲノムエンジニアリングアプローチとして本願で定義された、細胞内DNA組換え技術は、i)高等真核細胞及び生物のゲノムDNA断片の標的された欠失、ii)ゲノムの予定された部位内への合成オリゴデオキシヌクレオチド(ODN)カセットの標的された挿入、及びiii)合成されたDNA分子などによるゲノムDNA断片の置換を許容し、新しい次元の生物学、医学、及び生命工学に追加され得る。
【0003】
現在のゲノムエンジニアリング方法は、細胞内DNA組換え技術として多目的ツールになるのに不足である。例えば、ゲノムエンジニアリングのために最も普遍的に使用されるゲノム内への外来DNA断片のランダム組込みの方法は、外因性(exogenous) 断片と係わるエンハンサー要素(element)またはプローモーターの偶然な挿入に起因して所望しない遺伝子などの活性化または内因性(endogenous)遺伝子の破壊の可能性がある。相同組換え(Homologous recombination、HR)を介する遺伝子標的化は、ゲノムスクリプトの精巧な操作が許容されるが、これの効率が低いため大部分の高等真核細胞及び生物に制限的に使用されている。Creのような組換え酵素(recombinase)は、ゲノムエンジニアリングのツールとして使用され得るが、この酵素は酵素処理以後にもゲノムの中に残されるそれら自体の認識要素のゲノム内事前挿入が要求される。転移酵素(transposase)もゲノム内足跡(footprint)を残し、ゲノムスクリプトの標的された操作が許容されない。
【0004】
長さ10kbp超過のゲノムDNAの標的された欠失を発生させる能力は、遺伝子群、遺伝子間の領域、エクソン及びイントロンの選択的除去を許容するから新しい次元の遺伝学及びゲノム研究を確張するのみならず、研究、生命工学及び遺伝子治療に広範囲な適用を有するが、不可能でないとしても、高等真核細胞と生物でこの目的を達成することは難しい。マウス胚芽幹細胞でCre/loxP方法(Ramirez-Solis et al.,1995)またはBAC−ベース遺伝子標的化(Valenzuela et al.,2003)は、大きいゲノムDNA断片の標的された欠失に使用される。しかし、このようなアプローチは他の細胞に比べて相同組換えを介する遺伝子操作がより容易なマウス胚芽幹細胞に事実上制限されている。さらに、Cre/loxP方法は相同組換え(HR)を介したゲノムへの2回loxP挿入、他の相同染色体ではない同一染色体上に2つの標的部位が挿入された細胞の分離、及び標的された欠失の後、ゲノムで単一loxP部位はずっと残され得る過程であるCre組換え酵素での後続的処理で介在DNA断片の除去を要求する。BAC−ベース遺伝子標的化もこのベクターの巨大なサイズによってBACベクターの準備と組換えクローンのスクリーニングに関連された限界を有する。さらに、BACベクターの破損と部分挿入によって偽陽性 (false positive)クローンがたびたび分離する (Gomez-Rodriguez et al.,2008)。したがって、これらのアプローチは、マウス胚芽幹細胞でも非常に時間と努力がかかり、現在まで他の高等哺乳類または植物細胞で予定されたゲノムDNA断片欠失に使用された事例がなかった。
【0005】
部位−特異的ヌクレアーゼ(site-specific nuclease)とは、DNA配列を特異的に認識及び切断できるすべての酵素を示し、部位−特異的ヌクレアーゼ中の一つであるジンクフィンガーヌクレアーゼ(zinc finger nuclease、以下、“ZFN”で示す)は、ゲノムエンジニアリングのために有望な新しいツールである。ZFNは、人工酵素であって、DNA−結合ジンクフィンガードメイン及びFokIヌクレアーゼから由来したDNA切断ドメインから構成される。従来の組換え酵素とは異なり、ZFNは再プログラミングが可能であり、また、オーダーメード型ヌクレアーゼはゲノム内の任意の予定された内因性部位を標的化して容易に生産することができる。ZFNは細胞内で部位−特異的DNA二重鎖破損(Double strand break、 以下、“DSB”で示す)を誘導するための標的配列を認識し、この細胞は相同組換え(HR)及び非相同末端結合(non-homologous end joining、NHEJ)として知られている2つの内因性機作によって修繕され、標的された突然変異(targeted mutagenesis)を誘発する。
【0006】
ZFNは哺乳動物細胞、植物、ゼブラフィッシュ、及びショウジョウバエで関心のある内因性遺伝子の不活性化または特定の突然変異導入を示す。しかし、既存の努力などはゲノムの予定された部位で地域突然変異である部位−特異的誘導のためのZFNの有用性を立証し、細胞でのゲノムDNA断片の標的された欠失、ゲノムへの合成オリゴヌクレオチド(dsODN)カセットの部位−特異的挿入、または細胞への合成DNA要素及び内因性DNA断片の標的置換を伴わなかった。したがって、ZFNは、ゲノムエンジニアリングで有望のようであるが、今までは、細胞内組換えDNA技術に多目的ツールとして相変らず期待に達することができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明者らはゲノムの欠失、挿入及び置換を誘導することができるZFNを捜し出すために多くの努力をして来た。彼らは人間染色体で互いに異なる2つの部位を標的するようにデザインされたZFNが染色体で2つのDSBを導入することができ、数百の塩基対で15Mbp範囲のゲノムDNA断片の標的された欠失が発生することを明らかにし、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの目的は、部位−特異的ヌクレアーゼを使用してゲノムの予定された2つまたはそれ以上を切断する段階を含む、ゲノムDNAの欠失、重複、逆位、置換または再配列させる方法を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、前記方法でゲノムDNA断片を欠失、重複、逆位、置換または再配列させた細胞を提供することである。
【0010】
本発明のまた他の目的は、部位−特異的ヌクレアーゼを使用してゲノムに予定された部位を切断する段階を含む、合成DNA分子を挿入させる方法を提供することである。
【0011】
本発明のまた他の目的は、前記方法で予定されたゲノム部位に合成DNA分子を挿入させた細胞を提供することである。
【0012】
本発明のまた他の目的は、(a)切断しようとする特異的塩基配列を決定する段階;(b)塩基配列を認識するジンクフィンガーモジュールを選択する段階;(c)前記(b)段階のジンクフィンガーモジュールを含むジンクフィンガーヌクレアーゼを製造する段階;及び(d)前記製造されたジンクフィンガーヌクレアーゼを細胞内に導入させる段階を含む、ジンクフィンガーヌクレアーゼを細胞内で発現させる方法を提供することである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の大きいゲノムDNA断片を欠失、重複、逆位、置換、挿入、または再配列させ得る部位−特異的ヌクレアーゼ、具体的にジンクフィンガーヌクレアーゼ対は、標的されたゲノムの欠失を介して関心のあるゲノムから遺伝子群を除去するのに使用されることができ、または幹細胞研究と遺伝子治療に適用することができる。また、重複を介して植物または動物の遺伝子量(gene dosage)の増加によって有用な生物を生産するのに使用するとか、または逆位を介して遺伝病患者の細胞及び癌細胞の治療ツールとして使用するとか、または置換及び挿入を介する作物、魚類、及び家畜を品種改良するのに使用するとか、または窮極的には、部位−特異的ヌクレアーゼを介して所望の遺伝子の標的化された突然変異を誘導するために使用して特異的にジンクフィンガーヌクレアーゼ誘導されたゲノム手術に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】CCR2とCCR5座位にZFN−誘導されたゲノム欠失を示す概略的な模式図であり、ジグザグ線はZFN標的部位を示し、F2とR5(矢印)はゲノム欠失現象(event)を検出するために使用されたPCRプライマーである(DSB、二重鎖破損)。
【図2】ZFNで処理した細胞中のゲノムDNA欠失に該当するPCR産物を示し、p3は陰性対照群として使用された空(empty)のプラスミドである。
【図3】PCR産物のDNA塩基配列を示し、PCR産物をクローニング及び配列分析し、ZFN標的部位は太字で示し、マイクロホモロジーは下線で示し、挿入塩基はイタリック体で示し、ダッシュ(−)は欠失された塩基を示し、CCR2とCCR5座位の非保存塩基は小文字で示し、発生回数(number of occurrences)は括弧内に示し、WTは野生型DNA配列を示す。
【図4】CCR5座位内のZFNによる2つの異なる欠失現象を模式図で示し、F5とR5(矢印)はCCR5コード塩基配列の増幅に使用されたプライマーである
【図5】CCR5座位内に2つの異なる欠失現象を示すPCR分析結果であり、ここでは、図4で予想された通りであり、1328708113203_0の野生型配列(1,060bp)と欠失現象((1)199bpと(2)331bp)に該当するPCR産物の近似値サイズが示され、p3は陰性対照群として使用された空のプラスミドである。
【図6】CCR5座位内の2つのZFN−誘導されたゲノム欠失の切断接合部分(breakpoint junction)のDNA配列を示し、ZFN標的部位は太字で示し、マイクロホモロジーは下線で示し、挿入塩基はイタリック体で示し、ダッシュ(−)は欠失された塩基を示し、CCR2とCCR5座位の非保存塩基は小文字で示し、発生回数は括弧内に示し、WTは野生型DNA配列を示す。
【図7】染色体の記号上の標的部位の大きいネスト(large nested)されたゲノム欠失を示し、矢印は関連する染色体3領域の拡大された視野上のZFN標的部位の位置を示す。
【図8】大きいネストされた欠失を示すPCR分析結果であり、7つの新しいZFNの各々とS162をHEK293細胞で同時発現し、PCR分析に使用されたプライマーの配列は表2に整理されている。
【図9】大きい欠失の切断接合部分のDNA配列を示し、ZFN標的部位は太字で示し、マイクロホモロジーは下線で示し、挿入塩基はイタリック体で示し、ダッシュ(−)は欠失された塩基を示し、発生回数は括弧内に示し、WTは野生型DNA配列を示す。
【図10】大きい欠失の切断接合部分のDNA配列を示し、ZFN標的部位は太字で示し、マイクロホモロジーは下線で示し、挿入塩基はイタリック体で示し、ダッシュ(−)は欠失された塩基を示し、発生回数は括弧内に示し、WTは野生型DNA配列を示す。
【図11】ZFN−誘導された重複を模式図で示し、F5とR2(矢印)はゲノム重複現状の検出のために使用されたPCRプライマーである。
【図12】ZFN−誘導された重複を示すPCR分析結果であり、p3は陰性対照群として使用された空のプラスミドである。
【図13】ZFN−誘導された重複の切断接合部分のDNA配列を示し、CCR5及びCCR2の各塩基配列は黒色及び灰色で示し、重複された塩基配列はCCR5コード領域の5’部分とCCR2コード領域の3’部分が直接連結されており、ZFN標的部位は太字で示され、マイクロホモロジーは下線で示し、挿入塩基はイタリック体で示し、ダッシュ(−)は欠失された塩基を示し、CCR2とCCR5座位の非保存塩基は小文字で示し、発生回数は括弧内に示す。
【図14】新しいZFNの組み合わせで誘導された重複の切断接合部分のDNA配列を示し、ZFN標的部位は太字で示し、マイクロホモロジーは下線で示し、挿入塩基はイタリック体で示し、ダッシュ(−)は欠失された塩基を示し、発生回数は括弧内に示す。
【図15】ZFN−誘導された逆位を模式図で示し、PCRプライマーFとFは切断接合部分1の検出のために使用され、PCRプライマーRとRは切断接合部分2の検出のために使用された。“切断”はZFN−誘導されたゲノム切断を示し、“回転”は切断したDNAが180゜回転したことを示し、“逆位”は非相同末端結合(NHEJ)による切断部位の連結を示す。
【図16】ZFN−誘導された逆位を示すPCR分析結果であり、6対の新しいZFNの各々とS162をHEK293細胞で同時発現させ、PCR分析に使用されたプライマー配列は表2に整理されている。
【図17】逆位の切断接合部分のDNA配列を示し、ZFN標的部位は太字で示し、マイクロホモロジーは下線で示し、挿入塩基はイタリック体で示し、ダッシュ(−)は欠失された塩基を示し、発生回数は括弧内に示し、WTは野生型DNA配列を示す。
【図18】逆位の切断接合部分1のDNA配列を示し、ZFN標的部位は太字で示し、マイクロホモロジーは下線で示し、挿入塩基はイタリック体で示し、ダッシュ(−)は欠失された塩基を示し、発生回数は括弧内に示す。
【図19】逆位の切断接合部分2のDNA配列を示し、ZFN標的部位は太字で示し、マイクロホモロジーは下線で示し、挿入塩基はイタリック体で示し、ダッシュ(−)は欠失された塩基を示し、発生回数は括弧内に示す。
【図20】細胞のクローン集団の分析結果であり、ゲノム断片が欠失されたクローン細胞のCCR2とCCR5座位のZFN標的部位のDNA配列を示し、ZFN標的部位は太字で示し、マイクロホモロジーは下線で示し、挿入塩基はイタリック体で示し、ダッシュ(−)は欠失された塩基を示し、WTは野生型DNA配列を示す。
【図21】クローン細胞のサザンブロット分析結果であり、ゲノム欠失に該当する9.7kbバンドはCCR2座位周辺DNAをプローブとして使用して検出し、XはXbaI制限部位を示し、S162はZFN標的部位を示し、白の矢印はCCR2コード領域を示し、灰色の矢印はCCR5コード領域を示し、WTは野生型HEK293細胞を示す。
【図22】ZFN−誘導された挿入と置換を示す概略的な模式図である。ジグザグ線はZFN標的部位を示し、FとR(矢印)はゲノム挿入と欠失現象を検出するために使用されたPCRプライマーであり、OFとORはオリゴヌクレオチドを示し、dsODNカセットはOFとORのアニーリングによって製造した。
【図23】ZFNと合成DNA−処理された細胞のゲノムDNAのPCR分析結果であり、p3は陰性対照群として使用された空のプラスミドであり、OR−30とOR−891はdsODNカセットを構成する一つの鎖のODNを示し、F−30とF−891は合成DNA挿入を検出するために使用されたプライマーである。
【図24】Z30とdsODNカセットで処理した細胞から得たPCR産物のDNA配列を示し、PCR産物をクローニングして配列分析したし、ZFN標的部位は太字で示し、ダッシュ(−)は欠失された塩基を示し、発生回数は括弧内に示し、WTは野生型DNA配列を示す。
【図25】Z891とdsODNカセット−処理した細胞から得たPCR産物のDNA配列を示し、PCR産物をクローニングして配列分析したし、ZFN標的部位は太字で示し、ダッシュ(−)は欠失された塩基を示し、発生回数は括弧内に示し、WTは野生型DNA配列を示す。
【図26】ZFN−誘導されたdsODN(二重鎖オリゴヌクレオチド)でCCR5座位での挿入を示す。対照細胞から分離したゲノムDNAの蛍光PCR分析を示す。挿入ピークは対照群で示されなかったことが分かる。表示されたピーク面積の数はDNAの量に比例する。
【図27】ZFN−誘導されたdsODN(二重鎖オリゴヌクレオチド)でCCR5座位での挿入を示す。ZFNとともに処理された細胞から分離したゲノムDNAの蛍光PCR分析を示す。一つの星印(*)はZFN−誘導された欠失に該当するDNAピークを示し、2つの星印(**)はZFN−誘導された特異的な5−bp挿入を示す。挿入ピークは対照君で示されなかったことが分かる。表示されたピーク面積の数はDNAの量に比例する
【図28】ZFN−誘導されたdsODN(二重鎖オリゴヌクレオチド)でCCR5座位での挿入を示す。ZFN及びdsODNに処理された細胞から分離したゲノムDNAの蛍光PCR分析を示す。一つの星印(*)はZFN−誘導された欠失に該当するDNAピーク(peak)を示す。2つの星印(**)はZFN−誘導された特異的な5−bp挿入を示し、三つの星印(***)はZFN−誘導されたdsODNのゲノム挿入を示した。表示されたピーク面積の数はDNAの量に比例する
【図29】ゲノムDNA断片の標的された置換を示す。ZFNとともに処理した細胞からCCR2とCCR5との間の15−kbpDNA欠失を確認できるPCRを行った後、DNAはEcoRIによって切断した。それぞれのレーン(lane)は陰性対照群として使用したp3を処理した細胞ゲノム、ZFN−処理した細胞、そして、ZFNとdsODNカセットとをともに処理した細胞をEcoRIで切断した結果を示す。矢印はdsODNカセット−由来したEcoRIによって切断されたDNA断片を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
前記目的を達成するための一つの態様において、本発明は部位−特異的ヌクレアーゼを使用してゲノムの予定された2つの部位またはそれ以上を切断する段階を含む、ゲノムDNAを欠失、重複、逆位、置換または再配列させる方法に関する。
【0016】
本発明で使用される用語“部位−特異的ヌクレアーゼ”とは、ゲノム内DNAの標的部位を認識及び切断できるヌクレアーゼを意味し、本発明の目的のゲノム内標的部位を認識するドメインと切断するドメインとが融合されたヌクレアーゼが含めることができる。その例として、変形されたメガヌクレアーゼ(meganuclease)、植物病原性遺伝子(ゲノムの標的部位を認識するドメイン)から由来したTAL 作動体(transcription activator-like effector)ドメインと切断ドメインとが融合された融合タンパク質、及びジンクフィンガーヌクレアーゼが制限なく含めることができるが、より好ましくはジンクフィンガーヌクレアーゼである。
【0017】
本発明で使用される用語“変形されたメガヌクレアーゼ”とは、ゲノム内DNAの10bp以上を認識できる制限酵素の“メガヌクレアーゼ”を既存の分子生物学的方法を使用して新しいDNA切断特異性を有するように変形された酵素を意味する。
【0018】
本発明で使用される用語“ジンクフィンガーヌクレアーゼ(zinc finger nuclease)”とは、ジンクフィンガードメイン及びヌクレオチド切断ドメインを含む融合タンパク質を意味し、公知のまたは商業用ジンクフィンガーヌクレアーゼのすべてを含むことができる。また、ジンクフィンガーヌクレアーゼに制限されるのではないが、表3に記載され、または好ましい一つの実施例で使用される任意の一つのジンクフィンガーヌクレアーゼであり得る。本発明で使用される用語“ジンクフィンガーヌクレアーゼ”と“ZFN”とは互換され得る。
【0019】
ジンクフィンガーヌクレアーゼは、DNA二重鎖破損に導入するために、例えば、ホモダイマー(homodimer)またはヘテロダイマー(heterodimer)のような二量体(dimers)として作用し、本発明の所望の目的を達成することができる。
【0020】
一般的に、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)は二量体として作用するため、単一DNA部位を標的するために2つのZFN単量体が必要である。2つのZFN単量体は各々、異なるDNA鎖中の2つのうち、一つのハーフサイト(half-site)を認識し、これらは5または6bpスペーサーほど互いに離れている。また、単一ジンクフィンガーモジュールは、サブサイトの3bpを認識し、これに結合するので、2つ〜4つのジンクフィンガーモジュールから構成されたジンクフィンガードメインは6〜12bpのDNA結合部位を認識する。
【0021】
本発明で使用される用語“ジンクフィンガードメイン”とは、一つまたはそれ以上のジンクフィンガーモジュールを介して配列−特異的方式でヌクレオチドと結合するタンパク質をいう。ジンクフィンガードメインは、少なくとも2つのジンクフィンガーモジュールを含む。ジンクフィンガードメインは、ジンクフィンガータンパク質またはZFPとしてしばしば省略されたりする。
【0022】
本発明で使用される用語“ジンクフィンガーモジュール”とは、亜鉛イオンの配位を通じて構造が安定的で結合ドメインの内部にあるアミノ酸配列をいう。本発明のジンクフィンガーモジュールは、自然発生的、野生型ジンクフィンガーモジュールのものと同一の配列であるか、または、野生型配列の任意のアミノ酸を他のアミノ酸の置換によって変形された配列を有する。野生型ジンクフィンガーモジュールは、真核細胞、例えば、真菌(例えば、酵母)、植物または動物細胞(例えば、人間やマウスのような哺乳動物)から由来することができる。本発明で使用されたジンクフィンガーモジュールは、公知のモジュールと商業用のモジュールとを含むことができるが、これに制限されない。好ましく本発明のジンクフィンガーモジュールは、2つまたはそれ以上のジンクフィンガーモジュールであることができ、より好ましくは2つ〜4つのジンクフィンガーモジュール、さらに好ましくは3つジンクフィンガーモジュール、最も好ましくは下記表1に記載されたモジュールから選択することができる。
【0023】
【表1】

【0024】
1ZF No.はAddgeneで使用するジンクフィンガーコンソーシアムモジュールアセンブリキット(Zinc Finger Consortium Modular Assembly Kit)1.0のナンバリングスキームに基づいた。
【0025】
ジンクフィンガーヌクレアーゼのジンクフィンガードメインは、3bpのサブサイトを各々認識し、2つまたはそれ以上タンデム(tandem)配列されたジンクフィンガーモジュールから構成されている。各々のモジュールは独立的にDNA配列を認識するから、2つ〜4つのモジュールから構成されたジンクフィンガードメインは6または12bp配列に結合することができる。したがって、二量体機能をするジンクフィンガーヌクレアーゼの場合、2つ〜4つのジンクフィンガーモジュールから構成されたジンクフィンガーヌクレアーゼ1対は、12〜24bp配列を特異的に認識する。具体例として、本発明のジンクフィンガーヌクレアーゼは、ジンクフィンガードメインが2つまたはそれ以上、好ましくは2つ〜4つ、及びより好ましくは3つのジンクフィンガーモジュールから構成されている。
【0026】
本発明で使用される用語“切断”は、ヌクレオチド分子の共有結合されたバックボーンの連結を解除することを意味し、“切断ドメイン”とは、このようなヌクレオチド切断のための触媒の活性を有するポリペプチド配列を意味する。
【0027】
前記切断ドメインは、エンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼから得ることができる。切断ドメインが由来し得る模範的なエンドヌクレアーゼは、制限エンドヌクレアーゼを含むことができるが、これに制限されない。このような酵素は切断ドメインのソースとして使用することができる。また、前記切断ドメインは単一鎖ヌクレオチド配列を切断することができ、その切断ドメインのソースに応じて二重鎖切断が発生することができる。この点で、二重鎖切断活性を持つ切断ドメインを切断ハーフ−ドメインとして使用することができる。
【0028】
制限エンドヌクレアーゼは多くの種に存在し、DNA(認識部位で)で配列特異的結合が可能であり、結合部位でまたはその辺りでDNAを切断することができる。特定制限酵素(例えば、タイプIIs)は、認識部位から除去された部位でもDNAを切断し、分離することができる結合ドメインと切断ドメインとを有する。例えば、タイプIIs酵素であるFokIは、一方の鎖でその認識部位から9ヌクレオチドで、及び他方の鎖でその意認識部位から13ヌクレオチドでDNAの二重鎖切断を触媒する。
【0029】
タイプIIs制限酵素の例はFokI、AarI、AceIII、AciI、AloI、BaeI、Bbr7I、CdiI、CjePI、EciI、Esp3I、FinI、MboI、sapI、及びSspD51があるが、これに制限されるのではなく、より具体的な例はRoberts et al.(2003)Nucleic acid Res.31:418−420を参照する。
【0030】
本発明で使用される用語“融合タンパク質”とは、ペプチド結合を介して2つ以上の異なるポリペプチドの連結によって形成されたポリペプチドを示す。ポリペプチドはジンクフィンガードメイン及びヌクレオチド切断ドメインとを含み、これはヌクレオチド配列中の任意の標的部位を切断することができる。融合タンパク質(または融合タンパク質をエンコードするポリヌクレオチド)をデザインして構成する方法は、当該分野に広く知られている如何なる方法であってもよく、ポリヌクレオチドはベクターに挿入されることができ、ベクターは細胞内に導入することができる。一般的に融合タンパク質(例えば、ZFP−FokI融合)の構成要素は、ジンクフィンガードメインは融合タンパク質のアミノ末端(N末端)の最も近くに及び、切断ハーフドメインはカルボキシ末端(C末端)の最も近くに配列される。これはFokI酵素に由来した自然−発生切断二量体化ドメイン中の切断ドメインの相対的配向(orientation)を反映するが、ここでもDNA−結合ドメインはアミノ末端の最も近くに及び、切断−ハーフドメインはカルボキシ末端の最も近くにある。
【0031】
本発明で使用される用語“ゲノムの予定された2つの部位”とは、ゲノム内切断するための標的部位を意味し、ゲノムとは、遺伝子群を有した染色体のセットを意味する。本発明でゲノム内標的部位は互いに異なり、したがって、各異なる部位の切断は本発明で意図する欠失、重複、逆位、置換または再配列を誘導することができる。
【0032】
前記“ゲノムでの予定された2つの部位”とは、ジンクフィンガーヌクレアーゼによって切断した部位であって、各々の部位は少なくとも6つの塩基対ほど離れている。
【0033】
好ましい一実施態様において、本発明は部位−特異的ヌクレアーゼを使用してゲノムの予定された2つの部位を切断する段階を含み、ゲノムDNAを欠失させる方法に関する。好ましくは、部位−特異的ヌクレアーゼはジンクフィンガーヌクレアーゼであり、より好ましくは、ジンクフィンガーヌクレアーゼは1対または2対のZFNであり、1対のZFNはゲノム内の2つの部位を認識することができ、または、2つのZFN対の各々はゲノムの2つの異なる部位のうち一つを認識することができる。さらに好ましくは、2対のZFNを使用することができ、2対のジンクフィンガーヌクレアーゼは同一であるか異なるジンクフィンガードメインを含むことができる。最も好ましくは、異なるジンクフィンガードメインを持つ2つのZFN対は、2つまたはそれ以上の異なる部位の標的された欠失を誘導するために機能する。
【0034】
ZFNによって欠失されたゲノムDNA断片は、宿主ゲノム内に挿入された内因性染色体断片または遺伝子導入カセットであり得る。
【0035】
一般的に、単一ジンクフィンガーモジュールは3つの塩基対を認識することができる。本発明で使用した結合したZFN対は2つまたはそれ以上のジンクフィンガーモジュールからなっている。したがって、ゲノム内の2つの標的部位はジンクフィンガーモジュール2つを使用して認識することができる長さで少なくても6つの塩基対ほど離れていなければならない。もし2つのZFN標的部位の間の切断されたDNA断片の長さが5つの塩基対より小さいと、一方の対のジンクフィンガーヌクレアーゼによって切断されたDNAに、他方の対のジンクフィンガーヌクレアーゼが機能できなくなる。この場合、一対のジンクフィンガーヌクレアーゼを構成するそれぞれの単量体は少なくとも2つのジンクフィンガーモジュールから構成されているので、少なくとも6つの塩基対を認識することができる。
【0036】
本発明の好ましい実施例1で使用される人間ケモカイン(C-C motif)受容体コード化CCR5とCCR2遺伝子は、3番染色体上に互いに隣接して位置しており、相同性が高い。このように、2つのCCR5とCCR2部位を標的するZFNは15kbpDNA断片の欠失を誘導することを確認し、ZFNはゲノム内標的された2つの異なる部位に特異的なゲノム欠失が生ずることを示す(図2)。図3に示されたように、切断接合部分での小さな挿入/欠失の頻繁な観察は2つのZFN標的部位のスペーサー配列が一致する必要はないということを提案する。これはゲノム内の2対の特異的部位を認識できるジンクフィンガードメインが、標的された方法でゲノム欠失を誘導するために選択されることを示す。実施例2において、2つの異なるジンクフィンガーヌクレアーゼがゲノム欠失を誘導することができるかどうかを確認するために、同じ染色体中の2つの非相同部位のうち1つを各々標的する2つのZFN対で実験を行った。その結果、2つの部位の間のゲノム欠失が発生したことを確認した(図4〜図6)。実施例3において、4つのジンクフィンガーモジュールから構成されたいくつかのZFNが数十kbp〜数十mbp範囲のサイズのゲノム断片の大きい欠失を誘導するために使用されたことを確認した(図7〜図10)。
【0037】
好ましい一実施態様において、本発明は部位−特異的ヌクレアーゼを使用してゲノムの予定された2つの部位を切断する段階を含み、ゲノムDNAを重複させる方法に関する。好ましくは前記部位−特異的ヌクレアーゼはジンクフィンガーヌクレアーゼである。ジンクフィンガーヌクレアーゼの特徴は前述したゲノムDNAを欠失させる方法と同様である。
【0038】
2つの二重鎖破損が同一染色体で発生した場合、ゲノム欠失は分子内接合(intra-molecular joining)で発生する。一方、2つの二重鎖破損が2つの姉妹染色分体または2つの相同染色体中で別々に発生した場合、分子内接合によって一つの染色分体では欠失が、他の染色分体では重複が発生する。本発明のゲノムの予定された部位のゲノム重複は、遺伝子量(gene dosage)の増加を発生させ得る。ジンクフィンガーヌクレアーゼによる重複は常に欠失を伴うようになるから、一つの細胞内で重複された遺伝子の数は変化がないが、減数分裂の後、受精の間に3または4に遺伝子の数が増加することができる。したがって、本発明の重複方法は、植物または動物の遺伝子量を増加させて有用な個体を作るために使用することができる。
【0039】
実施例4において、このようなゲノム重複は異なる部位を標的したジンクフィンガーヌクレアーゼ2対を発現させて確認した(図12〜図14)。
【0040】
好ましい一実施態様において、本発明は部位−特異的ヌクレアーゼを使用してゲノムの予定された2つの部位を切断する段階を含む、ゲノムDNAを逆位させる方法に関する。好ましく部位−特異的ヌクレアーゼはジンクフィンガーヌクレアーゼであり得る。ジンクフィンガーヌクレアーゼの特徴は前述したゲノムDNAを欠失させる方法と同様である。
【0041】
ゲノム逆位はゲノムの一部が元々のゲノムと反対であることを意味する。ゲノム逆位は頻繁に癌細胞と遺伝病患者の細胞で観察される。例えば、10番染色体上の500kbp部分の逆位は、チェルノブイリ原子力発電事故のために電離放射線に被曝した甲状腺癌患者で発見され(Nikiforov et al.,1999; Nikiforova et al.,2000)、X染色体での因子VIIIの逆位は、すべての深刻な血友病患者のうち、約半分で確認された(Lakich et al.,1993)。本発明のゲノム逆位方法は前記疾病の予防と治療に効果的に使用することができる。
【0042】
実施例5において、ゲノム逆位はPCRを使用してゲノムの2つの異なる部位を標的するジンクフィンガーヌクレアーゼを発現させて確認した(図15及び図16)。I−SceIと異なり、本発明のオーダーメード型ZFNはゲノム内標的部位の事前導入をせずゲノム逆位を誘導することができる。
【0043】
好ましい一実施態様において、本発明は部位−特異的ヌクレアーゼを使用してゲノム内の予定された2つの部位を切断する段階を含む、二重鎖オリゴヌクレオチド(dsODN)のような合成DNA分子とゲノムDNAとを置換させる方法に関する。好ましくは、部位−特異的ヌクレアーゼはジンクフィンガーヌクレアーゼであり得る。ジンクフィンガーヌクレアーゼの特徴は前述したゲノムDNAを欠失させる方法と同様である。
【0044】
挿入及び置換に使用され得るDNA分子は、合成オリゴヌクレオチドカセットだけでなくクローニングされた長いプローモーター、エンハンサー、遺伝子であり得る。この時、挿入させるDNAの5’オーバーハング(overhang)はZFN作動によって発生された二重鎖破損の5’オーバーハング配列と相補的に作って、予定された方向での外来DNA挿入を許容する。本発明のゲノム置換の方法は、遺伝子発現の活性のために低く発現される遺伝子の上流に強力なプローモーター及びエンハンサーを挿入するとか遺伝子発現の活性化のために強いプローモーターの下流に関心のある遺伝子を挿入するために使用することができる。
【0045】
挿入及び置換に使用されたDNA分子は化学的に変形され得る。dsODNの5’オーバーハングは内因性エキソヌクレアーゼによる消化を防止するために化学的に変形され得る。例えば、ヌクレオシド間の連結(inter-nucleoside linkage)のホスホロチオエート変形はオーバーハングを保護するのに使用され得る。
【0046】
挿入及び置換方法は、一部ゲノムDNAの転座(translocation)に使用することができる。すなわち、1番染色体に位置した遺伝子Aと2番染色体に位置した遺伝子Bとを置換するのが可能である。その達成のために、遺伝子Aの両末端にそれぞれ標的されたZFN2つと遺伝子Bの両末端にそれぞれ標的されたZFN2つとを、細胞内で発現させるために準備しなければならない。このようなゲノムシャフリングは、遺伝子と染色体との間の相互作用を研究するのに寄与することができ、作物、魚類、及び家畜の品種改良に使用され得る。
【0047】
実施例9において、ゲノム置換は、ゲノムで欠失と挿入とが同時に発生されて置換がなり得るかどうかを調査して確認した(図29)。
【0048】
また一つの態様として、本発明は部位−特異的ヌクレアーゼを使用してゲノムの予定された2つの部位を切断する段階を含む、ゲノムDNAを欠失、重複、逆位、置換または再配列させた細胞に関する。好ましくは前記部位−特異的ヌクレアーゼはジンクフィンガーヌクレアーゼであり得る。
【0049】
細胞は、E.coliのような原核細胞、または酵母、真菌、原生動物、高等植物、及び昆虫のような真核細胞、または両生類細胞、またはCHO、HeLa、HEK293、及びCOS−1のような哺乳類細胞など、例えば、培養された細胞(in vitro)、移植細胞と初代細胞培養(in vitro及びex vivo)、及び生体内細胞、並びにまた人間を含んだ哺乳類の細胞が当業界で通常的に使用され、制限されない。
【0050】
また一つの態様において、本発明は部位−特異的ヌクレアーゼを使用してゲノムの予定された部位を切断する段階を含み、合成DNA分子を挿入させる方法に関する。好ましくは部位−特異的ヌクレアーゼはジンクフィンガーヌクレアーゼであり得る。
【0051】
本発明者らは、ジンクフィンガーヌクレアーゼによる人間培養細胞におけるゲノムDNA欠失でゲノムの挿入が可能であることを推論した。実施例7において、標的方法での合成DNAオリゴヌクレオチド挿入を確認した(図23〜図25)。また、実施例8において、所望の部位に合成DNAオリゴヌクレオチドが挿入されるのか確認した(図26〜図28)。事前に2つの二重鎖破損が要求される欠失とは異なり、挿入は事前に1つの二重鎖破損で十分である。
【0052】
好ましい一実施態様において、合成DNA分子はDNA合成機を使用して2つのオリゴヌクレオチドをアニーリングして準備することができる。この時、合成オリゴヌクレオチド自体を使用することもでき、合成オリゴヌクレオチド上に5’−リン酸基(phosphate group)を配置させて使用することもできる。好ましくはアニーリングして準備した合成DNA分子が5’4bpまたは5bpのオーバーハングを有しており、オーバーハング配列はZFN作用によって発生されたオーバーハング配列と相補的に作る。
【0053】
好ましい一実施態様において、合成DNA分子はPCRによって準備され得る。これとは異なり、合成DNA分子はプラスミドのようなベクターにクローニングされたDNAを制限酵素処理で得たDNA断片であり得る。
【0054】
前記合成DNA分子の長さと塩基配列とは、所望の突然変異によって任意的な方法で研究者らによってデザインされ得る。例えば、停止コドン(stop codon)をコードした合成DNA分子をゲノムの遺伝子に挿入してその遺伝子発現を中断させることもでき、GFPとFLAGタグのようなアミノ酸配列がフレームに挿入され得る。合成DNA分子はcDNA配列全体または一部であってもよく、エンハンサー、プローモーター、エクソン、イントロンなどであってもよい。
【0055】
ジンクフィンガーヌクレアーゼは1対のジンクフィンガーヌクレアーゼであり得る。好ましい一実施態様において、ジンクフィンガーヌクレアーゼは2つまたはそれ以上のジンクフィンガーモジュールを含むことができる。好ましくはジンクフィンガーモジュールは表1に記載されたモジュールのうちから選択され得る。ヌクレオチド配列の切断で、ジンクフィンガーヌクレアーゼは二量体として機能することができる。好ましくは、ジンクフィンガーヌクレアーゼは表3に記載されたもののうちの一つであり得る。
【0056】
ジンクフィンガーヌクレアーゼを使用してゲノム中で合成DNAを挿入するとか置換する方法は、相同組換えを介した遺伝子標的化方法によるゲノムエンジニアリングに比べて大きい長所がある。第一に、遺伝子標的化方法は非常に低い効率を持つ。第二に、遺伝子標的化方法は挿入しようとする塩基配列両端に相同アーム(homology arm)の少なくとも1kbpを含む遺伝子標的化ベクターが要求される。有利に本発明のジンクフィンガーヌクレアーゼを使用した挿入または置換方法は、遺伝子標的ベクターが要求されず、また、高い効率で突然変異が誘導される。
【0057】
また一つの態様において、本発明は部位−特異的ヌクレアーゼを使用したゲノムの予定された部位を切断する段階を含み、合成DNAの挿入が発生した細胞に関する。好ましくは、部位−特異的ヌクレアーゼはジンクフィンガーヌクレアーゼであり得る。
【0058】
合成DNA挿入は欠失、重複、逆位、置換と異なり、ゲノム内の予定された一つの部位の切断によって発生することができる。挿入のためには一対のZFNの使用でも十分である。本発明の挿入方法によって高等真核細胞で高い再現性のあるゲノムの予定された部位への合成DNA挿入ができる。
【0059】
好ましい実施態様において、合成DNAの挿入はPCR結果で調査した(図23〜図25)。大部分のクローンは、いかなる小さな欠失や挿入もなく合成DNAカセットが完璧にジンクフィンガーヌクレアーゼによって標的された部位に挿入されたことを確認し、合成DNAカセットのオーバーハング配列は二重鎖破損のオーバーハング配列と相補的に作って部位−特異的突然変異を誘導することができることを示す。
【0060】
また一つの態様において、本発明は部位−特異的ヌクレアーゼに誘導されたゲノム手術(以下、“ZiGS”という)に関する。好ましくは、部位−特異的ヌクレアーゼはジンクフィンガーヌクレアーゼであり得る。
【0061】
本発明の方法は、ジンクフィンガーヌクレアーゼを使用して高等真核細胞及び個体のゲノム内で標的された欠失と逆位とを誘導することができ、関心のあるゲノムから遺伝子群を除去することができる。動物研究やインビトロ(in vitro)実験で単一遺伝子をノックアウト(knock-out)させた時、ある識別可能な表現型の変化結果を示さない場合がしばしばある。大概、表現型マスキングは頻繁に相同遺伝子の存在に起因する。興味深いことに、相同遺伝子はゲノムでクラスター(cluster)化する傾向がある。例えば、本発明の好ましい実施例で使用したCCR2とCCR5とは染色体3p21に真横に互いに隣接している。本発明のジンクフィンガーヌクレアーゼは、同一細胞でユニットとして相同遺伝子のクラスターを除去するのに使用することができる。また、ジンクフィンガーヌクレアーゼ−誘導された欠失は、遺伝子間領域(intergenic region)とイントロンとを選択的に欠失させるのに使用することができる。ジンクフィンガーヌクレアーゼは幹細胞または体細胞から疾病関連遺伝子を選択的に除去するのに使用することができる。遺伝子間領域またはイントロン中の2つの部位を標的することによってプローモーターやエクソンが欠失され得る。しかも、プローモーター領域を含むDNA断片の標的された欠失は関心のある遺伝子を完璧にノックアウトさせて表現型を100%ヌル(null)にすることができる。このようにZiGSは高等真核細胞と個体でゲノム欠失及び逆位を誘導するのに使用され得る。
【0062】
また一つの態様において、本発明は(a)切断しようとする特定塩基配列を決定する段階と、(b)前記塩基配列を認識するジンクフィンガーモジュールを選択する段階と、(c)前記(b)段階のジンクフィンガーモジュールを含むジンクフィンガーヌクレアーゼを製造する段階と、(d)製造されたジンクフィンガーヌクレアーゼを細胞内に導入させる段階と、を含むジンクフィンガーヌクレアーゼを細胞内で発現させる方法に関する。
【0063】
前記(a)段階のヌクレオチド配列は、細胞内または外に存在することができ、その長さの制限はない。ヌクレオチド配列は円型、単一または二重鎖の形態で存在することができる。
【0064】
前記(b)段階は、前記塩基配列を認識するジンクフィンガーモジュールを選択する段階であって、ジンクフィンガーモジュールはどんな公知のモジュール及び商業用モジュールであってもよく、また、新しく合成されることもできる。
【0065】
前記(c)段階のジンクフィンガーモジュールは、2つまたはそれ以上のモジュールを含むことができ、好ましくは2つ〜4つのモジュールを含むことができ、より好ましくは3つのモジュールを含むことができる。好ましくは前記で製造されたジンクフィンガーヌクレアーゼは異なる部位を認識することができる1対のジンクフィンガーヌクレアーゼであることができ、または異なる部位を認識することができる2対のジンクフィンガーヌクレアーゼであり得る。さらに好ましくは2対のジンクフィンガーヌクレアーゼを製造することができる。
【0066】
前記(d)段階の細胞内にジンクフィンガーヌクレアーゼを導入させる方法は、当業界に知られた公知のどんな方法でも行うことができ、形質感染(transfection) または形質導入(transduction)によって外来DNAを細胞に導入させることもできる。形質感染は、リン酸カルシウム−DNA共沈殿(co-precipitation)、DEAE−デキストラン−媒介形質感染、ポリブレン−媒介形質感染、電気穿孔、マイクロインジェクション法、リボソーム融合、リポフェクション及び原形質体融合を含む当業界に公知された多くの方法によって行われることができる。前記(d)段階のジンクフィンガーヌクレアーゼの細胞内での発現は、当業界に知られたどんな方法によっても行うことができ、例えば、ベクターを使用することができる。ベクターの例として、プラスミド、コスミド、バクテリオファージ及びウイルスベクターを含むが、これに制限されない。適合した発現ベクターはその目的に応じてプローモーター、オペレーター、開始コドン、終結コドン(termination codon)、ポリアデニル化シグナル及びエンハンサーのような発現調節要素だけでなく分泌シグナル配列を含んで製造することができる。
【0067】
参考文献
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Lakich, D., Kazazian, H.H., Jr., Antonarakis, S.E., and Gitschier, J. (1993). Nat Genet 5, 236-241.
Nikiforova, M.N., Stringer, J.R., Blough, R., Medvedovic, M., Fagin, J.A., and Nikiforov, Y.E. (2000). Science 290, 138-141.
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【0068】
本明細書で言及される特許及び特許出願及び他のすべてのものを含むすべての参考文献はその全体が本明細書で参考として含まれる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を介して本発明をより詳細に説明することにする。しかし、これらの実施例はただ本発明を例示するためのものであって、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されることに解釈されない。
【0070】
実施例1:CCR5−CCR2欠失
<1−1>CCR5−CCR2欠失
CCR5遺伝子を標的とするZFNを製造した(Kim et al.,2009)。このCCR5−標的ZFNの大部分は、CCR2座位で該当する相同部位で部位−特異的ゲノムエディティング(editing)活性を示すことができるので、研究されたZFNは各座位に部位−特異的点突然変異だけでなく大きいゲノム欠失を誘導することができた。
【0071】
ZFN発現プラスミドをHEK293(Human embryonic kidney 293)細胞に形質感染(transfection)し、3日後に、それからゲノムDNAを分離してゲノム欠失検出のためにDNA増幅のための鋳型として使用した。配列がCCR2領域またはCCR5領域に該当し、16kbp離れている2つのプライマーを使用した(図1)。実験に使用したプライマー配列は表2に整理した。
【0072】
【表2】

【0073】
その結果、PCR産物は対照群の空のプラスミドで形質感染された細胞から観察されなかった。その標的部位がCCR5座位CCR2座位との間に保存されている7つの異なるZFNをそれぞれ発現させた細胞から増幅されたDNA断片が観察されたし(図2)、そのPCR産物のサイズは約1kbpであったし、これは2つのZFN標的部位の間のDNA断片が染色体から欠失された時に予想されるサイズであった。一方、Z30とZ266とを発現させた細胞からは増幅されたDNA断片が観察されなかったし(ここで、数字はCCR5遺伝子の開始コドンに対するZFN切断部位の位置を示す)、その認識部位はCCR2座位で保存されず、その細胞でゲノム欠失が発生されなかったことを示唆する。
【0074】
このような結果は、人間細胞内で大きいゲノム欠失を起こすためには、ZFNが染色体でただ一つの二重鎖破損(DSB)のみを発生させるのではなく、2つの二重鎖破損(DSB)を発生させなければならないことを示す。
【0075】
<1−2>CCR2−CCR5欠失の塩基配列分析
PCR産物はそれらのDNA配列を決定するためにクローニングし、実際に CCR2部位とCCR5部位とは結合されており、間には15−kbpDNA断片が欠失されていることを示した(図3)。切断接合部分の塩基配列はZFNのDNA切断パターンと一致した。ZFNは二量体として機能し、各単量体は5または6bpのスペーサーで離れている2つの9−bpまたは12−bpのハーフ−サイト(half-site)のうち、一つを認識した。ZFNはスペーサーでDNAを切断し、5’に4または5−bpのオーバーハングを発生させる(Smith et al.,2000)。PCRに使用したプライマー配列は表2に整理した。PCR産物の配列分析は、CCR2座位のハーフ−サイト(A)がCCR5座位のハーフ−サイト(B)と直接連結され、CCR2座位に他のハーフ−サイト(A)からCCR5座位に他のハーフ−サイト(B)まで15−kbpDNA幅が欠失されたことを示した。切断接合部分配列では15−kbp欠失だけでなく小さな(1−14bp)挿入/欠失を示した(図3)。このような小さな挿入/欠失の突然変異パターンは非相同末端結合(以下、“NHEJ”という)の特徴的な結果である。さらに、1−5塩基のマイクロホモロジー(microhomologies)が接合部分で観察された(図3)。
【0076】
切断接合部分で小さな挿入/欠失が頻繁に観察されることは、ゲノム欠失を促進させるために2つのZFN標的部位のスペーサー配列が一致する必要はないということを示唆する。この点で本発明で使用したサンガモ(Sangamo Biosciences,Inc.)のCCR5−標的ZFNに注目する価値がある(このZFNはPerez et al. 2008でZFN−215としてデザインされたが、混乱を避けるために本発明ではS162と示す)。それぞれの異なる6つのZFNはCCR5座位とCCR2座位とに保存されたスペーサー配列を有するが、S162はその座位で他のオーバーハング配列を発生した。すなわち、S162はCCR5座位で5’CTGAT及びCCR2座位で5’ATTAAを(図3にその相補的配列を記述した)発生した。このようなオーバーハング配列はDNA修復の間に埋めたり除去される。S162を発現させた時に特異的な15−kbpのゲノム欠失を観察した(図2及び図3)。
【0077】
実施例2:2対のZFNによる欠失
<2−1>2対のZFNによる欠失
次に、異なる2つの部位を標的する2対のZFNがDNA断片の間の欠失を誘導できることを確認した。この分析のために、CCR5を標的するZFNの2つのセットを選択し、Z30+Z891とS162+Z891との組み合わせを分析に使用した。2対のZFNを発現させた細胞からゲノムDNAを分離し、CCR5コード配列を増幅した。PCRに使用したプライマー配列を表2に整理した。
【0078】
その結果、全体CCR5コード領域に該当する1,060bpの増幅は野生型ゲノムDNA(DNA欠失無し)で観察され、199bpDNAバンドと331bpバンドとの増幅はZ30+Z891セットとS162+Z891セットとがそれぞれ発現する細胞で観察された(図4及び図5)。しかし、PCR産物はZFNを発現させないとかまたは2対のZFNのうち、一対のZFNのみを発現させた細胞では観察されなかった。
【0079】
<2−2>2対のZFNによる欠失の塩基配列分析
PCR産物はクローニングして配列分析し、Z30+Z891を発現した細胞では約861bpDNA断片とS162+Z891を発現した細胞では約729−bpDNA断片の特異的な欠失を確認した(図6)。実施例1−2に記述したように、特異的な欠失だけでなくマイクロホモロジー及び小さな挿入/欠失はジョイント(joint)で観察した。このような結果は、DNA欠失が非相同末端結合を介して媒介されたことを強く支持する。たとえCCR5座位で異なる2つの部位のうち、一つを標的とするそれぞれ2対のZFNを使用した時でも、標的欠失は相変らず観察された。相同組換えが欠失現象の原因という可能性を排除した。
【0080】
実施例1に記述したように、2つのZFN標的部位の異なるスペーサー配列はゲノム欠失が不可能ではない。例えば、Z30とZ891とは、それぞれ5’ATGT(相補的な配列は図6に記述した)と5’CCTTオーバーハングを発生するが、CCR5座位に約861bpDNA断片の欠失を起こすことができた。このような結果は、標的ゲノム欠失のためのZFNデザインはZFN認識部位またはスペーサーの配列に制限されないということを示す。
【0081】
実施例3:大きいネストされた欠失
2つのZFN対を使用して人間ゲノムからDNAの非常に長い伸長(stretches)の欠失が可能かどうかを調査した。このために、CCR5座位のはるか上流(upstream)の異なる標的部位であるZFN対のシリーズを合成した。人間またはショウジョウバエゲノムにコードされた17の自然的−発生ジンクフィンガーを4−フィンガーZFNを集合させるためのモジュールとして使用した(すなわち、ZFNは4つのジンクフィンガーモジュールがタンデム配列されて構成)(表1)。
【0082】
それぞれのジンクフィンガーモジュールは3bpを認識し、17個のジンクフィンガーのそれぞれは異なる3bpのサブサイトを認識し、総括的に、64個のトリプレットサブサイト(triplet sub-site)のうち、21個をカバーする。ZFNは二量体(dimer)として機能するから、一つの部位を標的するZFNを準備するためには、部位当り2つの4−フィンガーZFN単量体を準備しなければならない。4−フィンガーZFNは12−bpハーフ−サイトまたは24−bpフルサイトを認識する。全体30対のZFNを合成し、新しく準備したZFNはCCR5座位の30kbp〜46Mbp上流の部位を認識する。
【0083】
それぞれのZFN対を、CCR5座位を標的するS162対とともに形質感染によってHEK293細胞で同時発現させた。スワップ(Swapped)された二量体の形成を防止するために、義務的ヘテロ二量体(obligatory heterodimer)のS162を使用した。二量体界面のアミノ酸残基の変化のため義務的ヘテロ二量体はホモ二量体(AAまたはBBのような)またはスワップされた二量体(ABのような)を形成しない(Miller et al.,2007)。したがって、S162を構成する各々の単量体は任意の新しいZFN単量体と二量体とを形成することができない(他の言及がない限り、本発明に使用した他のすべてのZFNは野生型である)。
【0084】
その結果、S162とともに同時発現された30対のZFNのうち、7対で全体欠失に該当するPCR産物を得た(これらZFNに対する情報は下記表3に記載する)。PCRに使用されたプライマー配列は表2に整理した。
【0085】
下記表3に示したZFNは2つの単量体から構成された二量体として機能した。例えば、K33をK33RとK33Fとの対で構成した。下記に記述したジンクフィンガーモジュールの名前は、塩基と相互作用すると期待される主要部位のアミノ酸残基4つから由来した。F1とF4とはそれぞれN末端のジンクフィンガーモジュールとC末端のジンクフィンガーモジュールとを示した。F2とF3とはF1とF4との間に位置するジンクフィンガーモジュールを示した。F1はDNAの3’末端の3−bpと結合し、F4はDNAの5’末端3−bpと結合した。ジンクフィンガーモジュールは“TGEKP”アミノ酸によって互いに連結し、F4と“FokI”制限酵素ドメインが(F4H)−TGEK−(FokIQLV)で連結した。
【0086】
【表3】

【0087】
PCR産物の配列分析はそれぞれゲノムDNA断片33kbp、230kbp、276kbp、781kbp、835kbpと15.1Mbpの大きい欠失をはっきりと確認し、小さな挿入/欠失とマイクロホモロジーも観察した(図7〜図10)。新しく作ったZFNまたはただS162のみ発現させた細胞ではPCR産物が観察されなかった。
【0088】
また、S162不在での新しいZFNの使用が、該当するゲノム欠失を生じさせることができるかどうかを調査した。7対の活性ZFNの様々な組み合わせでそれぞれの場合に欠失を確認することができる。K230とM15とが14.9Mbp(=15.1−0.23)の欠失をもたらす。前記実施例1−2及び2−2のように、PCR産物の配列分析でまた、ZFN−誘導された欠失がマイクロホモロジーと小さな挿入/欠失を伴うことを明らかにした(図9及び図10)。
【0089】
要約すると、ZFNのさまざまな組み合わせを用いて、CCR5座位内で2つの欠失(730bpと861bp)、CCR2とCCR5座位の間の7つの異なる15kbp欠失、CCR5座位とCCR5上流座位の間の7つの欠失(33kbp、230kbp、243kbp、276kbp、781kbp、835kbp、15.1Mbp)、及びCCR5の2つの上流座位の間の3つの欠失(538kbp、551kbp、14.9Mbp)が、人間細胞内で観察された。この結果は、任意の2つの活性ZFNを使用して人間細胞で特異的なゲノム欠失を生じさせることができることを示唆した。
【0090】
実施例4:重複
ZFNが人間細胞内で欠失だけでなく重複または逆位のようなゲノム再配列を誘導するかどうかを確認するために、下記の実験を行った。
【0091】
図11で例示したように、2つの姉妹染色分体(sister chromatid)の異なる部位で二重鎖破損が発生した後、互いの間に結合が発生すると、一つの染色分体でゲノム欠失が発生し、他の染色分体ではゲノム重複が発生するようになる。我々は重複の発生を確認するためにPCRを使用した。
【0092】
CCR5とCCR2座位を標的するすべてのZFNは、図12に示すように、重複に該当するPCR産物を生成した。しかし、ZFNを発現させない細胞(陰性対照細胞:図12にp3で示す)と、認識部位がCCR5座位でだけ存在し、CCR2にはないZ30とZ266とを発現させる細胞では、増幅されたDNA断片を得ることができなかった(図2で示したように、Z30とZ266とは15−kbpDNA欠失を誘導しなかった)。PCRに使用されたプライマー配列は前記表2に整理した。
【0093】
PCR産物をクローニングし、配列分析してCCR5コード領域の5’部分とCCR2コード領域の3’部分が直接連結されていることを確認した(図13)。
【0094】
30kbpまたはそれ以上のゲノム欠失を誘導するさまざまな組み合わせのZFNで実験を行った。その結果、2つのZFN認識部位でDNAの重複に該当するPCR産物はそれぞれのZFNの組み合わせで処理されたすべての細胞から得ることができた(データは提示せず)。一方、ただ一つの部位のみを標的する1対のZFNで処理した細胞からはPCR産物を得ることができなかった。欠失から分かるように、小さな挿入/欠失とマイクロホモロジーを重複の切断接合部分で観察した(図14)。この結果は、非相同末端結合がZFN−誘導された重複に関与することを示唆した。
【0095】
実施例5:逆位
逆位の機作を調査し、人間細胞内DNA断片逆位復帰の可能性を調査するために、本発明者らはHEK293細胞での一時的ZFN発現後に示される現象を調査した。
【0096】
図15に示したように、ZFN−誘導された標的された逆位は同じ方向を指示するプライマーを使用し、PCRによって確認した。PCRに使用したプライマー配列は表2に整理した。逆位が発生しないならば、PCR産物を得ることがなく、逆位が発生したら、予定されたサイズのPCR産物を得ることができる。
【0097】
その結果、ZFN標的された2つの部位のさまざまな組み合わせとともに染色体3q21で230kbp、243kbp、276kbp、781kbp、835kbp、15.1Mbpのゲノム逆位に該当するPCR産物を観察した。しかし、ZFNを発現させない細胞ではPCR産物を得ることができなかった(図16)。
【0098】
PCR産物をクローニングし、配列分析して、これに該当する部位で実際に逆位が発生することを確認した(図17〜図19)。ゲノム逆位は2つの切断接合部分を発生させる。これらのそれぞれを配列分析し、このジャンクションで小さな欠失/挿入とマイクロホモロジーとを観察した。この結果は、非相同末端結合がZFN−誘導された逆位にも関与することを示唆した。
【0099】
要約すると、この結果は、染色体上の二重鎖破損が、該当する領域のゲノム逆位を発生させ、逆位されたゲノム断片がZFNによって復帰することができることを示唆した。
【0100】
実施例6:細胞のクローン集団(clonal population)の分析
<6−1>PCRを使用した細胞のクローン集団分析
ZFNに誘導されたゲノム欠失の頻度及び特性を調査し、標的されたゲノム欠失が発生したクローンをスクリーニングした。
【0101】
S162−処理された細胞をプレートで限界希釈して(96ウェルプレート中0.7細胞/ウェル)15日〜21日培養した。細胞の分離されたクローン集団からゲノムDNAを分離し、その後、ゲノム欠失を検出するためにPCRによって分析した。PCRに使用されたプライマー配列は表2に整理した。
【0102】
その結果、2つのクローンで予想されたサイズの増幅されたPCR断片を得た。前記PCR産物の配列分析は、2つの標的部位(CCR2の一部位とCCR5座位の他の一部位)の間の15kbpDNA断片の特異的欠失及び2つの終点の結合を確認した(図20)。HEK293は、多倍体細胞株で、3番染色体の少なくとも3つのコピーを含むようにした。クローン2では2つの異なる15kbp欠失に相応する塩基配列が示され、2つの相同染色体で欠失が発生したことを示した。クローン2は、他の3番染色体では15kbp欠失を示さなかったが、CCR5座位でS162−誘導された局所的な突然変異(local mutation)が示された。クローン1は、ただ一つの相同染色体に15−kbp欠失を示し、他の相同染色体では1つの野生型塩基配列と3つの異なる突然変異を示した。クローン1は単一クローンではなく、2つのクローンの混合物として推定した。クローン1、2の両方で15−kbpDNA重複が示さなかった。この結果は、欠失及び重複がいつも同時に発生しないとの予測と一致する。
【0103】
<6−2>サザンブロット分析
この細胞のクローン集団は、ゲノム欠失の存在を確認するためにさらにサザンブロッティングで分析した。クローン1と2及び野生型HEK293からゲノムDNAを分離し、XbaIを処理し、及び電気泳動した。CCR2座位周辺のDNAをプローブとして使用してゲノム突然変異(genome mutation)を確認した。
【0104】
図21に示したように、クローン1と2から15kbp欠失に該当するDNAバンドを観察した。本発明者らが分析した数十クローンのうち、2つのクローンでZFN−誘導されたゲノム欠失を示し、ZFN−誘導されたゲノム欠失の効率は2%またはそれ以上と推定した。この結果は、効率がZFNによって標的された欠失を有する細胞を得るのに充分に高いことを意味する。
【0105】
実施例7:ゲノムへの合成DNA分子の挿入
ZFN−誘導されたゲノム挿入の可能性を確認するために、小さなオリゴヌクレオチドの2つの鎖を合成し、二重鎖ODN(oligodeoxynucleotide)カセットを準備するためにアニーリングし、ZFNとともにHEK293細胞に形質感染させた。この実験のために、Z30とZ891のそれぞれを使用した。Z30はCCR5座位を標的するために作り、5’−ACAT及び5’−ATGTのオーバーハングを発生し、dsODNカセットはこれと相補的な5’オーバーハングを有するようにデザインされた2つの相補的な27−merODN(図22にOF及びORで示す)から構成した。Z30−発現させた細胞内でdsODNカセットの挿入を確認するために、カセットを構成するdsODNのうち、一つをプライマーとして使用してPCRを行った。
【0106】
その結果、予想されたサイズのDNAバンドを得た(図23)。DNAバンドをクローニングし、配列分析して実際にゲノムにdsODNカセットが挿入されたことを確認した(図24)。Z891で類似した結果を示した(図25)。
【0107】
実施例8:ZFNによるゲノムの予定された部位への合成DNA分子の標的された挿入
本発明者らはZFNを使用して任意の他の高等真核細胞及び生物と人間の予定されたゲノムの座位内の二重鎖オリゴデオキシヌクレオチド(dsODN)カセット導入が可能であるかどうかを調査した。ZFN(S162)標的部位を含む、CCR5座位に280bpDNA断片を検出するためにPCRプライマーをデザインした。プライマーのうち、一つは6−FAM蛍光物質染色で末端標識した。蛍光PCR分析は、ZFN対(S162)がコードされたプラスミドと適切な二重鎖オリゴデオキシヌクレオチド(dsODN)とを同時形質感染させた細胞から分離されたゲノムDNAを使用して行った。増幅されたPCR産物をABI3730xlDNA分析器を使用して分析した。その結果データはABIピークスキャナソフトウェアを使用して転換した。
【0108】
PCR産物は下記プライマー対を使用して得た。
Z30F:5’−TGCACAGGGTGGAACAAGATGG−3’(配列番号37)
S162R:5’−GAGCCCAGAAGGGGACAGTAAGAAGG−3’(配列番号38)
【0109】
ZFNを発現させない対照群細胞から分離したゲノムDNAから増幅されたPCR産物は280−bpDNA断片に該当する単一最大ピークを示した(図26)。ZFNの発現は、誘導されたインデル(indel、挿入と欠失)及びそれぞれ5bp挿入ピーク(**)及び欠失ピーク(*)にそれぞれ該当する長いPCR産物及び短いPCR産物を生成する(図27)。ZFN及びdsODNで処理した細胞で増幅したPCR産物は注目するに値する(図28)。5bp挿入ピークだけでなく、蛍光PCRは28−bpdsODNの挿入に該当する新しいピーク(***)を示した。この結果は、ZFNを高い効率で人間細胞の予定されたゲノム座位への合成dsODNカセット挿入に使用できることを示す。
【0110】
dsODNカセットは下記の2つのODNをアニーリングして準備し、それぞれの5’末端に5bpオーバーハングを有し、その配列はゲノムZFN標的部位で発生したオーバーハングと相補的である。
S162 5F:5’−CTGATTTGAGTGAATTCTCACGTGACAG−3’(配列番号39)
S162 5R:5’−ATCAGCTGTCACGTGAGAATTCACTCAA−3’(配列番号40)
【0111】
実施例9:置換
本発明者らは、人間細胞でZFNがゲノムDNA断片を合成dsODNカセットで置換するために使用できるかどうかを調査した。すなわち、本発明者らはそれぞれS162及びZ891である2つのZFNを使用してCCR2とCCR5座位の間の15−kbpDNAの欠失の結果生じる染色体DNA断片を検出するためにPCRを行った。EcoRI部位を含むdsODNカセットはHEK293細胞内にそのZFNをコードするプラスミドとともに同時形質挿入した。この実験で使用したプライマーは、図1で染色体欠失に使用したものと同様である(配列番号18及び21)。PCR産物はEcoRIで消化してアガロースゲル電気泳動で分析した。
【0112】
ZFNとdsODNカセットをともに処理した時、増幅されたPCR産物をEcoRIとともに処理して電気泳動で分析した。その結果、カセットが挿入された時に期待できるDNAバンドを観察し(図29に矢印で表示)、一方、同じ試料にEcoRIを処理しない場合には切断したDNAバンドを観察できなかった。dsODNカセットを追加せず、ZFNのみ発現させた細胞から分離したゲノムDNAでは、EcoRIによって切断したDNAバンドを観察できなかった。ZFNを発現させずdsODNカセットのみ追加した細胞においても、欠失に該当するPCR産物を観察できなかったが、増幅されたPCR産物は欠失を示すサイズのバンドだけ得た。ZFNとdsODNカセットをともに処理した細胞から分離したゲノムDNAを使用して増幅したPCR産物のみがEcoRI−依存DNA切断を生じた。この結果はZFNを使用してゲノムDNA断片を合成dsODNカセットで置換できることを示した。
【0113】
本研究で使用したdsODNカセットは、下記2つのdsODNをアニーリングして準備し、5’末端に4bpまたは5bpオーバーハングを有し、その配列はゲノムZFN標的部位で発生したオーバーハングと相補的である。
F891 ZFN:F−891、5’−CCTTTTGAGTGAATTCTCACGTGACAG−3’(配列番号41)
OR−891、5’−AAGGCTGTCACGTGAGAATTCACTCAA−3’(配列番号42)
S162 ZFN:2−F−162、5’−TTAATTTGAGTGAATTCTCACGTGACAG−3’(配列番号43)
5−OR−162、5’−ATCAGCTGTCACGTGAGAATTCACTCAA−3’(配列番号44)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部位−特異的ヌクレアーゼを使用してゲノムの2つまたはそれ以上の予定された部位を切断する段階を含む、ゲノムDNAの欠失、重複、逆位、置換または再配列させる方法。
【請求項2】
前記部位−特異的ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ジンクフィンガーヌクレアーゼは、2つまたはそれ以上のジンクフィンガーモジュールを含むものである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ジンクフィンガーモジュールは、表1に記述されたモジュールのうちから選択されるものである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ジンクフィンガーヌクレアーゼは、2対のジンクフィンガーヌクレアーゼである、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記2対のジンクフィンガーヌクレアーゼは、それぞれ異なるジンクフィンガーヌクレアーゼを含むものである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ジンクフィンガーヌクレアーゼは、ゲノムの2つの異なる部位を標的するものである、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記ジンクフィンガーヌクレアーゼは、1対または2対のジンクフィンガーヌクレアーゼである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ゲノムの予定された部位は、少なくとも6塩基対離れている、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のうち、いずれか一項に記載の方法でゲノムDNAが欠失、重複、逆位、置換または再配列された細胞。
【請求項11】
部位−特異的ヌクレアーゼを使用してゲノムの予定された部位を切断する段階を含む、ゲノムの予定された部位に合成DNA分子を挿入させる方法。
【請求項12】
前記部位−特異的ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ジンクフィンガーヌクレアーゼは、2つまたはそれ以上のジンクフィンガーモジュールを含むものである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ジンクフィンガーモジュールは、表1に記述されたモジュールから選択されるものである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ジンクフィンガーヌクレアーゼは、1対のジンクフィンガーヌクレアーゼである、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
請求項11〜15のうち、いずれか一項の方法を使用して、ゲノム内に合成DNAが挿入された細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図22】
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【公表番号】特表2012−529287(P2012−529287A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514889(P2012−514889)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【国際出願番号】PCT/KR2010/003786
【国際公開番号】WO2010/143917
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(511301072)トゥールゲン インコーポレイション (1)
【出願人】(508369906)エスエヌユー アール アンド ディービー ファウンデーション (11)
【Fターム(参考)】