説明

酸化磁性材料およびその製造方法

【課題】高周波まで磁気特性が伸びて磁気損失の増加が低減でき、しかもLの温度変化率を小さくした酸化磁性材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】主成分としてFeが45〜50.5mol%,ZnOが5〜33mol%,CuOが5〜15mol%で、残部をNiOとするフェライトの酸化磁性材料の製造方法である。主成分を構成する各材料を、上記の組成範囲内に合致するように秤量し、混合し、仮焼きする。仮焼き後に粉砕して得られた粉体に対し、CoOを2.0wt%以下(0を含まず)、SiOとZrOの添加量の合計が0.2wt%以下、MgOを0.15wt%以下(0を含まず)を添加して混合し、焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化磁性材料およびその製造方法に関し、特に高周波領域でも適用できるものに関する。
【背景技術】
【0002】
各種の電子回路の部品であるフィルター、インダクタ、トランス、アンテナ等に用いられる磁性材料の一つとして、Ni−Cu−Zn系フェライトの酸化磁性材料がある。例えば、インダクタに必要な磁気特性は、動作周波数において、高い磁気特性と低い磁気損失が要求されており、使用周波数帯の高周波化に伴い、インダクタ等に使用される磁性材料に対しても高周波で低損失な材料が要求されている。この傾向は、インダクタに限ることはなく、他の電子部品に用いられる磁性材料でも同様である。
【0003】
この種のNi−Cu−Zn系の酸化磁性材料では、高周波数領域で低損失化を図ることなどを目的として、主成分としてのFe,Ni,Cu,Znに加え、添加物としてCoを加えることが行われる。また、各種の目的のために、さらに別の添加物を加えることもある。この種の技術は、例えば、特許文献1,2等に開示されている。そして、これら各種の酸化磁性材料を製造するには、主成分並びに添加物を所定の組成比になるように混合したものを仮焼きし、粉砕後、焼成するといった工程を経て行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−306668号公報
【特許文献2】特開2004−172396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の酸化磁性材料は、高周波で低損失化するためにCoを添加している。しかし、Coを多量に添加すると、L値の温度特性が低下する。つまり、温度変化に対するL値の変化が大きくなる。温度特性を向上させるためには、例えば、ガラス材料を同時添加することが行われる。しかし、非磁性材料であるガラス材料を添加することで、磁性材料の存在比率が低下し、Coのみの添加に比べ、高周波での磁気損失が大きくなるという新たな課題を生じる。
【0006】
本発明は、Coを含むNi系フェライトに対し、Lの温度変化を低減しつつ、高周波での磁気損失の悪化を防止する酸化磁性材料及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の酸化磁性材料の製造方法は、(1)主成分としてFeが45〜50.5mol%,ZnOが5〜33mol%,CuOが5〜15mol%で、残部をNiOとするフェライトの酸化磁性材料の製造方法であって、前記主成分を構成する各材料を、上記の組成範囲内に合致するように秤量し、混合し、仮焼きする。そして、その仮焼き後に粉砕して得られた粉体に対し、CoOを2.0wt%以下(0を含まず)、SiOとZrOの添加量の合計が0.2wt%以下、MgOを0.15wt%以下(0を含まず)を添加して混合し、焼成するものとした。
【0008】
(2)好ましくは、前記SiOとZrOの添加量の合計が0.2wt%とすることである。
【0009】
(3)本発明の酸化磁性材料は、主成分がFeが45〜50.5mol%,ZnOが5〜33mol%,CuOが5〜15mol%で、残部をNiOのフェライトの酸化磁性材料において、CoOを2.0wt%以下(0を含まず)、SiOとZrOの添加量の合計が0.2wt%以下、MgOを0.15wt%以下(0を含まず)を仮焼き後に添加して構成されるものとした。
【0010】
上記の主成分からなるNi系フェライトにおいて、添加物としてCoを添加することで、高周波での損失は低減する。その点から、Co(CoO)を全く添加しないものよりも添加した方が良く、添加量が多くなるほど高周波対応となるので好ましい。しかしながら、Coを多量添加することにより、Lの温度変化が大きくなるが、本発明では、仮焼き後に微少のSiとZrを添加して混合することによりそれらを同時に加えることになり、その一部はZrSiOとなる。ZrSiOは、フェライトと近い熱膨張率を持つので、温度変化に伴う膨張率の違いにより発生する応力によるLの低減を防止することができる。よって、仮焼き後にSiOとZrOを適宜の量だけ添加することで温度特性の改善が図れる。添加量は0に近いごくわずかよりも、ある程度添加した方が転化の効果が発揮して好ましいが、必要以上に多く添加すると、ZrSiOにならない量が増すので、上記の効果が薄れる。実験結果によれば、そのSiOとZrOの添加量の合計値が、0.2wt%以下にすることである。
【0011】
また、ZrO、SiO、MgOがガラス化することで、仮焼き後に一緒に添加して混合したCoOが均一にフェライト中に分散されるので、磁気特性の改善が図られ、ガラスによる焼結性の改善による結晶粒径の制御等により、CoOの添加に伴い高周波における磁気特性の向上を図りつつ、Lの温度特性を改善することができる。なお、CoOを主成分と共に母材に添加して仮焼きした場合には、主成分と反応するため上記のガラス化に伴うCoOの均一な分散が生じにくい。
【0012】
さらに、磁気特性向上のためCoを添加すればするほど良好であり、本発明は、Coが添加された酸化磁性材料を前提としているので、下限値は0よりも多い(0は含まない)となる。そして、CoOは、2.0wt%を超えた量を仮焼き後に添加物として加えることは、μ値の大幅な低減をもたらすためできない。従って、仮焼き後に添加物として加えて酸化磁性材料を構成するためには、CoOの上限は、2.0wt%となる。
【0013】
さらに本発明では、添加物は仮焼き後に添加するようにした。これは以下に示す理由からである。すなわち、配合時にCoを添加すると、より均一にCoが分散し、フェライト内に存在し、磁気特性には良好な結果を示す。しかしながら、Lの温度変化を改善するには、添加するCoの全てが均一にフェライトに入るのは好ましくない。SiやZr等を同時に添加することで、他の添加物とCoが反応し、フェライトの粒子間に偏析し、異相となって存在する。これらフェライト中に存在する異相等により、局所的に微細構造が異なることや異相が存在するひずみ等によりLの温度変化が軽減されるため、均一にCoが分散されてしまう配合時に添加するのではなく、仮焼き後に添加するようにした。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、所望の組成比からなり、しかも、添加物は仮焼き後に混合するようにしたので、高周波まで磁気特性が伸びて磁気損失の増加が低減でき、しかもLの温度変化率を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】μ′,μ″の周波数特性を示すグラフである。
【図2】Lの温度特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本発明に係る酸化磁性材料は、酸化第二鉄(Fe),酸化亜鉛(ZnO),酸化銅(CuO),酸化ニッケル(NiO)を主成分とし、Fe,Ni,Znを含むNi系フェライト(NiCuZn系フェライト)の組成になっている。
具体的には、主成分は、
Feが45〜50.5mol%,
ZnOが5〜33mol%,
CuOが5〜15mol%であり
残部をNiOとしている。主成分を構成する各組成範囲は、それぞれ境界値を含む。
【0017】
そして、この主成分に対し、副成分の添加物として、
CoOを2.0wt%以下
SiOとZrOの添加量の合計が0.2wt%以下
MgOを0.15wt%以下
を添加する構成とする。CoOとMgOは、共に添加するので、0wt%は含まない。そして、これらの各添加物は、主成分からなる母材の仮焼き後に添加する。さらに、より好ましくは、各添加物は、同時添加するが、このとき、SiOとZrOの添加量の合計が0.2wt%になるようにするとよい。
【0018】
次に係る酸化磁性材料の製造方法の好適な一実施形態を説明する。まず上述した母材(主成分)を構成する各原料成分を上記の組成範囲内に合致する条件になるように秤量し、湿式混合して混合粉体を製造し、これを乾燥させて解砕し、仮焼きする。仮焼温度は、700〜850度にて仮焼し、ボールミルにて粉砕する。これらの仮焼きまでの各処理工程は、一般的に行われるものと同様である。ただし、従来は、添加物も仮焼き前の母材に混合し、主成分とともに仮焼きを行ったが、本実施形態では、出発原料には加えない。
【0019】
次いで、得られた仮焼き後の粉体に対し、CoO、SiO、ZrO、MgOを上記の範囲内になるように秤量したものを添加し、バインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)を加え、造粒して所定粒径の粉体を得る。
【0020】
次に、造粒した粉体に成形のための圧力を加えて、例えばリング形状に成形し、この後焼成を行う。焼成は、例えば大気中で温度を900〜1200℃の範囲内で、所定時間の焼成により焼結体を製造する。
【実施例】
【0021】
上述した製造手順により、各種の試料を製造した。つまり、本発明の効果を実証するため、主成分に添加する添加物の種類並びに添加量を変更して複数の試料を製造し、それら各試料について磁気特性μ′,損失μ″,共振周波数fr,密度,コアロス,飽和磁束密度(Bm),保持力Hc,Lの温度変化率等の評価を行った。その結果を表1,表2並びに図1,図2に示す。
【0022】
それらの各値を評価する際の基準値として、主成分は同じで添加物にCoOのみを添加して製造した試料(比較基準試料:試料1)の各値とし、frについては基準より大きいものを合格とし、Lの温度変化率は基準より小さいものを合格とした。なお、表1,表2において、Coは、CoOのことを意味し、SiはSiOのことを意味し、ZrはZrOのことを意味し、MgはMgOのことを意味する。
【0023】
【表1】

【0024】
まず、表1は、10MHzで評価するために、CoOの添加量を比較基準となる0.3wt%に固定し、他の添加物(SiO,ZrO,MgO)の組成比を変更して製造した試料の結果である。この試料は、外形をリング形状(外径25mm,内径15mm,高さ5mm)のものとした。主成分の配合は、Feは45〜50.5mol%,ZnOは5〜33mol%,CuOは5〜15mol%の範囲内として残部はNiOとした。
【0025】
製造時の条件としては、仮焼きは大気中で750℃のトップ温度で行い、仮焼き後の粉砕はボールミルにより20時間の粉砕を行った。そして、リング形状の成形物に対して焼成は、大気中で1100℃のトップ温度で行い、焼結体を得た。
【0026】
試料2から4の結果から、MgOの添加量が0(試料2)ではLの温度変化率が悪いため本発明の範囲外となるが、試料3から明らかなように、MgOを微量添加(ここでは0.1wt%)するだけで、所望の効果(高周波領域でのLの温度特性の改善)が得られる。試料5に示すように、MgOが0.2wt%になると、Lの温度特性並びに共振周波数frが基準値を下回る。よって、試料4,試料5の実験結果から、MgOの上限の臨界は0.15wt%となり、試料2から試料5の実験結果に基づき、MgOの範囲は、0〜0.15wt%以下(0を含まず)が良いといえる。
【0027】
試料6から試料14は、MgOの添加量を0.1wt%に固定し、SiOとZrOの添加量を変えた実験結果である。試料6,12の実験結果より、ZrO或いはSiOのいずれかが未添加の場合、他の添加物の添加量が条件を充足していてもLの温度特性が悪いことが確認できる。よって、SiOとZrOは、いずれの添加物も必須のもので有ることが確認できる。そして、試料7から試料11に示すように、それら2つの添加物の合計が、0.2wt%以下であれば、Lの温度特性を含め、その他の条件も所望の特性が得られる。そして、試料13,14の実験結果に示すように、SiOとZrOの合計の添加量が0.2wt%を超えると、Lの温度特性が低下することが確認できた。よって、SiOとZrOはともに添加し、さらに、両者の添加量の合計が0.2wt%以下が良いといえる。なお、この表1に示した実験結果における母材組成は、Feは49.5mol%,ZnOは23.5mol%,NiOは21mol%,CuOは6mol%である。母材組成を変えて実験を行ったところ、具体的な特性の数値は異なるものの同種の傾向が見られ、母材の組成比並びに添加物の添加量が本発明の範囲内であれば、L温度変化は良好であった。
【0028】
【表2】

【0029】
一方、表2は、CoOの添加量も変えた場合の実験結果を示している。試料15,試料16,試料22,試料23に示すように、CoOが2.0wt%まではLの温度特性が良好なことが確認でき、試料24に示すように、CoOの添加量が2.5wt%を超えると、Lの温度特性が低下することが確認できた。これにより、CoOの添加量は、2.0wt%以下がよいといえる。また、試料17〜21に示すように、CoOの添加量が範囲内の1.5wt%でも、他の添加物の添加量が本発明の範囲外であると、Lの温度特性が低下することが確認できた。
【0030】
なお、この表2に示した試料15〜21の母材組成は、Feは49.5mol%,ZnOは30mol%,NiOは14.5mol%,CuOは6mol%である。また、試料22〜24の母材組成は、Feは49.5mol%,ZnOは33mol%,NiOは11.5mol%,CuOは6mol%である。さらに母材組成を変えて実験を行ったところ、具体的な特性の数値は異なるものの同種の傾向が見られ、母材の組成比並びに添加物の添加量が本発明の範囲内であれば、L温度変化は良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分としてFeが45〜50.5mol%,ZnOが5〜33mol%,CuOが5〜15mol%で、残部をNiOとするフェライトの酸化磁性材料の製造方法であって、
前記主成分を構成する各材料を、上記の組成範囲内に合致するように秤量し、混合し、仮焼きし、
仮焼き後に粉砕して得られた粉体に対し、CoOを2.0wt%以下(0を含まず)、SiOとZrOの添加量の合計が0.2wt%以下、MgOを0.15wt%以下(0を含まず)を添加して混合し、焼成することを特徴とする酸化磁性材料の製造方法。
【請求項2】
前記SiOとZrOの添加量の合計が0.2wt%とすることを特徴とする請求項1に記載の酸化磁性材料の製造方法。
【請求項3】
主成分がFeが45〜50.5mol%,ZnOが5〜33mol%,CuOが5〜15mol%で、残部をNiOのフェライトにおいて、
CoOを2.0wt%以下(0を含まず)、SiOとZrOの添加量の合計が0.2wt%以下、MgOを0.15wt%以下(0を含まず)を仮焼き後に添加して構成されることを特徴とする酸化磁性材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−20906(P2012−20906A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160836(P2010−160836)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000237721)FDK株式会社 (449)
【Fターム(参考)】