説明

酢からにおいを除去する方法

本発明は、酢から臭いを除去する方法であって:a)該酢のpHを塩基により少なくとも6へ増大させること;b)該pHを、少なくとも15分間、40〜90℃で維持すること;c)もし工程b)の該酢の該pHが8以上であるならば、酸を添加して、6〜8のpHを有する酢をえること、を含む上記方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢からにおいを除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酢は、酢酸を含む酸の混合物である。酢の頻発する問題は、その接着剤/溶剤様のにおいであり、これはエチルアセテートの存在に起因し、これは酢に天然に存在する不純物である。エチルアセテートは、酢酸及びエタノールのエステル化により形成され、これらは両方とも発酵プロセスから得られる酢に存在する。
【0003】
酢からのエチルアセテートの除去のための種々の方法が提案されてきた。特開平7−075543号公報において、40〜70℃の温度を有する未加工の酢が、揮発性物質を除去する為に、60〜160mmHgの気圧に減少されたガス相との接触にもたらされた。
【0004】
特開平3−123480号公報において、穀類、果実及び/又は糖類に由来する酢が、非イオン性多孔質合成吸着剤との接触にもたらされ、それにより、該酢中に存在する悪臭物質を吸着し及び除去する。この方法は、エチルアセテートの除去が主として意図されていないが、イソ吉草酸及びフェニル酢酸の除去が意図されている。
【0005】
特開昭60−137281号公報において、悪臭及び悪い味を有する酢が、悪臭の除去を引き起こすのに十分な圧力に加圧された蒸気により吹き込まれた。
【0006】
米国特許第4765997号明細書において、半透性外部膜とその間に封された非常に浸透性の物質とを含む脱水性シートを用いることにより、酢のにおいを制御する方法が開示された。これは、酢に含まれる、該望ましくないにおい放出性物質を吸収し及び除去する為に、該酢のなかに沈められる。
【0007】
M.L.Morales及びA.M.Troncosoは、Food Sci.Techn.Int.,9(6),397(2003)において、分析目的の為の予備処理工程として、酢の中和の効果を取り扱う研究を記載する。該酢は、酸化マグネシウム及び/又は水酸化ナトリウムにより、室温で、pH6まで中和され、その後、酢酸が添加されて本来のpH値(これは約pH2〜3である)に戻された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらの方法が、悪臭産物を十分に除去しないことが発見された。これらの方法は、該臭の除去において効果的であると思われうるが、しばらくの間置いた後に、該悪い臭いが再発することが発見された。
【0009】
それ故に、本発明の目的は、酢から悪臭産物を恒久的に除去する方法であり、且つ該処理された酢は、長期間の後にも悪臭が無いままである。後者は重要である。なぜならば、酢は、肉を処理する為に又はドレッシングを作る為に販売され、そして該酢はその使用に先立ち数ヶ月間、たなに置かれうるからである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
酢からにおいを除去し且つ味を維持するそのような改善された方法が、今発見され、そして、該方法は、
a)塩基により、該酢のpHを少なくとも6に増大させること;
b)40〜90℃で少なくとも15分間、該pHを維持すること;
c)もし工程b)の該酢の該pHが8以上(8又はそれより高い)ならば、酸を添加して6〜8のpHを有する酢を得ること
を含む。
【0011】
工程a)において、該pHは、塩基により増大させられる。原則として、任意の塩基が用いられうるが、アルカリ金属塩基が好ましく、特には水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムが好ましい。塩基の混合物も用いられうる。該pHは、少なくとも6に増大させられるが、反応速度を増大させる為に、少なくとも8、好ましくは少なくとも9.5のpHが好ましい。典型的には、約10のpHが、非常に適当であり且つ効果的であると分かった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
該方法への重要な追加的貢献は、工程b)の間又は後の、該揮発性成分の少なくとも一部の蒸発でありうる。これらの成分は、エチルアセテートでありうるが、なおその上に、他の揮発性悪臭産物、例えばイソ吉草酸及びフェニル酢酸など、が除去される。該蒸発は必須ではないが、該方法をさらに改善することができる。蒸発はすでに室温で起こっているが、これは比較的長い処理時間を必要とする。もしより迅速な方法が好まれるならば、該酢は好ましくは40〜90℃に、より好ましくは50〜80℃に加熱される。これは、(もしかすると水との共沸混合物としての)エチルアセテートが蒸発する為に十分高く、且つ該酢の劣化を防ぐのに十分低い。代わりに、蒸発が減圧下で実施されて、該方法をスピードアップする。典型的には、60℃で約1時間の置き時間(a standing time)が、エチルアセテートを完全に除去するのに十分である。より高い温度が用いられるときに特に、15分までのより短い時間も可能である。より低い温度を用いるとき、通常、より長い時間が要求される。40℃では、2時間の置き時間が、該臭いを完全に除去する為に通常は十分である。一般的に、24時間より長い置き時間を適用することは必要ないが、より長い置き時間は該方法を害しない。もし適用されるならば、該蒸発処理は、該酢の攪拌及び/又は該揮発性産物の蒸留により支援されうる。アルカリ化及び蒸発を含むこれらの工程が、エチルアセテート及び微量のエタノール(このうちの後者は、酢酸とのエチルアセテートの形成をもたらしうるだろう)を恒久的に除去するのに十分であることが分かった。該悪臭化合物を除去する為のこれらの工程の後に、もし該酢が8より高いpHを有するならば、該酢は、酸を添加することにより酸性又は中性のpHへ再度至らされる。一般に、この工程は、もし上げられた温度が該置き及び/又は蒸発の間に用いられたならば、ほぼ室温への該酢の冷却後に実施される。酸、例えばリンゴ酸、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、酒石酸及び乳酸など、が添加されうる。ヒドロキシ酸を添加することが好ましく、そして乳酸、クエン酸、又はそれらの混合物が、最大の好ましさを有する。該pHは、pH8より下に、典型的には約pH6〜8にもたらされて、いわゆる中和された酢(これは食肉産業において抗微生物剤として用いられる)を得る。本発明の方法は、悪臭成分の恒久的除去に加えて、良好な酢の味が維持されるという利点を有する。
【0013】
他の好ましい実施態様において、本方法は、乳酸イオン(lactate ion)を添加することを含む。これは、工程a)の前に又は間に行われうる。この添加は、工程a)の後にも行われうるが、その場合、該乳酸イオンは、悪臭の除去に寄与しない。該乳酸イオンは、乳酸ナトリウム、乳酸アンモニウム若しくは乳酸カリウムとして、又はそれらの混合物として添加されうる。最も好ましくは、乳酸カリウムもしくは乳酸ナトリウム、又はそれらの混合物が添加される。所望の値に該pHをもっていくために特に、それに加えて水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムが該酢に添加されるとき、それはさらに利点となりうる。
【0014】
他の実施態様において、上記方法は、上記方法は、従来技術のいずれか1つ、例えば空気若しくは蒸気により該酢を浄化すること、又は吸着剤若しくは膜により該酢を処理することなど、と組合されうる。この発明の方法は、安定である酢を提供し、これはエチルアセテートが、棚に置く間に中立条件(the neutral conditions)下で、もはや形成されないことを意味する。
【0015】
本発明は、以下の非限定的な実施例によりさらに説明される。
【0016】
例1(従来技術に従う)
【0017】
市販入手可能な普通の酢に基づく試料及び、エチルアセテートが製造者により除去された市販入手可能な酢(風味のない酢として市販される)に基づく試料が評価された。乳酸カリウムの混合物と市販入手可能な酢とを含む試料の組成が表1に与えられる。該試料は以下のとおりに調製された:
ビーカーグラスが、室温で乳酸カリウム(PURASAL(商標)HiPure P Plus、Puracから)により満たされ、そして、攪拌下で、該酢及び脱塩水が添加された。水酸化カリウム溶液が、攪拌下で添加され、そしてpHが室温で直接に測定された。該pHはその後、16.7gの該試料をとること及び脱塩水を添加して100グラムにし、そして室温で測定することにより、10%水溶液について決定された。該試料は、ガラスビン中に保蔵され、そして冷蔵庫内で0〜5℃で維持された。
【0018】
【表1】

【0019】
試料は、室温でのにおい評価の為に無希釈で用いられた。試料は、6の訓練されたパネリスト鑑定士により、においについて判断された。その結果が表2に与えられる。
【0020】
【表2】

【0021】
本発明の方法を受けていない普通の酢に基づく化合物及び市販される風味のない酢に基づく混合物は、ほとんど同じ臭いプロファイル(溶剤、接着剤、酢)を有する。
【0022】
例2
【0023】
本発明に従う試料及び比較試料が評価された。酢及び乳酸カリウムの混合物を含む試料の組成が表3に与えられる。
【0024】
本発明に従う試料IIIは、以下のとおりに調製された:ビーカーグラスが、68gの乳酸カリウム(PURASAL(商標)HiPure P Plus、Puracから)により室温で満たされ、そして、攪拌下で、11gの酢(White distilled 300 grain;Fleischmannから)及び12mlの脱塩水が添加された。6gの50%水酸化カリウム水性溶液が、9.5のpH(直接に測定された)が達せられるまで、攪拌下で添加された。該溶液は60℃に加熱され、そして、攪拌しながら、この温度で1時間、維持された。該溶液は室温へと冷却された。乳酸(PURAC FCC 80、Puracから)が、6.7のpHが達せられるまで、添加された。該試料は、ガラスビン中に保蔵され、そして、冷蔵庫内で0〜5℃で維持された。
【0025】
試料IVは乳酸カリウム及び普通の酢の混合物であり、これは以下のとおりに調製された:
ビーカーグラスが室温で72gの乳酸カリウム(PURASAL(商標)HiPure P Plus、Puracから)により満たされ、そして攪拌下で、11gの酢(White distilled;Fleischmannから)及び13mlの脱塩水が添加された。3gの50%水酸化カリウム水性溶液が攪拌下で添加され、そして、pHが、室温で直接に測定され、そして6.7であると分かった。pHは、その後、16.7gの試料をとること及び脱塩水を添加して100グラムにすること、及び室温で測定することにより、10%水溶液について決定された。試料はガラスビン中に保蔵され、そして、冷蔵庫内で0〜5℃で維持された。
【0026】
【表3】

【0027】
本発明に従う試料IIIは、感覚のパネリストによって、試料IVの溶剤/接着剤様のにおいを有すると、発見されなかった。分析はさらに、ほとんど全てのエチルアセテート及びエタノールが、市販入手可能な酢を含み且つ本発明の方法に従い処理されなかった試料IVと対照的に、試料IIIから除去されることを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢から臭いを除去する方法であって、
a)該酢のpHを塩基により少なくとも6へ増大させること;
b)該pHを、少なくとも15分間、40〜90℃で維持すること;
c)もし工程b)の該酢のpHが8以上であるならば、酸を添加して、6〜8のpHを有する酢を得ること、
を含む上記方法。
【請求項2】
揮発性成分の少なくとも一部が、工程b)の間に又は後に蒸発させられる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)において、該pHが少なくとも8へ、より好ましくは少なくとも9.5へ増大させられる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程b)において、該酢が、少なくとも30分間、好ましくは少なくとも60分間、該pHで維持される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程b)において、温度が50〜80℃で維持される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程a)において、該pHが、水酸化カリウム及び/又は水酸化ナトリウムを用いて増大させられる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程c)において、ヒドロキシ酸が、該pHを6〜8に調節する為に添加される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
該ヒドロキシ酸が乳酸、クエン酸、又はそれらの混合物である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
該酢が、工程a)において又は工程a)の前に、乳酸イオンと混合される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
該酢が、乳酸カリウム及び/又は乳酸ナトリウムと混合される、請求項9に記載の方法。

【公表番号】特表2010−528640(P2010−528640A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510805(P2010−510805)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際出願番号】PCT/EP2008/057006
【国際公開番号】WO2008/148848
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(306003419)ピュラック バイオケム ビー.ブイ. (40)
【Fターム(参考)】