説明

酸化ニッケル鉱石のニッケル濃縮方法

【課題】 ニッケル品位の低い酸化ニッケル鉱石のニッケルを効果的にかつ効率的に濃縮させるとともに高い回収率でニッケルを回収することができ、フェロニッケル製錬の原料として利用することが可能なニッケル濃縮方法を提供する。
【解決手段】 酸化ニッケル鉱石を所定の目開きの篩で篩分ける篩分け工程S1と、篩上の酸化鉱石を乾燥させる乾燥工程S2と、乾燥させた酸化鉱石を粉砕し、酸化鉱石を篩分け工程S1にて用いた篩の目開き以下の大きさの目開きの篩で篩分ける粉砕及び篩分け工程S3と、篩分け工程S1における篩下の酸化鉱石と粉砕及び篩分け工程S3における篩下の酸化鉱石とをニッケル濃縮物として回収する回収工程S4とを有し、粉砕及び篩分け工程S3では、篩下の粉砕産物の重量割合が40%以上85%以下となるように酸化鉱石を粉砕する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ニッケル鉱石のニッケル濃縮方法に関し、より詳しくは、酸化ニッケル鉱石としてサプロライト鉱石に含まれるニッケルを濃縮処理する酸化ニッケル鉱石のニッケル濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルを製錬する際の原料となるニッケル鉱物は、硫化ニッケル鉱石とガーニエライト鉱石やラテライト鉱石などに代表される酸化ニッケル鉱石とに大別できる。
【0003】
ステンレスを製造する際の原料となるフェロニッケルについては、酸化ニッケル鉱石を用いて製造される。具体的には、酸化ニッケル鉱石を900℃程度で乾燥並びに焙焼し、得られた焼鉱を電気炉などの熔融炉に入れ、1500℃程度の温度で還元熔解することによりフェロニッケルを得ることができる。
【0004】
しかしながら、このようなフェロニッケルの製造方法では、コストがかさむという問題があった。すなわち、酸化ニッケル鉱石(以下、単に「酸化鉱石」ともいう)に含有されるニッケルは、鉱石を構成する蛇紋石などの粘度鉱物や針鉄鉱の中に微細に分布し、鉱石中の含水量が30質量%以上と高く、一方で酸化鉱石中のニッケル品位は2〜2.6質量%程度と極めて低い。そのため、酸化鉱石の乾燥に要するエネルギーやニッケル量当たり処理しなければならない物量が多くなることによる。
【0005】
また、酸化鉱石中のニッケルの含有率が低下することは、得られるフェロニッケル中のニッケル品位の低下にもつながり、ステンレスを製錬する際のコストにも影響する懸念がある。一般に、酸化鉱石中のニッケル品位は2重量%以上であることが採算的な下限とされている。しかしながら、近年では、ニッケル品位の高い酸化ニッケル鉱は枯渇しつつあり、フェロニッケル製錬に利用できる原料鉱石のニッケル品位も低下傾向となっている。そのため、製錬に要するコストの増加や生産性の低下が課題となってきている。
【0006】
低ニッケル品位の酸化鉱石から効率よくニッケルを回収する方法として、最近では酸化鉱石を硫酸とともに加圧容器に入れ、高温高圧下でニッケルやコバルトを浸出する方法も行なわれてきている。しかしながら、この高温高圧下での湿式製錬法では、硫酸を大量に消費するため、マグネシウム品位が高いサプロライト鉱には適さない。
【0007】
そのため、このような酸化鉱石、特にサプロライト鉱石のニッケル品位を向上させることが求められている。
【0008】
具体的には、例えば非特許文献1又は2に開示されているように、浮選、磁選などの選鉱法を適用することでニッケル品位を増加させる試みがなされている。しかしながら、これらの方法では、鉱石毎に成績がばらつき、安定した操業が困難であったり、処理コストがかさむという点から課題が多い。
【0009】
また、例えば特許文献1に開示されているように、酸化鉱石をハロゲン化合物と固体還元剤とともに950〜1200℃で焙焼して、ニッケルを含む鉄合金を生成し、磁力選鉱、浮遊選鉱などでニッケルの濃縮を行う方法も提案されている。しかしながら、この方法では、焙焼するためのエネルギーが必要となり、コストが高くなってしまう。
【0010】
一方、例えば特許文献2〜5に開示されているように、高温での焙焼などを行うことなく、原料のサプロライト鉱石を分級して、さらに分級区分ごとに比重選別を実施することによってニッケル品位を上昇させる方法が提案されている。
【0011】
しかしながら、これら特許文献2〜5に記載の方法は湿式法であるため、サプロライト鉱石などの酸化鉱石ではスラリーからの沈降性や脱水性が好ましくないという特徴があり、処理する場合には多大なシックナーと脱水機が必要となる。この点に関して、特許文献6には、サプロライト鉱石の沈降性を改善するために、有機凝集剤を添加して鉱泥を濃縮する方法も提案されているが、多量の凝集剤を使用することが必要となってしまい効率的ではない。また、これらの特許文献2〜6の方法では、排水処理や尾鉱の管理などにも多くの手間を要し、設備投資がかさみコストが高くなるとともに、湿式法であるために環境に対する負荷も非常に大きくなる。
【0012】
一方で、例えば特許文献7に開示されているように、酸化ニッケル鉱石の表層部の磨砕処理によって、磨砕された鉱石をニッケル濃縮物として回収する方法も提案されている。しかしながら、この方法では、酸化ニッケル鉱石のうちのニッケル品位が高い表層部を回収するというものであるので、ニッケルを濃縮させることはできても、ニッケルの回収率としては低くなる。そのため、例えば酸化鉱石の輸送コストや濃縮処理に際して要するエネルギーコストに対して、回収できるニッケル量が少なくなり、非常に非効率となる。
【0013】
以上のように、これらの従来の技術では、効果的にかつコストや環境負荷を抑えて効率的に、サプロライト鉱などのニッケル品位の低い酸化ニッケル鉱石のニッケルを濃縮させるとともに、高い回収率でニッケルを回収することができず、フェロニッケル製錬原料として経済的に利用することは容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭64−005094号公報
【特許文献2】米国特許第6053327号
【特許文献3】特開昭52−023504号公報
【特許文献4】特公平03−004610号公報
【特許文献5】特開平11−117030号公報
【特許文献6】特開平11−124640号公報
【特許文献7】特開2009−138260号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】「日本鉱業会研究業績発表講演会講演要旨集」、1987年、p.365−366
【非特許文献2】「シアイエム ブレテン(CIM Bull)」、(カナダ)、第93巻、第1038号、2000年、p.37−43
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、ニッケル品位の低い酸化ニッケル鉱石のニッケルを効果的にかつ効率的に濃縮させるとともに高い回収率でニッケルを回収することができ、例えばフェロニッケル製錬の原料として経済性高く効率的に利用することが可能となる酸化ニッケル鉱石のニッケル濃縮方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上述した目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、風化された鉱石はニッケル品位が高くなるという性質とともに、風化された鉱石は含有される成分が溶け出すことによって脆くなるという性質を利用し、その鉱石の硬さの違いを利用して所定の条件で粉砕処理して篩分けすることで、ニッケルが濃縮した酸化鉱石を効果的にかつ効率的に回収できることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
すなわち、本発明に係る酸化ニッケル鉱石のニッケル濃縮方法は、ニッケルを含有する酸化鉱石を所定の目開きの篩で篩分ける篩分け工程と、上記篩分け工程にて上記篩を通過しなかった篩上の酸化鉱石を乾燥させる乾燥工程と、乾燥して得られた酸化鉱石を粉砕し、粉砕した酸化鉱石を上記篩分け工程にて用いた篩の目開き以下の大きさの目開きの篩で篩分ける粉砕及び篩分け工程と、上記篩分け工程における篩下の酸化鉱石と上記粉砕及び篩分け工程における篩下の酸化鉱石とをニッケル濃縮物として回収する回収工程とを有し、上記粉砕及び篩分け工程では、篩下の粉砕産物の重量割合が粉砕前の酸化鉱石の重量に対して40%以上85%以下となるように上記酸化鉱石を粉砕することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ニッケル品位の低いサプロライト鉱石などの酸化ニッケル鉱石のニッケルを効果的にかつ効率的に濃縮させるとともに、高い回収率でニッケルを回収することができる。
【0020】
また、酸化鉱石に含まれるニッケルを効率的に濃縮させることができることにより、枯渇しつつある酸化ニッケル鉱石の資源量を増加させ、さらに輸送コスト及び製錬に要するエネルギーコストを低減させることができ、例えばフェロニッケル製錬の原料として効果的に利用することができる。またさらに、脱水や排水処理などの処理を要さず、環境に対する負荷も極めて小さい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施の形態に係る酸化ニッケル鉱石のニッケル濃縮方法の工程図である。
【図2】篩下粉砕産物の重量割合に対する篩下のニッケル品位の上昇幅の関係を示す図である。
【図3】篩下粉砕産物の重量割合に対する篩下のニッケル回収率の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る酸化ニッケル鉱のニッケル濃縮方法の具体的な実施形態(以下、本実施の形態という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0023】
本実施の形態に係る酸化ニッケル鉱石のニッケル濃縮方法(以下、ニッケル濃縮方法ともいう。)は、風化された酸化ニッケル鉱石はニッケルが濃縮されてニッケル品位が高くなるとともに脆く容易に粉砕されるという性質を利用するものであり、所定の条件で粉砕処理して篩分け処理することを特徴とするものである。このニッケル濃縮方法によれば、ニッケル品位の低い酸化鉱石に含まれるニッケルを効果的に濃縮させるとともに、高い回収率でニッケルを回収することを可能にするものであり、例えばフェロニッケル製錬の原料として経済性高く効率的に利用することができる。
【0024】
特に、ラテライト鉱床にて産出され、フェロニッケルの原料鉱石となり、近年高ニッケル品位の鉱石が枯渇しつつあるサプロライト鉱石に対して好適に用いることができる。なお、このサプロライト鉱石は、マグネシア、シリカ、鉄などを主要構成成分として含有し、かつ含水珪苦土鉱物、ゲーサイトなどの鉱物からなる鉱石である。
【0025】
具体的に、本実施の形態に係るニッケル濃縮方法は、図1に示すように、ニッケルを含有する酸化鉱石を所定の目開きの篩で篩分ける篩分け工程S1と、篩分け工程S1にて篩を通過しなかった篩上の酸化鉱石を乾燥させる乾燥工程S2と、乾燥して得られた酸化鉱石を粉砕し、粉砕した酸化鉱石を篩分け工程S1にて用いた篩の目開き以下の大きさの目開きの篩で篩分ける粉砕及び篩分け工程S3と、篩分け工程S1における篩下の酸化鉱石と粉砕及び篩分け工程S3における篩下の酸化鉱石とをニッケル濃縮物として回収する回収工程S4とを有する。そして、このニッケル濃縮方法では、粉砕及び篩分け工程S3において、篩下の粉砕産物の重量割合が粉砕前の酸化鉱石の重量に対して約40%以上85%以下となるように酸化鉱石を粉砕する。
【0026】
(篩分け工程)
篩分け工程S1では、ニッケルを含有する酸化鉱石を所定の目開きの篩で篩分ける。酸化鉱石に含まれるニッケルは、鉱石の中でも細粒の鉱石に濃縮され易いという性質を有している。したがって、篩分け工程S1にて所定の目開きの篩で篩分けたとき、篩を通過した篩下の酸化鉱石は、後述する各工程にて処理せずにニッケルが濃縮した酸化鉱石としてフェロニッケル製錬などの原料とすることができる。
【0027】
ここで、篩の目開きは、ニッケル品位が低下し過ぎない範囲に設定することが好ましい。酸化鉱石に含まれるニッケルの分布状態は、鉱山や鉱床によって変化するため、例えば予備試験を行ってニッケルの粒度別分布状態を調査した上で篩の目開きを設定することができる。
【0028】
具体的には、篩の目開きとしては、5mm以上450mm以下とすることが好ましい。篩の目開きが5mm未満の場合には、見開きが細か過ぎてしまい、酸化鉱石に含まれる粘土分などによって篩に目詰まりが生じてしまう。特に、サプロライト鉱石などは、含水量が30質量%以上と高いため、目詰まりの影響が大きくなる。また、篩を通過した微細な酸化鉱石が飛散してしまう可能性が高くなりハンドリング性が悪くなるとともに回収ロスにもつながる。一方で、篩の見開きが450mmより大きい場合には、ニッケル品位が低下し過ぎてしまう可能性があり、また篩を通過して得られた酸化鉱石の輸送が困難になるとともにコストも高くなり、非効率となる。
【0029】
さらに、より好ましくは、篩は10mm以上200mm以下の目開きとする。篩の目開きを10mm以上200mm以下とすることによって、目詰まりやハンドリング性の悪化を生じさせることなく、また篩を通過する酸化鉱石のニッケル品位を低下させることなく、より効果的に篩分けを行うことができる。
【0030】
篩分け方法としては、特に限定されず、例えば、一般的なグリズリーや振動ふるいなどにより行うことができる。
【0031】
なお、篩分けを行うニッケルを含有する酸化鉱石が大き過ぎたり、塊状などになっており、この篩分け工程S1における篩分け処理にそのまま供給できない場合には、前処理としてハンマーミルやジョークラッシャーなどの一般的な破砕機を用いて酸化鉱石を適度な粒径に破砕し、ハンドリング性を向上させるようにしてもよい。
【0032】
このように、篩分け工程S1にて所定の目開きの篩を用いて酸化鉱石の篩分けを行うと、篩を通過した篩下(網下)の酸化鉱石は、上述のように、細粒の鉱石であってニッケルが濃縮した鉱石であるため、そのまま回収工程S4にて回収されニッケル濃縮鉱石として精鉱となる。一方で、篩を通過せずに篩上(網上)に残った酸化鉱石は、ニッケルが濃縮されていない酸化鉱石であり、この酸化鉱石を次工程の乾燥工程S2に供給する。
【0033】
(乾燥工程)
乾燥工程S2では、篩分け工程S1にて篩を通過しなかった篩上の酸化鉱石を乾燥させる。上述したように、特にサプロライト鉱石などの酸化鉱石は、もともと含水量が30質量%以上で、粘土分や細粒が付着し易い。したがって、この乾燥工程S2において篩上の酸化鉱石を乾燥させることによって、次工程において粗粒の鉱石に付着した粘土分や細粒を剥がし易くし、効率良く粉砕処理することを可能にする。
【0034】
また、上述した篩分け工程S1の前ではなく、篩分け工程S1後に篩上の酸化鉱石に対して乾燥処理を行うことによって、より低いエネルギーで効率的に酸化鉱石を乾燥させることができる。すなわち、サプロライト鉱石などの酸化鉱石は、細粒のものほど含水量が高く、粗粒のものほど含水量が低い。したがって、篩分け工程S1にて所定の目開きの篩を通過した細粒の酸化鉱石に比して篩上に残留した酸化鉱石の方が相対的に水分量が低くなる。そのため、上述した篩分け工程S1後の篩上の酸化鉱石に対して乾燥処理を施すことによって、低いエネルギーで効率的に乾燥させることができる。
【0035】
なお、水洗によっても酸化鉱石に付着した付着物を除去することは可能であるが、多大な手間がかかるとともに大量の水が必要となり好ましくない。
【0036】
乾燥方法としては、特に限定されないが、特別な装置やエネルギーを必要としないという観点から風乾によって行うことが好ましい。なお、必要に応じて、一般的な熱風乾燥機や加熱乾燥機などを使用することができる。
【0037】
また、乾燥時間は、特に限定されるものではないが、酸化鉱石の乾燥重量が恒量化するまで行うことが好ましい。また、所定の乾燥機を用いた場合の設定乾燥温度としては、効率的に乾燥重量が恒量化する温度を適宜設定すればよい。
【0038】
(粉砕及び篩分け工程)
次に、粉砕及び篩分け工程S3では、乾燥工程S2における乾燥処理を経て得られた酸化鉱石を粉砕し、粉砕した酸化鉱石を篩分けする。このとき、本実施の形態に係るニッケル濃縮方法では、粉砕後の篩分けにおいて篩を通過した篩下の粉砕産物の重量割合が粉砕前の酸化鉱石の重量に対して約40%以上85%以下となるように粉砕することが重要となる。
【0039】
酸化鉱石中に含まれるニッケルは、風化された酸化鉱石に多く含まれているという性質を有する。そしてまた、風化された酸化鉱石は、含有成分が溶け出していることから、風化されていない酸化鉱石に比べて硬度が低く脆いという性質を有する。したがって、酸化鉱石を粉砕処理した場合、ニッケルを多く含む風化された酸化鉱石は比較的脆いために優先的に粉砕され、一方で、ニッケル品位の低い母岩などは比較的硬いために粉砕されずに未粉砕物として残留することとなる。
【0040】
そこで、本実施の形態に係るニッケルの濃縮方法では、これら性質を利用して、乾燥後の酸化鉱石に対して所定の条件で粉砕処理を行い、その粉砕した酸化鉱石を篩分けるようにする。すると、ニッケル品位の高く風化された酸化鉱石が優先的に粉砕物となって篩を通過し、ニッケル品位の高い酸化鉱石は粉砕されないために篩を通過せずに篩上に残るようになるので、これによりニッケル品位の高い酸化鉱石を分別することができる。
【0041】
ここで、図2に、例えばニッケルを含有する4種の酸化鉱石(A〜D)を乾燥させ、乾燥させた酸化鉱石を直径202mm、奥行き230mmのロッドミルに入れて2分間、5分間、10分間、20分間の粉砕をそれぞれ行った後に、見開き9.5mmの篩で篩分けを行ったときの篩下粉砕産物の重量割合に対する篩下のニッケル品位の上昇幅の関係を示す。また、図3には、粉砕処理後の篩分けにおける篩下粉砕産物の重量割合に対する篩下のニッケル回収率の関係を示す。
【0042】
なお、図2におけるニッケル品位の上昇幅とは、粉砕及び篩分け前の酸化鉱石のニッケル品位に対する粉砕産物のニッケル品位の上昇の幅である。また、図3におけるニッケル回収率とは、粉砕及び篩分け前の酸化鉱石に含まれるニッケル合計量に対する粉砕産物中のニッケルの実収率である。また、図2及び図3に示されるA〜Dの各酸化鉱石のグラフにおけるプロットは、左から2分間、5分間、10分間、20分間の粉砕時間によって粉砕されたときのプロットである。
【0043】
図2に示されるように、各酸化鉱石において、粉砕時間が短く重量割合が小さい篩下の粉砕産物ほど、ニッケル品位の上昇幅、つまりニッケル濃縮率が高いことが分かる。これは、ニッケル品位の高い風化された酸化鉱石が優先的に粉砕されるため、篩下の粉砕産物のほとんどが風化された酸化鉱石であることによると考えられる。しかしながら一方で、これらの重量割合が小さい篩下の粉砕産物では、図3に示されるように、ニッケルの回収率としては低くなり、回収ロスとなるニッケル分が多くなる。これは、篩上に残留している未粉砕物である酸化鉱石中には未だニッケルが含まれているため、酸化鉱石に含まれるニッケルの合計量に対する実収率としては低くなるためである。
【0044】
一方で、粉砕時間が長くなり酸化鉱石のほとんどが粉砕され篩下の重量割合が大きくなると、図3に示されるように当然にニッケル回収率としては高くなるものの、図2に示されるようにその篩下の粉砕産物のニッケル品位の上昇幅は低くなることが分かる。これは、粉砕時間が長くなるに従って、ニッケル品位の低い母岩までもが粉砕されて篩下に移行して粉砕産物となるため、ニッケルの濃縮率という観点からは非常に低くなる。
【0045】
このことから、本実施の形態に係るニッケルの濃縮方法では、篩を通過した篩下の粉砕産物の重量割合が約40%以上85%以下となるように粉砕する。これにより、酸化鉱石に含まれるニッケルを効果的に濃縮させることができるとともに、ニッケル回収率の観点からも高い回収率となるように酸化鉱石を分別回収することができる。上述のように、篩下の粉砕産物の重量割合が40%未満の場合には、ニッケルを多く含む風化された酸化鉱石までもが未粉砕物として残留し、ニッケルの回収率が低下してしまう。一方で、篩下の粉砕産物の重量割合が85%より大きい場合には、ニッケル品位の低い母含までもが粉砕され、篩下の粉砕産物のニッケル品位が低下して好ましくない。
【0046】
酸化鉱石の粉砕方法としては、特に限定されるものではなく、一般的なボールミルや、ロッドミル、AGミルなどの粉砕機を用いて粉砕することができる。また、その粉砕機の大きさや粉砕媒体の大きさなどは、例えば粉砕対象となる酸化鉱石の粒度や硬度などの分布についての予備試験を行って適宜選定すればよい。
【0047】
また、粉砕時間については、特に限定されず、用いる粉砕機の粉砕強度や粉砕効率、また鉱石の硬度などに基づいて適宜調整し、粉砕後の篩分けによって篩下の粉砕産物の重量割合が約40%以上85%以下となるように設定すればよい。なお、酸化鉱石の硬度の分布は、鉱石の産地や性状によって異なるため、例えば上述したような酸化鉱石についての予備試験を行うようにし、その予備試験の結果に基づいて篩下の粉砕産物の重量割合が約40%以上85%以下となるように設定してもよい。
【0048】
なお、その他の粉砕条件についても、上述した図2及び図3における条件に限定されるものではなく、篩を通過した篩下の粉砕産物の重量割合が約40%以上85%以下となるように粉砕することによって、酸化鉱石に含まれるニッケルを効果的に濃縮させることができるとともに、ニッケル回収率の観点からも高い回収率となるように酸化鉱石を分別回収することができる。
【0049】
粉砕後の篩分け処理においては、その篩の目開きを上述した篩分け工程S1にて用いた篩の目開き以下の大きさとする。これにより、篩分け工程S1における篩分けと同様に、ニッケル品位が低下し過ぎない範囲で粉砕産物を篩分けることができ、ニッケルが濃縮した酸化鉱石を回収することができる。また、用いる篩の目開きは、より好ましくは、篩分け工程S1にて用いた篩の目開きの1/2の大きさ以上とする。これにより、目詰まりなどを生じさせることなく、ニッケルが濃縮した良好な酸化鉱石を回収することができる。
【0050】
また、篩分け方法としては、特に限定されず、篩分け工程S1における篩分けと同様に、例えば、一般的なグリズリーや振動ふるいなどにより行うことができる。
【0051】
(回収工程)
そして、回収工程S4では、篩分け工程S1における篩分けにより篩を通過した鉱石と、粉砕及び篩分け工程S3における粉砕後の篩分けで篩を通過した鉱石とを、ニッケル濃縮物として回収する。
【0052】
上述したように、篩分け工程S1にて篩を通過した鉱石は、細粒の鉱石であり、既にニッケルが濃縮された鉱石である。また、粉砕及び篩分け工程S3における篩を通過した鉱石も、上述のように、風化されニッケルが濃縮された鉱石を選択的に回収したものである。したがって、これら篩分け工程S1及び粉砕及び篩分け工程S3にて篩を通過した鉱石は、ニッケルが濃縮した高ニッケル品位の酸化鉱石となり、ニッケル濃縮鉱石として例えばフェロニッケル製錬などの原料として効果的に使用することができる。
【0053】
一方で、粉砕及び篩分け工程S3における粉砕後の篩分け処理で篩上に残留した酸化鉱石は、ニッケル品位が低い母岩などからなるものであり、廃石(ズリ)として廃棄処理される。
【0054】
以上説明したように、本実施の形態に係る酸化ニッケル鉱石のニッケル濃縮方法によれば、風化されたニッケル品位の高い酸化鉱石を、その脆く容易に粉砕されるという性質を利用して、所定の条件で粉砕処理することによって篩分けるようにしているので、効果的に酸化鉱石に含まれるニッケルを濃縮させることができ、また回収ロスを抑制して高い回収率でニッケルを回収することができる。
【0055】
そして、このように効果的にニッケルを濃縮できることから、酸化ニッケル鉱石の資源量を有効に増加させることができ、輸送コストや製錬に要するエネルギーコストなどを低減させることができる。
【0056】
また、本実施の形態に係る酸化ニッケル鉱石のニッケル濃縮方法は、上述したように、近年高ニッケル品位の鉱石が枯渇しつつある鉱石であるサプロライト鉱石に対して好適に用いることができ、酸化ニッケル鉱石の資源量を効果的に増加させることができる。サプロライト鉱石としては、特に限定されず、如何なるニッケル品位のサプロライト鉱石に対しても適用することができるが、特にニッケル品位が2.3質量%以下の極めてニッケル品位の低いサプロライト鉱石に対して好適に用いることができる。
【0057】
さらに、このニッケル濃縮方法は、大きな設備や多量の水を要する従来のような湿式法によるものではなく、乾式処理による方法であるため、処理コストを大幅に低減できるとともに、環境に対する負荷も極めて小さい。
【実施例】
【0058】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、本実施例におけるニッケル品位の分析は、ICP発光分析法により行った。
【0059】
(実施例1)
鉱山から採取したA〜Dの4種のサプロライト鉱石(酸化鉱石)を、ハンドリング性を向上させるために、ジョークラッシャーにて100mm以下に粉砕した。次に、100mm以下に粉砕した酸化鉱石を19mmの目開きのグリズリーを用いて篩分けを行った(篩分け工程)。なお、用いたA〜Dのサプロライト鉱石のニッケル品位は、鉱石Aが1.74%であり、鉱石Bが0.95%であり、鉱石Cが1.29%であり、鉱石Dが0.61%であった。
【0060】
篩分け終了後、篩下の酸化鉱石はニッケル濃縮物として別途回収し、篩下の酸化鉱石は60℃で恒量になるまで乾燥させた(乾燥工程)。なお、乾燥は、大型送風定温乾燥機(DRL823WA 株式会社東洋製作所製)を用いて行った。
【0061】
次に、60℃で乾燥させた酸化鉱石を、直径202mm、奥行き230mmのロッドミルに入れて、2分間、5分間、10分間、20分間の粉砕をそれぞれ行い、粉砕後の粉砕物を9.5mmの目開きのグリズリーを用いて篩分けた(粉砕及び篩分け工程)。そして、篩目を通過した粉砕産物をニッケル濃縮物として回収し(回収工程)、篩を通過しなかった酸化鉱石を未粉砕物として廃棄した。
【0062】
上記図2及び図3は、それぞれ、本実施例におけるA〜Dの酸化ニッケル鉱石を各粉砕時間で粉砕して得られた篩下の粉砕産物の重量割合に対するニッケル品位上昇幅及びニッケル回収率の関係を示す図である。
【0063】
この図2及び3に示す結果から、各試料(A〜D)において10分間の粉砕処理を行うことによって、篩下の粉砕産物の重量割合を40%以上85%以下とすることができた。表1に、具体的に、この10分間での粉砕処理後に篩分けを行って篩を通過した篩下の粉砕産物についてのニッケル品位上昇幅、濃縮後のニッケル品位、及びニッケル回収率を示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1に示されるように、篩下の粉砕産物重量割合が約40%以上85%以下の範囲となるように粉砕して得られた粉砕産物では、ニッケル品位の上昇幅が0.17%〜0.56%となり、効果的にニッケルを濃縮させることができた。また、ニッケル回収率においても、76.3%〜90.3%となり、高い回収率で酸化鉱石からニッケルを回収できることが示された。
【0066】
なお一方で、表2に、篩下の粉砕産物重量割合が35%となるように粉砕したときの粉砕産物のニッケル品位上昇幅、濃縮後のニッケル品位、及びニッケル回収率を示し、表3に、篩下の粉砕産物重量割合が90%となるように粉砕したときの粉砕産物のニッケル品位上昇幅、濃縮後のニッケル品位、及びニッケル回収率を示す。
【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
表2及び表3に示されるように、篩下の粉砕産物重量割合が約40%以上85%以下の範囲にない35%となるように粉砕した場合には、ニッケル品位の上昇幅としては0.15%〜0.57%となりニッケルは効果的に濃縮されたものの、ニッケル回収率としては38.9%〜56.0%と非常に低く、ロスとなるニッケル分が多くなってしまった。また、篩下の粉砕産物重量割合が90%となるように粉砕した場合では、ニッケル回収率としては95.6%〜98.2%と高い回収率でニッケルを回収できたものの、ニッケル品位の上昇幅としては0.10%〜0.12%と極めて低く、効果的に酸化鉱石中のニッケルを濃縮させることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルを含有する酸化鉱石を所定の目開きの篩で篩分ける篩分け工程と、
上記篩分け工程にて上記篩を通過しなかった篩上の酸化鉱石を乾燥させる乾燥工程と、
乾燥して得られた酸化鉱石を粉砕し、粉砕した酸化鉱石を上記篩分け工程にて用いた篩の目開き以下の大きさの目開きの篩で篩分ける粉砕及び篩分け工程と、
上記篩分け工程における篩下の酸化鉱石と上記粉砕及び篩分け工程における篩下の酸化鉱石とをニッケル濃縮物として回収する回収工程とを有し、
上記粉砕及び篩分け工程では、篩下の粉砕産物の重量割合が粉砕前の酸化鉱石の重量に対して40%以上85%以下となるように上記酸化鉱石を粉砕することを特徴とする酸化ニッケル鉱石のニッケル濃縮方法。
【請求項2】
上記篩分け工程において用いる篩の目開きは、5mm以上450mm以下であることを特徴とする請求項1記載の酸化ニッケル鉱石のニッケル濃縮方法。
【請求項3】
上記乾燥工程では、上記酸化鉱石を風乾させることを特徴とする請求項1又は2記載の酸化ニッケル鉱石のニッケル濃縮方法。
【請求項4】
上記粉砕及び篩分け工程において用いる篩の目開きは、上記篩分け工程にて用いた篩の目開きの1/2の大きさ以上であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の酸化ニッケル鉱石のニッケル濃縮方法。
【請求項5】
上記ニッケルを含有する酸化鉱石は、サプロライト鉱石であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の酸化ニッケル鉱石のニッケル濃縮方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−19004(P2013−19004A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151480(P2011−151480)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】