説明

配管の熱膨張率の算出方法

【課題】蒸気配管の熱膨張率を精度良く算出する。
【解決手段】蒸気配管11、12が略直線状に延び、軸方向の移動が拘束されていない部分を測定区間として設定し、蒸気配管11、12に高温流体が流れていない状態における測定区間の長さ及び蒸気配管11、12の温度を測定し、蒸気配管11、12に高温流体が流れた状態における測定区間の長さ及び蒸気配管11、12の温度を測定し、高温流体が流れた状態及び高温流体が流れていない状態おいて、夫々測定された測定区間の長さ及び蒸気配管11、12の温度に基づき熱膨張率を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電所などの蒸気配管のような、高温流体が流れる配管の熱膨張率を算出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所の蒸気配管などの高温流体の流れる配管は、熱応力などによりクリープ損傷が生じやすい。このため、予め、配管の補修や交換を行うことができるように、数値解析を用いたシミュレーションにより配管の余寿命を評価している。
【0003】
このようなシミュレーションの手法として、本願出願人は、シェルモデルにより配管系統全体のシミュレーションを行い、さらに、シェルモデルによるシミュレーションの結果に基づき、より詳細な解析を行う箇所を選定し、選定した箇所についてソリッドモデルを用いてクリープ解析を行う方法を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2008−64572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上記のシミュレーションを行うためには、配管の熱膨張率が必要となる。このような熱膨張率は、文献等に記載された熱膨張率を用いることが多いが、配管の材料が特定され、さらに同一の材料の熱膨張率が文献に記載されているとは限らない。このような場合には、配管と類似の材料の熱膨張率を用いることが考えられるが、化学組成の違いにより、実物との間で誤差が生じてしまう。
【0005】
そこで、配管の一部を切り取って作成した試験体を用いて実験的に熱膨張率を求める方法が考えられるが、発電所の配管は実験に用いられる試験体に比べて大きく、化学組成が場所によってばらつくため、試験体を採取する部分によって、算出される熱膨張率にばらつきが生じ、配管の実際の膨張率との間に大きな差が生じることがある。
【0006】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、蒸気配管の熱膨張率を精度良く算出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の配管の熱膨張率の算出方法は、高温流体が流れる配管の熱膨張率を算出する方法であって、前記配管の略直線状に延び、軸方向の移動が拘束されていない部分を測定区間として設定する測定区間設定ステップと、前記配管に高温流体が流れていない状態における前記測定区間の長さ及び前記配管の温度を測定する低温状態測定ステップと、前記配管に高温流体が流れた状態における前記測定区間の長さ及び前記配管の温度を測定する高温状態測定ステップと、前記高温状態測定ステップ及び低温状態測定ステップにおいて、夫々測定された前記測定区間の長さ及び前記配管の温度に基づき熱膨張率を算出する熱膨張率算出ステップとを備えることを特徴とする。
【0008】
上記の配管の熱膨張率の算出方法において、前記低温状態測定ステップは、前記高温状態測定ステップの前に行ってもよい。
また、前記高温状態測定ステップでは、前記配管の温度として、前記配管の内部を流れる高温流体の温度を測定してもよく、前記低温状態測定ステップでは、前記配管の温度として、前記配管の近傍の気温を測定してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、実際にシミュレーションの対象となる配管そのものを用いて熱膨張率を算出しているため、試験体に比べて大きな部分を対象として熱膨張率を算出することができ、化学組成のばらつきの影響を受けにくい。また、実際の配管を用いているため、文献等に記載されていないような材料であっても正確な熱膨張率を算出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の配管の熱膨張率の算出方法の一実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の方法による熱膨張率の算出の対象となる発電所の蒸気配管系統10の一例を示す図である。同図に示すように、発電所の大径蒸気配管系統10は、ボイラとタービンを結ぶように設けられた主蒸気管12と高温再熱蒸気管11の他,低温再熱蒸気管とにより構成される。これら主蒸気管12と高温再熱蒸気管11は、ボイラ出口とタービン入口との間に高さ約40mの高低差があり、この部分に、夫々、配管が鉛直方向に延びる鉛直部11A,12Aを備える。発電所の運転時には、これら主蒸気管12及び高温再熱蒸気管11内には高温の蒸気が流れ、ボイラ出口やタービン入口,各支持構造物等での拘束及び管の熱膨張により熱応力が作用するため、主蒸気管12及び高温再熱蒸気管11にはクリープ損傷が発生しやすい。
【0011】
また、これら主蒸気管12及び高温再熱蒸気管11を支持するために、支持する箇所に要求される性能に合わせて、様々な種類の支持構造が用いられ、また、主蒸気管12及び高温再熱蒸気管11には様々な付属品が取り付けられている。
図2及び図3は、夫々、主蒸気管12及び高温再熱蒸気管11を支持する支持構造及び付属品の取付箇所及びその種類を示す図であり、図4は、支持構造及び付属品の種類を示す図である。主蒸気管12及び高温再熱蒸気管11の支持構造及び付属品は、その構造から図4(A)〜(F)に示す、主としてタイプI〜VIまでの6種類に分別することができる。
【0012】
図4(A)に示すタイプIは、天井などから延びる吊材21により、蒸気管11,12の外周を取り囲むように取り付けられた取付冶具22を吊持することで、蒸気管11,12を支持する構造である。同図に示すように、吊材21の上部に可動点があり、また、取付冶具22と蒸気管11、12の間に間隙があるため、蒸気管11、12は、その軸方向(同図における鉛直方向)及び左右方向に移動する可能性がある。このような支持構造20には、スプリングハンガーやコンスタントハンガーが含まれることが多い。
【0013】
図4(B)に示すタイプIIは、蒸気管11、12を、天井などから延びる一対の吊材31の間に架け渡された支持部材32の上部に載置し、抑え部材33により支持部材32に固定することにより支持する構造である。同図に示すように、吊材31の上部や、支持部材32の吊材31が接続されている箇所に可動点があるため、蒸気管11、12は、その軸方向及び左右方向に移動する可能性がある。このような支持構造30には、コンスタントハンガーが含まれることが多い。
【0014】
図4(C)に示すタイプIIIは、鉛直方向に延びる蒸気管11、12を、天井などから延びる一対の吊材41の間に架け渡された支持部材42に固定することにより支持する構造である。同図に示すように、吊材41の上部や、支持部材42の吊材41が接続されている箇所に可動点があるため、蒸気管11、12は、その軸方向(同図における鉛直方向)の移動が拘束される。このような支持構造40には、リジットハンガーが含まれる。
【0015】
図4(D)に示すタイプIVは、蒸気管11、12に付属物51が取り付けられている。かかる付属物51は、蒸気管11、12の軸方向の移動を妨げることはない。
【0016】
図4(E)に示すタイプVは、蒸気管11、12は、天井などから延び、油圧防振器62が介装された吊材61に吊持されることで支持されている。同図に示すように、吊材61の上部に可動点があり、また、取付冶具63と蒸気管11、12の間に間隙があるため、支持構造60は、蒸気管11、12の軸方向の移動を拘束することはない。
図4(F)に示すタイプVIは、蒸気管11,12は、ガイド部材71に沿って移動可能な取付冶具72の固定されている。このため、かかる支持構造70は、蒸気管11、12の軸方向の移動を拘束することはない。
【0017】
以下、かかる構成の配管における熱膨張率の算出方法を説明する。
まず、蒸気管11、12が直線状に延び、軸方向に対して支持構造による拘束力が作用しない箇所を測定区間として設定する。本実施形態では、図2及び図3に示すように、蒸気管11、12の鉛直部11A,12Aは、上部がリジットハンガー(タイプIII)により支持されており、その下部は、軸方向の移動を拘束することがないタイプIV及びタイプVの支持構造により支持されている。このため、この鉛直部11A,12Aを測定区間として設定する。
【0018】
次に、発電所の定期検査等で比較的長期間停止し,蒸気管11、12が室温まで完全に冷却された状態における測定区間の長さLを測定する。また、この時の蒸気管11、12の温度Tを測定する。なお、発電所の休止状態における蒸気管11、12の温度Tは、気温と略一致するため、配管の温度Tとして気温を用いることで、温度の測定を簡易に行うことができる。
【0019】
次に、発電所の運転を開始し、運転が安定した状態における測定区間の長さLを測定する。なお、測定区間の長さは例えば、レーザ測距計などを用いて測定すればよい。また、この時の蒸気管11、12の温度Tを測定する。蒸気管11、12は保温に覆われていることが多く,その場合,蒸気管11、12の温度Tは、管内を流れる蒸気の温度と略一致するため、蒸気の温度を用いることで、温度の測定を簡易に行うことができる。
【0020】
次に、以下の式により熱膨張率αを算出する。
α=(L−L)/(L×(T−T))
これにより、蒸気管11、12の温度Tの熱膨張率を算出することができる。
【0021】
以上説明したように、本実施形態によれば、実際の蒸気管11、12を用いて熱膨張率を算出するため、試験体を採取する方法に比べて大きな領域を対象として熱膨張率を算出することができ、蒸気管11、12を構成する材料の化学組成のばらつきの影響を受けず正確な値を算出することができる。
【0022】
また、実物の蒸気管11,12を用いて熱膨張率を算出するため、文献等に記載された類似の材料の値よりも正確な熱膨張率を算出することができる。
【0023】
このように、実物の蒸気管11、12の熱膨張率を正確に算出することができるため、算出した熱膨張率を用いることにより、より正確なシミュレーションを行うことができ、蒸気管11、12に生じる応力をより高精度に算出することができる。
【0024】
なお、本実施形態では、蒸気管11、12の熱膨張率を算出する場合について説明したが、これに限らず、稼動時に内部を高温の流体が流通する配管であれば、本発明を適用することができる。
【0025】
また、本実施形態では、低温状態(発電所の休止状態)における蒸気管11,12の温度及び長さを測定した後、高温状態(発電所の可動状態)における蒸気管11,12の温度及び長さを測定するものとしたが、これに限らず、逆の順序で行ってもよい。ただし、この場合、長時間にわたり発電所を駆動してしまうと、クリープ損傷が進行するほか、材料組成や物性値が変化する可能性があるため、高温状態における測定は、発電所の休止直前に行うのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態の方法による熱膨張率の算出の対象となる発電所の大径蒸気配管系統の一例を示す図である。
【図2】主蒸気管を支持する支持構造及び付属品の取付箇所及びその種類を示す図である。
【図3】高温再熱蒸気管を支持する支持構造及び付属品の取付箇所及びその種類を示す図である。
【図4】支持構造及び付属品の種類を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
10 蒸気配管系統
11 高温再熱蒸気管
12 主蒸気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温流体が流れる配管の熱膨張率を算出する方法であって、
前記配管の略直線状に延び、軸方向の移動が拘束されていない部分を測定区間として設定する測定区間設定ステップと、
前記配管に高温流体が流れていない状態における前記測定区間の長さ及び前記配管の温度を測定する低温状態測定ステップと、
前記配管に高温流体が流れた状態における前記測定区間の長さ及び前記配管の温度を測定する高温状態測定ステップと、
前記高温状態測定ステップ及び低温状態測定ステップにおいて、夫々測定された前記測定区間の長さ及び前記配管の温度に基づき熱膨張率を算出する熱膨張率算出ステップとを備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1記載の熱膨張率の算出方法であって、
前記低温状態測定ステップは、前記高温状態測定ステップの前に行うことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の熱膨張率の算出方法であって、
前記高温状態測定ステップでは、前記配管の温度として、前記配管の内部を流れる高温流体の温度を測定することを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1から3のうち何れか1項に記載の熱膨張率の算出方法であって、
前記低温状態測定ステップでは、前記配管の温度として、前記配管の近傍の気温を測定することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−185786(P2010−185786A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30221(P2009−30221)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(596133119)中電プラント株式会社 (101)
【Fターム(参考)】