説明

酸化エチレンモニタ

【課題】運転ガスや水素発生器等の付帯設備を全く使用せず、簡便・小型・軽量で、低濃度の酸化エチレンを精度よく計測できる酸化エチレンモニタを提供する。
【解決手段】高選択性をもつ半導体ガスセンサを装着したガスクロマトグラフを高感度で安定に作動させるには、炭化水素類の含有がなく、適度の湿度を有するキャリアガスが要求される。このキャリアガスは雰囲気空気を圧縮加圧する小型コンプレッサと空気中に含有される炭化水素類を酸化除去し得る白金触媒炉及び吟味された調湿剤を充填した湿度・温度制御筒により構成されたもので得られる。キァリアガスが管理された調湿機構(キャリアガス供給部)を具備し、運転ガス等の付帯設備を排除した構成の半導体ガスセンサ式ガスクロマトグラフの分離・検出部及びマイクロプロセッサによる制御部からなる機構により超高感度酸化エチレンモニタが実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滅菌ガスである酸化エチレン(以後EOと言う)が大気中に拡散した微量のEOの測定装置に関する。さらに詳しくは、酸化エチレンモニタとその構造に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ガス滅菌の大部分はEOが使用されている。これは分子径が小さく、透過性が大きく、装置や対象物に対する腐食性が小さく、エアレーションにより、残留EOも簡単に行なえるなどの利点があるからである。しかし、EOガスは発がん性の高い物質の一つとして挙げられ、EO滅菌ガスが大気中に拡散される許容濃度の規制が一層厳しくなってきている。また、ガス漏れの事故も発生している。
【0003】
滅菌工程終了後、滅菌チャンバー自動シーケンスにより真空・加圧のパルス洗浄を数回繰り返した後、連続パージにはいる。滅菌に吸着されたEOはパルス洗浄中に大部分は脱着されるが、PVC製品のように脱着しにくい物もあり、高濃度EOがチャンバーに残存する場合がある。これが事故の主たる原因ではないかとされている。
【0004】
アメリカOSHAからTLV−TWA値(許容値)を1ppmまで引上げられ、日本もこれに追随している。簡易的なバッチ式のインジケーター(バイオインジケーター・カラーインジケーター)が使用されているが暴露量を確定するまで数日要する物もあり、データも必ずしも正確ではないと言われている。
【0005】
平成11年3月に環境庁が大気環境中のEOを測定する方法として有害大気汚染物質測定マニュアルで提示した。条例で規定されている測定方法は、固体捕集法を用いて採取し、ガスクロマトグラフ法(以後GCまたはGC法と言う)で測定する方法である。
大気環境中のEOを測定する場合、通常、毎分約1リットルで24時間、固体捕集剤に大気を通気し採取する。この捕集したものをガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)で分析する。測定値に対する信頼度はかなり高いとされているが、時間を要するのでモニタとしては不向きである。
【0006】
モニタとしては、水素炎イオン化形検出器(Flame Ionization Detector以後FIDと言う)とGCの組み合わせた装置(以後GC/FIDシステムと言う)が発表され、5分程度で測定できるシステムがある。FIDは高感度検出器として広く利用されている。GC/FIDシステムは付帯設備が必要とされる。キャリアガスとして、窒素ボンベ、FIDの運転ガスとして、水素ボンベ又は水素ガス発生器と助燃ガスのエアボンベが要求される。連続運転(連続測定)をする場合、ボンベの調達・設置・管理、水素発生器ではメンテナンスなど煩雑な作業が日常的に行わなければならない。また、FIDは雰囲気中のメタンも感度よく検出されるので、EO濃度との濃度比、すなわちS/Nが1/10以下になることが定常的である。これはGC的にみるとEOの検出前に10倍ものメタンのピークが検出されることで、リテンションタイム比及びカラムの理論段数の大きいものが必要とされる。(図3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】 特開2007−57392公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】 「有害大気汚染物質測定法マニュアル(環境庁 平成11年3月)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ガス種に対し選択性を持つ半導体ガスセンサ(Semi−Conductive Detector以後SCDと言う)を検出器として、GCとの組み合わせたシステムすなわちGC/SCDシステムは、GC/FIDシステムのような、2本の運転ガスと水素ガス発生器等の大掛かりな付帯設備に支配されること無く、ボンベ不要で、小型・軽量で、簡単に微量分析が遜色なくできる酸化エチレンモニタ。
センサ自身が選択性を持っているため、GCの分離性能を軽減することが出来、分析時間の短縮化が図れる。
【0010】
このSCDは酸化雰囲気、すなわち、空気中で作動する。GC法では通常、ヘリウム・窒素ガスがキャリアガスとして用いられる。そのままSCDに導くと還元雰囲気のため、全くSCDは作動しない。従って、一般的にはSCD入口でボンベ酸素ガスにて酸素濃度が約20%になるように混合する。この手法でSCDが要求する酸化雰囲気の空気は実現できる。しかし、乾燥した空気では、SCDは異常な挙動を示し、GCの検出器には使用はできない。酸素ガスに水をバブリングさせても最大20%の湿度しか得られない。この湿度でもSCDは安定に作動しない。SCDが要求する湿度許容範囲を見出した。
【0011】
そこで、本発明は上記の問題点を解決して、長時間に亘って雰囲気空気中のEOの経時的な計測が行なえ、雰囲気空気中に含まれるEO濃度を間歇・連続的に計測、時間経緯と共にEO濃度をppm表示することが可能な酸化エチレンモニタを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、雰囲気空気中に含まれるEO濃度モニタであって、SCDと調湿されたキャリアガス供給部と分離手段であるGCシステム及び各データ(EO濃度・キャリアガスの湿度・カラム温度など)をインターフェイスを介した後、マイクロプロセッサにおいてデータ処理する制御部から構成される。これらを図1に示す。
【0013】
SCDに特化したキャリアガスは小型コンプレンサと触媒炉及び調湿筒で提供される。すなわち、小型コンプレッサで雰囲気空気を100kPa程度に圧縮加圧し、雰囲気湿度の2倍程度に加湿する。この圧縮空気をさらに白金触媒が加熱された空気浄化器に導入される。ここで、雰囲気空気中の有機化合物は酸化除去される。測定時妨害となる有機化合物が除去され、雰囲気湿度が加湿された空気を精製する。この空気は湿度調整剤を充填した槽(湿度制御筒)に導かれる。湿度制御筒でSCDに有用な湿度をもったキャリアガスとなる。
【0014】
キャリアガスは、相対湿度40〜70%で湿度調整し、流量制御弁を介してカラムに導入する。その流量はカラム温度と共に分離状況で決定される。カラムは2種類から構成され、プレカット用とアナライザ用としている。これらのカラムは同一の熱筒、いわゆる熱板式カラムホルダに収納し、小型化・省力化を図っている。プレカットカラムはEOが通過した時点で流路が切り替わりバックフラッシュされる。この操作は恒常的に行うことで、カラムに高沸点物の混入を避けている。アナライズカラムにはEOより一般的に沸点の低いものまたは分子の小さいものが導入される。ここで、大気中に存在するメタンが被測定物すなわち、EOの妨害となる。従って、メタンとEOのリテンションタイムの差(分離度)が重要である。例えば、従来のFID法では、EOの0.1ppmを測定する場合、メタンは雰囲気中に1ppm程度存在する。1/0.1=10倍の濃度比となり、メタンが完全に流出し終わるまでに、EOが流出してくるとメタンの残量の上にEOが乗り、EO濃度に対しプラスの誤差が生じる。図3参照
本酸化エチレンモニタはSCD自身の選択性により、同一の分離状況においても、メタンの感度が低いためEOの濃度には影響されないことで、精度が向上することになる。従って、カラムの分離度が比較的悪くても精度には遜色がない事となる。更に、従来の技術に比してカラム長が短縮され、測定周期の短縮に繋がるメリットを見出している。
【発明の効果】
【0015】
本発明の手段を用いれば、キャリアガスを調湿することによりSCDを安定に動作させ、EOの計測精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】 キャリアガス供給部、分離・検出部、制御部で構成された酸化エチレンモニタ
【図2】 酸化エチレンモニタの実例の流路構成図
【図3】 CH4/EOの濃度比が大きい時のFID/SCDのクロマトグラム比較例
【図4】 本酸化エチレンモニタによるEOのクロマトグラム(20,2,0.2ppmEO/Air)
【図5】 クロマトグラムと各操作の関係を示す。本酸化エチレンモニタはシーケンサにより作動し、1周期6分で測定が完了する。これが自動的に繰り返し測定される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図2に、本発明に係わるEOモニタの流路図を示す。図2において、電磁弁7をON、校正モードにし、サンプリングポンプ11で標準ガスを採取する。適切な流量で計量管16に導入される。
サンプリングポンプ11を停止し、大気平衡をとる。6方口コック15を「導入」に換え、プレカットカラム20へ採取した試料を導入する。この時、プレカットカラム20とアナライズカラム18はシリーズに接続される。EOがプレカットカラム20から流出された時点で、6方口コック17が駆動し、アナライズカラム18にEOが導入され、EOは規定の時間で流出してくる。EOのピークが検出される前に、自動ゼロをとり、EOピークが立ち上がると100mSec毎に変化量を積分して、標準ガスのEO濃度の面積をメモリーする。これでモニタの校正が終了。6方口コック17が元に戻る。10秒後、6方口コック15も元の位置に戻る。
【0018】
次に、電磁弁7をOFF、測定モードにする。サンプリングポンプ11で雰囲気ガス(被測定ガス)を計量管16に採取する。
サンプリングポンプ11を停止し、大気平衡をとる。6方口コック15を導入に切換る。EO成分がプレカットカラム20から流出された時点で、6方口コック17が駆動し、アナライズカラム18にEOを含む前流出物が導入され、EOと他の物質とが分離される。EOのピークが検出される前に自動ゼロをとり、EOピークが立ち上がると100mSec毎に変化量を積分して面積を求め、先に採った標準ガスの濃度の面積比で未知のEO濃度を算出する。6方口コック17が元に戻る。10秒後、6方口コック15も元の位置に戻し、次の測定にそなえる。一連の操作をマイクロプロセッサからの指令されるシーケンス従って実行される。
【実施例】
【0019】
図4参照
【産業上の利用可能性】
【0020】
EOは急性毒性および慢性毒性があり、近年発ガン性があることも明らかになっている。そのため、大気汚染防止法では健康リスクが高いと考えられる優先取込物質に指定され、東京都では平成13年度に制定された環境確保条例に基づきEOの排ガス規制を開始している。
EOによるガス滅菌器は全国で数千台が作動しているとされる。規模については大小あるが、排出基準は厳守しなければならない。排気処理およびエアレーションが完全に行なわれていることの確認は不可欠である。従って、濃度測定を恒常的にモニタすることが不可欠とされる。本酸化エチレンモニタの提供により、何処でも簡便に1時間当り10回の測定のデータが得られ、雰囲気濃度、排気処理効率などの監視・管理が行なえる。また、異常値のときは警報を発し、事故を防止することもできる。従って、作業環境中のEO濃度の監視・滅菌チャンバー内の残留EOの測定などの利用がある。
【符号の説明】
【0021】
1 コンプレッサ
2 触媒炉
3 湿度制御筒
4 調圧バルブ
5 調圧バルブ
6 圧力計
7 電磁弁
8 圧力計
9 コック駆動モータ
10 コック駆動モータ
11 サンプリングポンプ
12 ニードルバルブ
13 サンプル流量計
14 リストリクタ
15 6方コック
16 計量管
17 6方コック
18 アナライズカラム
19 SCD(半導体ガスセンサ)
20 プレカットカラム
21 リストリクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアガスを、有機化合物除去機構と湿度および温度調整器を通過させて所定の湿度とし、この調整したキャリアガスを用いサンプルガスを混合かつ調湿して、半導体ガスセンサ式ガスクロマトグラフにて分析することを特性とする酸化エチレンモニタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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