説明

酸化反応用高分子担持金クラスター触媒、それを用いたカルボニル化合物の製法

【課題】担持量が多く、酸素酸化反応に活性な高分子担持金クラスター触媒、及び、それを用いたカルボニル化合物の製法を提供する。
【解決手段】金のナノサイズクラスターを、カーボンとスチレン系高分子とに担持させて成る酸化反応用高分子担持金クラスター触媒であって、該スチレン系高分子はスチレンモノマーをベースとし、その主鎖又はベンゼン環に架橋性官能基を有する親水性側鎖を有し、該架橋性官能基としてエポキシ基と水酸基を有する高分子であり、該スチレン系高分子のエポキシ基と水酸基とを架橋させて成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、酸化反応用の高分子担持金クラスター触媒、それを用いたカルボニル化合物の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
金コロイド、金ナノクラスターは生物学、触媒、ナノテクノロジーなど様々な分野に置いて注目され、活発に研究されてきた。金ナノクラスターを触媒として用いる酸素酸化反応は1989年Harutaらによって、低温一酸化炭素酸化反応において非常に高活性であると報告された(非特許文献1〜3)。
一方、酸素を酸化剤として用いた金属触媒によるアルコールのアルデヒド、ケトン、カルボン酸への酸化反応は、RuやPd触媒等を用いる例が、均一系触媒、固相触媒ともに多数報告されている。近年、金クラスターを触媒として用いる例も多数報告されているが、適用可能な基質が限られていることや、選択性が悪いといった問題点が残っている
このようなことから、本願発明者らは、スチレン系高分子に金のナノサイズクラスターを担持することにより、アルコールのカルボニル化合物への酸化反応に利用できる触媒を提案した(特許文献1)。
【0003】
【非特許文献1】J. Catal. 1989, 115, 301-309
【非特許文献2】Catalysis Today 2007, 122, 317-324.
【非特許文献3】Catalysis Letter 2003, 90, 23-29.
【特許文献1】特開2007−237116
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した特許文献1記載の技術の場合、スチレン系高分子への金の担持量を高くすると金の凝集が起こり、その結果、反応に不活性な金ナノクラスターが生成するという問題点がある。又、非特許文献2および3記載の技術の場合、室温大気圧下でのアルコールの酸素酸化反応の例は報告されていない。
従って、本発明は、担持量が多く、酸素酸化反応に活性な高分子担持金クラスター触媒、及び、それを用いたカルボニル化合物の製法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究した結果、カーボンとスチレン系高分子とに金のナノサイズクラスターを担持させることにより、担持量が大幅に向上するとともに、酸素酸化反応に活性な触媒が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の酸化反応用高分子担持金クラスター触媒は、金のナノサイズクラスターを、カーボンとスチレン系高分子とに担持させて成る酸化反応用高分子担持金クラスター触媒であって、該スチレン系高分子はスチレンモノマーをベースとし、その主鎖又はベンゼン環に架橋性官能基を有する親水性側鎖を有し、該架橋性官能基としてエポキシ基と水酸基を有する高分子であり、該スチレン系高分子のエポキシ基と水酸基とを架橋させて成る。
【0007】
前記スチレン系高分子が、下式(化5)
【化5】

(式中、l、m及びnは構成モノマーのモル比を表す。)で表されることが好ましい。
【0008】
1価又は3価の金化合物を、架橋性官能基を有する重量平均分子量1万から15万のスチレン系高分子とカーボンを含む溶液中で還元剤により還元し、続いて該スチレン系高分子に対する貧溶媒を加えて相分離させることによりナノサイズ金クラスターをスチレン系高分子及びカーボンに担持し、さらに、該ナノサイズ金クラスターを担持したスチレン系高分子を架橋させてなることが好ましい。
前記スチレン系高分子を加熱により架橋させることが好ましい。
前記還元剤が水素化ホウ素化合物、水素化アルミニウム化合物又は水素化ケイ素化合物であることが好ましい。
前記還元剤が水素化ホウ素ナトリウム又はボランであることが好ましい。
前記金化合物が、ハロゲン化金又はハロゲン化金のトリフェニルホスフィン錯体であることが好ましい。
前記金化合物が、AuCl(PPh)であることが好ましい。
【0009】
本発明のカルボニル化合物の製法は、前記酸化反応用高分子担持金クラスター触媒の存在下で、室温大気圧下、アルコールと酸素分子とを反応させることから成る。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、担持量が多く、酸素酸化反応に活性な高分子担持金クラスター触媒が得られ、例えばアルコールの酸素酸化によるカルボニル化合物を高収率で得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の酸化反応用高分子担持金クラスター触媒は、金のナノサイズクラスターが、スチレン系高分子との相互作用により、ポリマー及び共存するカーボンに微小クラスターとして担持された形態を有する。
金をスチレン系高分子に担持させる方法としては、特に限定されないが、例えば上記したごとき構造を有する高分子と金前駆体とを、a)適当な極性の良溶媒に溶解し還元剤と混合た後適当な極性の貧溶媒で凝集させる、b)適当な非極性又は低極性の良溶媒に溶解し還元剤と混合した後適当な極性の貧溶媒で凝集させる、ことにより行われる。
金クラスターはスチレン系高分子の芳香環との相互作用により担持されている。
【0012】
尚、極性の良溶媒としてはテトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などがあり、非極性又は低極性の良溶媒としてはトルエン、ジクロロメタン、クロロホルムなどが使用できる。極性の貧溶媒としてはメタノール、エタノール、ブタノール、アミルアルコールなどがあり、非極性または低極性の貧溶媒としてはヘキサン、ヘプタン、オクタン、ジエチルエーテルなどが使用できる。金クラスターを架橋性ポリマーに担持する際の、ポリマーの濃度は用いる溶媒やポリマーの分子量によっても異なるが、約5.0〜200 mg/mL、好ましくは10〜100 mg/mlである。1価又は3価の金化合物は、ポリマー1gに対して、0.01〜0.5 mmol、好ましくは0.03〜0.2 mmol使用する。還元剤は、還元に必要な量の1〜10当量使用するが、例えば1価の金化合物を水素化ホウ素ナトリウムで還元する場合の水素化ホウ素ナトリウムは、金化合物の0.5〜5倍モルが好適である。還元に必要な温度および時間は金化合物や還元剤の種類によるが、通常は0℃〜50℃の間、好ましくは室温で、1〜24時間で行われる。相分離する際の貧溶媒は、良溶媒に対して1〜10(v/v)倍量、好ましくは2〜5倍量使用し、0.5〜5時間程度で滴下する。
【0013】
金前駆体としては、1価又は3価の金化合物を用いる。このような金化合物として、ハロゲン化金、ハロゲン化金のトリフェニルホスフィン錯体が挙げられる。ハロゲン化金のトリフェニルホスフィン錯体として、AuCl(PPh)が挙げられる。
カーボンとしては、カーボン粒子やカーボン粉末を用いることができ、例えばケッチェンブラック等のカーボンブラックが挙げられる。
【0014】
このような金化合物を還元剤を用いて還元することにより、ナノサイズの金クラスターがスチレン形高分子及びカーボンに担持される。このような還元剤として、水素化ホウ素化合物、水素化アルミニウム化合物又は水素化ケイ素化合物、好ましくは水素化ホウ素ナトリウム又はボランを用いることができる。
【0015】
本発明のスチレン系高分子はスチレンモノマーをベースとした高分子であり、その主鎖又はベンゼン環に架橋性官能基を有する親水性側鎖を有する。
この架橋性官能基を有する親水性側鎖は、親水性を有する架橋性官能基のみから成るものであっても、親水性側鎖の主鎖に架橋性官能基が付いたものでもよい。架橋性官能基の一方は、エポキシ基であり、これは適当な基で保護されていてもよい。もう一方の架橋性官能基は水酸基である。親水性側鎖の主鎖としては、比較的短いアルキル基、例えば、炭素数が1〜6程度のアルキレン基であってもよいが、−R(OR−、−R(COOR−、又は−R(COOR(OR−(式中、Rは共有結合又は炭素数1〜6、好ましくは共有結合又は1〜2のアルキレン基を表し、Rはそれぞれ独立して炭素数2〜4、好ましくは2のアルキレン基を表し、w、x及びzは1〜10の整数、yは1又は2を表す。)で表される主鎖をもつものが親水性であるため好ましい。このような好ましい主鎖として、−CH(OC−や−CO(OC−等が挙げられる。
【0016】
このようなスチレン系高分子として、例えば、下式(化1)
【化1】

(式中、Xはアルキレン基又はエーテル結合を含むアルキレン基を表す。)又は下式(化2)
【化2】

(式中、Xはアルキレン基又はエーテル結合を含むアルキレン基を表す。)で表される構造を有するモノマーを全モノマー中に5〜60%含み、下式(化3)
【化3】

(式中、Xはアルキレン基又はエーテル結合を含むアルキレン基を表す。)又は下式(化4)
【化4】

(式中、Xはアルキレン基又はエーテル結合を含むアルキレン基を表す。)で表される構造を有するモノマーを全モノマー中に10〜60%含み、かつこれらの合計が100%以下となるように含み、更にこれらの合計が100%未満の場合には残部としてスチレンモノマーを含むモノマー混合物を共重合して得られたスチレン系高分子が挙げられる。
【0017】
好ましいスチレン系高分子として、下記の高分子が挙げられる。
【化10】

式中、m、nは(l+m+n)に対して、mは5〜60%、好ましくは10〜50%、nは10〜60%、好ましくは20〜50%であり、lは残部である。
【0018】
このようなスチレン系高分子、カーボン及び上記の金前駆体を、上記のような適当な溶媒に還元剤と共に溶解し、その後、高分子に対する貧溶媒を加えることにより、金クラスター含有高分子を相分離させることができる。
この場合、金前駆体がまず還元を受ける。金前駆体に配位子が結合していた場合は、その際に配位子が脱離する。還元された金はクラスターとして高分子の疎水性部分に取り込まれ、高分子の芳香環から電子供与を受け微小な状態でも安定化される。
これに担持されている金クラスター1個の平均径は20nm以下、好ましくは0.3〜20nm、より好ましくは0.3〜10nm、更に好ましくは0.3〜5nm、より更に好ましくは0.3〜2nm、よりより更に好ましいのは0.3〜1nmであり、数多くの金クラスターがミセルの疎水性部分(スチレン系高分子の芳香環)に均一に分散して存在していると考えられる。このように金属が微小なクラスター(微小金属塊)となっているため、高い触媒活性を示すことができる。
【0019】
金クラスターの径及び価数等の周辺環境は透過型電子顕微鏡(TEM)又は拡張X線吸収微細構造(EXAFS)で測定することができる。
【0020】
このように金クラスターを担持したミセルは、架橋性官能基(エポキシ基と水酸基)により架橋することができる。架橋することにより金クラスターは安定化すると共に種々の溶剤に対して不溶化し、担持した金クラスターの漏れを防止することが出来る。架橋反応により、金クラスターを担持した高分子鎖同士を結合させることや、架橋基を有する材料など適当な担体に結合させることもできる。
架橋反応は、加熱や紫外線照射、好ましくは加熱により架橋性官能基を反応させることにより行う。架橋反応は、これらの方法以外にも、使用する直鎖型有機高分子化合物を架橋するための従来公知の方法である、例えば架橋剤を用いる方法、過酸化物やアゾ化合物等のラジカル重合触媒を用いる方法、酸又は塩基を添加して加熱する方法、例えばカルボジイミド類のような脱水縮合剤と適当な架橋剤を組み合わせて反応させる方法等に準じても行うことができる。
【0021】
架橋性官能基を加熱により架橋させる際の温度は、通常50〜200℃、好ましくは70〜180℃、より好ましくは100〜160℃である。加熱架橋反応させる際の反応時間は、通常0.1〜100時間、好ましくは1〜50時間、より好ましくは2〜10時間である。
【0022】
本発明の酸化反応用高分子担持金クラスター触媒を合成用触媒以外の用途で使用する場合の好ましい形態として、塊や膜としたり、担体に固定することもできる。ガラス、シリカゲル、樹脂などの担体表面の架橋性官能基(例えば、水酸基やアミノ基など)と金含有ポリマーの架橋性官能基とを架橋反応させると、本発明の高分子担持金クラスターは担体表面に強固に固定される。また、適当な樹脂やガラスで出来た反応容器の表面に、ミセルの架橋性官能基を使用して本発明の高分子担持金クラスター組成物を固定化してやれば、より再使用が簡便な触媒担持反応容器として使用できる。
【0023】
このようにして得られた架橋型金含有ポリマーミセルは多くの空孔を有しており、適当な溶剤で膨潤して表面積を拡大する。また担持された金は数ナノメートル以下の非常に小さいクラスターを形成する。
【0024】
このような高分子担持金クラスター触媒は酸化反応に有効であり、特に、室温の大気圧下で、アルコールを酸素分子により酸化する反応に有効である。
また、このアルコールとして、1級または2級のアルコールを用いることができる。また酸素分子としては、酸素ガス、又は空気を用いることができる。この反応は、好ましくは以下のような条件下で行なわれる。
反応溶媒として、高分子を膨潤させ基質アルコールを溶解するものであれば、単一溶媒でも混合溶媒でも使用できる。水と有機溶媒の混合溶媒が有効な場合もある。基質の濃度は、0.01〜1mmol/ml、好ましくは0.05〜0.5mmol/mlである。反応温度は、0〜80℃、好ましくは室温〜40℃である。反応時間は、1〜50時間である。そのほか反応の際の添加剤として、塩基の添加、好ましくはアルカリ金属の炭酸塩が有効である。このような場合は、アルカリ金属炭酸塩の水溶液の使用が好適である。その結果、アルコールに対応するカルボニル化合物を効果的に合成することができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
4−ビニルベンジルグリシジルエーテルは特許文献(国際特許公開パンフレットWO2005/085307)に記載の方法に従って合成した。他の化合物は市販品を必要に応じて精製して使用した。酸化反応で得られたカルボニル化合物の収率は内部標準を用いたガスクロマトグラフィーで定量した。
【0026】
製造例1
150 mLのTHFにソジウムハイドライド(60% in mineral oil, 5.2g)を加え、0℃にてその反応液にテトラエチレングリコール(25.4 g, 131 mmol)を加えた。室温で1時間撹拌した後 1-クロロメチル-4-ビニルベンゼン(13.3 g, 87.1 mmol)を加え、さらに12時間撹拌を続けた。0℃に冷却しジエチルエーテルを加え、飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、反応を停止した。水相をエーテルで抽出した後、併せた有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧下留去した。得られた残さをシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、テトラエチレングリコールモノ−2−フェニル−2−プロペニルエーテルを得た(20.6 g, 66.2 mmol, 76%)。
1H NMR (CDCl3) δ 2.55-2.59 (m, 1H), 3.59-3.73 (m, 16H), 4.55 (s, 2H), 5.25 (d, 1H, J = 6.4 Hz), 5.53 (d, 1H, J = 18 Hz), 6.71 (dd, 1H, J = 11.0, 17.9 Hz), 7.22-7.27 (m, 3H), 7.31-7.39 (m, 2H); 13C NMR δ 61.8, 69.5, 70.5, 70.69, 70.74, 72.6, 73.0, 113.8, 126.3, 128.0, 136.0, 137.1, 138.0.
【0027】
製造例2
スチレン(1.34 g、12.9 mmol)、4−ビニルベンジルグリシジルエーテル (2.45 g、12.9 mmol)、製造例1で得たテトラエチレングリコールモノ−2−フェニル−2−プロペニルエーテル(4.0 g、12.9 mmol)、及び重合開始剤(和光純薬工業株式会社製V-70、119 mg、0.39 mmol)をクロロホルム(8 ml)に溶解させ、脱気操作後アルゴン中で室温、72時間攪拌した。反応液を室温まで冷却した後、THF20mlを加えた反応液をエーテル200mL中に0℃にてゆっくりと滴下し、得られた沈殿物を濾過分取した後、メタノールにて十分に洗浄した。その後、室温にて減圧乾燥させ透明ガム状固体として下式のスチレン系高分子(以下「P1」と呼ぶ。)(5.9g、x:y:z=28:31:41)を得た。コポリマーのモノマー成分の比は1H-NMRにより決定した。
【化6】

【0028】
実施例1
製造例2で得た高分子P1(500mg)をジグライム(和光純薬工業株式会社製・特級)22 mLに溶解し、この溶液にカーボンブラック(ケッチェンブラック・インターナショナル社製、カーボンECP)500mgを加えた。この混合物中に水素化ホウ素ナトリウム(42.8mg)のジグライム溶液(8mL)をゆっくり加え10分攪拌した。更にAuClPPh3(和光純薬工業株式会社製・特級)(140.0mg)のジグライム溶液(20mL)をゆっくり加え、室温にて2時間攪拌した後、ジエチルエーテル100mLを室温にて滴下した。得られた固体をろ過により回収後、ジエチルエーテルで数回洗浄し、室温で乾燥したところ、1.2gの黒色固体が得られた(以下「MC-Au/C」と呼ぶ。)。
次に上記MC-Au/C(400mg)を無溶媒条件にて150℃で3時間加熱し、生成した黒色固体を塩化メチレンとメタノールで洗浄し、減圧乾燥後、乳鉢で砕いた。上記操作により黒色粉末342mgが得られた(以下「PI-Au/C」と呼ぶ。)。
【0029】
得られた触媒PI-Au/C(5.5mg)を硫酸及び硝酸の重量比1:1の混合液中で200℃で3時間加熱し、室温に戻した後に王水を加えた。この溶液のICP分析により触媒中の金の含量を決定したところ、3.6wt%(0.18mmol/g)であった。
また、得られた触媒PI-Au/Cについて、透過型電子顕微鏡(TEM) (日本電子株式会社製、JEM-1200EX II)により、金クラスターの大きさを確認したところ、3〜6nmの粒子が均一に分散しているのを確認した。
【0030】
【化7】

【0031】
比較例1
カーボンブラック(ケッチェンブラック・インターナショナル社製、カーボンECP)800mgをジグライム(80mL)に分散し、223mgのAuClPPh3を加えた。上記混合液を0℃に冷却し、水素化ホウ素ナトリウム(171mg)のジグライム溶液(24mL)を加え、室温にて25時間攪拌した。反応後、ろ過により混合液中の固体を回収し、アセトン・メタノール・水で洗浄後、室温にて減圧乾燥した。上記操作により、912mgの黒色固体が得られた(以下「Au/C-1」と呼ぶ。)。得られた触媒Au/C-1について、実施例1と同様の方法にて金の含量を決定したところ、8.5wt%(0.43mmol/g)であった。
また、得られた触媒Au/C-1について、金クラスターの大きさを確認したところ、1〜3nmの粒子が均一に分散しているのを確認した。
【0032】
比較例2
比較例1で得られた触媒Au/C-1(400mg)を、水(40mL)・エタノール(16mL)の混合液に分散し、0℃で攪拌した。この混合液に10%過酸化水素水(60mL)をゆっくり滴下しながら0℃で2時間攪拌した。反応後、ろ過により混合液中の固体を回収し、水・アセトンで洗浄後、室温にて減圧乾燥した。上記操作により、385mgの黒色固体が得られた(以下「Au/C-2」と呼ぶ。)。
得られた触媒Au/C-2について、実施例1と同様の方法にて金の含量を決定したところ、7.3wt%(0.37mmol/g)であった。
また、得られた触媒Au/C-2について、金クラスターの大きさを確認したところ、1〜3nmの粒子が均一に分散しているのを確認した。
【0033】
比較例3
比較例2で得られた触媒Au/C-2(150mg)を、無溶媒条件にて100℃で5時間加熱し、生成した黒色固体をアセトンで洗浄し、減圧乾燥後、乳鉢で砕いた。この粉末を無溶媒条件にて更に150℃で3時間加熱し、生成した黒色固体をアセトンで洗浄し、減圧乾燥後、乳鉢で砕いた。上記操作により、135mgの黒色固体が得られた(以下、「Au/C-3」と呼ぶ。)。
得られた触媒Au/C-3について、実施例1と同様の方法にて金の含量を決定したところ、6.9wt%(0.35mmol/g)であった。
また、得られた触媒Au/C-3について、金クラスターの大きさを確認したところ、2〜4nmの粒子が均一に分散しているのを確認した。
【0034】
【化8】

【0035】
上記実施例1及び比較例1〜3で得た触媒を用い、アルコールの酸化反応を検討した。反応生成物については、ガスクロマトグラフィーにより下記の条件で標品(市販試薬・特級)と生成物の保持時間(Retention time)が一致することを確認した。
条件:
使用したガスクロマトグラフィー:島津製作所製、SHIMADZU GC-17A
カラム(Column): TCWAX (60 m, GL Science), キャリアガス圧力(159 kPa), 全流量(58 mL/min), カラム流量(1.6 mL/min), 線速度(32 cm/s), スプリット比(32),気化室温度 250℃, 検出器温度 250℃, 昇温条件 Int. Temp.: 100℃, Int. t. 0 min, Rate: 10℃/min, Fin. Temp.: 220℃, Fin. t. 30 min.
【0036】
実施例2
sec-フェネチルアルコール(関東化学株式会社製・特級)(29.4 mg)、実施例1で得たPI-Au/C (Au: 2.4 ?mol, 13.1 mg)、水(1.5 mL)、ベンゾトリフルオリド(関東化学株式会社製・特級)(1.5 mL)を丸底フラスコ内で混合した。酸素雰囲気下、室温で3時間撹拌した後、触媒を濾過してジエチルエーテルと水で洗浄することによって回収した。水相はジエチルエーテル(20 mL)で洗浄した。収率は、アニソールを内部標準物質としてガスクロマトグラフィーで決定し、アセトフェノン(29.0 mg, 収率>99%)を得た。Retention time: 11.9 min.
【化9】

【0037】
比較例4
sec-フェネチルアルコール(関東化学株式会社製・特級)(29.4 mg)、比較例3で得たAu/C-3 (Au: 2.4 ?mol, 6.9 mg)、水(1.5 mL)、ベンゾトリフルオリド(関東化学株式会社製・特級)(1.5 mL)を丸底フラスコ内で混合した。酸素雰囲気下、室温で3時間撹拌した後、触媒を濾過してジエチルエーテルと水で洗浄することによって回収した。水相はジエチルエーテル(20 mL)で洗浄した。収率は、アニソールを内部標準物質としてガスクロマトグラフィーで決定し、アセトフェノン(0.6 mg, 収率2%)を得た。Retention time: 11.9 min.
【0038】
参考例
なお、カーボンを用いずにスチレン系高分子のみに金を担持させた特許文献1の場合、ICPにより定量した(触媒中の)金の含有量は 0.079 mmol/gである(特許文献1の段落0023)。つまり、カーボンを用いない場合、本発明に比べて金の担持量が少ないことがわかる。
【0039】
以上を表1にまとめた。
【表1】

【0040】
表1から明らかなように、金のナノサイズクラスターを、カーボンとスチレン系高分子とに担持させると、金の担持量が大幅に向上するとともに、酸素酸化反応に活性な触媒が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金のナノサイズクラスターを、カーボンとスチレン系高分子とに担持させて成る酸化反応用高分子担持金クラスター触媒であって、該スチレン系高分子はスチレンモノマーをベースとし、その主鎖又はベンゼン環に架橋性官能基を有する親水性側鎖を有し、該架橋性官能基としてエポキシ基と水酸基を有する高分子であり、該スチレン系高分子のエポキシ基と水酸基とを架橋させて成る酸化反応用高分子担持金クラスター触媒。
【請求項2】
前記スチレン系高分子が、下式(化5)
【化5】

(式中、l、m及びnは構成モノマーのモル比を表す。)で表される請求項1に記載の酸化反応用高分子担持金クラスター触媒。
【請求項3】
1価又は3価の金化合物を、架橋性官能基を有する重量平均分子量1万から15万のスチレン系高分子とカーボンを含む溶液中で還元剤により還元し、続いて該スチレン系高分子に対する貧溶媒を加えて相分離させることによりナノサイズ金クラスターをスチレン系高分子及びカーボンに担持し、さらに、該ナノサイズ金クラスターを担持したスチレン系高分子を架橋させてなる請求項1又は2に記載の酸化反応用高分子担持金クラスター触媒。
【請求項4】
前記スチレン系高分子を加熱により架橋させることを特徴とする請求項3に記載の酸化反応用高分子担持金クラスター触媒。
【請求項5】
前記還元剤が水素化ホウ素化合物、水素化アルミニウム化合物又は水素化ケイ素化合物である請求項3又は4に記載の酸化反応用高分子担持金クラスター触媒。
【請求項6】
前記還元剤が水素化ホウ素ナトリウム又はボランである請求項5に記載の酸化反応用高分子担持金クラスター触媒。
【請求項7】
前記金化合物が、ハロゲン化金又はハロゲン化金のトリフェニルホスフィン錯体である請求項3〜6に記載の酸化反応用高分子担持金クラスター触媒。
【請求項8】
前記金化合物が、AuCl(PPh)である請求項7に記載の酸化反応用高分子担持金クラスター触媒。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の酸化反応用高分子担持金クラスター触媒の存在下で、室温大気圧下、アルコールと酸素分子とを反応させることから成るカルボニル化合物の製法。

【公開番号】特開2009−213993(P2009−213993A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59010(P2008−59010)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】