説明

配線接続器具用金属材

【課題】 グローの発生及び亜酸化銅の増殖を防止でき、発熱を抑制することを可能とし、配線接続器具に最適な金属材を提供する。
【解決手段】 平均粗さRaが0.3μm以下で、かつ、最大粗さRtが2.0μm以下である配線接続器具用金属材。平均粗さRaと最大粗さRtの比Rt/Raが10以下である配線接続器具用金属材。前記配線接続器具用金属材は強度と導電性に優れる金属、ステンレスやNi合金、銅合金、引張強度が500MPa以上、導電率が30%IACS以上が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線接続器具の金属部材の少なくとも一方が銅合金材である配線接続器具用金属材に関するものであり、特にグローの発生及び亜酸化銅の増殖を防止できる配線接続器具用金属材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
配線接続器具は電気器具のコンセントや照明のスイッチなど電気的な接続部に広く用いられている。前記接続部には金属が一般的に用いられており、金属同士が接触することで電気的な接続を行う。前記接触部では従来から発熱が問題となっている。これは接触部に微小放電(グロー)が発生し、これが起因となって亜酸化銅の増殖が誘発され接触抵抗が増加し、発熱することが知見されている。
【0003】
合金成分を見直すことでグロー及び亜酸化銅の増殖の起きにくい配線接続器具用銅合金が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−255944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、合金成分を検討しても、グローの発生及び亜酸化銅の増殖による発熱を防止することはできなかった。本発明の目的は、グローの発生及び亜酸化銅の増殖を防止でき、電気器具のコンセントや照明のスイッチなどの配線接続器具に適した金属材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは配線接続器具の接触部について詳細な検討を行い、材料表面の荒さ(粗度)とグロー発生とに関連があることを見出し、この知見に基づき更に検討を重ねて、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、
(1)金属部材同士の配線接続における前記金属部材の少なくとも一方が銅ないしは銅合金材である配線接続器具用金属材であって、前記金属部材の少なくとも一方の接続部表面の平均粗さRaが0.3μm以下、最大粗さRtが2.0μm以下である、耐グロー特性に優れることを特徴とする配線接続器具用金属材、及び
(2)平均粗さRaと最大粗さRtの比Rt/Raが10以下であることを特徴とする耐グロー特性に優れた(1)記載の配線接続器具用金属材
を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の配線接続器具用金属材は、平均粗さRa及び最大粗さRtを限定し、さらに平均粗さRaと最大粗さRtの比を限定することで、グローの発生及び亜酸化銅の増殖を防止でき、発熱を抑制することを可能とし、配線接続器具に最適な金属材である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の好ましい実施の態様について、詳細に説明する。なお、本発明において、粗さの定義はJIS B 0601:2001に従う。すなわち、本発明において平均粗さRaは、前記JIS B 0601:2001の算術平均粗さのことを指し、同様に、本発明において最大粗さRtは、前記JIS B 0601:2001の粗さ曲線の最大断面高さのことを指す。
【0009】
本発明において、金属部材同士の配線接続における前記金属部材の少なくとも一方が銅ないしは銅合金材である。
本発明において、前記金属部材の少なくとも一方の接続部(接点)表面の平均粗さRaは0.3μm以下でかつ最大粗さRtが2μm以下であり、いずれの金属部材もが平均粗さRaは0.3μm以下でかつ最大粗さRtが2μm以下であることが好ましい。
本発明において、前記平均粗さRaは0.3μm以下でかつ最大粗さRtが2μm以下である金属部材が、銅ないしは銅合金材である場合と、銅ないしは銅合金材ではない金属材(例えば、Ni合金材)の場合とが挙げられる。
前記平均粗さRaは0.3μm以下でかつ最大粗さRtが2μm以下であるのは、グロー発生が著しく低減できるからである。
粗度とは材料表面の凹凸を示す指針の一つであるが、その凹凸の先端に印加された電圧が集中して、グロー放電を起こすと考えられる。
本発明において平均粗さRaが0.3μmを超えるとグロー放電が発生しやすくなってしまう。好ましくは0.2μm以下である。
また、最大粗さRaが2μmを超えると同様にグロー放電が発生しやすくなってしまう。好ましくは1μm以下である。
なお、平均粗さRa及び最大粗さRtは小さいほど好ましい。
【0010】
本発明において、最大粗さRtと平均粗さRaとの比Rt/Raが10以下であることが好ましい。
最大粗さRtと平均粗さRaとの比Rt/Raが10以下とするのは、グロー発生をより低減できるからである。Rt/Raが10を超えると、局所的に凹凸が大きい部位が存在することになり、その部位でグロー放電が起こりやすくなると考えられる。
本発明において好ましくはRt/Raが5以下である。なお、前記Rt/Raは小さいほど好ましい。
【0011】
本発明の配線接続器具用金属は接点における接触圧力と電気伝導性が求められるため、一般的に強度と導電性に優れる金属が用いられている。その中でも、ステンレスやNi合金、銅合金は強度及び導電性に優れており、好ましい。より好ましくは、引張強度が500MPa以上、導電率が30%IACS以上である。
【0012】
前記のより好ましい例として、
(1)Snを0.1〜10mass%、Pを0.001〜0.5mass%、残部が銅と不可避不純物からなる銅合金、
(2)Crを0.1〜1.0mass%、Sn又はZnの少なくとも一種の元素を0.05〜5mass%、残部が銅と不可避不純物からなる銅合金、
(3)Niを1.0〜5.0mass%、Siを0.3〜1.3mass%、Mg、Sn、Znの少なくとも一種の元素を合計で0.05〜5.0mass%、残部が銅と不可避不純物からなる銅合金、又は
(4)Feを0.5〜3.0mass%、Pを0.1〜1.0mass%、残部が銅と不可避不純物からなる銅合金が挙げられる。
【0013】
本発明の配線接続器具用金属材は、一般的な製造方法により、鋳造、熱間圧延、冷間圧延、熱処理等と繰り返して製造される。また、平均粗さRa、最大粗さRtを制御する方法として、酸・アルカリ等により表面を洗浄処理する方法、また冷間圧延工程におけるロール粗度を変えることで行う。
【実施例】
【0014】
以下に本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0015】
市販されている銅合金および非鉄材料からなる板厚0.15〜0.25mmの板材を入手し、引張強度、硬度、導電率を調査した。引張強度はJIS−5号試験片を圧延平行方向から切り出し、JIS Z 2241に準じて測定した。硬度は材料表面から、JIS Z 2244に準じて荷重100g重で測定した。導電率は幅10mm×長さ150mmの試験片を圧延平行方向から切り出し、JIS H 3200に準じて端子間距離100mmで測定した。結果を表1、表2に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
前記板材の表面を圧延方向と同方向(圧延と平行な方向)に種々の番手のエメリー紙(表面にSiCの砥粒が付着した研磨紙)を用いて研磨を行い、表面粗度の異なる材料を作成した。すなわち、板材は平滑な定盤上に固定しておき、#230のエメリー紙から順番に番手を上げて#4000までの8段階のエメリー紙により30回研磨し、次いで表面を洗浄した。前記研磨により、表層の亜酸化銅を除去したものと判断し、後述の評価を行った。
【0019】
表面粗度の測定はJIS H 3406に準じて測定した。触針の走査は材料の圧延方向あるいはエメリー紙で研磨した方向と垂直方向に4mm行い、その測定を3回繰り返して平均値を求めた。
【0020】
これらの板材について、耐グロー特性及び亜酸化銅増殖特性を評価した。
図1に本発明の耐グロー特性及び亜酸化銅増殖特性の測定装置の模式図を示す。
耐グロー特性は以下の様に評価した。すなわち、直径2mmの銅線2を荷重付加器付ホルダー1に取付け、本発明例及び比較例の試料3を試料ホルダー4の上に配置し、銅線2と接触させ、スライダック8と可変抵抗器6を用いて上記銅線2及び試料3の間に流れる電流を4Aにする。次いで試料ホルダー4を振動器5により振動させ、前記銅線2と試料3の間の電圧波形をオシロスコープ7により観察した。前記銅線2と試料3の間にグロー(微小放電)が発生すると、オシロスコープ7の波形が変化するため、この波形変化が発生するまでに付加した振動数を耐グロー特性とした。
【0021】
次に、亜酸化銅増殖特性を以下のように評価した。前記グロー発生が確認されると同時に振動器5による振動を停止し、試料3を60分放置した。次いで、試料3を取り出し、前記試料3の表面に生成した亜酸化銅を集め、重量を測定した。この重量を亜酸化銅増殖量として表3乃至7に示した。結果を表3乃至7に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
【表4】

【0024】
【表5】

【0025】
【表6】

【0026】
【表7】

【0027】
表3乃至7から明らかなように、比較例のNo.85乃至120はRaあるいはRtが大きいので耐グロー特性に劣り、かつ亜酸化銅増殖量も多かった。
これに対し、No.1乃至84に示す本発明の板材は耐グロー特性に優れ、かつ亜酸化銅増殖量も少なく、優れていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の耐グロー特性及び亜酸化銅増殖特性の測定装置の模式図である。
【符号の説明】
【0029】
1 荷重付加器付ホルダー
2 銅線
3 試料
4 試料ホルダー
5 振動器
6 可変抵抗器
7 オシロスコープ
8 スライダック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材同士の配線接続における前記金属部材の少なくとも一方が銅ないしは銅合金材である配線接続器具用金属材であって、前記金属部材の少なくとも一方の接続部表面の平均粗さRaが0.3μm以下、最大粗さRtが2.0μm以下である、耐グロー特性に優れることを特徴とする配線接続器具用金属材。
【請求項2】
平均粗さRaと最大粗さRtの比Rt/Raが10以下であることを特徴とする耐グロー特性に優れた請求項1に記載の配線接続器具用金属材。

【図1】
image rotate