説明

配向ポリ乳酸系フィルムおよびシートならびにそれらの製造方法

【目的】 通常の使用時に支障のない強度、寸法安定性をもつ配向ポリ乳酸系フィルム・シートおよびそれらの製造方法を提供すること。
【構成】 面配向度ΔPが3.0×10-3以上であるポリ乳酸系重合体のフィルムまたはシートを■熱処理温度T(℃)が、70℃〜(重合体の融点Tm)の範囲内、■熱処理時間t(秒)が、Logt≧−4.6LogT+11を満足する条件を満足する条件で熱処理して、面配向度ΔPが3.0×10-3以上であり、フィルムまたはシートを昇温したときの結晶熱融解熱量ΔHmと昇温中の結晶化により発生する結晶化熱量ΔHcとの差(ΔHm−ΔHc)が20J/g以上で、かつ(ΔHm−ΔHc)/ΔHmが0.75以上である配向ポリ乳酸系フィルム・シートとする。このフィルム・シートは80℃での収縮率が3%以下である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、ポリ乳酸系重合体からなるフィルムおよびシートならびにそれらの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】現在、透明性に優れ、機械的強度の高い材料としてポリエチレンテレフタレート延伸フィルムまたはポリプロピレン系延伸フィルム等が知られている。このフィルムは、その結晶性のため熱処理することで寸法安定性が付与できる一方で、共重合により結晶化度を低下させたり、延伸・熱処理条件を選定することで収縮フィルムとしても用いられている。これらのフィルムが包装分野に用いられる割合も高い。しかしながら、これらのプラスチック製フィルムは化学的、生物的に安定なため自然環境中に散乱した場合、分解せず、鳥獣類・魚類の生活環境を汚染する。また、ゴミとして回収され埋め立てられてもほとんど分解せずに残留し、埋立地の寿命を短くする等の不都合があった。
【0003】そこで、これらの問題を生じない分解性重合体から成る材料が要求されており、実際多くの研究・開発がなされている。その一例として、ポリ乳酸がある。ポリ乳酸は土壌中または水中において自然に加水分解が進行し、土中または水中に原形が残らず、次いで微生物により無害な分解物となることが知られている。
【0004】しかし、ポリ乳酸からなるフィルム・シートはそのままでは伸びの低い、もろい材料である。ポリ乳酸重合体を延伸・配向させることで強伸度が向上し、もろさが改良されることが知られているが、そのままではガラス転移点以上での雰囲気下では寸法安定性に乏しく、用途によっては使用範囲を制限せざるを得なかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は通常の使用時に支障の無い強度、寸法安定性をもつ配向ポリ乳酸系フィルムまたはシートならびにそれらの製造方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者は上記目的のため、鋭意検討の結果、ポリ乳酸系重合体からなり、面配向度ΔPが3.0×10-3以上であるフィルムやシート等の成形体を熱処理し、フィルム・シートを昇温したときの結晶融解熱量ΔHmと昇温中の結晶化により発生する結晶化熱量ΔHcとの差(ΔHm−ΔHc)が20J/g以上で、かつ(ΔHm−ΔHc)/ΔHmが0.75以上である場合に、80℃での収縮率が多くとも3%以内になることを見い出した。
【0007】さらに、本発明者は上記目的のため、鋭意検討の結果、ポリ乳酸系重合体からなり、面配向度ΔPが3.0×10-3以上あるフィルムやシート等の成形体を、■熱処理温度T(℃)が、70℃〜(重合体の融点Tm)の範囲内で、■熱処理温度t(秒)が、Logt≧−4.6LogT+11を満足させる条件で熱処理することで80℃での収縮率が3%以内になることを見い出し、本発明を完成させた。
【0008】すなわち、本発明の第1の解決手段に従う配向ポリ乳酸系フィルムまたはシートは面配向度ΔPが3.0×10-3以上であり、フィルムまたはシートを昇温したときの結晶融解熱量ΔHmと昇温中の結晶化により発生する結晶化熱量ΔHcとの差(ΔHm−ΔHc)が20J/g以上で、かつ(ΔHm−ΔHc)/ΔHmが0.75以上であることを特徴とする。
【0009】本発明の第2の解決手段に従う配向ポリ乳酸系フィルムまたはシートは上述した第1の解決手段に従うフィルムまたはシートにおいて、乳酸が、L−乳酸またはD−乳酸、もしくはそれらの混合物であり、その割合が100:0〜94:6の範囲内または0:100〜6:94の範囲内にある共重合体あるいはこれらの混合体からなることを特徴とする。
【0010】本発明の第3の解決手段に従う配向ポリ乳酸系フィルムまたはシートの製造方法は面配向度ΔPが3.0×10-3以上であるポリ乳酸系重合体のフィルムまたはシートを■熱処理温度T(℃)が、70℃〜(重合体の融点Tm)の範囲内、■熱処理時間t(秒)が、Logt≧−4.6LogT+11を満足する条件で熱処理することを特徴とする。
【0011】本発明の第4の解決手段に従う配向ポリ乳酸系フィルムまたはシートの製造方法は前記第3の解決手段に従う方法において、乳酸が、L−乳酸またはD−乳酸、もしくはそれらの混合物であり、その割合が100:0〜94:6の範囲内または0:100〜6:94の範囲内にある共重合体あるいはこれらの混合体からなることを特徴とする。
【0012】以下、本発明を詳しく説明する。
【0013】本発明でフィルム・シートの製造に用いられるポリ乳酸系重合体とは、ポリ乳酸または乳酸と他のヒドロキシカルボン酸との共重合体、もしくはこれらの混合物であり、本発明の効果を阻害しない範囲で他の高分子材料が混入されても構わない。また、成形加工性、フィルム物性を調整する目的で、可塑剤、滑剤、無機フィラー、紫外線吸収剤などの添加剤、改質剤を添加することも可能である。
【0014】乳酸としては、L−乳酸、D−乳酸が挙げられる。他のヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などが代表的に挙げられる。
【0015】これらの重合法としては、縮合重合法、開環重合法など公知のいずれの方法を採用することも可能であり、さらには、分子量増大を目的として少量の鎖延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物などを使用しても構わない。重合体の重量平均分子量としては、5万から100万が好ましく、かかる範囲を下まわると実用物性がほとんど発現されず、上まわる場合には、溶融粘度が高くなりすぎ成形加工性に劣る。
【0016】本発明におけるポリ乳酸系フィルム・シートは、これらの重合体を押出法、カレンダー法、プレス法などの一般的な溶融成形法により、平面状または円筒状の未延伸シートまたはシート状溶融体にし、次いで、これをロール法、テンター法、チューブラ法、インフレーション法などにより延伸することによって得られる。
【0017】未延伸フィルム・シートの製膜条件について説明する。ポリ乳酸系重合体を十分に乾燥し、水分を除去したのち押出機で溶融する。溶融温度は組成によって変化するので、それに対応して適宜選択することが好ましい。実際には140℃から250℃の温度範囲が通常選ばれる。この溶融されたポリ乳酸系重合体をフィルム・シート状に成形する。シートの厚さは通常5μm〜500μmである。
【0018】フィルム・シート状に溶融成形された重合体は、回転するキャスティングドラム(冷却ドラム)に接触させて急冷するのが好ましい。キャスティングドラムの温度は60℃以下が適当である。これより高いとポリマーがキャスティングドラムに粘着し、引き取れないため、また、結晶化が促進されて、球晶が発達し延伸できなくなるため、上記温度範囲に設定して急冷し実質上非晶性にすることが好ましい。
【0019】延伸方法は1軸延伸もしくは逐次2軸延伸または同時2軸延伸のいずれでもかまわない。上述した未延伸シート・フィルムの延伸において、延伸倍率は縦方向、横方向それぞれ1.5〜5倍の範囲で、延伸温度は50℃〜90℃の範囲で適宜選定する。未延伸の無配向シート・フィルムでは1.0×10-3以下である面配向度ΔPを、本発明では3.0×10-3以上に増大させることが重要である。以下、フィルム・シートの特性等に関しフィルムを例にとって説明するがシートの場合も同様である。
【0020】本発明においては、重合体の組成と成形加工条件との兼ね合いにより、フィルムの面配向度ΔPと、フィルムの結晶融解熱量と結晶化熱量との差(ΔHm−ΔHc)および(ΔHm−ΔHc)/ΔHmとを、それぞれ一定の値以上にすることが最も重要である。
【0021】すなわち、ポリ乳酸系フィルムにおいては、素材が本来有しているところの脆性をΔPを増大させることにより改良し、ΔPの上昇に伴い低下する熱寸法安定性を(ΔHm−ΔHc)と(ΔHm−ΔHc)/ΔHmとをそれぞれ増大させることにより改良できるものである。
【0022】ΔPは、フィルムの厚み方向に対する面方向の配向度を表し、通常直交3軸方向の屈曲率を測定し以下の式で算出される。
【0023】
【数1】
ΔP={(γ+β)/2}−α (α<β<γ)
ここで、γ,βがフィルム面に平行な直交2軸の屈折率、αはフィルム厚さ方向の屈折率である。
【0024】ΔPは結晶化度や結晶配向にも依存するが、大きくはフィルム面内の分子配向に依存する。つまりΔPの増大はフィルム面内、特にフィルムの流れ方向および/またはそれと直交する方向に対し、分子配向を増大させ、フィルムの強度を高め、もろさを改良することにつながる。
【0025】ΔPを増大させる方法としては、既知のあらゆるフィルム延伸法に加え電場や磁場を利用した分子配向法を採用することもできる。
【0026】しかし、ΔPが3.0×10-3以上となると、フィルムの熱寸法安定性が不良となり、夏の暑い時期にはフィルムが収縮してしまい、フィルムとして使い物にならなくなる。したがって、常温よりもやや高い温度、50℃以上の雰囲気下で収縮せず元の形でいられるかは重要であり、好適には80℃以上で寸法安定性(例えば収縮率が3%以内)があれば通常の使用に十分耐えられる。
【0027】ΔPが3.0×10-3以上のポリ乳酸系フィルムにおいては、実用的な熱寸法安定性を得るために、フィルムの(ΔHm−ΔHc)を20J/g以上、かつ(ΔHm−ΔHc)/ΔHmが0.75以上に制御することが重要であり、この条件を満足することで80℃での収縮率が3%以内に抑えることができる。
【0028】ΔHm,ΔHcは、それぞれ結晶融解熱量、結晶化熱量であり、フィルムサンプルの示差走査熱量測定(DSC)により求められる。すなわち、ΔHmは昇温速度10℃/分で昇温したときの全結晶を溶解させるのに必要な熱量であって、重合体の結晶融点付近に現れる結晶融解による吸熱ピークの面積から求められる。またΔHcは、昇温過程で生じる結晶化の際に発生する発熱ピークの面積から求められる。
【0029】ΔHmは、主に重合体そのものの結晶性に依存し、結晶性が大きい重合体では大きな値を取る。ちなみにL−乳酸またはD−乳酸の完全ホモポリマーでは60J/g以上あり、これら2種の乳酸の共重合体ではその組成比によりΔHmは変化する。ΔHcは、重合体の結晶性に対するその時のフィルムの結晶化度に関係する指標であり、ΔHcが大きいときには、昇温過程でフィルムの結晶化が進行している。すなわち重合体が有する結晶性を基準にフィルムの結晶化度が相対的に低かったことを表す。逆に、ΔHcが小さい時は、重合体が有する結晶性を基準にフィルムの結晶化度が相対的に高かったことを表す。
【0030】フィルム・シートの製造方法の面からみると、熱処理して寸法安定性を付与させることはフィルム・シート(以下、単に「フィルム」という)の結晶化度を高めることである。
【0031】つまり、(ΔHm−ΔHc)を増大するための1つの方向は、結晶性が高い重合体を原料に、結晶化度の比較的高いフィルムをつくることである。フィルムの結晶化度は、重合体の組成に少なからず依存し、比較的結晶性の高い重合体を選択することが必要である。ポリ乳酸は、L−乳酸からなる構造単位、D−乳酸からなる構造単位を有し、どちらかの単体(単独重合体)もしくは混合体(共重合体)あるいはこれらの混合物からなる。L−乳酸構造単位とD−乳酸構造単位の組成比により結晶性が異なり、結晶性が失われる場合もある。非晶性重合体あるいは結晶性があっても結晶化度が低い重合体では熱処理による寸法安定性が付与できず、条件によっては付与した配向が緩和して強度が大きく低下する場合もある。
【0032】重合体の結晶化度を高めるためには重合体そのもののΔHmを20J/g以上にすることが必要である。この場合、L−乳酸とD−乳酸の組成比が100:0〜94:6の範囲内または0:100〜6:94の範囲内にするのが好ましい。すなわち、L−乳酸またはD−乳酸の混在率が6%を超えると結晶化度が下がりすぎるので、混在率は6%以下が好ましい。
【0033】また、ΔHcを低下させるためには、すなわちフィルムの結晶化度を高めるためにはフィルムの成形加工条件を選定することも重要である。
【0034】また、(ΔHm−ΔHc)/ΔHmが0.75以上であることが重要である。この値が0.75未満のときは実用的な熱寸法安定性の目安である80℃での収縮率が3%以内に抑えることができないからである。
【0035】フィルムの成形加工条件としては、ΔPが3.0×10-3以上のポリ乳酸系フィルムにおいては、実用的な熱寸法安定性を得るためには、フィルムの結晶化温度以上で熱処理することが重要である。ただし、フィルムの配向度が高いほど結晶化温度は低下する傾向にあり、配向度によって適宜熱処理温度を選択することができる。少なくとも70℃以上で熱処理すれば効果が得られる。しかし、熱処理時間が短ければ寸法安定性付与への効果は低くなる。すなわち、熱処理時間が短かったりすると、80℃以上での収縮率を抑えることはできない。両者の相関を考慮して熱処理温度および熱処理時間を選択する必要がある。
【0036】成形加工工程、特にテンター法2軸延伸においてフィルムの熱寸法安定性を高めるためには、延伸倍率を上げ配向結晶化を促進し、次いで結晶化温度以上の雰囲気で熱処理することが有用である。
【0037】ポリ乳酸の場合はΔPが大きいほど結晶化温度が低下する傾向があり、鋭意検討した結果、■熱処理温度T(℃)が70℃〜(重合体の融点Tm)の範囲内で、■熱処理時間t(秒)がLogt≧−4.6LogT+11を満足する条件で熱処理することにより80℃での熱収縮率が3%以下に抑えることができることを見出した。
【0038】例えば、少なくとも70℃以上、より好適には90〜170℃の範囲で3秒以上熱処理することで熱寸法安定性が付与できる。この範囲内で熱処理温度が高いほど、また熱処理時間が長いほど熱寸法安定性は向上する。
【0039】
【実施例】以下に実施例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。なお、実施例中に示す測定値は次に示すような条件で測定を行い、算出した。
【0040】(1)ΔPアッベ屈折計によって直交3軸方向の屈折率(α,β,γ)を測定し、次式で算出した。
【0041】
【数2】ΔP={(γ+β)/2}−α (α<β<γ)
γ:フィルム面内に最大屈折率β:それに直交するフィルム面内方向の屈折率α:フィルム厚さ方向の屈折率(2)ΔHm−ΔHcパーキンエルマー製DSC−7を用い、フィルムサンプル10mgをJIS−K7122に基づいて、昇温速度10℃/分で昇温したときのサーモグラムから結晶融解熱量ΔHmと結晶化熱量ΔHcを求め、算出した。
【0042】(3)引張り強度引張り強度は東洋精機テンシロンII型機を用い、JIS−K7127に基づいて測定した。引張り強度は100mm/分である。MDはフィルムの流れ方向、TDはフィルムの流れに対し直交する方向を示す。
【0043】(4)収縮率フィルムサンプルをMD、TDに沿って100mm×100mmに切り出し、80℃の温水バスに5分間浸漬した後、縦横の寸法を計り、次式にしたがって各々の収縮率を算出した。
【0044】
【数3】


【0045】(実験例1)L−乳酸からなる構造単位とD−乳酸からなる構造単位の割合がおおよそ98:2でガラス転移点58℃、重量平均分子量18万のポリ乳酸を30mmφ単軸エクストルーダーにて、200℃でTダイより押出し、キャスティングロールにて急冷し、厚み250μmの未延伸シートを得た。このシートの面配向度ΔPは0.1×10-3、長手方向およびその幅方向それぞれの引張強度は720kgf/cm2 ,700kgf/cm2 であった。
【0046】続いて面配向度ΔPが3×10-3以上になるように長手方向にロール延伸、次いで、幅方向にテンターで延伸し、テンター内で熱処理した。延伸条件およびそれに続く熱処理条件を種々変化させ、表1に示すNo.1〜7のフィルムサンプルおよび表2に示すNo.8〜9のフィルムサンプルを得た。フィルムの流れ速度は2m/分、延伸・熱処理各ゾーンの通過時間はそれぞれ約30秒である。
【0047】次にL−乳酸からなる構造単位とD−乳酸からなる構造単位の割合がおおよそ96:4でガラス転移点57℃、重量平均分子量14万のポリ乳酸を上記と同様の方法で押出し、続いて延伸・熱処理を行い、表2に示すNo.10および11フィルムを得た。なお、延伸・熱処理前のシートの面配向度ΔPは0.1×10-3以下、長手方向およびその幅方向それぞれの引張強度は650kgf/cm2,660kgf/cm2 であった。
【0048】同様の方法で、L−乳酸からなる構造単位とD−乳酸からなる構造単位の割合がおおよそ93:7でガラス転移点55℃、重量平均分子量11万のポリ乳酸を押出し、続いて延伸・熱処理を行い、表2に示すNo.12のフィルムを得た。なお表2のNo.13に示すように140℃で熱処理をおこなうとメルトフローした。延伸・熱処理前のシートの面配向度ΔPは0.1×10-3以下、長手方向およびその幅方向それぞれの引張強度は610kgf/cm2 であった。
【0049】
【表1】


【0050】
【表2】


【0051】表1および表2の結果から明らかなとおり、延伸することでフィルムの面配向度ΔPは3×10-3以上になり強度が無延伸シートに比較して向上していることがわかる。しかし、熱処理条件が本発明内の範囲外であるNo.1,3,4および8は、収縮率が高い。またNo.7は重合体の融点を超える温度で熱処理をしたため融解した。一方、熱処理条件が本発明の範囲内にあるNo.2,5,6および9は優れた熱寸法安定性を有している。
【0052】また、L−乳酸とD−乳酸の割合が本発明の範囲内であるNo.11も優れた寸法安定性を示している一方で、同じ組成のNo.10は、(ΔHm−ΔHc)は20J/g以上であるが、(ΔHm−ΔHc)/ΔHmは本発明の範囲外にあり、熱収縮率が高くなっていることがわかる。
【0053】No.12は、L−乳酸とD−乳酸が本発明の範囲外にあり、重合体そのものの結晶性が低く、(ΔHm−ΔHc)/ΔHmは0.75以上あっても熱収縮率が高いことがわかる。
【0054】(実験例2)L−乳酸からなる構造単位とD−乳酸からなる構造単位の割合がおおよそ98:2でガラス転移点58℃、融点175℃、重量平均分子量18万のポリ乳酸を30mmφ単軸エクストルーダーにて、200℃でTダイより押出し、キャスティングロールにて急冷し、厚み250μmの未延伸シートを得た。このシートの面配向度ΔPは0.1×10-3以下、長手方向およびその幅方向それぞれの引張強度は720kgf/cm2 ,700kgf/cm2 であった。
【0055】続いて面配向度ΔPが3×10-3以上になるように長手方向にロール延伸、次いで、幅方向にテンターで延伸し、テンター内で熱処理を行った。延伸条件およびそれに続く熱処理条件を種々変化させ、表3に示すNo.14〜20のフィルムサンプルおよび表4に示すNo.21のフィルムサンプルを得た。フィルムの流れ速度は1〜20m/分、熱処理ゾーンの通過時間は3〜60秒である。ただし、表4に示すNo.21は延伸後そのままテンター内で60℃、10秒熱処理したフィルムを採取し、固定枠にフィルムを挟み込み、80℃雰囲気に保持した熱風循環器内で熱処理した。
【0056】また、L−乳酸からなる構造単位とD−乳酸からなる構造単位の割合がおおよそ96:4でガラス転移点57℃、融点約152℃、重量平均分子量14万のポリ乳酸を上記と同様の方法で押出し、未延伸フィルムを作成した。続いて延伸・熱処理を行い、表4に示すNo.22および23のフィルムを得た。なお延伸・熱処理前のシートの面配向度ΔPは0.1×10-3以下、長手方向およびその幅方向それぞれの引張強度は650kgf/cm2 ,660kgf/cm2 であった。
【0057】同様の方法で、L−乳酸からなる構造単位とD−乳酸からなる構造単位の割合がおおよそ93:7でガラス転移点57℃、融点約125℃で、重量平均分子量11万のポリ乳酸を上記と同様の方法で押出し、未延伸フィルムを作成した。続いて延伸・熱処理を行い、表4に示すNo.24および25のフィルムを得た。ただし、No.25は延伸後そのままテンター内で70℃、約13秒熱処理したフィルムを採取し、固定枠にフィルムを挟み込み、80℃雰囲気に保持した熱風循環器内で熱処理した。なお延伸・熱処理前のシートの面配向度ΔPは0.1×10-3以下、長手方向およびその幅方向それぞれの引張強度は610kgf/cm2 ,610kgf/cm2 であった。
【0058】なお、表3に示すNo.14〜20のフィルムサンプルについて熱処理時間と温度の関係を図1に示した。斜線部が本発明の範囲であり、No.15,17,19および20が本発明の実施例であり、他が比較例である。
【0059】
【表3】


【0060】
【表4】


【0061】表3および表4の結果から明らかなとおり、延伸することでフィルムの面配向度ΔPは3×10-3以上になり強度が無延伸シートに比較して向上していることがわかる。しかし、熱処理条件が本発明の範囲外であるNo.14,16および18は、収縮率が比較的高い。一方、熱処理条件が本発明の範囲内にあるNo.15,17および19〜21は優れた熱寸法安定性を有している。
【0062】また、L−乳酸とD−乳酸の割合が本発明の範囲内であるNo.23も優れた寸法安定性を示している一方で、同じ組成のNo.22は、熱処理時間が本発明の範囲外であるため、収縮率が比較的高いことがわかる。
【0063】No.24および25は熱処理温度・時間は本発明の範囲内であるが、L−乳酸とD−乳酸の割合が本発明の範囲外にあり、熱寸法安定性が不十分であることがわかる。
【0064】上記実施例はいずれも、L−乳酸の比率が高い場合を示しているが、D−乳酸の比率が高い場合も同様の結果になる。
【0065】
【発明の効果】本発明の結果、分解性を有するポリ乳酸系重合体から、延伸・熱処理加工し、実用的な強度、熱寸法安定性に優れたフィルム、シートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】表3の結果である熱処理時間と温度の関係を表わすグラフである。
【符号の説明】
T 熱処理温度(℃)
t 熱処理時間(秒)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 面配向度ΔPが3.0×10-3以上であり、フィルムまたはシートを昇温したときの結晶融解熱量ΔHmと昇温中の結晶化により発生する結晶化熱量ΔHcとの差(ΔHm−ΔHc)が20J/g以上で、かつ(ΔHm−ΔHc)/ΔHmが0.75以上であることを特徴とする配向ポリ乳酸系フィルムまたはシート。
【請求項2】 乳酸が、L−乳酸またはD−乳酸、もしくはそれらの混合物であり、その割合が100:0〜94:6の範囲内または0:100〜6:94の範囲内にある共重合体あるいはこれらの混合体からなることを特徴とする請求項1記載の配向ポリ乳酸系フィルムまたはシート。
【請求項3】 面配向度ΔPが3.0×10-3以上であるポリ乳酸系重合体のフィルムまたはシートを■熱処理温度T(℃)が、70℃〜(重合体の融点Tm)の範囲内、■熱処理時間t(秒)が、Logt≧−4.6LogT+11を満足する条件で熱処理することを特徴とする請求項1記載の配向ポリ乳酸系フィルムまたはシートの製造方法。
【請求項4】 乳酸が、L−乳酸またはD−乳酸、もしくはそれらの混合物であり、その割合が100:0〜94:6の範囲内または0:100〜6:94の範囲内にある共重合体あるいはこれらの混合体からなることを特徴とする請求項3記載の配向ポリ乳酸系フィルムまたはシートの製造方法。

【図1】
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