説明

都市ごみ焼却主灰の最終処分方法

【課題】 本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、埋め立てが終了した最終処分場を早期に廃止可能とする都市ごみ焼却主灰の最終処分方法を提供することを目的とする。
【解決手段】焼却炉の焼却残渣である都市ごみ焼却主灰を、水槽に水没させて水和させ、得られたカルシウムアルミネートの水和物、カルシウムシリケートの水和物および水酸化カルシウムを、二酸化炭素により炭酸化させて、炭酸カルシウムとした後、最終処分場に埋め立てることを特徴とする都市ごみ焼却主灰の最終処分方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、都市ごみの焼却処理により発生する主灰を廃棄物最終処分場へ最終処分する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、都市ごみ焼却灰は、主にストーカ式焼却炉あるいは流動床式焼却炉において焼却され、焼却炉の焼却残渣(主灰)は焼却灰として一般廃棄物最終処分場または産業廃棄物の管理型最終処分場に、搬入車両から直接ダンピングされ重機などで成形しながら埋立処分される。その際、混合や分級等の前処理が施されることなく、埋め立てられるのが通常である。管理型最終処分場は、埋立地に遮水工を施すとともに、自然降雨等による埋立地内の保有水を集水する設備を有する。集水された保有水は適切な水質にまで浄化した後に自然環境へ放流される。
【0003】
最終処分場は早いもので5年、通常15年〜20年で満杯となるが、埋立てが終了した時点でその処分場を廃止できるわけではなく、最終処分場を廃止するためには、以下の廃止要件を満たす必要がある。
1 保有水等の水質が2年以上にわたって排水基準を満足すること。
2 埋立地ガスの発生がほとんど認められず、そのガスの発生量の増加が2年以上にわたって認められないこと。
3 埋立て地の内部温度が周辺の地中温度に比して異常な高温となっていないこと。
【0004】
最終処分場の埋め立てが終了した時点から、上記廃止要件をみたすようになるまでの水処理の期間が短ければ、それだけ最終処分場を早期に廃止できることとなり、最終処分場の維持管理期間の短縮が計れて好適である。しかし、一般に埋め立て終了時点から廃止までの期間は、20年程度と長く、この期間を短縮する決定的な手段がなく、十分な技術と更なる改善が求められていた。
【0005】
【特許文献1】特開2003−302037号公報
【0006】
特許文献1には、家庭用ゴミなどの一般廃棄物をはじめ、建設廃材、下水汚泥などさまざまな産業廃棄物を対象として、焼却炉内の損傷やダイオキシンの発生を防止しつつ廃棄物の発生量を低減するために、所定の廃棄物を消石灰が投入された状態にて焼却炉内で焼却して焼却灰を生成し、次に、焼却炉内に炭酸ガスを吹き込むとともに、所定量の水を投入する方法が開示されているが、大量の消石灰を使用するもので、利便性に欠ける面があり、最終処分場の安定化に寄与できる面が少なかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、埋め立てが終了した最終処分場を早期に廃止可能とする都市ごみ焼却主灰の最終処分方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
都市ごみの焼却によって発生する焼却主灰(以下「主灰」)には、少ないもので約3重量%程度、多いもので約12重量%程度の有機物が未燃焼の状態で残っている。この有機物が、最終処分場内の埋め立て地におけるガスの発生や浸出水の汚濁の原因物質となる。
【0009】
しかし、埋め立て後の最終処分場の地中に適度な水分および十分な空気(酸素)の浸透がなされるのであれば、微生物活動による有機物の分解が好気的に進行するので、埋め立て後の時間の経過に伴って比較的短期間で発生ガス量が減少し、浸出水中の汚濁物質の量も減少し、最終処分場を早期に廃止することができる。
【0010】
ところが、最終処分場に埋め立てられた都市ごみの主灰は、ゲーレナイト、アノーサイト、石英、カルシウムシリケートおよびカルシウムアルミネート等であるが、カルシウムシリケートおよびカルシウムアルミネートは、水和反応により固化し、上からの埋め立て廃棄物の重量による加圧でさらに密実に固化する。更に、ストーカ炉から排出された際に冷却のために、水没されて、すでに、水和物が生成している場合は、埋立後に水和物が炭酸化することによっても固化が進行する。埋め立てられた廃棄物中の固化物は、低透水層、低通気層を形成することとなる。このような層が形成されると、水は層上の一部に偏在して、周辺に行渡ることもなく、降水の均一な浸透が妨げられると同時に空気の流通も阻害されて、有機物への到達が妨げられる結果となる。
【0011】
そこで、本発明は、埋め立て前の水和物を含む主灰を炭酸化することで、水和活性を著しく低減させ、埋立後の主灰の固化を防止することで、処分場内の廃棄物層の通気および透水状態を良好な状態に維持して、有機物の分解を好気的に進行させ、より早期に浸出水の水質の回復を図ることを目的として見出されたものである。
【0012】
即ち、本願発明は、焼却炉の焼却残渣である都市ごみ焼却主灰を、水槽に水没させて水和させ、得られたカルシウムアルミネートの水和物、カルシウムシリケートの水和物および水酸化カルシウムを、二酸化炭素により炭酸化させて、炭酸カルシウムとした後、最終処分場に埋め立てることを特徴とする都市ごみ焼却主灰の最終処分方法である。
【0013】
さらに、前記二酸化炭素により炭酸化させた炭酸カルシウムへの転換率が50%以上であることを特徴とする都市ごみ焼却主灰の最終処分方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る最終処分方法によれば、都市ごみの主灰中の水和活性のある物質を予め水和して、更に炭酸カルシウムに転換させて、最終処分場に埋め立てるので、埋め立て後の水和反応および炭酸カルシウムの再析出による固化を防止し、低透水層、低通気層の形成を阻止できる。従って、堆積物中の埋め立てられた廃棄物の全域に亘り、有機物の分解が促進され、最終処分場を早期に廃止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
主灰を構成する主要な鉱物は炭酸カルシウム、石英、長石、ゲーレナイト等であるが、これらのほかに水との接触により水和するカルシウムシリケートおよびカルシウムアルミネートなどを含んでいる。
【0016】
主灰中の水和活性のある構成鉱物を水和させ、次いで炭酸化反応を生起させるのは、焼却炉から主灰が排出される直後から最終処分場で埋め立てられるまでの任意の時期でよい。しかし、水和物が生成し、これが成長してからでは、炭酸化が進行するのに時間を要するため、焼却炉をでて、望ましくは、焼却炉から水没工程を経ずに、乾燥灰として、或いは、湿分が5%以下の状態で、入手し、水和反応と炭酸化反応が引き続き生起させることが望ましい。
【0017】
ストーカ式焼却方式を採用する都市ごみ焼却施設では、炉から排出される主灰は消火および冷却を目的として、炉排出直後に水没処理がなされるのが通常である。この水没過程において、カルシウムアルミネート、カルシウムシリケートおよびフリーライム等は水和して水和物を生成する。このような既に水和物が生成しているような湿潤した主灰であっても、再び水中に没し炭酸化を行うことができる。但し、乾燥した主灰を用いて水和反応と炭酸化反応を引き続いて生起させる場合よりも、炭酸化に要する時間が長くなる。
炭酸化を行う場所は、湿潤した主灰を発生する焼却処理施設と異なる場所であっても構わない。
【0018】
炭酸化反応については、例えば、セメントキルンのRSPタワー下部からの二酸化炭素濃度の濃い排ガス(温度600℃から800℃)を、冷却させながら、中空管で導いて、水和反応の生起している反応槽で直接、水和物を炭酸化する形態をとりうる。炭酸ガス濃度は、濃いほうが有利である。炭酸塩の分解によって生じた二酸化炭素を利用しても良い。
【0019】
このような処理を経て、最終処分場で埋め立てられた主灰は、表面が炭酸カルシウムでコーティングされた石英、長石、ゲーレナイト或いは炭酸カルシウム粒子自体であるので、埋めた後に地中に浸透する降水との反応によりエトリンガイトやフリーデル氏塩などの水和鉱物を生成することが極めて少なくなる。従って、水和物による固化物あるいは固化層の発達が進行する恐れと、これによる降水の浸透し難くなる現象が見られなくなる。そして、有機物の分解が促進されるので、最終処分場の廃止期間が短縮可能となる。
【0020】
焼却炉からの取り出し、篩い分け、セメントキルンのRSPタワー下部からの二酸化炭素濃度の濃い(具体的には、14%〜16%が望ましい)排ガス(温度600℃から800℃)を、中空管で導いて、中空管を冷却ジャケットで冷却し、温度約100℃とした後、炭酸ガス含有ガス導入ポンプ(シロッコファン等)で吸い込み、送りだして、前記水槽に導く。RSPタワーは、通常の運転条件では、負圧となっている。RSPタワーの上部に向かうほど空気のリークのために排ガス中の二酸化炭素濃度が低下する。RSPタワーのどの部位からの二酸化炭素含有ガスも用いることができるが、RSPタワーのより上部の排ガスを取り出したのでは、炭酸化の効率性に欠ける面がある。
【0021】
炭酸反応槽には、前記水槽を用いることができる。水和反応は、90℃までの温度ならば、高温ほど速やかである。混合する水の量は、混合スラリーが十分流動する量とする。水量の過度の増加は、分離液の処理に要する設備の増大につながるので、少ないほうが処理面では有利である。主灰の種類にもよるが、重量比で主灰:水=1:5程度がのぞましい。二酸化炭素又は二酸化炭素混合ガスの吹き込み量は、混合後のスラリーのpHが7〜10となるように制御すると、炭酸化された水和物の再溶解を防止することができる。
【0022】
次に、図1に示すフローシートで説明する。図1に示す装置は、攪拌水槽1、脱水設備2、炭酸化された主灰の回収設備3から構成される。主灰11は、タンク又は貯蔵場からホッパーを経て、攪拌水槽1に投入される。攪拌水槽1で、水12と混合攪拌され、冷却され、さらに水和反応をおこす。攪拌水槽1に二酸化炭素ガスを導く。図1では、セメントキルンのRSPタワー下部からの排ガス13を中空管で導いて、中空管を冷却ジャケットで冷却し、シロッコファンで吸い込み、送り出して、前記水槽に導いた。ここで、混合スラリーpH を7〜10に保持する。過度のpHの減少は炭酸カルシウムを溶解させるからである。混合する水の量は、混合スラリーが十分流動する量とし、重量比で、焼却灰:水=1:5程度を目安とする。
【0023】
二酸化炭素含有排ガス吹込み方法は、その溶解効率を確保し、水和生成物との反応を促進するために、攪拌槽スラリーを循環配管4により循環させ、配管内圧力を0.1〜0.5Mpa、好ましくは0.2〜0.3Mpaにし、そこに二酸化炭素を含むガスを吹込んでも良い。こうしてスラリー循環流量を大きく、二酸化炭素との接触時間を長くし、反応性を高めることが可能である。
【0024】
また、二酸化炭素を含むガスとして、焼却炉排ガスやセメントキルン、生石灰製造炉の排ガス等の燃焼排ガスを用いる。これらのガスに含まれる二酸化炭素の濃度は、焼却炉排ガスの場合、12〜15%であり、セメントキルン排ガスの場合、12〜16%であり、本発明による吹込みにより、例えば4500t−セメント/dのセメント工場の場合、約22.5t−CO2/dのCO2排出量を削減することができる。
【0025】
更に、焼却炉排ガスを利用した場合は、これに含まれる全硫黄酸化物濃度は30〜10 0ppmであり、本発明による吹込みにより、例えば100t/dの焼却炉の場合、約0.2〜0.5kg−SO4/dのSOx排出量を削減できる。
【0026】
次に、混合スラリー12は脱水設備2に送られ、固液分離される。このとき固液分離された炭酸化を受けた主灰15は、主灰の回収設備3に送られる。
【0027】
攪拌槽では、フリーライムは、水酸化カルシウムとなり、カルシウムアルミネートは、含硫黄酸化物、石膏が存在すれば、エトリンガイト、モノサルフェイトを生成する。カルシウムシリケートは、C−S−Hゲルとなるが、その変換率は低い。また、塩素を供給する物質が共存する場合は、フリーデル氏塩が生成する。
【0028】
RSPタワーからの排ガスを水和反応槽に直接導いた場合または、水和反応と炭酸化反応を別の反応槽で行った場合でも、炭酸化によって得られる最終生成物の種類に差は生じない。即ち、石英、長石、ゲーレナイトは、水和反応及び炭酸化反応によって、ほとんど変化しない。フリーライムは、水酸化カルシウムを経て炭酸カルシウムに速やかに変換する。ゲーレナイト以外のカルシウムアルミネートは、エトリンガイト、モノサルフェイト、フリーデル氏塩を介して炭酸カルシウムを生成しながら分解反応をおこし、カルシウムシリケートは、C−S−Hゲルに変換後ゆっくり、炭酸カルシウムとシリカに分解していく。
【0029】
ここで、主灰の炭酸カルシウムへの変換を100%としなくても、最終処分場の廃止条件を早期に実現できることが判明した。主灰の炭酸カルシウムへの変換率は、水和物を生成した主灰が最終的にこれ以上炭酸化反応を起こさない炭酸化物となった状態に対して、50%以上であればよい。
【0030】
炭酸カルシウムへの転換率の測定方法は、粉末X線回折で、炭酸カルシウムの各試料の含有量を2θが29.4度のピーク高さを計測して、外部標準法により測定した。即ち、同一試料の水和物をほぼ完全に炭酸カルシウムとした試料につき、炭酸カルシウム量を測定し本炭酸カルシウム量に対する試料の炭酸カルシウム量の比を転換率とした。
【0031】
一方、炭酸カルシウムの脱炭酸のピークをTG−DTAで測定し、650℃から750℃での重量減から炭酸カルシウム量を算出して炭酸カルシウムへの転換率としても良い。粉末X線回折による方法とTG−DTAによる方法での測定は、測定誤差範囲内で一致する。
【0032】
表1に各焼却主灰について、前記実施例の炭酸化処理をおこない、最終処分場に実際の堆積をおこなった。その後、1年経過して堆積層の固結の度合いを目視とスコップで実際に堆積物をハンドリングして得た結果を示す。
【0033】
炭酸化率が50%を越える主灰については、1年経過後の堆積による固結は生じなかった。
【0034】
また、実際の堆積を行わなくても、処分場の廃止時期を推測できる。即ち、炭酸化処理した廃棄物を内径50mm高さ50mmの塩化ビニル製の円筒内に0.4KN/20cm2の圧力で充填し、東大式透水係数測定器を用いて透水係数を測定した。結果を表1に併記した。無処理の主灰で透水係数が、0.00015cm/s程度であったものが、各供試体で炭酸化率が50%を超えると、透水係数が、ほぼ、0.003cm/s以上となり、透水性が向上することが示され、堆積1年後の固結の有無結果とほぼ一致がみられた。
【0035】
【表1】

【0036】
炭酸化率が50%を越える主灰については、10年程度で処分場の廃止条件が満たされることとなり、無処理灰に対して30年程度要するので、20年程度の監視期間の短縮が計れる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
埋め立てが終了した最終処分場を早期に廃止可能とする都市ごみ焼却主灰の最終処分方法を提供することが可能であり、その判定も容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る処分方法の実施態様の一例を示すフロー図。
【符号の説明】
【0039】
1;攪拌水槽
2;脱水設備
3;炭酸化された主灰の回収設備
4;循環配管
11;主灰
12;水、又は、混合スラリー
13;二酸化炭素含有ガス
15;炭酸化した主灰

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却炉の焼却残渣である都市ごみ焼却主灰の処分方法であって、
前記主灰のカルシウムアルミネートの水和物、カルシウムシリケートの水和物および水酸化カルシウムを、
二酸化炭素により炭酸化させて、炭酸カルシウムとした後、最終処分場に埋め立てることを特徴とする都市ごみ焼却主灰の最終処分方法。
【請求項2】
さらに、前記二酸化炭素により炭酸化させた炭酸カルシウムへの転換率が50%以上であることを特徴とする請求項1記載の都市ごみ焼却主灰の最終処分方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−28649(P2009−28649A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195357(P2007−195357)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】