説明

酸化物被覆ニッケル微粒子

【課題】導電ペースト用材料として、ニッケルの酸化されやすいという性質を緩和する一方、ニッケル本来の高い電気伝導性、金属光沢等の性質を発現させることができる、耐酸化性と電気伝導性等に優れた酸化物被覆ニッケル微粒子を提供する。
【解決手段】ニッケル微粒子からなる芯粒子(a)と、芯粒子(a)の表面上に形成された平均厚みが1〜20nmである連続膜からなるアルミニウムを主成分として含む酸化物からなる被覆層(b)とから構成される酸化物被覆ニッケル微粒子であって、上記アルミニウムの含有割合は、酸化物被覆ニッケル微粒子全量に対して0.07〜0.4重量%であることを特徴とする酸化物被覆ニッケル微粒子など。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物被覆ニッケル微粒子に関し、さらに詳しくは、導電ペースト用材料として、金属の酸化されやすいという性質を緩和する一方、金属本来の高い電気伝導性、金属光沢等の性質を発現させることができる、耐酸化性と電気伝導性等に優れた酸化物被覆ニッケル微粒子に関する。ここで得られた酸化物被覆ニッケル微粒子は、耐酸化性に優れた電子材料の配線等の導電膜形成用として用いられる。
【背景技術】
【0002】
近年、回路形成等の電子部品用の導電ペーストに使用される導電性金属粉として、銅、ニッケル、銀、銀−パラジウム合金等の微粒子が用いられている。これらの金属微粒子中で、特にニッケル微粒子は、銀、銀―パラジウム合金等の貴金属微粒子と比較すると安価であり、かつエレクトロマイグレーションを起こしにくい素材として注目されている。しかしながら、ニッケル微粒子は、大気中において、比較的低温で酸化が進行しやすく、このため導電性が低下するという欠点があり、その使用範囲が制限されていた。
ところで、金属微粒子をフィラーとして含む導電ペーストとしては、ペースト中の金属粉末を焼結させ、配線や電極等に使用する焼成ペーストと、硬化型のポリマーで固めるポリマーペーストとに大別されるが、いずれの場合でも150〜350℃の温度で熱処理が行われることが不可欠であるので、この温度領域での耐酸化性に問題があった。特に、ポリマーペーストにおいては、常温においても徐々に酸化が進行するため、耐酸化性を向上させる手段が求められていた。
【0003】
このための手段として、酸化物被覆の金属微粒子が考えられる。例えば、熱プラズマに原料混合物を供給し、様々な金属微粒子上に様々な酸化物が被覆された酸化物被覆金属微粒子を得る方法として、平均厚みが1〜10nmの酸化物被覆層が、堅固に、かつ好ましくは全表面に完全に被覆された酸化物被覆金属微粒子が得られることが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この方法では、耐酸化性、金属光沢及び電気抵抗についての記述がないため、金属微粒子本来の特性がどの程度維持されているか明らかではない。一般に、熱プラズマ雰囲気では、溶融、蒸発、及び凝縮により得られる粒子は球状粒子となる場合が多く、例えそうでない場合もその物質の晶癖により決まっており、任意の形状の酸化物被覆粒子を得ることは困難である。しかも、TEM像によると、粒子の凝集により、被覆層同士が一体化しており、粒度分布の制御が難しい。さらには、装置が高価であり、かつ、装置内壁への酸化物付着量が多いため、低コストで製造するのは困難であるという問題がある。
【0004】
また、酸化物被覆層中に貴金属、銅等を含有させることにより、比抵抗を下げつつ、かつ耐酸化性を付与する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この方法では、製法も複雑であるため、低コストで製造するのは困難であるという問題がある。
【0005】
また、銅粉の表面に酸化銅あるいは亜酸化銅からなる第一無機物コート層を有し、その外殻に酸化ケイ素等の種々の無機物コート層を有する銅粉が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。これによると、比較的低コストで酸化物被覆銅粉が製造されるが、酸化物第二層はハイブリタイザーを用いてメカノケミカル反応により被覆されており、極めて薄い膜を均一に被覆することが困難なため、良好な比抵抗を得ることは困難であると思われる。例えば、用途としては低温焼成ペースト用を想定しており、粉体の耐酸化性、体積抵抗率等は調査されておらず、製造される酸化物被覆金属微粒子が金属微粒子の優れた性質を維持したまま耐酸化性を高めたものとなるか不明である。
【0006】
以上の状況から、導電ペースト用材料として、安価で導電性に優れかつエレクトロマイグレーション発生が少ない金属を主原料として用い、耐酸化性に優れた酸化物被覆の金属微粒子が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−219901号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献2】特開2004−179139号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献3】特開2005−154861号公報(第1頁、第2頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、導電ペースト用材料として、ニッケルの酸化されやすいという性質を緩和する一方、ニッケル本来の高い電気伝導性、金属光沢等の性質を発現させることができる、耐酸化性と電気伝導性等に優れた酸化物被覆ニッケル微粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために、酸化物被覆ニッケル微粒子について、鋭意研究を重ねた結果、特定の金属微粒子からなる芯粒子と特定の被覆層とから構成される酸化物被覆ニッケル微粒子を、導電ペースト用材料として用いたところ、ニッケルの酸化されやすいという性質を緩和する一方、ニッケル本来の高い電気伝導性、金属光沢等の性質を発現させることができる酸化物被覆ニッケル微粒子が得られること、また、この製造方法として、特定の条件によりアルミニウム水酸化物からなる被覆層を有するニッケル微粒子を形成する工程(A)、次いで、前記被覆層を有するニッケル微粒子を固液分離して、乾燥処理を行う工程(B)、及び最後に.特定の条件でアルミニウム水酸化物を熱分解する工程(C)、を含む方法を用いたところ、上記酸化物被覆ニッケル微粒子が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ニッケル微粒子からなる芯粒子(a)と、芯粒子(a)の表面上に形成された平均厚みが1〜20nmである連続膜からなるアルミニウムを主成分として含む酸化物からなる被覆層(b)とから構成される酸化物被覆ニッケル微粒子であって、
上記アルミニウムの含有割合は、酸化物被覆ニッケル微粒子全量に対して0.07〜0.4重量%であることを特徴とする酸化物被覆ニッケル微粒子が提供される。
【0011】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、TG測定から求めた酸化開始温度は、350〜410℃であることを特徴とする酸化物被覆ニッケル微粒子が提供される。
【0012】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、圧粉抵抗測定の体積抵抗率は、粒子の相対充填密度が50%のときに、100〜10000μΩcmであることを特徴とする酸化物被覆ニッケル微粒子が提供される。
【0013】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3いずれかの発明において、前記芯粒子は、その[平均粒径/平均厚さ]比が10以上である板状粒子であることを特徴とする酸化物被覆ニッケル微粒子が提供される。
【0014】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4いずれかの発明において、前記芯粒子とのレーザー光回折散乱式粒度分析計で測定したメディアン径D50の差は、10%以下であることを特徴とする酸化物被覆ニッケル微粒子が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の酸化物被覆ニッケル微粒子は、導電ペースト用材料として、ニッケルの酸化されやすいという性質を緩和する一方、ニッケル本来の高い電気伝導性、金属光沢等の性質を発現させることができる金属微粒子であり、さらに、芯粒子以上の酸化開始温度及び芯粒子並みの体積抵抗率と金属光沢を有し、酸化物被覆層の層厚が均一な連続膜が形成されるので、その工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で得られた酸化アルミニウム被覆ニッケル微粒子の断面TEM像を表す図である(撮影倍率10万倍)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の酸化物被覆ニッケル微粒子とその製造方法を詳細に説明する。
1.酸化物被覆ニッケル微粒子
本発明の酸化物被覆ニッケル微粒子は、ニッケル微粒子からなる芯粒子(a)と、芯粒子(a)の表面上に形成された平均厚みが1〜20nmである連続膜からなるアルミニウムを主成分として含む酸化物からなる被覆層(b)とから構成される酸化物被覆ニッケル微粒子であって、
上記アルミニウムの含有割合は、酸化物被覆ニッケル微粒子全量に対して0.07〜0.4重量%であることを特徴とする。
【0018】
本発明の酸化物被覆ニッケル微粒子において、芯粒子(a)としてニッケル微粒子を用いる。これによって、貴金属と比べて安価な材料により、高い電気伝導性及び金属光沢性が付与される。さらに、芯粒子(a)の表面上に形成されたアルミニウムを主成分として含む酸化物からなる被覆層(b)により、導電ペースト用材料として、ニッケルの酸化されやすいという性質を緩和する一方、ニッケル本来の高い電気伝導性、金属光沢等の性質を発現させることができる、すなわち耐酸化性と電気伝導性に優れた特性が達成される。
【0019】
上記芯粒子(a)に用いるニッケル微粒子としては、特に限定されるものでなく、工業的に製造される純度のものが用いられる。また、その平均粒径は、特に限定されるものでなく、0.1〜25μmが好ましい。なお、平均粒径の測定は、SEM観察により行なった。ここで、平均粒径とは、投影面積が最大となる方向から観察して個々の粒子の最大粒径を求め、その値を平均したものを意味する。
【0020】
上記ニッケル微粒子の形状としては、特に限定されるものではないが、[平均粒径/平均厚さ]比が10以上である板状粒子であることが好ましい。これによって、電気伝導性と金属光沢性に優れた導電ペースト用材料が得られる。すなわち、例えば、ポリマーペーストに金属微粒子を使用する場合、接触点を増やし、少ない金属含有量で所望の電気伝導性を得るためには、板状の金属微粒子を使用する場合が多い。また、電気伝導性以外の金属の優れた特性として求められる金属光沢は、自由電子により光が弾かれることによるが、板状の金属微粒子により、より一層強調される。
【0021】
上記酸化物被覆ニッケル微粒子では、該粒子中のアルミニウムの含有割合は、0.07〜0.4重量%であり、0.07〜0.2重量%が好ましい。すなわち、アルミニウムの含有割合が0.07重量%未満では、被覆層が薄くなりすぎ、TG(熱重量変化)測定から求めた酸化開始温度が350℃未満となるため、耐酸化性の向上効果が不十分である。一方、アルミニウムの含有割合が0.4重量%を超えると、TG測定から求めた酸化開始温度が410℃を超え、耐酸化性の向上効果は増大するが、体積抵抗率が高くなりすぎてしまう。なお、アルミニウムの含有割合が0.2重量%以下では、被覆処理がなされていないニッケル微粒子並みの体積抵抗率が得られる。
【0022】
上記被覆層(b)の厚みとしては、特に限定されるものではなく、所望の耐酸化性と電気伝導性が得られるように調整されるが、1〜20nmが好ましく、1〜10nmがより好ましい。
【0023】
上記酸化物被覆ニッケル微粒子の圧粉抵抗測定の体積抵抗率としては、特に限定されるものではないが、粒子の相対充填密度が50%のときに、100〜10000μΩcmであることが好ましい。すなわち、電気伝導性の指標である体積抵抗率は、低いほうが好ましいが、未被覆のニッケル微粒子でも、200μΩcm以上のものが多くあり、100μΩcmが下限である。なお、一方、体積抵抗率が10000μΩcmを超えると、導電性粉末の用途としての使用が著しく限定される。
【0024】
上記酸化物被覆ニッケル微粒子において、特に限定されるものではないが、使用する芯粒子とのレーザー光回折散乱式粒度分析計で測定したメディアン径D50の差が10%以下であることが好ましい。なお、レーザー光回折散乱式粒度分析計としては、Microtrack HRA MODEL 9320−X100(Microtrack社製)が挙げられ、溶媒としては0.2重量%のヘキサメタリン酸水溶液を用いることが好ましい。これによって、被覆層の層厚が均一な連続膜が形成され、導電ペースト用材料として望ましい微粒子が得られる。すなわち、導電ペーストの各用途の要求特性に依存するものであるが、基本的には原料である金属微粒子一つ一つを被覆し、粒子が分散した状態にするのが望ましいためである。
【0025】
2.酸化物被覆ニッケル微粒子の製造方法
本発明の酸化物被覆ニッケル微粒子の製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、ニッケル微粒子を含む水性懸濁液中に、アルミニウムの含有割合が酸化物被覆ニッケル微粒子全量に対して0.07〜0.4重量%となるに十分な量のアルミニウム塩と尿素とを含む水溶液を、30〜100℃で加熱処理したものを供給して、アルミニウム水酸化物からなる被覆層を有するニッケル微粒子を形成する工程(A)、前記被覆層を有するニッケル微粒子を固液分離して、乾燥処理を行う工程(B)、及び、前記乾燥処理後の被覆層を有するニッケル微粒子を還元雰囲気下に200〜800℃で加熱して、前記アルミニウム水酸化物を熱分解する工程(C)、を含むことを特徴とする。これによって、耐酸化性と電気伝導性に優れた特性を有する酸化物被覆ニッケル微粒子が効率的に得られる。
【0026】
上記製造方法の工程(A)は、ニッケル微粒子を含む水性懸濁液中に、アルミニウムの含有割合が酸化物被覆ニッケル微粒子全量に対して0.07〜0.4重量%となるに十分な量のアルミニウム塩と尿素とを含む水溶液を、30〜100℃で加熱処理したものを供給して、アルミニウム水酸化物からなる被覆層を有するニッケル微粒子を形成する工程である。
【0027】
上記工程(A)において、まず、アルミニウムの含有割合が酸化物被覆ニッケル微粒子全量に対して0.07〜0.4重量%となるに十分な量のアルミニウム塩と尿素を含む水溶液を30〜100℃の温度に加熱処理して、コート液を準備する。なお、アルミニウム塩は被覆剤として、尿素は塩基として用いられる。ここで、尿素の添加と前記温度の加熱により、水溶液中のアルミニウム塩の水酸化を進めることができる。なお、加熱後のコート液は透明であり、微粒子の晶出は認められない。ここで、アルミニウム塩と尿素を含む水溶液中のアルミニウム塩と尿素の濃度は、特に限定されるものではないが、例えばそれぞれ、0.007〜0.14mol/Lと0.9〜18g/Lが好ましい。
【0028】
次いで、得られたコート液を懸濁液中に供給すると、ニッケル微粒子上にアルミニウム水酸化物の被覆層が形成される。ここで、コート液の懸濁液への供給割合としては、酸化物被覆ニッケル微粒子全量に対して0.07〜0.4重量%となるに十分な量が選ばれる。なお、アルミニウム水酸化物を形成するための水酸基は水から供給される。この際、ニッケル微粒子と水の重量比としては、特に限定されるものではないが、水酸基を供給するのに十分な水が必要である。
【0029】
また、上記方法では、被覆の速度が緩やかであるため、ニッケル微粒子同士の凝集が起きにくい。これにより、芯粒子とのレーザー光回折散乱式粒度分析計で測定したメディアン径D50の差が、小さくなる。すなわち、アルミニウム水酸化物の被覆は懸濁液を攪拌しながら行うが、あまり急激に被覆すると、ニッケル微粒子間の接触点に堆積する水酸化物量が多くなり、結果として、接触点の強度が大きくなり、ニッケル微粒子同士が凝集している状態になってしまう。
【0030】
上記工程(A)で用いるニッケル微粒子としては、板状の酸化物被覆ニッケル微粒子を得る場合には、[平均粒径/平均厚さ]比が10以上の板状粒子を用いることが好ましい。すなわち、得られる酸化物被覆ニッケル微粒子の形状は、主として芯粒子の形状に依存する。ここで、平均厚さは、板状粉を樹脂に埋め込み断面を研磨し、垂直に埋め込まれている粒子を選択して断面をSEMにより観察して求める。ニッケル微粒子の平均粒径は、特に限定されるものではないが、0.1〜25μmが好ましい。一方、平均粒径を考慮すると、[平均粒径/平均厚さ]比が50を超える板状粒子を用いると、板状粒子の強度が低く、粒子が変形することがあり好ましくない。
【0031】
上記工程(A)で用いるアルミニウム塩としては、特に限定されるものではないが、硫酸アルミニウム又は硝酸アルミニウムが挙げられる。
【0032】
上記工程(A)において、ニッケル微粒子を含む水性懸濁液中の粒子の分散性を向上させるために、特に限定されるものではないが、ヘキサメタリン酸ナトリウムを添加することが好ましい。これにより、ビーカー等の反応容器内壁へのアルミニウム水酸化物の付着も減少するので操業上も好ましい。なお。ヘキサメタリン酸ナトリウムの添加量としては、水に対して0.01〜0.2重量%が好ましい。すなわち、0.01重量%未満では、粒子の分散性の向上効果が不十分であり、一方、0.2重量%を超えると、それ以上の効果の向上が見られない。
【0033】
上記製造方法の工程(B)は、被覆層を有するニッケル微粒子を固液分離して、乾燥処理を行う工程である。ここで、固液分離の方法としては、特に限定されるものではなく、通常のろ過方法が用いられる。また、乾燥処理の方法としては、特に限定されるものではないが、特に金属光沢が必要とされる場合、通常の真空乾燥機等により非酸化状態において100℃以下の温度で水分を除去する方法を用いることが好ましい。
【0034】
上記製造方法の工程(C)は、前記乾燥処理後の被覆層を有するニッケル微粒子を還元雰囲気下に200〜800℃で加熱して、前記アルミニウム水酸化物を熱分解する工程である。これにより、ニッケル微粒子からなる芯粒子と、該芯粒子を被覆するアルミニウムを主成分として含む酸化物からなる被覆層とから構成される酸化物被覆ニッケル微粒子が得られる。
【0035】
ここで、還元雰囲気下で熱処理することが好ましい。すなわち、大気又は不活性ガス雰囲気下で熱処理すると、大気中の酸素及びアルミニウム水酸化物から発生する水蒸気中の酸素により酸化される。また、加熱温度としては、200〜800℃の温度で行うことが好ましい。すなわち、温度が200℃未満では、アルミニウム水酸化物の分解及び脱水反応が不十分であり、導電ペーストとして用いる際に悪影響を及ぼす可能性がある。一方、温度が800℃を超えると、被覆層の割合にもよるが酸化物被覆ニッケル微粒子間での焼結が無視できなくなる。
【0036】
以上の製造方法により、層厚が均一な連続膜からなるアルミニウムを主成分として含む酸化物からなる被覆層とニッケル微粒子からなる酸化物被覆ニッケル微粒子が低コストで得られる。なお、酸化物被覆層の厚みを適切に薄くしたものでは、耐酸化性を有しながら、高い電気伝導性を有する微粒子が得られる。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いたアルミニウム(Al)及び尿素の分析、ならびに圧粉抵抗測定による体積抵抗率、芯粒子の平均粒径と平均厚さ、及び酸化開始温度の評価方法は、以下の通りである。
(1)Alの分析:ICP発光分析法で行った。
(2)圧粉抵抗測定による体積抵抗率の測定:圧粉抵抗測定機(三菱化学(株)製 PD−51)で行った。
(3)芯粒子の平均粒径の測定:FE‐SEM((株)日立製作所製、FE−SEM S−4700)により観察して求めた。
(4)酸化開始温度の測定:TG測定を大気気流中で行い、重量が増加し始めて、0.1%増加したときの温度を酸化開始温度と定義し、その温度を求めた。この温度が高い程、耐酸化性に優れているといえる。
【0038】
(実施例1)
まず、Al(SO濃度0.028mol/L、及び尿素濃度3.6g/Lの水溶液からなるコート液を作製し、0.4μmのメンブレンフィルターで吸引濾過しゴミを取り除いた。次いで、その水溶液をオーブン中で100℃にて2時間保持した後、室温に取り出し急冷した。
次に、平均粒径20μmのニッケル微粒子(INCO社製、225)1.71gと、純水180mLと、純水の0.02重量%のヘキサメタリン酸ナトリウムとからなる懸濁液を作製した。
この懸濁液を攪拌機により200rpmで攪拌しながら、前記コート液11.25mLを0.6mL/分の速度で供給した。供給終了後50分間保持した後、吸引ろ過し、真空乾燥機により60℃で乾燥した。
得られたアルミニウム水酸化物で被覆されたニッケル微粒子を、水素0.2L/分、及び窒素9.8L/分の混合雰囲気中で10℃/分の速度で700℃まで昇温した後、60℃まで炉内で冷却して、酸化物被覆ニッケル微粒子を得た。
その後、得られた酸化アルミニウム被覆ニッケル微粒子のAl品位、及び酸化開始温度を求めた。また、断面のTEM観察を行った。その結果、Al品位は0.34重量%であった。また、酸化開始温度は384℃であった。また、図1に、断面のTEM像を示す。図1より、約10〜20nmの厚みで均一に被覆されていることが分かる。
【0039】
(実施例2)
懸濁液のニッケル微粒子が10.28g、純水が1080mLであること、及びコート液67.5mLを3.6mL/分の速度で供給したこと以外は実施例1と同様に行ない、その後、得られた酸化アルミニウム被覆ニッケル微粒子のAl品位、酸化開始温度、及び圧粉抵抗測定による体積抵抗率を求めた。その結果、Al品位は0.28重量%であった。また、酸化開始温度は382℃であった。また、粒子の相対充填密度50%における体積抵抗率は約560μΩcmであった。
【0040】
(実施例3)
懸濁液のニッケル微粒子が200g、純水が8000mLであること、及びコート液1300mLを69mL/分の速度で供給したこと以外は実施例1と同様に行ない、その後、得られた酸化アルミニウム被覆ニッケル微粒子のAl品位、酸化開始温度、及び圧粉抵抗測定による体積抵抗率を求めた。その結果、Al品位は0.17重量%であった。また、酸化開始温度は408℃であった。また、粒子の相対充填密度50%における体積抵抗率は約260μΩcmであった。
【0041】
(実施例4)
懸濁液のニッケル微粒子が200g、純水が8000mLであること、及びコート液650mLを69mL/分の速度で供給したこと以外は実施例1と同様に行ない、その後、得られた酸化アルミニウム被覆ニッケル微粒子のAl品位、酸化開始温度、及び圧粉抵抗測定による体積抵抗率を求めた。その結果、Al品位は0.09重量%であった。また、酸化開始温度は382℃であった。また、粒子の相対充填密度50%における体積抵抗率は約190μΩcmであった。
【0042】
(比較例1)
実施例1〜4で用いたニッケル微粒子を用いて、被覆処理を行わないで酸化開始温度と粒子の相対充填密度50%における体積抵抗率を測定した。その結果、酸化開始温度は341℃であった。また、粒子の相対充填密度50%における体積抵抗率は約260μΩcmであった。
【0043】
(比較例2)
懸濁液のニッケル微粒子が200g、純水が8000mLであること、及びコート液2600mLを69mL/分の速度で供給したこと以外は実施例1と同様に行ない、その後、得られた酸化アルミニウム被覆ニッケル微粒子のAl品位、酸化開始温度、及び圧粉抵抗測定による体積抵抗率を求めた。その結果、Al品位は0.05重量%であった。また、酸化開始温度は303℃であった。また、粒子の相対充填密度50%における体積抵抗率は約160μΩcmであった。
【0044】
以上より、実施例1〜4では、アルミニウムの含有割合が耐酸化性と電気伝導性において十分な量の所定のコート液及び所定の懸濁液を用いて本発明の方法に従って被覆処理が行われたので、所望のアルミニウム含有割合が得られ、使用したニッケル微粒子と同等の電気伝導性を有し、かつ耐酸化性が高い酸化物被覆ニッケル微粒子が得られることが分かる。これに対して、比較例1では被覆処理がなされず、又、比較例2では被覆処理がこれらの条件に合わないので、得られたニッケル微粒子において、所望のアルミニウム含有割合が得られず、酸化開始温度又は電気伝導性において満足すべき結果が得られないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上より明らかなように、本発明の酸化物被覆ニッケル微粒子は、特に金属微粒子を用いる回路形成等の電子部品用の導電ペースト、及び金属光沢性顔料分野で利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル微粒子からなる芯粒子(a)と、芯粒子(a)の表面上に形成された平均厚みが1〜20nmである連続膜からなるアルミニウムを主成分として含む酸化物からなる被覆層(b)とから構成される酸化物被覆ニッケル微粒子であって、
上記アルミニウムの含有割合は、酸化物被覆ニッケル微粒子全量に対して0.07〜0.4重量%であることを特徴とする酸化物被覆ニッケル微粒子。
【請求項2】
TG測定から求めた酸化開始温度は、350〜410℃であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物被覆ニッケル微粒子。
【請求項3】
圧粉抵抗測定の体積抵抗率は、粒子の相対充填密度が50%のときに、100〜10000μΩcmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化物被覆ニッケル微粒子。
【請求項4】
前記芯粒子は、その[平均粒径/平均厚さ]比が10以上である板状粒子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物被覆ニッケル微粒子。
【請求項5】
前記芯粒子とのレーザー光回折散乱式粒度分析計で測定したメディアン径D50の差は、10%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物被覆ニッケル微粒子。

【図1】
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【公開番号】特開2012−180595(P2012−180595A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−102097(P2012−102097)
【出願日】平成24年4月27日(2012.4.27)
【分割の表示】特願2007−232453(P2007−232453)の分割
【原出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】