説明

酸化亜鉛系発光材料及びその製造方法

【課題】特定波長の光を発光可能な酸化亜鉛系発光材料において発光強度のさらなる増大を図る。
【解決手段】酸化亜鉛(ZnO)に対して、希土類元素の一種と窒素(N)及びリン(P)よりなる5B族元素の群から選ばれる一種とが添加された酸化亜鉛系発光材料であって、前記5B族元素の添加濃度が0.4〜6.0モル%であり、かつ、酸素含有雰囲気でアニール処理して得られたものであることを特徴とする。希土類元素の種類に応じて所定の波長帯で発光する光の発光強度のさらなる増大を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化亜鉛系発光材料及びその製造方法に関し、特に酸化亜鉛(ZnO)に希土類元素が添加された発光材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から紫外線、電子線もしくは電界による励起で可視光を放射する発光材料が多く開発されている。これら発光材料を用いて、ブラウン管(CRT)や蛍光ランプ、近年ではフラットパネルディスプレイとして有望なEL素子や小型で高い輝度の特長をもつ蛍光表示管(VFD)の開発が盛んに行われている。近年では、マルチカラ−(RGB)の発光を示す発光材料の開発が盛んに行われており、ZnOを母材とした発光材料が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この発光材料は、酸化亜鉛(ZnO)に、希土類元素の一種と、酸化亜鉛中でプラス1価のイオンとなる1B族元素のうちの一種よりなる電荷補償材とを、希土類元素の添加濃度が0.1〜5モル%となるように混合し、不活性雰囲気中で熱処理してなるものである。なお、電荷補償材の添加は、希土類元素を発光に寄与する3価イオンにイオン化させるとともに、結晶全体の電荷的中性を保つ(チャージバランス)ためである。この発光材料では、添加された希土類元素の種類に応じて、赤・緑・青・黄・白色の発光特性を示す。
【0004】
ところで、発光材料においては、特定波長の光を発光可能で、しかもその発光強度を高くすることが求められる場合がある。
【0005】
例えば、光通信に使われている石英系ファイバーにおいては、1.5μm帯の波長をもつ光はエネルギー損失が最小である。このため、1.5μm帯又はその近傍の波長の光を発光可能な発光材料であって、発光強度として例えばPL(フォトルミネッセンス)強度の高いものであれば、石英系ファイバー用の発光デバイスへの応用が期待できる。
【0006】
このような発光材料として、ZnOに希土類元素としてのエルビウム(Er)をドープした酸化亜鉛系発光材料が近年注目されている。そして、このErをドープしたZnOに対して窒素イオンを注入後に焼鈍して、酸素イオンの一部を窒素イオンで置換することにより、1.5μm帯のPL強度を注入前の約5倍に増加させることができることも知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−236275号公報
【非特許文献1】第4回公開シンポジウム講演要旨集、2004年3月9日、「軽元素修飾による局在量子構造と材料設計」、名古屋大学工学研究科、森永正彦、吉野正人、周震
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の酸化亜鉛系発光材料、すなわちErをドープしたZnOにおいて酸素イオンの一部を窒素イオンで置換した発光材料であっても、その発光強度は必ずしも充分とはいえず、さらなる発光強度の増大が求められているのが実情である。
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、特定波長の光を発光可能な酸化亜鉛系発光材料において発光強度のさらなる増大を図ることを決すべき技術課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の酸化亜鉛系発光材料は、酸化亜鉛(ZnO)に対して、希土類元素の一種と窒素(N)及びリン(P)よりなる5B族元素の群から選ばれる一種とが添加された酸化亜鉛系発光材料であって、前記5B族元素の添加濃度が0.4〜6.0モル%であり、かつ、酸素含有雰囲気でアニール処理して得られたものであることを特徴とするものである。
【0010】
好適な態様において、前記希土類元素は、エルビウム(Er)及びツリウム(Tm)のうちの一種である。
【0011】
本発明に係る酸化亜鉛系発光材料は、好適な態様において、以下に示す所定条件下で、液体窒素で冷却したGe−pinフォトダイオード(Applied Detector Corporation社製、商品名「403L」)で試料の発光を検出することにより測定したPL強度の増加率が30倍以上である。
【0012】
分光器:SPEX 1702104 Spectrometer(SPEX社製)
測定温度:25℃
励起源:ビーム径1mm、入射パワー5mWのHe−Cdレーザー(波長325nm)
ここに、前記PL強度の増加率とは、後述する実施例1で示すように、上記した所定条件で、イオン照射前の試料と、イオン照射し、かつ、アニール処理した後の試料とについて、所定の波長帯のPL強度を測定し、下記(1)式により求めたものである。
【0013】
(PL強度の増加率)=(イオン照射し、かつ、アニール処理した後の試料についてのPL強度のピーク値)/(イオン照射前の試料についてのPL強度のピーク値)
…(1)
上記課題を解決する本発明の酸化亜鉛系発光材料の製造方法は、酸化亜鉛(ZnO)に対して、希土類元素の一種を添加するとともに、窒素(N)及びリン(P)よりなる5B族元素の群から選ばれる一種を0.4〜6.0モル%の添加濃度で添加して前駆体を得る添加工程と、前記前駆体を酸素含有雰囲気で加熱するアニール処理工程とを備えることを特徴とするものである。
【0014】
好適な態様において、前記アニール処理工程は、600〜1200℃の温度範囲で行う。
【0015】
好適な態様において、前記5B族元素は窒素(N)であり、前記添加工程では、前記希土類元素が添加された前記酸化亜鉛(ZnO)に対して窒素(N)イオンを照射することにより窒素(N)を添加する。
【0016】
好適な態様において、前記希土類元素は、エルビウム(Er)及びツリウム(Tm)のうちの一種である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の酸化亜鉛系発光材料は、酸化亜鉛(ZnO)に対して、希土類元素の一種と窒素(N)及びリン(P)よりなる5B族元素の群から選ばれる一種とが添加された酸化亜鉛系発光材料であって、前記5B族元素の添加濃度が0.4〜6.0モル%であり、かつ、酸素含有雰囲気でアニール処理して得られたものである。
【0018】
この酸化亜鉛系発光材料は、酸化亜鉛(ZnO)に対して、希土類元素の一種を添加するとともに、窒素(N)及びリン(P)よりなる5B族元素の群から選ばれる一種を0.4〜6.0モル%の添加濃度で添加して前駆体を得る添加工程と、前記前駆体を酸素含有雰囲気で加熱するアニール処理工程とを備える本発明の酸化亜鉛系発光材料の製造方法により、得ることができる。
【0019】
このような本発明に係る酸化亜鉛系発光材料では、マトリックスとしての酸化亜鉛(ZnO)がホスト材料として光を吸収する一方、希土類元素とその周りに配位した酸素(O)及びその酸素(O)の一部が置換した窒素(N)又はリン(P)とからなるナノクラスターが発光中心となって、希土類元素の種類に応じた所定波長の光を発光する。
【0020】
上記希土類元素の種類としては特に限定されず、発光させたい光の波長に応じて種々の希土類元素を選択することができる。例えば、希土類元素としてエルビウム(Er)を選択した場合は、1.5μm帯の波長を有する光を発光する発光材料とすることができるので、前述のとおり石英系ファイバー用の発光デバイスへの応用が期待でき、好ましい。同様に、希土類元素としてツリウム(Tm)を選択した場合は、1.4μm帯の波長を有する光を発光する発光材料とすることができるので、石英系ファイバー用の発光デバイスへの応用が期待でき、好ましい。
【0021】
また、酸化亜鉛系発光材料中の上記希土類元素の添加量は、発光強度の増大効果に影響するため、発光強度を十分に増大させることができるように、2.0〜3.5at%程度とすることが好ましい。
【0022】
そして、本発明に係る酸化亜鉛系発光材料では、所定の添加濃度で窒素(N)又はリン(P)が添加されるとともに、所定条件でのアニール処理が施されていることにより、希土類元素の種類に応じて所定の波長帯で発光する光の発光強度のさらなる増大を図ることができる。
【0023】
例えば、後述する実施例で示すように、窒素(N)を0.4〜6.0モル%の添加濃度で添加するとともに、空気雰囲気下で所定の温度でアニール処理することにより、窒素(N)が無添加の場合と比較して、発光強度としてのPL強度を約30倍以上も増加させることができる。
【0024】
なお、5B族元素としてリン(P)を添加した場合も、窒素(N)と同様にリン(P)も希土類元素との親和力が高く、発光中心のナノクラスター構造を変えうる元素であるため、窒素(N)と同様の効果が期待できると考えられる。実際、吸収スペクトルの計算では、エルビウム(Er)の周りの酸素(O)の一部を窒素(N)やリン(P)で置換すると、1.5μm帯及び可視光波長領域の吸収がきわめて大きくなる。しかしながら、例えば6B族元素であるイオウ(S)や7B族元素であるフッ素(F)を置換しても、そのような傾向はほとんど認められない。このように、リン(P)は窒素(N)と同様の変化を示すので、発光スペクトルでも同様な現象が現れると考えられる。ただし、5B族元素であっても窒素(N)やリン(P)よりも原子半径の大きいヒ素(As)等は、酸素(O)と置換することなく亜鉛(Zn)と置換すると考えられるため、上記した発光強度の増大効果を期待できない。
【0025】
このように所定の添加濃度で窒素(N)又はリン(P)を添加することにより、発光強度を効果的に増大させることができる理由は、以下のように考えられる。すなわち、窒素(N)又はリン(P)を所定濃度で添加した酸化亜鉛系発光材料では、希土類元素の周りに配位した酸素(O)の一部が窒素(N)又はリン(P)で置換されることにより、発光中心となるナノクラスターの化学結合状態が変化しており、そのことが発光強度の増大につながっているものと考えられる。例えば、希土類元素としてエルビウム(Er)を採用した場合は、このエルビウム(Er)とその周りに配位した6個の酸素(O)よりなるナノクラスター(ErO6 八面体)が発光中心となって発光するが、窒素(N)又はリン(P)は希土類元素としてのエルビウム(Er)等に対しての結合力が酸素(O)よりも強いことから、エルビウム(Er)周りの6個の酸素(O)のうちの1個が窒素(N)又はリン(P)で置換されることにより、上記ナノクラスターの化学結合状態が変化し、その結果発光強度が増大するものと考えられる。
【0026】
窒素(N)又はリン(P)の添加濃度が0.4〜6.0モル%の範囲から外れると、この酸化亜鉛系発光材料から発光する光の発光強度を効果的に増大させることができない。すなわち、窒素(N)又はリン(P)の添加濃度が0.4モル%よりも低いと、発光中心となるナノクラスターにおける窒素(N)又はリン(P)による化学結合状態の変化が不十分となり、十分に発光強度を増大させることができない。一方、窒素(N)又はリン(P)の添加濃度が6.0モル%よりも高いと、発光中心となるナノクラスターにおいて酸素(O)から窒素(N)又はリン(P)への置換量が過大となる結果、局所化学結合状態が大きく変わり、希土類元素の多重項エネルギ準位が大幅に変化しすぎるため、十分に発光強度を増大させることができない。
【0027】
本発明に係る酸化亜鉛系発光材料における発光強度の増大には、窒素(N)又はリン(P)の所定濃度での添加のみならず、窒素(N)又はリン(P)イオンを照射した後に、酸素含有雰囲気下で所定のアニール処理を施していることも寄与している。言い換えれば、窒素(N)又はリン(P)を所定濃度で添加することのみでは、十分な発光強度の増大効果につながらず、窒素(N)又はリン(P)イオンを照射した後に、酸素含有雰囲気下で所定のアニール処理を施してはじめて十分な発光強度の増大効果につながる。
【0028】
すなわち、例えばアルゴン雰囲気下で所定温度に加熱するアニール処理を施すと、発光材料から酸素(O)が抜け出て、表面における酸素濃度不足(発光中心となるナノクラスタにおいて酸素不足)が発生してしまうため、発光強度を十分に増大させることができないと考えられる。この点、酸素含有雰囲気下で所定のアニール処理を施せば、発光材料から酸素(O)が抜け出ることを抑えつつ窒素(N)又はリン(P)を均等かつ十分に拡散させて、表面における酸素濃度と窒素(N)又はリン(P)濃度とを適正に維持(発光中心となるナノクラスタにおいて所定量の酸素と窒素とを維持)することができ、したがって発光強度を十分に増大させることが可能になる考えられる。
【0029】
ここに、前記添加工程では、酸化亜鉛(ZnO)に対して、希土類元素の一種を添加するとともに、窒素(N)及びリン(P)よりなる5B族元素の群から選ばれる一種を0.4〜6.0モル%の添加濃度で添加して前駆体を得る。
【0030】
この添加工程では、前記5B族元素が窒素(N)である場合、例えば、希土類元素の一種が添加された酸化亜鉛(ZnO)の焼結体を得た後、この焼結体に窒素(N)イオンを所定条件で照射することにより、希土類元素の一種と0.4〜6.0モル%の添加濃度の窒素(N)とが添加された前記前駆体を得ることができる。なお、窒素(N)イオンを照射する際の照射条件としては、以下のとおりとすることができる。また、照射エネルギ100keVにおけるNイオン浸入深さの理論値は160nmであり、Nイオン浸入層(表面から160nmの深さまでの層)におけるNイオン濃度は、下記ドーズ量の範囲では、約0.4〜6.0モル%である。
【0031】
照射エネルギ:80〜120keV程度
ドーズ量:2×1015〜4×1016ions/cm2 程度
また、前記添加工程では、前記5B族元素がリン(P)である場合、例えば、P2 5 粉末と、希土類元素をドープした酸化亜鉛(ZnO)粉末とを混合し、焼結した後、所定条件でパルスレーザーデポジッションを施すことにより、希土類元素の一種と0.4〜6.0モル%の添加濃度のリン(P)とが添加された前記前駆体を得ることができる。なお、このときのパルスレーザーデポジッションの条件としては、例えば以下のようにすることができる。
【0032】
パルスレーザーエネルギー:3J/cm2
パルスレーザー反復レート:1Hz
前駆体膜を成長させる基板:単結晶Al2 3 (サファイア)
基板温度:300〜750℃
雰囲気の酸素圧:20〜200mTorr
さらに、前記アニール処理工程では、前記前駆体を酸素含有雰囲気で加熱する。酸素含有雰囲気としては、空気(大気)雰囲気とすることが好ましい。
【0033】
加えて、前記アニール処理工程は、600〜1200℃の温度範囲で行うことが好ましい。表面の結晶欠陥を無くす観点からは600〜700℃程度の温度範囲とすればよいが、この温度範囲では窒素(N)又はリン(P)の拡散が不十分となる。そこで、窒素(N)又はリン(P)を十分に拡散させる観点より、800℃以上とすることが好ましく、900℃以上とすることがより好ましい。一方、高温になりすぎると、希土類元素が酸化亜鉛(ZnO)マトリックス中に固溶して希土類元素が不活性になるおそれがあることから、1100℃以下とすることがより好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0035】
(実施例1)
本実施例の酸化亜鉛系発光材料は、酸化亜鉛(ZnO)に対して、希土類元素としてのエルビウム(Er)と、所定の添加濃度の窒素(N)とが添加されたものであって、窒素(N)の添加濃度が0.4〜6.0モル%の範囲内であり、かつ、酸素含有雰囲気としての空気(大気)雰囲気でアニール処理して得られたものである。
【0036】
この酸化亜鉛系発光材料の製造方法について、以下説明する。
【0037】
<添加工程>
まず、ZnC2 4 粉末をEr(NO3 3 ・5H2 Oエタノール溶液に添加した後、50℃×12時間の条件で乾燥した。その後、500℃×2時間の条件で熱分解して、Er添加ZnO粉末を得た。このEr添加ZnO粉末におけるEr添加量は2.6mol%とした。
【0038】
得られたEr添加ZnO粉末から機械圧粉工程、静水圧圧粉工程を経て直径10mm、厚さ2mmの円板状成形体とした。
【0039】
そして、この成形体を所定の焼結条件(1000℃×2時間の条件で加熱後、2時間かけて1350℃まで昇温し、この1350℃×3時間の条件で加熱した後、空冷する条件)で焼結して、Er添加ZnO焼結体とした。ここに、Nイオン照射を行う前のこの状態の試料を試料Aとする。
【0040】
上記Er添加ZnO焼結体に対して、窒素(N)を導入するために、Nイオン照射を行った。これにより、酸化亜鉛(ZnO)に対して、希土類元素としてのエルビウム(Er)が2.6モル%の添加濃度で添加されるとともに、5B族元素としての窒素(N)が添加された前駆体を得た。なお、このイオン照射工程の照射条件は以下のとおりである。また、照射エネルギ100keVにおけるNイオン浸入深さの理論値は160nmであり、Nイオン浸入層のNイオン濃度は約3.1モル%であった。ここに、Nイオン照射を行った後で、かつ、アニール処理を行う前のこの状態の試料を試料Bとする。
【0041】
照射エネルギ:100keV
ドーズ量:2.1×1016ions/cm2
<アニール処理工程>
上記添加工程で得られた前駆体を空気雰囲気(大気中)で、1000℃×5時間の条件で加熱して、アニール処理を行い、本実施例に係る酸化亜鉛系発光材料の試料を得た。なお、窒素(N)の添加濃度は、アニール処理前と同様、3.1モル%である。
【0042】
ここに、こうして本実施例により最終的に得られた試料を試料Cとする。また、前記試料Aに対してNイオン照射を行うことなく上記と同様のアニール処理を行った状態の試料を試料Dとする。
【0043】
前記試料A、B、C及びDについて、14N(d,α)12C 核反応によって放出されたα粒子のエネルギースペクトルを調べた結果、試料Bの窒素(N)濃度と試料Cの窒素(N)濃度とがほぼ同等であり、アニール処理の前後で窒素(N)濃度にほとんど差が認められなかった。
【0044】
こうして得られた試料A、B、C及びDについて、分光器:SPEX 1702104 Spectrometer(SPEX社製)を用いて、室温(25℃)で、1.5μm帯のPL強度を測定した。その結果を図1に示す。
【0045】
なお、このPL強度の測定は、励起源として、ビーム径:1mm、入射パワー:5mWのHe−Cdレーザー(波長325nm)を使用し、液体窒素で冷却したGe−pinフォトダイオード(Applied Detector Corporation社製、商品名「403L」)で試料の発光を検出することにより行った。
【0046】
また、図1において、A曲線、B曲線及びD曲線で示される試料A、B及びDからそれぞれ発光する光の強度が、C曲線で示される試料Cから発光する光の強度と比べて極端に弱いため、A曲線、B曲線及びD曲線についてはPL強度のスケールを10倍に拡大している。
【0047】
さらに、図1の縦軸は任意単位でのPL強度(arbitrary unit)を示す。すなわち、前記の測定システムにより発光強度を検出したとき、試料Cの室温(25℃)でのPLピーク強度は、Er及びOを共添加したGaAs単結晶試料(A.Koizumi,H.Moriya,N.Watanabe,et al,Appl.Phys.Lett.,80,559(2002))のそれに比べて約4倍大きいことはわかっているが、強度の絶対値については不明である。
【0048】
図1より、本実施例により最終的に得られた試料Cから発光する光のスペクトル(図1のC曲線)は、窒素イオン照射前の試料Aから発光する光のスペクトル(図1のA曲線)や、Nイオン照射を行うことなくアニール処理を行った試料Dから発光する光のスペクトル(図1のD曲線)と比べて、PL強度が約40倍も高いことがわかる。また、Nイオン照射により、ピーク値も1.534μmから1.539μmにシフトしていることがわかる。このシフトは、エルビウム(Er)の周りに配意する酸素(O)の一部が窒素(N)に置換されたことによるものと理解される。
【0049】
また、Nイオン照射を行った後で、かつ、アニール処理を行う前の試料Bから発光する光のスペクトル(図1のB曲線)は、試料Cから発光する光のスペクトル(図1のC曲線)と比べて、PL強度が極端に低い(窒素イオン照射前の試料Aよりも低い)ことからもわかるように、窒素イオンを所定濃度で添加することのみでは、PL強度は増大せず、窒素(N)イオンを照射した後に、酸素含有雰囲気(大気中)で所定のアニール処理を施してはじめてPL強度を十分に増大させうることが確認された。
【0050】
(窒素量とPL強度の増加率との関係)
前記添加工程におけるイオン照射工程で、ドーズ量(窒素イオン照射量)を6.4×1014〜7.6×1016ions/cm2 の範囲内で種々変更すること以外は、前記実施例1と同様にして、試料A、B、C及びDを得た。
【0051】
こうして得られた試料A(窒素イオン照射前の試料)及び試料C(窒素イオン照射し、かつ、アニール処理した後の試料)について、前記実施例1と同様の条件で、1.5μm帯のPL強度を測定し、窒素量とPL強度の増加率との関係を調べた。その結果を図2に示す。なお、図2の縦軸は、PL強度の増加率を示し、これは、下記(1)式により求めたものである。
【0052】
(PL強度の増加率)=(試料CについてのPL強度のピーク値)/(試料AについてのPL強度のピーク値) …(1)
図2より、窒素量(窒素の添加量)が0.4〜6.0モル%の範囲内であれば、PL強度の増加率が30倍以上になることがわかる。
【0053】
(比較例)
前記添加工程におけるイオン照射工程で、Nイオンを照射する代わりに、ネオン(Ne)イオンを照射すること以外は、前記実施例1と同様にして、試料A、B及びCを得た。
【0054】
こうして得られた試料A(窒素イオン照射前の試料)、試料B(Neイオン照射を行った後で、かつ、アニール処理を行う前試料)及び試料C(この比較例により最終的に得られた試料、すなわちNeイオン照射し、かつ、アニール処理した後の試料)について、前記実施例1と同様の条件で、1.5μm帯のPL強度を測定した。その結果を図3に示す。なお、図3における曲線AのPL強度のピーク値と、図1における曲線AのPL強度のピーク値とは、同等のレベルにある。
【0055】
図3より、Neイオン照射によっては、PL強度の増加は認められなかった。これにより、PL強度の増加は、イオン照射による照射効果ではなく、窒素を添加することによるものであることが確認された。
【0056】
(適用例)
本発明に係る酸化亜鉛系発光材料は、前述した実施例で示すように、PL(フォトルミネッセンス)により発光するものであり、石英系等のファイバー用の発光デバイスやキャリア注入のための電極材料への応用が期待できる。また、ZnOマトリックスへのEr等の希土類元素のドープによりn型半導体が作られると考えられることから、ZnOマトリックスへの特定元素(例えば窒素(N)やリン(P))の導入によりp型半導体を作ることができれば、pn接合を作ることが可能となり、EL(エレクトロルミネッセンス)素子への応用も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例1の試料A、B、C及びDについて、室温で、1.5μm帯のPL強度を測定した結果を示す図である。
【図2】窒素量と、1.5μm帯のPL強度の増加率との関係を調べた結果を示す図である。
【図3】比較例の試料A、B及びCについて、室温で、1.5μm帯のPL強度を測定した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛(ZnO)に対して、希土類元素の一種と窒素(N)及びリン(P)よりなる5B族元素の群から選ばれる一種とが添加された酸化亜鉛系発光材料であって、
前記5B族元素の添加濃度が0.4〜6.0モル%であり、かつ、酸素含有雰囲気でアニール処理して得られたものであることを特徴とする酸化亜鉛系発光材料。
【請求項2】
前記希土類元素は、エルビウム(Er)及びツリウム(Tm)のうちの一種であることを特徴とする請求項1記載の酸化亜鉛系発光材料。
【請求項3】
以下に示す所定条件下で、液体窒素で冷却したGe−pinフォトダイオード(Applied Detector Corporation社製、商品名「403L」)で試料の発光を検出することにより測定したPL強度の増加率が30倍以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の酸化亜鉛系発光材料。
分光器:SPEX 1702104 Spectrometer(SPEX社製)
測定温度:25℃
励起源:ビーム径1mm、入射パワー5mWのHe−Cdレーザー(波長325nm)
【請求項4】
酸化亜鉛(ZnO)に対して、希土類元素の一種を添加するとともに、窒素(N)及びリン(P)よりなる5B族元素の群から選ばれる一種を0.4〜6.0モル%の添加濃度で添加して前駆体を得る添加工程と、
前記前駆体を酸素含有雰囲気で加熱するアニール処理工程とを備えることを特徴とする酸化亜鉛系発光材料の製造方法。
【請求項5】
前記アニール処理工程は、600〜1200℃の温度範囲で行うことを特徴とする請求項4記載の酸化亜鉛系発光材料の製造方法。
【請求項6】
前記5B族元素は窒素(N)であり、前記添加工程では、前記希土類元素が添加された前記酸化亜鉛(ZnO)に対して窒素(N)イオンを照射することにより窒素(N)を添加することを特徴とする請求項4又は5記載の酸化亜鉛系発光材料の製造方法。
【請求項7】
前記希土類元素は、エルビウム(Er)及びツリウム(Tm)のうちの一種であることを特徴とする請求項4、5又は6記載の酸化亜鉛系発光材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−89682(P2006−89682A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−279400(P2004−279400)
【出願日】平成16年9月27日(2004.9.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年3月31日 社団法人日本金属学会主催の「日本金属学会 2004年春期(第134回)大会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年8月 名古屋大学高等研院発行の「高等研究院年次報告 2002〜2003年度」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年9月20日 社団法人日本金属学会発行の「Materials Transactions,Vol.45,No.9(2004)」に発表
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】