説明

酢酸リュープロレインの徐放性ミリ、マイクロカプセル

【課題】原薬コストが高価なペプチド薬であるリュープロレインを理論上100%の効率で封入できる長期徐放性製剤の提供。
【解決手段】酢酸リュープロレインを理論上100%の効率で封入させた、(1)放出制御膜、(2)薬物層、および(3)基底膜の三層から成る生体内分解性高分子物質製の、長期間にわたりリュープロレインを徐放する三層構造マイクロ、ミリカプセル。前記生体内溶解性高分子物質はポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリ乳酸ポリグリコール酸共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1つの物質である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
酢酸リュープロレインの長期徐放性注射製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子物質を用いて表層、薬物層および基底層 の三層から成るミルカプセルおよびマイクロカプセルに関する特許(特許文献1)およびを表層、芯物質層および裏層の三層構造から成る徐放性ミリ、マイクロカプセルに関する特許(特許文献2)を本発明者はすでに発表した。酢酸リュープロレインあるいは酢酸リュープロライドに関して徐放性注射剤とするためのマイクロカプセルなどに関する特許は種々発表されている(特許文献3から7)。しかし、いずれの特許も、マイクロカプセルの中心に対してどの角度から切っても対称となるほぼ球状のマイクロカプセルに関する技術に終始している。従って、封入率は100%より遙かに低く、かつマイクロカプセル粒子間における酢酸リュープロレイン含量および粒子径の変動は大きい。
【0003】
【特許文献1】高田寛治、Three-layeredparenteral preparations. (2002年11月25日PCTにて日米欧に出願.国際出願番号PCT/JP01/04355 特願2000-156227号:2000年5月26日出願,3層構造を有する非経口用製剤
【特許文献2】高田寛治、芯物質を100%の効率で封入させるための表層、芯物質層および裏層の三層構造から成る徐放性ミリ、マイクロカプセル 特願2006-306506,2006年11月13日出願
【特許文献3】公開2008-511544 生物活性化合物の制御放出送達用医薬組成物
【特許文献4】公開2007-325581 性ホルモン依存疾患の予防・治療剤
【特許文献5】公開WO2004024056 マイクロスフェアの製法及び製造装置
【特許文献6】特許公表2003-534265 生物学的に活性な親水性化合物を非経口的に投与するための徐放性薬剤組成物
【特許文献7】公開2007-291036 マイクロスフェア製剤の製造方法およびマイクロスフェア製剤
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
酢酸リュープロレインの長期徐放性注射剤はリュープリン注射剤という商品名で販売されている。これは、ポリ乳酸ポリグリコール酸共重合体を壁物質に用いて調製されたマイクロカプセルである。製剤努力により酢酸リュープロレインの封入率を約70%にまで高めているが、100%には至っていない。また、特許文献3から7に記載されているいずれの方法においても、酢酸リュープロレインの100%の封入率を達成できていない。酢酸リュープロレインの原薬は極めて高価な薬物であるので、より高い封入率が望まれている。本発明は理論上100%の封入率でもって酢酸リュープロレインをミリあるいはマイクロカプセルに封入することを可能とする徐放性製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ね、生体内分解性の高分子物質を壁物質として用い、(1)放出制御膜、(2)薬物層、および(3)基底膜 の三層から成る酢酸リュープロレイン長期徐放性マイクロ、ミリカプセルを作製することに成功し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0006】
即ち、本発明によれば、 (a)放出制御膜、(b)薬物層、および(c)基底膜 の三層構造から成る酢酸リュープロレイン長期徐放性マイクロ、ミリカプセルが提供される。
本発明の徐放性マイクロ、ミリカプセルは酢酸リュープロレインを理論上100%の高い封入率で封入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のマイクロカプセルは、生体内分解性の高分子物質を用い、放出制御膜、薬物層及び基底膜の三層構造から成り、非対称の形状を有することを特徴とする。注射により体内へ投与されるが、その後、長期にわたる徐放性が得られる。
【0008】
好ましくは、生体内分解性高分子は、ポリイプシロンカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびこれらの共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1つの物質である。なお、これらの高分子物質については、1つだけを用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0009】
本発明の限定を意図しない以下の実施例によりさらに詳しく説明される。
【実施例1】
【0010】
ポリイプシロンカプロラクトン(PCL、分子量70〜100kDa、和光純薬)にポリソルベート60(MP
Biomedicals Inc, France)を種々の割合で添加することにより、3種類の放出制御膜を調製した。0.1%ポリソルベート60含有PCL膜の調製には、PCLの499.5mgおよびポリソルベート60の0.5mgに酢酸エチルの2.5mlを加えて溶解することにより放出制御膜用調製液とした。0.3%ポリソルベート60含有PCL膜の調製には、PCLの249.25mgおよびポリソルベート60の0.75mgに酢酸エチルの2.5mlを加えて溶解することにより放出制御膜用調製液とした。1.0%ポリソルベート60含有PCL膜の調製には、PCLの247.5mgおよびポリソルベート60の2.5mgに酢酸エチルの2.5mlを加えて溶解することにより放出制御膜用調製液とした。これらの液をポリビニルアルコールで軽くコーティング処理を施したシリコン製基板上に100ミクロンのクリアランスを有する伸展器(井元製作所、京都市)にて引き延ばすことにより放出制御膜を作成した。室温で30分放置することにより乾燥させた後、膜厚を測定したところ平均膜厚は15ミクロンであった。次に、酢酸リュープロレインの1.5mgおよびマンニトール1.5mgを7.5マイクロリットルのリン酸緩衝液でpHを7.4とした生理食塩液(PBS)で溶解し、10マイクロリットルのマイクシリンジにて放出制御膜の上にドット状に滴下していった。室温で30分間放置することにより乾燥した。基底膜用の液として、ポリカプロラクトンの250mgを酢酸エチルの2.5mlにて溶解して調製した。この基底膜用の液を薬物層の上から一回り大きいサイズでドット状に3回滴下していった。室温で1時間放置することにより乾燥させた。乾燥後、基盤から放出制御膜ごと剥離し、1粒子ずつ切断することにより三層カプセルを得た。
【0011】
実施例1で作成した3種類の三層カプセル製剤を用いてin vitroで28日間にわたる放出試験を行った。放出試験法としては、得られた試験製剤の1粒子をサンプルカップにとり、pH7.4の等張リン酸緩衝液の1mlを溶出試験液として用い、毎分30回転の速度で回転させて行った。予め設定した日程で溶出液の全量を採取し、新たな溶出液を補充した。採取したサンプル液中のリュープロレイン濃度を蛍光分光光度計にて測定した。
【0012】
薬物動態試験としては、ペントバルビタール麻酔下、除毛したラット背部の皮下ポケットに試験製剤を投与した。縫合後、84日間にわたり循環血液を採取し、得られた血漿サンプル中のリュープロレイン濃度をLC/MS/MS法にて測定した。
【0013】
図1はin vitro放出試験の結果を示す。初期におけるバースト放出現象もなく長期間にわたる徐放性が得られた。放出速度は放出制御膜中に添加したポリソルベート60の量に依存し、膜中のポリソルベート60含量の増加とともに放出速度は上昇した。
【0014】
図2はラットの背部皮下に実施例にて調製したポリソルベート60を0.3%で含有する放出制御膜から成る三層カプセルを0.5mgおよび1.0mgの2通りの投与量で投与した後、84日間にわたり循環血液中におけるリュープロレイン濃度を測定した結果を示す。この結果より、長期間にわたるリュープロレインの徐放性がみとめられた。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明のリュープロレイン含有三層構造から成るミリあるいはマイクロカプセルを用いれば、理論上100%の封入効率でリュープロレインを長期徐放性注射剤とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例で作成した3種類の三層カプセルからのリュープロレインのin vitro溶出試験結果を表すグラフである。
【図2】実施例で作成した3種類の三層カプセルの中、ポリソルベート60を0.3%含有する放出制御膜から成る三層カプセルを0.5mgおよび1.0mgの投与量でラットの投与した後の血漿中リュープロレイン濃度の推移を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸リュープロレインを理論上100%の効率で封入させた、(1)放出制御膜、(2)薬物層および(3)基底膜 の三層から成る生体内分解性高分子物質製の徐放性マイクロ、ミリカプセル。
【請求項2】
前記生体内溶解性高分子物質はポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリ乳酸ポリグリコール酸共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1つの物質である三層構造から成る徐放性マイクロ、ミリカプセル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−1248(P2010−1248A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161482(P2008−161482)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(502414389)株式会社バイオセレンタック (24)
【Fターム(参考)】