説明

酸化チタン系粉末及びその製造方法、並びに、チタン酸塩粉末の製造方法

【課題】 焼成時の酸化チタンの粒成長を十分に抑制することができ、粒度分布の幅が狭い微細なチタン酸塩粉末を得ることができる酸化チタン系粉末を提供すること。
【解決手段】 酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部が、酸化チタンとアルカリ土類金属との反応物で構成されている、酸化チタン系粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化チタン系粉末及びその製造方法、並びに、チタン酸塩粉末の製造方法に関し、より詳しくは、コンデンサ、PTC(Positive Temperature Coefficient)素子などの電子部品用の誘電体材料として有用なチタン酸塩粉末の原料となる酸化チタン系粉末、及びその製造方法、並びに、上記酸化チタン系粉末を用いたチタン酸塩粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸バリウム系粉末等のチタン酸塩粉末は、コンデンサやPTC素子などの電子部品用の誘電体材料として広く用いられている。チタン酸バリウム系粉末は、固相合成法、蓚酸塩法、水熱合成法などによって製造されている。このうち固相合成法は、コストが安く結晶性が高い粉末が得られるという優位性がある。固相合成法によるチタン酸バリウム粉末の製造方法として、例えば特許文献1には、比表面積が10m/g以下の炭酸バリウムと、比表面積が15m/g以上の酸化チタンとを混合した後、1000℃以上の温度で焼成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−338524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、固相合成法では、バリウム原料(主に炭酸バリウム)とチタン原料(酸化チタン)とを高温(例えば1000℃以上)で反応させるため、温度上昇過程で酸化チタンが粒成長してしまい、微細な粒子が得られにくいという問題や、粒度分布が広くなる(粗大粒子が生成してしまう)という問題があった。
【0005】
また、上記特許文献1に記載された製造方法では、原料の比表面積を制御することでチタン酸バリウム粉末の粒径バラツキを低減しているものの、温度上昇過程での酸化チタンの粒成長を十分に抑制することができず、チタン酸バリウム粉末の微細化及び粒度分布の均一化が必ずしも十分ではないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、チタン酸バリウム系粉末等のチタン酸塩粉末の原料となる酸化チタン系粉末であって、焼成時の酸化チタンの粒成長を十分に抑制することができ、粒度分布の幅が狭い微細なチタン酸塩粉末を得ることができる酸化チタン系粉末、及びその製造方法、並びに、上記酸化チタン系粉末を用いたチタン酸塩粉末の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部が、酸化チタンとアルカリ土類金属との反応物で構成されている、酸化チタン系粉末を提供する。
【0008】
かかる酸化チタン系粉末によれば、その表面の少なくとも一部が酸化チタンとアルカリ土類金属との反応物で構成されていることにより、これを原料としてチタン酸塩粉末を製造する場合に、焼成時の酸化チタンの粒成長を十分に抑制することができる。そのため、本発明の酸化チタン系粉末を原料として用いることにより、固相合成法の特徴である低コスト、高結晶性というメリットを活かしたまま、粒度分布の幅が狭い微細なチタン酸塩粉末を得ることができる。
【0009】
また、本発明の酸化チタン系粉末は、当該酸化チタン系粉末全体におけるアルカリ土類金属とチタンとのモル比(アルカリ土類金属/チタン)が0.05以上0.8以下であることが好ましい。上記モル比が0.05以上であることにより、焼成時の当該酸化チタン系粉末の粒成長をより十分に抑制でき、粒度分布の狭いチタン酸塩粉末を得ることができる。また、上記モル比が0.8以下であることにより、最終生成物であるチタン酸塩粉末中の欠陥をより十分に低減することができる。
【0010】
また、本発明の酸化チタン系粉末において、上記アルカリ土類金属は、バリウム及びストロンチウムからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。かかる構成を有する酸化チタン系粉末は、チタン酸バリウム系粉末及びチタン酸ストロンチウム系粉末を製造するための原料として好適である。
【0011】
本発明はまた、酸化チタン粒子と、水溶性アルカリ土類金属塩と、水と、を含むpH11以上のスラリー中で、上記酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部を酸化チタンとアルカリ土類金属との反応物に変化させる反応工程を有する、酸化チタン系粉末の製造方法を提供する。かかる製造方法によれば、上述した本発明の酸化チタン系粉末を効率的に製造することができる。
【0012】
本発明は更に、上記本発明の酸化チタン系粉末を用いたチタン酸塩粉末の製造方法であって、上記酸化チタン系粉末と、上記チタン酸塩粉末の構成元素を含有する原料化合物と、を含む原料粉体を焼成し、上記チタン酸塩粉末を得る焼成工程を有する、チタン酸塩粉末の製造方法を提供する。ここで、上記構成元素は、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、希土類元素、珪素、鉛、マグネシウム及びジルコニウムからなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0013】
かかる製造方法によれば、本発明の酸化チタン系粉末を原料として用いることにより、焼成時の酸化チタンの粒成長が十分に抑制され、粒度分布の幅が狭い微細なチタン酸塩粉末を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、チタン酸塩粉末の原料となる酸化チタン系粉末であって、焼成時の酸化チタンの粒成長を十分に抑制することができ、粒度分布の幅が狭い微細なチタン酸塩粉末を得ることができる酸化チタン系粉末、及びその製造方法、並びに、上記酸化チタン系粉末を用いたチタン酸塩粉末の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0016】
本発明の酸化チタン系粉末は、酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部が、酸化チタンとアルカリ土類金属との反応物で構成されていることを特徴とするものである。
【0017】
酸化チタン粒子としては、公知のものを特に制限なく使用することができる。酸化チタン粒子の平均粒子径は、10〜200nmであることが好ましく、20〜100nmであることがより好ましい。この平均粒子径が10nm未満であると、最終生成物であるチタン酸塩粉末の粒度分布が広くなる傾向があり、200nmを超えると、チタン酸塩粉末の平均粒子径が大きくなってしまい、昨今の薄層コンデンサに適さない材料となってしまう傾向がある。
【0018】
アルカリ土類金属としては、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウム等が挙げられる。これらの中でも、アルカリ土類金属としては、バリウム、ストロンチウムが好ましい。
【0019】
酸化チタンとアルカリ土類金属との反応物としては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム等が挙げられる。これらの中でも、酸化チタンとアルカリ土類金属との反応物としては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムが好ましい。アルカリ土類金属がバリウム又はストロンチウムであり、酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部をチタン酸バリウム又はチタン酸ストロンチウムとした酸化チタン系粉末は、誘電体材料として有用なチタン酸バリウム系粉末又はチタン酸ストロンチウム系粉末の原料として好適である。
【0020】
酸化チタン系粉末は、当該酸化チタン系粉末全体におけるアルカリ土類金属とチタンとのモル比(アルカリ土類金属/チタン)が0.05以上0.8以下であることが好ましく、0.1以上0.6以下であることがより好ましく、0.2以上0.5以下であることが特に好ましい。このモル比が0.05未満であると、酸化チタン粒子の表面に占める酸化チタンとアルカリ土類金属との反応物の割合が少なくなり、焼成時の酸化チタンの粒成長を抑制する効果が低下する傾向がある。一方、このモル比が0.8を超えると、最終生成物であるチタン酸塩粉末中の欠陥が多くなる傾向がある。なお、アルカリ土類金属とチタンとのモル比は、蛍光X線分析装置により測定することができる。
【0021】
また、酸化チタン系粉末は、酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部が酸化チタンとアルカリ土類金属との反応物で構成されていればよいが、焼成時の酸化チタンの粒成長をより十分に抑制する観点から、酸化チタン粒子の表面の略全面が酸化チタンとアルカリ土類金属との反応物で構成されていることが好ましい。
【0022】
次に、本発明の酸化チタン系粉末の製造方法について説明する。本発明の酸化チタン系粉末の製造方法は、酸化チタン粒子と、水溶性アルカリ土類金属塩と、水と、を含むpH11以上のスラリー中で、上記酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部を酸化チタンとアルカリ土類金属との反応物に変化させる反応工程を有する方法である。
【0023】
上記反応工程においては、まず、酸化チタン粒子と、水溶性アルカリ土類金属塩と、水と、を含むpH11以上のスラリーを調製する。次に、このスラリー中で酸化チタン粒子の表面の酸化チタンとアルカリ土類金属イオンとを反応させ、酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部を酸化チタンとアルカリ土類金属との反応物に変化させる。
【0024】
上記スラリーは、少なくとも酸化チタン粒子と、水溶性アルカリ土類金属塩と、水とを混合することにより調製することができ、これにより、水溶性アルカリ土類金属塩が溶解した水溶液中に酸化チタン粒子が分散したスラリーを得ることができる。このとき、スラリーのpHを11以上に調整するために、必要に応じて塩基性物質を加える。また、スラリーには、チタン酸塩粉末を製造するための原料粉体として、チタン酸塩粉末の構成元素を含有する原料化合物の一部又は全部を予め加えてもよい。
【0025】
水溶性アルカリ土類金属塩としては、水に溶解してアルカリ土類金属イオンを供給可能なものであれば特に限定されないが、水に対する溶解度(溶媒100gに溶ける溶質の質量)が20℃で1g以上のものであることが好ましく、3g以上のものであることがより好ましい。
【0026】
水溶性アルカリ土類金属塩としては、例えば、アルカリ土類金属の水酸化物、塩化物、硝酸化物、酢酸化物、ヨウ化物及び臭化物、並びに、これらの水和物等が挙げられる。具体的な水溶性アルカリ土類金属塩としては、例えば、水酸化バリウム、塩化バリウム、硝酸バリウム、酢酸バリウム、ヨウ化バリウム、臭化バリウム、水酸化ストロンチウム、塩化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、ヨウ化ストロンチウム、臭化ストロンチウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、ヨウ化カルシウム、臭化カルシウム、並びに、これらの水和物等が挙げられる。上記水溶性アルカリ土類金属塩の中でも、不純物の混入防止の観点から、アルカリ土類金属の水酸化物及びその水和物が好ましく、水酸化バリウム、水酸化ストロンチウム及びこれらの水和物がより好ましい。これらの水溶性アルカリ土類金属塩は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
水溶性アルカリ土類金属塩としてアルカリ土類金属の水酸化物又はその水和物を用いる場合、これらは強塩基であるため、塩基性物質を加えることなくスラリーのpHを11以上にすることができる。塩基性物質を加えない場合は、アルカリ土類金属の水酸化物又はその水和物をスラリーのpHが11以上になるようにスラリー濃度を調節する。なお、水溶性アルカリ土類金属塩としてアルカリ土類金属の水酸化物又はその水和物を用いる場合でも、塩基性物質を更に加えてもよい。一方、水溶性アルカリ土類金属塩としてアルカリ土類金属の塩化物、硝酸化物、酢酸化物、ヨウ化物又は臭化物、或いはこれらの水和物を用いる場合には、スラリーのpHを11以上にするために、塩基性物質を添加する必要がある。この塩基性物質としては、例えば、アンモニア、テトラメチルアミンハイドライド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0028】
スラリーのpHは、11以上であることが必要であり、12以上であることが好ましい。スラリーのpHが11未満であると、反応工程において酸化チタンとアルカリ土類金属イオンとの反応が十分に進行せず、酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部が酸化チタンとアルカリ土類金属との反応物に変化した酸化チタン系粉末を得ることが困難となる。
【0029】
また、スラリー中のアルカリ土類金属イオンの濃度は、工業性、及び、酸化チタン粒子の表面を効率的にアルカリ土類金属イオンと反応させる観点から、0.1mol/L以上であることが好ましく、0.2〜2mol/Lであることがより好ましい。
【0030】
上記スラリー中で酸化チタン粒子の表面の酸化チタンとアルカリ土類金属イオンとを反応させる方法としては、水熱合成法や、ボールミル等を用いて混合処理する方法等が挙げられる。あるいは、水と酸化チタンとアルカリ土類金属イオン源とを混合し、撹拌によってアルカリ土類金属イオン源を溶解させた後、スプレードライすることで溶液温度を上げ反応させる方法がある。
【0031】
水熱合成法では、スラリーをオートクレーブに入れ、撹拌しながら加熱することにより反応を行う。加熱温度は、80℃以上とすることが好ましく、90〜200℃とすることがより好ましい。加熱温度が200℃を超えると、装置コストが高くなったり、装置からの不純物の混入が多くなる傾向がある。一方、加熱温度が80℃未満であると、反応が十分に進行せず、酸化チタン粒子の表面に占める酸化チタンとアルカリ土類金属との反応物の割合が少なくなり、焼成時の酸化チタンの粒成長を抑制する効果が低下する傾向がある。また、圧力は自生圧力であるが、具体的には0.1〜2.0MPaとすることが好ましい。また、反応時間は、酸化チタン粒子の表面が十分に酸化チタンとアルカリ土類金属との反応物に変化するように適宜調整されるが、0.5〜4時間とすることが好ましく、1〜2時間とすることがより好ましい。
【0032】
ボールミルを用いて混合処理する場合、回転数や混合時間等の条件は、酸化チタン粒子の表面が十分に酸化チタンとアルカリ土類金属との反応物に変化するように適宜調整されるが、例えば、50〜200rpmで3〜24時間混合することが好ましい。また、混合メディアとしては特に制限されないが、例えば、ジルコニアボール等を用いることが好ましい。この時、ボールの運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、スラリーの温度がある程度(おそらく80℃以上)に上がることによって反応が進むと考えられる。
【0033】
これらの処理を行うことにより、酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部を、水溶性アルカリ土類金属塩から供給されるアルカリ土類金属イオンと反応させ、酸化チタンとアルカリ土類金属との反応物に変化させることができる。また、焼成時の酸化チタンの粒成長をより十分に抑制する観点から、酸化チタン粒子の表面の略全面が酸化チタンとアルカリ土類金属との反応物に変化していることが好ましく、そのような酸化チタン系粉末が得られるように処理を行うことが好ましい。なお、これらの処理では、酸化チタン粒子の表面近傍のみが酸化チタンとアルカリ土類金属との反応物に変化し、中心部は酸化チタンのままとなる。
【0034】
反応後のスラリーの乾燥は、スラリーをそのままスプレードライヤー等により乾燥させる方法、スラリーを濾過して固液分離した後、分離した固形分を乾燥機等により乾燥させる方法などにより行うことができる。なお、短時間で乾燥できることから、スラリーをそのままスプレードライヤーにより乾燥させる方法を用いることが好ましい。乾燥温度は、水分を十分に除去できる温度であれば特に制限されず、通常、150〜200℃とすることが好ましい。
【0035】
また、上記の反応後、スラリー中に炭酸ガスを供給し、未反応のアルカリ土類金属イオンを炭酸塩として析出させることも好ましい。析出した炭酸塩は、チタン酸塩粉末を製造する際の焼成工程における原料粉体の一部として有効活用できる。その後、上述した方法で乾燥を行うことができる。
【0036】
以上の反応工程を経て、酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部が、酸化チタンとアルカリ土類金属との反応物で構成されている酸化チタン系粉末が得られる。
【0037】
次に、本発明のチタン酸塩粉末の製造方法について説明する。本発明のチタン酸塩粉末の製造方法は、上記本発明の酸化チタン系粉末と、上記チタン酸塩粉末の構成元素を含有する原料化合物と、を含む原料粉体を焼成し、上記チタン酸塩粉末を得る焼成工程を有する方法である。
【0038】
ここで、上記原料化合物は、本発明の酸化チタン系粉末の製造過程、例えば、上述した反応工程で予め加えておいてもよく、焼成工程で加えてもよい。また、原料化合物の必要量の一部を反応工程で予め加え、残りの原料化合物を焼成工程で加えてもよい。
【0039】
原料化合物に含有される上記構成元素としては、例えば、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、希土類元素、珪素、鉛、マグネシウム及びジルコニウム等が挙げられる。これらの中でも、上記構成元素としては、バリウム、ストロンチウムが好ましい。上記構成元素は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。また、上記構成元素を含む上記原料化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
焼成工程において酸化チタン系粉末に原料化合物を添加する場合には、それらを十分に混合することが好ましい。
【0041】
焼成工程において、原料粉体の焼成は、900〜1100℃、1〜5時間の条件で行うことが好ましい。
【0042】
以上の焼成工程を経て、チタン酸塩系粉末が得られる。本発明の製造方法により得られるチタン酸塩粉末は、焼成時の温度上昇過程での酸化チタンの粒成長が抑制され、粒度分布の幅が狭い微細なものとなる。したがって、本発明の製造方法により得られるチタン酸塩粉末は、コンデンサ、PTC素子などの電子部品用の材料として有用である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
なお、実施例及び比較例で得られたチタン酸塩粉末の平均粒子径及び変動係数は、以下の方法で算出した。すなわち、走査型電子顕微鏡(SEM)写真から100個の粒子を抽出し、この100個の粒子について円相当径を求め、その平均値を平均粒子径として算出し、{(標準偏差/平均値)×100}を変動係数(%)として算出した。
【0045】
(実施例1)
酸化チタン粒子(平均粒子径80nm)79.88gと、水酸化バリウム8水和物157.74gとを1Lのイオン交換水中に投入し、得られたスラリーをオートクレーブ中で撹拌しながら95℃で1時間加熱した。このとき、スラリーのpHは13であった。これにより、酸化チタン粒子の表面のほぼ全面をチタン酸バリウムに変化させた。次いで、スラリーをスプレードライヤーで乾燥させ、酸化チタン系粉末を得た。得られた酸化チタン系粉末の組成を蛍光X線分析装置で測定したところ、Ba/Tiのモル比は0.49であった。
【0046】
次に、得られた酸化チタン系粉末に炭酸バリウム98.68gを加えて混合し、1050℃で2時間焼成することで、チタン酸バリウム粉末を得た。得られたチタン酸バリウム粉末は、XRDによってBaTiOであることが確認された。また、SEM観察の結果、平均粒子径は0.35μmであり、変動係数は38%であった。
【0047】
(実施例2)
酸化チタン粒子(平均粒子径80nm)79.88gと、水酸化バリウム8水和物126.2gと、無水塩化ストロンチウム15.85gとを1Lのイオン交換水中に投入し、得られたスラリーをオートクレーブ中で撹拌しながら180℃で1時間加熱した。このとき、スラリーのpHは13であった。これにより、酸化チタン粒子の表面のほぼ全面をチタン酸バリウムストロンチウムに変化させた。次いで、スラリーをスプレードライヤーで乾燥させ、酸化チタン系粉末を得た。得られた酸化チタン系粉末の組成を蛍光X線分析装置で測定したところ、(Ba+Sr)/Tiのモル比は0.50であった。
【0048】
次に、得られた酸化チタン系粉末に炭酸バリウム98.68gを加えて混合し、1050℃で2時間焼成することで、チタン酸バリウムストロンチウム粉末を得た。得られたチタン酸バリウムストロンチウム粉末は、XRDおよび組成分析によってBa0.9Sr0.1TiOであることが確認された。また、SEM観察の結果、平均粒子径は0.33μmであり、変動係数は37%であった。
【0049】
(比較例1)
酸化チタン粒子(平均粒子径80nm)79.88gと、炭酸バリウム197.35gと、イオン交換水1Lとを、ジルコニアボールとともにボールミルにより108rpmで16時間混合した。このときのスラリーのpHは9であった。次いで、スラリーをスプレードライヤーで乾燥させ、酸化チタン粒子と炭酸バリウムとの混合粉末を得た。ここで、酸化チタン粒子の表面は、チタン酸バリウムに変化していなかった。この混合粉末を1050℃で2時間焼成することで、チタン酸バリウム粉末を得た。得られたチタン酸バリウム粉末は、XRDによってBaTiOであることが確認された。また、SEM観察の結果、平均粒子径は0.41μmであり、変動係数は55%であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部が、酸化チタンとアルカリ土類金属との反応物で構成されている、酸化チタン系粉末。
【請求項2】
酸化チタン系粉末全体において、アルカリ土類金属とチタンとのモル比(アルカリ土類金属/チタン)が0.05以上0.8以下である、請求項1記載の酸化チタン系粉末。
【請求項3】
前記アルカリ土類金属が、バリウム及びストロンチウムからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1又は2記載の酸化チタン系粉末。
【請求項4】
酸化チタン粒子と、水溶性アルカリ土類金属塩と、水と、を含むpH11以上のスラリー中で、前記酸化チタン粒子の表面の少なくとも一部を酸化チタンとアルカリ土類金属との反応物に変化させる反応工程を有する、酸化チタン系粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸化チタン系粉末を用いたチタン酸塩粉末の製造方法であって、
前記酸化チタン系粉末と、前記チタン酸塩粉末の構成元素を含有する原料化合物と、を含む原料粉体を焼成し、前記チタン酸塩粉末を得る焼成工程を有する、チタン酸塩粉末の製造方法。
【請求項6】
前記構成元素が、バリウム、ストロンチウム、カルシウム、希土類元素、珪素、鉛、マグネシウム及びジルコニウムからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項5記載のチタン酸塩粉末の製造方法。