説明

酵母エキスの製造方法

【課題】 回収効率を上昇させた、超臨界流体による酵母エキス抽出方法を提供すること。
【解決手段】 酵母懸濁液に超臨界状態の二酸化炭素を接触させた後、減圧して大気圧に戻すことにより酵母懸濁液から二酸化炭素を分離し、その後、該懸濁液を加熱することを特徴とする。二酸化炭素分離後の懸濁液の加熱は、80〜100℃で1〜60分、望ましくは80〜90℃で5〜30分とする。酵母懸濁液に超臨界状態の二酸化炭素を接触させる工程において、被処理液の圧力は10〜100MPa、温度は40〜110℃とする。減圧工程においては、処理圧力から大気圧への減圧に要する時間は1秒以内とすることが望ましい。この二酸化炭素分離後の加熱により、減圧の際に十分放出されなかった酵母細胞中の二酸化炭素が完全に放出されるようになり、酵母エキスの抽出が更に進む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の細胞内物質を抽出する方法に関するものであり、特に核酸成分の収量増加と風味保存性に優れた酵母エキスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物(特に微生物)の核酸成分は、食品材料としても用いられる。例えば、カツオ節うま味成分は、核酸構成成分の一種であるイノシン酸のヒスチジン塩から成り、その原料として、酵母の核酸成分(RNA)が用いられる。酵母の核酸成分は、酵母の細胞を破壊して得られる酵母エキスから抽出されるが、酵母の細胞破砕を目的とした処理方法としては、超音波処理、フレンチプレス、ヒュープレス、ホモジナイザー、ビーズミルなどの機械的方法、酸加水分解、アルカリ処理、塩、界面活性剤の添加などの化学的方法、酵素処理あるいは自己消化法などの生化学的方法等がある。
【0003】
また、菌体培養液を超臨界状態あるいは擬臨界状態の溶解溶剤と混合後、圧力を瞬時に下げることで菌体を粉砕する方法が提案されている(特許文献1)。更に、菌体懸濁液に超臨界状態の微小泡状CO2を供給することで菌体細胞内へ効率よくCO2を浸透させる方法及び装置が報告されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開昭62-285777号公報
【特許文献2】特開2002-078478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記機械的方法は、他の物質の混入がなく、比較的簡便ではあるが、摩擦や流体運動により熱が生ずるため、被処理物の温度が上昇し、その特性が劣化する場合があるという問題がある。化学的及び生化学的方法は、細胞からの目的物質の回収を選択的に行うことができるという利点を有するが、処理後に加えた薬剤や酵素を分離しなければならず、工程が複雑になると共に、完全な分離が困難な場合が多い。最も一般的な方法である酵素処理法は、処理時間が長いことと、酵素分解によって新たな苦みやエグ味が加わる等の問題がある。
【0005】
このように、従来の酵母エキス抽出方法はいずれも深刻な課題を抱えていたが、超臨界流体を用いた方法は、これらの多くの課題を解決した画期的な処理であった。
しかし、上記従来の超臨界流体法は、実際の生産工程に適用するには、回収効率の点でさらなる改善の余地があった。
本発明が解決しようとする課題は、回収効率を上昇させた超臨界流体による酵母エキス抽出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために成された本発明に係る酵母エキスの製造方法は、
酵母懸濁液に超臨界状態の二酸化炭素を接触させた後、減圧して大気圧に戻すことにより酵母懸濁液から二酸化炭素を分離し、その後、該懸濁液を加熱することを特徴とする。
【0007】
ここで、二酸化炭素分離後の懸濁液の加熱は、80〜100℃で1〜60分とすることが望ましい。
【0008】
さらには、80〜90℃で5〜30分とすることがなお望ましい。
【0009】
また、酵母懸濁液に超臨界状態の二酸化炭素を接触させる工程において、被処理液の圧力は10〜100MPa、温度は40〜110℃とすることが望ましい。
【0010】
そして、減圧工程においては、処理圧力から大気圧への減圧に要する時間は1秒以内とすることが望ましい。
【0011】
処理対象の酵母としては、Saccaromyces属またはCandida属のものを特に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る方法により、原料となる酵母懸濁液より酵母エキスを従来よりも高い効率で抽出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る方法を用いた酵母エキス製造装置の一例を図1により説明する。この装置10は、原料タンク11、ボンベ12、溶解槽13、減圧槽14、回収タンク15を備えている。原料タンク11には原料となる酵母懸濁液が貯留されており、ボンベ12には液体二酸化炭素が封入されている。原料タンク11及びボンベ12はそれぞれ原料供給管21及び二酸化炭素供給管22によって溶解槽13の底部と接続されている。溶解槽13底部の二酸化炭素供給管22の出口にはミクロフィルタ16が設けられている。原料供給管21及び二酸化炭素供給管22の途上にはそれぞれポンプ31、32が配設され、二酸化炭素供給管22途上のポンプ32の前には冷却器33が設けられている。溶解槽13の上部は送液配管23により減圧槽14と接続され、その途上には第1加熱コイル34、保持コイル35、圧力調整弁36が配設されている。減圧槽14の底部には加熱配管24が設けられており、その下に回収タンク15が配置されている。加熱配管24には第2加熱コイル37が設けられている。減圧槽14の上部には二酸化炭素リサイクル管25の一端が接続され、リサイクル管25の他端は二酸化炭素供給管22に接続されている。
【0014】
上記酵母エキス製造装置10の作用は以下の通りである。まず、各供給管21、22のポンプ31、32を起動し、原料タンク11及びボンベ12から酵母懸濁液及び二酸化炭素を溶解槽13の底部に送り込む。二酸化炭素はミクロフィルタ16により直径数百μm程度に微細化され、微小泡として溶解槽13の内部に送り込まれる。
【0015】
ここで、圧力調整弁36を適宜調節しておくことにより、両ポンプ31、32と圧力調整弁36の間の溶解槽13及び送液配管23の間の被処理液及びそれに含まれる二酸化炭素の圧力を所望の値に設定しておくことができる。
【0016】
酵母懸濁液は、高圧二酸化炭素の微小泡と共に溶解槽13内を上へ向かって流れて溶解槽13の上部に到達し、送液配管23に流入する。その間、微小泡化された二酸化炭素は酵母懸濁液に効率よく、高い濃度まで溶け込む。そして、酵母懸濁液中に浮遊する酵母細胞の細胞膜又は細胞壁を構成する脂質二重膜に浸透し、その一部を破壊する。
【0017】
酵母懸濁液と二酸化炭素の混合液は、送液配管23を流れる間、その途上に配設された第1加熱コイル34により加熱される。圧力調整弁36により設定された圧力と、この第1加熱コイル34により設定された温度により、酵母懸濁液中の二酸化炭素は超臨界状態又は亜臨界状態となる。本発明の場合、その圧力は10〜100MPa、温度は40〜110℃とするのが適当である。超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素を含む酵母懸濁液は、保持コイル35を流れる所定時間の間、その状態で保持される。これにより、更に大量の二酸化炭素が酵母細胞中に侵入する。
【0018】
保持コイル35を出た酵母懸濁液は、圧力調整弁36を通過する際に急速に(1秒以内に)大気圧に減圧される。この急速な圧力低下により、酵母細胞の細胞膜又は細胞壁に浸透した超臨界状態又は亜臨界状態の二酸化炭素が急激に膨張し、気化する。これにより、細胞膜又は細胞壁は確実に破壊され、酵母エキスが懸濁液中に抽出される。
【0019】
圧力調整弁36を出た酵母懸濁液は減圧槽14に入り、ここで二酸化炭素ガスが酵母懸濁液から分離される。分離された二酸化炭素ガスはリサイクル管25を通じて二酸化炭素供給管22に戻り、再利用される。二酸化炭素ガスが分離された懸濁液は次に第2加熱コイル37を通過し、回収タンク15に貯まる。この第2加熱コイル37における加熱により、前記急速減圧の際に十分放出されなかった酵母細胞中の二酸化炭素が完全に放出され、酵母エキスの抽出が更に進む。本発明の場合、その処理温度は80〜100℃、処理時間は1〜60分とするのが適当であり、さらには、温度を80〜90℃、時間を5〜30分とするのが、酵母細胞の破壊率(酵母エキスの抽出率)と処理時間の兼ね合いから適当である。回収タンク15に貯められた処理済みの懸濁液は、その後、濾過、遠心分離等による細胞壁等の分離処理等が行われ、酵母エキスが抽出される。
【0020】
なお、図1の装置10は連続式処理装置であるが、本発明に係る方法はバッチ処理に対して適用することも可能である。
【実施例】
【0021】
本発明に係る方法の効果を確認するため、次のような実験を行った。
【0022】
[実施例1](パン酵母エキス)
市販のパン酵母(水分81.5%)2700gに水486gを加え、ミクロバブル超臨界CO2殺菌装置「MBSS-1000」(株式会社島津製作所製)を用いて細胞破砕処理を行った。処理条件は次の通りである。加熱コイル及び保持コイルの温度:90℃、圧力:30MPa、懸濁液供給ポンプの回転速度:35rpm(酵母懸濁液の流量にして約10mL/min)、CO2供給ポンプの回転速度:40rpm(液体CO2の流量にして約5mL/min)。
【0023】
上記処理液350gを80〜90℃で10分間加熱後、60℃に下げてその温度で保持し、48%水酸化ナトリウム水溶液でpH5.9に調整して、ヌクレアーゼ(商品名「ヌクレアーゼG」、天野製薬株式会社製)0.4gを添加した。その15分後にデアミザイム(商品名「デアミザイムM」天野製薬株式会社製)0.4gを添加し、17時間酵素分解を行った。酵素処理後、90℃で加熱失活を行い、全量が365gとなるように加水調整した後、遠心分離(8000rpm×15分)にて清澄液を回収し、パン酵母エキス259.4g(Brix 10.0%)を得た。
【0024】
[比較例1](パン酵母エキス)
市販のパン酵母(水分81.5%)2700gに水486gを加え、ミクロバブル超臨界CO2殺菌装置「MBSS-1000」(株式会社島津製作所製)にて、加熱及び保持コイル90℃、圧力30MPa、懸濁液供給ポンプ35rpm(≒10mL/min)、CO2供給ポンプ40rpm(≒5mL/min)の条件で処理を行った。
【0025】
上記処理液350gを60℃に保温し、48%水酸化ナトリウム水溶液でpH5.9に調整した後、ヌクレアーゼ(商品名「ヌクレアーゼG」、天野製薬株式会社製)0.4gを添加した。さらにその15分後にデアミザイム(商品名「デアミザイムM」天野製薬株式会社製)0.4gを添加し、17時間酵素分解を行った。酵素処理後、90℃で加熱失活を行い、全量が365gとなるように加水調整した後、遠心分離(8000rpm×15分)にて清澄液を回収し、パン酵母エキス259.4g(Brix 9.2%)を得た。
【0026】
[比較例2](パン酵母エキス)
市販のパン酵母(水分81.5%)287gに水63gを加えて80〜90℃で10分間加熱した後、60℃に保温し、48%水酸化ナトリウム水溶液でpH5.9に調整した後、ヌクレアーゼ(商品名「ヌクレアーゼG」、天野製薬株式会社製)0.4gを添加した。さらにその15分後に、デアミザイム(商品名「デアミザイムM」天野製薬株式会社製)0.4gを添加し、17時間酵素分解を行った。酵素処理後、90℃で加熱失活を行い、全量が365gとなるように加水調整した後、遠心分離(8000rpm×15分)にて清澄液を回収し、パン酵母エキス260.0g(Brix 9.8%)を得た。
【0027】
[比較例3](パン酵母エキス)
市販のパン酵母(水分81.5%)287gに水63gを加えて80〜90℃で10分間加熱した後、60℃に保温し、48%水酸化ナトリウム水溶液でpH5.9に調整後、細胞壁溶解酵素(商品名「YL-15」、天野製薬株式会社製)0.27g、ヌクレアーゼ(商品名「ヌクレアーゼG」、天野製薬株式会社製)0.4gを添加した。さらにその15分後にデアミザイム(商品名「デアミザイムM」天野製薬株式会社製)0.4gを添加し、17時間酵素分解を行った。酵素処理後、90℃で加熱失活を行い、全量が365gとなるように加水調整した後、遠心分離(8000rpm×15分)にて清澄液を回収し、パン酵母エキス284.8g(Brix 12.8%)を得た。
【0028】
[実施例2](パン酵母エキス)
市販のパン酵母(水分81.5%)2700gに水486gを加え、ミクロバブル超臨界CO2殺菌装置「MBSS-1000」(株式会社島津製作所製)にて、加熱及び保持コイル90℃、圧力25MPa、懸濁液供給ポンプ105rpm(≒30mL/min)、CO2供給ポンプ120rpm(≒15mL/min)の条件で処理を行った。
【0029】
上記処理液350gを80〜90℃で10分間加熱後、60℃に保温し、48%水酸化ナトリウム水溶液でpH5.9に調整後、ヌクレアーゼ(商品名「ヌクレアーゼG」、天野製薬株式会社製)0.4gを添加した。さらにその15分後にデアミザイム(商品名「デアミザイムM」天野製薬株式会社製)0.4gを添加し、17時間酵素分解を行った。酵素処理後、90℃で加熱失活を行い、全量が365gとなるように加水調整した後、遠心分離(8000rpm×15分)にて清澄液を回収し、パン酵母エキス252.9g(Brix 9.2%)を得た。
【0030】
[実施例3](パン酵母エキス)
市販のパン酵母(水分81.5%)2700gに水486gを加え、ミクロバブル超臨界CO2殺菌装置「MBSS-1000」(株式会社島津製作所製)にて、加熱及び保持コイル90℃、圧力25MPa、懸濁液供給ポンプ42rpm(≒12mL/min)、CO2供給ポンプ24rpm(≒3mL/min)の条件で処理を行った。
【0031】
上記処理液350gを80〜90℃で10分間加熱後、60℃に保温し、48%水酸化ナトリウム水溶液でpH5.9に調整後、ヌクレアーゼ(商品名「ヌクレアーゼG」、天野製薬株式会社製)0.4gを添加した。さらにその15分後にデアミザイム(商品名「デアミザイムM」天野製薬株式会社製)0.4gを添加し、17時間酵素分解を行った。酵素処理後、90℃で加熱失活を行い、全量が365gとなるように加水調整した後、遠心分離(8000rpm×15分)にて清澄液を回収し、パン酵母エキス247.6g(Brix 9.6%)を得た。
【0032】
[実施例4](ビール酵母エキス)
ビール醸造に使用した後のビール酵母3200g(水分92.8%)を遠心分離(8000rpm×15分)によって分離し、上澄み部を廃棄した。廃棄した分だけ水を加えた後、同様の操作を繰り返し、洗浄を行った。洗浄したビール酵母3000gをミクロバブル超臨界CO2殺菌装置「MBSS-1000」(株式会社島津製作所製)にて、加熱及び保持コイル90℃、圧力25MPa、懸濁液供給ポンプ35rpm(≒10mL/min)、CO2供給ポンプ40rpm(≒5mL/min)の条件で処理を行った。
【0033】
上記処理液300gを80〜90℃で10分間加熱後、60℃に保温し、48%水酸化ナトリウム水溶液でpH5.9に調整した後、ヌクレアーゼ(商品名「ヌクレアーゼG」、天野製薬株式会社製)0.05gを添加した。さらにその15分後にデアミザイム(商品名「デアミザイムM」天野製薬株式会社製)0.05gを添加し、17時間酵素分解を行った。酵素処理後、90℃で加熱失活を行い、全量が365gとなるように加水調整した後、遠心分離(8000rpm×15分)にて清澄液を回収し、ビール酵母エキス252.8g(Brix 3.0%)を得た。
【0034】
[比較例4](ビール酵母エキス)
ビール醸造に使用した後のビール酵母3200g(水分92.8%)を遠心分離(8000rpm×15分)によって分離し、上澄み部を廃棄した。廃棄した分だけ水を加えた後、同様の操作を繰り返し、洗浄を行った。洗浄したビール酵母3000gをミクロバブル超臨界CO2殺菌装置「MBSS-1000」(株式会社島津製作所製)にて、加熱及び保持コイル90℃、圧力25MPa、懸濁液供給ポンプ35rpm(≒10mL/min)、CO2供給ポンプ40rpm(≒5mL/min)の条件で処理を行った。
【0035】
上記処理液300gを60℃に保温し、48%水酸化ナトリウム水溶液でpH5.9に調整した後、ヌクレアーゼ(商品名「ヌクレアーゼG」、天野製薬株式会社製)0.05gを添加した。さらにその15分後にデアミザイム(商品名「デアミザイムM」天野製薬株式会社製)0.05gを添加し、17時間酵素分解を行った。酵素処理後、90℃で加熱失活を行い、全量が365gとなるように加水調整した後、遠心分離(8000rpm×15分)にて清澄液を回収し、ビール酵母エキス259.4g(Brix 2.8%)を得た。
【0036】
[比較例5](ビール酵母エキス)
ビール醸造に使用した後のビール酵母3200g(水分92.8%)を遠心分離(8000rpm×15分)によって分離し、上澄み部を廃棄した。廃棄した分だけ水を加えた後、同様の操作を繰り返し、洗浄を行った。洗浄したビール酵母3000gを90℃に加熱した後、60℃に保温し、48%水酸化ナトリウム水溶液でpH5.9に調整した後、ヌクレアーゼ(商品名「ヌクレアーゼG」、天野製薬株式会社製)0.05gを添加。さらにその15分後にデアミザイム(商品名「デアミザイムM」天野製薬株式会社製)0.05gを添加し、17時間酵素分解を行った。酵素処理後、90℃で加熱失活を行い、全量が365gとなるように加水調整した後、遠心分離(8000rpm×15分)にて清澄液を回収し、ビール酵母エキス254.4g(Brix 2.5%)を得た。
【0037】
[比較例6](ビール酵母エキス)
ビール醸造に使用した後のビール酵母3200g(水分92.8%)を遠心分離(8000rpm×15分)によって分離し、上澄み部を廃棄した。廃棄した分だけ水を加えた後、同様の操作を繰り返し、洗浄を行った。洗浄したビール酵母3000gを90℃に加熱した後、60℃に保温し、48%水酸化ナトリウム水溶液でpH5.9に調整した後、細胞壁溶解酵素(商品名「YL-15」、天野製薬株式会社製)0.03g、ヌクレアーゼ(商品名「ヌクレアーゼG」、天野製薬株式会社製)0.05gを添加した。さらにその15分後にデアミザイム(商品名「デアミザイムM」天野製薬株式会社製)0.05gを添加し、17時間酵素分解を行った。酵素処理後、90℃で加熱失活を行い、全量が365gとなるように加水調整した後、遠心分離(8000rpm×15分)にて清澄液を回収し、ビール酵母エキス256.0g(Brix 3.5%)を得た。
【0038】
[実施例5](ビール酵母エキス)
ビール醸造に使用した後のビール酵母3200g(水分92.8%)を遠心分離(8000rpm×15分)によって分離し、上澄み部を廃棄した。廃棄した分だけ水を加えた後、同様の操作を繰り返し、洗浄を行った。洗浄したビール酵母3000gをミクロバブル超臨界CO2殺菌装置「MBSS-1000」(株式会社島津製作所製)にて、加熱及び保持コイル90℃、圧力25MPa、懸濁液供給ポンプ105rpm(≒30mL/min)、CO2供給ポンプ120rpm(≒15mL/min)の条件で処理を行った。
【0039】
上記処理液300gを80〜90℃で10分間加熱後、60℃に保温し、48%水酸化ナトリウム水溶液でpH5.9に調整した後、ヌクレアーゼ(商品名「ヌクレアーゼG」、天野製薬株式会社製)0.05gを添加した。さらにその15分後にデアミザイム(商品名「デアミザイムM」天野製薬株式会社製)0.05gを添加し、17時間酵素分解を行った。酵素処理後、90℃で加熱失活を行い、全量が365gとなるように加水調整した後、遠心分離(8000rpm×15分)にて清澄液を回収し、ビール酵母エキス251.8g(Brix 2.9%)を得た。
【0040】
[実施例6](ビール酵母エキス)
ビール醸造に使用した後のビール酵母3200g(水分92.8%)を遠心分離(8000rpm×15分)によって分離し、上澄み部を廃棄した。廃棄した分だけ水を加えた後、同様の操作を繰り返し、洗浄を行った。洗浄したビール酵母3000gをミクロバブル超臨界CO2殺菌装置「MBSS-1000」(株式会社島津製作所製)にて、加熱及び保持コイル90℃、圧力25MPa、懸濁液供給ポンプ42rpm(≒12mL/min)、CO2供給ポンプ24rpm(≒3mL/min)の条件で処理を行った。
上記処理液300gを80〜90℃で10分間加熱後、60℃に保温し、48%水酸化ナトリウム水溶液でpH5.9に調整した後、ヌクレアーゼ(商品名「ヌクレアーゼG」、天野製薬株式会社製)0.05gを添加した。さらにその15分後にデアミザイム(商品名「デアミザイムM」天野製薬株式会社製)0.05gを添加し、17時間酵素分解を行った。酵素処理後、90℃で加熱失活を行い、全量が365gとなるように加水調整した後、遠心分離(8000rpm×15分)にて清澄液を回収し、ビール酵母エキス248.8g(Brix 3.0%)を得た。
【0041】
[酵母エキスの評価]
実施例1〜5及び比較例1〜6で得られた酵母エキスについて、5'-IMP(5'-イノシン酸)及び5'-GMP(5'-グアニル酸)の定量及び官能評価を行った。5'-IMP及び5'-GMPの定量は、以下に示す条件でHPLC法により行った。
(HPLC条件)
カラム:MCI GEL CRD1O 4.6mmφ×250mmL(三菱化学株式会社製)
溶離液:1M酢酸緩衝液
ポンプ流速:1mL/min(L-7100型ポンプ、株式会社日立製作所製)
カラム温度:60℃(L-7300型カラムオーブン、株式会社日立製作所製)
検出器:UV254nm(L-7405型UV検出器、株式会社日立製作所製)
【0042】
官能評価は、5人のパネラーにより、エグ味と酵母臭の2項目については弱い方から5,4,3,2,1点の5段階で、コク味については強い方から5,4,3,2,1点の5段階で評価を行い、5人の平均を評価点とした。その結果を図2に示す。
【0043】
上記HPLC分析の結果、本発明の製造方法により得られたパン酵母エキスの5'-IMPは、ミクロバブル超臨界CO2殺菌装置のみ(比較例2)、若しくは熱水抽出のみ(比較例3)によって抽出されたパン酵母エキスの5'-IMP含量と比較して非常に高い値となり、その値は、従来法である酵素処理法(比較例3)と同等(実施例1)若しくはそれ以上(実施例2、3)であることが明らかとなった。ビール酵母エキスについては、5'-IMP含量に加えて5'-GMP含量についても顕著な効果がみられ、その値は従来法である酵素処理法(比較例6)を上回る(実施例4〜6)ことが明らかとなった。
【0044】
また、上記官能評価の結果、本発明の製造方法により得られたパン酵母エキスは、従来法である酵素処理法によって得られたパン酵母エキスよりもエグ味及び酵母臭が少なく、かつコク味の高い、風味に優れたパン酵母エキスであることが明らかとなった。ビール酵母エキスについても同様の結果であった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る方法を用いた酵母エキス製造装置の一例の概略構成図。
【図2】本発明の実施例及び比較例により製造された酵母エキスの官能評価試験結果の表。
【符号の説明】
【0046】
10…酵母エキス製造装置
11…原料タンク
12…二酸化炭素ボンベ
13…溶解槽
14…減圧槽
15…回収タンク
16…ミクロフィルタ
21…原料供給管
22…二酸化炭素供給管
23…送液配管
24…加熱配管
25…二酸化炭素リサイクル管
31…原料液ポンプ
32…二酸化炭素ポンプ
33…冷却器
34…第1加熱コイル
35…保持コイル
36…圧力調整弁
37…第2加熱コイル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母懸濁液に超臨界状態の二酸化炭素を接触させた後、減圧して大気圧に戻すことにより酵母懸濁液から二酸化炭素を分離し、その後、該懸濁液を加熱することを特徴とする酵母エキスの製造方法。
【請求項2】
二酸化炭素分離後の懸濁液の加熱が、80〜100℃で1〜60分行われることを特徴とする請求項1に記載の酵母エキスの製造方法。
【請求項3】
二酸化炭素分離後の懸濁液の加熱が、80〜90℃で5〜30分行われることを特徴とする請求項1に記載の酵母エキスの製造方法。
【請求項4】
酵母懸濁液に超臨界状態の二酸化炭素を接触させる工程において、被処理液の圧力を10〜100MPa、温度を40〜110℃とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の酵母エキスの製造方法。
【請求項5】
減圧工程において、処理圧力から大気圧への減圧に要する時間が1秒以内であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の酵母エキスの製造方法。
【請求項6】
酵母がSaccaromyces属またはCandida属のものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の酵母エキスの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−187231(P2006−187231A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−1001(P2005−1001)
【出願日】平成17年1月5日(2005.1.5)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【出願人】(390033145)焼津水産化学工業株式会社 (80)
【Fターム(参考)】