説明

酢酸含有飲食物、並びに、酢酸含有飲食物の酢酸臭低減方法

【課題】 本発明は、簡便な手段であり、且つ、飲食物の味に悪影響を及ぼすことなく酢酸含有飲飲食物の酢酸臭(酢酸由来の鋭い刺激臭)を低減する方法、及び、酢酸臭が低減されている酢酸含有飲食物、を提供することを目的とする。
【解決手段】 酢酸を0.01〜10質量%含有する酢酸含有飲食物中に、カンファーを酢酸100に対する含有質量比が0.00001〜0.001となる量で含有させること及び/又はオイゲノールを酢酸100に対する含有質量比が0.0001〜0.01となる量で含有させること、を特徴とする酢酸含有飲食物の酢酸臭を低減させる方法、並びに、当該方法により得られた酢酸含有飲食物、を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸を含有した飲料、スープ、穀物加工飲食物(炊飯米、麺類等)などの飲食物における酢酸臭を低減させる技術に関し、さらに詳細には、該酢酸臭低減のためにカンファー及び/又はオイゲノールを含有させることを特徴とする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸は、食酢を始めとして様々な飲食物に幅広く含有される物質であるが、その特性上、鋭い酸味や酢酸独特の酢酸臭と呼ばれる強い刺激臭をもつ。その為、酢酸を含有する飲食物はいずれも鋭い酸味や酢酸臭を有している。
昨今、消費者の健康志向の高まりに伴い、酢酸を含有する食品や飲料などが支持を集めているが、それらの商品にも押し並べて同様の問題があり、酸味や酢酸臭の低減は、酢酸を含有する飲食物において非常に大きな課題となっている。
【0003】
酸味については酢酸の特徴的な呈味として消費者に十分認知されている一方で、酢酸臭は食酢飲料やスープや炒め物、煮物において酢酸臭の着香効果を期待することはほとんどなく、逆に素材本来の香りを酢酸の酢酸臭が著しく低下させるという欠点があった。
従って、酢酸の成分を維持しながら、酢酸臭の発生を低減する方法が強く望まれていた。
【0004】
また、スーパーマーケットやコンビニエンスストアー等で販売される弁当や惣菜等を購入して持ち帰って食する、いわゆる「中食」と呼ばれる食習慣が普及しているが、製造されてから比較的長時間経過後に食膳に供されることから、微生物増殖による腐敗の防止などの保存性の付与が必要であり、有機酸又はその塩類がよく用いられている(例えば、特許文献1参照)。グルコン酸やクエン酸などのいわゆる不揮発性の有機酸又はその塩類が使われる場合もあるが、防腐力の点からいえば、酢酸又はその塩類の方が効果が大きい。
しかしながら、酢酸は、炊飯米に独特の刺激のある酢酸臭を付与してしまう傾向がある。特に、酢酸を含有する炊飯米改良剤を添加した炊飯米を食する際に電子レンジ等で再加熱等すると、強い酢酸臭が発生して風味を著しく低下させるという欠点があった。
通常、酢酸等の有機酸含有炊飯米改良剤は、生米当たりの酢酸濃度を0.01〜0.1重量%程度とし、炊き上がり後の炊飯米のpHがおよそ5〜6になるようにして用いられる。
しかしながら、このような状態の炊飯米は、電子レンジ等による再加熱前であっても酢酸臭が感じられ、さらに再加熱をすることで酢酸が揮発しやすい状態となるので、刺激のある酢酸臭がより一層強くなってしまうという欠点があった。
【0005】
また、上記課題は、炊飯米に限った問題ではない。例えば、餅や茹で麺などの穀物加工食品においても防腐のために酢酸を用いることがあるが、これらの穀物加工食品は、味や香りが淡白であるため、酢酸臭が発生すると風味を損ねてしまい易いという欠点がある。
そこで、防腐力(保存性)に優れており、且つ、加工直後はもとより、穀物加工食品の再加熱の際にも酢酸臭のような刺激のある酸臭の発生を低減する方法、穀物加工改良剤、酢酸臭の発生を低減した穀物加工食品などの開発が強く望まれていた。
【0006】
このような問題点を解決するために、物理的方法や化学的方法など、様々な酢酸臭低減方法が開発されてきた。
物理的方法としては、例えば、酢酸発酵液に対してパルス磁場を印加する方法(例えば、特許文献2参照)、電磁波、超音波、遠赤外線などを照射する方法(例えば、特許文献3参照)、平均粒子径10Å以下の活性炭で吸着処理を行う方法(例えば、特許文献4参照)などが開示されているが、これらの方法には、多大な設備や運転費用がかかる上に、酸臭低減効果も充分でないなどの問題があった。
また、化学的方法としては、グリシンを添加する方法(特許文献5参照)、スクラロースを添加する方法(特許文献6参照)など多くの試みがなされてきたが、酸臭低減効果が満足できるものではなかった。また、余分な味(求めていない味)が付与されてしまうなどの問題があった。
すなわち、酢酸含有飲食物について、より簡便で効果の強い酢酸臭低減方法を開発することが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−176693号公報
【特許文献2】特開2005−117977号公報
【特許文献3】特開平3−80070号公報
【特許文献4】特開平1−265878号公報
【特許文献5】特開2001−258487号公報
【特許文献6】特開2002−95409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、簡便な手段で、且つ、風味に悪影響を及ぼさず汎用性のある、酢酸含有飲食物の効果的な酢酸臭の低減方法は未だ報告されていない。
そこで、本発明の目的は、簡便な手段であり、且つ、飲食物の味に悪影響を及ぼすことなく酢酸含有飲食物の酢酸臭(酢酸由来の鋭い刺激臭)を低減する方法を提供することであり、また、酢酸臭が低減されている酢酸含有飲食物を提供することにある。なお、本発明者らは、酢酸含有食品における酢酸臭低減の方法として、αエチルグルコシドを含有する方法、ヘキサナールを含有する方法に関する特許出願を行っており(特開2008-263793号公報、特願2008-299115号)、これらの方法も一定の酢酸臭抑制効果があるが、本発明はさらに強い酢酸臭を低減する方法を提供するものである。
【0009】
ここで挙げる酢酸含有飲食物は、大きく2種類ある。
一つは、「酢酸の呈味効果を期待した、明らかに酸味を感じる飲食物」である。
明らかに酸味を感じる飲食物とは、食酢飲料、スープ、炒め物、煮物、ドレッシングなど主に食酢を含有させて作る飲食品が挙げられ、これらの酢酸含有飲食物は、基本的に酢臭をある程度発生していても不快には感じないが、その量が多くなると不快に感じてしまうことから、酢酸臭を通常(酢酸が含有していれば通常生じる酢酸臭)よりも低減させることが目的となる。
もう一つは、「酢酸の防腐効果のみを期待した、酸味をほぼ感じない飲食物」である。
酢酸の防腐効果のみを期待した飲食物の場合は、酢酸臭が異臭と感じられ、さらには腐敗臭とも誤解される可能性があるため、酢酸臭を限りなくゼロにすることが目的となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、酢酸を含有した飲食物にカンファーやオイゲノールを酢酸に対して一定割合で含有することによって、酢酸臭発生を低減し、風味に優れた飲食物を製造することができることを見出した。
【0011】
即ち、本発明は以下のものである。
請求項1に記載の発明は、酢酸を0.01〜10質量%含有し、且つ、カンファーを酢酸100に対する含有質量比が0.00001〜0.001となる量で含有すること及び/又はオイゲノールを酢酸100に対する含有質量比が0.0001〜0.01となる量で含有すること、を特徴とする酢酸含有飲食物に関するものである。
請求項2に記載の発明は、前記酢酸含有飲食物が、酢酸を0.01〜0.1質量%含有する穀物加工食品である、請求項1に記載の酢酸含有飲食物に関するものである。
請求項3に記載の発明は、前記穀物加工食品が、炊飯米、蒸し米、餅、茹で麺のいずれか1種又は2種以上を組み合わせた食品である、請求項2に記載の酢酸含有飲食物に関するものである。
請求項4に記載の発明は、前記カンファーがジンジャー又はそのエキスに由来するものであり、前記オイゲノールがナツメグ又はそのエキスに由来するものである、請求項1〜3のいずれかに記載の酢酸含有飲食物に関するものである。
請求項5に記載の発明は、酢酸を0.01〜10質量%含有する酢酸含有飲食物中に、カンファーを酢酸100に対する含有質量比が0.00001〜0.001となる量で含有させること及び/又はオイゲノールを酢酸100に対する含有質量比が0.0001〜0.01となる量で含有させること、を特徴とする酢酸含有飲食物の酢酸臭を低減させる方法に関するものである。
請求項6に記載の発明は、前記酢酸含有飲食物が、酢酸を0.01〜0.1質量%含有する穀物加工食品である、請求項5に記載の酢酸含有飲食物の酢酸臭を低減させる方法に関するものである。
請求項7に記載の発明は、前記カンファーがジンジャーもしくはそのエキスに由来するものであり、前記オイゲノールがナツメグもしくはそのエキスに由来するものである、請求項5又は6のいずれかに記載の酢酸含有飲食物の酢酸臭を低減させる方法に関するものである。
請求項8に記載の発明は、酢酸を含有し、且つ、カンファーを酢酸100に対する含有質量比が0.00001〜0.001となる量で含有すること及び/又はオイゲノールを酢酸100に対する含有質量比が0.0001〜0.01となる量で含有すること、を特徴とする穀物加工改良剤に関するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、通常の酢酸含有飲食物における酢酸臭(酢酸由来の鋭い刺激臭)が緩和された、風味に優れた酢酸含有飲食物が提供される。
「明らかに酸味を感じる酢酸含有飲食物」においては、酢酸臭を低減する方法及び酢酸臭を低減した飲食物(酢酸飲料等)を提供することができる。
また、「酸味をほぼ感じない穀物加工食品等の飲食物」においては、酢酸臭をほぼ感じなくする方法及び酢酸臭をほぼ感じなくした穀物加工食品(中食の炊飯米等)を提供することができる。
さらに本発明においては、前記穀物加工食品を製造することが可能となる穀物加工改良剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、酢酸を含有する飲食物中に、酢酸とカンファー又はオイゲノールの含有質量比が所定量となるようにカンファー及び/又はオイゲノールを添加することで、酢酸含有飲食物の酢酸臭を低減させる方法、および、当該方法により得ることのできる、酢酸臭が低減された酢酸含有飲食物、に関する発明である。
【0014】
〔酢酸含有飲食物〕
本発明の対象となる酢酸含有飲食物は、酢酸含有量が比較的高い(例えば0.1〜10質量%)飲食物と、酢酸含有量が比較的低い(例えば0.01〜0.1質量%)飲食物とに分けることができる。
【0015】
本発明の対象となる酢酸含有量が比較的高い(例えば0.1〜10質量%)飲食物は、「明らかに酸味を感じる酢酸含有飲食物」であり、その飲食物としては特に限定がない。
例えば、食酢や食酢を原料に用いて製造された清涼飲料水や豆乳などの飲料、ポン酢、ドレッシング、酸たれなどの調味料、酸辣湯などのスープ、などの他、炒め物、煮物、寿司、酢の物、サラダ、などの飲食物を挙げることができる。
これらの酢酸含有飲食物はカンファー及び/又はオイゲノールを含有する点を除けば、通常行われる方法で製造することができる。本発明における酢酸の含有方法としては、酢酸を単体の物質として添加することにより含有させてもよいし、酢酸を含有する飲食物(代表的な飲食物として食酢)を添加して含有させることによって、結果として酢酸を含有させてもよい。また、酢酸は、加工段階で含有させてもよいし、加工後、喫食時までの間に含有させてもよい。
これらの酢酸含有飲食物において、酢酸が0.1質量%に満たない場合は、酢酸臭は不快に感じない程度しかなく、酢酸臭を低減させたいという課題がほとんど生じない。一方、酢酸が10質量%より多いと、元々の酢酸臭の量が多いため、カンファー及び/又はオイゲノールの特有の風味を感じない程度の量で含有してもほとんど酢酸臭低減の効果は感じられない。
【0016】
一方、本発明の対象となる、酢酸含有量が比較的低い(例えば0.01〜0.1質量%)飲食物は、「酸味をほぼ感じない穀物加工食品等の飲食物」であり、穀物加工食品とは、米、大麦、小麦、豆、とうもろこし等の穀物を加工することによって人が食するように加工したものを言う。
例えば、米に炊飯という加工を施した炊飯米や、小麦粉を水で練った生麺や乾麺に茹で加工を施した茹で麺などである。他には、蒸し米、餅、パン等、味や香りが淡白な穀物加工飲食物が該当する。本発明においては、これらの中でも炊飯米、蒸し米、餅、茹で麺のいずれか1種又は2種以上であることが好ましく、特に炊飯米は本発明の効果を顕著に感じやすく好適である。
なお、酸味や酢酸臭が気にならないような穀物加工食品、例えば、寿司に用いる酢飯などは、本来、酢酸臭があることが普通であるため、上記した「明らかに酸味を感じる酢酸含有飲食物」(酢酸含有量が0.1〜10質量%)に含まれる飲食物である。
【0017】
当該穀物加工食品において酢酸は、防腐目的で含有させるものであり、穀物加工食品当り0.01〜0.1質量%であることが必要であるが、好ましくは0.01〜0.06質量%、さらに好ましくは0.02〜0.05質量%がよい。
酢酸含有量が0.1質量%を超えると、酸味及び酢酸臭が強く出てしまい、味や香りが淡白な穀物加工食品の本来の香味を損なってしまう。また、0.01質量%より少ないと防腐効果を十分に得られない。
また、穀物加工食品のpHとしては、求める味や防腐効果によって範囲は決められるものであり一概には規定できないが、両者を兼ね備えることを考えると、pHが5.0〜6.2であることが適当であり、さらには5.2〜5.8が好ましい。pHが5.0より低いと、酸味が強く出てしまう可能性があり、味が淡白な穀物加工食品の本来の味を損なってしまう。また、pHが6.2より高いと、防腐効果を十分に得られない可能性がある。
【0018】
本発明における穀物加工食品の商品形態としては特に限定されないが、常温もしくは低温にて流通販売され、喫食時に電子レンジ等の加温調理器具にて常温もしくは高温に加熱される、すなわちコンビニエンスストア、スーパーマーケットやテイクアウト惣菜店等で販売される弁当、おにぎり、調理麺等が主に該当するが、特には、弁当、おにぎりを挙げることができる。
【0019】
〔カンファーとオイゲノールの酢酸臭低減能〕
本発明の酢酸含有飲食物はカンファー及び/又はオイゲノールを含有する点を除けば、通常行われる方法で製造することができる。
本発明における酢酸の含有方法としては、酢酸を単体の物質として添加することにより含有させてもよいし、酢酸を含有する飲食物(代表的な飲食物として食酢)を添加して含有させることによって、結果として酢酸を含有させてもよい。
また、酢酸は、加工段階で含有させてもよいし、加工後、喫食時までの間に含有させてもよい。
例えば、炊飯米においては、炊飯時に食酢等を適量添加して含有させてもよいし、炊飯後に食酢含有水等を振りかけて含有させてもよい。なお、防腐効果を炊飯米に均一に持たせるには炊飯時に添加した方が好ましい。なお、これは茹で麺など、他の穀物加工食品においても同様のことが言える。
【0020】
本発明は酢酸臭を抑制するとともに、酢酸臭抑制素材(カンファー及び/又はオイゲノール)自体の臭いも感じさせることのないため、本発明はこのような商品には特に好適に用いることができる。
「カンファー」とは、半透明の昇華性粒状結晶で、α−ピネンより合成される化合物であり、特有の樟脳のような香気を有する。カンファーを含有する飲食物としては、例えばジンジャー、セージ、ウコンを挙げることができる。
「オイゲノール」とは、微黄色の透明な液体で、強いスパイシーな香気を有する。クローブオイル、シナモンリーフオイルなどの精油中に見出されていて、グアヤコールを原料に合成する方法が知られている。オイゲノールを含有する飲食物としては、上記の他に、例えばナツメグ、オールスパイス、バジリコ、バナナ、ローリエ、クローブを挙げることができる。
【0021】
本発明において、酢酸を0.01〜10質量%含有した酢酸含有飲食物にカンファーを用いる場合は、酢酸とカンファーの含有質量比が100対0.00001〜100対0.001であることが必須であり、100対0.00005〜100対0.0005が好ましい。
また、酢酸を0.01〜10質量%含有した酢酸含有飲食物にオイゲノールを用いる場合は、酢酸とオイゲノールの含有質量比が100対0.0001〜100対0.01であることが必須であり、100対0.0005〜100対0.005がより好ましい。
カンファーやオイゲノールの酢酸に対する比率が、上記必須の範囲より少ないと、酢酸臭が充分に低減せず好ましくない。一方、必須の範囲より多くカンファーやオイゲノールを含有しても酢酸臭の改良効果は向上せず、かえってカンファーやオイゲノール自体の香りが感じられるようになり、飲食品としての香りに違和感が生じ好ましくない。特に、米飯加工食品のような淡白な風味の食品の場合は、カンファーやオイゲノール自体の香りが感じられることは好ましくない。
【0022】
また、本発明において、酢酸含有飲食物の全量に対するカンファーの含有率(絶対値)は1ppm以下であることが望ましい。また、酢酸含有飲食物の全量に対するオイゲノールの含有率(絶対値)は10ppm以下であることが望ましい。
カンファーやオイゲノールの含有率(絶対値)が上記値より大きいと、酢酸との比率に関わらず、それ自身の香りが強く感じられるようになり飲食品としての香りに違和感が生じ好ましくない。
【0023】
本発明におけるカンファーやオイゲノールの含有方法としては、カンファーやオイゲノールを単体の物質として添加することにより含有させてもよいし、カンファーやオイゲノールを含有する飲食物を添加して含有させることによって、結果として所定量のカンファーやオイゲノールを含有させてもよい。
例えば、ジンジャー、ナツメグ、又はそれらのエキスを1種又は2種以上組み合わせて酢酸含有飲食物に含有させるなどの手段によって所定量のカンファーやオイゲノールを含有させることができる。
【0024】
ジンジャーやナツメグは、粉末品、ホール品(生又は乾燥品)、ペーストなどいずれの形態であってもよい。ジンジャーやナツメグのエキスとしては、精油、絞り汁の上澄み液、水抽出物、アルコール抽出物、濃縮物、これらエキス乾燥物などいずれの形態であってもよいが、カンファー、オイゲノールを含んだ状態であることが必須である。
いずれにおいても、カンファー、オイゲノールの含有量を考慮して、酢酸含有食品に対する使用量を決定することが必要である。なお、エキスの方がカンファー、オイゲノールの濃度が高いため、使用しやすく好ましい。
【0025】
なお、本発明では、ジンジャーやナツメグを用いる場合、‘味を付与しない’範囲の量で添加することが望ましい。
例えば、ジンジャーの添加量としては、飲食物の全量に対して、0.1%以下となるように添加することが望ましい。また、ナツメグの添加量としては、飲食物の全量に対して、0.01%以下となるように添加することが望ましい。また、エキスを添加する場合はその原料使用量に換算した値が、これらの値以下になるように用いることが望ましい。
なお、通常の料理においては、ジンジャーやナツメグは‘味を付与する’目的で使用するものであるので、上記所定値を大幅に超える量のジンジャーやナツメグを添加して用いることを要する。
【0026】
本発明においては、カンファー又はオイゲノールをそれぞれ単独で用いるよりも、両者を併用する方がより酢酸臭の低減効果を高めることができるため好ましい。
両者を併用して、カンファーとオイゲノールの合計量として酢酸に対する含有質量比が100対0.001(カンファーの上限)や100対0.01(オイゲノールの上限)を超えた場合であっても、カンファーやオイゲノール自体の香りは、それぞれの物質を単独で加えた場合にのみ違和感として感じられるものである。従って、各々が上記の範囲で含有される限り、何の問題もなく両者を併用することができる。
また、本発明においては、カンファー、オイゲノールを含有するための素材としてのジンジャー及びナツメグを併用することも可能であり、ジンジャー又はナツメグを単独で用いるよりも、併用をする方がより酢酸臭の低減効果を高めることができる。
【0027】
〔穀物加工改良剤〕
また、本発明は、最終製品としての酢酸含有飲食品だけでなく、酢酸を含有させつつ且つ酢酸臭を低減したものとすることを可能とする、穀物加工の際に用いる「穀物加工改良剤」も含むものである。
例えば、カンファー及び/又はオイゲノールを適量水と混合したものであってもよいが、酢酸とカンファーの含有質量比が100対0.00001〜100対0.001、酢酸とオイゲノールの含有質量比が100対0.0001〜100対0.01となるように、酢酸とカンファー及び/又はオイゲノールを含有したものが好ましい。
また、クエン酸や酢酸ナトリウムなどの有機酸や有機酸塩、さらに還元水あめなどの糖類などを一緒に含有し、複数の機能を持たせたものとしてもよい。
【0028】
特に、炊飯米改良剤として用いた場合、本発明の効果が顕著に発揮できるため好適である。ここで炊飯米改良剤とは、米を炊飯する時に用いて炊飯米の品質を改良する形態ものと、炊飯後に用いて炊飯米の品質を改良する形態のもの、の両方を含むものである。
特には、米や原料との混合均一の観点から、炊飯する時に用いる形態のものが好適である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。ただし、本発明を限定するものではない。
【0030】
〔実施例1〕 酢酸含有飲食物(酢酸溶液)へのカンファー又はオイゲノールの酢酸臭低減効果の検証
(1)酢酸およびカンファー又はオイゲノールを含有する溶液の準備
合成酢酸を希釈して、酢酸濃度を0.1質量%、1質量%、10質量%の3段階に希釈した酢酸溶液(氷酢酸を使用)を作成した。そして、各酢酸溶液についてカンファー又はオイゲノールを、それぞれ質量比で酢酸100に対して、0.00001、0.0001、0.001、0.01、0.1の5段階で加えたもの、及びカンファーもオイゲノールも加えないもの(対照区)の計36種類に調整したサンプルを準備した。
なお、本試験においては、カンファー又はオイゲノールを加える前の段階で酢酸濃度を調整しているが、カンファー又はオイゲノールは極微量のため添加後の酢酸濃度の変化は無視できるレベルである。
【0031】
(2)熟練評価者による酢酸臭評価
以上の工程にて作成した溶液を、熟練評価者により各々の酢酸臭と異臭の程度について評価した。
なお、当該酢酸臭の評価は、比較的酢酸含有量が高い範囲にある飲食物での試験であり、‘酢酸臭の低減’が主な目的になることが多いため、(絶対評価ではなく)カンファー・オイゲノール無添加区を対照とした比較評価とした。また、異臭の評価については、カンファー又はオイゲノール臭を絶対評価によって評価した。
評価は下記の基準にて○△×を付けることにより行った。カンファーについての結果を表1に、オイゲノールについての結果を表2に示した。(表中の「ppm」は、カンファー又はオイゲノールの濃度を示す。)
【0032】
〔酢酸臭の評価〕
○:酢酸臭が比較対照に比べて明らかに少ない
△:酢酸臭が比較対照に比べて若干少ない(許容できる範囲)
×:酢酸臭が比較対照と同レベル
【0033】
〔異臭(カンファー又はオイゲノール臭)の評価〕
○:異臭をほとんど感じない
△:異臭を若干感じるが許容できる範囲である
×:異臭を明らかに感じる
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
表1の結果から、酢酸とカンファーの含有質量比は、100対0.00001〜100対0.001となるようにカンファーを含有させることが好ましいことがわかった。また、表2の結果から、酢酸とオイゲノールの含有質量比は、100対0.0001〜100対0.01となるようにオイゲノールを含有させることが好ましいことがわかった。
なお、カンファー又はオイゲノール含有量が同じでも異臭(カンファー又はオイゲノール臭)の評価に違いがでていることからも、カンファー又はオイゲノールの絶対量だけではなく酢酸との含有比率が影響している(酢酸の存在により異臭も低減されている)ことがわかる。
【0037】
〔実施例2〕 食酢飲料での本発明の検証
(1)カンファー又はオイゲノールを含有する食酢飲料の準備
ミツカン社製のビネグイットぶどう酢ドリンクストレート(酸度0.36質量%、酢酸濃度0.28質量%)に、カンファー又はオイゲノールを質量比で酢酸100に対して、それぞれ0.00001、0.0001、0.001、0.01、0.1の5段階で加えたもの、及びカンファー又はオイゲノールを加えないもの(対照区)の計12種類に調整したサンプルを準備した。
なお、上記試験ではカンファー又はオイゲノールを加える前の段階で酢酸濃度を測定しているが、カンファー又はオイゲノールは極微量のため添加後の酢酸濃度の変化は無視できるレベルである。
【0038】
(2)熟練評価者による酢酸臭評価
以上の工程にて作成した溶液を、熟練評価者により各々の酢酸臭と異臭の程度について評価した。
なお、当該酢酸臭の評価は、明らかな酸味を有する食酢飲料の試験であり、該飲料の場合は酢酸臭を完全に無くすことよりも、‘酢酸臭の低減’が主な目的になることが多いため、(絶対評価ではなく)カンファー・オイゲノール無添加区を対照とした比較評価とした。また、異臭の評価については、カンファー又はオイゲノール臭を絶対評価によって評価した。
評価は下記の基準にて○△×を付けることにより行った。結果を表3、表4に示した。
【0039】
〔酢酸臭の評価〕
○:酢酸臭が比較対照に比べて明らかに少ない
△:酢酸臭が比較対照に比べて若干少ない(許容できる範囲)
×:酢酸臭が比較対照と同レベル
【0040】
〔異臭(カンファー又はオイゲノール臭)の評価〕
○:異臭をほとんど感じない
△:異臭を若干感じるが許容できる範囲である
×:異臭を明らかに感じる
【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
表3の結果から、酢酸とカンファーの含有質量比が、100対0.00001〜100対0.01となるように含有させることで、食酢飲料においてもカンファー添加による酢酸臭低減効果が発揮されることが示された。
なお、本実施例においては、ぶどう酢ドリンクの香りが異臭マスキングしたことにより、酢酸に対するカンファーの含有割合(質量比)が100対0.01であるサンプルの評価でも「許容できる範囲」という評価となった。しかし、香りの薄い飲料等においてはやはり、酢酸に対するカンファーの含有割合(質量比)は、100対0.00001〜100対0.001の範囲であることが好ましい。
【0044】
また、表4の結果から、酢酸とオイゲノールの含有質量比が、100対0.0001〜100対0.1となるように含有させることで、食酢飲料においてもオイゲノール添加による酢酸臭低減効果が発揮されることが示された。
なお、本実施例においては、ぶどう酢ドリンクの香りが異臭マスキングしたことにより、酢酸に対するオイゲノールの含有割合(質量比)が100対0.1であるサンプルの評価でも「許容できる範囲」という評価となった。しかし、香りの薄い飲料等においてはやはり、酢酸に対するオイゲノールの含有割合(質量比)は、100対0.0001〜100対0.01の範囲であることが好ましい。
【0045】
〔実施例3〕 酢酸含有量の比較的低い酢酸含有飲食物(穀物加工食品)へのカンファー又はオイゲノールの酢酸臭低減効果の検証
(1)酢酸を0.01〜0.1質量%含有した酢酸含有飲食物(白飯の炊飯米)の準備
生米(福島県産こしひかり)300gを洗米し、約1時間水に浸漬した。次いで、水切りしたのち、5合釜の家庭用炊飯機に投入し、水340gと氷酢酸0.07g、0.2g、0.7g(炊飯後米飯の0.01質量%、0.03質量%、0.1質量%)を加えた。
その後、それぞれ各酢酸濃度についてカンファー又はオイゲノールを、質量比で酢酸100に対して0.00001、0.0001、0.001、0.01、0.1となる量を投入し、攪拌した後、常法により加熱して炊飯した。その後、加熱を止め、30分間の蒸らし工程を経て、炊飯を完了した。なお、当該炊飯処理によって酢酸が揮発する量は無視できる範囲である。
このようにして調製した炊飯米は、冷却後重量が660gとなり、150g入りのパック容器に充填し白飯とした。
【0046】
(2)熟練評価者による再加熱時の酢酸臭評価
以上の工程にて作成した白飯を20℃で24時間保存したのちに電子レンジで500W、1分間加熱し、90℃以上の状態で、熟練評価者により各々の酢酸臭と異臭の程度について評価した。
なお、炊飯米は‘酢酸臭を感じないこと’が好ましいため、酢酸臭と異臭の両方の評価とも、(比較評価ではなく)カンファー及びオイゲノール無添加区を含めて絶対評価にて実施した。
評価は下記の基準にて○△×を付けることにより行った。カンファーについての結果を表5に、オイゲノールについての結果を表6に示した。(表中の「ppm」は、カンファー又はオイゲノールの濃度を示す。)
【0047】
〔酢酸臭および異臭の評価〕
○:酢酸臭または異臭をほとんど感じない
△:酢酸臭または異臭を若干感じるが許容できる範囲である
×:酢酸臭または異臭を明らかに感じる
【0048】
【表5】

【0049】
【表6】

【0050】
表5の結果から、酢酸とカンファーの含有質量比が、100対0.00001〜100対0.001となるように含有することで炊飯米においてもカンファー添加による酢酸臭低減効果が発揮されることが示された。また、表6の結果から、酢酸とオイゲノールの含有質量比が、100対0.0001〜100対0.01となるように含有することで炊飯米においてもオイゲノール添加による酢酸臭低減効果が発揮されることが示された。
なお、カンファー又はオイゲノール含有量が同じでも異臭の評価に違いがでていることからも、カンファー又はオイゲノールの絶対量だけではなく、酢酸との含有比率が影響している(酢酸の存在により異臭も低減されている)ことがわかる。
【0051】
〔実施例4〕 カンファー又はオイゲノールを含有する食品による酢酸臭低減効果の検証
(1)酢酸および食品由来カンファー又はオイゲノールを含有する溶液の準備
カンファーを含有する飲食物としてジンジャーエキスを用意し、オイゲノールを含有する飲食物としてナツメグ粉末を用意した。ジンジャーエキスは、ジンジャーを摩り下ろした上澄み液であり、カンファー含有量は10ppmであった。ナツメグ粉末は、ナツメグを粉砕したものであり、オイゲノール含有量は995ppmであった。
酢酸濃度0.01質量%、0.03質量%、0.1質量%の3段階において、それぞれ酢酸100に対して、カンファー又はオイゲノールを質量比で0(無添加)、0.00001、0.0001、0.001、0.01、0.1の6段階となるようにジンジャーエキス又はナツメグ粉末を添加した試験区にて評価をおこなった。
【0052】
ここで、ジンジャーエキス又はナツメグ粉末の添加量は以下のように算出した。
例えば「酢酸0.1質量%、酢酸とカンファーの質量比が100対0.1」の炊飯米660gを調製する場合は、まずカンファー含量を算出(酢酸0.1質量%の0.1/100なのでカンファー濃度は1ppm)し、そこから必要なジンジャーエキス量を算出する。この場合、カンファー濃度を1ppmに調整したいので、10ppmのジンジャーエキスを炊飯米660gの10質量%(つまり66g)を添加する。
また、例えば「酢酸0.1質量%、オイゲノールの割合が100対0.1」の炊飯米660gを調製する場合は、まずオイゲノール含量を算出(酢酸1質量%の0.1/100なのでオイゲノール濃度は1ppm)し、そこから必要なナツメグ粉末量を算出する。この場合、オイゲノール濃度を1ppmに調整したいので、995ppmのナツメグ粉末を炊飯米660gの0.1質量%(つまり、0.66g)を添加する。
【0053】
(2)酢酸ならびに食品由来カンファー又はオイゲノールを含有する白飯の炊飯
生米(福島県産こしひかり)300gを洗米し、約1時間水に浸漬した。次いで、水切りしたのち、5合釜の家庭用炊飯機に投入し、水(340gからジンジャーエキス又はナツメグ粉末の添加量を引いた量)と氷酢酸0.07g、0.2g、0.7g(炊飯後米飯の0.01質量%、0.03質量%、0.06質量%)を加えた。
その後、それぞれ各酢酸濃度についてカンファー又はオイゲノールを、質量比で酢酸100に対して0.00001、0.0001、0.001、0.01、0.1となるようにジンジャーエキス又はナツメグ粉末を添加した。
そして、攪拌した後、常法により加熱して炊飯した。その後、加熱を止め、30分間の蒸らし工程を経て、炊飯を完了した。なお、当該炊飯処理によって酢酸が揮発する量は無視できる範囲である。
このようにして調製した炊飯米は、冷却後重量が660gとなり、150g入りのパック容器に充填し白飯とした。
【0054】
(3)熟練評価者による再加熱時の酢酸臭評価
以上の工程にて作成した白飯を20℃で24時間保存したのちに電子レンジで500W、1分間加熱し、90℃以上の状態で、熟練評価者により各々の酢酸臭と異臭の程度について評価した。
なお、炊飯米は‘酢酸臭を感じないこと’が好ましいため、酢酸臭と異臭の両方の評価とも、(比較評価ではなく)カンファー及びオイゲノール無添加区を含めて絶対評価にて実施した。
評価は下記の基準にて○△×を付けることにより行った。カンファーについての結果を表7に、オイゲノールについての結果を表8に示した。(表中の「ppm」は、カンファー又はオイゲノールの濃度を示す。)
【0055】
〔酢酸臭および異臭の評価〕
○:酢酸臭または異臭をほとんど感じない
△:酢酸臭または異臭を若干感じるが許容できる範囲である
×:酢酸臭または異臭を明らかに感じる
【0056】
【表7】

【0057】
【表8】

【0058】
表7、8の結果から、食品(ジンジャー、ナツメグ)由来のカンファー又はオイゲノールを含有させることによっても、酢酸臭の低減に効果があることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、通常の酢酸含有飲食物における酢酸臭(酢酸由来の鋭い刺激臭)が緩和された、風味に優れた酢酸含有飲食物を提供することが可能となる。
従って、本発明によれば、酢酸の成分を維持しながら、酢酸臭の発生を低減した飲食物(食酢飲料、スープ、炒め物、煮物、ドレッシングなど)を提供することが可能となる。
また、本発明によれば、防腐力(保存性)に優れており、且つ、加工直後はもとより、穀物加工飲食物の再加熱の際にも酢酸臭のような刺激のある酸臭の発生を低減した穀物加工飲食物を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸を0.01〜10質量%含有し、且つ、カンファーを酢酸100に対する含有質量比が0.00001〜0.001となる量で含有すること及び/又はオイゲノールを酢酸100に対する含有質量比が0.0001〜0.01となる量で含有すること、を特徴とする酢酸含有飲食物。
【請求項2】
前記酢酸含有飲食物が、酢酸を0.01〜0.1質量%含有する穀物加工食品である、請求項1に記載の酢酸含有飲食物。
【請求項3】
前記穀物加工食品が、炊飯米、蒸し米、餅、茹で麺のいずれか1種又は2種以上を組み合わせた食品である、請求項2に記載の酢酸含有飲食物。
【請求項4】
前記カンファーがジンジャー又はそのエキスに由来するものであり、前記オイゲノールがナツメグ又はそのエキスに由来するものである、請求項1〜3のいずれかに記載の酢酸含有飲食物。
【請求項5】
酢酸を0.01〜10質量%含有する酢酸含有飲食物中に、カンファーを酢酸100に対する含有質量比が0.00001〜0.001となる量で含有させること及び/又はオイゲノールを酢酸100に対する含有質量比が0.0001〜0.01となる量で含有させること、を特徴とする酢酸含有飲食物の酢酸臭を低減させる方法。
【請求項6】
前記酢酸含有飲食物が、酢酸を0.01〜0.1質量%含有する穀物加工食品である、請求項5に記載の酢酸含有飲食物の酢酸臭を低減させる方法。
【請求項7】
前記カンファーがジンジャーもしくはそのエキスに由来するものであり、前記オイゲノールがナツメグもしくはそのエキスに由来するものである、請求項5又は6のいずれかに記載の酢酸含有飲食物の酢酸臭を低減させる方法。
【請求項8】
酢酸を含有し、且つ、カンファーを酢酸100に対する含有質量比が0.00001〜0.001となる量で含有すること及び/又はオイゲノールを酢酸100に対する含有質量比が0.0001〜0.01となる量で含有すること、を特徴とする穀物加工改良剤。