説明

酢酸含有飲食物の製造方法、及び該方法によって製造された酢酸含有飲食物

【課題】 本発明の目的は、簡便な手段により酸味酸臭が低減された酢酸含有飲食物の製造方法を開発すること、ならびに該方法により製造された酢酸含有飲食物を提供することにある。
【解決手段】 本発明は、酢酸含有飲食物に対して、コハク酸モノエチルを4〜140ppm、好ましくは10〜50ppmとなるように含有させることを特徴とする、酸味酸臭が低減された酢酸含有飲食物の製造方法、ならびに、該方法により製造された酸味酸臭が低減された酢酸含有飲食物を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸を含有する飲食物の製造方法、及び該方法によって製造された酢酸含有飲食物に関し、さらに詳細には、コハク酸モノエチルを含有させることにより、酸味酸臭が低減された酢酸含有飲食物の製造方法と、該方法により製造された酢酸含有飲食物とに、関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸は、食酢を始めとして様々な飲食物に幅広く含有される物質であるが、その特性上、鋭い酸味や酢酸独特の酸臭と呼ばれる強い刺激臭をもつ。その為、酢酸を含有する飲食物はいずれも鋭い酸味や酸臭を有している。
昨今、消費者の健康志向の高まりに伴い、酢酸を含有する食品や飲料などが支持を集めているが、それらの商品にも押し並べて同様の問題があり、酸味酸臭の低減は酢酸を含有する飲食物において非常に大きな課題となっている。
このような問題点を解決するために、物理的方法や化学的方法など、様々な酸味酸臭低減方法が開発されてきた。
【0003】
物理的方法としては、例えば、酢酸発酵液に対してパルス磁場を印加する方法(例えば、特許文献1参照)、電磁波、超音波、遠赤外線などを照射する方法(例えば、特許文献2参照)、平均粒子径10Å以下の活性炭で吸着処理を行う方法(例えば、特許文献3参照)などが開示されているが、これらの方法には、多大な設備や運転費用がかかる上に、酸味酸臭低減効果も充分でないなどの問題があった。
【0004】
また、化学的方法としては、3−ヒドロキシ4,5−ジメチル−2(5H)−フラノンやフルフラールを添加する方法(例えば、特許文献4参照)、クロトン酸およびマルトールを含有させる方法(例えば、特許文献5参照)、高甘味度甘味料を添加する方法(例えば、特許文献6参照)、還元水飴などの糖アルコールを用いて酢カドを低減する方法(例えば、特許文献7参照)など多くの試みがなされてきたが、酸味酸臭低減効果が満足できるものではなかったり、添加した物質固有のクセが飲食物に移行し、かえって品質を悪くする場合もあるなどの問題があった。
すなわち、酢酸含有飲食物のより簡便で効果の強い酸味酸臭低減方法を開発することが求められていた。
【0005】
一方、本発明で用いるコハク酸モノエチルは、醸造物中においてはワインやシェリー、長期熟成された清酒などにおいて検出されているが(例えば、非特許文献1参照)、コハク酸モノエチルと酒類の品質などとの関連性は知られていなかった。
また、コハク酸モノエチルは、食酢などの酢酸含有飲食物からは検出されたことはなく、さわやかな酸味を呈するもののほとんど無臭であって、コハク酸モノエチルの添加によって酢酸の鋭い酸味や刺激臭が緩和されうることは全く知られていなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2005−117977号公報
【特許文献2】特開平3−80070号公報
【特許文献3】特開平1−265878号公報
【特許文献4】特開2001−69940号公報
【特許文献5】特開平6−335379号公報
【特許文献6】特開平10−215793号公報
【特許文献7】特開2004−89119号公報
【非特許文献1】日本醸造協会誌、69巻、9号、p.595〜598、1974年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、簡便な手段により、酢酸含有飲食物の効果的な酸味酸臭の低減に成功した例は、未だ報告されていない。
そこで、本発明の目的は、第一に簡便な手段により酸味酸臭(酢酸由来の鋭い酸味と刺激臭)が低減された酢酸含有飲食物の製造方法を提供することにある。さらに、該方法により製造された酢酸含有飲食物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決する為、70種類程度の物質に注目して、それぞれを酢酸含有飲食物に含有させた場合の酸味酸臭に与える影響について調べた。
その結果、驚くべきことに、それ自体はさわやかな酸味を有するものの、ほとんど無臭の物質であるコハク酸モノエチルを酢酸含有飲食物に含有させることによって、酢酸由来の鋭い酸味酸臭を低減しうることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、請求項1に係る本発明は、コハク酸モノエチルを4〜140ppmとなるように含有させることを特徴とする酢酸含有飲食物の製造方法に関する。
請求項2に係る本発明は、コハク酸モノエチルを10〜50ppmとなるように含有させることを特徴とする酢酸含有飲食物の製造方法に関する。
請求項3に係る本発明は、熟成及び/又は加熱処理した酒類を添加することによりコハク酸モノエチルを含有させる、請求項1又は2に記載の酢酸含有飲食物の製造方法に関する。
請求項4に係る本発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の方法により製造された酢酸含有飲食物に関する。
請求項5に係る本発明は、製造された酢酸含有飲食物が食酢である、請求項4に記載の酢酸含有飲食物に関する。
請求項6に係る本発明は、請求項5に記載の食酢を用いて製造された寿司酢に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、通常の酢酸含有飲食物における酸味酸臭(酢酸由来の鋭い酸味と刺激臭)が緩和された、風味に優れた酢酸含有飲食物を簡便に製造することができる。
また、本発明によれば、通常の酢酸含有飲食物における酸味酸臭(酢酸由来の鋭い酸味と刺激臭)が緩和された、風味に優れた酢酸含有飲食物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の対象となる酢酸含有飲食物には特に限定がなく、例えば、米酢,玄米酢,黒酢粕酢,麦芽酢,はと麦酢などの穀物酢や、リンゴ酢,ブドウ酢,シェリー酢,バルサミコ酢,レモン酢,カボス酢や梅酢などの果実酢、醸造アルコールを原料に製造されるアルコール酢など、各種の醸造酢の他、蒸留酢や合成酢などの食酢が挙げられる。特には、穀物酢と果実酢が挙げられる。
【0012】
また、本発明の対象となる酢酸含有飲食物としては、前記の食酢を原料に用いて製造された清涼飲料水などの飲料や、ポン酢、ドレッシング、たれなどの調味料の他、寿司、酢の物、サラダなどの飲食物を挙げることができる。
これらの酢酸含有飲食物は、通常行われる方法で製造することができる。例えば、本発明の食酢を含有する清涼飲料水の場合は、本発明の食酢に果汁や蜂蜜などを加え、適宜希釈することにより製造できる。また、本発明の食酢を含有するポン酢の場合は、例えば本発明の食酢に砂糖、塩、醤油、油、柑橘果汁、香辛料などを加えることにより、製造することができる。
また、本発明の食酢を含有する寿司酢の場合は、例えば本発明の食酢に砂糖、塩などを適量加えることにより、製造することができる。
【0013】
本発明の酢酸含有飲食物は、コハク酸モノエチルを含有することが必須である。
本発明に用いるコハク酸モノエチルは、酢酸の鋭い酸味と酢酸独特の酸臭と呼ばれる強い刺激臭(酸味酸臭)を低減することができる。
本発明では、特に酸味酸臭の強い酢酸含有飲食物を製造する場合において、より顕著な酸味酸臭の低減効果を確認することができる。
コハク酸モノエチルは、高温度、酸性下でコハク酸にエチル基がエステル結合した化合物であり、常温ではオイル状の物質であって、それ自体はさわやかな酸味を有するものの、ほとんど無臭の物質である。なお、エチル基と結合していないコハク酸は、本発明の酸味酸臭の緩和効果を奏することができない。
【0014】
酢酸含有飲食物にコハク酸モノエチルを含有させる方法としては、単一の物質としてのコハク酸モノエチルを添加することが出来るが、コハク酸モノエチルを含有する飲食物などを添加してもよい。
【0015】
なお、コハク酸モノエチルを含有する飲食物としては、例えば熟成及び/又は加熱処理した酒類を挙げることができる。
本発明において、熟成した酒類とは、3〜50年程度、好ましくは15〜30年程度に長期熟成させることを経た酒類を指す。酒類としては、ワイン、清酒、ビール、中国酒(紹興酒、老酒)などが挙げられる。具体的には、清酒やワインが挙げられる。さらには、酒精発酵液も本発明における酒類として用いることができる。
本発明において、加熱処理した酒類とは、50〜80℃程度、好ましくは70℃程度で、15〜60分間程度、好ましくは30分間程度加熱した酒類を指す。
このような加熱処理をすることによって、比較的短時間でコハク酸モノエチル含有量が向上した酒類、例えば酒精発酵液を得ることができる。
本発明では、上記のように熟成及び/又は加熱処理した酒類を添加することにより、酢酸含有飲食物のコハク酸モノエチル含有量を高めることができる。
【0016】
なお、酢酸含有飲食物が食酢である場合においては、上記のように熟成及び/又は加熱処理した酒類(例えば熟成したワインや清酒、或いは加熱処理した酒精発酵液)を、酢酸発酵終了後の酢酸発酵液に添加することにより、コハク酸モノエチルの含有量を高めることができるが、さらに、酢酸発酵の原料として、例えば加熱処理した酒精発酵液を用いることで、コハク酸モノエチルの含有量を高めることも可能である。
【0017】
本発明において、酢酸含有飲食物に含有させるコハク酸モノエチルの含有量としては、4〜140ppm程度が好ましい。なお、本発明において、コハク酸モノエチルの含有量(濃度)は重量比で表す。
ここでコハク酸モノエチルの含有量が4ppmよりも少ないと、酸味酸臭が充分に改善せず好ましくない。また、コハク酸モノエチルの含有量が140ppmを超えても、それ以上は酸味酸臭の改良効果は向上せず、かえってコハク酸モノエチル自体の味が感じられるようになり、味に違和感が生じ好ましくない。すなわち、コハク酸モノエチルの含有量の上限は140ppm程度である。
なお、本発明において、酢酸含有飲食物に含有させるコハク酸モノエチルのさらに好ましい含有量は、10〜50ppm程度である。
【0018】
本発明において、「原料である酢酸含有飲食物」もしくは「熟成及び/又は加熱処理した酒類」に含まれるコハク酸モノエチルの含有量が不明の場合には、コハク酸モノエチルの含有量を測定する。
本発明においては、これらのコハク酸モノエチルの含有量を正確に把握することにより、両者を混合後のコハク酸モノエチルの含有量を所定の値に調整することが可能となる。
なお、「原料である酢酸含有飲食物」にコハク酸モノエチルが含まれないことが明らかな場合や、「熟成及び/又は加熱処理した酒類」の代わりにコハク酸モノエチルを単一物質として添加する場合には、特に「原料である酢酸含有飲食物」や「熟成及び/又は加熱処理した酒類」に含まれるコハク酸モノエチルの含有量を測定することなく、本発明の酢酸含有飲食物を製造することが可能である。
【0019】
なお、本発明において、コハク酸モノエチルの含有量を測定する必要がある場合は、例えば以下のGC/MS分析法などによって測定することができる。
まず、等量の試薬特級ジクロロメタンを試料(固形物の場合は適当量の水などによく均質化したもの)と充分に混合し、試料中の成分を抽出する。そのようにして得られた抽出液を硫酸ナトリウムによって脱水した後、スプリットレス注入法によってガスクロマトグラフィー分析装置に注入し、分析を行う。
【0020】
ガスクロマトグラフィー分析装置としては、キャピラリーカラムが接続でき、一般的なガスクロマトグラフィー分析装置としての性能を有するものならば如何なるものでも用いることができるが、例えばHP6890 Series GC System(Agilent社製)を用いることができる。また、キャピラリーカラムは、一般的な分析に使用するものなら特に制限はないが、内膜にジメチルポリシロキサン、ジフェニル、シアノプロピルフェニル、ポリエチレングリコール、テレフタル酸修飾ポリエチレングリコールなどを含むものがよく、具体的にはTC−WAX(内径0.25mm、長さ60m、膜厚0.25μm)(GL−Sciences社製)を使用することができる。なお、試料は1μLを注入する。試料注入口の温度は200℃に設定し、移動相としてヘリウムガスを用いる。昇温プログラムは50℃にて5分保持し、その後、5℃/分にて230℃まで昇温した後、230℃にて20分保持とする。
その後、質量分析計にかけて分子量を求め、コハク酸モノエチルの関連イオンで確認、定量を行う。
【0021】
質量分析計(MS)は、一般的なマススペクトル解析性能を有するものならば如何なるものでも用いることができるが、質量分析方式としては、四重極型、イオントラップ型、飛行時間型、タンデム型のものが好ましく、例えば5973 Mass Selective Detector(Agilent社製)を用いることができる。また、試料のイオン化法は一般的な方法が採用できるが、好ましくは電子イオン化法(EI)、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)、化学イオン化法(CI)、電解脱離法(FD)などが良く、例えばイオン化法:EI、フラグメンテーター電圧:70Vの条件で分析を行うことができる。また、検出は選択イオンモニタリング(SIM)モードでターゲットイオンサイズ128、確認イオンサイズ101、55にて行うことでマススペクトル解析が可能である。
なお、定量マーカーとしては、上記のクロマトグラフィー条件にて、コハク酸モノエチルの標品(和光純薬工業社製)を試薬特級メタノールによって1000ppmに希釈し、さらに試薬特級ジクロロメタンを用いて5ppmに希釈したものを分析に供する。そのクロマトグラフパターンから保持時間40.651分付近のピークをコハク酸モノエチルのものと判定し、そのピーク面積との比較によって、試料中の成分の定量を行うことができる。
【0022】
上記の如き方法により、原料中のコハク酸モノエチルの含有量を正確に把握することによって、「原料である酢酸含有飲食物」と「熟成及び/又は加熱処理した酒類」の混合後に得られる本発明の酢酸含有飲食物のコハク酸モノエチルの含有量を所定の値に調整することが可能となる。
【0023】
このようにして、目的とする酢酸含有飲食物を製造することができる。
このようにして製造された本発明の酢酸含有飲食物は、酸味酸臭が有意にすることで非常に高い嗜好性をもつ。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
【0025】
実施例1
(1)米酢中のコハク酸モノエチル濃度の測定
市販の米酢(ミツカン社製)について、コハク酸モノエチル濃度を以下の方法により測定して、検出限界以下(検出限界0.05ppm)であることを確認した。
すなわち、米酢2mlを採り、等量の試薬特級ジクロロメタンと充分に混合し、試料中の成分を抽出する。このようにして得られた抽出液を硫酸ナトリウムによって脱水した後、スプリットレス注入法によってガスクロマトグラフィー分析装置に1μL注入し、分析を行った。
ガスクロマトグラフィー分析装置としては、HP6890 Series GC System(Agilent社製)を用い、カラムはTC−WAX(内径0.25mm、長さ60m、膜厚0.25μm)(GL−Sciences社製)を使用した。
なお、該ガスクロマトグラフィー分析装置の試料注入口の温度は200℃に設定し、移動相としてヘリウムガスを用いた。昇温プログラムは(50℃にて5分保持、5℃/分にて230℃まで昇温、230℃にて20分保持)とした。
その後、質量分析計(MS)にかけて分子量を求め、コハク酸モノエチルの関連イオンで確認し定量を行った。
質量分析計(MS)は、5973 Mass Selective Detector(Agilent社製)を用い、イオン化:EI、フラグメンテーター電圧:70Vの条件で行い、検出はSIMモードでターゲットイオンサイズ128、確認イオンサイズ101、55にて行った。
上記の条件にて、得られたクロマトグラフパターンにおける保持時間40.651分付近のピークのピーク面積比を求めて、試料中の成分の定量を行った。その結果、前記市販の米酢は、検出限界以下の濃度でしかコハク酸モノエチルを含有していないことが確認された。
【0026】
(2)米酢へのコハク酸モノエチルの添加
このようにして検出限界以下の濃度でしかコハク酸モノエチルを含有していないことが確認された市販の米酢に対して、コハク酸モノエチル(和光純薬工業社製)を、1ppm(試験区A)、4ppm(試験区B)、10ppm(試験区C)、50ppm(試験区D)、140ppm(試験区E)、200ppm(試験区F)の各濃度になるように添加したものを調製した。
このようにして調製した、コハク酸モノエチル濃度が異なる米酢を、熟練した官能検査員20名による官能検査に供し、何も添加していない米酢を対照サンプルとして比較し、食酢の酸味酸臭及び味の違和感について相対的に評価した。また、その結果を表1に示した。
【0027】
なお、酸味酸臭についての評価は、市販米酢にコハク酸モノエチルを上記濃度で添加したものと、コハク酸モノエチル無添加の対照とを官能検査員に提示し、風味を総合的に判断した上で酸味酸臭が少ないと思われるサンプルを選択させる形式で実施した。
その結果を集計し、有意差が認められないもの(20人中12人以下が選択)については「×」を、20%有意水準(20人中13人が選択)で有意差が認められるものに関しては「△」を、10%有意水準(20人中14人が選択)で有意差が認められるものについては「○」を、5%有意水準(20人中15人以上が選択)で有意差が認められるものについては「◎」として表した。すなわち、「×」、「△」、「○」、「◎」となるにつれて、酸味酸臭が改善されたサンプルであることを示している。
【0028】
また、味の違和感についての評価についても、上記と同様に、コハク酸モノエチルを上記濃度で添加したものと、コハク酸モノエチル無添加の対照とを官能検査員に提示し、違和感が強いと思われる方を選択させる形式で実施した。
その結果を集計し、有意差が認められないもの(20人中12人以下が選択)については「◎」を、20%有意水準(20人中13人が選択)で有意差が認められるものに関しては「○」を、10%有意水準(20人中14人が選択)で有意差が認められるものについては「△」を、5%有意水準(20人中15人以上が選択)で有意差が認められるものについては「×」として表した。すなわち、「×」、「△」、「○」、「◎」となるにつれて、味の違和感が少なくなることを示している。
【0029】
【表1】

【0030】
表1から明らかなように、コハク酸モノエチルが4ppm以上含まれる米酢は、酢酸の鋭い酸味酸臭が和らぎ、まろやかな風味を有していた。
また、このような効果は、コハク酸モノエチルの添加量を増加させるにつれて増大するが、その効果は140ppm程度で頭打ちとなることが分かった。なお、コハク酸モノエチルの含有量が増えるにつれて、味の違和感が徐々に強くなり、140ppm以上であるとそれが無視しがたくなってしまい、好ましくない味になってしまうことも判明した。
すなわち、好ましいコハク酸モノエチルの添加量は4〜140ppmの濃度範囲内であり、特に好ましくは10〜50ppmであることが確認された。
【0031】
実施例2
(1)ブドウ酢中のコハク酸モノエチル濃度の測定
市販のブドウ酢(ミツカン社製)について、コハク酸モノエチル濃度を実施例1と同様にして測定し、検出限界以下(検出限界0.05ppm)であることを確認した。
【0032】
(2)ブドウ酢へのコハク酸モノエチルの添加
市販のブドウ酢に添加するコハク酸モノエチルの供給源となる酒類としては、ヴィンテージワイン(1981年産の25年熟成のフランス産赤ワイン(ラフィット社製))を、75℃で30分間加熱処理することでさらにコハク酸モノエチル含有割合を高めたものを用いた。なお、ヴィンテージワインのコハク酸モノエチル濃度についても、実施例1と同様にして測定した。
その後、前記市販のブドウ酢90重量部に対して、前記の長期熟成後加熱処理したヴィンテージワインを10重量部添加することで、最終的なブドウ酢中のコハク酸モノエチル濃度が25ppmになるようにした。
このようにして調製されたコハク酸モノエチルを含有するブドウ酢(試験区G)を、実施例1と同様にして、官能検査員20名による官能検査に供し、上記ヴィンテージワインを添加していないブドウ酢(対照)と、実施例1と同様にして、比較した。その結果を表2に示した。
【0033】
【表2】

【0034】
表2から明らかなように、加熱したヴィンテージワインを添加することでコハク酸モノエチルを25ppm含有せしめたブドウ酢は、未含有のものに比べて明確に酸味酸臭が有意に低減していることが確認された。
【0035】
実施例3
(1)米酢中のコハク酸モノエチル濃度の測定
市販の米酢(ミツカン純米酢金封(ミツカン社製))について、コハク酸モノエチル濃度を実施例1と同様にして測定し、検出限界以下(検出限界0.05ppm)であることを確認した。
【0036】
(2)米酢へのコハク酸モノエチルの添加
市販の米酢に添加するコハク酸モノエチルの供給源となる酒類としては、長期熟成日本酒(1991年産の15年熟成の清酒(白木恒輔商店製))を、75℃で30分間加熱処理することでさらにコハク酸モノエチル含有割合を高めたものを用いた。なお、長期熟成日本酒のコハク酸モノエチル濃度についても、実施例1と同様にして測定した。
その後、実施例2と同様に、前記市販の米酢90重量部に対して、前記の加熱処理した長期熟成日本酒10重量部を混合し、最終的なコハク酸モノエチル濃度が15ppmとなるように含有せしめた米酢(試験区H)を調製した。
このようにして調製したコハク酸モノエチルを含有する米酢(試験区H)を官能検査員20名による官能検査に供し、何も添加していない米酢を対照として比較し、食酢の酸味酸臭及び味の違和感について、実施例1と同様にして、評価した。その結果を表3に示した。
【0037】
【表3】

【0038】
表3から、加熱した長期熟成日本酒を米酢に添加することで、コハク酸モノエチルを15ppm含有せしめた米酢においては、有意に酸味酸臭が低減されていることが確認された。
【0039】
実施例4(寿司酢の調製)
実施例3で作製したコハク酸モノエチルを15ppm含有せしめた米酢ならびに比較対照の無添加の米酢をベース酢として、寿司酢(寿司飯1升用、米酢:200ml、砂糖:大さじ2.5杯、塩:大さじ2.5杯)を調製した。
【0040】
寿司飯の調製には平成18年度産の滋賀県産のコシヒカリを使用した。一般的な家庭用炊飯器を用いて炊飯を行い、前記寿司酢を米1升分の米飯に対して全量使用し、団扇で扇ぎ荒熱を取りながら杓文字で寿司酢と米飯をよく馴染ませた。
このようにして調製された寿司飯(試験区I)を官能検査員20名による官能検査に供し、無添加の米酢をベース酢として用いた寿司酢を用いて調製された寿司飯を対照として比較し、長期熟成日本酒を添加しコハク酸モノエチル濃度を15ppm含有せしめた米酢をベース酢として用いた寿司酢から製造した寿司飯の酸味酸臭及び味の違和感について、実施例1と同様に、評価した。その結果を表4に示した。
【0041】
【表4】

【0042】
表4から、長期熟成日本酒を添加し、コハク酸モノエチルを15ppm含有せしめた米酢をベース酢として用いた寿司酢を用いて寿司飯を製造することで、未添加のものに比べて酸味酸臭が低減された寿司飯を製造することができることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、食酢をはじめとする酢酸含有飲食物における酢酸由来の鋭い酸味と刺激臭を緩和することができ、風味に優れた酢酸含有飲食物を簡便に製造することを可能にする。
従って、本発明は、食品産業において有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コハク酸モノエチルを4〜140ppmとなるように含有させることを特徴とする酢酸含有飲食物の製造方法。
【請求項2】
コハク酸モノエチルを10〜50ppmとなるように含有させることを特徴とする酢酸含有飲食物の製造方法。
【請求項3】
熟成及び/又は加熱処理した酒類を添加することによりコハク酸モノエチルを含有させる、請求項1又は2に記載の酢酸含有飲食物の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法により製造された酢酸含有飲食物。
【請求項5】
製造された酢酸含有飲食物が食酢である、請求項4に記載の酢酸含有飲食物。
【請求項6】
請求項5に記載の食酢を用いて製造された寿司酢。