説明

酸化亜鉛薄膜製造用組成物およびドープ酸化亜鉛薄膜製造用組成物

【課題】有機亜鉛化合物を原料とし、発火性がなく取扱いが容易であり、300℃以下の加熱で透明な酸化亜鉛薄膜および3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜を形成できる酸化亜鉛薄膜製造用組成物を提供する。
【解決手段】有機亜鉛化合物の部分加水分解生成物を含む酸化亜鉛薄膜製造用組成物。水の添加量が有機亜鉛化合物に対するモル比で0.05以上〜0.4未満である。有機亜鉛化合物と3B族元素化合物との溶液に水を添加して、有機亜鉛化合物の部分加水分解物を含み、3B族元素化合物は、有機亜鉛化合物に対するモル比が0.005〜0.3であるドープ酸化亜鉛薄膜製造用組成物。水の添加量が有機亜鉛化合物および3B族元素化合物の合計量に対するモル比で0.05以上〜0.4未満である。有機亜鉛化合物の部分加水分解物に3B族元素化合物を有機亜鉛化合物に対するモル比が0.005〜0.3の割合になるよう添加して得られる生成物を含む、ドープ酸化亜鉛薄膜製造用組成物。水の添加量が、有機亜鉛化合物に対するモル比で0.05以上〜0.4未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
大気圧付近の圧力下、かつ300℃以下の温度で加熱することにより、可視光線に対して高い透過率を有する透明酸化亜鉛薄膜を形成することができる有機亜鉛化合物を原料として調製した、発火性がなく取扱いが容易な酸化亜鉛薄膜製造用組成物および3B族元素をドープした酸化亜鉛薄膜製造用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光線に対して高い透過性を有する透明な酸化亜鉛薄膜や3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜は、光触媒膜、紫外線カット膜、赤外線反射膜、CIGS太陽電池のバッファ層、色素増感太陽電池の電極膜、帯電防止膜等に使用され、幅広い用途を持つ。
【0003】
透明な酸化亜鉛薄膜や3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜の製造方法としては種々の方法が知られている(非特許文献1)。有機亜鉛化合物を原料として用いる代表的な方法としては、化学気相成長(CVD)法(非特許文献2)と、スプレー熱分解法(非特許文献3)、スピンコート法(特許文献1)、ディップコート法(非特許文献4)等の塗布法とがある。
【0004】
しかしながら、化学気相成長(CVD)法では、大型の真空容器を用いる必要があり、かつ製膜速度が非常に遅いために製造コストが高くなる。また、真空容器の大きさにより形成することのできる3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜の大きさが制限される為に大型のものを形成することができない、等の問題があった。
【0005】
上記塗布法は、上記化学気相成長(CVD)法に比べて装置が簡便で膜形成速度が速い為生産性が高く製造コストも低い。また、真空容器を用いる必要がなく真空容器による制約がない為、大きな3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜の作成も可能であるという利点がある。
【0006】
上記スプレー熱分解法では、スプレー塗布と同時に溶媒乾燥し、次いで基板温度を360℃以上に加熱することで酸化亜鉛薄膜や3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜塗膜を得ている。
【0007】
上記スピンコート法およびディップコート法は、スピンコートまたはディップコート後に溶媒を乾燥し、次いで基板温度を400℃以上に加熱することで酸化亜鉛薄膜や3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜塗膜を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−182939号公報
【特許文献2】特開2010−126402公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】日本学術振興会透明酸化物光電子材料第166委員会編、透明導電膜の技術 改訂2版(2006)、p165〜173
【非特許文献2】K. Sorab, et al. Appl. Phys. Lett., 37(5), 1 September 1980
【非特許文献3】F. Paraguay D, et al. Thin Solid films., 16(366), 2000
【非特許文献4】Y. Ohya, et al. J. Mater. Sci., 4099(29), 1994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
透明な酸化亜鉛薄膜や3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜は、プラスチック基板に形成されるようになってきている。そのため、透明な酸化亜鉛薄膜や3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜の形成時に適用される加熱は、プラスチック基板の耐熱温度以下で実施されることが必要である。しかるに、上記非特許文献3に記載のスプレー熱分解法、特許文献1に記載のスピンコート法、および非特許文献4に記載のディップコート法では、プラスチック基板の耐熱温度(通常は、材質にもよるが約300〜400℃の範囲)以下での加熱では、透明な酸化亜鉛薄膜や3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜を得ることはできない。プラスチック基板の耐熱温度と加熱に要するコスト等を考慮すると、製膜時に要する加熱は、300℃以下であることが望まれる。
【0011】
本発明者らは、非特許文献3に記載のスプレー熱分解法で用いられている3B族元素化合物と酢酸亜鉛の水溶液、特許文献1に記載のスピンコート法で用いられている3B族元素化合物、さらには有機亜鉛化合物と有機溶媒からなる溶液や非特許文献4に記載のディップコート法で用いられている有機亜鉛化合物と有機溶媒からなる溶液を用いて300℃以下の温度での製膜を試みた。しかし、いずれの場合も、透明な3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜が得られず、不透明な酸化亜鉛薄膜しか得られなかった。特許文献1に記載のジエチル亜鉛のヘキサン溶液を用いても300℃以下での製膜を試みた。しかし、同様に透明な3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜は得られなかった。
【0012】
また、ジエチル亜鉛は大気中で発火性があり、保管、使用時に非常な注意を払わねばならない化合物である。そのため、ジエチル亜鉛を希釈等することなしに、通常、水が存在する雰囲気中で行われることの多い、スプレー熱分解法、スピンコート法等で用いることは、実用上困難である。一方、ジエチル亜鉛は、有機溶媒に溶解した状態では、発火性などの危険性を低減できる。特許文献1に記載のように、アルコール系の有機溶媒に反応させながら溶解したジエチル亜鉛を用いた酸化亜鉛薄膜の製膜では危険性は低減できるが、透明な膜の形成には、400℃以上の高温で加熱が必要であった。
【0013】
この点を改良するため、発明者らは特許文献2のように、ジエチル亜鉛を電子供与性溶媒に溶解し、成膜方法にスプレー法を用いることで酸化亜鉛の低温成膜が可能であることを見出し、特許を出願した。この酸化亜鉛薄膜形成用の溶液をスピンコート等の塗布法で成膜を行なうと、薄膜の形成は可能であるが、有機亜鉛化合物であるジエチル亜鉛が揮発性がある、粘度が低いなどの理由から膜厚を得るための塗布回数が多くなるなどの、改良の余地がある。
【0014】
そこで本発明の目的は、有機亜鉛化合物を原料として調製したものであるが、発火性がなく取扱いが容易であり、かつ加熱が必要であっても300℃以下の加熱で透明な酸化亜鉛薄膜や3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜を形成することができる、酸化亜鉛薄膜製造用組成物を提供することである。さらに本発明の目的は、この組成物を用いた、プラスチック基板の耐熱温度と加熱に要するコスト等を考慮して、製膜時に加熱を必要としないか、あるいは加熱しても300℃以下の加熱で、透明な酸化亜鉛薄膜や3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜を得ることができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明は、以下のとおりである。
[1]
一般式(1)で表される有機亜鉛化合物を電子供与性有機溶媒に溶解した溶液に、水を添加して、前記有機亜鉛化合物を少なくとも部分的に加水分解することにより得られる生成物(以下、部分加水分解物1と呼ぶことがある)を含み、前記水の添加量は、前記有機亜鉛化合物に対するモル比が0.05以上〜0.4未満の範囲である、酸化亜鉛薄膜製造用組成物。
1−Zn−R1 (1)
(式中、R1は炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基である)
[2]
下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と、下記一般式(2)または下記一般式(3)で表される3B族元素化合物の少なくとも1種とを電子供与性有機溶媒に溶解した溶液に、水を添加して、少なくとも前記有機亜鉛化合物を少なくとも部分的に加水分解して得られる生成物(以下、部分加水分解物2と呼ぶことがある)を含み、前記3B族元素化合物は、前記有機亜鉛化合物に対するモル比が0.005〜0.3の割合であり、かつ前記水の添加量は、前記有機亜鉛化合物および3B族元素化合物の合計量に対するモル比が0.05以上〜0.4未満の範囲である、ドープ酸化亜鉛薄膜製造用組成物。
1−Zn−R1 (1)
(式中、R1は炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基である)
cd・aH2O (2)
(式中、Mは3B族元素であり、Xは、ハロゲン原子、硝酸または硫酸であり、Xがハロゲン原子または硝酸の場合、cは1、dは3、Xが硫酸の場合、cは2、dは3、aは0〜9の整数である。)

(式中、Mは3B族元素であり、R2、R3、R4は独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルコキシル基、カルボン酸基、またはアセチルアセトナート基であり、さらにLは窒素、酸素またはリンを含有した配位性有機化合物であり、nは0〜9の整数である。)
[3]
前記生成物は、前記3B族元素化合物の加水分解物を含む[2]に記載の組成物。
[4]
一般式(1)で表される有機亜鉛化合物を電子供与性有機溶媒に溶解した溶液に、水を添加して、前記有機亜鉛化合物を少なくとも部分的に加水分解した後、一般式(2)または一般式(3)で表される3B族元素化合物の少なくとも1種を、前記有機亜鉛化合物に対するモル比が0.005〜0.3の割合になるよう添加することにより得られる生成物(以下、部分加水分解物3と呼ぶことがある)を含み、かつ前記水の添加量は、前記有機亜鉛化合物に対するモル比が0.05以上〜0.4未満の範囲である、ドープ酸化亜鉛薄膜製造用組成物。
1−Zn−R1 (1)
(式中、R1は炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基である)
cd・aH2O (2)
(式中、Mは3B族元素であり、Xは、ハロゲン原子、硝酸または硫酸であり、Xがハロゲン原子または硝酸の場合、cは1、dは3、Xが硫酸の場合、cは2、dは3、aは0〜9の整数である。)

(式中、Mは3B族元素であり、R2、R3、R4は独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルコキシル基、カルボン酸基、またはアセチルアセトナート基であり、さらにLは窒素、酸素またはリンを含有した配位性有機化合物であり、nは0〜9の整数である。)
[5]
前記生成物は、前記3B族元素化合物の加水分解物を実質的に含まない[4]に記載の組成物。
[6]
前記生成物の濃度が1〜30質量%の範囲である[1]〜[5]のいずれかに記載の組成物。
[7]
前記有機亜鉛化合物は、R1が炭素数1、2、3、4、5、または6のアルキル基である化合物である[1]〜[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]
前記有機亜鉛化合物がジエチル亜鉛である[1]〜[7]のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の酸化亜鉛薄膜製造用組成物および3B族元素をドープした酸化亜鉛薄膜製造用組成物は、発火性がなく取扱いが容易であり、かつ本発明の酸化亜鉛薄膜製造用組成物および3B族元素をドープした酸化亜鉛薄膜製造用組成物を用いれば、300℃以下の温度で製膜しても透明な酸化亜鉛薄膜および3B族元素がドープされた酸化亜鉛薄膜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】スプレー製膜装置を示す図である。
【図2】実施例1で得られた組成物の真空乾燥後のNMRスペクトル
【図3】実施例5で得られた酸化亜鉛薄膜のXRDチャート
【図4】実施例8で得られたインジウムがドープされた酸化亜鉛薄膜のXRDチャート
【発明を実施するための形態】
【0018】
[酸化亜鉛薄膜製造用組成物]
本発明の酸化亜鉛薄膜製造用組成物は、下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物を電子供与性有機溶媒に溶解した溶液に、水を添加して、前記有機亜鉛化合物を少なくとも部分的に加水分解して得られる生成物(部分加水分解物1)を含み、前記水の添加量は、前記有機亜鉛化合物に対するモル比が0.05以上〜0.4未満の範囲である。
1−Zn−R1 (1)
(式中、R1は炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基である)
【0019】
部分加水分解物1において、0.4以上に水の添加量を増やして加水分解度を進めても加水分解生成物を得ることが出来るが、未反応の反応性の高いジエチル亜鉛の残存量が少なくなり、200℃以下などでの低温での反応性が得られなくなる可能性がある。
【0020】
[3B族元素をドープした酸化亜鉛薄膜製造用組成物]
本発明の3B族元素をドープした酸化亜鉛薄膜製造用組成物は、(i)下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と下記一般式(2)または(3)で表される3B族元素化合物の少なくとも1種とを電子供与性有機溶媒に溶解した溶液に、水を添加して、少なくとも前記有機亜鉛化合物を少なくとも部分的に加水分解して得られる生成物(部分加水分解物2)を含むか、あるいは(ii)前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物を電子供与性有機溶媒に溶解した溶液に、水を添加して、前記有機亜鉛化合物を少なくとも部分的に加水分解した後、前記一般式(2)または(3)で表される3B族元素化合物の少なくとも1種を添加して得られる生成物(以下、部分加水分解物3と呼ぶことがある)を含む。
1−Zn−R1 (1)
(式中、R1は炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基である)
cd・aH2O (2)
(式中、Mは3B族元素であり、Xは、ハロゲン原子、硝酸または、硫酸、リン酸であり、Xがハロゲン原子または、硝酸の場合、cは1、dは3、Xが硫酸の場合、cは2、dは3、aは0〜9の整数である。)

(式中、Mは3B族元素であり、R2、R3、R4は独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルコキシル基、カルボン酸基、もしくはアセチルアセトナート基であり、さらに、Lは窒素、酸素、リンいずれかを含有した配位性有機化合物であり、bは0〜9の整数である。)
【0021】
部分加水分解物2においては、有機亜鉛化合物と3B族元素化合物の混合溶液に水を添加するので、前記生成物は、通常、前記3B族元素化合物の加水分解物を含む。3B族元素化合物の加水分解物は、水の添加量等によるが、部分加水分解物であることができる。また、部分加水分解物3においては、有機亜鉛化合物に水を添加した後に、3B族元素化合物を添加することから、水の添加量等によるが、添加した水が有機亜鉛化合物の加水分解に消費された後に3B族元素化合物へ添加される場合には、前記生成物は、通常、前記3B族元素化合物の加水分解物は含まない。3B族元素化合物は、加水分解されず、原料のままで含有されるか、あるいは、有機亜鉛化合物の部分加水分解物が有する有機基と3B族元素化合物の有機基(配位子)が交換(配位子交換)したものになる可能性もある。
【0022】
前記水の添加量は、部分加水分解物2においては、前記有機亜鉛化合物と3B族元素化合物の合計量に対するモル比を0.05以上〜0.4未満の範囲とする。また、酸化亜鉛薄膜製造用組成物や部分加水分解物3においては、前記水の添加量は、前記有機亜鉛化合物に対するモル比を0.05以上〜0.4未満の範囲とする。0.4以上に水の添加量を増やして加水分解度を進めても加水分解生成物を得ることが出来るが、未反応の反応性の高いジエチル亜鉛の残存量が少なくなり、200℃以下などでの低温での反応性が得られなくなる可能性がある。
【0023】
以下、部分加水分解物1〜3について合わせて説明する。
電子供与性有機溶媒は、部分加水分解物1においては、一般式(1)で表される有機亜鉛化合物および水に対して溶解性を有するものであればよく、部分加水分解物2および3においては、一般式(1)で表される有機亜鉛化合物、一般式(2)または(3)で表される3B族元素化合物および水に対して溶解性を有するものであればよい。そのような電子供与性有機溶媒の例としては、1,2−ジエトキシエタンやジエチルエーテル、ジn−プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、グライム、ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶媒、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン等のアミン系溶媒等を挙げることができる。電子供与性を有する溶媒としては、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサンが好ましい。
【0024】
前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物におけるR1として表されるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、2−ヘキシル基、およびヘプチル基を挙げることができる。一般式(1)で表される化合物は、R1が炭素数1、2、3、4、5、または6の化合物であることが好ましい。一般式(1)で表される化合物は、特にR1が炭素数2である、ジエチル亜鉛であることが好ましい。
【0025】
前記一般式(2)で表される3B族元素化合物におけるMとして表される金属の具体例としては、B、Al、Ga、Inを挙げことができる。また、Xとして表される塩の具体例としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、硝酸、硫酸、リン酸を挙げることができる。一般式(2)で表される3B族元素化合物は、特に、塩化ホウ素、塩化アルミニウム6水和物、硝酸アルミニウム9水和物、塩化ガリウム、硝酸ガリウム水和物、塩化インジウム4水和物、硝酸インジウム5水和物を挙げることができる。
【0026】
前記一般式(3)で表される3B族元素化合物におけるMとして表される金属の具体例としては、B、Al、Ga、Inを挙げことができる。また、R2、R3、及びR4は水素であることが好ましい。あるいは、R2、R3、及びR4はアルキル基であることも好ましく、アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、2−ヘキシル基、およびヘプチル基を挙げることができる。R2、R3、及びR4は、少なくとも1つが水素であり、残りがアルキル基であることも好ましい。Lとして表される配位子は、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン、ピリジン、モノフォリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、トリフェニルフォスフィン、ジメチル硫黄、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランを挙げることができる。一般式(3)で表される3B族元素化合物は、特に、ジボラン、ボラン−テトラヒドロフラン錯体、ボラン−トリメチルアミン錯体、ボラン−トリエチルアミン錯体、トリエチルボラン、トリブチルボラン、アラン−トリメチルアミン錯体、アラン−トリエチルアミン錯体、トリメチルアルミニウム、ジメチルアミルニウムヒドリド、トリイソブチルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルインジウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウムを挙げることができる。価格が安く入手が容易であるという点から、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリメチルガリウム、トリメチルインジウムが特に好ましい。
【0027】
本発明の組成物(部分加水分解物2および3)においては、前記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と有機亜鉛化合物に対する前記一般式(2)または(3)で表される3B族元素化合物のモル比が0.005〜0.3の割合で添加する。3B族元素化合物の添加量が多くなり過ぎると、不純物として膜特性を劣化させる傾向がある為、0.005〜0.1の割合とすることが好ましい。但し、部分加水分解物2においては、上記モル比で有機亜鉛化合物と3B族元素化合物を含有する溶液に水を添加して部分加水分解物を得る。また、部分加水分解物3においては、有機亜鉛化合物を含有する溶液に水を添加して部分加水分解物を得、その上で、上記モル比で3B族元素化合物を添加する。
【0028】
前記一般式(1)で表される化合物を前記電子供与性有機溶媒に溶解した溶液における、前記一般式(1)で表される化合物の濃度は、溶媒への溶解性等を考慮して適宜決定されるが、例えば、0.1〜50質量%の範囲とすることが適当であり、1〜30質量%の範囲が好ましい。前記一般式(1)で表される化合物と前記一般式(2)または(3)で表される3B族元素化合物を前記電子供与性有機溶媒に溶解した溶液における、前記一般式(1)で表される化合物と前記一般式(2)または(3)で表される3B族元素化合物の合計量の濃度は、溶媒への溶解性等を考慮して適宜決定されるが、例えば、0.1〜50質量%の範囲とすることが適当である。
【0029】
前記一般式(1)の有機亜鉛化合物を少なくとも部分加水分解した後、前記一般式(2)または(3)の3B元素化合物を添加する場合(部分加水分解物3の場合)、前記一般式(1)で表される化合物を前記電子供与性有機溶媒に溶解した溶液における、前記一般式(1)で表される化合物の濃度は、溶媒への溶解性等を考慮して適宜決定されるが、例えば、0.1〜50質量%の範囲とすることが適当である。
【0030】
水の添加は、水を他の溶媒と混合することなく行うことも、水を他の溶媒と混合した後に行うこともできる。水の添加は、反応の規模にもよるが、例えば、60秒〜10時間の間の時間をかけて行うことができる。生成物の収率が良好であるという観点から、原料である前記一般式(1)の有機亜鉛化合物に水を滴下することにより添加することが好ましい。水の添加は、一般式(1)で表される化合物と電子供与性有機溶媒との溶液を攪拌せずに(静置した状態で)または攪拌しながら実施することができる。添加時の温度は、−90〜150℃の間の任意の温度を選択できる。−15〜30℃であることが水と有機亜鉛化合物の反応性という観点から好ましい。
【0031】
水の添加後に、水と一般式(1)で表される化合物と一般式(2)または(3)で表される化合物、もしくは、水と一般式(1)で表される化合物との反応を進行させるために、例えば、1分から48時間、攪拌せずに(静置した状態で)置くか、または攪拌する。反応温度については、−90〜150℃の間の任意の温度で反応させることができる。5〜80℃であることが部分加水分解物を高収率で得るという観点から好ましい。反応圧力は制限されない。通常は、常圧(大気圧)で実施できる。水と一般式(1)で表される化合物との反応の進行は、必要により、反応混合物をサンプリングし、サンプルをNMRあるいはIR等で分析、もしくは、発生するガスをサンプリングすることによりモニタリングすることができる。
【0032】
前記の有機溶媒、原料である前記一般式(1)の有機亜鉛化合物、そして水はあらゆる慣用の方法に従って反応容器に導入することができ、溶媒との混合物としても導入することができる。これらの反応工程は回分操作式、半回分操作式、連続操作式のいずれでもよく、特に制限はないが、回分操作式が望ましい。
【0033】
上記反応により、前記一般式(1)の有機亜鉛化合物と前記一般式(2)または(3)の3B族元素化合物、もしくは、前記一般式(1)の有機亜鉛化合物は、水により少なくとも部分的に加水分解されて、部分加水分解物を含む生成物が得られる。一般式(1)の有機亜鉛化合物がジエチル亜鉛である場合、水との反応により得られる生成物についての解析は古くから行われているが、報告により結果が異なり、生成物の組成が明確に特定されている訳ではない。また、水の添加モル比や反応時間等によっても、生成物の組成は変化し得る。本発明においては、生成物の主成分は、部分加水分解物2については、下記一般式(4)および(5)で表される構造単位と下記一般式(6)で表される構造単位を組み合わせた化合物であるか、あるいはmが異なる複数種類の化合物の混合物である。
(R1−Zn)− (4)
−[O−Zn]m− (5)
(式中、R1は一般式(1)におけるR1と同じであり、mは2〜20の整数である。)

(式中、Mは一般式(2)または(3)におけるMと同じであり、Qは一般式(2)または(3)におけるX、R2、R3、R4のいずれかと同じであり、mは2〜20の整数である。)
【0034】
酸化亜鉛薄膜製造用組成物における部分加水分解物1や部分加水分解物3については、下記一般式(8)で表される化合物であるか、あるいは、mが異なる複数種類化合物の混合物であると推定される。
R1−Zn−[O−Zn]p−R1 (8)
(式中、R1は一般式(1)におけるR1と同じであり、pは2〜20の整数である。)
【0035】
3B族元素をドープした酸化亜鉛薄膜製造用組成物においては、前記有機亜鉛化合物の加水分解の際に、前記3B族元素化合物を共存させていない場合、反応終了後、前記一般式(2)または(3)の3B族化合物を添加することにより組成物を製造する。前記3B族元素化合物の添加量は、前記有機亜鉛化合物の仕込み量に対して0.005〜0.3である。3B族元素化合物の添加効果を確実にえるいという観点、および添加量が多くなると不純物として膜特性を劣化させる傾向がある為、0.005〜0.1が特に好ましい。
【0036】
加水分解反応終了後、例えば、ろ過、濃縮、抽出、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって、上記生成物の一部または全部を回収及び精製することができる。また、加水分解反応終了後に3B族元素化合物を添加する場合には、ろ過によって、上記生成物の一部または全部を回収及び精製することができる。反応生成物中に、原料である一般式(1)の有機亜鉛化合物が残存する場合には、上記方法で回収することもでき、回収することもできる。
【0037】
上記方法で電子供与性有機溶媒から分離して回収した組成物は、反応に使用した電子供与性有機溶媒と異なる薄膜形成用有機溶媒に溶解して塗布用の溶液とすることもできる。また、電子供与性有機溶媒を分離することなく反応生成混合物をそのまま、あるいは適宜濃度を調整して塗布用の溶液とすることもできる。
【0038】
前記薄膜形成用有機溶媒の例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、グライム、ジグライム、トリグライム、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン等のアミン系溶媒等が挙げられる。また、これらは単独で使用するのみならず、2種類以上を混合して用いることも可能である。前記反応生成物に含まれる有機亜鉛化合物の部分加水分解物を含む反応生成物の溶解性、および、有機溶媒自身の揮発性等を考慮すると、薄膜形成用有機溶媒としては、1,2−ジエトキシエタン、1,4−ジオキサン、メチルモノグライム、エチルモノグライム、メチルジグライムが好ましい。
【0039】
酸化亜鉛薄膜形成用組成物や3B族元素をドープした酸化亜鉛薄膜製造用組成物の固形分濃度は1〜30質量%の範囲を任意に選択できる。濃度が高ければ高いほど少ない塗布回数で薄膜を製造できるが、有機亜鉛化合物の部分加水分解物を含む反応生成物の溶解度、透明な酸化亜鉛薄膜の形成の容易さを考慮すると1〜12質量%が好ましい。
【0040】
[酸化亜鉛薄膜の製造方法]
本発明の酸化亜鉛薄膜形成用組成物を用いることで、酸化亜鉛薄膜の製造することができる。この製造方法は、具体的には、前記本発明の酸化亜鉛薄膜形成用組成物を基板表面に塗布し、次いで、得られた塗布膜を300℃以下の温度で加熱して酸化亜鉛薄膜を形成することを含む。
【0041】
基板表面への塗布は、ディップコート法、スピンコート法、スプレー熱分解法、インクジェット法、スクリーン印刷法等の慣用手段により実施できる。スプレー熱分解法は、基板を加熱しながらできる方法であり、そのため、塗布と並行して溶媒を乾燥させることができ、条件によっては、の溶媒乾燥のための加熱が不要である場合もある。さらに、条件によっては、乾燥に加えて、有機亜鉛化合物の部分加水分解物の酸化亜鉛への反応も少なくとも一部、進行する場合もある。そのため、後工程である、所定の温度での加熱による酸化亜鉛薄膜形成をより容易に行える場合もある。スプレー熱分解法における基板の加熱温度は、例えば、50〜250℃の範囲であることができる。
【0042】
組成物の基板表面への塗布は、窒素等の不活性ガス雰囲気下、空気雰囲気下、水蒸気を多く含有した相対湿度が高い空気雰囲気下、酸素等の酸化ガス雰囲気下、水素等の還元ガス雰囲気下、もしくは、それらの混合ガス雰囲気下等のいずれかの雰囲気下、かつ、大気圧または加圧下で実施することができる。本発明の組成物に含まれる生成物は、雰囲気中の水分と反応し徐々に分解することから、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。尚、本発明の方法における塗布は、減圧下でも実施できるが、大気圧で実施するのが装置上も簡便であり好ましい。
【0043】
基板表面へ塗布液を塗布した後、必要により基板を所定の温度とし、溶媒を乾燥した後、所定の温度で加熱することにより酸化亜鉛薄膜を形成させる。
【0044】
溶媒を乾燥する温度は、例えば、20〜200℃の範囲であることができ、共存する有機溶媒の種類に応じて適時設定することができる。溶媒乾燥後の酸化亜鉛形成の為の加熱温度は、例えば、20〜300℃の範囲であり、好ましくは50〜250℃の範囲であり、さらに好ましくは100〜200℃の範囲である。溶媒乾燥温度とその後の酸化亜鉛形成の為の加熱温度を同一にし、溶媒乾燥と酸化亜鉛形成を同時に行うことも可能である。
【0045】
必要に応じて、さらに、酸素等の酸化ガス雰囲気下、水素等の還元ガス雰囲気下、水素、アルゴン、酸素等のプラズマ雰囲気下で、上記加熱を行うことにより酸化亜鉛の形成を促進、または、結晶性を向上させることも可能である。酸化亜鉛薄膜の膜厚には特に制限はないが、実用的には0.05〜2μmの範囲であることが好ましい。本発明の製造方法によれば、上記塗布(乾燥)加熱を1回以上繰り返すことで、上記範囲の膜厚の薄膜を適宜製造することができる。
【0046】
この製造方法により形成される酸化亜鉛薄膜は、好ましくは可視光線に対して80%以上の平均透過率を有するものであり、より好ましくは可視光線に対して85%以上の平均透過率を有する。「可視光線に対する平均透過率」とは、以下のように定義され、かつ測定される。可視光線に対する平均透過率とは、380〜780nmの範囲の光線の透過率の平均を云い、紫外可視分光光度計により測定される。尚、可視光線に対する平均透過率は、550nmの可視光の透過率を提示することによっても表現できる。可視光線に対する透過率は、スプレー塗布時、もしくは、塗布後の加熱による酸化亜鉛の生成の程度により変化(増大)するので、薄膜の可視光線に対する透過率が80%以上になるよう考慮してスプレー塗布時、もしくは、塗布後の加熱条件(温度及び時間)を設定することが好ましい。
【0047】
さらにこの製造方法により形成されるドープされた酸化亜鉛薄膜は、3B族元素をドープしたものであることから、さらに成膜方法を工夫することにより、低抵抗な膜を得られる可能性が高くなる。
【0048】
上記製造方法において基板として用いられるのは、例えば、透明基材フィルムであることができ、透明基材フィルムは、プラスチックフィルムであることができる。プラスチックフィルムを形成するポリマーには、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート(P E T)、ポリエチレンナフタレート(P E N)、ポリ(メタ)アクリル(例えば、ポリメチルメタクリレート(P M M A))、ポリカーボネート(P C)、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、環状ポリオレフィン(C O P)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタン、トリアセテート、セロファンを例示することができる。これら中、P E T、P E N、P C、P M M Aが好ましい。透明基材フィルムはポリマーの種類によって無延伸フィルムであっても、延伸フィルムであってもよい。例えば、ポリエステルフィルム例えばP E T フィルムは、通常、二軸延伸フィルムであり、またP C フィルム、トリアセテートフィルム、セロファンフィルム等は、通常、無延伸フィルムである。
【実施例】
【0049】
以下に本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。全ての有機亜鉛化合物からの部分加水分解物を含む生成物の調製およびそれを用いた成膜は窒素ガス雰囲気下で行い、溶媒は全て脱水および脱気して使用した。
【0050】
[実施例1]
1,2−ジエトキシエタン30.0gにジエチル亜鉛2.60gを加えた。十分攪拌した後、12℃まで冷却した。5.0%水を含有したテトラヒドロフラン溶液を、水のジエチル亜鉛に対するモル比が0.2になるように滴下した。その後、室温(22℃)まで昇温し室温で18時間反応させた後、トリメチルインジウムを仕込んだジエチル亜鉛に対してモル比で0.02になるよう添加した。以上のようにして得た溶液をメンブレンフィルターでろ過することにより、インジウムを含有する部分加水分解物溶液(濃度7.9質量%)を33.1g得た。真空乾燥により溶媒等を除去した後のNMR(THF−d8,ppm)測定により図2のスペクトルを得た。
【0051】
上述のように得た部分加水分解物を含む生成物含有塗布液をスピンコート法により18mm角のコーニング1737ガラス基板表面上に塗布した。その後、基板を350℃、5分加熱することで溶媒を乾燥させると同時に酸化亜鉛を形成させた。以上の操作をさらに5回繰り返した。形成された薄膜は、表1のようになった。
【0052】
[実施例2]
1,2−ジエトキシエタン30.0gにジエチル亜鉛2.60gを加えた。十分攪拌した後、12℃まで冷却した。5.0%水を含有したテトラヒドロフラン溶液を、水のジエチル亜鉛に対するモル比が0.39になるように滴下した。その後、室温(22℃)まで昇温し室温で18時間反応させた後、トリメチルインジウムを仕込んだジエチル亜鉛に対してモル比で0.02になるよう添加した。以上のようにして得た溶液をメンブレンフィルターでろ過することにより、インジウムを含有する部分加水分解物溶液(濃度7.9質量%)を33.3g得た。
【0053】
上述のように得た部分加水分解物を含む生成物含有塗布液をスピンコート法により18mm角のコーニング1737ガラス基板表面上に塗布した。その後、基板を350℃、5分加熱することで溶媒を乾燥させると同時に酸化亜鉛を形成させた。以上の操作をさらに5回繰り返した。形成された薄膜は、表1のようになった。
【0054】
[実施例3]
実施例1のように得た部分加水分解物を含む生成物含有塗布液をスピンコート法により18mm角のコーニング1737ガラス基板表面上に塗布したこと以外は、実施例4と同様の方法で酸化亜鉛を形成させた。形成された薄膜は、表1のようになった。
【0055】
[実施例4]
実施例2のように得た部分加水分解物を含む生成物含有塗布液をスピンコート法により18mm角のコーニング1737ガラス基板表面上に塗布したこと以外は、実施例4と同様の方法で酸化亜鉛を形成させた。形成された薄膜は、表1のようになった。
【0056】
[実施例5]
1,2−ジエトキシエタン30.0gにジエチル亜鉛2.60gを加えた。十分攪拌した後、12℃まで冷却した。5.0%水を含有したテトラヒドロフラン溶液を、水のジエチル亜鉛に対するモル比が0.2になるように滴下した。その後、室温(22℃)まで昇温し室温で18時間反応させた後、得た溶液をメンブレンフィルターでろ過することにより、部分加水分解物溶液(濃度7.9質量%)を33.1g得た。
【0057】
上述のようにして得た塗布液を、図1のスプレー製膜装置中スプレーボトルに充填した。18mm角のコーニング1737ガラス基板を基板ホルダに設置した。窒素ガス雰囲気下で、ガラス基板を200℃に加熱した。その後、スプレーノズルより塗布液を4ml/minで8分間噴霧した。形成された薄膜は、表1のようになった。また、薄膜のXRDスペクトルは図3のようになり、酸化亜鉛の形成が確認された。
【0058】
[実施例6]
1,2−ジエトキシエタン30.0gにジエチル亜鉛2.60gを加えた。十分攪拌した後、12℃まで冷却した。5.0%水を含有したテトラヒドロフラン溶液を、水のジエチル亜鉛に対するモル比が0.39になるように滴下した。その後、室温(22℃)まで昇温し室温で18時間反応させた後、得た溶液をメンブレンフィルターでろ過することにより、部分加水分解物溶液(濃度7.9質量%)を33.1g得た。真空乾燥により溶媒等を除去した後のNMR(THF−d8,ppm)測定により図2と同様のスペクトルを得た。
【0059】
上述のようにして得た塗布液を、図1のスプレー製膜装置中スプレーボトルに充填した。18mm角のコーニング1737ガラス基板を基板ホルダに設置した。窒素ガス雰囲気下で、ガラス基板を200℃に加熱した。その後、スプレーノズルより塗布液を4ml/minで8分間噴霧した。形成された薄膜は、表1のようになった。
【0060】
[実施例7]
1,2−ジエトキシエタン30.0gにジエチル亜鉛2.60gを加えた。十分攪拌した後、12℃まで冷却した。5.0%水を含有したテトラヒドロフラン溶液を、水のジエチル亜鉛に対するモル比が0.2になるように滴下した。その後、室温(22℃)まで昇温し室温で18時間反応させた後、トリメチルインジウムを仕込んだジエチル亜鉛に対してモル比で0.02になるよう添加した。以上のようにして得た溶液をメンブレンフィルターでろ過することにより、インジウムを含有する部分加水分解物溶液(濃度7.9質量%)を33.1g得た。
【0061】
上述のようにして得た塗布液を、図1のスプレー製膜装置中スプレーボトルに充填した。18mm角のコーニング1737ガラス基板を基板ホルダに設置した。窒素ガス雰囲気下で、ガラス基板を200℃に加熱した。その後、スプレーノズルより塗布液を4ml/minで8分間噴霧した。形成された薄膜は、表1のようになった。
【0062】
[実施例8]
1,2−ジエトキシエタン30.0gにジエチル亜鉛2.60gを加えた。十分攪拌した後、12℃まで冷却した。5.0%水を含有したテトラヒドロフラン溶液を、水のジエチル亜鉛に対するモル比が0.39になるように滴下した。その後、室温(22℃)まで昇温し室温で18時間反応させた後、トリメチルインジウムを仕込んだジエチル亜鉛に対してモル比で0.02になるよう添加した。以上のようにして得た溶液をメンブレンフィルターでろ過することにより、インジウムを含有する部分加水分解物溶液(濃度7.9質量%)を33.3g得た。
【0063】
上述のようにして得た塗布液を、図1のスプレー製膜装置中スプレーボトルに充填した。18mm角のコーニング1737ガラス基板を基板ホルダに設置した。窒素ガス雰囲気下で、ガラス基板を200℃に加熱した。その後、スプレーノズルより塗布液を4ml/minで8分間噴霧した。形成された薄膜は、表1のようになった。また、薄膜のXRDスペクトルは図4のようになり、酸化亜鉛の形成が確認された。
【0064】
【表1】

TMI=トリメチルインジウム
【0065】
[比較例1]
2−メトキシエタノール24.12gに、酢酸亜鉛二水和物1.23gと助剤としてエタノールアミン0.34g、さらに、トリスアセチルアセナトアルミニウムを酢酸亜鉛二水和物に対してモル比0.02の割合で加え、十分攪拌することでアルミニウムを含有する塗布液を得た。
【0066】
そのように得た塗布液を空気中にて用いた以外実施例1と同様な操作を実施して薄膜を得た。550nmの可視光透過率は75%であり、透過率80%以下の不透明な薄膜しか得られなかった。さらに、膜は不均一であり、XRDからは酸化亜鉛由来のピークは確認されなかった(図示せず)。
【0067】
[比較例2]
トリスアセチルアセナトアルミニウムを塩化ガリウムに変更した以外は、比較例1と同様にしてガリウムを含有する塗布液を得た。
【0068】
そのように得た塗布液を比較例1と同様な操作を実施して薄膜を得た。また、550nmの可視光透過率は66%であり、透過率80%以下の不透明な薄膜しか得られなかった。さらに、膜は不均一であり、XRDからは酸化亜鉛由来のピークは確認されなかった(図示せず)。
【0069】
[比較例3]
トリスアセチルアセナトアルミニウムを塩化インジウム四水和物に変更した以外は、比較例1と同様にしてインジウムを含有する塗布液を得た。
【0070】
そのように得た塗布液を比較例1と同様な操作を実施して薄膜を得た。また、550nmの可視光透過率は71%であり、透過率80%以下の不透明な薄膜しか得られなかった。さらに、膜は不均一であり、XRDからは酸化亜鉛由来のピークは確認されなかった(図示せず)。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、酸化亜鉛薄膜およびドープ酸化亜鉛薄膜の製造分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される有機亜鉛化合物を電子供与性有機溶媒に溶解した溶液に、水を添加して、前記有機亜鉛化合物を少なくとも部分的に加水分解することにより得られる生成物を含み、かつ前記水の添加量は、前記有機亜鉛化合物に対するモル比が0.05以上〜0.4未満の範囲である、酸化亜鉛薄膜製造用組成物。
1−Zn−R1 (1)
(式中、R1は炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基である)
【請求項2】
下記一般式(1)で表される有機亜鉛化合物と、下記一般式(2)または下記一般式(3)で表される3B族元素化合物の少なくとも1種とを電子供与性有機溶媒に溶解した溶液に、水を添加して、少なくとも前記有機亜鉛化合物を少なくとも部分的に加水分解して得られる生成物を含み、前記3B族元素化合物は、前記有機亜鉛化合物に対するモル比が0.005〜0.3の割合であり、かつ前記水の添加量は、前記有機亜鉛化合物および3B族元素化合物の合計量に対するモル比が0.05以上〜0.4未満の範囲である、ドープ酸化亜鉛薄膜製造用組成物。
1−Zn−R1 (1)
(式中、R1は炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基である)
cd・aH2O (2)
(式中、Mは3B族元素であり、Xは、ハロゲン原子、硝酸または硫酸であり、Xがハロゲン原子または硝酸の場合、cは1、dは3、Xが硫酸の場合、cは2、dは3、aは0〜9の整数である。)

(式中、Mは3B族元素であり、R2、R3、R4は独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルコキシル基、カルボン酸基、またはアセチルアセトナート基であり、さらにLは窒素、酸素またはリンを含有した配位性有機化合物であり、nは0〜9の整数である。)
【請求項3】
前記生成物は、前記3B族元素化合物の加水分解物を含む請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
一般式(1)で表される有機亜鉛化合物を電子供与性有機溶媒に溶解した溶液に、水を添加して、前記有機亜鉛化合物を少なくとも部分的に加水分解した後、一般式(2)または一般式(3)で表される3B族元素化合物の少なくとも1種を、前記有機亜鉛化合物に対するモル比が0.005〜0.3の割合になるよう添加することにより得られる生成物を含み、かつ前記水の添加量は、前記有機亜鉛化合物に対するモル比が0.05以上〜0.4未満の範囲である、ドープ酸化亜鉛薄膜製造用組成物。
1−Zn−R1 (1)
(式中、R1は炭素数1〜7の直鎖または分岐したアルキル基である)
cd・aH2O (2)
(式中、Mは3B族元素であり、Xは、ハロゲン原子、硝酸または硫酸であり、Xがハロゲン原子または硝酸の場合、cは1、dは3、Xが硫酸の場合、cは2、dは3、aは0〜9の整数である。)

(式中、Mは3B族元素であり、R2、R3、R4は独立に、水素、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルキル基、炭素数1〜7の直鎖もしくは分岐したアルコキシル基、カルボン酸基、またはアセチルアセトナート基であり、さらにLは窒素、酸素またはリンを含有した配位性有機化合物であり、nは0〜9の整数である。)
【請求項5】
前記生成物は、前記3B族元素化合物の加水分解物を実質的に含まない請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記生成物の濃度が1〜30質量%の範囲である請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
前記有機亜鉛化合物は、R1が炭素数1、2、3、4、5、または6のアルキル基である化合物である請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
前記有機亜鉛化合物がジエチル亜鉛である請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−87014(P2012−87014A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235478(P2010−235478)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(301005614)東ソー・ファインケム株式会社 (38)
【Fターム(参考)】