説明

配位高分子錯体化合物

【課題】グラファイトに比べてLiイオン吸蔵性の優れた配位高分子錯体化合物を提供する。
【解決手段】2,3−ピラジンジカルボン酸が4配位金属イオンM(銅(II)、コバルト(II)、ニッケル(II)、ロジウム(I)、パラジウム(II)、白金(II)のいずれか)に配位結合して成る錯体化合物Q同士がこれらと水素結合した水分子を介して連接してX−Y平面に沿った2次元プレートPを構成し、2次元プレートP同士がこれらと水素結合した隔壁部材T(トランス1,2−ビス(4−ピリジル)エチレンなど12種のいずれか)を介してZ軸方向に積層した3次元構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Liイオン吸蔵性に優れた配位高分子錯体化合物に関する。本発明の配位高分子錯体化合物は、典型的にはリチウムイオン電池の負極材料などとして有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン2次電池の負極活物質にはグラファイトが用いられている。しかし、グラファイトでは、Liイオンの吸蔵量に限界があり、グラファイトに代わる吸蔵量の高い負極活物質が求められている。
【0003】
特許文献1には、非水電解液電池の正極活物質として、金属イオンと有機化合物から成る配位高分子錯体を用いることが提案されており、具体的な物質としてルベアン酸錯体および2,5−ジ−ヒドロキシ−p−ベンゾキノン錯体が開示されている。しかし、電気陰性度の高い元素が少ないため、高容量化(吸蔵量向上)は望めない。
【0004】
特許文献2には、金属イオンと、アニオン部位を含有する有機配位子から成る多孔質の配位高分子化合物において、有機配位子の価数を金属イオンの価数より大きくすることで、陽イオンを吸蔵し易くして伝導度を高めることが提案されている。具体的には、銀イオンとdpdseとの組み合わせなどが開示されている。また、特許文献3には、配位高分子金属錯体RdtoaMの層間に水分子と水素を吸蔵させることで、プロトン伝導度と電子伝導度が向上し、電極用電解質に適することが開示されている。しかし特許文献2、3にはいずれも、負極活物質のLiイオン吸蔵性の向上については考慮されていない。
【0005】
【特許文献1】特開平5−74458号公報
【特許文献2】特開2005−75870号公報
【特許文献3】特開2004−31174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、グラファイトに比べてLiイオン吸蔵性の優れた配位高分子錯体化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、2,3−ピラジンジカルボン酸が4配位金属イオンに配位結合して成る錯体化合物同士がこれらと水素結合した水分子を介して連接して2次元プレートを構成し、
上記2次元プレート同士がこれらと水素結合した隔壁部材を介して積層した3次元構造体であって、
上記4配位金属は、下記(M1)〜(M6):
(M1)銅(II)、
(M2)コバルト(II)、
(M3)ニッケル(II)、
(M4)ロジウム(I)、
(M5)パラジウム(II)、
(M6)白金(II)
のうちのいずれか1種であり、
上記隔壁部材は、下記(T1)〜(T12):
(T1)トランス1,2−ビス(4−ピリジル)エチレン、
(T2)トランス−4,4’−アゾピリジン、
(T3)4,4’−アゾピリジン、
(T4)ビス(ピリジル)アセチレン、
(T5)1,2−ビス(4−ピリジニル)エタン、
(T6)4,4’−ビピリジン、
(T7)1,4−ビス(4−ピリジニル)ベンゼン、
(T8)4,2’:5’,4”−テルピリジン、
(T9)2,5−ジ−4−ピリジニル−ピリミジン、
(T10)3,6−ジ−4−ピリジニル−ピリダジン、
(T11)2,5−ジ−(4−ピリジニル)ピラジン、
(T12)3,6−ジ−4−ピリジル−1,2,4,5−テトラジン、
のうちのいずれか1種であることを特徴とする配位高分子錯体化合物が提供される。
【発明の効果】
【0008】
電子をトラップできる芳香族分子を含み、同時に、電気陰性度が高くリチウムと結合し易い窒素および酸素が規則的に配列しているため、電気陰性度の低い炭素のみから成るグラファイトより高いLiイオン吸着性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1に、隔壁部材がトランス1,2−ビス(4−ピリジル)エチレンである本発明の配位高分子錯体化合物の分子構造をネットワーク図で示す。
【0010】
図示した配位高分子錯体化合物10は、2,3−ピラジンジカルボン酸が4配位金属イオンMに配位結合して成る錯体化合物Q同士が、これらQと水素結合(図中「B」で示す)した水分子を介して連接してX−Y平面に平行な2次元プレートPを構成しており、これら2次元プレートP同士がこれらPと水素結合(図中「B」で示す)した隔壁部材Tとしてのトランス1,2−ビス(4−ピリジル)エチレンを介してZ軸方向に積層した3次元構造体である。
【0011】
図2に、図1のY軸方向に見た構造を示す。2次元プレートPとトランス1,2−ビス(4−ピリジル)エチレン隔壁部材Tとで上下左右を区画された細孔S内にLiイオンが吸着されることにより吸蔵されると考えられる。
【0012】
4配位金属Mは、下記(M1)〜(M6)のいずれかである。
【0013】
(M1)銅(II)
(M2)コバルト(II)
(M3)ニッケル(II)
(M4)ロジウム(I)
(M5)パラジウム(II)
(M6)白金(II)
図1の配位高分子錯体化合物は、4配位金属Mが銅(Cu)である場合の1ユニットの組成式は下記のとおりである。
【0014】
〔Cu(C12)(C1210)〕・2H
図3に、本発明の配位高分子錯体化合物10の各構成分子の構造をORTEP図で示す。4配位金属はCuとして図示してあるが、上述のいずれかの金属でよい。
【0015】
隔壁部材Tは、下記(T1)〜(T12)のいずれかである。
【0016】
(T1)トランス1,2−ビス(4−ピリジル)エチレン
(T2)トランス−4,4’−アゾピリジン
(T3)4,4’−アゾピリジン
(T4)ビス(ピリジル)アセチレン
(T5)1,2−ビス(4−ピリジニル)エタン
(T6)4,4’−ビピリジン
(T7)1,4−ビス(4−ピリジニル)ベンゼン
(T8)4,2’:5’,4”−テルピリジン
(T9)2,5−ジ−4−ピリジニル−ピリミジン
(T10)3,6−ジ−4−ピリジニル−ピリダジン
(T11)2,5−ジ−(4−ピリジニル)ピラジン
(T12)3,6−ジ−4−ピリジル−1,2,4,5−テトラジン
図4に、隔壁部材を構成するこれらの各有機化合物の構造を示す。図示したように、隔壁部材T1〜T12は、一分子内に窒素(N)を2個〜6個含んでおり、窒素個数の多いほどLiイオン吸着性が高いと考えられる。
【実施例】
【0017】
〔実施例1〕
本発明によるLiイオン吸蔵性配位高分子錯体化合物を下記の手順で合成した。
【0018】
過塩素酸銅(II)(0.093g、0.25mmol)を水/エタノール900cmに溶解させ、溶液Aとした。
【0019】
トランス1,2−ビス(4−ピリジル)エチレン(0.025g、0.125mmol)を水/エタノール100cmに溶解させ、これに2,3−ピラジンジカルボン酸Na(0.053g、0.25mmol)を加えて溶液Bとした。
【0020】
溶液Aに溶液Bをゆっくり混合した。ここで「ゆっくり」とは、混合時の攪拌作用により急激に反応が進行して粉末状析出物が生成しない範囲の混合速度をいう。
【0021】
得られた混合溶液を室温にて24時間静置し、青色の結晶を得た。ここで「結晶」とは、縦横高さが各々0.1mm程度以上の単結晶ブロックであり、後の単結晶X線構造解析が可能なサイズを言う。上記の粉末状析出物は、各粉末粒子のサイズが上記「結晶」より小さく、しかも通常は個々の粉末粒子は複数あるいは多数の微小な単結晶の凝集体である。すなわち、粉末状析出物は、粉末X線回折により各結晶面の回折ピークは得られるものの、個々の粒子を構成する単結晶について単結晶X線構造解析を行なうことは事実上不可能である。
【0022】
上記で得られた無色結晶について、単結晶X線構造解析を行なったところ、銅、2,3−ピラジンジカルボキシレート、トランス1,2−ビス(4−ピリジル)エチレン、水分子の各構成分子(図3)から成る、図1の構造を有する配位高分子錯体化合物であることが分かった。図2に示したように、この錯体は図1に示した空間Sを含んでおり、その空間S内にLiイオンを高い効率で吸着できる。これにより従来のグラファイトに比べて高いLiイオン吸蔵性が得られる。
【0023】
〔実施例2〕
実施例1と同様の手順により、本発明の配位高分子錯体化合物を合成した。ただし、実施例1のトランス1,2−ビス(4−ピリジル)エチレン(0.025g、0.125mmol)に代えて、トランス−4,4−アゾピリジン(0.023g、0.125mmol)を用いた。24時間静置後、緑色の結晶が得られた。
【0024】
上記で得られた緑色結晶について、単結晶X線構造解析を行なったところ、銅、2,3−ピラジンジカルボキシレート、トランス−4,4−アゾピリジン、水分子の各構成分子(図3の隔壁部材Tを変更)から成る、図1の構造(ただし隔壁部材Tを変更)を有する配位高分子錯体化合物であることが分かった。図2に示した実施例1の場合と同様に、この錯体は図1に示したのと同様の空間Sを含んでおり、その空間S内にLiイオンを高い効率で吸着できる。これにより従来のグラファイトに比べて高いLiイオン吸蔵性が得られる。
【0025】
また、本実施例で隔壁部材Tとして用いたトランス−4,4−アゾピリジンは図4の(T2)に示すように分子内に窒素(N)を4個含んでおり、実施例1で用いたトランス1,2−ビス(4−ピリジル)エチレンが窒素2個であったのに比べて窒素個数が多いので、Liイオンに対する吸着性が更に高く、Li吸蔵量が一層向上する。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、グラファイトに比べてLiイオン吸蔵性の優れた配位高分子錯体化合物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】隔壁部材がトランス1,2−ビス(4−ピリジル)エチレンである本発明の配位高分子錯体化合物の分子構造を示すネットワーク図。
【図2】図1のY軸方向に見た構造を示す。
【図3】本発明の配位高分子錯体化合物の各構成分子の構造を示すORTEP図。
【図4】本発明の配位高分子錯体化合物の構造において隔壁部材を構成する種々の有機化合物の構造。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,3−ピラジンジカルボン酸が4配位金属イオンに配位結合して成る錯体化合物同士がこれらと水素結合した水分子を介して連接して2次元プレートを構成し、
上記2次元プレート同士がこれらと水素結合した隔壁部材を介して積層した3次元構造体であって、
上記4配位金属は、下記(M1)〜(M6):
(M1)銅(II)、
(M2)コバルト(II)、
(M3)ニッケル(II)、
(M4)ロジウム(I)、
(M5)パラジウム(II)、
(M6)白金(II)
のうちのいずれか1種であり、
上記隔壁部材は、下記(T1)〜(T12):
(T1)トランス1,2−ビス(4−ピリジル)エチレン、
(T2)トランス−4,4’−アゾピリジン、
(T3)4,4’−アゾピリジン、
(T4)ビス(ピリジル)アセチレン、
(T5)1,2−ビス(4−ピリジニル)エタン、
(T6)4,4’−ビピリジン、
(T7)1,4−ビス(4−ピリジニル)ベンゼン、
(T8)4,2’:5’,4”−テルピリジン、
(T9)2,5−ジ−4−ピリジニル−ピリミジン、
(T10)3,6−ジ−4−ピリジニル−ピリダジン、
(T11)2,5−ジ−(4−ピリジニル)ピラジン、
(T12)3,6−ジ−4−ピリジル−1,2,4,5−テトラジン、
のうちのいずれか1種であることを特徴とする配位高分子錯体化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−287976(P2008−287976A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130687(P2007−130687)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】