説明

配管等支持具

【課題】形鋼のフランジ等を確実に保持し、地震等の振動によっても緩みやガタつきを生じにくく、長期にわたって安定した取付状態を保持しうる配管等支持具を提供する。
【解決手段】本発明の配管等支持具1は、一端側にフック状の掛止部22が設けられた掛止アーム2と、掛止アーム2の他端側にボルト部材41及びナット部材42からなる締付手段を介して装着される押え金具3と、掛止アーム2の延長先に設けられて配管P等を保持する適宜の保持具5とを具備する。押え金具3は、ボルト部材41の挿通位置よりも他端側に離隔した位置を掛止アーム2との当接点35となし、ボルト部材41の締結により当接点35を支点として一端側にのみ傾倒しながら、掛止アーム2との間にフランジF等の辺縁よりも内側を挟持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形鋼のフランジ又はこれに類する板状部材に沿って、各種配管や仮設部材その他の物品を取り付けるための配管等支持具に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨架構を有する建物での配管施工に際しては、形鋼からなる梁材に取り付けた配管支持具を介して配管を所定位置に保持することが多い。特許文献1、2には、形鋼のフランジに取り付けるための配管支持具が開示されている。
【0003】
特許文献1記載の配管支持具は、図6に示すように、略コ字状ないし横向きU字状に屈曲したクランプ金具91を形鋼のフランジFの片側縁部に被せ、該クランプ金具91に取り付けられた締付ネジ92を締結してフランジFの片側縁部を挟持し、該クランプ金具91に連結したアーム93の延長先に配管Pを取り付けるように構成されている。
【0004】
また、特許文献2記載の配管支持具は、図7に示すように、両端が略コ字状に屈曲した伸縮可能な掛止アーム94をH形鋼のフランジFの幅方向に配置し、両端の屈曲部95、96をフランジFの両側縁部に掛止して、一方の屈曲部96に取り付けられた締付ネジ97の締結によりフランジFの片側縁部を挟持し、該掛止アーム94に連結した吊り金具98を介して配管Pを吊持するように構成されている。
【特許文献1】特開2002−98266号公報
【特許文献2】特開2002−42255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたような、フランジの片側縁部のみに取り付けられる配管支持具は、地震等の振動を受ることによって締付ネジの緩みを生じやすく、その結果、フランジへの取付状態がガタついたり、場合によっては配管支持具がフランジから脱落したりするおそれがある。
【0006】
特許文献2記載の配管支持具は、フランジの両側縁部に掛止されるため、締付ネジが緩んだ場合でもフランジから脱落しにくいという利点がある。しかし、フランジへの取付作業に際しては、伸縮式の掛止アームを一旦、フランジ幅よりも拡げ、両端の屈曲部をフランジに掛止させた後、再度、掛止アームを適正な長さに縮めて固定する必要がある。そのため、作業性に劣り、多数の配管支持具を取り付けるには手間がかかる。また、掛止アームの伸縮・固定機構を必要とする分だけ構造が複雑になる。さらに、長期間、振動等を受けることによって該伸縮・固定機構の締付状態が緩み、掛止アームのガタつきを招くおそれもある。
【0007】
また、特許文献1記載の配管支持具のように、形鋼のフランジに直接、締付ネジを締結してフランジを挟持する機構は、締付ネジを必要以上に締め過ぎてしまいやすい。すると、配管支持具の各部がネジの締付力に耐えきれず、変形を生じて、形鋼との接触面積が小さくなるなどの不都合を生じ、その結果、やはりガタつきを招きやすくなる。
【0008】
本発明の支持具は上記のような事情に鑑みてなされたもので、形鋼のフランジを確実に保持し、かつ、地震等の振動によっても緩みやガタつきを生じにくく、長期にわたって安定した取付状態を保持することを解決課題とする。
【0009】
なお、本発明の支持具は、主として配管類を定位置に保持する目的で開発されたものであるが、保持しうる物品は配管類に限定されず、仮設部材など各種物品の保持にも幅広く利用できるものであるから、発明の名称は配管等支持具とする。また、この配管等支持具は、形鋼のフランジのみならず、類似の形状を有する他の板状部材にも取り付け得るものとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の配管等支持具は、形鋼のフランジ又はこれに類する板状部材の両側縁部に掛止されて、配管その他の物品を上記フランジ又は板状部材に沿って保持するものである。その構成は、一端側にフック状の掛止部が設けられた掛止アームと、上記掛止アームの他端側に、ボルト部材及びナット部材からなる締付手段を介して装着される押え金具と、上記掛止アームの延長先に設けられて配管その他の物品を保持する適宜の保持具とを具備し、
上記押え金具は、ボルト部材の挿通位置よりも上記他端側、つまり掛止部の反対側に離隔した位置を掛止アームとの当接点となし、締付手段の締結により上記当接点を支点として上記一端側にのみ傾倒しながら、掛止アームとの間に上記フランジ又は板状部材を挟持するように形成されたことを特徴とする。
【0011】
すなわち、この発明は、掛止アームに装着した押え金具を、掛止アームの一端側、つまり掛止部側に向かって傾倒させるように構成して、フランジ等をしっかりと挟持させるとともに、変形や振動による緩み、ガタつきを生じにくくしたものである。
【0012】
押え金具は、一対の側板部と、上記両側板部の上縁間を連結する天板部と、両側板部の上部及び天板部の延長先に形成された押圧部とを有し、側板部の下縁を突設させて掛止アームとの当接点が形成されるとともに、上記天板部にはボルト部材を挿通させうる長孔が、その長軸を側板部と平行にして形成される一方、掛止アームの両側縁部には、押え金具の装着側に突出する補剛リブが形成され、締付手段の締結により両補剛リブ間に押え金具の両側板部が挟み込まれるように形成されたものとすることができる。
【0013】
締付手段の構成としては、掛止アームに固着された固定ナットに対して締付ボルトが螺合するものでもよく、また、ガイドボルトが掛止アームに対して回転不能かつ揺動自在に装着され、このガイドボルトに締付ナットが螺合されるものでもよい。
【0014】
さらに、掛止アームにおける、押え金具の当接点が当接する位置の他端側に、押え金具が他端側に摺動するのを規制する制動手段を設けることにより、押え金具の挟持状態がさらに安定する。
【発明の効果】
【0015】
上述のように構成される本発明の配管等支持具は、押え金具が、形鋼のフランジ又はこれに類する板状部材の辺縁よりも内側に向かって傾倒しながら、該フランジ等の辺縁よりも内側の位置を確実に挟圧するので、該フランジ等に対して強固に固定される。これにより、地震等の振動によっても緩みやガタつきを生じにくく、長期にわたって安定した取付状態が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0017】
図1〜図4は本発明の第一実施例に係る配管等支持具1を示す。例示した配管等支持具1は、図1に示すように、H形鋼の下側に位置するフランジFの幅方向に取り付けられて、フランジFの側方に張り出し、配管PをフランジFの側縁部に沿って保持するものである。
【0018】
配管等支持具1の本体部分を構成する掛止アーム2は、図2に示すように、剛性を高めるための補剛リブ21が両側縁部に立ち上げられた細長い溝形部材である。掛止アーム2の一端側にはフック状の掛止部22が設けられている。掛止部22は、掛止アーム2から立ち上げられた脚部22aと、脚部22aの上端から掛止アーム2の上方に折り返された折曲部22bとを有し、折曲部22bと補剛リブ21との間隔がフランジFの厚みよりもやや大きくなるように形成されて、図1に示したように、フランジFの一方の側縁部に掛止される。
【0019】
掛止アーム2の他端側には、掛止部22と対向するようにして押え金具3が装着される。押え金具3は、押え金具3に挿通される締付ボルト41と、掛止アーム2の下面側に溶接された固定ナット42とからなる締付手段を介して掛止アーム2に装着され、掛止アーム2との間にフランジFの他方の側縁部を挟持する。
【0020】
掛止アーム2を上記他端側に延長した先には配管用の保持具5が設けられている。保持具5は、短円筒状の部材を半割りにして蝶番連結したクランプ状の部材であり、蝶ボルト51の締結によって配管Pを把持し、フランジFに沿って保持する。ただし、本発明は、例示のような円筒状の配管Pだけでなく、配管以外の仮設部材や各種物品等も保持対象とする。したがって、保持具5の形態や構造は、本発明においては特に限定せず、当該部材・物品の形状に応じた適宜の保持機構を利用できるものとする。また、該保持具5は、例示形態とは反対側、つまり掛止アーム2の一端側の延長先に設けることもできる。
【0021】
本発明の要部は押え金具3の締結作用にあり、以下、これについて詳述する。図2に示すように、押え金具3は、相対する一対の側板部31と、それら両側板部31の上縁間を連結する天板部32とからなる逆溝形断面をなしている。側板部31の上部及び天板部32を上記掛止部22側に延長した先には押圧部33が形成されており、押圧部33も逆溝形断面形状をなしている。押え金具3の天板部32には、側板部31と平行に延びる長孔34が形成されている。この長孔34に上側から締付ボルト41が挿通され、締付ボルト41の脚部が掛止アーム2に溶接された固定ナット42に螺合される。締付ボルト41の頭部と押え金具3との間には平座金43及びバネ座金44が介装される。
【0022】
押え金具3の側板部31は、上記他端側、つまり押圧部33とは反対側の下縁が下向きに突設した形状をなしており、この突設部分が掛止アーム2との当接点35となる。図1及び図4に示すように、この当接点35は、締付ボルト41の軸心よりも他端側(図示右側)にずれた位置に形成されている。そのため、この当接点35を掛止アーム2に当接させた状態で締付ボルト41を締結すると、押え金具3は当接点35を支点として、上記一端側(図示左側)にのみ傾倒しながら、その先端に形成された押圧部33と掛止アーム2との間にフランジFを挟持する。したがって、締付ボルト41の位置がフランジFより外側にあっても、押圧部33は、フランジFの辺縁より内側に入った位置を挟圧することができる。なお、例示形態では、当接点35と掛止アーム2との接触状態を安定させるために、当接点35の角部にラジアス加工が施されている。
【0023】
通常、形鋼材の表面には防錆塗装が施されるので、その辺縁にはしばしば塗装バリが残り、各種部材の取付に支障をきたすことがある。しかし、本発明の配管等支持具1は、上述のように、押え金具3の押圧部33がフランジFの辺縁でなく、辺縁よりも内側寄りを挟圧するように構成されているので、取付状態を安定させやすい。また、形鋼材に限らず、木材その他の板状部材においても、辺縁の直近部分は内側部分よりも一般に圧縮強度が劣り、挟圧によって変形を生じやすいが、辺縁よりも内側寄りを挟圧することにより、かかる不都合を回避することができるので有利である。
【0024】
さらに、本発明の配管等支持具1は、上述のように締付ボルト41の位置をフランジFの外側に配置することができるので、掛止アーム2の一端側に設ける掛止部22と締付ボルト41との間隔をフランジFの幅よりも広くとることができる。このことは、フランジFへの取付作業の効率化に大いに寄与する。すなわち、図3に示すように、締付ボルト41を緩めた状態で、フランジFの一方の側縁部に掛止部22を掛止し、押え金具3を補剛リブ21よりも高い位置まで持ち上げて回転させることにより、フランジFの他方の側縁部にも押え金具3を容易に掛止することができる。押え金具3の向きを掛止部22と対向させて締付ボルト41を締結すれば、掛止アーム2の両側縁部に形成された補剛リブ21の間に押え金具3が挟み込まれて回転できなくなり、ガタつきも防止される。このような構成を採用すれば、特許文献2に記載された配管支持具(図7)のように、取付に際していちいち掛止アーム94を伸縮させ、さらに固定するための機構は不要になるから、構造を簡素化できるとともに、ボルト・ナット類の締付作業も一ヶ所で済む。
【0025】
図4は、押え金具3の摺動を一定の位置で規制する制動手段を示す。締付ボルト41の締結によって図示左側に傾倒する押え金具3は、座金43と天板部32との間に作用する反力によってフランジFから逃げる方向、つまり図示右側にずれようとする。そこで、例示の形態では、側板部31の突設部分(当接点35)が、掛止アーム2に取り付けた配管用保持具5の一端に突き当たり、これによって押え金具3の移動が所定の位置で止まるように構成している。かかる制動手段を設けることにより、押え金具3によるフランジFの挟持状態がさらに安定する。
【実施例2】
【0026】
図5は本発明の第二実施例にかかる押え金具3の締付手段を示す。例示の配管等支持具1において、掛止アーム2及び押え金具3の構成は上記第一実施例と同じである。
【0027】
例示形態にかかる締付手段は、ガイドボルト45と、ガイドボルト45に螺合される締付ナット46によって構成される。ガイドボルト45は、掛止アーム2に形成された遊孔23と、押え金具3の長孔34に挿通されている。ガイドボルト45の下端近傍には、抜け止め及び回り止め用のピン47が図示前後方向に突設されており、このピン47が、掛止アーム2の下面に設けられたストッパ48に係合している。これにより、ガイドボルト45の軸回りの回転が規制されるとともに、ガイドボルト45の上部が図示の矢印方向に揺動し得るように保持される。このようにして取り付けられたガイドボルト45に押え金具3を装着し、上側から締付ナット46を締結すれば、押え金具3がいかなる角度に傾倒しても、その天板部32に対して常に直交方向の締結力を作用させることができる。これにより、フランジFの挟圧状態はより安定する。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の配管等支持具は、形鋼のフランジのほか、適宜の幅を有する板状部材の両側縁に掛止させて、該板状部材の近傍に配管その他、適宜の部材や物品を保持する用途に幅広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第一実施例に係る配管等支持具の取付状態を示す断面図である。
【図2】上記配管等支持具の分解斜視図である。
【図3】上記配管等支持具のフランジへの取付方法を示す説明図である。
【図4】押え金具の傾倒状態を拡大して示す説明図である。
【図5】本発明の第二実施例に係る配管等支持具の締付手段を示す部分断面図である。
【図6】特許文献1に記載された従来の配管支持具の側面図である。
【図7】特許文献2に記載された従来の配管支持具の側面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 配管等支持具
2 掛止アーム
21 補剛リブ
22 掛止部
3 押え金具
31 側板部
32 天板部
33 押圧部
34 長孔
35 当接点
41 締付ボルト(ボルト部材)
42 固定ナット(ナット部材)
45 ガイドボルト(ボルト部材)
46 締付ナット(ナット部材)
5 保持具
F フランジ
P 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
形鋼のフランジ又はこれに類する板状部材の両側縁部に掛止されて、配管その他の物品を上記フランジ又は板状部材に沿って保持する配管等支持具であって、
一端側にフック状の掛止部が設けられた掛止アームと、
上記掛止アームの他端側に、ボルト部材及びナット部材からなる締付手段を介して装着される押え金具と、
上記掛止アームの延長先に設けられて配管その他の物品を保持する適宜の保持具とを具備し、
上記押え金具は、ボルト部材の挿通位置よりも上記他端側に離隔した位置を掛止アームとの当接点となし、締付手段の締結により上記当接点を支点として上記一端側にのみ傾倒しながら、掛止アームとの間に上記フランジ又は板状部材を挟持するように形成されたことを特徴とする配管等支持具。
【請求項2】
押え金具は、一対の側板部と、上記両側板部の上縁間を連結する天板部と、両側板部の上部及び天板部の延長先に形成された押圧部とを有し、側板部の下縁を突設させて掛止アームとの当接点が形成されるとともに、上記天板部にはボルト部材を挿通させうる長孔が、その長軸を側板部と平行にして形成される一方、
掛止アームの両側縁部には、押え金具の装着側に突出する補剛リブが形成され、締付手段の締結により両補剛リブ間に押え金具の両側板部が挟み込まれるように形成されたことを特徴とする請求項1に記載の配管等支持具。
【請求項3】
締付手段は、掛止アームに固着された固定ナットに対して締付ボルトが螺合するように形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の配管等支持具。
【請求項4】
締付手段は、ガイドボルトが掛止アームに対して回転不能かつ揺動自在に装着され、このガイドボルトに締付ナットが螺合されるように形成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の配管等支持具。
【請求項5】
掛止アームにおける、押え金具の当接点が当接する位置の他端側には、押え金具が他端側に摺動するのを規制する制動手段が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の配管等支持具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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