説明

酵素基質、これを含む培養基、及び、アミノペプチダーゼ活性を検出するための、及び/又は、グラム陽性菌とグラム陰性菌とを識別するためのその使用

本発明は、微生物におけるアミノペプチダーゼ活性を着色によって検出するために使用される、又は、少なくとも一種の細菌がグラム陽性群若しくはグラム陰性群のいずれに属するかを着色によって決定するために使用される、新規の発色性酵素基質に関する。また、本発明は、この基質を含む培養基、アミノペプチダーゼ活性を検出するための、及び/又は、グラム陽性菌とグラム陰性菌とを識別するための上記基質又は上記培養基の使用、及び、その使用方法にも関する。
上記新規基質は、下記式:
【化1】


式中、
・Rは、存在しない、又は、アルキル基、アリル基若しくはアリール基であり、
・Rは、少なくとも1個のアミノ酸、好ましくはアラニンからなり、
・R、R、R及びRは、互いに独立して、H−、又は、−O−アルキル基、好ましくは−O−CHからなり、
・Rは、H、O−CH、アルキル基又はハロゲンからなり、
・Rは、H又はClからなり、かつ、
・nは、0又は1の整数である:を有する。
本発明は、診断分野における使用に特に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノペプチダーゼ活性を検出するための新規の発色性酵素基質に関する。上記基質は、物理化学的なシグナルを発する酵素加水分解段階を含む用途、特に微生物学、生化学、免疫学、分子生物学、組織学等において使用できる。また、本発明は、この基質を含む培養基、アミノペプチダーゼ活性を検出するための、又は、グラム陽性菌とグラム陰性菌とを識別するための上記基質又は上記培養基の使用、及び、その使用方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
既存の基質の大部分は蛍光性であるのに対し、この新規の基質は着色を生じ、この着色は反応媒体中に拡散せずにコロニーの中に集まるので、微生物を検出するためのゲル化媒体においてこの新規の基質を特に使用できる。
【0003】
アミノペプチダーゼ活性を検出するための拡散しない発色性酵素基質が文献に記載されていて、従来技術から既に公知である。また、この基質は、本出願人による特許文献1及び2に含まれる。しかし、この基質には様々な欠点がある、すなわち、合成が困難であり、純度が低く、かつ、収率が低い。また、培養基中で使用する際には、培養基の組成を非常に正確に定義しなければ着色を観察できない。これ以外では、現在のところ文献に記載されている基質のうち、混合培養において固形媒体中で使用して微生物を検出できるものはない。
【0004】
また、アクリジンに基づく物質が知られている。この物質は、以下の特性を有しているために使用される:
・着色特性、例えば非特許文献1若しくは2を参照、
・化学療法的特性、例えば非特許文献3、又は、
・DNA中への挿入能、例えば非特許文献4若しくは5。
【0005】
特許文献3は、アクリジンの誘導体であるアクリジノン(acridinone)に基づく発色性酵素基質について提案している。酵素は、アクリジン基の7の位置にある基を切断できる。この構造では、エステラーゼ及びグリコシダーゼの酵素活性しか視覚化できない。
【特許文献1】PCT出願WO−A−98/04735
【特許文献2】PCT出願WO−A−99/38995
【特許文献3】ヨーロッパ特許No.EP−B−0270946
【非特許文献1】S.Rapposchら,J.Dairy Sci.2000 Dec;83(12):2753−2758
【非特許文献2】A.Giorgioら,Microbiologica 1989 Jan;12(1):97−100
【非特許文献3】N.Costesら,J.Med.Chem.2000 Jun 15;43(12):2395−2402
【非特許文献4】O.Okwumabuaら,Res.Microbiol.1992 Feb;143(2):183−189
【非特許文献5】T.Schelhornら,Cell.Mol.Biol.1992 Jul;38(4):345−365
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明によれば、微生物におけるアミノペプチダーゼ活性を着色によって検出するための、又は、少なくとも一種の細菌がグラム陽性群若しくはグラム陰性群のいずれに属するかを着色によって決定するための、新規の発色性酵素基質が提案される。また、本発明は、上記基質を含む培養基、並びに、アミノペプチダーゼ活性を検出するための、及び/又は、グラム陽性菌とグラム陰性菌とを識別するための上記基質又は上記培養基の使用、並びに、その使用方法にも関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この趣旨において、本発明は、微生物におけるアミノペプチダーゼ活性を着色によって検出するための、又は、少なくとも一種の細菌がグラム陽性群若しくはグラム陰性群のいずれに属するかを着色によって決定するための、発色性酵素基質に関する。上記基質は、下記式(I)を有する:
【0008】
【化1】

【0009】
式中、
・Rは、存在しない、又は、アルキル基、アリル基若しくはアリール基であり、
・Rは、少なくとも1個のアミノ酸、好ましくはアラニンからなり、
・R、R、R及びRは、互いに独立して、H−、又は、−O−アルキル基、好ましくは−O−CHからなり、
・Rは、H、O−CH、アルキル基又はハロゲンからなり、
・Rは、H又はClからなり、かつ、
・nは、0又は1の整数である。
【0010】
本発明によれば、「アリール基」という用語は特に、C6〜C10芳香環、特にフェニル基、ベンジル基、1−ナフチル基又は2−ナフチル基を意味するものとする。
【0011】
「アルキル基」という用語は、C1〜C6のアルキル基、すなわち炭素原子を1〜6個有する直鎖又は分岐のアルキル基を意味するものとする。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基及びヘキシル基が挙げられる。
【0012】
「ハロゲン原子」という用語は、塩素、臭素、ヨウ素及びフッ素を意味するものとする。
【0013】
本発明において使用するアミノ酸は、当業者に公知の任意のアミノ酸である。
【0014】
「少なくとも1個のアミノ酸」という表現は、1個以上のアミノ酸を意味するものとする。
【0015】
本発明のある実施形態によれば、Rは、アミノ酸、又は、同一の若しくは異なる最大10個のアミノ酸を有するペプチドを表わす。好ましくは、基質にかかるコストの理由のために、Aは、アミノ酸、又は、同一の若しくは異なる(好ましくは同一の)最大4個のアミノ酸を有するペプチドを表わす。
【0016】
アミノ酸Rは遮断剤に結合でき、このことは本発明の別の実施形態である。
【0017】
上記遮断剤は、アミンを保護できる当業者に公知の任意の遮断剤を含む。例えば、t−ブトキシカルボニル基(N−tBOC)、9−フルオレニルオキシカルボニル基、スクシニル基等の可溶性化剤、又は、ピペコリン酸等の代謝不可能なアミノ酸、すなわち非天然アミノ酸が挙げられる。
【0018】
ある実施形態によれば、上記基質は下記式(Ia):
【0019】
【化2】

【0020】
又は、下記式(Ib)を有する。:
【0021】
【化3】

【0022】
別の実施形態によれば、上記基質は、Rがメチル基又はアリル基である上記式(I)である。
【0023】
また別の実施形態によれば、上記基質は、Rがアルキル基、好ましくはメチル基又はアリル基であり、Rが、遮断剤によって任意に遮断された少なくとも1個のアミノ酸、好ましくは少なくとも1個のアラニンであり、R、R、R、R、R及びRがHであり、かつ、nが0又は1であるような上記式(I)である。
【0024】
更に別の実施形態によれば、上記基質は下記式(Ic):
【0025】
【化4】

【0026】
又は、下記式(Id)を有する。:
【0027】
【化5】

【0028】
本発明の化合物は、nの値に応じて以下のように調製することができる。:
【0029】
(1)n=0である場合、適切な塩酸アクリジン(RがH又はClである)を適切なアニリン(R、R、R及びRが上記に定義するものである)及び硫黄と反応させて、適切な9−(4−アミノフェニル)アクリジンを得る。その後、遮断剤と結合している少なくとも1個のアミノ酸とこれを反応させ、得られた化合物を任意に脱保護して本発明の化合物から遮断剤を分離する。化合物の10の位置にある窒素が四級であることが望ましい場合、得られた化合物を、XがハロゲンでRが上記に定義するものであるようなXRと反応させる。
【0030】
(2)n=1である場合、Campbellらの方法(1958年、上記)に従って調製した9−メチルアクリジン又はLehmstedt及びSchraderの方法(Albert,1966,上記)によって調製した9−クロロアクリジンを、適切なニトロベンズアルデヒド(R、R、R及びRは上記に定義するものである)及び塩化亜鉛と反応させて、適切な9−(4−ニトロスチリル)アクリジンを調製する。その後、酢酸エチルとエタノールとの混合物中の塩化スズ(II)、又は、ホウ化水素ナトリウム及び銅アセチルアセトネートのいずれかを使用してニトロ基を還元し、9−(4−アミノスチリル)アクリジンを得る。その後、遮断剤と結合している少なくとも1個のアミノ酸とこれを反応させ、得られた化合物を任意に脱保護して本発明の化合物から遮断剤を分離する。化合物の10の位置にある窒素が四級であることが望ましい場合、得られた化合物を、XがハロゲンでRが上記に定義するものであるようなXRと反応させる。
【0031】
また、本発明は、少なくとも一種の上記発色性酵素基質を、単独で使用した、又は、本発明の基質によって検出される酵素活性以外の酵素活性に特異的な少なくとも一種の他の酵素基質と併用して使用した培養基に関する。
【0032】
その結果、本発明の化合物を含む反応媒体中にペプチダーゼ活性を示す微生物を播種すると、着色が生じ、この着色は反応媒体中に拡散せずにコロニーの中に集まる。
【0033】
「本発明の反応媒体」という表現は、少なくとも一種の微生物の少なくとも一種の酵素活性を現わすことができる媒体を意味するものとする。
【0034】
この反応媒体は、視覚化用の媒体としてのみ使用してもよいし、培養基及び視覚化用の媒体の両方として使用してもよい。前者の場合においては播種前に微生物を培養し、後者の場合においては反応媒体が培養基でもある。
【0035】
反応媒体は、固形、半固形又は液体であってよい。「固形媒体」という用語は、例えばゲル化媒体を意味するものとする。
【0036】
この媒体はゲル化媒体からなることが好ましい。
【0037】
微生物を培養するために微生物学において従来から使用されるゲル化剤は寒天であるが、ゼラチン又はアガロースを使用することもできる。例えば、Columbia agar、Trypcase−soy agar、マッコンキー寒天(MacConkey agar)、サブロー寒天(Sabouraud agar)、又は、より一般的には、Handbook of Microbiological Media(CRC Press)中に記載されているもの等、いくつかの市販の調製品を使用することができる。
【0038】
反応媒体中における寒天の量は、2〜40g/l、好ましくは9〜25g/lである。
【0039】
本発明の酵素基質は、広い範囲のpHにおいて、特にpH5.5〜10において使用できる。
【0040】
反応媒体中における本発明の酵素基質の濃度は0.025〜1.0g/l、有利には0.3g/lである。この基質濃度である場合には、着色のコントラストがとりわけ良好である。
【0041】
反応媒体は、本発明の基質によって検出される以外の酵素活性に特異的な少なくとも一種の他の基質を含んでいてもよい。この他の基質の酵素加水分解により、本発明の基質によって検出されるシグナルとは異なる(例えば、色の異なる又は蛍光の異なる)検出可能なシグナルが生じるため、一種以上の微生物について検出、識別及び/又は定量等の実証が可能である。
【0042】
他の特異的な基質としては、微生物の検出において従来から使用されている他の任意の基質を使用してもよい。
【0043】
他の特異的な酵素基質の濃度は、一般的に0.01〜2g/lである。当業者であれば、使用する基質に応じて上記濃度を容易に決定できるであろう。
【0044】
また、反応媒体は、アミノ酸、ペプトン、炭水化物、ヌクレオチド、鉱物、ビタミン、抗生物質、界面活性剤、バッファー、リン酸塩、アンモニウム塩、ナトリウム塩又は金属塩等の一種以上の成分を組み合わせて含んでいてもよい。媒体の例が、本出願人によるヨーロッパ特許EP656421及びPCT出願WO99/09207中に記載されている。
【0045】
従って、本発明の酵素基質及び反応媒体は、ペプチダーゼ活性を有する微生物の分析において有用である。
【0046】
上記より、本発明は、微生物における少なくとも一種のアミノペプチダーゼ活性を検出するための、上記発色性酵素基質の使用、又は、上記培養基の使用にも関する。
【0047】
また、本発明の主題は、グラム陽性着色された細菌とグラム陰性着色された細菌とを分けるための、上記発色性酵素基質の使用、又は、上記培養基の使用に関する。
【0048】
最後に、本発明は、微生物における少なくとも一種のアミノペプチダーゼ活性を検出する方法に関し、この方法は以下:
・上記培養基を準備すること、
・試験する生物試料を上記培養基に播種すること、
・これをインキュベートしておくこと、及び、
・少なくとも一種のアミノペプチダーゼ活性の存在を、単独で、又は、これ以外の少なくとも一種の酵素活性と共に視覚化すること:
である。
【0049】
また、本発明は、グラム陽性菌若しくはグラム陰性菌のいずれに属するかという点において細菌を識別する別の方法に関し、この方法は以下:
・上記培養基を準備すること、
・試験する生物試料を上記培養基に播種すること、
・これをインキュベートしておくこと、及び、
・グラム陰性の微生物が存在することを示す少なくとも一種の色の存在を視覚化すること:
である。
【0050】
いずれの方法を使用する際にも、アクリジン基の10の位置にある窒素が四級でない場合、酸、好ましくは塩酸、酢酸又はクエン酸を培養基中に添加することにより、少なくとも一種のアミノペプチダーゼ活性の存在を視覚化する。「四級」という用語は、アクリジン基の10の位置にある窒素が4価であるために、すなわち、3個の一般的な結合でフェニル環と結合していて、かつ、別の結合で1個の基と結合しているために、上記窒素原子が正電荷を有していて陽イオン性であることを意味するものとして理解するべきである。この場合、上記物質は、塩、例えば塩化物、臭化物、トリフルオロ酢酸塩の形態である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下の実施例中に記載する全ての反応は薄層クロマトグラフィー(TLC)によって測定し、また、生成物の構造は質量分析(MS)及び核磁気共鳴(NMR)によって確認した。
【実施例1】
【0052】
<非四級基質を使用した、ゲル化媒体における微生物のL−アラニン−アミノペプチダーゼ活性の視覚化>
1.1:使用した物質
アクリジンに基づく二種の基質について比較検討した。この基質は、それぞれ下記式の、L−アラニル−9−(4−アミノスチリル)アクリジン(以下、L−Ala−4−ASAと呼ぶ)、及び、L−アラニル−アミノフェニルアクリジン(非四級基質)(以下、L−Ala−APAと呼ぶ)である。:
【0053】
【化6】

【0054】
1.2:基質の合成
1.2.1:L−Ala−4−ASAの合成
この合成は数段階に分けて実施する。
【0055】
(9−クロロアクリジンの調製)
Albert著の本(「The Acridines」、Arnold、第二版、33頁(1966年))を参照して、Lehmstedt法及びSchrader法によって調製する。
【0056】
(9−メチルアクリジンの調製)
Campbell、Franklin、Morgan及びTivey(参照:J.Chem.Soc.,1958,1145)の方法を使用した。収率は90%に達した。
【0057】
(融解による9−(4−ニトロスチリル)アクリジンの調製)
9−メチルアクリジン(4.83g、25.0mmol)、4−ニトロベンズアルデヒド(4.23g、31.25mmol)及び塩化亜鉛(5.06g、31.25mmol)の混合物を、油浴を使用して130℃において3時間加熱する。回収した固形物をメタ重亜硫酸ナトリウム溶液中で加熱して過剰なアルデヒドを除去し、高温になった混合物をろ過する。得られた沈殿を最少量のテトラヒドロフラン中に溶解し、この溶液に水を添加して、生成物を沈殿として得る。この沈殿をろ過することによって回収し、乾燥させる。この生成物をエタノールから再結晶させてもよい。収率は35%である。
【0058】
(9−(4−アミノスチリル)アクリジンの調製)
生成物9−(4−ニトロスチリル)アクリジン(2.86g、10.0mmol)を酢酸エチル(250ml)中に溶解した後、還流する。塩化スズ(II)(無水)(9.0g、40mmol)を高温のエタノール(150ml)中に溶解した溶液を冷却して、上記9−(4−ニトロスチリル)アクリジン溶液に添加する。この混合物を撹拌しながら還流下で5時間反応させる。冷却すると9−(4−アミノスチリル)アクリジンが沈殿し、この沈殿を真空下でろ過することによって分離する。ろ過したものを蒸発により乾燥させ、撹拌しながら水(500ml)に溶解する。この溶液を水酸化ナトリウム溶液で塩基性にする(pH13〜14)。上記で分離した、高濃度のスズ塩を含む9−(4−アミノスチリル)アクリジン部分についても、同様に塩基性にする。9−(4−アミノスチリル)アクリジンをろ過することによって分離し、水洗して乾燥させる。以上によって十分に純粋となり、以下の段階で使用できる。
【0059】
(t−Boc−アラニル−9−(4−アミノスチリル)アクリジンの調製)
t−Bocアラニン(3.79g、20.0mmol)を最少量の無水テトラヒドロフラン(THF)中に溶解し、この溶液を、エチレングリコ−ル/ドライアイスの混合物を使用して浴中で−15℃に冷却する。この混合物にN−メチルモルホリン(NMM)(2.02g、20mmol)を滴下により添加する。その後、この反応混合物にクロロ蟻酸イソブチル(IBCF)(2.53g、20.0mmol)を滴下により添加する。温度は−10℃より低くなければならない。約3分後に、最少量の無水テトラヒドロフラン(THF)中に溶解して−15℃に冷却した9−(4−アミノスチリル)アクリジン(5.4g、20mmol)を添加する。この反応混合物を撹拌して、室温に戻す。フィルタープレートを含む漏斗を使用してろ過することによってN−メチルモルホリン塩を除去する。ロータリーエバポレーターを使用して、この混合物を最初の体積の4分の1まで蒸発させる。ろ過したものを、大量の水/氷の混合物中に撹拌しながら滴下により添加する。できた黄色の沈殿をろ過することによって回収し、水洗して乾燥させる。この生成物をメタノールから再結晶させてもよい。収率は実質75%である。
【0060】
また、他のt−Boc保護アミノ酸類似体を使用して新規の物質を形成した。アミノ酸は以下のとおりである:プロリン、グリシン、セリン及びβ−アラニン。これらの物質について、収率は60〜80%の範囲であり、一般的にβ−アラニン類似体の収率が最も高く、一般的にセリン類似体の収率が最も低い。
【0061】
1.2.2:L−Ala−APAの合成
溶融硫黄の反応による9−(4−アミノフェニル)アクリジンの調製は、二つの異なる方法によって実施できる。
【0062】
(方法A)
塩酸アクリジン(9.7g、45.0mmol)、アニリン(8.37g、90.0mmol)及び硫黄10.0gを十分に混合し、効率的なフードの下で130℃において4時間加熱する。丸底フラスコ中の反応媒体を室温に冷却して高温のメタノール中に溶解し、濃い赤色の溶液を得る。この溶液を冷却して、ろ過することによって硫黄を除去する。ろ液を濃アンモニア水溶液を使用して塩基性にする。できた淡黄色の沈殿をろ過した後、冷メタノールで洗浄する。収率は65%である。
【0063】
(方法B)
アクリジン(8.06g、45.0mmol)、塩酸アニリン(11.61g、90mmol)及び硫黄10.0gを十分に混合し、130℃において4時間加熱する。その後、上記の方法Aと同様に、反応媒体を処理する。この後、上記二つの方法のうち一方及び/又はもう一方の方法に基づいて調製を実施する。
【0064】
(t−Boc−アラニル−9−(4−アミノフェニル)アクリジンの調製)
t−Bocアラニン(3.79g、20.0mmol)を最少量の無水テトラヒドロフラン(THF)中に溶解し、この溶液を、エチレングリコ−ル/ドライアイス混合物を使用して浴中で−15℃に冷却する。この混合物にN−メチルモルホリン(NMM)(2.02g、20mmol)を滴下により添加する。その後、この反応混合物にクロロ蟻酸イソブチル(IBCF)(2.53g、20.0mmol)を滴下により添加する。温度は−10℃より低くなければならない。約3分後に、最少量の無水テトラヒドロフラン(THF)中に溶解して−15℃に冷却した9−(4−アミノフェニル)アクリジン(5.4g、20mmol)を添加する。この反応混合物を撹拌して、室温に戻す。フィルタープレートを含む漏斗を使用してろ過することによってN−メチルモルホリン塩を除去する。ロータリーエバポレーターを使用して、この混合物を最初の体積の4分の1まで蒸発させる。ろ過したものを、大量の水/氷の混合物中に撹拌しながら滴下により添加する。できた黄色の沈殿をろ過することによって回収し、水洗して乾燥させる。この生成物をメタノールから再結晶させてもよい。収率は75%である。
【0065】
また、他のt−Boc保護アミノ酸類似体を使用して新規の物質を形成した。アミノ酸は以下のとおりである:プロリン、グリシン、セリン及びβ−アラニン。これらの物質について、収率は60〜80%の範囲であり、一般的にβ−アラニン類似体の収率が最も高く、一般的にセリン類似体の収率が最も低い。
【0066】
1.3:媒体の調製
L−アラニル−9−(4−アミノスチリル)アクリジン(以下、L−Ala−4−ASAと呼ぶ)又はL−アラニル−アミノフェニルアクリジン(以下、L−Ala−APAと呼ぶ)を含むゲル化媒体を、以下のように調製する:46.37gのColumbia agarを蒸留水1リットル中に添加した後、オートクレーブする。この反応媒体を等体積で二つに分ける。この二つの媒体はそれぞれ、以下を含む:DMSO中に溶解した原液を使用して得られるL−Ala−4−ASAを0.3g/l、及び、DMSO中に溶解した原液を使用して得られるL−Ala−APAを0.3g/l。
【0067】
本出願人が保存している株に由来する微生物を、0.5McFarlandの懸濁液を使用して、三か所に分けて各媒体上に播種した。培養皿を37℃において24時間インキュベートした。24時間インキュベートした後に、形成されたコロニーの外観を調べた。このコロニーの色を、塩酸を少量添加する前後について記録した。
【0068】
1.4:結果
結果を下記表1中に示す。HClが存在しない場合、二種の基質は自発的には着色しない。少量のHClが存在する場合、L−アラニン−アミノペプチダーゼ活性を有するコロニーの色は、灰色がかった薄紫色から薄紫色である。この活性を有しないコロニーは無色のままである。従って、この基質は感受性がありかつ特異的である。この基質を使用することによって、グラム陽性菌とグラム陰性菌の混合培養において、この二種類の微生物を分離できる。
【0069】
【表1】

【0070】
表1:L−Ala−4−ASA又はL−Ala−APAを使用した、ゲル化媒体における微生物のL−アラニン−アミノペプチダーゼ活性の視覚化
【実施例2】
【0071】
<四級基質を使用した、ゲル化媒体における微生物のL−アラニン−アミノペプチダーゼ活性の視覚化>
2.1:使用した物質
ゲル化媒体における微生物のL−アラニン−アミノペプチダーゼ活性を、下記式のL−アラニル−9−(4−アミノフェニル)−10−アリルアクリジニウム塩化物(L−alanyl−9−(4−aminophenyl)−10−allylacridinium chloride)(四級基質)(以下、L−Ala−4−AP−10−AAと表す)を使用して決定する。
【0072】
【化7】

【0073】
2.2:L−Ala−4−AP−10−AAの合成
出発化合物はt−Boc−アラニル−9−(4−アミノフェニル)アクリジンであり、これの合成については段落1.2.2(L−Ala−APAの合成)中に既に開示している。閉鎖可能な10mlのフラスコ中の無水テトラヒドロフラン(4.0ml)にt−Boc−アラニル−9−(4−アミノフェニル)アクリジン(0.88g、2.0mmol)を添加して、沸騰するまで加熱して、この混合物の一部を溶液とする。この溶液/懸濁液を冷却し、臭化アリル(2.0ml)を添加する。その後、フラスコを8時間還流して、薄層クロマトグラフィー(TLC)によって反応を定期的に測定する。冷却して溶媒を除去した後、四級塩をジエチルエーテルで洗浄して乾燥させる。
【0074】
生成物を最少量のエタノール中に溶解し、HClで飽和した酢酸エチル(10ml)と共に撹拌する。数時間後に生じた沈殿を、減圧下でろ過することによって回収する。ろ過したものにエチルエーテルを添加することによって、生成物を更に回収することができる。生成物を合わせてエチルエーテルで洗浄し、水分を吸収しないように急速に乾燥させる。
【0075】
2.3:媒体の調製
L−Ala−4−AP−10−AAを基質として含むゲル化媒体を、以下のように調製する:46.37gのColumbia agarを蒸留水1リットル中に添加した後、オートクレーブする。この反応媒体を等体積で三つに分ける。この三つの媒体はそれぞれ、DMSO中に溶解した原液を使用して得られるL−Ala−4−AP−10−AAを0.1g/l、0.2g/l、0.4g/l含む。
【0076】
本出願人が保存している株に由来する微生物を、0.5McFarlandの懸濁液を使用して、三か所に分けて各媒体上に播種した。培養皿を37℃において48時間インキュベートした。24時間及び48時間インキュベートした後に、形成されたコロニーの外観を調べた。このコロニーの色及びこの色の濃さについて記録した。
【0077】
2.4:結果
結果は色の濃さで、0〜4の範囲の任意の段階に基づいて表す。この結果を下記表2中に示す。
【0078】
この基質を使用すると、(酸を添加せずに)コロニー中に集まった状態で自発的に着色が生じることによって、グラム陰性菌におけるL−アラニン−アミノペプチダーゼ活性を視覚化することができる。この活性を有しないコロニーは無色のままである。従って、この基質は感受性がありかつ特異的である。この基質を使用することによって、グラム陽性菌とグラム陰性菌の混合培養において、この二種類の微生物を分離できる。アクリジン基の10の位置にある窒素を「四級化」することによって、実施例1中に記載する四級でない同種の物質とは異なり、酸を添加せずに自発的に反応させることができる。
【0079】
【表2】

【0080】
表2:L−Ala−4−AP−10−AAと呼ばれる基質を使用した微生物のL−アラニン−アミノペプチダーゼ活性の視覚化における、基質の濃度の影響
【実施例3】
【0081】
<他の四級基質を使用した、ゲル化媒体における微生物のL−アラニン−アミノペプチダーゼ活性の視覚化>
3.1:使用した物質
ゲル化媒体における微生物のL−アラニン−アミノペプチダーゼ活性を、下記式のL−アラニル−9−(4−アミノフェニル)−10−メチルアクリジニウム塩化物(四級基質)(以下、L−Ala−4−AP−10−MAと呼ぶ)と呼ばれる基質を使用して視覚化する。
【0082】
【化8】

【0083】
3.2:L−Ala−4−AP−10−MAの合成
この合成は上記段落2.2中で既に実施しているが、上記合成における臭化アリルをヨウ化メチルに置き換えた。L−Ala−4−AP−10−MAを合成する際にはこれを参照するのがよい。
【0084】
3.3:媒体の調製
L−Ala−4−AP−10−MAを300mg/l含むゲル化媒体を、以下のように調製する:46.37gのColumbia agarを蒸留水1リットル中に添加した後でオートクレーブし、DMSO中に溶解した原液を使用して基質を添加する。本出願人が保存している株に由来する微生物を、0.5McFarlandの懸濁液を使用して、三か所に分けて媒体上に播種した。培養皿を37℃において48時間インキュベートした。24時間及び48時間インキュベートした後に、形成されたコロニーの外観を調べた。このコロニーの色及びこの色の濃さについて記録した。
【0085】
3.4:結果
結果を下記表3中に示す。
【0086】
【表3】

【0087】
表3:濃度を最適化した基質L−Ala−4−AP−10−AAを使用した、微生物のL−アラニン−アミノペプチダーゼ活性の視覚化
【0088】
この基質を使用すると、(酸を添加せずに)コロニー中に集まった状態で自発的にピンク−オレンジ色の着色が生じることによって、グラム陰性菌におけるL−アラニン−アミノペプチダーゼ活性を視覚化することができる。この活性を有しないコロニーは無色のままである。従って、この基質は感受性がありかつ特異的である。この基質を使用することによって、グラム陽性菌とグラム陰性菌の混合培養において、この二種類の微生物を分離できる。実施例2中に記載する基質とは異なり、この基質を使用することによって陽性株の色をより濃くすることができるようである。この二種類の基質は、アクリジン環の10の位置にある窒素の基の種類が異なる。
【実施例4】
【0089】
<他の非四級基質を使用した、ゲル化媒体における微生物のL−アラニン−アミノペプチダーゼ活性の視覚化>
4.1:使用した物質
ゲル化媒体における微生物のL−アラニン−アミノペプチダーゼ活性を、それぞれ下記式のL−アラニル−2−メトキシアミノフェニルアクリジン(以下、L−Ala−2−MeOAPAと呼ぶ)及びL−アラニル−2,5−ジメトキシアミノフェニルアクリジン(以下、L−Ala−2,5−ジMeOAPAと呼ぶ)と呼ばれる二種類の基質を使用して視覚化する。
【0090】
【化9】

【0091】
4.2:基質の合成
4.2.1:L−Ala−2−MeOAPAの合成
上記1.2.2の部に記載する方法に基づいて、他のアニリン類似体を使用して、新規の物質を形成する:例えばアニシジン(3−メトキシアニリン)を使用して9−(4−アミノ−2−メトキシフェニル)アクリジンを得る。
【0092】
4.2.2:L−Ala−2,5−ジMeOAPAの合成
上記1.2.2の部に記載する方法に基づいて、他のアニリン類似体を使用して、新規の物質を形成する:例えば2,5−ジメトキシアニリンを使用して9−(4−アミノ−2,5−ジメトキシフェニル)アクリジンを得る。
【0093】
4.3:媒体の調製
L−Ala−2−MeOAPA又はL−Ala−2,5−ジMeOAPAを含むゲル化媒体を、以下のように調製する:46.37gのColumbia agarを蒸留水1リットル中に添加した後、オートクレーブする。この反応媒体を等体積で二つに分ける。この二つの媒体はそれぞれ、以下を含む:DMSO中に溶解した原液を使用して得られるL−Ala−2−MeOAPAを0.3g/l、及び、DMSO中に溶解した原液を使用して得られるL−Ala−2,5−ジMeOAPAを0.3g/l。本出願人が保存している株に由来する微生物を、0.5McFarlandの懸濁液を使用して、三か所に分けて各媒体上に播種した。培養皿を37℃において24時間インキュベートした。HClを添加した後で、このコロニーの色及びこの色の濃さについて記録した。
【0094】
4.4:結果
結果を下記表4中に示す。
【0095】
【表4】

【0096】
表4:L−Ala−2−MeOAPA及びL−Ala−2,5−ジMeOAPAを使用した、微生物のL−アラニン−アミノペプチダーゼ活性の視覚化
表中、*ほとんど増殖していない
【0097】
この二種類の基質を使用することによって、HClを少量添加した後、グラム陽性菌におけるL−アラニン−アミノペプチダーゼ活性を視覚化できる。更に、フェニル基に(メトキシ)置換基を付加することによって、(特にグラム陽性菌に対する)基質の毒性を低減できる。しかし、このように増殖力が増大すると特異性が損なわれる;具体的には、Enterococcus faecalisはL−Ala−2,5−ジMeOAPAを使用して48時間インキュベートした後に活性を示す。
【実施例5】
【0098】
<ゲル化媒体における微生物のβ−アラニン−アミノペプチダーゼ活性の視覚化:β−アラニル−9−(4−アミノフェニル)−10−メチルアクリジニウム塩化物(四級基質)の使用>
5.1:使用した物質
ゲル化媒体における微生物のβ−アラニン−アミノペプチダーゼ活性を、下記式のβ−アラニル−9−(4−アミノフェニル)−10−メチルアクリジニウム塩化物(四級基質)(以下、β−Ala−4−AP−10−MAと呼ぶ)と呼ばれる基質を使用して視覚化する。
【0099】
【化10】

【0100】
5.2:β−Ala−4−AP−10−MAの合成
出発化合物はt−Boc−アラニル−9−(4−アミノフェニル)アクリジンであり、これの合成については段落1.2.2(L−Ala−APAの合成)中に既に開示している。t−Boc−アラニル−9−(4−アミノフェニル)アクリジン(0.67g、1.5mmol)をアセトニトリル(最小体積)中に溶解し、ヨウ化メチル(4.0ml)を使用して還流する。その後フラスコを閉鎖し、40℃において100時間より長くインキュベートする。固体の反応物が反応が進行するにつれて溶解し、オレンジ色の溶液になる。この溶液中に、オレンジ色がかった黒色の結晶が生じる。
【0101】
100時間後、この反応混合物を撹拌しながら酢酸エチル(100ml)中に移す。所定時間後、四級塩をろ過してジエチルエーテルで洗浄する。
【0102】
生成物を最少量のエタノール中に溶解し、HClで飽和した酢酸エチル(10ml)と共に撹拌する。数時間後に生じた沈殿を、減圧下でろ過することによって回収する。ろ過したものにジエチルエーテルを添加することによって、生成物を更に回収することができる。生成物を合わせてジエチルエーテルで洗浄し、水分を吸収しないように急速に乾燥させる。
【0103】
脱保護は上記の方法と同様である。
【0104】
5.3:媒体の調製
β−Ala−4−AP−10−MAを300mg/l含むゲル化媒体を、以下のように調製する:46.37gのColumbia agarを蒸留水1リットル中に添加した後でオートクレーブし、DMSO中に溶解した原液を使用して基質を添加する。本出願人が保存している株に由来する微生物を、0.5McFarlandの懸濁液を使用して、三か所に分けて媒体上に播種した。培養皿を37℃において48時間インキュベートした。24時間及び48時間インキュベートした後に、形成されたコロニーの外観を調べた。このコロニーの色及びこの色の濃さについて記録した。
【0105】
5.4:結果
結果を下記表5中に示す。
【0106】
この基質を使用すると、(酸を添加せずに)コロニー中に集まった状態で自発的にオレンジ色の着色が生じることによって、グラム陰性菌におけるβ−アラニン−アミノペプチダーゼ活性を視覚化することができる。この活性を有しないコロニーは無色のままである。従って、この基質は感受性がありかつ特異的である。この基質を使用することによって、Pseudomonas aeruginosa株を確認でき、特にこの株と他の細菌とを識別できる。
【0107】
【表5】

【0108】
表5:β−Ala−4−AP−10−MAを使用した、微生物のβ−アラニン−アミノペプチダーゼ活性の視覚化
【実施例6】
【0109】
<プロリンに基づく非四級基質を使用した、ゲル化媒体における微生物のL−プロリン−アミノペプチダーゼ活性の視覚化>
6.1:使用した物質
ゲル化媒体における微生物のL−プロリン−アミノペプチダーゼ活性を、下記式のL−プロリル−9−(4−アミノフェニル)アクリジン(非四級基質)(以下、L−Pro−4−APAと呼ぶ)と呼ばれる基質を使用して視覚化する。
実施される:
【0110】
【化11】

【0111】
6.2:L−Pro−4−APAの合成
この合成は上記段落1.2中で二つの方法A及びBに従って既に実施しているが、この方法におけるアミノ酸アラニンをアミノ酸プロリンに置き換えた。L−Pro−4−APAを合成する際にはこれを参照するのがよい。
【0112】
6.3:媒体の調製
L−プロリル−9−(4−アミノフェニル)アクリジン(以下、L−Pro−4−APAと呼ぶ)を含むゲル化媒体を、以下のように調製する:サブロー寒天45gを蒸留水1リットル中に添加した後、オートクレーブする。この反応媒体は、DMSO中に溶解した原液を使用して得られるL−Pro−APAを0.3g/lを含む。
【0113】
本出願人が保存している株に由来する微生物を、0.5McFarlandの懸濁液を使用して、三か所に分けてこの媒体上に播種した。培養皿を37℃において24時間インキュベートした。24時間インキュベートした後に、形成されたコロニーの外観を調べた。このコロニーの色を、酢酸(以下、GAA(氷酢酸)と呼ぶ)を少量添加する前後について記録した。
【0114】
6.4:結果
結果を下記表6中に示す。
【0115】
【表6】

【0116】
表6:濃度を最適化した基質L−Pro−4−APAを使用した、微生物のL−プロリン−アミノペプチダーゼ活性の視覚化
【0117】
特定のCandida酵母株について、この基質の阻害特性が実証される。しかし、酸を添加しなくても黄色に着色する酵母がある。この着色は特定の株について、特にCandida albicansについてより濃く、また、培養基が存在しない場合にもより濃い。このことから、アミノ酸としてプロリンを含む本出願人の基質を使用することよって、酵母におけるL−プロリン−アミノペプチダーゼ活性を視覚化できることが明らかである。
【実施例7】
【0118】
<セリンに基づく非四級基質を使用した、ゲル化媒体における微生物のL−セリン−アミノペプチダーゼ活性の視覚化>
7.1:使用した物質
ゲル化媒体における微生物のL−セリン−アミノペプチダーゼ活性を、下記式のL−セリル−9−(4−アミノフェニル)アクリジン(非四級基質)(以下、L−Ser−4−APAと呼ぶ)と呼ばれる基質を使用して視覚化する。
【0119】
【化12】

【0120】
7.2:L−Ser−4−APAの合成
L−Pro−4−APAについて開示したように(上記段落6.2)、この合成は上記段落1.2中で二つの方法A及びBに従って既に実施しているが、この方法におけるアミノ酸アラニンをアミノ酸セリンに置き換えた。L−Ser−4−APAを合成する際にはこれを参照するのがよい。
【0121】
7.3:媒体の調製
L−セリル−9−(4−アミノフェニル)アクリジン(以下、L−Ser−4−APAと呼ぶ)を含むゲル化媒体を、以下のように調製する:L−Ser−4−APA30mgを4gのColumbia agarに添加し、これを更に蒸留水0.1リットル中に添加した後、オートクレーブする。この反応媒体を116℃において20分間オートクレーブする。この基質の大部分は溶液状であり、着色は残っていない。
【0122】
本出願人が保存している株に由来する微生物を、0.5McFarlandの懸濁液を使用してこの媒体上に播種した。培養皿を37℃において24時間インキュベートした。各懸濁液を10μlずつ採取した試料を培養して、コロニーを形成させた。18〜24時間インキュベートした後に、形成されたコロニーの外観を調べた。
【0123】
このコロニーの色を、酢酸(以下、GAA(氷酢酸)と呼ぶ)を少量添加する前後について記録した。
【0124】
7.4:結果
結果を下記表7中に示す。
【0125】
【表7】

【0126】
表7:濃度を最適化した基質L−Ser−4−APAを使用した、微生物のL−セリン−アミノペプチダーゼ活性の視覚化
【0127】
ここでも、アクリジンに基づく基質によって、特定の株が部分的に阻害される。試験した三種のグラム陰性菌株においては、酢酸を添加した後に、反応による特定の着色が生じる。
【実施例8】
【0128】
<1個、2個又は3個のL−アラニンに基づく四級基質を使用した、ゲル化媒体における微生物のL−アラニン−アミノペプチダーゼ活性の視覚化>
8.1:使用した物質
ゲル化媒体における微生物のL−アラニン−アミノペプチダーゼ活性を、三種の基質、すなわち実施例3中に記載するL−Ala−4−AP−10−MA、L−Ala−4−AP−10−MAにL−アラニンが1個付加したL−Ala−L−Ala−4−AP−10−MA、更にL−アラニンが1個付加したL−Ala−L−Ala−L−Ala−4−AP−10−MAを使用して視覚化する。
【0129】
8.2:上記基質の合成
上記3.2の部に記載した方法と同様に、L−アラニンを1個、2個又は3個有する適切な出発化合物を使用して、上記基質を調製した。
【0130】
8.3:媒体の調製
上記三種の基質を含むゲル化媒体を、以下のように調製する:各基質30mgを、滅菌蒸留水10ml中に(加熱)溶解する。この溶液10mlを、50℃において溶融状に維持した90mlのColumbia agarに添加する。
【0131】
こうして得られた媒体上に、NCTC(National Collection of Type Cultures、英国コリンデール)が保存している株に由来する様々な微生物株を複数点接種法(multipoint inoculation)によって播種した:各株について、0.5McFarlandの懸濁液10μlを各培養基上に載せた。
【0132】
24時間及び48時間インキュベートした後に、形成されたコロニーの外観を調べた。このコロニーの色及び増殖を記録した。
【0133】
8.4:結果
結果を下記表8中に示す。
【0134】
【表8】

【0135】
++は良好な増殖、+は適度な増殖、+/−は不十分な増殖、NGは増殖していないことを意味する。
【0136】
この三種の媒体において、グラム陰性菌株はオレンジ色のコロニーを形成し、一方、グラム陽性菌株は無色のコロニーを形成した、又は、増殖しなかった。従って、この三種の媒体を使用することによって、グラム陰性菌とグラム陽性菌とを識別することができ、この媒体によれば、試験した全ての又はいくつかの株の増殖を識別することができる。
【実施例9】
【0137】
<ピログルタミル−9−(4−アミノフェニル)−10−メチルアクリジン塩酸塩(pyroglutamyl−9−(4−aminophenyl)−10−methylacridine hydrochloride salt)を使用する四級基質を使用した、ゲル化媒体における微生物のピログルタミン−アミノペプチダーゼ(pyroglutamine−aminopeptidase)活性の視覚化>
9.1:使用した物質
ゲル化媒体における微生物のピログルタミン−アミノペプチダーゼ活性を、ピログルタミル−9−(4−アミノフェニル)−10−メチルアクリジン(以下、PG−4−AP−10−MAと呼ぶ)を使用して視覚化する。
【0138】
9.2:この基質の合成
L−アラニンをピログルタミンに置き換える以外は上記3.2の部に記載した方法と同様に、この基質を調製した。
【0139】
9.3:媒体の調製
この基質を含むゲル化媒体を、以下のように調製する:各基質30mgを、滅菌蒸留水10ml中に(加熱)溶解する。この溶液10mlを、50℃において溶融状に維持した90mlのColumbia agarに添加する。
【0140】
上記で得た媒体上に、NCTC(National Collection of Type Cultures、英国コリンデール)が保存している株に由来する様々な微生物株を、上記実施例8中に記載した複数点接種法によって播種した。
【0141】
24時間及び48時間インキュベートした後に、形成されたコロニーの外観を調べた。このコロニーの色及び増殖を記録した。
【0142】
9.4:結果
結果を下記表9中に示す。
【0143】
【表9】

【0144】
++は良好な増殖、+は適度な増殖、+/−は不十分な増殖、NGは増殖していないことを意味する。
【0145】
この実施例の媒体を使用することによって、ピログルタミル−アミノペプチダーゼ活性を示す菌とこの活性を示さない菌とを識別することができる。
【実施例10】
【0146】
<グリシル−9−(4−アミノフェニル)−10−メチルアクリジン塩酸塩に基づく四級基質を使用した、ゲル化媒体における微生物のグリシン−アミノペプチダーゼ活性の視覚化>
10.1:使用した物質
ゲル化媒体における微生物のグリシン−アミノペプチダーゼ活性を、グリシル−9−(4−アミノフェニル)−10−メチルアクリジン(以下、G−4−AP−10−MAと呼ぶ)を使用して視覚化する。
【0147】
10.2:この基質の合成
L−アラニンをグリシンに置き換える以外は上記3.2の部に記載した方法と同様に、この基質を調製した。
【0148】
10.3:媒体の調製
この基質を含むゲル化媒体を、以下のように調製する:この基質30mgを、滅菌蒸留水10ml中に(加熱)溶解する。この溶液10mlを、50℃において溶融状に維持した90mlのColumbia agarに添加する。
【0149】
上記で得た媒体上に、NCTC(National Collection of Type Cultures、英国コリンデール)が保存している株に由来する様々な微生物株を、上記実施例8中に記載した複数点接種法によって播種した。
【0150】
24時間及び48時間インキュベートした後に、形成されたコロニーの外観を調べた。このコロニーの色及び増殖を記録した。
【0151】
10.4:結果
結果を下記表10中に示す。
【0152】
【表10】

【0153】
++は良好な増殖、+は適度な増殖、+/−は不十分な増殖、NGは増殖していないことを意味する。
【0154】
この実施例の媒体を使用することによって、グリシルアミル−アミノペプチダーゼ(glycylamyl−aminopeptidase)活性を示す菌とこの活性を示さない菌とを識別することができる。
【実施例11】
【0155】
<t−BOC−L−アラニル−L−アラニル−L−アラニル−9−(4−アミノフェニル)−10−メチルアクリジン塩酸塩に基づく四級基質(アミノ酸が遮断剤に結合している)を使用した、ゲル化媒体における微生物のt−BOC−L−アラニル−L−アラニル−L−アラニル−ペプチダーゼ活性の視覚化>
11.1:使用した物質
ゲル化媒体における微生物のL−アラニン−アミノペプチダーゼ活性を、t−BOC−L−アラニル−L−アラニル−L−アラニル−9−(4−アミノフェニル)−10−メチルアクリジン(以下、t−BOC−L−Ala−4−AP−10−MAと呼ぶ)を使用して視覚化する。
【0156】
11.2:この基質の合成
アミノ化合物を脱保護しないこと以外は上記3.2の部に記載した方法と同様に、この基質を調製した。
【0157】
11.3:媒体の調製
この基質を含むゲル化媒体を、以下のように調製する:この基質30mgを、滅菌蒸留水10ml中に(加熱)溶解する。この溶液10mlを、50℃において溶融状に維持した90mlのColumbia agarに添加する。
【0158】
上記で得た媒体上に、NCTC(National Collection of Type Cultures、英国コリンデール)が保存している株に由来する様々な微生物株を、上記実施例8中に記載した複数点接種法によって播種した。
【0159】
24時間及び48時間インキュベートした後に、形成されたコロニーの外観を調べた。このコロニーの色及び増殖を記録した。
【0160】
11.4:結果
結果を下記表11中に示す。
【0161】
【表11】

【0162】
++は良好な増殖、+は適度な増殖、+/−は不十分な増殖、NGは増殖していないことを意味する。
【0163】
この実施例の媒体を使用することによって、4つの群の微生物を得ることができる:
・本来のオレンジ色のコロニーを形成する微生物、
・淡いオレンジ色のコロニーを形成する微生物、
・無色のコロニーを形成する微生物、及び、
・コロニーを形成しない微生物。
【0164】
試験した株のうち、グラム陰性菌は上記の最初の2つの群に属し、一方、グラム陽性菌は後の2つの群に属する。
【0165】
脱保護した基質について得られた結果(上記実施例8を参照)に対し、遮断剤(t−Boc)の存在によって活性を調節することができる。
【0166】
(実施した他の実験)
本明細書中において示した結果が確認できる他の基質について試験した;例えば以下のものを挙げることができる。
・L−アラニル−9−(4−アミノ−3−メトキシフェニル)−10−メチルアクリジニウム塩化物
・L−アラニル−9−(4−アミノフェニル)−10−メチルアクリジニウム塩化物の塩酸塩
・L−アラニル−9−(4−アミノ−2,5−ジメトキシフェニル)−10−メチルアクリジニウム塩化物の塩酸塩
・β−アラニル−9−(4−アミノフェニル)−10−メチルアクリジニウム塩化物の塩酸塩
・β−アラニル−9−(4−アミノ−2−メトキシアミノフェニル)アクリジン
・β−アラニル−9−(4−アミノ−2,5−ジメトキシアミノフェニル)アクリジン
・β−アラニル−9−(4−アミノ−3−メトキシフェニル)−10−メチルアクリジニウム塩化物の塩酸塩
・β−アラニル−9−(4−アミノ−2,5−ジメトキシフェニル)−10−メチルアクリジニウム塩化物の塩酸塩
【0167】
同様に、以下のもの等の上記以外の種の微生物、一般的に細菌についても試験した。
・Salmonella typhimurium
・Staphylococcus epidermidis
・Serratia marcescens

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物におけるアミノペプチダーゼ活性を着色によって検出するための、又は、少なくとも一種の細菌がグラム陽性群若しくはグラム陰性群のいずれに属するかを着色によって決定するための、発色性酵素基質であって、
下記式(I)を有する:
【化1】

式中、
・Rは、存在しない、又は、アルキル基、アリル基若しくはアリール基であり、
・Rは、少なくとも1個のアミノ酸、好ましくはアラニンからなり、
・R、R、R及びRは、互いに独立して、H−、又は、−O−アルキル基、好ましくは−O−CHからなり、
・Rは、H、O−CH、アルキル基又はハロゲンからなり、
・Rは、H又はClからなり、かつ、
・nは、0又は1の整数である:
ことを特徴とする基質。
【請求項2】
下記式(Ia)を有する:
【化2】

又は、下記式(Ib)を有する:
【化3】

ことを特徴とする請求項1に記載の基質。
【請求項3】
がメチル基又はアリル基である
ことを特徴とする請求項1に記載の基質。
【請求項4】
下記式(Ic)を有する:
【化4】

又は、下記式(Id)を有する:
【化5】

ことを特徴とする請求項1に記載の基質。
【請求項5】
又はL−アラニンが遮断剤と結合している
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の基質。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の少なくとも一種の発色性酵素基質を、単独で使用した、又は、本発明の基質によって検出される酵素活性以外の酵素活性に特異的な少なくとも一種の他の酵素基質と併用して使用した培養基。
【請求項7】
ゲル化媒体からなる
ことを特徴とする請求項6に記載の媒体。
【請求項8】
微生物における少なくとも一種のアミノペプチダーゼ活性を検出するための、請求項1〜5のいずれか1項に記載の発色性酵素基質の使用、又は、請求項6又は7に記載の培養基の使用。
【請求項9】
グラム陽性着色された細菌とグラム陰性着色された細菌とを分けるための、請求項1〜5のいずれか1項に記載の発色性酵素基質の使用、又は、請求項6又は7に記載の培養基の使用。
【請求項10】
微生物における少なくとも一種のアミノペプチダーゼ活性を検出する方法であって、
以下:
・請求項6又は7に記載の培養基を準備すること、
・試験する生物試料を前期培養基に播種すること、
・これをインキュベートしておくこと、及び、
・少なくとも一種のアミノペプチダーゼ活性の存在を、単独で、又は、アミノペプチダーゼ活性以外の少なくとも一種の酵素活性と共に視覚化すること:
である
ことを特徴とする方法。
【請求項11】
グラム陽性菌若しくはグラム陰性菌のいずれに属するかという点において細菌を識別する方法であって、
以下:
・請求項6又は7に記載の培養基を準備すること、
・試験する生物試料を前期培養基に播種すること、
・これをインキュベートしておくこと、及び、
・グラム陰性の微生物が存在することを示す少なくとも一種の色の存在を視覚化すること:
である
ことを特徴とする方法。
【請求項12】
アクリジン基の10の位置にある窒素が四級でない場合、酸、好ましくは塩酸、酢酸又はクエン酸を培養基中に添加することにより、少なくとも一種のアミノペプチダーゼ活性の存在を視覚化する
ことを特徴とする請求項10又は11に記載の方法。

【公表番号】特表2006−516401(P2006−516401A)
【公表日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502170(P2006−502170)
【出願日】平成16年1月26日(2004.1.26)
【国際出願番号】PCT/FR2004/050031
【国際公開番号】WO2004/069804
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(504238301)ビオメリュー (74)
【Fターム(参考)】