説明

配向装置

【課題】磁気記録媒体の製造コストの低減を図り、吹き出し部の強度低下を回避しつつ塗膜の全域に亘って均一に乾燥させる。
【解決手段】気体を吹き付けて塗膜13aを乾燥させる乾燥機と、塗膜13a中の磁性体を配向する配向器とを備え、配向器は、通過用孔が中心部に形成された空芯コイル部を備え、乾燥機は、気体を吹き出す複数の吹き出し口36,36・・が形成された吹き出し部34a,34bを備え、吹き出し部34a,34bは、配向器における通過用孔内に配設され、吹き出し口36,36・・は、ベースフィルム11の幅方向に沿った開口幅がベースフィルム11の横幅よりも狭く、かつベースフィルム11の走行方向において互いに離間するように形成されると共に塗膜13aの表面における各部位が通過用孔内においていずれかの吹き出し口36の下方を少なくとも1回通過するように配列されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の製造に際して磁性層形成用の塗膜中における磁性体を配向しつつ塗膜を乾燥させて磁性層を形成する配向装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の配向装置を備えた装置として、特開昭61−267933号公報には、磁性粉や溶剤等からなる磁気記録液(磁性塗料)を非磁性ベース(ベースフィルム)に塗布する塗布機と、塗布された磁気記録液(塗膜)を乾燥させる乾燥機(乾燥炉)とを備えた磁気記録媒体の製造装置が開示されている。この場合、上記の乾燥機内には、ソレノイドコイルを備えて磁場を発生させることで非磁性ベース上の塗膜中における磁性粉を配向処理する配向装置が設置されている。この製造装置によって磁気記録媒体を製造する際には、まず、塗布機が非磁性ベース上に磁気記録液を塗布する。次いで、磁気記録液の塗布が完了した非磁性ベースは、磁気記録液の塗布厚を均一化するスムージング装置を介して乾燥機の部位まで移動させられる。この際に、ダクトを介して乾燥機内に供給された温風によって乾燥機内が温度上昇させられているため、乾燥機内において非磁性ベース上の塗膜から溶剤が揮発して塗膜が乾燥して非磁性ベース上に磁性層が形成される。また、この製造装置では、乾燥機によって塗膜が完全に乾燥させられるのに先立って非磁性ベースが乾燥機内の配向装置を通過させられることにより、未乾燥状態の塗膜中における磁性粉が配向されて一定方向に向きを揃えられる。この状態において塗膜が乾燥させられることで磁性層が形成されて磁気記録媒体が完成する。
【0003】
一方、特開2001−344749号公報に開示されている磁気記録媒体の製造装置は、非磁性支持体上に磁性塗料を塗布する塗布装置と、配向処理および乾燥処理を並行して実行する配向装置とを備えて構成されている。この場合、配向装置は、磁場を発生させるマグネット(ソレノイドコイル)と、磁性塗料を乾燥させるドライヤーとを備えている。また、ドライヤーは、非磁性支持体の幅方向に沿って開口された複数のスリットが非磁性支持体の走行方向(移動方向)に沿って並ぶように形成されたノズルを備え、非磁性支持体に向けてスリットから温風を吹き出し可能に構成されている。この製造装置によって磁気記録媒体を製造する際には、まず、塗布装置が非磁性支持体上に磁性塗料を塗布する。次いで、磁性塗料の塗布が完了した非磁性支持体は、配向装置の部位まで移動させられる。この際に、マグネットから生じた磁場によって磁性塗料中の磁性粉が配向されて一定方向に向きを揃えられると共に、ドライヤーの各スリットから吹き出される温風によって磁性塗料が乾燥させられる。これにより、非磁性支持体上に磁性層が形成されて磁気記録媒体が完成する。
【特許文献1】特開昭61−267933号公報(第2頁、第1図)
【特許文献2】特開2001−344749号公報(第3−10頁、第2−4図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来の製造装置には、以下の問題点がある。すなわち、特開昭61−267933号公報に開示されている製造装置では、非磁性ベースの走行路(テープ走行路)に沿って形成された乾燥機(乾燥炉)内に配向装置を設置することにより、乾燥機内で非磁性ベース上の塗膜(磁気記録液)を乾燥させつつ配向装置によって塗膜中の磁性粉を配向する構成が採用されている。この場合、この製造装置における乾燥機は、ダクトを介して供給される温風によって乾燥機内を温度上昇させておくことで、乾燥機を通過する際に非磁性ベース上の塗膜から溶剤が揮発して塗膜が乾燥するように構成されている。したがって、塗膜に温風を吹き付けて乾燥させるタイプの乾燥機と比較して、塗膜の乾燥にある程度時間を要することとなる。このため、この製造装置では、塗膜中において磁性粉の向きが変化しない程度まで塗膜が乾燥するように塗膜に磁場を印加し続ける必要があり、このため、非磁性ベースのテープ走行路に沿って数多くの配向装置を設置する必要がある。したがって、この従来の製造装置には、数多くの配向装置を導入することに起因してその導入コストおよびランニングコストの分だけ磁気記録媒体の製造コストが高騰しているという問題点がある。
【0005】
一方、特開2001−344749号公報に開示されている製造装置では、マグネットによって磁性塗料中の磁性粉を配向しつつ、非磁性支持体に温風を吹き付けて非磁性支持体上の塗膜を乾燥させる構成が採用されている。したがって、数多くの配向装置を設置することなく、磁性粉の配向および磁性塗料の乾燥を行うことが可能となっている。しかし、この従来の製造装置では、非磁性支持体に向けて温風を吹き付けるためのスリットが非磁性支持体の横幅よりも長尺となるように大きく開口されて形成されている。したがって、非磁性支持体の幅方向の各部位に対して均一な風量で温風を吹き付けるのが困難となっている。具体的には、ダクトを介してノズルに温風が供給された際に、ノズルに形成されたスリットの長手方向における中央部(非磁性支持体における幅方向の中央部に対向する部位)と、スリットの長手方向における両端部(非磁性支持体における幅方向の両端部に対向する部位)とで、供給された温風の吹き出し量が相違する。このため、非磁性支持体上の磁性塗料の乾燥状態が非磁性支持体の幅方向の各部位において不均一となる結果、この従来の製造装置には、比較的短時間で乾燥させられた部位では配向装置による磁性粉の配向が不十分となり、乾燥にある程度の時間を要する部位では、配向装置による磁性粉の配向が完了した時点において磁性塗料の乾燥が不十分であることに起因して未乾燥状態の磁性塗料中で磁性粉の向きが変化してしまうという問題点がある。また、非磁性支持体の横幅よりも長尺となるようにスリット(吹き出し口)を開口した場合には、ノズル(吹き出し部)の強度が大きく低下するため、ノズルの変形を招くおそれがある。
【0006】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、磁気記録媒体の製造コストの低減を図ると共に、吹き出し部の強度低下を回避しつつ、支持体上の塗膜の全域に亘って均一に乾燥させ得る配向装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく本発明に係る配向装置は、支持体上の塗膜に気体を吹き付けて当該塗膜を乾燥させる乾燥機と、磁界を生じさせて前記塗膜中の磁性体を配向する配向器とを備え、前記配向器は、前記支持体を通過させる通過用孔が中心部に形成された空芯コイル部を備えて構成され、前記乾燥機は、前記塗膜に向けて前記気体を吹き出す複数の吹き出し口が形成された吹き出し部を備えて構成され、前記吹き出し部は、前記配向器における前記通過用孔内に配設され、前記各吹き出し口は、前記支持体の幅方向に沿った開口幅が当該支持体の横幅よりも狭く、かつ当該支持体の走行方向において互いに離間するように形成されると共に、前記塗膜の表面における各部位が前記通過用孔内においていずれかの当該吹き出し口の下方を少なくとも1回通過するように配列されている。
【0008】
この場合、本発明に係る配向装置では、前記支持体の走行路に沿って前記空芯コイル部が2つ配設されると共に当該各空芯コイル部毎に前記吹き出し部が配設され、前記走行路における上流側の前記空芯コイル部に対して前記2つの吹き出し部のうちの一方が当該上流側から前記通過用孔内に挿入されると共に、前記走行路における下流側の前記空芯コイル部に対して前記2つの吹き出し部のうちの他方が当該下流側から前記通過用孔内に挿入されている。
【0009】
また、本発明に係る配向装置では、前記乾燥機は、前記塗膜中における前記磁性体の向きの変化を規制可能な乾燥状態に至るまで前記通過用孔内で当該塗膜を乾燥させるように構成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る配向装置によれば、支持体の幅方向に沿った開口幅が支持体の横幅よりも狭く、かつ支持体の走行方向において互いに離間するように各吹き出し口を形成すると共に、塗膜の表面における各部位が通過用孔内においていずれかの吹き出し口の下方を少なくとも1回通過するように各吹き出し口を配列したことにより、支持体上の塗膜の表面における各部位に対してほぼ均一な量の温風を吹き付けることができる。したがって、塗膜の各部位に乾燥度合いのばらつきを生じさせることなく、全域に亘って塗膜を均一に乾燥させることができる。この結果、配向器によって磁性体が一定の方向を向くように配向された状態で塗膜の全域をほぼ同時に乾燥させることができるため、高い磁気特性を有する磁性層を形成することができる。これにより、再生信号の信号レベルが高く、エラーレートの低い磁気記録媒体を製造することができる。この場合、支持体の幅方向に沿った開口幅が支持体の横幅よりも狭くなるように各吹き出し口を形成したことにより、支持体の横幅を超える大きな開口幅の吹き出し口の形成によって吹き出し部の強度が低下する事態を回避することができる。また、吹き出し部を配向器における空芯コイル部の通過用孔内に挿入して温風を吹き出す構成を採用したことにより、乾燥機内に配向装置を設置した従来の製造装置とは異なり、塗膜を短時間で効率よく乾燥させることができる。したがって、数多くの配向装置を設置する必要がなくなるため、配向装置の導入コストおよびランニングコストの分だけ磁気記録媒体の製造コストを低減することができる。
【0011】
また、本発明に係る配向装置によれば、上流側の空芯コイル部に対して上流側から通過用孔内に一方の吹き出し部を挿入すると共に、下流側の空芯コイル部に対して下流側から通過用孔内に他方の吹き出し部を挿入して構成したことにより、吹き出し部によって邪魔されることなく両空芯コイル部を支持体の走行方向において近接させて配置することができる。したがって、上流側の空芯コイル部と下流側の空芯コイル部との間についても十分な強度の磁界を生じさせることができると共に、両空芯コイル部に跨る長い距離に亘って支持体の走行方向と平行な磁界を発生させることができるため、塗膜中の磁性体を確実に配向することができる。
【0012】
さらに、本発明に係る配向装置によれば、塗膜中において磁性体の向きが変化することのない乾燥状態に至るまで通過用孔内で塗膜を乾燥させるように乾燥機を構成したことにより、塗膜が未乾燥状態で空芯コイル部を通過する事態が回避されて、空芯コイル部によって配向された磁性体の向きを変化させることなく塗膜を乾燥させて磁性層を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る配向装置の最良の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0014】
図1に示す磁気テープ製造装置1は、非磁性層形成装置2、磁性層形成装置3およびバックコート層形成装置4を備えて、図2に示す磁気テープ10を製造可能に構成されている。この場合、磁気テープ10は、記録データの記録が可能に構成された長尺帯状の磁気記録媒体の一例であって、図2に示すように、横幅L1a(図3参照)が300mmで厚みが3.6μmのアラミドフィルムで構成されたベースフィルム11の一面(同図における上面)に非磁性層12および磁性層13がこの順で積層されると共に、ベースフィルム11の他面(同図における下面)にバックコート層14が形成されている。なお、ベースフィルム11の横幅L1aおよび厚みや、材質については、一例であって、上記の例に限定されない。
【0015】
非磁性層形成装置2は、ベースフィルム11の一面に非磁性塗料(一例として、紫外線硬化型の塗料:図示せず)を塗布して塗膜を形成する塗布装置(図示せず)と、塗膜に紫外線を照射して硬化させる紫外線照射装置(図示せず)とを備えてベースフィルム11の一面に一例として厚み0.8μm程度の非磁性層12を形成する。この場合、この磁気テープ製造装置1による磁気テープ10の製造方法においては、非磁性層形成装置2によって非磁性層12が形成された状態のベースフィルム11が本発明における支持体に相当する。また、バックコート層形成装置4は、ベースフィルム11の他面にバックコート層形成用塗料(一例として、紫外線硬化型の塗料:図示せず)を塗布して塗膜を形成する塗布装置と、塗膜に紫外線を照射して硬化させる紫外線照射装置(図示せず)とを備えてベースフィルム11の他面に一例として厚み0.5μm程度のバックコート層14を形成する。なお、実際の磁気テープ製造装置1には、ベースフィルム11をテープ走行させるテープ走行機構、各層に対するカレンダ処理を実行するカレンダ装置、並びに、各層の形成が完了した磁気テープ10の原反を所定の幅に切断する切断機等が含まれているが、本発明についての理解を容易とするために、これらについての図示および説明を省略する。
【0016】
磁性層形成装置3は、いわゆるウェットオンドライ方式に従って非磁性層12の上に磁性塗料(図示せず)を塗布して乾燥させることにより、非磁性層12の上に一例として厚み0.25μm程度の磁性層13を形成する。具体的には、図1に示すように、磁性層形成装置3は、非磁性層12上に磁性塗料を塗布して塗膜13a(図3参照)を形成する塗布装置5と、塗膜13a中の針状磁性粉(本発明における磁性体)を配向しつつ塗膜13aを乾燥させる配向装置6とを備えている。また、配向装置6は、ベースフィルム11の走行路に磁界を生じさせて塗膜13a中の針状磁性粉を配向する配向器7と、配向器7による配向処理と並行して塗膜13aに温風を吹き付けて塗膜13aを乾燥させる乾燥機8とを備えている。なお、乾燥時に塗膜13aから発生する有機溶剤ガスなどは、図示しない排気装置によって配向器7の外部に排出される。また、図3,4に示すように、この配向装置6では、電源部22(図1参照)によって電源が供給されることによって磁界を生じさせる2つの空芯コイル部21a,21bがベースフィルム11の走行路に沿って2つ並んで配設されている。また、各空芯コイル部21a,21bは、空芯コイル23をそれぞれ備えており、この空芯コイル23の中央部には、ベースフィルム11を通過させるための通過用孔24が形成されている。
【0017】
一方、図1に示すように、乾燥機8は、本発明における気体の一例である空気を送風する送風機31と、送風機31によって送風される空気を例えば60℃程度まで加熱するヒータ32と、ヒータ32によって加熱された空気(温風)を吹き出し部34a,34b(図3,4参照)に案内するダクト33とを備えている。吹き出し部34a,34bは、図3,4に示すように、その横幅L1がベースフィルム11の横幅L1aよりも僅かに幅広で側面視L字形の箱状に形成されて、その上端部側にダクト33が接続されると共に、その先端部35が空芯コイル部21a,21bの通過用孔24内に挿入されている。この場合、ベースフィルム11の走行方向(両図に示す矢印Fの向き)における上流側の空芯コイル部21aに対しては、上流側から通過用孔24内に吹き出し部34a(本発明における「2つの吹き出し部のうちの一方」)の先端部35が挿入されると共に、走行方向における下流側の空芯コイル部21bに対しては、下流側から通過用孔24内に吹き出し部34b(本発明における「2つの吹き出し部のうちの他方」)の先端部35が挿入されている。したがって、両図に示すように、両空芯コイル部21a,21bをベースフィルム11の走行方向に沿って近接させて配置することが可能となっている。
【0018】
また、図5に示すように、吹き出し部34a,34bにおける先端部35の底面には、ダクト33を介して供給される温風を通過用孔24内で塗膜13aに向けて吹き出すための吹き出し口36,36・・が所定の配列パターンに従って形成されている。また、この吹き出し部34a,34bでは、図6に示すように、各吹き出し口36,36・・が丸孔状に形成されて、その直径L2(本発明における開口幅)がベースフィルム11の横幅L1aよりも十分に狭い3.0mm(この例では、ベースフィルム11の横幅L1aに対する1/100の開口幅)に規定されている。この場合、本発明における吹き出し口の開口幅を過剰に広くしたときには、吹き出し部における先端部の強度が低下するおそれがある。また、吹き出し口の開口幅を過剰に狭くしたときには、空気のスムーズな吹き出しを可能とするために各吹き出し口におけるベースフィルム11の走行方向に沿った開口長を長くする必要が生じる。この結果、吹き出し部における先端部の強度が低下するおそれがある。したがって、本発明における吹き出し口(この例では、吹き出し口36)のベースフィルム11の幅方向に沿った開口幅は、ベースフィルム11の横幅L1aに対して1/1000以上1/5以下の範囲内の長さに規定するのが好ましい。
【0019】
また、この吹き出し部34a,34bでは、各吹き出し口36,36・・を丸孔状に形成したことにより、例えば四角形の吹き出し口を形成した構成とは異なり、各吹き出し口36,36・・の形成(孔開け加工)が容易であり、しかも吹き出し口の口縁部に対する応力集中が回避されて吹き出し部34a,34bの強度が低下する事態が回避されている。この場合、本発明における吹き出し口を丸孔状に形成するときには、吹き出し部の強度低下を回避しつつ空気のスムーズな吹き出しを可能とするために、その直径を1mm以上50mm以下の範囲内とするのが好ましく、2mm以上5mm以下の範囲内とするのが一層好ましい。
【0020】
また、各吹き出し口36,36・・は、その中心Oが、ベースフィルム11の走行方向に沿って長さL3(一例として、20.0mm)だけ相互に離間し、かつベースフィルム11の幅方向に沿って長さL4(一例として、2.2mm)だけ相互に離間するように形成されている。この結果、この吹き出し部34a,34bでは、先端部35の底面に形成された吹き出し口36,36・・の両端部がベースフィルム11の走行方向において長さL5(この例では、0.8mm)だけ重なると共に、図5に示すように、塗膜13aの表面における各部位が通過用孔24内においていずれかの吹き出し口36の下方を少なくとも1回(一例として、吹き出し部34a,34b毎に2回:配向装置6全体で4回)通過するように構成されている。なお、図5,6では、本発明についての理解を容易とするために、各吹き出し口36,36・・の直径L2や、中心O,O・・間の長さL3,L4などを実際の直径や長さとは異なる長さで図示している。
【0021】
また、この配向装置6では、各吹き出し口36,36・・の直径L2が2mm以上5mm以下の範囲内(この例では、3.0mm)で、ベースフィルムの走行方向に沿った形成ピッチおよび幅方向に沿った形成ピッチが上記のように規定されている。したがって、この配向装置6では、吹き出し部34a,34bにおける先端部35の底面の面積に対する吹き出し口36,36・・の開口面積比が1.61%となっている。この結果、この配向装置6では、従来のドライヤーよりも開口面積比が小さい吹き出し口36,36・・が空気の吹き出し時に抵抗となり、送風機31によって送風された空気が吹き出し部34a,34bの内部においてある程度加圧された状態となる。この結果、吹き出し部34a,34bの内部において各吹き出し口36,36・・の形成部位まで空気がほぼ均等に行き渡り、各吹き出し口36,36・・からほぼ同程度の風速でほぼ同量の空気を吹き出すことができる。なお、上記の開口面積比については、0.80%以上3.21%以下の範囲内とするのが好ましく、吹き出し部34a,34b内における空気の加圧状態を一層好適な状態とするためには、1.00%以上1.61%以下の範囲内とするのが好ましい。また、送風機31の能力やダクト33の部位における圧損を考慮して各吹き出し口36の1つ当りの開口面積や開口数を適宜規定することにより、各吹き出し口36,36・・からの空気の吹き出し速度(風速)が3m/秒以上30m/秒程以下の範囲内となるように吹き出し部34a,34bを構成するのが好ましい。
【0022】
さらに、前述したように、各吹き出し口36,36・・の直径L2を2mm以上5mm以下の範囲内に規定するのが好ましいため、開口面積比を上記の好適な範囲内とするためには、各吹き出し口36,36・・におけるベースフィルム11の走行方向に沿った離間量(上記の長さL3)を10mm以上40mm以下の範囲内とするのが好ましい。具体的には、吹き出し口36の直径L2を3mmとし、上記の長さL3を10mmとしたときには、開口面積比が3.21%となる。この例では、塗膜13aの表面における各部位が通過用孔24内においていずれかの吹き出し口36の下方を4回(配向装置6全体で8回)通過する。また、吹き出し口36の直径L2を3mmとし、上記の長さL3を20mmとしたときには、開口面積比が前述したように1.61%となる。この例では、塗膜13aの表面における各部位が通過用孔24内においていずれかの吹き出し口36の下方を2回(配向装置6全体で4回)通過する。さらに、吹き出し口36の直径L2を3mmとし、上記の長さL3を40mmとしたときには、開口面積比が0.80%となる。この例では、塗膜13aの表面における各部位が通過用孔24内においていずれかの吹き出し口36の下方を1回(配向装置6全体で2回)通過する。この場合、出願人は、長さL3を20mmとした上記の例において、塗膜13aの乾燥状態および針状磁性粉の配向状態が最も好適となるのを確認している。
【0023】
次に、磁気テープ製造装置1による磁気テープ10の製造方法について、磁性層形成装置3による磁性層13の形成処理を中心にして図面を参照して説明する。
【0024】
まず、非磁性層形成装置2によってベースフィルム11に非磁性塗料を塗布して硬化させることにより、ベースフィルム11の一面に非磁性層12を形成する。これにより、本発明における支持体が製造される。次いで、磁性層形成装置3によって非磁性層12の上に磁性層13を形成する。具体的には、非磁性層12の形成が完了した原反をテープ走行機構(図示せず)にセットして、繰り出し部から塗布装置5および配向装置6を順に通過させて巻き取り部に案内する。続いて、テープ走行機構を作動させてベースフィルム11をテープ走行させる。この際には、まず、塗布装置5が、非磁性層12の上に磁性塗料を塗布することにより、非磁性層12を覆うようにしてベースフィルム11上に塗膜13aを形成する。この場合、磁性塗料としては、その長軸長が100nm程度で軸比が8程度の針状磁性粉を含有する熱硬化型の塗料を用いる。また、塗布装置5によって塗膜13aが形成されたベースフィルム11は、テープ走行機構によって配向装置6の部位まで移動させられ、配向装置6によって塗膜13a中の針状磁性粉の配向処理および塗膜13aの乾燥処理が並行して実行される。
【0025】
具体的には、電源部22から空芯コイル部21a,21bの空芯コイル23に電源が供給されることにより、磁界が、通過用孔24内を含む空芯コイル部21a,21bの周囲に発生する。この状態で、テープ走行機構によってベースフィルム11が移動させられて通過用孔24内を通過させられることにより、ベースフィルム11上に塗布された塗膜13a内の針状磁性粉が、その長手方向をベースフィルム11の走行方向(すなわち、ベースフィルム11の長手方向)に一致させるようにして配向される。この場合、この配向装置6における配向器7のように空芯コイル23によって磁界を生じさせるタイプの配向器では、通過用孔24における上流側の端部および下流側の端部においてベースフィルム11の幅方向に向かって磁界が拡がる傾向がある。そこで、この配向装置6では、前述したようにベースフィルム11の走行方向に沿って2つの空芯コイル部21a,21bを近接させて設置することで、空芯コイル部21aの通過用孔24における下流側の端部を通過する磁束と、空芯コイル部21bの通過用孔24における上流側の端部を通過する磁束とが連続する。したがって、空芯コイル部21aの通過用孔24における下流側の端部と、空芯コイル部21bの通過用孔24における上流側の端部との部位における磁界のベースフィルム11の横幅に対する拡がりが抑えられている。この結果、発生した磁界は、2つの空芯コイル部21a,21bに跨る長い距離に亘ってベースフィルム11の走行方向と平行となっている。
【0026】
また、この配向装置6では、上記したように磁界がベースフィルム11の走行方向と平行となっている区間内(すなわち、両空芯コイル部21a,21bにおける通過用孔24内)において、乾燥機8は、針状磁性粉の向きが変化しない程度(本発明における「磁性体の向きの変化を規制可能な所定の乾燥状態」の一例)まで通過用孔24内で塗膜13aを十分に乾燥可能に構成されている。具体的には、送風機31による空気の送風量や、ヒータ32によって加熱された空気の温度が、塗膜13aを乾燥させるのに十分な送風量および温度となるようにそれぞれ規定されている。また、この配向装置6では、前述したように、ダクト33を介して供給される温風を吹き出すための吹き出し口36,36・・が丸孔状に形成されている。したがって、非磁性支持体の幅方向に沿って長尺のスリットが開口されたノズルを有する従来の配向装置とは異なり、供給される温風の圧力が吹き出し部34a,34b内において十分に高まる結果、図3,4に矢印A,Bで示すように、温風は、各吹き出し口36,36・・からほぼ均一な圧力で塗膜13aに向けて吹き出される。このため、塗膜13aの表面における各部位に対してほぼ均一な量の温風が吹き付けられる。
【0027】
また、この配向装置6では、各吹き出し口36,36・・がベースフィルム11の走行方向において互いに離間し、かつ、各吹き出し口36,36・・におけるベースフィルム11の幅方向の端部が走行方向において0.8mmずつ重なるように吹き出し部34a,34bの先端部35における底面に吹き出し口36,36・・が形成されている。このため、この配向装置6では、塗膜13aの表面におけるいずれの各部位も、空芯コイル部21a,21bの通過用孔24内においていずれかの吹き出し口36の下方を少なくとも1回通過する。したがって、この配向装置6では、塗膜13aの表面におけるいずれの各部位に対しても、ほぼ同量の温風が吹き付けられる。このため、塗膜13aの表面における各部位の乾燥状態を均一化して、未乾燥状態の部位が生じる事態や、過度に短時間で乾燥させられる部位が生じる事態を回避することができる。この結果、塗膜13aに対する配向処理および乾燥処理が完了して、磁性層13が非磁性層12の上に形成される。この後、バックコート層形成装置4によってベースフィルム11にバックコート層形成用塗料を塗布して硬化させる。以上により、ベースフィルム11の他面にバックコート層14が形成されて、図2に示すように、磁気テープ10が完成する。
【0028】
このように、この配向装置6によれば、ベースフィルム11の幅方向に沿った開口幅(直径L2)がベースフィルム11の横幅L1aよりも狭く、かつベースフィルム11の走行方向において互いに離間するように各吹き出し口36,36・・を形成すると共に、塗膜13aの表面における各部位が通過用孔24内においていずれかの吹き出し口36の下方を少なくとも1回通過するように各吹き出し口36,36・・を配列したことにより、ベースフィルム11上(非磁性層12上)の塗膜13aの表面における各部位に対してほぼ均一な量の温風を吹き付けることができる。したがって、塗膜13aの各部位に乾燥度合いのばらつきを生じさせることなく、全域に亘って塗膜13aを均一に乾燥させることができる。この結果、配向器7によって針状磁性粉が一定の方向を向くように配向された状態で塗膜13aの全域をほぼ同時に乾燥させることができるため、高い磁気特性を有する磁性層13を形成することができる。これにより、再生信号の信号レベルが高く、エラーレートの低い磁気テープ10を製造することができる。この場合、ベースフィルム11の幅方向に沿った開口幅(直径L2)がベースフィルム11の横幅L1aよりも狭くなるように各吹き出し口36,36・・を形成したことにより、ベースフィルム11の横幅L1aを超える大きな開口幅の吹き出し口の形成によって吹き出し部の強度が低下する事態を回避することができる。また、吹き出し部34a,34bにおける先端部35を配向器7における空芯コイル部21a,21bの通過用孔24内に挿入して温風を吹き出す構成を採用したことにより、乾燥機内に配向装置を設置した従来の製造装置とは異なり、塗膜13aを短時間で効率よく乾燥させることができる。したがって、数多くの配向装置を設置する必要がなくなるため、配向装置の導入コストおよびランニングコストの分だけ磁気テープ10の製造コストを低減することができる。
【0029】
また、この配向装置6によれば、空芯コイル部21aに対してテープ走行路の上流側から吹き出し部34aの先端部35を通過用孔24内に挿入すると共に、空芯コイル部21bに対してテープ走行路の下流側から吹き出し部34bの先端部35を通過用孔24内に挿入して配向装置6を構成したことにより、吹き出し部34a,34bによって邪魔されることなく空芯コイル部21a,21bをベースフィルム11の走行方向において近接させて配置することができる。したがって、空芯コイル部21aと空芯コイル部21bとの間についても十分な強度の磁界を生じさせることができると共に、両空芯コイル部21a,21bに跨る長い距離に亘ってベースフィルム11の走行方向と平行な磁界を発生させることができるため、塗膜13a中の針状磁性粉を確実に配向することができる。
【0030】
さらに、この配向装置6によれば、塗膜13a中において磁性体の向きが変化することのない乾燥状態に至るまで通過用孔24内で塗膜13aを乾燥させるように乾燥機8を構成したことにより、塗膜13aが未乾燥状態で空芯コイル部21a,21bを通過する事態が回避されて、空芯コイル部21a,21bによって配向された針状磁性粉の向きを変化させることなく塗膜13aを乾燥させて磁性層13を形成することができる。
【0031】
なお、本発明は、上記の構成に限定されない。例えば、上記の配向装置6では、塗膜13aに温風を吹き付けて乾燥させる構成が採用されているが、本発明は加熱された空気を吹き付けて乾燥させる構成に限定されず、常温の空気や、空気以外の各種気体(工業用窒素等)を塗膜13aに吹き付けて乾燥させる構成を採用することもできる。また、前述した吹き出し部34a,34bにおける吹き出し口36,36・・の配列パターンはあくまでも例示であって、塗膜13aの表面における各部位が各吹き出し口36,36・・の下方を少なくとも1回通過することができる限り、上記の吹き出し口36,36・・の配列パターンとは相違する格子状などの各種の配列パターンで吹き出し口36,36・・を形成することができる。また、本発明における吹き出し口は吹き出し口36のような丸孔に限定されず、開口面が角形の吹き出し口や、長孔状の吹き出し口を吹き出し部に形成することができる。さらに、上記の吹き出し部34a,34bとは別個に、ベースフィルム11の下面(バックコート層14が形成される面)、および塗膜13aの表面の少なくとも一方に空気を吹き付ける吹き出し部を空芯コイル部21a,21bの間に配設することもできる。また、ベースフィルム11に対する非磁性層12、磁性層13およびバックコート層14の形成順序は上記の例に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】磁気テープ製造装置1の構成図である。
【図2】磁気テープ10の断面図である。
【図3】配向装置6の外観斜視図である。
【図4】配向装置6の側面断面図である。
【図5】吹き出し口36,36・・の形成パターンの一例を示す吹き出し部34a,34bにおける先端部35の底面図である。
【図6】吹き出し口36,36の位置関係の一例を示す吹き出し部34a,34bにおける先端部35の底面の一部を示す底面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 磁気テープ製造装置
3 磁性層形成装置
6 配向装置
7 配向器
8 乾燥機
10 磁気テープ
11 ベースフィルム
13 磁性層
13a 塗膜
21a,21b 空芯コイル部
22 電源部
23 空芯コイル
24 通過用孔
31 送風機
32 ヒータ
33 ダクト
34a,34b 吹き出し部
36 吹き出し口
L1,L1a 横幅
L2 直径
L3〜L5 長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上の塗膜に気体を吹き付けて当該塗膜を乾燥させる乾燥機と、磁界を生じさせて前記塗膜中の磁性体を配向する配向器とを備え、
前記配向器は、前記支持体を通過させる通過用孔が中心部に形成された空芯コイル部を備えて構成され、
前記乾燥機は、前記塗膜に向けて前記気体を吹き出す複数の吹き出し口が形成された吹き出し部を備えて構成され、
前記吹き出し部は、前記配向器における前記通過用孔内に配設され、
前記各吹き出し口は、前記支持体の幅方向に沿った開口幅が当該支持体の横幅よりも狭く、かつ当該支持体の走行方向において互いに離間するように形成されると共に、前記塗膜の表面における各部位が前記通過用孔内においていずれかの当該吹き出し口の下方を少なくとも1回通過するように配列されている配向装置。
【請求項2】
前記支持体の走行路に沿って前記空芯コイル部が2つ配設されると共に当該各空芯コイル部毎に前記吹き出し部が配設され、
前記走行路における上流側の前記空芯コイル部に対して前記2つの吹き出し部のうちの一方が当該上流側から前記通過用孔内に挿入されると共に、前記走行路における下流側の前記空芯コイル部に対して前記2つの吹き出し部のうちの他方が当該下流側から前記通過用孔内に挿入されている請求項1記載の配向装置。
【請求項3】
前記乾燥機は、前記塗膜中における前記磁性体の向きの変化を規制可能な乾燥状態に至るまで前記通過用孔内で当該塗膜を乾燥させる請求項1または2記載の配向装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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