説明

酸化物超電導線材およびその使用方法、超電導コイルおよびその製造方法、ソレノイドマグネット

【課題】超電導テープの熱収縮率よりも小さい熱収縮率を有する材料を補強材として採用しながら、充分に補強材としての補強効果を発揮させることができる酸化物超電導線材の使用方法等を提供する。
【解決手段】補強材2が設けられた酸化物超電導線材を湾曲した後冷却して使用する酸化物超電導線材の使用方法であって、常温において、直線状に配置された超電導テープ1の片面に、熱収縮率が超電導テープの熱収縮率よりも小さいテープ状の補強材を積層した後、超電導テープと補強材を一体化して酸化物超電導線材を準備する工程と、常温において、酸化物超電導線材を、補強材側が外周となるように湾曲する工程と、湾曲した酸化物超電導線材を冷却する工程とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導線材およびその使用方法、超電導コイルおよびその製造方法に関し、詳しくは、熱収縮率の小さな材料からなる補強部を有するテープ状の酸化物超電導線材およびその使用方法と前記テープ状の酸化物超電導線材を用いた超電導コイルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、銀シースBi2223超電導テープ等の超電導テープは、液体窒素温度での使用が可能であり、比較的高い臨界電流密度が得られること、また、長尺化が比較的容易であること等から、超電導コイルやケーブル等への応用が期待されている。
【0003】
この超電導テープが巻回されたコイルは、冷却されて通電された、即ち励磁された際には、発生する電磁力により引張りを受けた状態となるため、超電導テープの長手方向に伸びが生じ、引張応力が発生する。
【0004】
しかし、超電導テープは、圧縮歪みには強いが引張歪みには弱いセラミックス特有の性質を有しているため、前記した伸びや引張応力に対する許容限界は大きくない。
【0005】
そこで、超電導テープと補強材とを積層することにより酸化物超電導線材を形成して、前記した伸びや引張応力の発生を抑制することが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0006】
上記補強材としては、従来、超電導テープの熱収縮率と同等以上の熱収縮率を有する材料、具体的には、例えばステンレス鋼や銅合金等が用いられている。
【0007】
これは、超電導テープの熱収縮率よりも小さい熱収縮率の材料を補強材として用いた場合、低温冷却時、熱収縮率の差によって超電導テープ側が引張りを受けた状態となり、許容限界をさらに小さくさせ、補強の効果が小さくなるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−170257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、例えば炭素繊維などのように大きな弾性率を有する材料は、伸びが小さいため、超電導テープの補強材として用いることにより、超電導テープの伸びを効果的に抑制することができる可能性がある。しかし、これらの材料の熱収縮率は、一般的に、超電導テープの熱収縮率よりも小さいため、前記の理由により超電導テープの補強材として採用することができない。
【0010】
そこで、本発明は、超電導テープの熱収縮率よりも小さい熱収縮率を有する材料を補強材として採用しながら、充分に補強材としての補強効果を発揮させることができる酸化物超電導線材の使用方法等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討の結果、以下の各請求項に示す発明により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
請求項1に記載の発明は、
補強材が設けられた酸化物超電導線材を湾曲した後冷却して使用する酸化物超電導線材の使用方法であって、
常温において、直線状に配置された超電導テープの片面に、熱収縮率が前記超電導テープの熱収縮率よりも小さいテープ状の補強材を積層した後、前記超電導テープと前記補強材を一体化して前記酸化物超電導線材を準備する工程と、
常温において、前記酸化物超電導線材を、補強材側が外周となるように湾曲する工程と、
湾曲した前記酸化物超電導線材を冷却する工程と
を有していることを特徴とする酸化物超電導線材の使用方法である。
【0013】
本請求項の発明においては、常温で超電導テープと熱収縮率が超電導テープの熱収縮率よりも小さい補強材とが一体化された酸化物超電導線材を、常温で予め補強材が外周側となるように湾曲(ベンディング)させているため、以下に説明する理由により、冷却時における伸びや引張応力の発生を効果的に抑制することができ、充分に補強材としての補強効果を発揮させることができる。
【0014】
即ち、本請求項の発明のように、常温において超電導テープと補強材とを一体化させた酸化物超電導線材を用い、常温において補強材側が外周となるように湾曲させた場合、超電導テープと補強材とが一体化されているため、外周側に位置する補強材は元の長さより伸びた状態となり引張りを受けた状態となる。一方、内周側に位置する超電導テープは元の長さより縮んだ状態となり圧縮を受けた状態となる。
【0015】
上記の湾曲した酸化物超電導線材は冷却されると熱収縮を起こすが、このとき、超電導テープの熱収縮率に比べ補強材の熱収縮率が小さいため、超電導テープは補強材よりも大きく収縮しようとする。しかし、超電導テープと補強材とは一体化されているため、結果的に、超電導テープが引張りを受けた状態となり、湾曲時に与えられた圧縮と相殺される。この結果、冷却時における伸びや引張応力の発生が抑制される。
【0016】
なお、本請求項の発明においては、各工程を一連の工程として処理してもよいが、適宜空き時間を設けて処理してもよい。
【0017】
また、超電導テープとしては、前記した銀シースBi2223超電導テープや他のビスマス系超電導テープ、また、YBCO等の希土類系超電導テープ等を用いることができる。
【0018】
そして、本請求項の発明は、両面に従来の補強材が設けられた超電導テープにも適用することができる。
【0019】
請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載の酸化物超電導線材の使用方法に用いられる酸化物超電導線材であって、
常温において、直線状に配置された超電導テープの片面に、熱収縮率が前記超電導テープの熱収縮率よりも小さいテープ状の補強材が積層され、さらに、積層された前記超電導テープと前記補強材とが一体化されている
ことを特徴とする酸化物超電導線材である。
【0020】
前記の通り、超電導テープと熱収縮率が超電導テープの熱収縮率よりも小さい補強材とが一体化された酸化物超電導線材であるため、予め常温において補強材が外周側となるように湾曲させ、その後冷却した場合、伸びや引張応力の発生を効果的に抑制することができる。
【0021】
請求項3に記載の発明は、
前記補強材が、200GPa以上の弾性率を有していることを特徴とする請求項2に記載の酸化物超電導線材である。
【0022】
前記したように、大きな弾性率を有する材料は伸びが小さく、超電導テープの伸びを効果的に抑制することができる。特に、200GPa以上の弾性率の材料の場合、この効果を顕著に発揮させることができ好ましい。
【0023】
請求項4に記載の発明は、
前記補強材が、炭素繊維からなる補強材であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の酸化物超電導線材である。
【0024】
炭素繊維は、弾性率が一般に大きく、900GPa程度の大きな弾性率を有するものもあり、補強材として好ましく用いることができる。
【0025】
請求項5に記載の発明は、
常温において、直線状に配置された超電導テープの片面に、熱収縮率が前記超電導テープの熱収縮率よりも小さいテープ状の補強材を積層した後、前記超電導テープと前記補強材を一体化してテープ状の酸化物超電導線材を作製する工程と、
常温において、前記酸化物超電導線材を、補強材側が外周となるように巻回する工程と
を備えていることを特徴とする超電導コイルの製造方法である。
【0026】
本請求項の発明においては、常温において、超電導テープと熱収縮率が超電導テープの熱収縮率よりも小さい補強材とを一体化させて酸化物超電導線材を作製し、その後、この酸化物超電導線材を用いて補強材側が外周となるように巻回して超電導コイルを製造しているため、前記した通り、この超電導コイルを冷却した際、巻回された酸化物超電導線材に発生する伸びや引張応力を効果的に抑制することができ、充分に補強材としての補強効果を発揮させた超電導コイルを製造することができる。
【0027】
請求項6に記載の発明は、
請求項5に記載の超電導コイルの製造方法を用いて製造されていることを特徴とする超電導コイルである。
【0028】
冷却した際、巻回された酸化物超電導線材に発生する伸びや引張応力を効果的に抑制することができる超電導コイルであるため、励磁された際に発生する電磁力によって酸化物超電導線材に加えられる張力に対する許容限界をより高めることができる。
【0029】
また、本請求項の発明においては、超電導テープの片側のみに補強材を配置しているため、両面に補強材が配置された従来の酸化物超電導線材に比べ、酸化物超電導線材における超電導テープの占有率、即ち、酸化物超電導体の占有率を高めることができ、電流密度がより高いコイルを提供することができる。
【0030】
請求項7に記載の発明は、
請求項6に記載の超電導コイルが用いられていることを特徴とするソレノイドマグネットである。
【0031】
励磁された際に発生する電磁力によって酸化物超電導線材に加えられる張力に対する許容限界が高く、また電流密度が高いコイルが用いられているため、優れた電磁特性のソレノイドマグネットを提供することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、超電導テープの熱収縮率よりも小さい熱収縮率を有する材料を補強材として採用しながら、充分に補強材としての補強効果を発揮させることができる酸化物超電導線材の使用方法を提供することができる。また、この使用方法に基づき、励磁された際に発生する電磁力によって酸化物超電導線材に加えられる張力に対する許容限界を高めた超電導コイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る酸化物超電導線材の一例を常温において湾曲したときおよび湾曲したまま冷却したときの酸化物超電導線材の状態を示す図である。
【図2】本発明に係る酸化物超電導線材の一例を常温において湾曲しないまま冷却したときの酸化物超電導線材の状態を示す図である。
【図3】歪みの測定方法を説明する図である。
【図4】本発明に係る酸化物超電導線材の一例の歪みとそれに対する応力の測定結果を示す図である。
【図5】本発明に係る酸化物超電導線材の他の例の歪みとそれに対する応力の測定結果を示す図である。
【図6】本発明に係る酸化物超電導線材のさらに他の例の歪みとそれに対する応力の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態につき、図1および図2を参照しつつ説明する。
【0035】
なお、図1は、本発明に係る酸化物超電導線材の一例を常温において湾曲したときおよび湾曲したまま冷却したときの酸化物超電導線材の状態を示す図であり、図2は、本発明に係る酸化物超電導線材の一例を常温において湾曲しないまま冷却したときの酸化物超電導線材の状態を示す図である。そして、各図において、1は超電導テープであり、2は炭素繊維である。
【0036】
A.実施の形態1
[1]酸化物超電導線材の作製
本実施の形態においては、超電導テープとして銀シースBi2223超電導テープを用い、さらにこの超電導テープに対する補強材としてテープ状の炭素繊維を用いて、以下に示す手順により酸化物超電導線材を作製している。なお、炭素繊維の熱膨張係数は10−6/K程度であり、銀シースBi2223超電導テープの熱膨張係数に比べ小さい熱膨張係数を有している。
【0037】
1.超電導テープおよび炭素繊維の準備工程
最初に、表2の試験体1〜5に示す組合せの超電導テープおよび炭素繊維を準備した。
【0038】
(1)超電導テープの準備
超電導テープとして、厚さ0.22mm×幅4.2mmの銀シースBi2223超電導テープを準備した(表2においては、「Bi2223−Ag」と示す。)。なお、表2において、「Bi2223−3ply」は、銀シースBi2223超電導テープの両面に従来の補強材(ステンレス)が設けられた超電導テープを示す。長さはそれぞれの湾曲径で1周分とした。
【0039】
(2)炭素繊維の準備
炭素繊維として、表2に示す「YSH−50A−60S」、「YSH−70A−60S」、「YS−80A−30S」の3種類の炭素繊維(いずれも日本グラファイトファイバー社製)を準備した。各炭素繊維の物性を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
2.一体化工程
常温において、超電導テープ表面を紙ヤスリで研磨し、アセトンで洗浄した後、銅製の電流端子に半田付けした。
【0042】
その後、エポキシ樹脂を用いて超電導テープと炭素繊維とを貼り合わせ、真空中で20時間保持することで、一体化した酸化物超電導線材を作製した。
【0043】
[2]実施例
1.試験体の準備
作製した試験体1〜5を、図1(a)に示すように、水平に配置した。このとき、各試験体において、超電導テープおよび炭素繊維のいずれにも歪みは生じていない。
【0044】
2.試験体の湾曲
その後、常温において、各試験体を、図1(b)に示すように、炭素繊維が外周側となるようにして、120mmφおよび220mmφの径で湾曲させた。
【0045】
湾曲させることにより、各試験体における超電導テープおよび炭素繊維の各々に歪みが生じる。生じた歪みを、炭素繊維側に2個、超電導テープ側に1個貼り付けた歪ゲージを用いて測定した。測定結果を、表2に「歪み(常温)」として併せて示す。なお、表2に示す測定結果において、−は超電導テープや炭素繊維が圧縮状態にあることを示し、その他は引張状態にあることを示す。また、図1(b)には、試験体1を120mmφの径で湾曲させたときの測定値を記載している。
【0046】
3.試験体の冷却
上記測定を行った後、各試験体を、図1(c)に示すように、湾曲させた状態のまま77Kの温度まで冷却した。
【0047】
常温時における測定と同様にして、冷却後の各試験体における各歪みを測定した。測定結果を、表2に「歪み(冷却)」として併せて示す。なお、図1(c)には、図1(b)と同様に、試験体1を120mmφの径で湾曲させたときの測定値を記載している。
【0048】
[3]比較例
1.試験体の準備
上記により作製した試験体1〜5を、図2(a)に示すように、水平に配置した。
【0049】
2.試験体の冷却
その後、予め常温で湾曲させることなく、水平に配置したまま、77Kの温度まで冷却した。このとき、図2(b)に示すように、各試験体は、炭素繊維を外周側として湾曲した。これは、炭素繊維の熱収縮率が超電導テープの熱収縮率に比べ小さいためである。
【0050】
3.歪み(冷却)の測定
各試験体が湾曲したことにより、各試験体における超電導テープおよび炭素繊維の各々に歪みが生じるため、実施例と同様の方法により、各歪みを測定した。また、各試験体における湾曲の径を測定した。測定結果を、表2に、「歪み(冷却)」および「湾曲径」として併せて示す。なお、図2(b)には、試験体1における測定値を記載している。
【0051】
[4]補強材による補強効果の確認
1.測定結果
上記各測定における測定結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
2.測定結果に対する考察
酸化物超電導線材を湾曲させなかった場合(比較例)、冷却することにより、超電導テープおよび炭素繊維の双方に、新たな歪みが発生している。炭素繊維には引張側、超電導テープには圧縮側の歪みが発生しているが、湾曲がない場合と比較して、超電導テープの圧縮歪が大きくなっている。
【0054】
このように、炭素繊維が外周側となるように湾曲させた酸化物超電導線材を冷却することにより、補強材であるカーボンファイバーの歪みを引張側に、超電導テープの歪みを圧縮側とすることができるため、コイルとして引張応力が加わった場合の機械的特性を向上することができる。
【0055】
即ち、炭素繊維のように、熱収縮率が超電導テープに比べ小さい材料であっても、上記のような適切な使用方法を採用することにより、充分に補強材としての補強効果を発揮させることができる。
【0056】
[5]許容限界の測定
試験体4を用い、図3に示すように、コイルボビン12(径:280mm)に1ターン弱の酸化物超電導線材14を巻き付け、1ターン弱のコイルを形成し、その両端に電極16をセットして、4.2Kで冷却すると共に通電して励磁した。
【0057】
この励磁により、酸化物超電導線材には引張応力が与えられ歪みが発生する。この引張応力に対する歪みを測定した。測定結果を図4に示す。
【0058】
なお、図4には、「Bi2223−3ply」および「Bi2223−Ag」単体を用いて同様の測定を行った結果も併せて示してある。
【0059】
図4に示す結果より、炭素繊維で補強されたコイルでは、引張応力に対する歪みが小さいことが分かる。
【0060】
B.実施の形態2
本実施の形態においては、2種類の試験体についてより大きな応力を印加している。
[1]酸化物超電導線材の作製
1.超電導テープおよび炭素繊維の準備工程
表3の試験体6〜7に示す組合せの超電導テープおよび炭素繊維を準備した。
【0061】
(1)超電導テープの準備
超電導テープとして、厚さ0.22mm×幅4.2mm×長さ880mmの銀シースBi2223超電導テープを準備した。(表3においては、「Bi2223−Ag」と示す。)。
【0062】
(2)炭素繊維の準備
炭素繊維として、表2に示す「YSH−70A−60S」、「YS−80A−30S」の2種類の炭素繊維(いずれも日本グラファイトファイバー社製)を準備した。
【0063】
2.一体化工程
常温において、長さ880mmの超電導テープ表面を紙ヤスリで研磨し、アセトンで洗浄した後、銅製の電流端子に半田付けした。その後エポキシ樹脂を用いて超電導テープと炭素繊維とを貼り合わせ、真空中で20時間保持することで、一体化した酸化物超電導線材を作製した。
【0064】
3.試験体の準備
作製した試験体6〜7を、図1(a)に示すように、水平に配置した。このとき、各試験体において、超電導テープおよび炭素繊維のいずれにも歪みは生じていない。
【0065】
4.試験体の湾曲
その後、常温において、各試験体を、図1(b)に示すように、炭素繊維が外周側となるようにして、280mmφの径で湾曲させた。
【0066】
湾曲させることにより、各試験体における超電導テープおよび炭素繊維の各々に歪みが生じる。生じた歪みを、炭素繊維側に2個、超電導テープ側に1個貼り付けた歪みゲージを用いて測定した。測定結果を、表3に「歪み(常温)」として併せて示す。なお、表3に示す測定結果において、−は超電導テープや炭素繊維が圧縮状態にあることを示し、その他は引張状態にあることを示す。
【0067】
5.試験体の冷却
上記測定を行った後、各試験体を、図1(c)に示すように、湾曲させた状態のまま77Kの温度まで冷却した。
【0068】
常温時における測定と同様にして、冷却後の各試験体における各歪みを測定した。測定結果を、表3に「歪み(冷却)」として併せて示す。
【0069】
[2]補強材による補強効果の確認
上記各測定における測定結果を表3に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
[3]許容限界の測定
1.試験体および測定方法
試験体6−7を用い、図3に示すように、コイルボビン12(径:280mm)に1ターン弱の酸化物超電導線材14を巻き付け、1ターン弱のコイルを形成し、その両端に電極16をセットして、4.2Kで冷却すると共に、14Tの外部磁場中で通電して励磁した。励磁は電流値を増加しては0Aに戻し、より高い電流値へ増加する方法をとった。
【0072】
この励磁により、酸化物超電導線材には引張応力が与えられ歪みが発生する。この引張応力に対する歪みを測定した。
【0073】
2.測定結果
試験体6の測定結果を図5、試験体7の測定結果を図6に示す。図5ではBi2223超電導テープ側の歪みは測定しておらず、炭素繊維側の歪み(2点で測定)を示している。試験体6は375MPaで、試験体7は374MPaで、急激に電圧が発生し、破断に至った。
【0074】
3.測定結果に対する考察
SUS304Hで補強した超電導テープの特性が劣化する引張応力は336MPaである。これに対して、本手法で作製された試験体の特性が劣化する引張応力は上記のように375MPa前後とはるかに大きく、破断まで引張応力と歪みの間に比例関係が保たれているため、より優れた引張特性が得られているということができる。
【0075】
図5および図6には両電極に取り付けた電圧端子間に発生した電圧も示している。電極も含まれていることから、応力(電流値)と電圧は比例の関係にあることが分かり、破断した応力直前まで電圧は急激な増加を示していないため、破断応力の直前まで超電導特性の劣化は生じていないと考えられる。そして、破断は線材自体では発生しておらず、銅製の電流端子との接続部近傍で生じていることから、応力の集中が接続部近傍に生じたと考えられ、線材自体はさらに大きな引張応力まで耐えることができると期待できる。
【0076】
なお、本発明は、以上の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以上の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 超電導テープ
2 炭素繊維
12 コイルボビン
14 酸化物超電導線材
16 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強材が設けられた酸化物超電導線材を湾曲した後冷却して使用する酸化物超電導線材の使用方法であって、
常温において、直線状に配置された超電導テープの片面に、熱収縮率が前記超電導テープの熱収縮率よりも小さいテープ状の補強材を積層した後、前記超電導テープと前記補強材を一体化して前記酸化物超電導線材を準備する工程と、
常温において、前記酸化物超電導線材を、補強材側が外周となるように湾曲する工程と、
湾曲した前記酸化物超電導線材を冷却する工程と
を有していることを特徴とする酸化物超電導線材の使用方法。
【請求項2】
請求項1に記載の酸化物超電導線材の使用方法に用いられる酸化物超電導線材であって、
常温において、直線状に配置された超電導テープの片面に、熱収縮率が前記超電導テープの熱収縮率よりも小さいテープ状の補強材が積層され、さらに、積層された前記超電導テープと前記補強材とが一体化されている
ことを特徴とする酸化物超電導線材。
【請求項3】
前記補強材が、200GPa以上の弾性率を有していることを特徴とする請求項2に記載の酸化物超電導線材。
【請求項4】
前記補強材が、炭素繊維からなる補強材であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の酸化物超電導線材。
【請求項5】
常温において、直線状に配置された超電導テープの片面に、熱収縮率が前記超電導テープの熱収縮率よりも小さいテープ状の補強材を積層した後、前記超電導テープと前記補強材を一体化してテープ状の酸化物超電導線材を作製する工程と、
常温において、前記酸化物超電導線材を、補強材側が外周となるように巻回する工程と
を備えていることを特徴とする超電導コイルの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の超電導コイルの製造方法を用いて製造されていることを特徴とする超電導コイル。
【請求項7】
請求項6に記載の超電導コイルが用いられていることを特徴とするソレノイドマグネット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−243495(P2011−243495A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116386(P2010−116386)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】