説明

酢酸の製造方法

【課題】触媒および促進剤の損失を防止または阻止するイリジウム触媒促進カルボニル化方法を得る。
【解決手段】メタノールおよび/またはその反応性誘導体を、イリジウムカルボニル化触媒と沃化メチル助触媒と有限濃度の水と酢酸と酢酸メチルとルテニウム、オスミウムおよびレニウムから選択される少なくとも1種の促進剤とアルカリ金属沃化物、アルカリ土類金属沃化物、I−を発生しうる金属錯体、I−を発生しうる塩類およびその2種もしくはそれ以上の混合物よりなる群から選択される安定化用化合物とからなる液体反応組成物を内蔵したカルボニル化反応器にて一酸化炭素でカルボニル化することによる酢酸の製造方法において、促進剤とイリジウムとのモル比が2:1より大であると共に安定化用化合物とイリジウムとのモル比が[0より大〜5]:1の範囲であることを特徴とする酢酸の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酢酸の製造方法、特にイリジウム触媒と沃化メチル助触媒と促進剤との存在下におけるカルボニル化による酢酸の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イリジウム触媒とルテニウムのような促進剤との存在下におけるメタノールのカルボニル化による酢酸の製造は、たとえば欧州特許出願公開第0752406号明細書(特許文献1)、欧州特許出願公開第0849248号明細書(特許文献2)、欧州特許出願公開第0849249号明細書(特許文献3)および欧州特許出願公開第1002785号明細書(特許文献4)に記載されている。
【0003】
国際出願公開第95/31426号パンフレット(特許文献5)は、一酸化炭素と(n)個の炭素原子を有する少なくとも1種のアルコールとの、イリジウムの化合物およびハロゲン助触媒に基づく触媒系の存在下における液相反応による、(n+1)個の炭素原子を有するカルボン酸もしくはそのエステルの製造方法を開示している。この方法は、反応媒体中に水を0より大〜10%、典型的には0.5〜8%、好ましくは2〜8%の容積に維持し;カルボン酸およびアルコールに対応するエステルを2〜40%の間で変化する容積に維持し;更に沃化物とイリジウムとの原子比が0より大〜10、典型的には0より大〜3、好ましくは0より大〜1.5となるような性質の可溶性型に沃化物を維持することを特徴とする。反応媒体におけるハロゲン助触媒の容積は0より大〜10%、典型的には0.5〜8%、好ましくは1〜6%である。適する沃化物はアルカリ土類金属沃化物およびアルカリ金属沃化物、並びに特に沃化リチウムを包含する。国際出願公開第95/31426号パンフレットの方法は非促進型である。
【0004】
欧州特許出願公開第0643034号明細書(特許文献6)は、酢酸とイリジウム触媒と沃化メチルと少なくとも有限濃度の水と酢酸メチルとルテニウムおよびオスミウムから選択される促進剤との存在下におけるメタノールおよび/またはその反応性誘導体のカルボニル化方法を記載している。欧州特許出願公開第0643034号明細書において、たとえば(a)腐食金属、特にニッケル、鉄およびクロム、並びに(b)現場で四級化しうるホスフィンもしくは窒素含有化合物またはリガンドのようなイオン性汚染物は、これらが液体反応組成物中にI−(これは反応速度に悪影響を及ぼす)を発生することにより反応に悪影響を有するので、液体反応組成物中に最少量に保つべきであると言われる。同様に、たとえばアルカリ金属沃化物(たとえば沃化リチウム)のような汚染物も最少量に保つべきであると言われる。
【0005】
カルボン酸イリジウムの製造および特にカルボニル化反応におけるその使用に向けられる国際出願公開第96/237757号パンフレット(特許文献7)には、促進剤の使用は言及されておらず、国際出願公開第95/31426号パンフレットとは異なりアルカリイオンもしくはアルカリ土類イオンは、その存在がカルボン酸イリジウムを触媒として使用するその後の反応の速度論および選択性に有害な影響を有するので、好ましくは排除されると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0752406号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0849248号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0849249号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1002785号明細書
【特許文献5】国際出願公開第95/31426号パンフレット
【特許文献6】欧州特許出願公開第0643034号明細書
【特許文献7】国際出願公開第96/237757号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
或る種の操作条件下に、触媒系(イリジウムおよびルテニウム促進剤)は沈殿しうることが観察されている。触媒および促進剤の損失が減少するよう確保する効果的方法は、工程流からの触媒系の沈殿を防止または少なくとも軽減させる安定化用化合物を添加することである。これは酢酸生成物回収流にて特に重要である。何故なら、反応後の或る時点で一酸化炭素圧力のレベルが減少し、従って溶液から或る種の触媒系が沈殿するという可能性が増大するからである。
【0008】
触媒系の沈殿は、比較的高濃度の促進剤(たとえば少なくとも2:1のRuとIrとのモル比)を用いて方法を操作すれば、触媒系の沈殿が生ずることも観察されている。同様に、沈殿はたとえばオスミウムもしくはレニウムを含有するような他の促進剤物質についても問題となる。
【0009】
従って、触媒および促進剤の損失を防止または阻止する改良されたイリジウム触媒促進カルボニル化方法につきニーズがまだ存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、低濃度の或る種の選択された沃化物を使用することにより上記技術問題を解決する。これら沃化物はたとえばルテニウム含有錯体のような不溶性または微溶性触媒系物質の発生を減少させる。選択される低濃度の沃化物の使用も、カルボニル化速度にて顕著な減少を生ずることなく、触媒系の安定性を向上させうるという追加利点を与える。更にも安定化用化合物の使用は減少レベルの一酸化炭素の、特に第2反応帯域および/または酢酸生成物回収セクションにおける使用を可能にし、従って経済的利点を達成すること可能にする。
【0011】
有利には、低濃度の選択された沃化物を使用して形成された後の触媒系沈殿物のレベルを減少させ、すなわち形成沈殿物の再可溶化を支援することができる。
【0012】
従って本発明は、メタノールおよび/またはその反応性誘導体をイリジウムカルボニル化触媒と沃化メチル助触媒と有限濃度の水と酢酸と酢酸メチルとルテニウム、オスミウムおよびレニウムから選択される少なくとも1種の促進剤とアルカリ金属沃化物、アルカリ土類金属沃化物、I−を発生しうる金属錯体、I−を発生しうる塩類およびその2種もしくはそれ以上の混合物よりなる群から選択される安定化用化合物とからなる液体反応組成物を内蔵したカルボニル化反応帯域にて一酸化炭素でカルボニル化することによる酢酸の製造方法を提供し、促進剤とイリジウムとのモル比が2:1より大であると共に安定化用化合物とイリジウムとのモル比が[0より大〜5]:1の範囲であることを特徴とする。
【0013】
更に本発明は、イリジウムカルボニル化触媒と沃化メチル助触媒と有限濃度の水と酢酸と酢酸メチルとルテニウム、オスミウムおよびレニウムから選択される少なくとも1種の促進剤とからなる液体反応組成物を内蔵したカルボニル化反応帯域にてメタノールおよび/またはその反応性誘導体を一酸化炭素でカルボニル化することによる酢酸の製造方法における、一酸化炭素の減少レベル下での触媒および/または促進剤を安定化させるアルカリ金属沃化物、アルカリ土類金属沃化物、I−を発生しうる金属錯体、I−を発生しうる塩類およびその2種もしくはそれ以上の混合物よりなる群から選択される化合物の使用をも提供する。
【0014】
更に本発明は、イリジウムカルボニル化触媒と沃化メチル助触媒と有限濃度の水と酢酸と酢酸メチルとルテニウム、オスミウムおよびレニウムから選択される少なくとも1種の促進剤とからなる液体反応組成物を内蔵したカルボニル化反応帯域にてメタノールおよび/またはその反応性誘導体を一酸化炭素でカルボニル化することによる酢酸の製造方法における、一酸化炭素の減少レベル下での触媒および/または促進剤を安定化させる、アルカリ金属沃化物、アルカリ土類金属沃化物、I−を発生しうる金属錯体、I−を発生しうる塩類およびその2種もしくはそれ以上の混合物よりなる群から選択される化合物の使用を提供し、ここで前記化合物とイリジウムとのモル比は[0より大〜5]:1の範囲である。
【0015】
反応帯域は、慣用の液相カルボニル化反応帯域とすることができる。第1反応帯域におけるカルボニル化反応の圧力は好適には15〜200bargの範囲、好ましくは15〜100barg、より好ましくは15〜50barg、更に好ましくは18〜35bargの範囲である。第1反応帯域におけるカルボニル化反応の温度は好適には100〜300℃の範囲、好ましくは150〜220℃の範囲である。
【0016】
好ましくは2つの反応帯域を使用し、第1および第2反応帯域を、第1反応容器から抜き取ると共に第2反応容器まで第1反応容器からの液体反応組成物を溶解および/または同伴一酸化炭素と一緒に移送する手段により、別々の反応容器内に維持する。この種の別の第2反応容器は第1反応容器と液体反応組成物フラッシュ弁との間の配管のセクションとすることができる。好ましくは配管は液体で満たされる。典型的には、パイプの長さと直径との比は約12:1であるが、これよりも高いおよび低い長さと直径との比も用いることができる。
【0017】
典型的には、液体反応組成物の少なくとも1部を溶解および/または同伴された一酸化炭素と一緒に第1反応帯域から抜き取ると共に、抜き取られた液体と溶解および/または同伴された一酸化炭素の少なくとも1部を第2反応帯域に移送する。好ましくは、液体反応組成物の実質的に全部を溶解および/または同伴された一酸化炭素と一緒に第1反応帯域から抜き取って第2反応帯域まで移送する。
【0018】
第2反応帯域は100〜300℃の範囲、好ましくは150〜230℃の範囲の反応温度にて操作することができる。第2反応帯域は第1反応帯域よりも高い温度、典型的には20℃まで高い温度にて操作することができる。第2反応帯域は10〜200bargの範囲、好ましくは15〜100bargの範囲の反応圧力にて操作することができる。好ましくは第2反応帯域における反応圧力は第1反応帯域における反応圧力と同等もしくはそれ未満である。第2反応帯域における液体反応組成物の滞留時間は好適には5〜300秒の範囲、好ましくは10〜100秒の範囲である。
【0019】
カルボニル化反応のための一酸化炭素反応体は実質的に純粋とすることができ、或いはたとえば二酸化炭素、メタン、窒素、貴ガス、水およびC〜Cパラフィン系炭化水素のような不活性不純物を含有することもできる。一酸化炭素における現場にて水性ガスシフト反応により発生した水素の存在を好ましくは低く、たとえば1バール未満の分圧に保つ。何故なら、その存在は水素化生成物の形成をもたらしうるからである。第1および第2反応帯域における一酸化炭素の分圧は好適には独立して1〜70バールの範囲、好ましくは1〜35バール、より好ましくは1〜15バールの範囲である。
【0020】
溶解および/または同伴一酸化炭素として第2反応帯域に導入されたものの他に、第2反応帯域には一酸化炭素を導入することができる。この種の追加一酸化炭素を、第2反応帯域に導入する前に第1反応組成物と合体させることができ、或いは別途に第2反応帯域内の1つもしくはそれ以上の個所に供給することができる。この種の追加一酸化炭素は、たとえばH、N、COおよびCHのような不純物を含有することができる。追加一酸化炭素は第1反応帯域からの高圧オフガスで構成することができ、これは有利には第1反応帯域をより高いCO圧力で操作することを可能にすると共に、生じた一酸化炭素の一層高い流れを第2反応帯域に供給する。更に、高圧オフガス処理のための要求を排除することもできる。
【0021】
追加一酸化炭素は他の一酸化炭素含有ガス流(たとえば他のプラントからの一酸化炭素リッチな流れ)とすることもできる。
【0022】
第1反応帯域から抜き取られた反応組成物における溶解および/または同伴一酸化炭素の好ましくは10%より大、より好ましくは25%より大、更に一層好ましくは50%より大、たとえば少なくとも95%を第2反応帯域にて消費させる。
【0023】
本発明の方法において、メタノールの適する反応性誘導体は酢酸メチル、ジメチルエーテルおよび沃化メチルを包含する。メタノールとその反応性誘導体との混合物を本発明の方法で反応体として使用することもできる。エーテルもしくはエステル反応体については、共反応体として水を必要とする。好ましくはメタノールおよび/または酢酸メチルを反応体として使用する。
【0024】
メタノールおよび/またはその反応性誘導体の少なくとも幾分かをカルボン酸生成物もしくは溶剤との反応により液体反応組成物における酢酸メチルまで変換させ、従って酢酸メチルとして存在する。好ましくは第1および第2反応帯域における液体反応組成物中の酢酸メチルの濃度は独立して1〜70重量%の範囲、より好ましくは2〜50重量%、特に好ましくは3〜35重量%の範囲である。
【0025】
たとえばメタノール反応体と酢酸生成物との間のエステル化反応により水を液体反応組成物中で現場で生成させることができる。水を独立して第1および第2カルボニル化反応帯域に、液体反応組成物の他の成分と一緒に或いはそれとは別途に導入することができる。水は反応帯域から抜き取られた反応組成物の他の成分から分離することができ、液体反応組成物における水の必要濃度を維持すべく調節量にて循環させることができる。好ましくは、第1および第2反応帯域における液体反応組成物中の水の濃度は独立して0.1〜20重量%、より好ましくは1〜15重量%、更に好ましくは1〜10重量%の範囲である。
【0026】
酢酸生成物回収に際し触媒系の安定性を最大化させるため、カルボニル化反応帯域に循環させる触媒系を含有したプロセス流における水の濃度は好ましくは少なくとも0.5重量%の濃度に維持される。
【0027】
好ましくは第1および第2反応帯域における液体カルボニル化反応組成物中の沃化メチル助触媒の濃度は独立して1〜20重量%、好ましくは2〜16重量%の範囲である。
【0028】
第1および第2反応帯域における液体反応組成物中のイリジウム触媒は、液体反応組成物に可溶性である任意のイリジウム含有化合物とすることができる。イリジウム触媒を液体反応組成物に溶解し或いは可溶性型に変換しうる任意適する形態にて液体反応組成物に添加することができる。好ましくはイリジウムを、たとえば液体反応組成物成分の1種もしくはそれ以上(たとえば水および/または酢酸)に可溶性である酢酸塩のような塩化物フリーの化合物として使用することができ、従って溶液として反応に添加することができる。液体反応組成物に添加しうる適するイリジウム含有化合物の例はIrCl、IrI、IrBr、[Ir(CO)I]、[Ir(CO)Cl]、[Ir(CO)Br]、[Ir(CO)、[Ir(CO)Br、[Ir(CO)、[Ir(CH)I(CO)、Ir(CO)12、IrCl・4HO、IrBr・4HO、Ir(CO)12、イリジウム金属、Ir、IrO、Ir(acac)(CO)、Ir(acac)、酢酸イリジウム、[IrO(OAc)(HO)][OAc]およびヘキサクロロイリジウム酸H[IrCl]、好ましくは塩化物フリーのイリジウムの錯体、たとえば酢酸塩、蓚酸塩およびアセト酢酸塩を包含する。
【0029】
好ましくは、第1および第2反応帯域の液体反応組成物におけるイリジウム触媒の濃度は独立して100〜6000重量ppmの範囲のイリジウムである。
【0030】
第1および第2反応帯域における液体反応組成物は更に1種もしくはそれ以上の促進剤を含む。適する促進剤はルテニウム、オスミウムおよびレニウムから選択され、より好ましくはルテニウムおよびオスミウムから選択される。ルテニウムが最も好適な促進剤である。促進剤は、液体反応組成物に可溶性である任意適する促進剤金属含有化合物とすることができる。この促進剤を、液体反応組成物に溶解する或いは可溶性型まで変換しうる任意適する形態にて、カルボニル化反応のための液体反応組成物に添加することができる。
【0031】
促進剤の供給源として使用しうる適するルテニウム含有化合物の例は塩化ルテニウム(III)、塩化ルテニウム(III)三水塩、塩化ルテニウム(IV)、臭化ルテニウム(III)、ルテニウム金属、ルテニウム酸化物、蟻酸ルテニウム(III)、[Ru(CO)、[Ru(CO)、[Ru(CO)]、[Ru(CO)、テトラ(アセト)クロロルテニウム(II、III)、酢酸ルテニウム(III)、プロピオン酸ルテニウム(III)、酪酸ルテニウム(III)、ルテニウムペンタカルボニル、トリルテニウムドデカカルボニルおよび混合ルテニウムハロカルボニル、たとえばジクロルトリカルボニルルテニウム(II)ダイマー、ジブロモトリカルボニルルテニウム(II)ダイマー並びに他の有機ルテニウム錯体、たとえばテトラクロルビス(4−サイメン)ジルテニウム(II)、テトラクロルビス(ベンゼン)ジルテニウム(II)、ジクロル(シクロルオクタ−1,5−ジエン)ルテニウム(II)ポリマーおよびトリス(アセチルアセトネート)ルテニウム(III)を包含する。
【0032】
促進剤の供給源として使用しうる適するオスミウム含有化合物の例は塩化オスミウム(III)水和物、並びに無水オスミウム金属、オスミウム四酸化物、トリオスミウムドデカカルボニル[Os(CO)]、[Os(CO)、[Os(CO)、ペンタクロル−μ−ニトロジオスミウム、並びに混合オスミウムハロカルボニル、たとえばトリカルボニルジクロルオスミニウム(II)ダイマーおよび他の有機オスミウム錯体を包含する。
【0033】
促進剤の供給源として使用しうる適するレニウム含有化合物の例はRe(CO)10、Re(CO)Cl、Re(CO)Br、Re(CO)I、ReCl・xHO、[Re(CO)I]、[Re(CO)およびReCl・yHOを包含する。
【0034】
好ましくは促進剤を液体反応組成物におけるその溶解度の限界までの有効量にて存在させ、および/または酢酸回収段階からカルボニル反応器まで任意の液体プロセス流を循環される。促進剤は好適には液体反応組成物中に[2より大〜15]:1、好ましくは[2より大〜10]:1、より好ましくは[4〜10]:1の促進剤とイリジウムとのモル比にて存在する。適する促進剤濃度は8000ppm未満、たとえば400〜7000ppmである。
【0035】
更に液体反応組成物はアルカリ金属沃化物、アルカリ土類金属沃化物、I−を発生しうる金属錯体、I−を発生しうる塩類およびその2種もしくはそれ以上の混合物から選択される安定化用化合物をも含む。適するアルカリ金属沃化物は沃化リチウム、沃化ナトリウムおよび沃化カリウムを包含する。適するアルカリ土類金属沃化物は沃化カルシウムを包含する。I−を発生しうる適する金属錯体はランタニド金属の錯体、たとえばサマリウムおよびガドリニウム、セリウム、並びにたとえばモリブデン、ニッケル、鉄、アルミニウムおよびクロムのような他の金属の錯体を包含する。I−を発生しうる塩類は、たとえば現場にてI−まで変換しうる酢酸塩、典型的にはアルカリ金属およびアルカリ土類金属の酢酸塩、たとえば酢酸ナトリウムおよび酢酸リチウム、並びに有機塩類、たとえば第四アンモニウム沃化物およびホスホニウム沃化物を包含し、これらをそのまま添加することができる。好適な安定化用化合物は沃化リチウムである。
【0036】
好適には、使用する安定化用化合物の量は、触媒系の溶解度の増加を与えるのに有効であると共に好ましくはカルボニル化反応速度を顕著には減少させないような量である。
【0037】
液体反応組成物に導入される安定化用化合物の量は、他の供給源からのI−の存在を考慮して選択すべきである。何故なら、液体反応組成物における過剰量のI−は有害であると思われるからである。安定化用化合物の最適比は選択される沃素化合物の性質、対イオン、カルボニウム化媒体における解離の程度、および使用する促進剤:イリジムのモル比に依存して選択される。
【0038】
[0より大〜5]:1の範囲における安定化用化合物:イリジウムのモル比が、特に促進剤とイリジウムとのモル比を2より大:1、たとえば少なくとも3:1、たとえば[4〜12]:1の範囲とする場合に触媒系の安定性増大を与えるのに有効であると判明した。
【0039】
好ましくは促進剤とイリジウムとのモル比が2より大:1、たとえば[2より大〜15]:1の範囲、たとえば[2より大〜12]:1もしくは[2より大〜5]:1の範囲である場合、安定化用化合物とイリジウムとのモル比は[0.05〜3]:1の範囲、たとえば[0.05〜1.5]:1の範囲である。
【0040】
好適には、促進剤とイリジウムとのモル比が4:1もしくはそれ以上、たとえば[4〜10]:1の範囲である場合、安定化用化合物:イリジウムのモル比は[0.05〜5]:1、たとえば[0.15〜3]:1、たとえば[0.15〜2.5]:1もしくは[0.15〜2]:1の範囲である。好適には、促進剤とイリジウムとの少なくとも5:1、たとえば[5より大〜12]:1、たとえば[6〜12]:1の範囲のモル比につき、安定化用化合物とイリジウムとのモル比は好ましくは[0.05〜5]:1、たとえば[0.15〜3]:1、たとえば[0.15〜2.5]:1もしくは[0.15〜2]:1の範囲である。
【0041】
好ましくは促進剤はルテニウムであると共に安定化用化合物は沃化リチウム、沃化ナトリウム、沃化カリウム、並びに第四アンモニウムおよびホスホニウム沃化物、特に好ましくは沃化リチウムもしくは沃化ナトリウムから選択される。これら安定化用化合物を使用すると共にルテニウム:イリジウムのモル比が[2〜5]:1の範囲である場合、安定化用化合物とイリジウムとのモル比は好ましくは[0.05〜1.5]:1である。ルテニウムとイリジウムとのモル比が約4:1もしくはそれ以上、たとえば[4〜10]:1である場合、安定化用化合物とイリジウムとのモル比は好適には[0.05〜1.5]:1の範囲、たとえば[0.15〜1.5]:1の範囲とすることができる。ルテニウム:イリジウムのモル比が5より大:1、たとえば[6〜12]:1である場合、好ましくは安定化用化合物とイリジウムとのモル比は[0.05〜3]:1、たとえば[0.05〜2]:1である。
【0042】
安定化用化合物は、反応帯域中へカルボニル化反応の際の任意の段階で導入することができる。安定化用化合物は反応帯域中へたとえば反応体供給流を介し直接導入することができ或いは、反応帯域中へたとえば触媒循環流のような循環流を介し間接的に導入することもできる。
【0043】
本発明は更に、イリジウムカルボニル化触媒と沃化メチル助触媒と有限濃度の水と酢酸と酢酸メチルとルテニウム、オスミウムおよびレニウムから選択される少なくとも1種の促進剤とからなる液体反応組成物を内蔵したカルボニル化反応帯域にてメタノールおよび/またはその反応性誘導体を一酸化炭素でカルボニル化することによる酢酸の製造方法における、減少レベルの一酸化炭素の下で形成された触媒系沈殿物を可溶化させるアルカリ金属沃化物、アルカリ土類金属沃化物、I−を発生しうる金属錯体、I−を発生しうる塩類およびその2種もしくはそれ以上の混合物よりなる群から選択される化合物の使用をも提供する。
【0044】
触媒系沈殿物は一般に、プロセス流を減少濃度の一酸化炭素をたとえば第2反応帯域にて受ける際に形成される。減少一酸化炭素濃度は更に酢酸プロセスの生成物回収セクションでも遭遇する。酢酸生成物は第2反応帯域から必要に応じ第1反応帯域と一緒に或いは別途にフラッシュ分離により回収することができる。フラッシュ分離においては、液体反応組成物をフラッシュ弁を介しフラッシュ帯域に移送する。フラッシュ分離帯域は断熱フラッシュ容器とすることができ、或いは追加加熱手段を有することもできる。フラッシュ分離帯域にて、イリジウム触媒の大半と促進剤の大半とを含む液体フラクションを酢酸とカルボニル化しうる反応体と水と沃化メチルカルボニル化助触媒と非縮合性ガス(たとえば窒素、一酸化炭素、水素および二酸化炭素)とからなる蒸気フラクションから分離し、液体フラクションを第1反応帯域まで循環させると共に蒸気フラクションを1つもしくはそれ以上の蒸留帯域に移送する。第1蒸留帯域にて、酢酸生成物を軽質成分(沃化メチルおよび酢酸メチル)から分離する。これら軽質成分を頭上で除去すると共に、第1または第2反応帯域まで循環させる。更に頭上にてたとえば窒素、一酸化炭素、水素および二酸化炭素のような非凝縮性ガスからなる低圧オフガスをも除去する。この種の低圧オフガス流をオフガス処理セクションに通過させて、たとえば沃化メチルのような凝縮性物質を除去した後に大気中へたとえば火炎を介し排気させる。
【0045】
たとえば触媒系沈殿物が第2反応帯域にておよび/または生成物回収セクションにて既に形成されている場合、この沈殿物は直接的および/または間接的な反応帯域への安定化用化合物の添加により溶液に溶解復帰させることができる。必要に応じ熱、攪拌および/または一酸化炭素分圧の増大を用いて、沈殿物の再溶解を更に支援することもできる。
【0046】
更に本発明は、
(a)メタノールおよび/またはその反応性誘導体をイリジウムカルボニル化触媒と沃化メチル助触媒と有限濃度の水と酢酸と酢酸メチルとルテニウム、オスミウムおよびレニウムから選択される少なくとも1種の促進剤とアルカリ金属沃化物、アルカリ土類金属沃化物、I−を発生しうる金属錯体、I−を発生しうる塩類およびその2種もしくはそれ以上の混合物からなる群から選択される安定化用化合物とからなる液体反応組成物を内蔵した第1カルボニル化反応帯域にてカルボニル化し、ここで促進剤とイリジウムとのモル比を2より大:1にすると共に安定化用化合物とイリジウムとのモル比を[0より大〜5]:1の範囲にして酢酸を生成させ、
(b)液体反応組成物を反応帯域から溶解および/または同伴された一酸化炭素と一緒に抜き取り、
(c)必要に応じ前記抜き取られた液体反応組成物の少なくとも1部を1つもしくはそれ以上の更なる反応帯域に移送して、溶解および/または同伴された一酸化炭素の少なくとも1部を消費させ、
(d)工程(b)および適宜の工程(c)からの前記反応組成物を1つもしくはそれ以上のフラッシュ分離段階に移送して、酢酸生成物と一酸化炭素からなる低圧オフガスとを含む蒸気フラクション並びにイリジウムカルボニル化触媒と促進剤と酢酸溶剤とからなる液体フラクションを形成させ、
(e)フラッシュ分離段階から液体フラクションを反応帯域まで循環させる
ことを特徴とする酢酸の製造方法をも提供する。
【0047】
本発明の方法により生成された酢酸は常法により、たとえば更なる蒸留により更に精製して、たとえば水、未反応カルボニル化反応体および/またはそのエステル誘導体およびより高沸点の副生物などの不純物を除去することができる。
【0048】
本発明の方法はバッチ式として或いは連続プロセスとして、好ましくは連続プロセスとして行うことができる。
【0049】
以下、本発明を実施例として以下の実施例を参照すると共に図1および2を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例にて使用した装置の略図である。
【図2】低圧オフガスにおける一酸化炭素濃度およびルテニウム濃度の変動に際し触媒システム安定化に対する安定化用化合物の効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
実験AおよびB、並びに実施例1〜7の一般的実験方法
実験は全て、撹拌器および液体注入施設を装着した300cmのジルコニウムオートクレーブで行った。このオートクレーブを4x10N/mまで窒素により圧力試験し、次いで1x10N/mまで一酸化炭素により3回フラッシュさせた。酢酸メチルと酢酸と沃化メチルと酢酸ルテニウム溶液(酢酸:水、4:1における5.08重量%Ru)と水とよりなる初期充填物をオートクレーブに入れ、これを次いで一酸化炭素で再パージすると共にゆっくり排気して揮発物のロスを防止した。
【0052】
一酸化炭素(約6〜7x10N/m)をオートクレーブ中に供給し、次いでこれを攪拌(1500rpm)しながら190℃まで加熱した。触媒注入システムを約5.6gの酢酸イリジウム溶液(5.25重量%Ir、酢酸:水、4:1)および酢酸(約8.7g)で処理すると共に、一酸化炭素の過剰圧力で注入してオートクレーブ圧力を2.8x10N/mにした。
【0053】
反応速度をバラスト容器からの典型的には7x10N/mまで加圧された一酸化炭素圧力の低下により監視した。このオートクレーブを190℃の一定温度および2.8x10N/mの圧力に反応全体にわたり維持した。反応は、バラスト圧力における低下が5分間当たり1x10N/mとなった時点で停止させた。
【0054】
冷却後、ガス分析試料を採取してオートクレーブを排気した。液体成分を放出させると共に、公知の確立ガスクロマトグラフィー法により液体副生物につき分析した。検出された各成分を外部標準に関する成分ピークの積算により定量し、重量ppmとして現す。
【0055】
バッチ式反応においては、「全」プロパン酸をバッチ式反応のppmで現した急冷液体生成物にて検出されたプロパン酸およびその先駆体(ppmプロパン酸まで換算された酢酸エチルおよび沃化エチル)の合計として規定する。
【0056】
反応試験における所定の時点のガス吸収の速度を使用して、カルボニル化速度を特定反応器組成物(低温脱ガス容積に対する全反応器組成物)にて毎時の低温脱ガス反応器組成物1リットル当たりに消費された反応体のモル数(モル/リットル/h)として計算した。
【0057】
酢酸メチル濃度は出発組成物からの反応の過程で計算し、消費された一酸化炭素の各モルにつき1モルの酢酸メチルが消費されたと仮定する。オートクレーブのヘッドスペースには有機成分につき許容しなかった。
【実施例】
【0058】
実験A
酢酸メチル(48.05g)と酢酸(48.42g)と酢酸ルテニウム溶液(12.28g)と水(13.86g)と沃化メチル(13.31g)とが充填されたオートクレーブでベースライン実験を行った。触媒溶液はイリジウム溶液(5.25重量%Ir)と酢酸(8.71g)とで構成した。イリジウムとルテニウムとの大凡の比は1:4とした。一酸化炭素吸収に基づく反応の速度は11%酢酸メチルの計算反応組成にて19.6モル/リットル/hであると測定され、実質上全ての酢酸メチルが消費されるまで絶えず低下した。酢酸の変換率は消費酢酸メチルに基づき99.66%であった。プロパン酸先駆体の分析は467.8ppmの全プロパン酸生成を示した。体温排気オフガスにおけるガス副生物はH(3.6ミリモル)とCO(8.0ミリモル)とCH(12.6ミリモル)とであった。冷却反応混合物は明瞭に観察しうる量の固形分を示した。これら結果を表1に示す。
【0059】
実施例1
酢酸メチル(48.05g)と酢酸(57.2g)と酢酸ルテニウム溶液(12.2g)と水(13.83g)と沃化メチル(13.34g)と妖化リチウム(0.11g)とが充填されたオートクレーブにて実験Aを反復した。触媒溶液はイリジウム溶液(5.25重量%Ir)で構成した。酢酸への変換率は消費酢酸メチルに基づき98.58%であった。冷却反応混合物には7日後でも沈殿物は観察されなかった。その結果を表1に示す。
【0060】
実施例2
酢酸メチル(48.05g)と酢酸(57.2g)と酢酸ルテニウム溶液(12.2g)と水(13.83g)と沃化メチル(13.34g)と妖化リチウム(0.0561g)とが充填されたオートクレーブにて実験Aを反復した。触媒溶液はイリジウム溶液(5.25重量%Ir)で構成した。酢酸への変換率は消費酢酸メチルに基づき98.94%であった。数日後でさえ冷却反応混合物には沈殿物が観察されなかった。その結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1から見られるように、沃化物化合物は触媒系に対し顕著な可溶化作用を有し、カルボニル化速度における顕著な低下が生じなかった。
【0063】
実験B
酢酸メチル(48.06g)と酢酸(58.03g)と酢酸ルテニウム溶液(24.35g)と水(12.01g)と沃化メチル(13.30g)とが充填されたオートクレーブにてベースライン実験を行った。触媒溶液はイリジウム溶液(5.25重量%Ir)で構成した。一酸化炭素吸収に基づく反応の速度は11%酢酸メチルの計算反応組成にて22.2モル/リットル/hであると測定され、実質上全ての酢酸メチルが消費されるまで着実に減少した。酢酸への変換率は消費酢酸メチルに基づき98.80%であった。プロピオン酸先駆体の分析は399.7ppmの全プロピオン酸生成を与えた。冷却反応混合物は著量の明瞭な可視沈殿物を示した。その結果を表2に示す。
【0064】
実施例3
酢酸メチル(48.14g)と酢酸(58.08g)と酢酸ルテニウム溶液(24.34g)と水(12.00g)と沃化メチル(13.33g)と沃化リチウム(0.1076g)とが充填されたオートクレーブにて実験Bを反復した。酢酸への変換率は酢酸メチル消費に基づき98.55%であった。数日後でさえ冷却反応混合物には沈殿物が観察されなかった。その結果を表2に示す。
【0065】
実施例4
酢酸メチル(48.13g)と酢酸(58.02g)と酢酸ルテニウム溶液(24.35g)と水(12.02g)と沃化メチル(13.30g)と沃化リチウム(0.052g)とが充填されたオートクレーブにて実験Bを反復した。触媒溶液はイリジウム溶液(5.25重量%Ir)で構成した。酢酸への変換率は消費酢酸メチルに基づき98.63%であった。数日後でさえ冷却反応混合物には沈殿物が観察されなかった。その結果を表2に示す。
【0066】
実施例5
酢酸メチル(48.01g)と酢酸(58.03g)と酢酸ルテニウム溶液(24.34g)と水(12.05g)と沃化メチル(13.34g)と沃化リチウム(0.0333g)とが充填されたオートクレーブにて実験Bを反復した。触媒溶液はイリジウム溶液(5.25重量%Ir)で構成した。酢酸への変換率は消費酢酸メチルに基づき98.81%であった。数日後でさえ冷却反応混合物には沈殿物が観察されなかった。その結果を表2に示す。
【0067】
実施例6
酢酸メチル(48.04g)と酢酸(58.03g)と酢酸ルテニウム溶液(24.37g)と水(12.45g)と沃化メチル(13.34g)と沃化リチウム(0.0115g)とが充填されたオートクレーブにて実験Bを反復した。触媒溶液はイリジウム溶液(5.25重量%Ir)で構成した。酢酸への変換率は消費酢酸メチルに基づき98.50%であった。冷却反応混合物は僅かに濁ったが、固形物は肉眼検出されなかった。その結果を表2に示す。
【0068】
実施例7
酢酸メチル(48.03g)と酢酸(46.79g)と酢酸ルテニウム溶液(24.39g)と水(12.51g)と沃化メチル(13.31g)と酢酸マグネシウム四水塩(0.114g)とが充填されたオートクレーブにて実験Bを反復した。触媒溶液はイリジウム溶液(5.25重量%Ir)で構成した。酢酸への変換率は消費酢酸メチルに基づき99.2%であった。冷却反応混合物は僅かに濁ったが、固形物は肉眼検出されなかった。その結果を表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
表2から見られるように、実施例3〜7にて沃化物化合物の添加は触媒系に対し顕著な安定化作用を有する。更に、安定化用化合物を添加しなかった実験AおよびBと比較して、反応速度における顕著な減少は存在しなかった。実施例6にて、沃化リチウムをLi:Irのモル比0.05:1で用いた場合、触媒系に対する安定化作用も得られたが、この作用はより高いLi:Ir比におけるよりも顕著でなかった。実施例7は、カルボニル化反応にて沃化物化合物を発生しうる化合物(この場合は酢酸マグネシウム)の使用が触媒系に対し顕著な安定化作用を有することを示す。
【0071】
実験C〜Gおよび実施例8〜23の一般的実験方法
使用した装置を図1に示す。図1を参照して、装置は攪拌一次カルボニル化反応器(1)と二次カルボニル化反応器(2)とフラッシュタンク(3)と蒸留カラム(図示せず)とで構成した。
【0072】
オフガスを洗浄すべく使用した市販級メタノールを6リットル一次反応器(1)にてイリジウムカルボニル化触媒およびルテニウム促進剤の存在下に2.76x10N/mの圧力および190℃の温度にてカルボニル化した。一次反応器(1)には撹拌器/プロペラ(4)およびバッフルケージ(図示せず)を装着して、液体反応体と気体反応体との緊密混合を確保した。一酸化炭素を、撹拌器(4)の下に装着されたスパージ(5)を介し一次反応器(1)に供給した。一次反応器(1)への鉄侵食を最少化するため、一酸化炭素をカーボンフィルタ(図示せず)に通過させた。熱油を循環させるジャケット(図示せず)は、一次反応器(1)における反応液を一定反応温度に維持することができた。液体反応組成物を近赤外分析およびガスクロマトグラフィーにより分析した。不活性物をパージするため、高圧オフガスを一次反応器(1)からライン(6)を通して除去した。これを凝縮器(図示せず)に通過させた後、圧力を弁(7)を介し低下させると共に、これを洗浄システムに供給すべく低圧オフガスと混合した。液体反応組成物を一次反応器(1)からスチルウェル(8)を下降し第2反応器(2)を介しおよび次いでライン(9)を介して反応器レベル制御の下でフラッシュタンク(3)中へ抜き取った。フラッシュタンク(3)にて、液体反応組成物を1.48x10N/mの圧力までフラッシュ効果させた。得られた蒸気と液体との混合物を分離した。触媒リッチな液体をライン(10)およびポンプ(図示せず)により一次反応器(1)まで戻すと共に、蒸気をデミスタ(12)に通過させ、次いで蒸気として蒸留カラム(図示せず)に直接導入した。
【0073】
二次反応器(2)は直径2.5cm、長さ30cmのパイプで構成すると共に、連携した配管と共に一次反応器(1)の約8%の容積を有した。このパイプをフラッシュライン(9)に並列配置すると共に、ライン(14)を介し追加一酸化炭素の供給部を設けた。二次反応器(2)を一次反応器(1)とほぼ同じ圧力にて操作した。
【0074】
デミスタ(12)からの蒸気を蒸留カラム(図示せず)に流入させ、ここで酢酸を蒸気から回収すると共に一酸化炭素からなる低圧オフガスを排気する前に洗浄器(図示せず)に移した。
【0075】
触媒沈殿の程度を近赤外分光光度法により液体反応組成物と一緒に測定した。ベースライン吸光度(1日当たりの吸光単位(au/1日)にて測定)における増大は沈殿の量に直接相関することが判明した。
【0076】
実験C
図1を参照して説明した装置および方法を使用し、メタノールを一次反応器(1)にて20モル/リットル/hの速度(低温脱ガス反応容積に基づく)でカルボニル化させた。一次反応器(1)における液体反応組成物は約7重量%の沃化メチルと12重量%の酢酸メチルと5重量%の水と約76重量%の酢酸と1250ppmのイリジウムと2720ppmのルテニウムとで構成した。液体反応組成物を第2反応器(2)にて190℃の緩和な温度および約27x10N/mの圧力で40〜60秒の滞留時間により更にカルボニル化させた。
【0077】
追加一酸化炭素を二次反応器に供給して、フラッシュタンクから出る不揮発性成分における一酸化炭素の濃度を40モル%に維持した。その結果を表3に示す。
【0078】
実験D
実験Cの手順を反復したが、ただしCOを第2カルボニル化反応器に供給しなかった。その結果を表3に示す。リチウムをカルボニル化反応器に添加しなかった。
【0079】
実験E〜G
実験CおよびDの手順を反復したが、ただしカルボニル化反応器におけるRu:Ir比を6:1のモル比まで増大させると共に、二次カルボニル化反応器中へ供給したCOの量を変動させた。その結果を表3に示す。リチウムは実験E〜Gにてカルボニル化反応器に添加しなかった。
【0080】
実施例8〜23
実験C〜Gの手順を反復したが、ただし種々の量のリチウムを第1カルボニル化反応器に添加した。その結果を表3に示す。
【0081】
【表3】

【0082】
図2は、低圧オフガス一酸化炭素濃度およびルテニウム濃度の変動における触媒系に対する沃化リチウムの安定化作用をグラフで示す。グラフにおけるデータポイントは、上表3における各実験の結果から得た。汚染(fouling)速度が0.001au/1日より大である場合、固形物形成が生ずると仮定した。
【0083】
グラフから見られるように、本発明による安定化用化合物の使用は(a)所定のルテニウム濃度につき低圧オフガス一酸化炭素濃度を顕著な触媒系沈殿物を生ぜしめることなく低下させることができ、更に(b)低圧オフガスにおける所定の一酸化炭素濃度につき触媒促進剤の濃度を顕著な触媒系沈殿物を生ぜしめることなく増大させることができる。
【0084】
実験HおよびI、並びに実施例24〜32の一般的実験方法
実験は全て、金属ケージにより包封されると共に強化キャビネットにケーシングされた30mlのガラス反応容器からなるフィッシャー・ポーター装置を用いて行った。容器のヘッドにおける単一ポートをステンレス鋼配管により圧力計に接続した。この装置にはレリーフ弁と液体試料採取システムと洗浄ポートと入口マニホールドとを装着した。反応混合物を磁気攪拌棒により攪拌した。ガラス反応容器を油浴に浸漬して加熱した。
【0085】
実験H
イリジウムとルテニウム(1.0g)とからなる触媒系沈殿物の既知量および合成カルボニル化反応溶液(25.0g)をフィッシャー・ポーター装置のガラス反応容器に移した。次いでこの装置を組み立てると共に、20分間にわたり約6x10N/mにて圧力試験した。次いで容器を窒素で3回フラッシュさせた。次いで反応混合物を190℃および130℃の温度まで2x10N/mの窒素下に24時間にわたり加熱した。得られた溶液を30℃未満まで冷却し、圧力解除し(必要ならば)、4400rpmにて5分間にわたり遠心分離した。得られた溶液の試料をX線蛍光(XRF)によりイリジウム濃度およびルテニウム濃度につき分析し、合成カルボニル化反応溶液の組成を表4に示す。実験の結果を表5に示す。
【0086】
実験I
実験Hを反復したが、ただし合成触媒循環溶液(CRS)を合成カルボニル化反応溶液の代わりに使用した。合成触媒循環溶液の組成を表4に示し、実験の結果を表6に示す。
【0087】
【表4】

【0088】
実施例24〜26
実験Hを反復したが、ただしフィッシャー・ポーター装置への合成カルボニル化反応溶液の添加に先立ち、沃化リチウムの所定量を溶液に添加した。実験の結果を表5に示す。
【0089】
【表5】

【0090】
実施例27〜29
実験Iを反復したが、ただしフィッシャー・ポーター装置への合成触媒循環溶液の添加に先立ち、沃化リチウムの所定量を溶液に添加した。実験の結果を表6に示す。
【0091】
【表6】

【0092】
表4および5を点検から判るように、カルボニル化および触媒循環の各溶液への沃化リチウムの添加はカルボニル化反応(表4)および触媒循環溶液(表5)の両者における触媒系沈殿物の再溶解を支援する。
【0093】
実施例30〜32
実験Iを反復したが、ただしフィッシャー・ポーター装置への合成触媒循環溶液の添加に先立ち、所定量の沃化物安定化用化合物を溶液に添加した。添加した安定化用化合物の詳細を表7に示す。更に実験の結果をも表7に示す。
【0094】
【表7】

【0095】
実施例30〜32と実験Iとの比較は、沃化リチウム以外の安定化用化合物も触媒系沈殿物の溶解を支援しうることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノールおよび/またはその反応性誘導体を、イリジウムカルボニル化触媒と沃化メチル助触媒と有限濃度の水と酢酸と酢酸メチルとルテニウム、オスミウムおよびレニウムから選択される少なくとも1種の促進剤とアルカリ金属沃化物、アルカリ土類金属沃化物、I−を発生しうる金属錯体、I−を発生しうる塩類およびその2種もしくはそれ以上の混合物よりなる群から選択される安定化用化合物とからなる液体反応組成物を内蔵したカルボニル化反応帯域にて一酸化炭素でカルボニル化することによる酢酸の製造方法において、促進剤とイリジウムとのモル比が2:1より大であると共に安定化用化合物とイリジウムとのモル比が[0より大〜5]:1の範囲であることを特徴とする酢酸の製造方法。
【請求項2】
(a)液体反応組成物を溶解および/または同伴された一酸化炭素および他のガスと一緒に前記カルボニル化反応帯域から抜き取り;
(b)必要に応じ前記抜き取られた液体反応組成物を1つもしくはそれ以上の更なる反応帯域に通過させて、溶解および/または同伴された一酸化炭素の少なくとも1部を消費させ;
(c)工程(a)および適宜の工程(b)からの前記組成物を1つもしくはそれ以上のフラッシュ分離段階に移送して、(i)凝縮性成分と低圧オフガスとからなる蒸気フラクション(凝縮性成分は酢酸生成物および一酸化炭素と抜き取られた液体カルボニル化反応組成物と共に溶解および/または同伴された他のガスとからなる低圧オフガスからなる)、並びに(ii)イリジウムカルボニル化触媒と促進剤と酢酸溶剤とからなる液体フラクションを形成させ;
(d)凝縮性成分を低圧オフガスから分離し;
(e)液体フラクションをフラッシュ分離段階からカルボニル化反応器まで循環させる
更なる工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
促進剤:イリジウムのモル比が[2より大〜15]:1の範囲である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
促進剤:イリジウムのモル比が[2より大〜5]:1の範囲である請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
促進剤:イリジウムのモル比が[4〜10]:1の範囲である請求項3に記載の方法。
【請求項6】
促進剤:イリジウムのモル比が[6〜12]:1の範囲である請求項3に記載の方法。
【請求項7】
安定化用化合物:イリジウムのモル比が[0.05〜3]:1の範囲である請求項3または4に記載の方法。
【請求項8】
安定化用化合物:イリジウムのモル比が[0.05〜1.5]:1の範囲である請求7に記載の方法。
【請求項9】
安定化用化合物:イリジウムのモル比が[0.15〜2.5]:1の範囲である請求5または6に記載の方法。
【請求項10】
安定化用化合物:イリジウムのモル比が[0.15〜2]:1の範囲である請求9に記載の方法。
【請求項11】
安定化用化合物をアルカリ金属沃化物、アルカリ土類金属沃化物、沃素イオンを発生しうるアルカリ金属塩および沃素イオンを発生しうるアルカリ土類金属塩よりなる群から選択する請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
安定化用化合物がアルカリ金属沃化物または沃素イオンを発生しうるアルカリ金属塩である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
安定化用化合物を沃化リチウム、酢酸リチウム、沃化ナトリウムおよび酢酸ナトリウムから選択する請求項12に記載の方法。
【請求項14】
安定化用化合物を反応帯域中へ直接導入し、または反応帯域中へ間接的に導入する請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
安定化用化合物を循環流を介し反応帯域中へ導入する請求項14に記載の方法。
【請求項16】
循環流が触媒循環流である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
イリジウムカルボニル化触媒と沃化メチル助触媒と有限濃度の水と酢酸と酢酸メチルとルテニウム、オスミウムおよびレニウムから選択される少なくとも1種の促進剤とからなる液体反応組成物を内蔵したカルボニル化反応帯域にて、メタノールおよび/またはその反応性誘導体を一酸化炭素でカルボニル化することによる酢酸の製造方法における、一酸化炭素の減少レベル化で触媒および/または促進剤を安定化させるためのアルカリ金属沃化物、アルカリ土類金属沃化物、I−を発生しうる金属錯体、I−を発生しうる塩類およびその2種もしくはそれ以上の混合物よりなる群から選択される化合物の使用。
【請求項18】
安定化用化合物とイリジウムとのモル比が[0より大〜5]:1の範囲である請求項17に記載の使用。
【請求項19】
イリジウムカルボニル化触媒と沃化メチル助触媒と有限濃度の水と酢酸と酢酸メチルとルテニウム、オスミウムおよびレニウムから選択される少なくとも1種の促進剤とからなる液体反応組成物を内蔵したカルボニル化反応帯域にて、メタノールおよび/またはその反応性誘導体を一酸化炭素でカルボニル化することによる酢酸の製造方法における、イリジウムおよび/またはルテニウム、オスミウムおよびレニウムから選択される少なくとも1種の促進剤からなると共に減少レベルの一酸化炭素下で形成された触媒系沈殿物を可溶化させるためアルカリ金属沃化物、アルカリ土類金属沃化物、I−を発生しうる金属錯体、I−を発生しうる塩類およびその2種もしくはそれ以上の混合物よりなる群から選択される化合物の使用。
【請求項20】
触媒系沈殿物が第2反応帯域にておよび/または酢酸生成物回収セクションにて形成される請求項19に記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−270159(P2010−270159A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200389(P2010−200389)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【分割の表示】特願2004−513231(P2004−513231)の分割
【原出願日】平成15年5月29日(2003.5.29)
【出願人】(591001798)ビーピー ケミカルズ リミテッド  (66)
【氏名又は名称原語表記】BP CHEMICALS LIMITED
【Fターム(参考)】