説明

酒類熟成器

【課題】 酒類の品質を損なわずに短時間で熟成させることができる酒類熟成器を提供すること。
【解決手段】 容器1内に収容された酒類2を収納するケース9と該ケース9内に保持され該容器1内に収納された該酒類2に磁場を印加する磁場発生機構4及び5とを有する酒類熟成器において、前記磁場発生機構4及び5は前記酒類2を収納する前記容器1が位置する該ケース9内で該容器1を中心として該容器1の外周側に同軸的に相対向して位置する一対のコイル部4a、5aと、該一対のコイル部の該容器に対向する側とは反対側の端部同士を連結し、該容器の外周面に沿って延びるヨーク6とを有する酒類熟成器を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酒類熟成器に関し、特に飲酒前の酒類をまろやかにすることができる熟成器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、容器内の酒類に部弱な超音波振動を印加しうる酒類等の熟成促進装置が提案されている。具体的には、超音波振動子を酒の中に没入して超音波を発生させたり、酒容器の底に超音波振動子を貼り付けて容器内に超音波振動を印加する。
【特許文献1】特公平3−69277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、超音波振動子は酒の中に没入することは、衛生上又は感味上好ましくない。なぜなら、超音波振動子はセラミックス製の振動子上に金属をコーティングして作製されるので、この金属が、酒中に析出、剥離又は溶解するおそれがあるからである。
【0004】
また、酒容器の底に超音波振動子を貼り付けて容器内の酒に超音波振動を負荷する装置においては、酒全体に十分に振動が伝播されず熟成に長時間を要したり、装置全体が振動してしまうようなおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、酒類の品質を損なわずに短時間で熟成させることができる酒類熟成器を提供することである。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明は、容器内に収容された酒類を収納するケースと該ケース内に保持され該容器内に収納された該酒類に磁場を印加する磁場発生機構とを有する酒類熟成器において、
前記磁場発生機構は前記酒類を収納する前記容器が位置する該ケース内で該容器を中心として該容器の外周側に同軸的に相対向して位置する一対のコイル部と、前記一対のコイル部の前記容器に対向する側とは反対側の端部同士を連結するヨークとを有することを特徴とする酒類熟成器を提供する。
【0007】
本発明によれば、磁場発生機構によって酒類に対して磁場が印加されることにより、酒類の香気成分(例えば、低沸点のノルマルプロピルアルコールや高沸点のパルミチン酸エチルなど)の化学変化が引き起こされ熟成効果を得ることが出来る。また、清酒を始めとして発酵生産物である酒類は、アルコールのみならず様々な物質を含んでおり、中には電解質も少量存在する。本発明の酒類熟成器によれば、酒類中の電解質に磁場が作用することによる効果も考えられる。
【0008】
また本発明では磁場発生機構を、一対のコイル部端面同士が酒類に対向するように配し、該一対のコイル部の容器とは反対側の端部同士をヨークが連結するような構造とする。コイル部は、鉄芯とそれを取り囲む用に配置されたコイルとからなる。具体的には、ヨークの両端部が、一対のコイル部の容器とは反対側の端部にそれぞれ接続され、該ヨークが、容器の外周に沿って配置されて連結されているものを例示することが出来る。
【0009】
ヨークは、発生した磁力線の磁路となる。ヨークの両端に各コイル部が存在し、各コイル部とヨークの端は、酒類に対向するように配されているので、コイル部で発生した磁束は、酒類を通って反対側のヨークに向けて一方向に流れるようになる。
【0010】
酒類に対向するコイル部端面間距離がヨーク間に比べて短くなるので、コイル部及びヨークからの酒類を通り抜けない漏れ磁束を低減でき、投入電流に対する発生磁場効率を上げることが出来る。酒類に印加される磁束密度を得るために、より小さな電流ですむため、電源容量を小さく出来、電源の小型化、軽量化が図れる。
【0011】
本発明の酒類熟成器は、容器内に収容された酒類を収納するケースと、該ケース内に保持され該容器内に収納された該酒類に磁場を印加する磁場発生機構とを有する。
【0012】
前記磁場発生機構は、該容器の外周側に同軸的に相対向して位置する一対の鉄芯とコイルからなるコイル部と、該一対のコイル部の該容器に対向する側とは反対側の端部同士を連結し、該容器の外周面に沿って延びるヨークとを有する。
【0013】
本発明の酒類熟成器において、前記容器は、酒類販売時に使用されている市販の容器である。なお場合によって、酒類を移し変えた銚子などを容器として用いてもよい。
【0014】
前記ケースは、内部に前記容器と、前記磁場発生機構及び前記ヨークを収容し、尚かつ前記磁場発生機構が発生する磁場を外部に対して遮断するものである。
【0015】
前記コイル部に電流を流すことにより、磁場が発生する。コイル部の端は該容器の外周側に同軸的に相対向して位置するため、コイル部と同軸的に磁束が容器内の酒類に印加される。またヨークは、発生した磁力線の磁路となる。ヨークは該容器の外周面に沿って延び、コイル部同士をつないだ機構となっている。そのため、コイル部端部やヨーク等からの磁束の漏れが低減でき、投入電流に対する高い発生磁場効率を持つことが出来る。
【0016】
本発明の酒類熟成器において、一対の前記コイル部は互いに水平方向に対向しており、前記ヨークは前記ケースに収納された前記容器の底部の外周面に沿って延びていてもよい。
【0017】
また本発明の酒類熟成器において、一対の前記コイル部は互いに水平方向に対向しており、前記ヨークは水平面内で前記ケースに収納された前記容器の外周面に沿って延びていてもよい。前記ヨークは、容器形状に合わせ、容器の底部、外周面のどちらに沿って延びていても良い。
【0018】
さらにまた本発明の酒類熟成器において、前記ヨークは前記コイル部に連結する一対の端部より二股に分かれて水平面内で前記ケースに収納された前記容器を囲むように該容器の外周面に沿って延びていてもよい。
【0019】
また本発明の酒類熟成器において、前記磁場発生機構が発生する磁場は交流磁場である。好ましい交流磁場の周波数範囲は、1Hz程度の低周波から数10Hz程度が好ましく、また印加する磁束密度はコイル部間中心部で、30〜100ガウス程度が好ましい。場合によっては、永久磁石などを用いて、直流磁場単独でまたは交流磁場と併せて用いてもよい。
【0020】
また本発明の酒類熟成器において、前記ケースには該ケースに収納された前記容器を冷却する温調装置を有してもよい。温調装置は、コイル部通電時に発生する熱による酒類の変質防止のためにケース内の冷却用に用いる。
【0021】
またさらに温調装置を有する本発明の酒類熟成器において、前記磁場発生機構と、前記温調装置とへの電流供給が同時に行われないようにしてもよい。電流供給が同時に行われないことにより、酒類熟成器全体のピーク電流値を低減できる。またピーク電流値を低減できることにより、消費電力を低減でき、低コスト化が図れる。
【0022】
電源は、本発明の酒類熟成器本体内に有しても良いし、外部電源でも良い。また、電源スイッチ類を熟成器本体に組み込み一体化させても良いし、個別に分けてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図面により本発明の一実施例を説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施例に係る酒類熟成器の構造を説明するための内部正面図である。また図2は、図1に示した酒類熟成器の内部側面図である。また図3は、図1に示した酒類熟成器の内部上面図である。
【0025】
図1、図2及び図3を参照すると、本発明の一実施例に係る酒類熟成器は、樽形状のケース9と、ケース9内に収容された、酒類2を収容した容器1と、磁場発生機構4及び5と、ヨーク6と、温調装置7及び制御装置10とを有する。
【0026】
ケース9は、底91と蓋92と側面93とを有する樽形状のケースである。ケース9は、内部の底方向に底に水平な円盤状の台8が設けられている。台8の中央上には、垂直方向に延びる円筒状の筒状ガイド3が設けられている。酒類2を収容する瓶形状の容器1は、筒状ガイド3にそってケース9内に設置されている。
【0027】
容器1内に収容された酒類2に対して、容器1を対向に挟む位置に水平に同軸上に相対して磁場発生機構4及び5が配置されている。ヨーク6は、一方の磁場発生機構4及び5から延伸して台8の底部を通って相対する磁場発生機構4及び5をつないで配置されている。上記台8上には、筒状ガイド3の外側に制御装置10が設置されている。
【0028】
温調装置7は、ケース9の側面に、内側から外側へ貫通するように取り付けられている。
【0029】
磁場発生機構4及び5は、ヨーク6の各端部に連結されているコイル部4a、5aと、一対のコイル部4a、5aの端部を連結するヨーク6とを含む。コイル部は、コイルと鉄芯とを含む。
【0030】
温調装置7は、ペルチェ素子を含む。温調装置7へは、直流電流を印加させる。ペルチェ素子は、直流電流を流すことにより、素子両面に温度差が生じ、熱を設定された方向に流す機能を持つ。
【0031】
磁場発生機構4及び5、及び温調装置7への通電は、制御装置10によって制御される。
【0032】
次に以上に説明した本発明の動作について説明する。
【0033】
図1、図2及び図3を参照すると、酒類を飲酒する前、例えば数時間前に、ケース9内に台8上の筒状ガイド3に沿って容器1を入れ、温調装置7により温度制御しながら、コイル部4a及び5aに通電する。各コイルには同時に電流を、各コイルの容器1に対面する側が同極にならないように流す。ただし、磁場強度を下げて使う場合は、前記コイルを同極にすることも可能である。ここでコイル部4a及び5aに対する電流の印加は、温調装置への電流の印加と重ならないようにし、同時に印加しない。コイル部4a、5a、及び温調装置7への通電は、制御装置10によって制御される。
【0034】
図4に前述の一実施例において使用することが出来る電気回路の一例を示す。コイル制御回路11と、温調装置制御回路12とは、総合制御回路13によって電流の印加が重ならないように制御される。交流電流は、AC/DCコンバーター14によって、直流電流に変換される。変換された直流電流の内コイルに流れる電流は、コイル制御回路が、Hブリッジ回路15を制御することによって、コイルの電流方向を交互に反転させ、交流の矩形波形とされてコイルに供給される。変換された直流電流のうち温調装置のペルチェ素子に供給される電流は、温調装置制御回路12がスイッチング素子16を制御することにより、供給される。
【0035】
図5に電流の流れるパターンを説明した説明図を示す。上段に従来例の電流の流れるパターンを示し、下段に本発明の電流の流れるパターンを示す。温調装置にはペルチェ電流を用いた場合を示す。
【0036】
上段に示す従来例では、コイルへの電流は、通常の交流電流が流れており、温調装置への電流は通常の直流電流が流れている。コイルへの電流と温調装置への電流のピーク値が重なる時、装置全体の電流ピークは、コイル電流のピーク値と温調装置への電流のピーク値との和となる。
【0037】
下段に示す本発明の例では、コイルへの電流は、交流電流を直流電流に変換され、またHブリッジ回路によって、流れる方向を交互に反対方向になるように設定して、交流の矩形波形となっている。温調装置への電流は、スイッチング素子によってON、OFFされる。なおかつコイルへの電流と温調装置への電流は同時に印加されないように、ON、OFF制御されるため、装置全体の電流ピークは、コイル又は温調装置どちらか大きい方のピーク値と同じとなる。
【0038】
従来例と本発明例の電流パターンでの消費電力を比較すると、従来例でのピーク電流値が100Wだったのに対し、本発明例では、50Wとなり、50%の低減ができた。
【0039】
上記構成の酒類熟成器を用いて、容器1に入れた焼酎に、交流磁場を周波数4Hz、容器1中心の磁束密度40ガウスとなるように設定し、約一時間印加した。上記のように磁場印加した焼酎を用いて官能試験と、その成分の分析を行った。被験者16名(男性13名、女性3名)中8割が、旨味が増した、香りが強くなった、アルコールのピリピリ感が減った、等全体的にマイルドになったと感じた。また、成分を分析した結果、低沸点香気成分のノルマルプロピルアルコール、イソアミルアルコールなどが減少、高沸点香気成分のパルミチン酸エチル、リノール酸エチルなどが増加する現象が認められた。以上のことから、磁場を印加することで、焼酎の香味に関与する成分の濃度が変化し、それにより官能的にも変化が感じられ、マイルド感が得られたものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施例に係る酒類熟成器の構造を説明するための内部正面図である。
【図2】図1に示した酒類熟成器の内部側面図である。
【図3】図1に示した酒類熟成器の内部上面図である。
【図4】本発明の一実施例において使用することが出来る電気回路の一例を示す回路構成図である。
【図5】従来例と本発明例の電流印加パターンを比較した説明図である。
【符号の説明】
【0041】
1、容器、2、酒類、3、筒状ガイド、4、5、磁場発生機構、6、ヨーク、
7、温調装置、8、台、9、ケース、91、ケース底、92、ケース蓋、
93、ケース側面、10、制御装置、
11、コイル制御回路、12、温調装置制御回路、13、総合制御回路
14、AC/DCコンバーター、15、Hブリッジ回路、16、スイッチング素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に収容された酒類を収納するケースと該ケース内に保持され該容器内に収納された該酒類に磁場を印加する磁場発生機構とを有する酒類熟成器において、
前記磁場発生機構は前記酒類を収納する前記容器が位置する該ケース内で該容器を中心として該容器の外周側に同軸的に相対向して位置する一対のコイル部と、前記一対のコイル部の前記容器に対向する側とは反対側の端部同士を連結するヨークとを有することを特徴とする酒類熟成器。
【請求項2】
一対の前記コイル部は互いに水平方向に対向しており、前記ヨークは前記ケースに収納された前記容器の底部の外周面に沿って延びている請求項1記載の酒類熟成器。
【請求項3】
一対の前記コイル部は互いに水平方向に対向しており、前記ヨークは水平面内で前記ケースに収納された前記容器の外周面に沿って延びている請求項1記載の酒類熟成器。
【請求項4】
前記ヨークは前記コイル部に連結する一対の端部より二股に分かれて水平面内で前記ケースに収納された前記容器を囲むように該容器の外周面に沿って延びている請求項3記載の酒類熟成器。
【請求項5】
前記磁場発生機構が発生する磁場は交流磁場である請求項1記載の酒類熟成器。
【請求項6】
前記ケースには該ケースに収納された前記容器を冷却する温調装置を有する請求項1記載の酒類熟成器。
【請求項7】
前記磁場発生機構と、前記温調装置とへの電流供給が同時に行われないようにすることを特徴とする請求項6記載の酒類熟成器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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