説明

配線用遮断器の無停電試験装置

【課題】配線用遮断器を主回路に接続したまま配線用遮断器の過電流遮断機能試験を実施することができる無停電試験装置を提供する。
【解決手段】無停電試験装置10は、配線用遮断器に直流試験電流を供給するかつ主回路から絶縁された低電圧大電流絶縁式電源13と、低電圧大電流絶縁式電源13の出力側に低電圧大電流絶縁式電源13と並列に設けられた低インピーダンス素子を備えたかつ直流試験電流によって配線用遮断器の主回路接点が遮断されると低インピーダンス素子に直流試験電流が流れることによって低インピーダンス素子の両端に発生する電圧を検出する電圧検出部15と、電圧検出部15によって検出された電圧の電圧値が設定電圧値以上であると低電圧大電流絶縁式電源13を配線用遮断器から電気的に切り離す切離し手段として機能する第1乃至第3の開閉器141a,141b,142,143および制御部16とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線用遮断器の無停電試験装置に関し、特に、配線用遮断器を主回路に接続したまま配線用遮断器の過電流遮断機能試験を実施するのに好適な無停電試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
配線用遮断器(モールド・ケース・サーキット・ブレーカ(MCCB:Molded Case Circuit Breaker)やノー・ヒューズ・ブレーカ(NFB:No-Fuse Breaker)など)の過電流遮断機能試験は、配線用遮断器が備える過電流検出部に大電流を流さなければならないので、配線用遮断器を主回路(電路)から切り離して専用の試験装置に接続して実施している(調査した範囲でも、配線用遮断器を主回路から切り離し単体で過電流遮断機能試験を実施するための試験装置しかなく、配線用遮断器を主回路に接続した状態で過電流遮断機能試験を実施できる試験装置はなかった。)。
【0003】
また、配線用遮断器の過電流遮断機能試験を実施するために配線用遮断器を取り外すときや元に戻すときに主回路全体を停電する必要があるので、過電流遮断機能試験は実施しないこともある。そのため、配線用遮断器の二次側回路(負荷装置や電線)で短絡事故が発生した場合に、配線用遮断器の動作特性変化(劣化)により主回路を遮断(開放)するのに時間を要し、保護されるべき負荷装置や電線が損傷を受けたり焼損したりして火災に進展する可能性が大きく、実際に配線用遮断器の不動作により電線が焼損した例もある。
【0004】
なお、下記の特許文献1には、コンピュータ構成の試験本体装置に、入力部の試験条件および記憶部に保持された試験プログラムに基づいて試験対象の遮断器の試験制御を実行し、計測結果を処理して遮断器を診断する試験処理部と、この処理部の試験制御に従って遮断器の給電駆動および計測を実行し、計測結果を試験処理部に供給する遮断器制御計測部とを備えることにより、試験を自動化して作業性の向上等を図れるようにした、受電設備などで使用されている遮断器の電気的な試験を行う遮断器試験装置が開示されている。
【特許文献1】特開平7−140214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように配線用遮断器を主回路から切り離して単体で過電流遮断機能試験を実施するための試験装置しかない理由としては、主回路に接続された配線用遮断器の過電流検出部に試験電流を流すと配線用遮断器が試験電流で遮断した際に配電盤内の電気部品に試験電流が流れることによるトラブル発生や、配電盤内の電源(主回路が充電状態)から試験装置に電流が流れて試験装置が損傷または破壊されることが考えられる。
【0006】
以下に、主回路が充電状態で配線用遮断器の過電流検出部に試験電流を流した際に発生するトラブルについて、主回路が直流回路である場合を例として説明する。なお、試験電流を供給する試験装置は主回路と電気的に絶縁されているとして説明する。
(1)試験装置が損傷するトラブル
図10に、DC110Vの電源線1から分岐された正極側電線2Pおよび負極側電線2N(主回路)に設置された配線用遮断器3(正極側電線2Pおよび負極側電線2Nに正極側過電流検出部5Pおよび負極側過電流検出部5Nがそれぞれ取り付けられた2極直流式配線用遮断器)に試験線111を用いて試験装置110を接続し、試験装置110から配線用遮断器3に試験電流を通電開始した直後の状態を示す。なお、この例では、配線用遮断器3の正極側過電流検出部5Pに試験電流を流して過電流遮断機能試験を実施するために、正極側電線2Pの配線用遮断器3の一次側および二次側に試験線111を接続して試験装置110から配線用遮断器3の正極側過電流検出部5Pに試験電流を流すようにしている。
試験電流の通電開始時には配線用遮断器3の正極側接点4Pおよび負極側接点4N(主回路接点)は共に閉じているため、試験電流は図10に破線の太矢印で示すように試験装置110→試験線111→配線用遮断器3の正極側接点4P→正極側過電流検出部5P→試験線111→試験装置110の順に流れる。これにより、正極側過電流検出部5Pが動作して、配線用遮断器3が正極側接点4Pおよび負極側接点4Nを遮断する遮断動作を開始する。なお、正極側接点4Pおよび負極側接点4Nは連動して遮断される。また、試験装置110に組み込まれている定電流電源は、5Vの開放電圧で設定電流値の試験電流が流れるように電圧が自動調整されるものであり、かつ、電圧調整範囲が0〜5Vのものである。
このようにして配線用遮断器3が遮断動作を開始するが、正極側接点4Pおよび負極側接点4Nに不揃いがあって図11に示すように正極側接点4Pが先行して遮断すると正極側過電流検出部5Pに試験電流が流れなくなるため、試験装置110は定電流電源の最大出力電圧である開放電圧(5V)が出力された状態となる。また、試験装置110の定電流電源には電流が逆方向に流れ込まないように逆流防止回路(試験装置110に電流が流入しない回路)が設けられているため、電源に対して試験装置110が高インピーダンスとなって電流が流れなくなり、図11に一点鎖線の太矢印で示すように電源電圧(110V)に近い値の電圧が配電盤内の電気部品6を通じて試験装置110に印加される、その結果、試験装置110の定格電圧(5V)の20倍程度の電圧が印加されることとなるため、試験装置110の定電流電源が破壊される恐れがある。
また、正極側接点4Pおよび負極側接点4Nの不揃いは極短時間であるため、図12に示すように配線用遮断器3の負極側接点4Nが直ぐに遮断されることにより、試験装置110に印加されていた電圧は直ぐに消滅するが、図12に一点鎖線の太矢印で示すように試験装置110を通して配電盤内の電気部品6や負荷装置に対地電圧が誘起されるため、人が電気部品6や負荷装置に接触すると感電する恐れがある。
【0007】
(2)配電盤側に影響を与えるトラブル
上記(1)のトラブルを防ぐために試験装置110の定電流電源として電圧調整範囲が広い(たとえば、0〜100V)ものを使用することが考えられるが、以下に説明するように試験線111を逆に接続した場合に電気部品6や負荷装置に印加される電圧は200Vとなり、電気部品6や負荷装置に電源電圧(110V)の約2倍の電圧(200V)が印加されて電気部品6や負荷装置が損傷を受けてしまう。
すなわち、試験線111を図10に示したように接続すれば、試験装置110の出力電圧以下の電圧が電気部品6や負荷装置に印加されるため、電気部品6や負荷装置は必要な耐電圧性能を有していることから問題は発生しない。
しかし、試験線111を逆に接続した場合には、図13に示すように正極側接点4Pが先行して遮断すると、電源電圧に近い値の電圧(100V)に試験装置110が開放されることにより、試験装置110は最大電圧(100V)を出力する。その結果、図13に一点鎖線の太矢印で示すように電源電圧に近い値の電圧(100V)に試験装置110の出力電圧(100V)が加算された200Vの電圧が電気部品6や負荷装置に印加されるので、電気部品6や負荷装置が損傷してしまう。
なお,試験装置110の開放電圧が5Vであれば、試験線111を逆に接続しても、電気部品6や負荷装置に印加される電圧は105V(=100V+5V)と一般的な許容範囲(±10%)以内の過電圧となるため、電気部品6や負荷装置が損傷を受けることはない。
【0008】
本発明の目的は、配線用遮断器を主回路に接続したまま配線用遮断器の過電流遮断機能試験を実施することができる無停電試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の配線用遮断器の無停電試験装置は、配線用遮断器を主回路に接続したまま該配線用遮断器の過電流遮断機能試験を実施するための無停電試験装置(10;20)であって、前記配線用遮断器に試験電流を供給する、かつ、前記主回路から絶縁された試験電流供給手段(13;23)と、該試験電流供給手段の出力側に該試験電流供給手段と並列に設けられた低インピーダンス素子を備えた、かつ、前記試験電流によって前記配線用遮断器の主回路接点(4P,4N)が遮断されると前記低インピーダンス素子に該試験電流が流れることによって該低インピーダンス素子の両端に発生する電圧を検出する電圧検出手段(15;25)と、該電圧検出手段によって検出された電圧の電圧値が設定電圧値以上であると前記試験電流供給手段を前記配線用遮断器から電気的に切り離す切離し手段とを具備することを特徴とする。
ここで、前記切離し手段が、前記試験電流供給手段の入力側に設けられた第1の開閉器(141a,141b;241a,241b)と、前記試験電流供給手段の出力側の該試験電流供給手段と前記電圧検出手段との間に設けられた第2の開閉器(142;242)と、前記試験電流供給手段の出力側の前記電圧検出手段よりも該試験電流供給手段と反対側に設けられた第3の開閉器(143;243)と、前記配線用遮断器に前記試験電流を供給する際には前記第1乃至第3の開閉器をすべて閉じるとともに、前記電圧検出手段によって検出された電圧の電圧値が前記設定電圧値以上であると前記第3の開閉器を開放したのちに前記第1の開閉器を開放する制御部(16;26)とを備えてもよい。
前記試験電流が、電圧値が前記主回路に印加される電源電圧の電圧値よりも低くかつ電流値が前記配線用遮断器の定格電流値よりも大きい直流試験電流であり、前記試験電流供給手段が、外部の試験装置電源から入力される交流電圧を前記直流試験電流に変換する低電圧大電流絶縁式電源(13)であってもよい。
前記試験電流が、電圧値が前記主回路に印加される電源電圧の電圧値よりも低くかつ電流値が前記配線用遮断器の定格電流値よりも大きい交流試験電流であり、前記試験電流供給手段が、外部の試験装置電源から入力される交流電圧を前記交流試験電流に変換する絶縁トランス(23)であってもよい。
前記低インピーダンス素子のインピーダンス値が、前記配線用遮断器の前記主回路接点の接点インピーダンス値よりも大きくてもよい。
前記試験電流の電流値を任意に設定する試験電流設定手段と、前記試験電流によって前記主回路接点が遮断されるまでの時間である前記配線用遮断器の動作時間を計測する動作時間計測手段とをさらに具備してもよい。
前記配線用遮断器の動作特性データが格納されたメモリと、前記試験電流の電流値および前記動作時間計測手段によって計測された前記配線用遮断器の動作時間に基づいて該配線用遮断器の動作特性を求め、該求めた動作特性を前記動作特性データと比較して該配線用遮断器の開閉特性の良否を判定する開閉特性良否判定手段とをさらに具備してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の配線用遮断器の無停電試験装置は、以下の効果を奏する。
(1)低インピーダンス素子を試験電流供給手段と並列に設けることにより、試験電流によって配線用遮断器の主回路接点の一方が先行して遮断されても低インピーダンス素子に主回路を流れる電流および試験電流を流すことができるので、配線用遮断器を主回路に接続したまま配線用遮断器の過電流遮断機能試験を実施することができる。
(2)電圧検出手段によって検出された電圧の電圧値が設定電圧値以上であると試験電流供給手段を配線用遮断器から電気的に切り離すことにより、配線用遮断器の主回路接点の一方が先行して遮断したのちに主回路接点の他方が遮断すると配線用遮断器の負荷側を完全に停電状態とすることができるので、人が負荷装置などに接触しても感電しないようにすることができる。
(3)試験電流の電流値を任意に設定する試験電流設定手段と配線用遮断器の動作時間を計測する動作時間計測手段とを備えることにより、試験する配線用遮断器が正常な機能を維持しているか不調となりつつあるかなどの判定をすることができる。
(4)開閉特性良否判定手段が試験電流の電流値および配線用遮断器の動作時間に基づいて配線用遮断器の動作特性を求め、求めた動作特性を配線用遮断器の動作特性データと比較することにより、配線用遮断器の開閉特性の良否を判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
上記の目的を、低インピーダンス素子を備えた電圧検出手段を試験電流供給手段と並列に設け、試験電流によって配線用遮断器の主回路接点が遮断されると低インピーダンス素子に試験電流が流れることによって低インピーダンス素子の両端に発生する電圧を電圧検出手段によって検出し、検出された電圧が設定電圧値以上であると試験電流供給手段を配線用遮断器から電気的に切り離すことにより実現した。
【実施例1】
【0012】
以下、本発明の配線用遮断器の無停電試験装置の実施例について図面を参照して説明する。
まず、本発明の第1の実施例による配線用遮断器の無停電試験装置10について、図1乃至図8を参照して説明する。
本実施例による無停電試験装置10は、主回路が直流回路である場合に使用されるものであり、図1に示すように第1および第2の交流電圧入力端子111,112と試験電流正極側出力端子12Pと試験電流負極側出力端子12Nと低電圧大電流絶縁式電源13と1対の第1の開閉器141a,141bと第2の開閉器142と第3の開閉器143と電圧検出部15と制御部16とを具備する。
【0013】
ここで、第1の交流電圧入力端子111と第2の交流電圧入力端子112との間には、不図示の試験装置電源(交流電源)から交流電圧(110V)が入力される。
【0014】
試験電流正極側出力端子12Pおよび試験電流負極側出力端子12Nには、先端にクリップが取り付けられた2本の試験線111の末端がそれぞれ接続される。
【0015】
低電圧大電流絶縁式電源13は、主回路から絶縁された試験電流供給手段として機能するものであり、外部の試験装置電源から入力される交流電圧を低電圧かつ大電流の直流試験電流(すなわち、電圧値が主回路に印加される電源電圧の電圧値よりも低くかつ電流値が配線用遮断器の定格電流値よりも大きい直流試験電流)に変換する。
【0016】
1対の第1の開閉器141a,141bは低電圧大電流絶縁式電源13の入力側に設けられている。すなわち、第1の開閉器141aは第1の交流電圧入力端子111と低電圧大電流絶縁式電源13との間に設けられており、第1の開閉器141bは第2の交流電圧入力端子112と低電圧大電流絶縁式電源13との間に設けられている。
第2および第3の開閉器142,143は、低電圧大電流絶縁式電源13と試験電流正極側出力端子12Pとの間(すなわち、低電圧大電流絶縁式電源13の出力側)にこの順番で直列に設けられている。ただし、第2の開閉器142は低電圧大電流絶縁式電源13と電圧検出部15との間に設けられており、第3の開閉器143は電圧検出部15よりも低電圧大電流絶縁式電源13と反対側に設けられている。
【0017】
電圧検出部15は、低電圧大電流絶縁式電源13の出力側に低電圧大電流絶縁式電源13と並列に設けられた低インピーダンス素子を備える。すなわち、電圧検出部15は、一端が第2の開閉器142と第3の開閉器14とを結ぶ接続線に接続されるとともに他端が低電圧大電流絶縁式電源13と試験電流負極側出力端子12Nとを結ぶ接続線に接続された低インピーダンス素子を備える。低インピーダンス素子のインピーダンス値は、配線用遮断器3の主回路接点の接点インピーダンス値(たとえば、5A定格で50mΩ程度、50A定格で2mΩ程度、100A定格で1mΩ以下。インピーダンス値の7〜8割が抵抗分)よりも大きく(好ましくは、20倍程度)されている。
電圧検出部15は、低インピーダンス素子の両端の電圧を検出し、検出した電圧を制御部16に出力する。
【0018】
制御部16は第1乃至第3の開閉器141a,141b,142,143の開閉制御を行う。たとえば、制御部16は、配線用遮断器に直流試験電流を供給する際には第1乃至第3の開閉器141a,141b,142,143のすべてを閉じる。また、制御部16は、電圧検出部15によって検出された電圧の電圧値が設定電圧値以上であると第3の開閉器14を開放したのちに第1の開閉器141a,141bを開放する(すなわち、制御部16は、第1乃至第3の開閉器141a,141b,142,143と共に、電圧検出部15によって検出された電圧の電圧値が設定電圧値以上であると低電圧大電流絶縁式電源13を配線用遮断器から電気的に切り離す切離し手段として機能する。)。
なお、設定電圧値は、配線用遮断器の主回路接点が遮断したことを確実に検出できる電圧値(たとえば、3V)に設定される。
【0019】
次に、図10に示した配線用遮断器3の過電流遮断機能試験を以下に示す条件で実施する際の無停電試験装置10の動作について、図2乃至図8を参照して説明する。
(a)配線用遮断器3の定格電流値=5A
(b)直流試験電流の電流値=10A
(c)配線用遮断器3の主回路接点の接点インピーダンス値=50mΩ
(d)電圧検出部15の低インピーダンス素子のインピーダンス値=1Ω
(e)低電圧大電流絶縁式電源13の定格電圧および定格電流=0〜5V,100A
(f)制御部16における設定電圧値=3V
【0020】
(1)無停電試験装置10の接続
作業員は過電流遮断機能試験のために配線用遮断器3を遮断してもよい状態にする。具体的には、停止できる負荷装置は可能な範囲で停止して負荷電流を最小の状態とする。
その後、作業員は、配線用遮断器3の正極側電線2Pの配線用遮断器3の一次側および二次側を2本の試験線111の先端のクリップでそれぞれ挟むことにより、2本の試験線111を正極側電線2Pに接続する。
その後、作業員は無停電試験装置10を起動させる。このとき、図2に示すように無停電試験装置10の第1乃至第3の開閉器141a,141b,142,143はすべて開放されている。
【0021】
(2)過電圧遮断機能試験前の操作
図3に示すように無停電試験装置10の制御部16によって第1の開閉器141a,141bが閉じられて(投入されて)、低電圧大電流絶縁式電源13が充電される。この状態では、第2および第3の開閉器142,143は共に開放状態であり、電圧検出部15の低インピーダンス素子の両端には電圧が印加されていないため、制御部16は「配線用遮断器3の正極側接点4Pが遮断した」と判定しない。
続いて、図3に示すように無停電試験装置10の制御部16によって第3の開閉器143が閉じられる。このときに電圧検出部15の低インピーダンス素子に流れる電流の電流値は負荷電流の電流値の50/(1000+50)倍≒0.05倍(約5%)であり、配線用遮断器3の定格電流値(5A)の電流が流れたとしても、電圧検出部15の低インピーダンス素子に流れる電流は約0.25A(=5A×0.05)と小さく、この低インピーダンス素子の両端に発生する電圧も0.25V(-=0.25A×1Ω)と設定電圧値(3V)未満となるため、制御部16は「配線用遮断器3の正極側接点4Pが遮断した」と判定しない。
【0022】
(3)過電圧遮断機能試験の開始直後
図4に示すように無停電試験装置10の制御部16によって第2の開閉器142が閉じられて、配線用遮断器3の正極側過電流検出部5Pに直流試験電流が流される。
試験回路の抵抗値は配線用遮断器3の主回路接点の接点インピーダンス値(50mΩ)と無停電試験装置10の電圧検出部15の低インピーダンス素子のインピーダンス値(1Ω)との並列抵抗値(0.0476Ω)となるため、低電圧大電流絶縁式電源13は試験回路に10Aの直流試験電流を流そうと0.476Vまで出力電圧を上げたのち、10Aの直流試験電流が流れた時点で安定する。
その結果、電圧検出部15の低インピーダンス素子の両端に発生する電圧の電圧値は0.476Vと設定電圧値(3V)未満となるため、制御部16は「配線用遮断器3の正極側接点4Pが遮断した」と判定しない。
また、図4に破線の太矢印で示すように直流試験電流は配線用遮断器3と電圧検出部15とに分流するが、配線用遮断器3の正極側過電流検出部5Pには10Aの直流試験電流の1000/(1000+50)倍である約9.5Aの電流が流れるため、配線用遮断器3の正極側過電流検出部5Pが動作して、配線用遮断器3は正極側接点4Pおよび負極側接点4Nを共に遮断する遮断動作を開始する。
なお,正極側過電流検出部5Pに正確に10Aの直流試験電流を流したい場合には、配線用遮断器3の主回路接点の接点インピーダンス値(50mΩ)を考慮した電流設定を行えばよい。ただし、定格電流値が10A以上の配線用遮断器3については、接点インピーダンス値が一般的に15mΩ以下であるため、このような電流設定はしなくてもよい(定格電流値が10A以上の配線用遮断器3であれば、誤差は約1%以下となる。)。
【0023】
(4)配線用遮断器3の不揃遮断時
配線用遮断器3の正極側接点4Pおよび負極側接点4Nに不揃いがあって図5に示すように正極側接点4Pが先行して遮断すると、直流試験電流は配線用遮断器3の正極側接点4Pには流れずに電圧検出部15の低インピーダンス素子のみに流れるため、低電圧大電流絶縁式電源13は10Aの直流試験電流を流そうと出力電圧を10Vまで上昇させようとする。しかし、出力電圧は5Vが最大であるため、低電圧大電流絶縁式電源13は5Vの出力電圧で5Aの直流試験電流を供給することとなる。
その結果、電圧検出部15の低インピーダンス素子の両端に発生する電圧の電圧値は5Vと設定電圧値(3V)以上となるため、制御部16は、「配線用遮断器3の正極側接点4Pが遮断した」と判定して、第3の開閉器14を開放したのちに第1の開閉器141a,141bを開放する。
このように配線用遮断器3の負極側接点4Nが遮断していない時点で制御部16は第3の開閉器14を開放したのちに第1の開閉器141a,141bを開放するが、配線用遮断器3の機械的なラッチが外れており、また、時間を置くことなく負極側接点4Nが遮断されるため、特に問題は生じることはない。
また、配電盤に停止できない電気部品6があったとしても、電気部品6のインピーダンス値に比較して電圧検出部15の低インピーダンス素子(1Ω)のインピーダンス値は極めて小さいため、図5に破線の太矢印で示すように電源線1からの電流および低電圧大電流絶縁式電源13からの直流試験電流はこの低インピーダンス素子を通して流れるので、電気部品6の誤動作などの不具合が生じることはない。
【0024】
(5)配線用遮断器3の遮断時
図6に示すように配線用遮断器3の正極側接点4Pおよび負極側接点4Nの不揃い時間は極短時間であるために負極側接点4Nは直ぐに遮断されるとともに第3の開閉器14が制御部16によって開放されるために配電盤の電源側(充電している部分)から試験回路が切り離されるので、配線用遮断器3の負荷側が停電する。これにより、人が電気回路6や負荷装置に触れても感電する恐れがなくなる。
第3の開閉器14が開放されても図6に破線の太矢印で示すように低電圧大電流絶縁式電源13からの直流試験電流は電圧検出部15の低インピーダンス素子を通して流れるが、その後に図7に示すように第1の開閉器141a,141bが制御部16によって開放されるため、低電圧大電流絶縁式電源13が不動作となり、試験電流は流れなくなる。
(6)配線用遮断器3の遮断後
その後、図7に示すように第2の開閉器142が制御部16によって開放されることにより、無停電試験装置10は過電圧遮断機能試験前の状態となる(図2参照)。
このように、第3の開閉器14は大電流の直流試験電流を遮断することがなく、また、第1の開閉器141a,141bも小電流を遮断するため、第1乃至第3の開閉器141a,141b,142,143として容量の大きな開閉器を使用する必要はない。
【0025】
(7)負極側接点4N(残り回路)の過電圧遮断機能試験
以上のようにして配線用遮断器3の正極側過電流検出部5Pに直流試験電流を流した過電流遮断機能試験が終了すると、配線用遮断器3の負極側過電流検出部5Nに直流試験電流を流して過電流遮断機能試験を実施するために、作業員は、図8に示すように無停電試験装置10の第1乃至第3の開閉器141a,141b,142,143がすべて開放された状態で配線用遮断器3の負極側電線2Nの配線用遮断器3の一次側および二次側を2本の試験線111の先端のクリップでそれぞれ挟むことにより、2本の試験線111を負極側電線2Nに接続する。
その後、作業員が無停電試験装置10を起動させることにより、上記(2)から(5)で説明した手順で過電流遮断機能試験が実施される。
【実施例2】
【0026】
次に、本発明の第2の実施例による無停電試験装置20について、図9を参照して説明する。
本実施例による無停電試験装置20は、主回路が交流回路である場合に使用されるものであり、図2に示すように低電圧大電流絶縁式電源13の代わりに絶縁トランス23を具備する点で、図1に示した第1の実施例による無停電試験装置10と異なる。
【0027】
ここで、絶縁トランス23は、主回路から絶縁された試験電流供給手段として機能するものであり、外部の試験装置電源から1次側に入力される交流電圧(110V)を低電圧かつ大電流の交流試験電流(すなわち、電圧値が主回路に印加される電源電圧の電圧値よりも低くかつ電流値が配線用遮断器の定格電流値よりも大きい交流試験電流)に変換して2次側から出力するものである。交流試験電流は、第1および第2の試験電流出力端子221,222から配線用遮断器に出力される。
【0028】
なお、絶縁トランス23は低電圧大電流絶縁式電源13のように電流一定制御機能を有しないが、被試験回路は電圧検出部25の低インピーダンス素子およびインピーダンス値が極めて小さい交流式配線用遮断器などの主回路接点の接点インピーダンスであるため、第1の実施例による無停電試験装置10と同様の動作を実現できる。
【0029】
このように、定電流電源装置(低電圧大電流絶縁式電源13)で直流試験電流を供給する直流式配線用遮断器用の無停電試験装置10と異なり、無停電試験装置20は絶縁トランス23で交流試験電流を供給する構成となるが、無停電試験装置10に低電圧大電流絶縁式電源13から出力される直流試験電流の波形を断続波とする手段を設けることにより、無停電試験装置10を用いて交流式配線用遮断器などの過電流遮断機能試験を実施することもできる。また、交流式配線用遮断器などの過電流検出方式がバイメタルなどの熱によるものであれば、図1に示した無停電試験装置10をそのまま用いて交流式配線用遮断器などの過電流遮断機能試験を実施することができる場合もある。
【0030】
三相式配線用遮断器の場合には、その構造によっては相ごとに過電流遮断機能試験を実施する必要がある。
【0031】
以上では、本発明の配電線用遮断器の無停電試験装置を電気事業に利用する場合について説明したが、配線用遮断器は一般産業界、一般家庭および船舶などあらゆる箇所に使用されているため、本発明の配電線用遮断器の無停電試験装置の利用範囲は電気事業のみに限定されない。また、本発明の配電線用遮断器の無停電試験装置を実用化することにより、配線用遮断器の誤不動作よる設備損傷や火災の防止に大きく寄与するものと考えられる。
(2)無停電試験装置の規模
大容量の配線用遮断器を対象とした無停電試験装置は大掛かりなものとなるが、一般的に使用されている50Aクラスを対象としたものであれば比較的小規模で低価格のものが実現できると考えられる。
また,配線用遮断器の特性確認機能を備えた無停電試験装置とする場合には、ある程度の精度や動作時間測定機能が必要となるため、少し高額な装置となることが考えられる。しかし、配線用遮断器の動作確認機能のみを備えた装置であれば、簡単な構成で安価な装置とできる(配線用遮断器不動作時に焼損や火災に進展することから、一般的には配線用遮断器の動作確認機能を備えていればニーズを十分満足するものと考える。)。
(3)配線用遮断器の開閉特性の把握
配線用遮断器は、定格電流(動作電流)に対して通電する電流の電流値の倍数により動作する時間の基準がある。このため、たとえば図1に示した制御部16または図9に示した制御部26に試験電流の電流値を任意に設定する試験電流設定機能(試験電流設定手段)と配線用遮断器の動作時間(試験電流によって配線用遮断器の主回路接点が遮断されるまでの時間)を計測する動作時間計測機能(動作時間計測手段)とを備えることにより、試験する配線用遮断器が正常な機能を維持しているか不調となりつつあるかなどの判定をすることができる。
また,配線用遮断器の動作特性データが格納されたメモリと、試験電流の電流値および動作時間計測手段によって計測された配線用遮断器の動作時間に基づいて配線用遮断器の動作特性を求め、求めた動作特性を動作特性データと比較して配線用遮断器の開閉特性の良否を判定する開閉特性良否判定手段とを無停電試験装置10,20に設けておけば、無停電試験装置10,20に配線用遮断器の開閉特性の良否を自動で判定させることもできる。
(4)適用可能回路
配線用遮断器には直流式、交流式、単相式、単相三線式および三相式などがあるが、過電流検出部ごとに試験電流を流すことができるため、特殊な配線用遮断器を除いて一般用の配線用遮断器(一般用の配線用遮断器の過電流遮断方法はバイメタルなどの金属に流れる電流による熱で金属が歪曲する力を利用したりコイル状の電路に電流が流れることで発生する電磁力を利用したりして遮断するものが殆どであり、主回路に印加されている回路電圧を利用していないため、一般用の配線用遮断器は過電流検出部に流れる電流のみで動作する。)すべてについて過電流遮断機能試験を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施例による無停電試験装置10の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示した無停電試験装置10の動作について説明するための図であり、無停電試験装置10の接続について説明するための図である。
【図3】図1に示した無停電試験装置10の動作について説明するための図であり、過電圧遮断機能試験前の操作について説明するための図である。
【図4】図1に示した無停電試験装置10の動作について説明するための図であり、過電圧遮断機能試験の開始直後の動作について説明するための図である。
【図5】図1に示した無停電試験装置10の動作について説明するための図であり、配線用遮断器3の不揃遮断時の動作について説明するための図である。
【図6】図1に示した無停電試験装置10の動作について説明するための図であり、配線用遮断器3の遮断時の動作について説明するための図である。
【図7】図1に示した無停電試験装置10の動作について説明するための図であり、配線用遮断器3の遮断後の動作について説明するための図である。
【図8】図1に示した無停電試験装置10の動作について説明するための図であり、負極側接点4N(残り回路)の過電圧遮断機能試験時の動作について説明するための図である。
【図9】本発明の第2の実施例による無停電試験装置20の構成を示すブロック図である。
【図10】主回路が充電状態で配線用遮断器の過電流検出部に試験電流を通電した際に発生するトラブルについて説明するための図であり、試験電流の通電開始直後の状態を示す図である。
【図11】主回路が充電状態で配線用遮断器の過電流検出部に試験電流を通電した際に発生するトラブルについて説明するための図であり、正極側接点4Pが先行遮断したときの状態を示す図である。
【図12】電路が充電状態で配線用遮断器の過電流検出部に試験電流を通電した際に発生するトラブルについて説明するための図であり、正極側接点4Pおよび負極側接点4Nが共に遮断したときの状態を示す図である。
【図13】主回路が充電状態で配線用遮断器の過電流検出部に試験電流を通電した際に発生するトラブルについて説明するための図であり、試験装置110の試験線111を逆に接続した場合に正極側接点4Pが先行遮断したときの状態を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 電源線
P,2N 正極側および負極側電線
3 配線用遮断器
P,4N 正極側および負極側接点
P,5N 正極側および負極側過電流検出部
6 電気部品
10,20 無停電試験装置
111,112,211,212 第1および第2の交流電圧入力端子
12P 試験電流正極側出力端子
12N 試験電流負極側出力端子
13 低電圧大電流絶縁式電源
141a,141b,142,143,241a,241b,242,243 第1乃至第3の開閉器
15,25 電圧検出部
16,26 制御部
221,222 第1および第2の試験電流出力端子
23 絶縁トランス
110 試験装置
111 試験線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配線用遮断器を主回路に接続したまま該配線用遮断器の過電流遮断機能試験を実施するための無停電試験装置(10;20)であって、
前記配線用遮断器に試験電流を供給する、かつ、前記主回路から絶縁された試験電流供給手段(13;23)と、
該試験電流供給手段の出力側に該試験電流供給手段と並列に設けられた低インピーダンス素子を備えた、かつ、前記試験電流によって前記配線用遮断器の主回路接点(4P,4N)が遮断されると前記低インピーダンス素子に該試験電流が流れることによって該低インピーダンス素子の両端に発生する電圧を検出する電圧検出手段(15;25)と、
該電圧検出手段によって検出された電圧の電圧値が設定電圧値以上であると前記試験電流供給手段を前記配線用遮断器から電気的に切り離す切離し手段と、
を具備することを特徴とする、配線用遮断器の無停電試験装置。
【請求項2】
前記切離し手段が、
前記試験電流供給手段の入力側に設けられた第1の開閉器(141a,141b;241a,241b)と、
前記試験電流供給手段の出力側の該試験電流供給手段と前記電圧検出手段との間に設けられた第2の開閉器(142;242)と、
前記試験電流供給手段の出力側の前記電圧検出手段よりも該試験電流供給手段と反対側に設けられた第3の開閉器(143;243)と、
前記配線用遮断器に前記試験電流を供給する際には前記第1乃至第3の開閉器をすべて閉じるとともに、前記電圧検出手段によって検出された電圧の電圧値が前記設定電圧値以上であると前記第3の開閉器を開放したのちに前記第1の開閉器を開放する制御部(16;26)と、
を備えることを特徴とする、請求項1記載の配線用遮断器の無停電試験装置。
【請求項3】
前記試験電流が、電圧値が前記主回路に印加される電源電圧の電圧値よりも低くかつ電流値が前記配線用遮断器の定格電流値よりも大きい直流試験電流であり、
前記試験電流供給手段が、外部の試験装置電源から入力される交流電圧を前記直流試験電流に変換する低電圧大電流絶縁式電源(13)である、
ことを特徴とする、請求項1または2記載の配線用遮断器の無停電試験装置。
【請求項4】
前記試験電流が、電圧値が前記主回路に印加される電源電圧の電圧値よりも低くかつ電流値が前記配線用遮断器の定格電流値よりも大きい交流試験電流であり、
前記試験電流供給手段が、外部の試験装置電源から入力される交流電圧を前記交流試験電流に変換する絶縁トランス(23)である、
ことを特徴とする、請求項1または2記載の配線用遮断器の無停電試験装置。
【請求項5】
前記低インピーダンス素子のインピーダンス値が、前記配線用遮断器の前記主回路接点の接点インピーダンス値よりも大きいことを特徴とする、請求項1乃至4いずれかに記載の配線用遮断器の無停電試験装置。
【請求項6】
前記試験電流の電流値を任意に設定する試験電流設定手段と、
前記試験電流によって前記主回路接点が遮断されるまでの時間である前記配線用遮断器の動作時間を計測する動作時間計測手段と、
をさらに具備することを特徴とする、請求項1乃至5いずれかに記載の配線用遮断器の無停電試験装置。
【請求項7】
前記配線用遮断器の動作特性データが格納されたメモリと、
前記試験電流の電流値および前記動作時間計測手段によって計測された前記配線用遮断器の動作時間に基づいて該配線用遮断器の動作特性を求め、該求めた動作特性を前記動作特性データと比較して該配線用遮断器の開閉特性の良否を判定する開閉特性良否判定手段と、
をさらに具備することを特徴とする、請求項1乃至5いずれかに記載の配線用遮断器の無停電試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−49988(P2010−49988A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−214356(P2008−214356)
【出願日】平成20年8月22日(2008.8.22)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】