説明

酵素とビオチン修飾異方性高分子微粒子、これを用いた微小管と微粒子のコンプレックス及びATP自己供給するナノバイオマシン

【課題】
酵素とビオチン修飾異方性高分子微粒子、これを用いた微小管と微粒子のコンプレックス及びATP自己供給するナノバイオマシンを提供する。
【解決手段】
広い領域のドメインAにあるエポキシ基と狭い領域のドメインBにある水酸基を、それぞれ微粒子に持たせた異方性ラテックス微粒子であり、エポキシ基側を酵素と反応させ、水酸側を化学構造式1
【化5】


(式中、n=3〜100)
で示されるビオチンに結合させた酵素修飾異方性ビチオン化ラテックス微粒子、これを用いた微小管と微粒子のコンプレックス及びATP自己供給するナノバイオマシン。
【採用図面】 図1

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータータンパク質による機能性高分子微粒子の輸送、または、非ATP存在下でのモータータンパク質の移動、より詳しくは、該当微粒子上に固定化したATP生成酵素と基質が反応することで、ATPを自己供給し、微小管がキネシン固定化基板上に移動する酵素とビオチン修飾異方性高分子微粒子、これを用いた微小管と微粒子のコンプレックス作成とATP自己供給型モータータンパク質ナノバイオマシン及びATP自己供給移動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
細胞内の輸送機構は、分子の運動を誘導する経路として働く線維状のポリマーである微小管を利用する。分子の輸送は、微小管系モータータンパク質であるキネシン及びダイニンによって行われる。これらのタンパク質は、ATP加水分解によるエネルギーを利用して、微小管に沿って一方向に運動して特定の目的地に分子を輸送する。
直径24 nmの細胞骨格線維である微小管は細胞内で複数の役割を果たしている。例えば、微小管は神経細胞軸索の中を通っており、細胞体と神経末端の間で物質や膜小胞の双方向の輸送を可能にしている。微小管はGTP結合チューブリンタンパク質サブユニットからなる高分子である。各々のサブユニットは、α−チューブリンおよびβ−チューブリンのヘテロ二量体で、それぞれ複数のイソ型が存在する。チューブリンは2つのGTP分子に2つの異なる部位で結合し、3つのチューブリンの全ては、不変のグリシンリッチ領域を共有し、その領域はヌクレオチド結合部位の1つへのアクセスの制御に関与していると考えられる。
【0003】
上記のキネシン-微小管系を用いて、目的物質を輸送させる研究が盛んに行われている。近年は、微小管を基板上に固定化し、キネシンの運動を観察する方法もあるが、微小管を固定化するのが難しい。そのため多くは、キネシンをガラス基板上に物理的に固定化させ、微小管を運動させるin vitro motility assay(非特許文献1)が一般的に使用されている。
【0004】
Hessらは、高さ1μmの凹凸のある基板を作製し、その基板上で微小管を移動させた。微小管は凸部上を移動せずにその周囲を移動した。これにより、微小管−キネシン系による表面の凹凸イメージングが可能になっている(非特許文献2)。
【0005】
Bachandらは、ビオチン化微小管を用いて、アビジン化された量子ドットを微小管上に固定化し、輸送することに成功した。(非特許文献3)
【0006】
微細加工技術を用いて、単一方向に微小管を運動させる報告もなされており、人工的に離れた別の場所に目的物質を輸送することは可能である。(非特許文献4)
また、これまで量子ドットの様な粒子を微小管が輸送した例(非特許文献5)はあるが、更なる物を量子ドットに乗せることはできない。機能のある物質(酵素)を微粒子上に載せ、輸送を行った例は報告されていない。
一方、本発明者は、エポキシ環と水酸基をそれぞれ微粒子の異なるドメインに持たせた異方性ラテックス微粒子を用いて、水酸基側を活性エステル型ビオチン誘導体と反応させ、微粒子の片側のみをビオチン化した異方性ビチオン化ラテックス微粒子を調製し、さらに微粒子上のエポキシを通じてピルビン酸キナーゼ(pyruvate kinase)をビオチン化微粒子に固定化することにより、酵素とビオチンを担持した異方性高分子微粒子を開発して、既に特許出願している(特許文献1参照)。
また、ヒドロキシエチルメタクリレートモノマーとメチルメタクリレートモノマーとエチレンジメタクリレートモノマーを重合開始剤の存在下でソープフリー乳化重合させ、シードポリマー粒子を合成し、次いで、スチレンモノマーとグリシジルメタクリレートモノマーとジビニルベンゼンモノマー及び溶媒を加えて、水中でソープフリーシード乳化重合を行い、官能基として水酸基とエポキシ環をそれぞれ微粒子の異なる大きさのドメインに持たせた異方性異方性ラテックス微粒子。エポキシ基をアミノ基に変換し、ビオチンを結合させた異方性ビチオン化ラテックス微粒子。さらに、異方性ビチオン化ラテックス微粒子の水酸基をエピクロルヒドリン等と反応させて、エポキシ基に変え、酵素を固定した異方性ビチオン化ラテックス微粒子。また、酵素が、ピルビン酸キナーゼ(pyruvate kinase)である異方性ビチオン化ラテックス微粒子等を開発し、すでに特許出願している(特許文献2参照)。
しかし、このような異方性ビチオン化ラテックス微粒子はリンカーが短すぎるため、効率的にストレプトアビジンを介して、ビオチン化微小管に結合させることが出来なかった。
【0007】
【特許文献1】特願2003−292888号
【特許文献2】特願2003−350034号
【非特許文献1】Vale,R. D.; Reese, T. S.; Sheetz, M. P. Cell.1985, 42: 39-50.
【非特許文献2】SurfaceImaging by Self-Propelled Nanoscale ProbesHess, H.; Clemmens, J.;Howard, J.; Vogel, V.; NanoLett.; (Communication); 2002; 2(2); 113-116.)
【非特許文献3】Assemblyand Transport of Nanocrystal CdSe Quantum Dot Nanocomposites Using Microtubulesand Kinesin Motor Proteins Bachand, G. D.; Rivera, S. B.; Boal, A. K.;Gaudioso, J.; Liu, J.; Bunker, B. C.; NanoLett.; (Communication); 2004; 4(5); 817-821.
【非特許文献4】Hiratsuka,Y.; Tada, T.; Oiwa, K.; Kanayama, T.; Uyeda, T. Q. Controlling the direction ofkinesin-driven microtubule movement along microlithographic tracks. Biophys. J.81, 1555-1561 (2001).
【特許文献5】Bachand, G. D. et al. Assembly and transport of nanocrystal CdSe quantum dot nanocompositesusing microtubules and kinesin motor proteins. Nano Lett. 4,817-821 (2004).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、微小管に結合させることが出来る酵素修飾異方性ビチオン化ラテックス微粒子、これを用いた微小管と微粒子のコンプレックス及びATP自己供給するナノバイオマシンを提供するべく研究を続けた。
モータータンパク質の輸送能力の有用性はこれまでにも示唆されてきたが、微小管に直接、輸送したい物質、特に高分子量の物質を修飾することは困難であり、また修飾効率も低い。
このように、機能性高分子微粒子を微小管に固定化し、輸送した例はない。また、この微粒子上のエポキシ官能基を通じて様々な化学、生体物質を微粒子上に固定化でき、分子モーターによる運輸が実現できる。
キネシンが分子モーターとして駆動するには、ATPの存在が不可欠である。従来、キネシンを用いて微小管を移動させる場合、使用するバッファー中にはATPを添加する必要があった。このATPは生体内では多量に存在するので問題はないが、人工的に合成したものは高価という問題点がある。そこで、微小管自体にATPを合成するような機能を付与すれば非ATP存在下でキネシンを駆動し移動が行える。今回、微小管に、ATP生成酵素であるピルビン酸キナーゼ(PK)を修飾した微粒子を固定化することで、高価なATPを必要とせずに、モータータンパク質ナノバイオマシン自身がATPを合成することで、その運動を実現できる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、異方性高分子微粒子に共有結合的に、ピルビン酸キナーゼ(PK)を固定化し、片側にだけ酵素、もう片方に、化学構造式1に示されるリンカーであるポリエチレングリコール(式中、n=3〜100)含有するビオチンを位置特異的に固定化することに成功した。
すなわち、本発明は、広い領域のドメインAにあるエポキシ基と狭い領域のドメインBにある水酸基を、それぞれ微粒子に持たせた異方性ラテックス微粒子であり、エポキシ側を酵素と反応させ、水酸基側を化学構造式1
【化1】

(式中、n=3〜100)
で示されるビオチン誘導体に結合させた酵素修飾異方性ビチオン化ラテックス微粒子である。
また、本発明は、酵素がピルビン酸キナーゼとすることが望ましい。
さらに、本発明は、広い領域のドメインAにあるエポキシ基と狭い領域のドメインBにある水酸基を、それぞれ微粒子に持たせた異方性ラテックス微粒子であり、エポキシ側を酵素と反応させ、水酸基側を化学構造式1に示されるポリエチレングリコール(式中、n=3〜100)含有するビオチンに結合させた酵素修飾異方性ビチオン化ラテックス微粒子に、さらにストレプトアビジンを結合させ、ビオチン化微小管に結合させた微小管と微粒子のコンプレックスである。
また、本発明は、酵素がピルビン酸キナーゼとすることが望ましく、このようにすることにより、微小管と微粒子のコンプレックスをキネシン固定化基板上移動させることができるATP自己供給型モータータンパク質ナノバイオマシンとすることができる。
さらに、本発明は、広い領域のドメインAにあるエポキシ基と狭い領域のドメインBにある水酸基を、それぞれ微粒子に持たせた異方性ラテックス微粒子であり、エポキシ側を酵素と反応させ、水酸基側を化学構造式1に示されるビオチン誘導体に結合させ、さらにストレプトアビジン、及びビオチン化微小管に結合させた微小管と微粒子のコンプレックス体を用いて、ATP自己供給しながら、キネシン固定化基板上移動させるナノバイオマシンである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の酵素修飾異方性高分子微粒子は、容易にビオチン化微小管とビオチン−アビジン相互作用を介し結合することができる。酵素修飾異方性高分子微粒子固定化微小管を開発した結果、本微小管は、微粒子を搭載後、(1)ATP存在下で、キネシン固定化基板上を移動した。(2)非ATP存在下でも、溶液中の(ホスホエノ−ルピルビン酸(PEP)、アデノシン二リン酸(ADP)を基質として、微粒子上のピルビン酸キナーゼ(酵素)がATPを自己供給することでキネシンの駆動による微小管の運動を可能にした。

【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明においては、酵素としては、PGAキナーゼ、アデニル酸キナーゼ、ATP合成酵素等がありとくにピルビン酸キナーゼが好ましく用いられる。
アビジンとしては、純度の高いストレプトアビジンンが好ましく用いられる。
本発明の酵素とビオチン修飾異方性高分子微粒子結合微小管は、微小管上に、生体分子である酵素が微粒子を介して導入した形になる(図−1)。本微小管は、微粒子を固定化後もその運動性能が低下しないことから、物質輸送可能なナノバイオマシンを構築できる。また、固定化した酵素の種類はタンパク質表面のアミノ基と、微粒子上のエポキシ基との反応による物なので特に限定されるものではない。今回は、ATP生成酵素であることから、基質存在下でATPを自己供給できる。溶液中に高価なATPを添加するのに対し、非ATP存在下で微小管の移動を実現することは、非常に経済的で、有用である。
本発明の酵素修飾異方性高分子微粒子結合微小管を製造するに際して、用いられる微小管は、蛍光物質であるローダミン、もしくはビオチン化チューブリンを用いて調製された物が良い。
本発明で用いることができる蛍光物質としては、何でも良いが、身近にあるものとしては、ローダミン、FITC、BODIPY FL-X [6-((4,4-difluoro-5,7-dimethyl-4-bora-3a,4a-diaza-s-indacene-3-propionyl)amino)hexanoic acid succinimidyl ester]、OregonGreen514、Cye dyeシリーズを挙げることができる。とくにローダミンが好ましく用いられる。
本発明において、微小管を構成するチューブリンモノマーのビオチン化に際して、ビオチン化試薬のリンカーの長さは特に限定されるものではないが、身近にあるものとしては、Pierce社製の、Biotin-(Long Arm)-NHS、EZ-link NHS-LC-LC-Biotinを挙げることができる。とくにBiotin-(Long Arm)-NHSが好ましく用いられる。

【実施例1】
【0012】
(酵素とビオチン修飾異方性高分子微粒子の調製)
<異方性高分子微粒子の調製>
特許文献1と同じ方法で、異方性ラテックス微粒子を調製した。
まずグリシジルメタクリレート(GMA)とジビニルベンゼンのソープフリー乳化重合により親水的なポリ(グリシジルメタクリレート-ジビニルベンゼン)シード粒子[P(GMA-DVB)]の調製と調製した。
GMA 14 g/DVB 1 g/重合開始剤V-50 0.45 g/水約285gを用い、200 rpmの回転速度、70 ℃で15時間重合を行った。モノマー変化率、粒子径はそれぞれ100wt%、約180 nmである。開始剤V-50の使用は重合中に反応液のpHを中性に保ち、GMAのエポキシド基の開環反応を防ぐために有効である。一方、過硫酸系の開始剤を用いると、重合反応に連れて反応液が酸性となり、70℃でエポキシドが開環してしまう。
その後、上記で調製した親水性のポリ(グリシジルメタクリレート-ジビニルベンゼン)[P(GMA-DVB)]をシード粒子(seed particle)とし、スチレンモノマー、2-メルカプトエタノール、重合開始剤V-50及び水を添加し、ソープフリーシード乳化重合により異方性のポリ(グリシジルメタクリレート-ジビニルベンゼン)とポリ(スチレン)複合微粒子[P(GMA-DVB)/P(St)]の調製を行った。P(GMA-DVB)シードは、使用する前にセルロース膜を用いて水道水及び純水でそれぞれ24時間の透析を行い、未反応のモノマーと開始剤、オリゴマーなどを除去した。
P(GMA-DVB)シード粒子(seed particle)に、スチレンモノマー2 g/2-メルカプトエタノール0.02 g/重合開始剤(V-50) 0.04g/トルエン2 g/純水 約130 gを添加し、70 ℃、200 rpmで24時間重合を行うことにより、目的とする微粒子が得られた。得られた複合微粒子の形態は透過型電子顕微鏡により観察された。

<異方性高分子微粒子の水酸基側のビオチン化>
水酸基の反応性が低いため、ジメチルアミノピリジン(DMAP)の存在下、活性エステル型ビオチン、biotin-PEG-CO2-NHS (Shearwater Polymers, Inc.; 重量平均分子量約3400のものを用いた(約69個エチレングリコール繰り返しユニットを持つ)、構造は化学構造式1に示す)を用いた。10 g のラテックスを脱水アセトニトリルで三回洗浄した後、20 gのアセトニトリルに分散した。その後、biotin-PEG-CO2-NHS (10 mg)と DMAP(0.05 g)を含むアセトニトリル溶液 (10 g)を混合した。反応は 65 ℃、アルゴンガス下で24時間行った。

<ピルビン酸キナーゼの異方性高分子微粒子の固定化>
ピルビン酸キナーゼは微粒子表面上のエポキシ基を介して直接微粒子に固定化した。1 g のラテックスをpH 7.4のリン酸バッファーで二回洗浄後、2 ml のpH 7.4のリン酸バッファーに分散した。その後、約790 mgのピルビン酸キナーゼを添加した。酵素固定化反応は、室温(約25℃)で回転しながら16時間を行った。固定化後、微粒子を遠心分離し、1 M の塩化カリウム(KCl)溶液を用いて、物理的に吸着している酵素の洗浄を四回行った。遠心分離後の上澄みと洗浄後分離した塩化カリウム溶液を収集し、その溶液中のタンパク質を280nmにおけるUV吸収により計測し、微粒子への酵素固定化量を算出した。微粒子へ固定化量は1gのラテックス微粒子あたり約75mgであった。

【実施例2】
【0013】
(酵素とビオチン修飾異方性高分子微粒子と微小管のコンプレックス(MTs-Particle)の調製)
<微小管の調製>
本発明に用いた微小管は、ローダミン修飾/ビオチン化 (以下RB)チューブリン (仕込み比 1:1)を BRP80 (80 mM PIPES, pH 6.8, 1 mM MgCl2, 1mM EGTA, 10 % glycerol, 5 mM GTP) 緩衝液に懸濁し 37 °C で40分間 インキュベートさせ、最後にタキソールで微小管を安定させることでRB-微小管を調製した。
得られたRB-微小管の、ビオチン化とローダミン化の分布を調べる目的でAlexa Fluor 488修飾したアビジンを用いた。アビジンは微小管に分布しているビオチンと特異的に結合できる。蛍光観察の結果、ビオチン化チューブリンとローダミンラベルチューブリンは、ランダムに重合し微小管を形成していることが確認された(図−2)。
<酵素とビオチン修飾異方性高分子微粒子の修飾>
上記実施例1に示した酵素とビオチン修飾した異方性高分子微粒子を微小管と結合するために、更なる修飾を行った。まず、微粒子を蛍光可視化するため、固定化酵素(ピルビン酸キナーゼ)に蛍光剤であるBODIPY FL-Xで標識した。0.1 g の酵素固定化した微粒子のpH7.4のリン酸バッファーに2mlのBODIPY FL-X溶液(1mg/ml)を加え、2時間反応を行った。遠心分離で洗浄後、この微粒子に、2mlストレプトアビジン溶液(1mg/ml)を加え反応を行った。反応後、遠心分離により未反応のストレプトアビジンと微粒子を分離した。
<酵素とビオチン修飾異方性高分子微粒子と微小管の結合>
上記に調製された、0.5ml微小管を200mlアッセイバッファー(10 mM Tris-acetate (pH 7.5), 50 mM potassium acetate, 2.5 mM EGTA, 4 mM magnesium sulfate, 20mM taxol)で希釈し、その中、上記に修飾した微粒子溶液を50ml加え、2−10分間反応を行って、微粒子と微小管のコンプレックスを調製した。溶液中に微粒子と微小管の結合を図―3に示す。

【実施例3】
【0014】
(ATPを自己供給するキネシンモーターナノバイオマシンの作製)
スライドガラス、カバーガラスを用いて作製した図―4 のような フローチャンバーを用いてATPを自己供給するキネシンモーターナノバイオマシンの作製を行った。
フローチャンバー内にアッセイバッファー(10 mM Tris-acetate (pH 7.5), 50 mM potassium acetate, 2.5 mM EGTA, 4 mM magnesium sulfate) 中に溶解したキネシン溶液を挿入し物理的に基板にキネシンを2分間固定化した。キネシン(K 560)は、大腸菌であるEscherichia coliより発現させたものを用いた。アッセイバッファー (10 mM Tris-acetate (pH7.5), 50 mM potassium acetate, 2.5 mM EGTA, 4 mM magnesium sulfate)で洗浄後、上記に調製した微小管アッセイバッファー溶液(10mM Tris-acetate (pH 7.5), 50 mM potassium acetate, 2.5 mM EGTA, 4 mM magnesium sulfate)を同様にフローチャンバー内に挿入し微小管を基板上のキネシンに2分間固定化を行った。アッセイバッファー(10 mM Tris-acetate (pH 7.5), 50 mM potassium acetate, 2.5 mM EGTA, 4 mM magnesium sulfate)で洗浄後、上記に調製した蛍光ラベル化およびストレプトアビジンを結合した酵素修飾異方性高分子微粒子の溶液20mlをさらにフローチャンバーに添加し、酵素修飾異方性高分子微粒子を微小管に結合させた。アッセイバッファー(10 mM Tris-acetate (pH 7.5), 50 mM potassium acetate, 2.5 mM EGTA, 4 mM magnesium sulfate)で洗浄後、蛍光顕微鏡にて微小管の微粒子搭載能力と、運動を評価した。
まず、MTs-Particleの運動特性を明確するために、1mM ATPバッファー溶液をフローチャンバー内に添加した。MTs-Particleは、2本MTs-Particleが重なっても架橋しあうこともなく、滑らかに移動した。また、MTs-Particleが基板上のフリーな酵素固定化微粒子、また溶液中の微粒子を移動しながら搭載していく様子も確認された。
つぎに、1mM ATPバッファー溶液の代わりにADPとPEPバッファー溶液をフローチャンバー内に添加した。MTs-Particleは、ADPとPEP濃度が1mMの時にキネシン固定化基板上動くことを確認できた。図―5A-5Cから分かるようにMTs-Particleは、1方向にのみ移動している。つまり、この動きは熱によるランダム歩行ではない。逆に、観察される一つ一つのMTs-Particle速度には差がある。この理由として、MTの長さ、微粒子密度、キネシン固定化密度によるものと推察できる。図―5Bに示されるMTs-Particleでは、緑の蛍光で表される点が、微粒子で、90%の微粒子がMTs上に観察された。
速度の径時変化を調べた(図―6A)。MTs-Particleは、基質(ADP、PEP)を挿入してから15分後に動き始めた。その後、急速に速度は増加し始め、最大で3-4.5nm/secになり、ゆっくり速度は落ちた。PEP濃度(1mM)は大過剰であることから、この速度の減少はPEP濃度の減少によるものではない(PEPのMichealis constant; Km=256 μM)。図―6BにMTs-Particle長の存在頻度を示す。平均MTs-Particle長は11μmであり、50%以上が10μm以下であった。
30μM ATP溶液を加えた、MTsは滑らかにキネシンの上に動き出し、時間変化ともに指数関数的にその速度は減少していった(図―6C)。この図から、微小管の運動速度とATP濃度関係を割り出して、図―6Aに示されたMTs-Particleの運動速度の定常状態ところのATP濃度は約4.4mMであることを分かった。
これまで、ストレプトアビジンコートされた微粒子や、量子ドット(Qdot)(非特許文献5)などがビオチン−アビジン結合を通してMTsに搭載した例はあるが、今回の発明者のように機能性生体分子(酵素)を異方性微粒子に固定化し、それをMTsに搭載したナノバイオマシンへの応用例はない。つまり、これまでにもナノバイオマシンの構築に関しては報告例があったものの、複数の場所で微粒子と、MTsが凝集し、キネシンによるMTsの輸送を妨げてしまう。我々の用いた異方性微粒子であれば、酵素(目的物質固定化部位)と、ビオチン(MTsへの修飾部位)とを容易に分けてそれぞれ固定化できる。微粒子上にビオチン部位面積の制御により、MTsとの凝集が起こらない。また、化学構造式1に示したポリエチレングリコール(式中、n=3〜100)含有するビオチンの応用により、微粒子を微小管の結合効率を大幅に向上した。

【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明の酵素とビオチン修飾異方性高分子微粒子、これを用いた微小管と微粒子のコンプレックス及びATP自己供給するナノバイオマシンは、画期的なものであり、微粒子上のビオチンはアビジンを介して種々の物質と結合可能であるため、「固定化酵素カセット」あるいは「固定化酵素デバイス」など、また、微小管と微粒子のコンプレックス及びATP自己供給するナノバイオマシンは微小空間での物質輸送、センシングなど広い分野での種々の応用が考えられ、産業上極めて利用可能性が高いものである。

【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の酵素修飾異方性高分子微粒子結合微小管の概念図
【図2】ストレプトアビジン修飾微小管の蛍光像(a) ローダミン:微小管の蛍光、 (b) BODIPI:ストプトアビジンの蛍光
【図3】酵素とビオチン修飾異方性高分子微粒子と微小管のコンプレックスの蛍光写真
【図4】フローチャンバーの概念図
【図5A−C】ATP自己供給後の微小管の運動(a)31、(b)45、(c)61分後の画像
【図5D】酵素修飾異方性高分子微粒子と、それを搭載した微小管の蛍光像
【図6A】酵素修飾異方性高分子微粒子結合微小管の速度の経時変化
【図6B】酵素修飾異方性高分子微粒子結合微小管の長さの分布
【図6C】30μM ATP濃度の時の微小管運動速度の経時変化

【特許請求の範囲】
【請求項1】
広い領域のドメインAにあるエポキシ基と狭い領域のドメインBにある水酸基を、それぞれ微粒子に持たせた異方性ラテックス微粒子であり、エポキシ基側を酵素と反応させ、水酸側を化学構造式1
【化1】

(式中、n=3〜100)
で示されるビオチン誘導体に結合させた酵素修飾異方性ビチオン化ラテックス微粒子。

【請求項2】
酵素がピルビン酸キナーゼである請求項1に記載した酵素修飾異方性ビチオン化ラテックス微粒子。
【請求項3】
広い領域のドメインAにあるエポキシ基と狭い領域のドメインBにある水酸基を、それぞれ微粒子に持たせた異方性ラテックス微粒子であり、エポキシ基側を酵素と反応させ、水酸基側を化学構造式1
【化2】

(式中、n=3〜100)
で示されるビオチン誘導体に結合させた酵素修飾異方性ビチオン化ラテックス微粒子に、さらにアビジンを介して、ビオチン化微小管に結合させた微小管と酵素修飾異方性ビチオン化ラテックス微粒子のコンプレックス。
【請求項4】
酵素がピルビン酸キナーゼであり、アビジンがストレプトアビジンンである請求項3に記載した微小管と微粒子のコンプレックスをキネシン固定化基板上に移動させることができるATP自己供給型モータータンパク質ナノバイオマシン。
【請求項5】
広い領域のドメインAにあるエポキシ基と狭い領域のドメインBにある水酸基を、それぞれ微粒子に持たせた異方性ラテックス微粒子であり、エポキシ側をピルビン酸キナーゼと反応させ、水酸基側を化学構造式1
【化3】

(式中、n=3〜100)
で示されるビオチン誘導体に結合させ、さらにアビジンを介して、ビオチン化微小管に結合させたモータータンパク質ナノバイオマシンを用いて、ATP自己供給しながら、微小管と微粒子のコンプレックス体をキネシン固定化基板上に移動させるATP自己供給移動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−166760(P2006−166760A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361995(P2004−361995)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】