酸化物超電導電流リード及びその製造方法
【課題】 酸化物超電導電流リード端に電極を形成する時の熱処理条件の最適範囲を見出すことによって、通電時の接触抵抗率が極めて小さく、臨界電流密度が大幅に向上するように改善する。
【解決手段】 最終焼結工程を終了した酸化物超電導体8を棒状もしくはパイプ状に加工する。その端部に金属箔を巻くか、金属ペーストを塗布するか、またはスパッタリング、蒸着などの物理気相成長法により金属電極部9を形成する。これに810℃〜830℃の温度で2時間〜20時間の熱処理を施して電流リードを得る。
【解決手段】 最終焼結工程を終了した酸化物超電導体8を棒状もしくはパイプ状に加工する。その端部に金属箔を巻くか、金属ペーストを塗布するか、またはスパッタリング、蒸着などの物理気相成長法により金属電極部9を形成する。これに810℃〜830℃の温度で2時間〜20時間の熱処理を施して電流リードを得る。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、酸化物超電導電流リードの製造方法に係り、特に液体ヘリウムで冷却される超電導コイルへ大電流を供給する際に用いられる酸化物超電導電流リードの製造方法に好適なものに関する。
【0002】
【従来の技術】液体ヘリウム中の超電導コイルに大電流を供給する手段として、電流リードが用いられるが、従来から用いられている電流リードは、金属銅で作製されているものが主流である。
【0003】図3に示すように、超電導機器においては、超電導コイル2を超電導転移させるために、断熱容器1内に超電導コイル2を収納し、液体ヘリウム4を注入することにより超電導転移させているのがごく一般的である。
【0004】いかに優れた断熱容器1であっても、外部からの熱電導、輻射、および電流リード3からの侵入熱によって、非常に高価な液体ヘリウム4が蒸発してしまうことになるので、電流リード3の善し悪しが液体ヘリウム4の蒸発量、つまりは超電導機器のランニングコストを大きく左右することになる。このことは実用上非常に重要な問題である。
【0005】電流リードからの侵入熱には、(A)外部からの熱電導による侵入熱(B)大電流を実際に通電することによって発生するジュール発熱の2つが考えられる。
【0006】上記(B)のジュール発熱を低減するためには、電流リードの断面積を大きくし、かつ長さを短くすればよいのであるが、そうすると今度は上記(A)の熱電導による侵入熱分が増加してしまう。
【0007】そこで(A)と(B)を足し合わせた全体としての合計値が最小となるような設計が施されている。しかし、ある程度の侵入熱は避けられず、依然としてリード自体からの侵入熱が全体の大半を占めるという状況を変えるには到っていない。
【0008】この状況を打破すべく登場したのが、酸化物高温超電導体を用いた電流リードである。酸化物高温超電導体は、その臨界温度が非常に高いので、安価な液体窒素(77K)を用いても容易に超電導転移させることが可能であり、液体窒素中で電流リードとして用いると、超電導であるがゆえに上記(B)のジュール発熱が発生しない。また、セラミックスであるために、熱伝導率が金属銅にくらべて非常に小さくなり、上記(A)の熱伝導による侵入熱分も大幅に小さくすることが可能である。その結果、金属銅の電流リードに比べて、トータルの侵入熱を大幅に小さくできる。
【0009】しかし、金属−セラミックスという異種物質間での接続なので、液体ヘリウム中の超電導コイルと接続するに際し、大きな接触抵抗が生じるために、その部分でジュール発熱が発生し、液体ヘリウムの蒸発量が増大してしまう。
【0010】この問題を回避するために、棒状の電流リードの両端部に銀箔や銀ペーストを用いて電極部を作製し、これを焼成して金属の電極構造を形成させ、金属−金属という同種物質間での接続を実現することにより、上記接触抵抗の低減が試みられている。これにより電極部接触抵抗率を約1μΩ・cm2 まで低減することが出来るようになっていた。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】上述したように酸化物高温超電導体からなる電流リードの両端部に金属電極部を形成することにより、電極部接触抵抗率を約1μΩ・cm2 まで低減することが出来るようになったが、電極部接触抵抗率を約1μΩ・cm2 まで低減しても、例えば1000Aの電流を通電した場合、接触部面積を簡単のために1cm2とすれば、W=R・I2 =(1μΩ)・( 1000A)2=1J/sもの発熱量となってしまい、なお発生するジュール発熱量が高い。通電時におけるジュール発熱が高いと、液体ヘリウム等の冷媒の蒸発量が増加し、経済性に欠けるという問題がある。
【0012】また、金属電極部を形成するための熱処理工程の影響で、電流リードを構成する酸化物超電導体自身の臨界電流密度が変化することが確認されており、熱処理条件次第では、臨界電流密度の大きな低下が生じるおそれがある。熱処理条件によって酸化物超電導体自身の臨界電流密度が低下してしまうと、大電流通電を必要とする一般の超電導機器に対応できなくなり、複数の電流リードを並列に使用する際には、リード本数が多くなるため、装置が重量化、大型化するという問題がある。
【0013】しかし、電極部接触抵抗率をさらに低減することについての検討・研究は現在未解決の状態である。また、臨界電流密度が低下しない最適な熱処理条件についての検討・設計も未解決の状態である。
【0014】本発明の目的は、上述した従来技術の問題点を解消して、通電時におけるジュール発熱が減少し、しかも大電流通電を必要とする一般の超電導機器への対応が可能となる酸化物超電導電流リードを提供することにある。また、簡単な方法によって、電極部接触抵抗率を一層低減でき、併せて電流リードを構成する酸化物超電導体自身の臨界電流密度を高めることが可能な酸化物超電導電流リードの製造方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】第1の発明は、棒状もしくはパイプ状の酸化物超電導体の端部に金属電極が形成された酸化物超電導電流リードであって、前記酸化物超電導体がBi2 Sr2Ca2 Cu3 Ox 系の酸化物超電導体であり、金属電極部接触抵抗率が0.05μΩ・cm2 以下、臨界電流密度が2,000A/cm2 以上である酸化物超電導電流リードである。
【0016】第2の発明は、第1の発明の酸化物超電導電流リードにおいて、前記電流リードを構成する酸化物超電導体の結晶粒界に、(1) 粒径1.0μm以下のCuOもしくはCu2 Oのうちの少なくとも1と、(2) 粒径が1.0μm以下のCa2 PbO4 と、のうちの少なくとも1が存在することを特徴とする酸化物超電導電流リードである。
【0017】第3の発明は、酸化物超電導体製造工程の最終工程を終了したBi2 Sr2 Ca2 Cu3 Ox 系の酸化物超電導体を棒状もしくはパイプ状に加工し、その端部に金属電極部を形成し、これに810℃〜830℃の温度で熱処理を施して電流リードを得ることを特徴とする酸化物超電導電流リードの製造方法である。
【0018】第4の発明は、酸化物超電導体製造工程の最終焼結工程の直前のBi2 Sr2Ca2 Cu3 Ox 系の酸化物超電導体を棒状もしくはパイプ状に加工し、その端部に金属電極部を形成し、これを焼結温度保持時間が終了して炉内温度を下げる途中において、810℃〜830℃の温度で熱処理を付加した最終焼結工程の熱処理を施すことにより電流リードを得ることを特徴とする酸化物超電導電流リードの製造方法である。
【0019】第5の発明は、上記棒状もしくはパイプ状に加工した酸化物超電導体の端部に金属電極部を形成する方法が、上記酸化物超電導体の端部に金属箔を巻くか、金属ペーストを塗布するか、またはスパッタリング、蒸着等の物理気相成長法によるかのいずれか1つであることを特徴とする第3または第4の発明の酸化物超電導電流リードの製造方法である。
【0020】第6の発明は、第3〜5のいずれかの発明の酸化物超電導電流リードの製造方法において、上記金属電極部の熱処理時間を2時間〜20時間としたことを特徴とする酸化物超電導電流リードの製造方法である。
【0021】第7の発明は、上記金属電極部の材質が、白金、金、銀、銅、インジウム、イリジウム、アルミニウムの1種または2種以上からなることを特徴とする第3〜6のいずれかの発明の酸化物超電導電流リードの製造方法である。
【0022】第8の発明は、第3〜7のいずれかの発明の酸化物超電導リードの製造方法において、前記電流リードを構成する酸化物超電導体の結晶粒界において、Bi、Pb、Sr、Ca、Cu、Oを主成分とする物質で構成される非超電導相が、前記熱処理を加えることによって実質的に消失することを特徴とする酸化物超電導リードの製造方法である。
【0023】金属電極部を形成するための熱処理条件を上記のように規定すると、従来のものと比較して電極部の接触抵抗が極めて小さく、かつ超電導体自身の臨界電流密度が熱処理前と比べて大幅に改善される。上記の熱処理条件で電極部を形成すると、超電導体自身の臨界電流密度が熱処理前のそれに比べて改善されるのは、結晶粒どうしが接触する界面(粒界)における電気的な結合状態が改善された結果であると推測される。
【0024】本発明においては、酸化物超電導体は、安価な液体窒素を用いても容易に超電導転移させることが可能な、臨界温度の高い酸化物高温超電導体である。
【0025】また、酸化物超電導体を焼結方式で作製する場合には、最終焼結工程の直前の酸化物超電導体に金属電極を形成し、最終焼結工程中に金属電極の熱処理工程を含ませることができる。最終焼結工程中に金属電極の熱処理工程を含ませると、電流リード作製工程の簡素化が図れる。また、電流リードは棒状としても、パイプ状としてもよく、さらに、その形状は角形でも丸形でもよい。
【0026】金属電極部の熱処理温度は好ましくは810℃〜830℃であり、より好ましくは820℃である。温度が810℃以下であると、電極部での超電導体と金属の接着強度が十分でなく、電極部接触抵抗率は高くなる。逆に830℃以上だと超電導体と金属が接触面において反応を起こしてしまい、化合物層が生成されるので、この場合も電極部接触抵抗率は高くなる。
【0027】また、金属電極部の熱処理時間は、810℃〜830℃のときは2時間〜20時間が好ましく、820℃のときは8時間がより好ましい。熱処理時間が2時間以下であると、十分な接着強度が得られず、電極部接触抵抗率は高くなる。逆に熱処理時間を20時間以上に長くしても、電極部接触抵抗率は高くなってしまう。
【0028】
【発明の実施の形態】以下に本発明の酸化物超電導電流リードの製造方法の実施の形態を説明する。
【0029】電流リードに使用する酸化物高温超電導体は、例えば、BiPbSrCaCuOxで、組成比の好ましい範囲は次の通りである。
【0030】Bi:1.75〜1.95Pb:0.20〜0.50Sr:1.85〜2.15Ca:1.90〜2.25Cu:2.90〜3.15このような組成比の酸化物超電導体(一般に、Bi2 Sr2 Ca2 Cu3 Ox系超電導体と呼ぶ場合がある。また、Bi2 Sr2 Ca2 Cu3 Oxの組成を有する超電導体相をBi2223相という場合がある。)のを成形し、焼成、圧縮を繰り返し、最終焼結工程を終了した酸化物超電導体を、電流リードの形である棒状もしくはパイプ状に加工する。そのサイズは、丸棒にあっては直径 2mm〜 30mm長さ40mm〜300mmパイプ状にあっては外形 4mm〜100mm内径 2mm〜 96mm長さ40mm〜300mmである。
【0031】棒状もしくはパイプ状に加工した酸化物超電導体の両端部に金属電極部を形成する。金属電極部は、例えば銀から構成し、その寸法は、幅 5mm〜 30mm膜厚約20μm〜200μmである。酸化物超電導体の端部に金属電極部を形成する方法は、金属箔を巻くか、金属ペーストを塗布するか、またはスパッタリング、蒸着等の物理気相成長法による。
【0032】これに810℃〜830℃の温度で2時間〜20時間の熱処理を施して電流リードを得る。このようにして得られた電流リードの臨界電流密度Jcは約5,000〜7,000A/cm2 、接触抵抗率は約0.05〜0.005μΩ・cm2 になる。通常、市販されているもので、臨界電流密度Jcは約1,000〜1,500A/cm2 、接触抵抗率は約1μΩ・cm2 であるから、大幅に改善されていることがわかる。
【0033】
【実施例】
(実施例1)Bi2 Sr2 Ca2 Cu3 Ox(Bi2223相)の超電導合成粉2.0gを直径20mmの金型に充填し、一軸プレス機を用いて全圧10tonで成形する。
【0034】これを電気炉を用いて850℃、50時間焼成を行う。この後、冷間静水圧プレス(CIP、Cold Isostatic Press)装置を用いて3ton/cm2 の圧力で中間圧縮を行う。
【0035】再度、電気炉を用いて850℃、50時間焼成を行う。この後、CIP装置を用いて3ton/cm2 の圧力で二度目の中間圧縮を行う。最後に電気炉を用いて850℃、50時間焼成を行う。
【0036】こうして得られた超電導体を角棒状(15mm×1.5mm×1.0mm)に切断し、銀線および銀ペーストを用いて電極部を形成する。
【0037】そして、表1に示す温度と時間の実験マトリクッスに従って、それぞれの処理条件において電極部接触抵抗率測定試料および臨界電流密度測定試料を作製し、電極部接触抵抗率と臨界電流密度を測定した。なお、電極部接触抵抗率測定試料は図2(a)のように、臨界電流密度測定試料は図2(b)のようにそれぞれ四端子法で測定できるように形成した。超電導体5に形成した電極部6は銀である。4本ある端子7も銀であり、そのうち、外側の2本は電流端子であり、内側の2本は電圧端子である。
【0038】
【表1】
上述したように従来の値だと、電極部接触抵抗率が約1μΩ・cm2 、臨界電流密度は約1,500A/cm2 である。従って、電極部接触抵抗率及び臨界電流密度は熱処理条件が780℃以下では時間を変えても改善されないか、かえって改悪される。これに対して800℃及び820℃では2時間〜8時間、840℃でも2時間〜4時間なら改善されることがわかる。
【0039】特に、820℃では時間の増加とともに、電極部接触抵抗率が低下し、臨界電流密度が上昇するという好ましい特性改善傾向が見られる。そして8時間の熱処理条件において、最も低い接触抵抗率0.012μΩ・cm2 が得られ、その時の臨界電流密度は約5,200A/cm2 であった。このときの電極部におけるジュール発熱は従来の約1/100となり、臨界電流密度は3倍以上となる。
【0040】さらに、酸化物超電導電流リードの端部に形成した金属電極部を熱処理するとき、熱処理温度を810℃〜830℃、熱処理時間を2時間から20時間までの範囲に広げても、従来よりも電極部接触抵抗率を小さく、臨界電流密度を大きくできることが判明した。
【0041】(実施例2)Bi2 Sr2 Ca2 Cu3 Ox(Bi2223相)の超電導合成粉を棒状の成形治具の中に充填し、これをCIP装置を用いて3ton/cm2 の圧力で成形する。成形体の寸法は、7mmφ×150mmである。
【0042】これを角形電気炉を用いて、大気中、850℃、50時間焼成を行う。焼成温度の許容範囲は850℃±5℃である。この後、CIP装置を用いて3ton/cm2 の圧力で中間圧縮を行う。
【0043】再度、角形電気炉を用いて、大気中、850℃、50時間焼成を行う。この後、CIP装置を用いて3ton/cm2 の圧力で二度目の中間圧縮を行う。最後に角形電気炉を用いて、大気中、850℃、50時間焼成を行う。
【0044】以上の工程で得られた試料を、旋盤研削により4.2mmφ×145mmの丸棒状試料に加工する。
【0045】銀ペースト、BCA(ブチルカルビトールアセテート)、リン酸エステルを100:15:2の重量比で混合し、棒状試料の両端にスプレー塗布する。120℃の乾燥器中に入れて乾燥させた後、再びスプレー塗布する。スプレー塗布を3〜5回繰り返した後、乾燥器中に入れて2時間乾燥させる。
【0046】これを角形電気炉を用いて、大気中、820℃、8時間焼成を行い電流リードを形成する。焼成温度の許容範囲は設定温度820℃±1℃である。
【0047】図1に最終的に出来上がった電流リードを示す。8は超電導体、9は銀からなる電極部である。これに77K、零磁場において直流電流を通電した結果、臨界電流は710Aであった。これを臨界電流密度に換算すると約5,100A/cm2 となる。
【0048】次に、上述の各電流リードに用いた棒状試料(酸化物超電導体)について、その粒界部分の透過形電子顕微鏡(TEM)写真撮影をはじめとする分析結果を説明する。
【0049】図4〜6は、本願発明の方法以外の方法(以下、従来方法という)、つまり、上記焼結温度を810〜830℃の範囲以外の温度(800℃、2時間)に設定して製造した場合の試料のTEM写真である。また、図7〜9は、図4〜6の写真の模式図である。
【0050】これらの図から、上記試料の結晶粒界に、膜状の物質の存在を確認することができる。分析によれば、これら膜状物質は、Bi、Pb、Sr、Ca、Cu、Oを主成分とする物質で構成される膜状の非超電導相であることがわかった。TEMによるさらなる観察によれば、上記膜状物質からなる非超電導相は、隣接する超電導結晶粒子どうしの電気的な結合をあたかも切断するかのように介在していることがわかった。図10は超電導結晶粒子どうしの間に膜状非超電導相が介在される様子を模式的に示した図である。この膜状非超電導相の存在によって臨界電流が大巾に制限されているものと推定される。ちなみに、この試料の臨界電流密度は約1700A/cm2 であった。
【0051】図11〜13は、本願発明の方法、つまり、焼結温度を810〜830℃の範囲内の温度(820℃、8時間)に設定して製造した場合の試料のTEM写真である。また、図14〜15は、図11〜12の写真の模式図である。
【0052】これらの図から、上記試料の結晶粒界に、従来方法では存在していた膜状の物質が消失しており、そのかわりに微細な粒界析出物が生じていると共に、全体的に結晶粒が成長し、かつ、結晶粒どうしが互いに強固に接続した状態になっていることがわかる。図16は超電導結晶粒子どうしが互いに強固に接続された状態になっている様子を模式的に示した図である。この試料の臨界電流密度は約5000A/cm2 であった。膜状の非超電導物質が消失して結晶粒どうしが電気的に強固に接続された状態になったことにより電気的な結合状態が大巾に改善されたものと推測される。
【0053】なお、分析によれば、上記粒界析出物は、粒径がほぼ1.0μm以下であり、CuO、Cu2 O、Ca2 PbO4 等を主成分とするものであることがわかった。また、種々の焼結条件によって作成した試料を、TEM等による観察と他の分析機器等を用いた分析をしたところ、上述の粒径1.0μm以下程度のCuO、Cu2 O、Ca2 PbO4 等の粒界析出物が観察されると、上述の膜状の非超電導相はほとんど観察されず、逆に、膜状の非超電導相が観察される場合は、CuO、Cu2 O、Ca2 PbO4 等の粒界析出物がほとんど観察されないことがわかった。しかも、析出物は、CuO、Cu2 O、Ca2 PbO4 を主成分とする物質の少なくともいずれか1以上であることがわかった。この場合、CuOとCu2 Oとはほぼ対で観察されるが、これらとCa2 PbO4 とは、必ずしも共存しない場合も観察された。
【0054】
【発明の効果】本発明の電流リードによれば、従来のものに比して電極部接触抵抗率が低いので、通電時におけるジュール発熱が減少し、その結果、電流リードに接続される超電導体コイル等を冷却する液体ヘリウム等の冷媒の蒸発量が著しく低減され、経済的である。また、電流リードを構成する超電導体自身の臨界電流密度が従来のものに比して高いので、大電流通電を必要とする一般の超電導機器への対応が可能であり、複数の電流リードを並列に使用する際には、少ない本数で済ますことができ、装置の軽量化、コンパクト化に寄与できる。
【0055】本発明の電流リードの製造方法によれば、最適な熱処理条件で電極を形成することによって、従来のものに比して低い接触抵抗率を得ることができるとともに、酸化物超電導体自身の臨界電流密度を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例により製造された電流リードの斜視図である。
【図2】本発明の実施例による電流リード測定試料の説明図であり、(a)は電極部接触抵抗率測定試料、(b)は臨界電流密度測定試料である。
【図3】一般的な超電導コイルを液体ヘリウムで冷却するようにした超電導機器の説明図である。
【図4】本願発明の方法以外の方法(従来方法)で製造した場合の棒状超電導体試料のTEM写真を示す図である。
【図5】本願発明の方法以外の方法(従来方法)で製造した場合の棒状超電導体試料のTEM写真を示す図である。
【図6】本願発明の方法以外の方法(従来方法)で製造した場合の棒状超電導体試料のTEM写真を示す図である。
【図7】図4の写真の模式図である。
【図8】図5の写真の模式図である。
【図9】図6の写真の模式図である。
【図10】図10は超電導結晶粒子どうしの間に膜状非超電導相が介在される様子を模式的に示した図である。
【図11】本願発明の方法で製造した場合の棒状超電導体試料のTEM写真を示す図である。
【図12】本願発明の方法で製造した場合の棒状超電導体試料のTEM写真を示す図である。
【図13】本願発明の方法で製造した場合の棒状超電導体試料のTEM写真を示す図である。
【図14】図11の写真の模式図である。
【図15】図12の写真の模式図である。
【図16】超電導結晶粒子どうしが互いに接続された状態になっている様子を模式的に示した図である。
【符号の説明】
8 超電導体
9 電極部
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、酸化物超電導電流リードの製造方法に係り、特に液体ヘリウムで冷却される超電導コイルへ大電流を供給する際に用いられる酸化物超電導電流リードの製造方法に好適なものに関する。
【0002】
【従来の技術】液体ヘリウム中の超電導コイルに大電流を供給する手段として、電流リードが用いられるが、従来から用いられている電流リードは、金属銅で作製されているものが主流である。
【0003】図3に示すように、超電導機器においては、超電導コイル2を超電導転移させるために、断熱容器1内に超電導コイル2を収納し、液体ヘリウム4を注入することにより超電導転移させているのがごく一般的である。
【0004】いかに優れた断熱容器1であっても、外部からの熱電導、輻射、および電流リード3からの侵入熱によって、非常に高価な液体ヘリウム4が蒸発してしまうことになるので、電流リード3の善し悪しが液体ヘリウム4の蒸発量、つまりは超電導機器のランニングコストを大きく左右することになる。このことは実用上非常に重要な問題である。
【0005】電流リードからの侵入熱には、(A)外部からの熱電導による侵入熱(B)大電流を実際に通電することによって発生するジュール発熱の2つが考えられる。
【0006】上記(B)のジュール発熱を低減するためには、電流リードの断面積を大きくし、かつ長さを短くすればよいのであるが、そうすると今度は上記(A)の熱電導による侵入熱分が増加してしまう。
【0007】そこで(A)と(B)を足し合わせた全体としての合計値が最小となるような設計が施されている。しかし、ある程度の侵入熱は避けられず、依然としてリード自体からの侵入熱が全体の大半を占めるという状況を変えるには到っていない。
【0008】この状況を打破すべく登場したのが、酸化物高温超電導体を用いた電流リードである。酸化物高温超電導体は、その臨界温度が非常に高いので、安価な液体窒素(77K)を用いても容易に超電導転移させることが可能であり、液体窒素中で電流リードとして用いると、超電導であるがゆえに上記(B)のジュール発熱が発生しない。また、セラミックスであるために、熱伝導率が金属銅にくらべて非常に小さくなり、上記(A)の熱伝導による侵入熱分も大幅に小さくすることが可能である。その結果、金属銅の電流リードに比べて、トータルの侵入熱を大幅に小さくできる。
【0009】しかし、金属−セラミックスという異種物質間での接続なので、液体ヘリウム中の超電導コイルと接続するに際し、大きな接触抵抗が生じるために、その部分でジュール発熱が発生し、液体ヘリウムの蒸発量が増大してしまう。
【0010】この問題を回避するために、棒状の電流リードの両端部に銀箔や銀ペーストを用いて電極部を作製し、これを焼成して金属の電極構造を形成させ、金属−金属という同種物質間での接続を実現することにより、上記接触抵抗の低減が試みられている。これにより電極部接触抵抗率を約1μΩ・cm2 まで低減することが出来るようになっていた。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】上述したように酸化物高温超電導体からなる電流リードの両端部に金属電極部を形成することにより、電極部接触抵抗率を約1μΩ・cm2 まで低減することが出来るようになったが、電極部接触抵抗率を約1μΩ・cm2 まで低減しても、例えば1000Aの電流を通電した場合、接触部面積を簡単のために1cm2とすれば、W=R・I2 =(1μΩ)・( 1000A)2=1J/sもの発熱量となってしまい、なお発生するジュール発熱量が高い。通電時におけるジュール発熱が高いと、液体ヘリウム等の冷媒の蒸発量が増加し、経済性に欠けるという問題がある。
【0012】また、金属電極部を形成するための熱処理工程の影響で、電流リードを構成する酸化物超電導体自身の臨界電流密度が変化することが確認されており、熱処理条件次第では、臨界電流密度の大きな低下が生じるおそれがある。熱処理条件によって酸化物超電導体自身の臨界電流密度が低下してしまうと、大電流通電を必要とする一般の超電導機器に対応できなくなり、複数の電流リードを並列に使用する際には、リード本数が多くなるため、装置が重量化、大型化するという問題がある。
【0013】しかし、電極部接触抵抗率をさらに低減することについての検討・研究は現在未解決の状態である。また、臨界電流密度が低下しない最適な熱処理条件についての検討・設計も未解決の状態である。
【0014】本発明の目的は、上述した従来技術の問題点を解消して、通電時におけるジュール発熱が減少し、しかも大電流通電を必要とする一般の超電導機器への対応が可能となる酸化物超電導電流リードを提供することにある。また、簡単な方法によって、電極部接触抵抗率を一層低減でき、併せて電流リードを構成する酸化物超電導体自身の臨界電流密度を高めることが可能な酸化物超電導電流リードの製造方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】第1の発明は、棒状もしくはパイプ状の酸化物超電導体の端部に金属電極が形成された酸化物超電導電流リードであって、前記酸化物超電導体がBi2 Sr2Ca2 Cu3 Ox 系の酸化物超電導体であり、金属電極部接触抵抗率が0.05μΩ・cm2 以下、臨界電流密度が2,000A/cm2 以上である酸化物超電導電流リードである。
【0016】第2の発明は、第1の発明の酸化物超電導電流リードにおいて、前記電流リードを構成する酸化物超電導体の結晶粒界に、(1) 粒径1.0μm以下のCuOもしくはCu2 Oのうちの少なくとも1と、(2) 粒径が1.0μm以下のCa2 PbO4 と、のうちの少なくとも1が存在することを特徴とする酸化物超電導電流リードである。
【0017】第3の発明は、酸化物超電導体製造工程の最終工程を終了したBi2 Sr2 Ca2 Cu3 Ox 系の酸化物超電導体を棒状もしくはパイプ状に加工し、その端部に金属電極部を形成し、これに810℃〜830℃の温度で熱処理を施して電流リードを得ることを特徴とする酸化物超電導電流リードの製造方法である。
【0018】第4の発明は、酸化物超電導体製造工程の最終焼結工程の直前のBi2 Sr2Ca2 Cu3 Ox 系の酸化物超電導体を棒状もしくはパイプ状に加工し、その端部に金属電極部を形成し、これを焼結温度保持時間が終了して炉内温度を下げる途中において、810℃〜830℃の温度で熱処理を付加した最終焼結工程の熱処理を施すことにより電流リードを得ることを特徴とする酸化物超電導電流リードの製造方法である。
【0019】第5の発明は、上記棒状もしくはパイプ状に加工した酸化物超電導体の端部に金属電極部を形成する方法が、上記酸化物超電導体の端部に金属箔を巻くか、金属ペーストを塗布するか、またはスパッタリング、蒸着等の物理気相成長法によるかのいずれか1つであることを特徴とする第3または第4の発明の酸化物超電導電流リードの製造方法である。
【0020】第6の発明は、第3〜5のいずれかの発明の酸化物超電導電流リードの製造方法において、上記金属電極部の熱処理時間を2時間〜20時間としたことを特徴とする酸化物超電導電流リードの製造方法である。
【0021】第7の発明は、上記金属電極部の材質が、白金、金、銀、銅、インジウム、イリジウム、アルミニウムの1種または2種以上からなることを特徴とする第3〜6のいずれかの発明の酸化物超電導電流リードの製造方法である。
【0022】第8の発明は、第3〜7のいずれかの発明の酸化物超電導リードの製造方法において、前記電流リードを構成する酸化物超電導体の結晶粒界において、Bi、Pb、Sr、Ca、Cu、Oを主成分とする物質で構成される非超電導相が、前記熱処理を加えることによって実質的に消失することを特徴とする酸化物超電導リードの製造方法である。
【0023】金属電極部を形成するための熱処理条件を上記のように規定すると、従来のものと比較して電極部の接触抵抗が極めて小さく、かつ超電導体自身の臨界電流密度が熱処理前と比べて大幅に改善される。上記の熱処理条件で電極部を形成すると、超電導体自身の臨界電流密度が熱処理前のそれに比べて改善されるのは、結晶粒どうしが接触する界面(粒界)における電気的な結合状態が改善された結果であると推測される。
【0024】本発明においては、酸化物超電導体は、安価な液体窒素を用いても容易に超電導転移させることが可能な、臨界温度の高い酸化物高温超電導体である。
【0025】また、酸化物超電導体を焼結方式で作製する場合には、最終焼結工程の直前の酸化物超電導体に金属電極を形成し、最終焼結工程中に金属電極の熱処理工程を含ませることができる。最終焼結工程中に金属電極の熱処理工程を含ませると、電流リード作製工程の簡素化が図れる。また、電流リードは棒状としても、パイプ状としてもよく、さらに、その形状は角形でも丸形でもよい。
【0026】金属電極部の熱処理温度は好ましくは810℃〜830℃であり、より好ましくは820℃である。温度が810℃以下であると、電極部での超電導体と金属の接着強度が十分でなく、電極部接触抵抗率は高くなる。逆に830℃以上だと超電導体と金属が接触面において反応を起こしてしまい、化合物層が生成されるので、この場合も電極部接触抵抗率は高くなる。
【0027】また、金属電極部の熱処理時間は、810℃〜830℃のときは2時間〜20時間が好ましく、820℃のときは8時間がより好ましい。熱処理時間が2時間以下であると、十分な接着強度が得られず、電極部接触抵抗率は高くなる。逆に熱処理時間を20時間以上に長くしても、電極部接触抵抗率は高くなってしまう。
【0028】
【発明の実施の形態】以下に本発明の酸化物超電導電流リードの製造方法の実施の形態を説明する。
【0029】電流リードに使用する酸化物高温超電導体は、例えば、BiPbSrCaCuOxで、組成比の好ましい範囲は次の通りである。
【0030】Bi:1.75〜1.95Pb:0.20〜0.50Sr:1.85〜2.15Ca:1.90〜2.25Cu:2.90〜3.15このような組成比の酸化物超電導体(一般に、Bi2 Sr2 Ca2 Cu3 Ox系超電導体と呼ぶ場合がある。また、Bi2 Sr2 Ca2 Cu3 Oxの組成を有する超電導体相をBi2223相という場合がある。)のを成形し、焼成、圧縮を繰り返し、最終焼結工程を終了した酸化物超電導体を、電流リードの形である棒状もしくはパイプ状に加工する。そのサイズは、丸棒にあっては直径 2mm〜 30mm長さ40mm〜300mmパイプ状にあっては外形 4mm〜100mm内径 2mm〜 96mm長さ40mm〜300mmである。
【0031】棒状もしくはパイプ状に加工した酸化物超電導体の両端部に金属電極部を形成する。金属電極部は、例えば銀から構成し、その寸法は、幅 5mm〜 30mm膜厚約20μm〜200μmである。酸化物超電導体の端部に金属電極部を形成する方法は、金属箔を巻くか、金属ペーストを塗布するか、またはスパッタリング、蒸着等の物理気相成長法による。
【0032】これに810℃〜830℃の温度で2時間〜20時間の熱処理を施して電流リードを得る。このようにして得られた電流リードの臨界電流密度Jcは約5,000〜7,000A/cm2 、接触抵抗率は約0.05〜0.005μΩ・cm2 になる。通常、市販されているもので、臨界電流密度Jcは約1,000〜1,500A/cm2 、接触抵抗率は約1μΩ・cm2 であるから、大幅に改善されていることがわかる。
【0033】
【実施例】
(実施例1)Bi2 Sr2 Ca2 Cu3 Ox(Bi2223相)の超電導合成粉2.0gを直径20mmの金型に充填し、一軸プレス機を用いて全圧10tonで成形する。
【0034】これを電気炉を用いて850℃、50時間焼成を行う。この後、冷間静水圧プレス(CIP、Cold Isostatic Press)装置を用いて3ton/cm2 の圧力で中間圧縮を行う。
【0035】再度、電気炉を用いて850℃、50時間焼成を行う。この後、CIP装置を用いて3ton/cm2 の圧力で二度目の中間圧縮を行う。最後に電気炉を用いて850℃、50時間焼成を行う。
【0036】こうして得られた超電導体を角棒状(15mm×1.5mm×1.0mm)に切断し、銀線および銀ペーストを用いて電極部を形成する。
【0037】そして、表1に示す温度と時間の実験マトリクッスに従って、それぞれの処理条件において電極部接触抵抗率測定試料および臨界電流密度測定試料を作製し、電極部接触抵抗率と臨界電流密度を測定した。なお、電極部接触抵抗率測定試料は図2(a)のように、臨界電流密度測定試料は図2(b)のようにそれぞれ四端子法で測定できるように形成した。超電導体5に形成した電極部6は銀である。4本ある端子7も銀であり、そのうち、外側の2本は電流端子であり、内側の2本は電圧端子である。
【0038】
【表1】
上述したように従来の値だと、電極部接触抵抗率が約1μΩ・cm2 、臨界電流密度は約1,500A/cm2 である。従って、電極部接触抵抗率及び臨界電流密度は熱処理条件が780℃以下では時間を変えても改善されないか、かえって改悪される。これに対して800℃及び820℃では2時間〜8時間、840℃でも2時間〜4時間なら改善されることがわかる。
【0039】特に、820℃では時間の増加とともに、電極部接触抵抗率が低下し、臨界電流密度が上昇するという好ましい特性改善傾向が見られる。そして8時間の熱処理条件において、最も低い接触抵抗率0.012μΩ・cm2 が得られ、その時の臨界電流密度は約5,200A/cm2 であった。このときの電極部におけるジュール発熱は従来の約1/100となり、臨界電流密度は3倍以上となる。
【0040】さらに、酸化物超電導電流リードの端部に形成した金属電極部を熱処理するとき、熱処理温度を810℃〜830℃、熱処理時間を2時間から20時間までの範囲に広げても、従来よりも電極部接触抵抗率を小さく、臨界電流密度を大きくできることが判明した。
【0041】(実施例2)Bi2 Sr2 Ca2 Cu3 Ox(Bi2223相)の超電導合成粉を棒状の成形治具の中に充填し、これをCIP装置を用いて3ton/cm2 の圧力で成形する。成形体の寸法は、7mmφ×150mmである。
【0042】これを角形電気炉を用いて、大気中、850℃、50時間焼成を行う。焼成温度の許容範囲は850℃±5℃である。この後、CIP装置を用いて3ton/cm2 の圧力で中間圧縮を行う。
【0043】再度、角形電気炉を用いて、大気中、850℃、50時間焼成を行う。この後、CIP装置を用いて3ton/cm2 の圧力で二度目の中間圧縮を行う。最後に角形電気炉を用いて、大気中、850℃、50時間焼成を行う。
【0044】以上の工程で得られた試料を、旋盤研削により4.2mmφ×145mmの丸棒状試料に加工する。
【0045】銀ペースト、BCA(ブチルカルビトールアセテート)、リン酸エステルを100:15:2の重量比で混合し、棒状試料の両端にスプレー塗布する。120℃の乾燥器中に入れて乾燥させた後、再びスプレー塗布する。スプレー塗布を3〜5回繰り返した後、乾燥器中に入れて2時間乾燥させる。
【0046】これを角形電気炉を用いて、大気中、820℃、8時間焼成を行い電流リードを形成する。焼成温度の許容範囲は設定温度820℃±1℃である。
【0047】図1に最終的に出来上がった電流リードを示す。8は超電導体、9は銀からなる電極部である。これに77K、零磁場において直流電流を通電した結果、臨界電流は710Aであった。これを臨界電流密度に換算すると約5,100A/cm2 となる。
【0048】次に、上述の各電流リードに用いた棒状試料(酸化物超電導体)について、その粒界部分の透過形電子顕微鏡(TEM)写真撮影をはじめとする分析結果を説明する。
【0049】図4〜6は、本願発明の方法以外の方法(以下、従来方法という)、つまり、上記焼結温度を810〜830℃の範囲以外の温度(800℃、2時間)に設定して製造した場合の試料のTEM写真である。また、図7〜9は、図4〜6の写真の模式図である。
【0050】これらの図から、上記試料の結晶粒界に、膜状の物質の存在を確認することができる。分析によれば、これら膜状物質は、Bi、Pb、Sr、Ca、Cu、Oを主成分とする物質で構成される膜状の非超電導相であることがわかった。TEMによるさらなる観察によれば、上記膜状物質からなる非超電導相は、隣接する超電導結晶粒子どうしの電気的な結合をあたかも切断するかのように介在していることがわかった。図10は超電導結晶粒子どうしの間に膜状非超電導相が介在される様子を模式的に示した図である。この膜状非超電導相の存在によって臨界電流が大巾に制限されているものと推定される。ちなみに、この試料の臨界電流密度は約1700A/cm2 であった。
【0051】図11〜13は、本願発明の方法、つまり、焼結温度を810〜830℃の範囲内の温度(820℃、8時間)に設定して製造した場合の試料のTEM写真である。また、図14〜15は、図11〜12の写真の模式図である。
【0052】これらの図から、上記試料の結晶粒界に、従来方法では存在していた膜状の物質が消失しており、そのかわりに微細な粒界析出物が生じていると共に、全体的に結晶粒が成長し、かつ、結晶粒どうしが互いに強固に接続した状態になっていることがわかる。図16は超電導結晶粒子どうしが互いに強固に接続された状態になっている様子を模式的に示した図である。この試料の臨界電流密度は約5000A/cm2 であった。膜状の非超電導物質が消失して結晶粒どうしが電気的に強固に接続された状態になったことにより電気的な結合状態が大巾に改善されたものと推測される。
【0053】なお、分析によれば、上記粒界析出物は、粒径がほぼ1.0μm以下であり、CuO、Cu2 O、Ca2 PbO4 等を主成分とするものであることがわかった。また、種々の焼結条件によって作成した試料を、TEM等による観察と他の分析機器等を用いた分析をしたところ、上述の粒径1.0μm以下程度のCuO、Cu2 O、Ca2 PbO4 等の粒界析出物が観察されると、上述の膜状の非超電導相はほとんど観察されず、逆に、膜状の非超電導相が観察される場合は、CuO、Cu2 O、Ca2 PbO4 等の粒界析出物がほとんど観察されないことがわかった。しかも、析出物は、CuO、Cu2 O、Ca2 PbO4 を主成分とする物質の少なくともいずれか1以上であることがわかった。この場合、CuOとCu2 Oとはほぼ対で観察されるが、これらとCa2 PbO4 とは、必ずしも共存しない場合も観察された。
【0054】
【発明の効果】本発明の電流リードによれば、従来のものに比して電極部接触抵抗率が低いので、通電時におけるジュール発熱が減少し、その結果、電流リードに接続される超電導体コイル等を冷却する液体ヘリウム等の冷媒の蒸発量が著しく低減され、経済的である。また、電流リードを構成する超電導体自身の臨界電流密度が従来のものに比して高いので、大電流通電を必要とする一般の超電導機器への対応が可能であり、複数の電流リードを並列に使用する際には、少ない本数で済ますことができ、装置の軽量化、コンパクト化に寄与できる。
【0055】本発明の電流リードの製造方法によれば、最適な熱処理条件で電極を形成することによって、従来のものに比して低い接触抵抗率を得ることができるとともに、酸化物超電導体自身の臨界電流密度を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例により製造された電流リードの斜視図である。
【図2】本発明の実施例による電流リード測定試料の説明図であり、(a)は電極部接触抵抗率測定試料、(b)は臨界電流密度測定試料である。
【図3】一般的な超電導コイルを液体ヘリウムで冷却するようにした超電導機器の説明図である。
【図4】本願発明の方法以外の方法(従来方法)で製造した場合の棒状超電導体試料のTEM写真を示す図である。
【図5】本願発明の方法以外の方法(従来方法)で製造した場合の棒状超電導体試料のTEM写真を示す図である。
【図6】本願発明の方法以外の方法(従来方法)で製造した場合の棒状超電導体試料のTEM写真を示す図である。
【図7】図4の写真の模式図である。
【図8】図5の写真の模式図である。
【図9】図6の写真の模式図である。
【図10】図10は超電導結晶粒子どうしの間に膜状非超電導相が介在される様子を模式的に示した図である。
【図11】本願発明の方法で製造した場合の棒状超電導体試料のTEM写真を示す図である。
【図12】本願発明の方法で製造した場合の棒状超電導体試料のTEM写真を示す図である。
【図13】本願発明の方法で製造した場合の棒状超電導体試料のTEM写真を示す図である。
【図14】図11の写真の模式図である。
【図15】図12の写真の模式図である。
【図16】超電導結晶粒子どうしが互いに接続された状態になっている様子を模式的に示した図である。
【符号の説明】
8 超電導体
9 電極部
【特許請求の範囲】
【請求項1】棒状もしくはパイプ状の酸化物超電導体の端部に金属電極が形成された酸化物超電導電流リードであって、前記酸化物超電導体がBi2 Sr2 Ca2 Cu3 Ox 系の酸化物超電導体であり、金属電極部接触抵抗率が0.05μΩ・cm2 以下、臨界電流密度が2,000A/cm2 である酸化物超電導電流リード。
【請求項2】請求項1に記載の酸化物超電導電流リードにおいて、前記電流リードを構成する酸化物超電導体の結晶粒界に、(1) 粒径1.0μm以下のCuOもしくはCu2 Oのうちの少なくとも1と、(2) 粒径が1.0μm以下のCa2 PbO4 と、のうちの少なくとも1が存在することを特徴とする酸化物超電導電流リード。
【請求項3】酸化物超電導体製造工程の最終工程を終了したBi2 Sr2 Ca2 Cu3 Ox系の酸化物超電導体を棒状もしくはパイプ状に加工し、その端部に金属電極部を形成し、これに810℃〜830℃の温度で熱処理を施して電流リードを得ることを特徴とする酸化物超電導電流リードの製造方法。
【請求項4】酸化物超電導体製造工程の最終焼結工程の直前のBi2 Sr2 Ca2 Cu3 Ox 系の酸化物超電導体を棒状もしくはパイプ状に加工し、その端部に金属電極部を形成し、これを焼結温度保持時間が終了して炉内温度を下げる途中において、810℃〜830℃の温度で熱処理を付加した最終焼結工程の熱処理を施すことにより電流リードを得ることを特徴とする酸化物超電導電流リードの製造方法。
【請求項5】上記棒状もしくはパイプ状に加工した酸化物超電導体の端部に金属電極部を形成する方法が、上記酸化物超電導体の端部に金属箔を巻くか、金属ペーストを塗布するか、またはスパッタリング、蒸着等の物理気相成長法によるかのいずれか1つであることを特徴とする請求項3または4に記載の酸化物超電導電流リードの製造方法。
【請求項6】請求項3〜5のいずれかに記載の酸化物超電導電流リードの製造方法において、上記金属電極部の熱処理時間を2時間〜20時間としたことを特徴とする酸化物超電導電流リードの製造方法。
【請求項7】上記金属電極部の材質が、白金、金、銀、銅、インジウム、イリジウム、アルミニウムの1種または2種以上からなることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の酸化物超電導電流リードの製造方法。
【請求項8】請求項3〜7のいずれかに記載の酸化物超電導リードの製造方法において、前記電流リードを構成する酸化物超電導体の結晶粒界において、Bi、Pb、Sr、Ca、Cu、Oを主成分とする物質で構成される非超電導相が、前記熱処理を加えることによって実質的に消失することを特徴とする酸化物超電導リードの製造方法。
【請求項1】棒状もしくはパイプ状の酸化物超電導体の端部に金属電極が形成された酸化物超電導電流リードであって、前記酸化物超電導体がBi2 Sr2 Ca2 Cu3 Ox 系の酸化物超電導体であり、金属電極部接触抵抗率が0.05μΩ・cm2 以下、臨界電流密度が2,000A/cm2 である酸化物超電導電流リード。
【請求項2】請求項1に記載の酸化物超電導電流リードにおいて、前記電流リードを構成する酸化物超電導体の結晶粒界に、(1) 粒径1.0μm以下のCuOもしくはCu2 Oのうちの少なくとも1と、(2) 粒径が1.0μm以下のCa2 PbO4 と、のうちの少なくとも1が存在することを特徴とする酸化物超電導電流リード。
【請求項3】酸化物超電導体製造工程の最終工程を終了したBi2 Sr2 Ca2 Cu3 Ox系の酸化物超電導体を棒状もしくはパイプ状に加工し、その端部に金属電極部を形成し、これに810℃〜830℃の温度で熱処理を施して電流リードを得ることを特徴とする酸化物超電導電流リードの製造方法。
【請求項4】酸化物超電導体製造工程の最終焼結工程の直前のBi2 Sr2 Ca2 Cu3 Ox 系の酸化物超電導体を棒状もしくはパイプ状に加工し、その端部に金属電極部を形成し、これを焼結温度保持時間が終了して炉内温度を下げる途中において、810℃〜830℃の温度で熱処理を付加した最終焼結工程の熱処理を施すことにより電流リードを得ることを特徴とする酸化物超電導電流リードの製造方法。
【請求項5】上記棒状もしくはパイプ状に加工した酸化物超電導体の端部に金属電極部を形成する方法が、上記酸化物超電導体の端部に金属箔を巻くか、金属ペーストを塗布するか、またはスパッタリング、蒸着等の物理気相成長法によるかのいずれか1つであることを特徴とする請求項3または4に記載の酸化物超電導電流リードの製造方法。
【請求項6】請求項3〜5のいずれかに記載の酸化物超電導電流リードの製造方法において、上記金属電極部の熱処理時間を2時間〜20時間としたことを特徴とする酸化物超電導電流リードの製造方法。
【請求項7】上記金属電極部の材質が、白金、金、銀、銅、インジウム、イリジウム、アルミニウムの1種または2種以上からなることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の酸化物超電導電流リードの製造方法。
【請求項8】請求項3〜7のいずれかに記載の酸化物超電導リードの製造方法において、前記電流リードを構成する酸化物超電導体の結晶粒界において、Bi、Pb、Sr、Ca、Cu、Oを主成分とする物質で構成される非超電導相が、前記熱処理を加えることによって実質的に消失することを特徴とする酸化物超電導リードの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図10】
【図5】
【図7】
【図8】
【図16】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
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【図14】
【図15】
【公開番号】特開平10−27708
【公開日】平成10年(1998)1月27日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−46184
【出願日】平成9年(1997)2月28日
【出願人】(000224798)同和鉱業株式会社 (550)
【公開日】平成10年(1998)1月27日
【国際特許分類】
【出願日】平成9年(1997)2月28日
【出願人】(000224798)同和鉱業株式会社 (550)
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