説明

酵素処理魚粉の製造方法及び酵素処理魚粉を配合した飼料

【課題】比較的簡単な設備で製造でき、かつ、ペプタイドが最も増加した状態で、養魚や畜産動物等に対して、独自の生理作用で品質、健康面の向上が図れ、かつ消化吸収率が良く飼料の効率を高めることの出来る酵素処理魚粉を製造することを課題とする。
【解決手段】魚体及び魚体の加工残滓等から製造された魚粉を原料魚粉1として、これに蛋白質分解酵素の作用温度まで加熱した温水2を添加しケーキ3とする。このケーキ3に蛋白質分解酵素を加え酵素処理4を行い熟成5を行うことにより蛋白質を分解し低分子量化する。その後、蛋白質分解酵素より高い温度で乾燥6し、粉砕7をして、酵素処理魚粉8を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、酵素処理魚粉の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より魚粉は、いわゆるフィッシュミールとして養殖魚用飼料、畜産用飼料、ペットフード等に使用されているが、近年は蛋白質分解酵素で処理した魚粉が使用されつつある。この酵素処理魚粉の製造方法としては、特開昭61−231973号公報や特許文献1に見られるように、魚体をそのままの状態や切断或いは内蔵を除去した状態、魚肉加工品や缶詰等の製造の際に出た加工残滓から魚粉を製造する工程で蛋白質分解酵素を作用させて酵素処理魚粉を製造するものである。
しかし、これらから酵素処理魚粉を製造するための設備には莫大な費用が必要となる。又、豊富で新鮮な魚体及び加工残滓が必要であるため、それらの手に入りにくい場所では酵素処理魚粉を製造することができなかった。
又、最近の研究では、蛋白質とアミノ酸の中間物質で、分子量1000程度のペプタイドが養魚等の動物に対して最も消化吸収率が良く、かつペプタイドには強肝作用、免疫力の向上、抗ストレス作用等の生体防御の活性を高める作用を有していることが明らかになっている。
【0003】
【特許文献1】特開平1−30560号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明は上記のことに鑑み、比較的簡単な設備で製造でき、かつ、ペプタイドが最も増加した状態で、養魚や畜産動物等に対して、独自の生理作用で品質、健康面の向上が図れ、かつ消化吸収率が良く飼料の効率を高めることの出来る酵素処理魚粉を製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の請求項1に係る発明は、魚体、又は魚体の加工残滓から製造された魚粉に蛋白質分解酵素を添加し、蛋白質分解酵素の活性温度下にて上記の魚粉に対して蛋白質分解酵素を作用させて熟成した後、蛋白質分解酵素の失活温度よりも高い乾燥温度で乾燥を行うことを特徴とする酵素処理魚粉の製造方法を提供する。
本願の請求項2に係る発明は、魚体、又は魚体の加工残滓から製造された上記の魚粉100重量部に対して蛋白質分解酵素0.05〜2重量部を添加し、上記の蛋白質分解酵素として、プロティナーゼ、アミノペプチターゼ、アンデオテンシナーゼ、アンデオテンシン変換酵素、インシュリナーゼ、ペプチターゼから選択される、少なくとも1つの酵素を作用させて、0.5〜5時間熟成するものであることを特徴とする請求項1記載の酵素処理魚粉の製造方法を提供する。
本願の請求項3に係る発明は、魚体、又は魚体の加工残滓から製造された魚粉に蛋白質分解酵素を添加し、蛋白質分解酵素の活性温度下にて上記の魚粉に対して蛋白質分解酵素を作用させて0.5〜5時間熟成し、蛋白質分解酵素の失活温度よりも高い乾燥温度で乾燥を行ったことにより、魚粉中のペプタイドの含有量が増加した酵素処理魚粉を、無処理の魚粉等からなる飼料に、質量比で5〜20%配合したものであることを特徴とする飼料を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本願の請求項1及び2に係る発明では、魚粉を原料として使用できるため、従来のように新鮮な魚体及び加工残滓に対して酵素処理を行う場合に比べると、材料が既に加工された状態であることにより、比較的簡易な製造設備で酵素処理魚粉を製造することができる。又、地理的に新鮮な魚体及び加工残滓が入手できない場所でも酵素処理魚粉を製造することができる。
又、酵素処理により、魚粉中のペプタイドの含有量を増加させることができる。
【0007】
本願の請求項3に係る発明では、酵素処理した魚粉を配合することにより、ペプタイドが最も増加した状態で、養魚や畜産動物等に対して、独自の生理作用で品質、健康面の向上が図れ、かつ消化吸収率が良い飼料を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本願発明は魚体及び魚肉加工製品や缶詰等の製造の際の加工残滓から出来た魚粉に蛋白質分解酵素を作用させて蛋白質を低分子量化するものである。
魚体及び魚体の加工残滓等から製造された魚粉を原料魚粉1として、これに蛋白質分解酵素の作用温度まで加熱した温水2を添加しケーキ3とする。このケーキ3に蛋白質分解酵素を加え酵素処理4を行い熟成5を行うことにより蛋白質を分解し低分子量化する。その後、必要により蛋白質分解酵素を失活させ、その後乾燥6及び粉砕7をして、酵素処理魚粉8を得る。
【0009】
以下、図1に基づき本願発明に係る酵素処理魚粉8の製造方法について、更に詳細に説明する。まず、本願の魚粉の原料魚粉1には、魚体、又は魚体の加工残滓から製造された魚粉を使用する。魚粉の原料となる魚の種類は問わないが、イワシ、サバ、ニシン、タラ等の多獲性魚類を使用することが経済性の面からは有利である。又、魚肉加工品や缶詰等に使用する食肉部分を除去する等した後の加工残滓から製造された魚粉を原料魚粉1として利用することも可能である。これらの原料の異なる魚粉は、それぞれ単独で使用しても良いし、適宜混合して使用してもよい。又、この時使用する魚粉については、更に粉砕等して粒度を細かくしておいても良い。
尚、この時には魚粉の品質低下の原因物質であると言われる酸化、過酸化物価、揮発性塩基性窒素、ヒスタミンなどがなるべく低い魚粉を原料魚粉1として選択することが高品質の酵素処理魚粉8を製造する上で有利である。
魚粉を原料として使用できるため、従来のように新鮮な魚体及び加工残滓を原料として酵素処理を行う場合に比べると、材料が既に加工された状態であることにより、比較的簡易な製造設備で酵素処理魚粉8を製造することができる。又、地理的に新鮮な魚体及び加工残滓が入手できない場所でも酵素処理魚粉8を製造することができる。
【0010】
次にこの原料魚粉1に蛋白質分解酵素が作用する温度の温水2を加えてケーキ3を得る。温水2は魚粉に酵素を作用させやすくするために入れる。ここで重要なのは最初から温水2を添加することにより次の酵素処理4までの工程を速やかに行うことができるため、魚粉の品質低下に関係する物質があまり増えないことである。
【0011】
次に、酵素処理4を行う。使用する酵素としては蛋白質を分解する作用をなす酵素を適宜選択して添加すればよく、例えば、プロティナーゼ、アミノペプチターゼ、アンデオテンシナーゼ、アンデオテンシン変換酵素、インシュリナーゼ、ペプチターゼ等々を使用し得る。この蛋白質分解酵素は、1種類のみを添加してもよく、数種類を添加してもよい。蛋白質分解酵素の添加量としては、酵素や原料魚粉1の種類、状態によっても異なるが、原料魚粉1に対して質量比で0.05〜2%、経済性、安全性、分解率等を考慮するならば0.1%〜1%である。 この蛋白質分解酵素の添加後、熟成5を行って蛋白質を分解する。この熟成5は、酵素の活性温度(大半の蛋白質分解酵素においては20℃〜70℃)で、30分〜5時間、生産性や、分解率等を考慮するならば1〜2時間混合しつつ撹拌する。
これまでの各工程は連続式で行っても良いし、バッチ式で行っても良い。尚、バッチ式の方が分解時間の設定や酵素分解の均一性等の点で正確に処理できる。
【0012】
熟成5後は、乾燥6し、適当な大きさに粉砕7(必要に応じて、篩によって粉体の粒度を整える)し、酵素処理魚粉8を得るものである。そして、この乾燥6は、蛋白質分解酵素の失活温度よりも高い乾燥温度(酵素の種類によっても異なるが、80〜100°C程度)で、30分〜2時間、好ましくは30分〜1時間乾燥することにより、蛋白質分解酵素を失活させた魚粉を得ることができる。乾燥6の工程は出来るだけ速やかに行い、温度上昇に伴う魚粉の品質低下原因物質の増加を防止する。又、得られた酵素処理魚粉8の水分含量を10%以下にすることが品質面から見て有利である。
又、乾燥温度を蛋白質分解酵素の失活温度よりも低くすることにより(酵素の種類によっても異なるが、60〜70°C程度)、蛋白質分解酵素を失活させていない魚粉を得ることができる。失活させることにより、酵素の働きが停止し、それ以上の蛋白質の分解が行われないが、失活させていない魚粉の場合、徐々にではあるが蛋白質の分解が進行するため、安定性や保存性の観点からは、失活させる方が有利である。一方、蛋白質分解酵素を失活させていない場合については、養殖等に使用されるまで徐々に蛋白質分解を進ませることができ、より消化し易い魚粉を提供することができるものである。
【実施例】
【0013】
次に、本願発明の理解をより高めるために、実施例を挙げ具体的に説明する。尚、本願発明は本例によって限定されるものではなく、下記の養殖魚用飼料に限らず、畜産用飼料、ペットフード等の種々の用途に使用できるものである。
イワシやアジ等を原料として製造した魚粉である60%ホールミール(魚粉中の粗蛋白質量が60%のもの)100gを原料魚粉1として、55℃の温水2を100ml加え、ケーキ3とする。そして、蛋白質分解酵素(ノボ社製、商品名「アルカラーゼ2.4L」)を原料魚粉1に対して質量比で1%加え、温度を一定に保ちながら1時間熟成5する。熟成5後は乾燥機にて100℃で1〜2時間乾燥6し酵素を失活させ、酵素処理魚粉8を約100g得た。
【0014】
次に、酵素処理魚粉8及び無処理魚粉1の分子量分布をみるために高速液体クロマトグラフによる分析(Superdex Peptide HR 10/30カラムを用いたゲル濾過クロマトグラフィーによる)と一般分析を行った。詳細を以下に示す。
【0015】
(1)分子量標準液の調製
表1に示す分子量標準液を調製する。
【表1】

(2)試験溶液の調製
魚粉サンプル1gを100mlの水に溶解後、遠心分離し、上澄みを溶離液で25倍希釈し、0.2μmのメンブランフィルター(Sartorius社製)で濾過して得られた濾液を試験溶液とした。
(3)分子量分布の測定
標準溶液を高速液体クロマトグラフに注入して検量線を作成した(図2)。続いて、試験溶液を高速液体クロマトグラフに注入して分子量分布を測定した。
(4)高速液体クロマトグラフ操作条件
カラム:Superdex Peptide HR 10/30
溶離液:30%CHCN/0.1%TFA
流速:0.3ml/min
温度:25℃(室温)
検出波長:220nm
【0016】
次に、上記(3)によりそれぞれの検体について得られたクロマトグラムを図3及び図4に、保持時間、分子量、ピーク面積百分率の結果を表2及び表3にそれぞれ示した。図3及び表2が酵素処理魚粉8のものであり、図4及び表3が無処理魚粉1のものである。尚、表2及び表3の記載分子量は図2の標準溶液による検量線の計算式から導き出した。
【表2】

【表3】

図3及び図4に示される保持時間が約5〜40分でのピークが蛋白質のもので、約40〜50分でのピークがペプタイドのものである。それ以上の保持時間でのピークはアミノ酸のものである。
図3,図4及び表2,表3から明らかなように無処理魚粉1の高分子蛋白質が酵素処理によって分子量約1000程度の低分子蛋白質のペプタイドに分解されている。又、その割合(図3,図4でのピーク面積の百分率)で見ると、無処理魚粉1の分子量4000以上のもの(高分子蛋白質)が約55%を占めていたものが、酵素処理により分子量1000程度のもの(ペプタイド)が約63%となっている。
【0017】
表4に一般分析の結果を示す。
【表4】

表4では水分、粗蛋白質、粗脂肪、粗灰分は無処理魚粉1と酵素処理魚粉8とでは大差なく、又魚粉の品質基準の指標となる酸価、過酸化物価、揮発性塩基性窒素、ヒスタミンなどは魚粉劣化の可能性がある製造工程(温水2の添加、熟成3、乾燥6等)を経てもそれほど上昇していない。又、水溶性窒素は、蛋白質の分解に伴い増加している。このように、本願発明において製造した酵素処理魚粉8は無処理魚粉1に比べてペプタイドが非常に増え、且つ品質面、安全面においても問題無いことが確認することができた。
【0018】
次に、この酵素処理魚粉8を配合した飼料による育成試験の結果を表5に示す。
【表5】

酵素処理魚粉8を5種類の割合(無添加、5%、10%、15%、20%)で配合した飼料によるハマチ稚魚での育成試験では増肉係数(投餌量÷総増体重により算出、増肉係数が少ない程飼料効率が良い)について、酵素処理魚粉8無添加のNO. 1イケスでの増肉係数と酵素処理魚粉8を添加しているNO. 2〜NO. 5イケスでの増肉係数とでは顕著に差がでている。特に酵素処理魚粉8を15%添加したNO. 4イケスにおいての増肉係数が最も良い値を示した。又、生残率においてもNO. 4イケスが最も良い値を示した。
この結果はNO. 5イケスの酵素処理魚粉8の20%添加よりも良い数値であった為、酵素処理魚粉8の割合が多すぎても効果がでないということを示唆している。
このように、酵素処理魚粉8を用いた育成試験においても、これまでの無処理魚粉1による飼料の課題であった消化吸収率の低さや生残率の低さを克服し、ハマチ稚魚に対して成長面、健康面を大幅に良くすることができた。これにより、酵素処理魚粉8の配合率は、飼料の全体の5〜20%が適当であり、このように配合した飼料が、従来の無処理魚粉1による飼料に比べ上記の点で効果的なものであることが確認できた。
この飼料についての一般分析の結果を表6に示す。
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】酵素処理魚粉の製造工程を示す図である。
【図2】保持時間と分子量との関係についての検量線を示すグラフである。
【図3】酵素処理魚粉に関するクロマトグラムである。
【図4】無処理魚粉に関するクロマトグラムである。
【符号の説明】
【0020】
1 (原料)魚粉、無処理魚粉
2 温水
3 ケーキ
4 酵素処理
5 熟成
6 乾燥
7 粉砕
8 酵素処理魚粉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚体、又は魚体の加工残滓から製造された魚粉に蛋白質分解酵素を添加し、蛋白質分解酵素の活性温度下にて上記の魚粉に対して蛋白質分解酵素を作用させて熟成した後、蛋白質分解酵素の失活温度よりも高い乾燥温度で乾燥を行うことを特徴とする酵素処理魚粉の製造方法。
【請求項2】
魚体、又は魚体の加工残滓から製造された上記の魚粉100重量部に対して蛋白質分解酵素0.05〜2重量部を添加し、上記の蛋白質分解酵素として、プロティナーゼ、アミノペプチターゼ、アンデオテンシナーゼ、アンデオテンシン変換酵素、インシュリナーゼ、ペプチターゼから選択される、少なくとも1つの酵素を作用させて、0.5〜5時間熟成するものであることを特徴とする請求項1記載の酵素処理魚粉の製造方法。
【請求項3】
魚体、又は魚体の加工残滓から製造された魚粉に蛋白質分解酵素を添加し、蛋白質分解酵素の活性温度下にて上記の魚粉に対して蛋白質分解酵素を作用させて0.5〜5時間熟成し、蛋白質分解酵素の失活温度よりも高い乾燥温度で乾燥を行ったことにより、魚粉中のペプタイドの含有量が増加した酵素処理魚粉を、無処理の魚粉等からなる飼料に、質量比で5〜20%配合したものであることを特徴とする飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−141409(P2006−141409A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40453(P2006−40453)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【分割の表示】特願2001−192391(P2001−192391)の分割
【原出願日】平成13年6月26日(2001.6.26)
【出願人】(395006580)鳥取罐詰株式会社 (1)
【Fターム(参考)】