説明

酸化触媒の製造方法

【課題】産業廃棄物の再生利用を図りつつ、高い触媒活性を示す酸化触媒を安価かつ容易に得る。
【解決手段】カルシア源及びフェライト源のうちの少なくとも一方を含む少なくとも一種の廃棄物を少なくとも一部に含む原料を準備する原料準備工程と、前記原料を酸素雰囲気で600〜1449℃に加熱して、Ca2 Fe2 5 の組成式を有するカルシウムフェライト及びCaFe2 4 の組成式を有するカルシウムフェライトのうちの少なくとも一種を含む酸化触媒を得る焼成工程とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化触媒の製造方法に関し、詳しくは廃棄物を原料に利用して酸化触媒を製造する方法に関する。本発明に係る酸化触媒は、例えば、自動車や自動二輪車等の内燃機関やボイラー等の各種燃焼装置から排出される排ガス中の、特に炭化水素(HC)を効率良く浄化できる排ガス浄化用触媒や、薬品等の化学物質の生成反応を促進させる反応促進用触媒に好適に利用することができる。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車や自動車のエンジンから排出される排ガスには、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)などが含まれており、この排ガスによる環境汚染の問題は都市部を中心に深刻化している。
【0003】
そして近年、大気汚染防止法に基づき、炭化水素や窒素酸化物の大幅な削減を目標とした新しい基準が、告示されている。これによれば、例えば、四輪車に比べて安価で、手軽な交通手段として広く利用されている自動二輪車は、車両全体に占める排出寄与度も高く、排ガス規制が大幅に強化される予定である。具体的には、2006〜2007年以降に販売される自動二輪車は、現行値比で、炭化水素については75〜85%の低減率、窒素酸化物については50%の低減率、一酸化炭素については85%の低減率という、厳しいレベルの目標値が要求される。
【0004】
こうした状況下、四輪車用の触媒を二輪車に使用することが種々検討されているが、白金等の高価な貴金属を触媒成分として用いる四輪車用触媒を二輪車に利用することは割高感が強い。このため、より安価な二輪車用排ガス浄化触媒の開発が切望されている。
【0005】
ここに、貴金属触媒と比べて安価でかつ酸化触媒としての利用が可能なものとして、無機化合物よりなる活性酸素発現物質が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
この活性酸素発現物質は、活性酸素種を内包する12CaO・7Al2 3 化合物であり、カルシウムとアルミニウムとを12:14の原子当量比で混合した原料粉末を用いて、酸素分圧104 Pa以上、好ましくは105 Pa以上、水素分圧1Pa以下に厳密に制御された乾燥酸化雰囲気で、焼成温度1200℃以上、好ましくは1300℃の高温度の条件下で固相反応させることにより製造される。
【0007】
このような活性酸素発現物質については研究例が種々報告されているが、さらに実用価値の高い新しい活性酸素発現物質の開発が強く要請されていた。
【0008】
そこで、本発明者等は、新規な活性酸素発現物質の開発を目的として鋭意研究を重ねた結果、活性酸素であるスーパーオキサイドアニオン(O2 - )を構造中に内包した、A2 2 5 (A:アルカリ又はアルカリ土類元素、B:遷移元素)の組成式を有する無機化合物が、高い活性酸素発現能力を有して酸化触媒として有用であることを見出し、さらに研究を重ねて先に出願している(特願2004−119782号)。
【0009】
この活性酸素発現物質として、具体的にはCa2 Fe2 5 の組成式を有するカルシウムフェライトが挙げられており、これはCaCO3 とFe2 3 とを2:1のモル比で混合した原料粉末を酸素雰囲気で600℃以上に加熱することにより製造される。
【特許文献1】特開2002−3218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、上述したCa2 Fe2 5 の組成式を有するカルシウムフェライトは高い触媒活性を示し、酸化触媒としての利用が大きく期待できるものではあるが、Ca2 Fe2 5 という特定の組成式をねらって製造することが現実的には困難であるという問題がある。
【0011】
すなわち、理論的には、上述したとおりCaCO3 とFe2 3 とを2:1のモル比で混合した原料粉末を酸素雰囲気で600℃以上に加熱すれば、Ca2 Fe2 5 の組成式を有するカルシウムフェライトを製造することができる。しかし、現実的には、平衡論及び速度論的理由などから目的の組成や均一な結晶相をもつ化合物をコマーシャルベースで得ることが困難である。
【0012】
ところで、近年、環境保全型社会の構築という観点より、産業廃棄物を再生利用したり適正処理したりする必要性がますます高まってきている。
【0013】
例えば、石灰鉱業においては、鉱山から石灰を採掘して石灰石(炭酸カルシウム、CaCO3 )、生石灰(酸化カルシウム、CaO)や消石灰(水酸化カルシウム、Ca(OH)2 )の石灰製品を得ているが、このとき石灰スラッジや石灰残土が産業廃棄物として大量に排出される。これらの廃棄物は利用価値がなく、大半が採掘跡や処分場に経費をかけて捨てられているのが現状である。
【0014】
このため、石灰製造メーカーは、石灰スラッジ等の廃棄物の再生利用を図るべく努力してきたが、石灰スラッジ等の効果的な再生利用は未だ実現していない。
【0015】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、産業廃棄物の再生利用を図りつつ、高い触媒活性を示す酸化触媒を安価かつ容易に得ることを解決すべき技術課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決する本発明の酸化触媒の製造方法は、カルシア源及びフェライト源のうちの少なくとも一方を含む少なくとも一種の廃棄物を少なくとも一部に含む原料を準備する原料準備工程と、前記原料を酸素雰囲気で600〜1449℃に加熱して、Ca2 Fe2 5 の組成式を有するカルシウムフェライト及びCaFe2 4 の組成式を有するカルシウムフェライトのうちの少なくとも一種を含む酸化触媒を得る焼成工程とを備えていることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の酸化触媒の製造方法の好適な態様において、前記原料は、石灰スラッジ、石灰残土、貝殻、フライアッシュ、石炭灰、スラグ、コンクリートがら、セメントスラッジ、下水汚泥焼却灰、製紙スラッジ、磁性材料を使用した製品、該磁性材料を使用した製品の製造工程より排出されるフェライト汚泥、無機廃液フェライト処理残留物、鉄研磨くず、酸化鉄ケーキ、酸化鉄を含む製鉄廃棄物及び赤泥よりなる群から選ばれる少なくとも一種の廃棄物を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の酸化触媒の製造方法は、原料準備工程と、焼成工程とを備えている。
【0019】
前記原料準備工程では、カルシア源及びフェライト源のうちの少なくとも一方を含む少なくとも一種の廃棄物を少なくとも一部に含む原料を準備する。すなわち、この原料準備工程で準備する原料は、一種の廃棄物のみからなるものであってもよいし、複数種の廃棄物からなるものでもあってもよいし、あるいは一種又は複数種の廃棄物の他に市販等されている工業原料等を含むものであってもよい。
【0020】
また、前記原料に含まれる廃棄物は、カルシア源及びフェライト源のうちの少なくとも一方を含むものである。すなわち、この原料に含まれる廃棄物は、カルシア源及びフェライト源のうちのカルシア源のみを含むものであってもよいし、カルシア源及びフェライト源のうちのフェライト源のみを含むものであってもよいし、あるいはカルシア源及びフェライト源の双方を含むものであってもよい。
【0021】
前記カルシア源としては特に限定されず、酸化カルシウム、カルシウムの水酸化物、カルシウムの炭酸化物、カルシウムの硝酸塩及びその水和物、並びにカルシウムの酢酸塩及びその水和物等よりなる群から選ばれる1種又は複数種とすることができる。また、前記フェライト源も特に限定されず、酸化鉄、鉄の水酸化物、鉄の炭酸化物、鉄の硝酸塩及びその水和物、並びに鉄の酢酸塩及びその水和物等よりなる群から選ばれる1種又は複数種とすることができる。
【0022】
ここに、前記原料は、例えば、石灰スラッジ、石灰残土、貝殻、フライアッシュ、石炭灰、スラグ、コンクリートがら、セメントスラッジ、下水汚泥焼却灰、製紙スラッジ、磁性材料を使用した製品、該磁性材料を使用した製品の製造工程より排出されるフェライト汚泥、無機廃液フェライト処理残留物、鉄研磨くず、酸化鉄ケーキ、酸化鉄を含む製鉄廃棄物及び赤泥よりなる群から選ばれる少なくとも一種の廃棄物を含むものであることが好ましい。これらの廃棄物のうち石灰スラッジ、石灰残土、貝殻、フライアッシュ、石炭灰、スラグ、コンクリートがら、セメントスラッジ、下水汚泥焼却灰、製紙スラッジ及び赤泥は何れも、カルシア源及びフェライト源のうちの少なくともカルシア源を含む廃棄物である。また、これらの廃棄物のうち石灰スラッジ、石灰残土、フライアッシュ、石炭灰、スラグ(スラグのうちフェライト源を含む鉄鋼スラグ)、磁性材料を使用した製品、該磁性材料を使用した製品の製造工程より排出されるフェライト汚泥、無機廃液フェライト処理残留物、鉄研磨くず、酸化鉄ケーキ、酸化鉄を含む製鉄廃棄物及び赤泥は何れも、カルシア源及びフェライト源のうちの少なくともフェライト源を含む廃棄物である。そして、これらの廃棄物のうち石灰スラッジ、石灰残土、フライアッシュ、石炭灰、フェライト源を含む鉄鋼スラグ及び赤泥は何れも、カルシア源及びフェライト源の双方を含む廃棄物であり、前記原料として特に好適に用いることができる。
【0023】
石灰スラッジ又は石灰残土は、石灰鉱工業において石灰の採掘及び製品製造工程で排出される廃棄物である。石灰スラッジとしての石灰石水洗スラッジ(石灰岩から石灰石(CaCO3 )を分取する際に排出されるスラッジ)の組成の一例を下記表1に示すように、石灰スラッジ又は石灰残土は、カルシア源としてのCaOを主成分として含むとともに、フェライト源としてのFe2 3 を含む。このため、石灰スラッジ又は石灰残土は、例えば、単独で前記原料としたり、あるいはフェライト源を含む他の廃棄物又はフェライト源を含む工業原料と混合する(必要に応じて、他のカルシア源含有廃棄物又はカルシア源を含む工業原料を混合することも勿論可能)ことで前記原料としたりすることができる。
【0024】
【表1】

【0025】
貝殻は、電力・化学工業においてプラント配管清掃の工程や、食品加工業において食品加工・調理の工程で排出される廃棄物である。貝殻は、カルシア源としてのCaCO3 を含む。このため、貝殻は、例えば、フェライト源を含む他の廃棄物又はフェライト源を含む工業原料と混合することで、前記原料とすることができる。
【0026】
フライアッシュは、火力発電所等で微粉炭を燃焼させたときの排ガス中に含まれる球形微粒の石炭灰である。微粉炭燃焼ボイラから排出されたフライアッシュの組成の一例を下記表2に示すように、フライアッシュは、カルシア源としてのCaOと、フェライト源としてのFe2 3 とを含む。このため、フライアッシュは、例えば、単独で前記原料としたり、他のカルシア源含有廃棄物又はカルシア源を含む工業原料と混合して前記原料としたり、フェライト源を含む他の廃棄物又はフェライト源を含む工業原料と混合して前記原料としたり、あるいは他のカルシア源含有廃棄物又はカルシア源を含む工業原料及びフェライト源を含む他の廃棄物又はフェライト源を含む工業原料と混合して前記原料としたりすることができる。
【0027】
【表2】

【0028】
石炭灰は、火力発電所等で石炭を燃焼させたときの排ガス中に含まれる廃棄物である。火力発電所から排出された石炭灰の組成の一例を下記表3に示すように、石炭灰は、カルシア源としてのCaOと、フェライト源としてのFe2 3 とを含む。このため、石炭灰は、例えば、単独で前記原料としたり、他のカルシア源含有廃棄物又はカルシア源を含む工業原料と混合して前記原料としたり、フェライト源を含む他の廃棄物又はフェライト源を含む工業原料と混合して前記原料としたり、あるいは他のカルシア源含有廃棄物又はカルシア源を含む工業原料及びフェライト源を含む他の廃棄物又はフェライト源を含む工業原料と混合して前記原料としたりすることができる。
【0029】
【表3】

【0030】
スラグは、カラミ、のろ又は鉱滓ともいい、金属鉱石を製錬する過程で分離し、溶融金属の上に浮く非金属性の不要物である。スラグには、例えば製鉄や製鋼業において、鉄鉱原石から粗鋼(銑鉄)をつくる高炉から排出される高炉スラグや粗鋼から鋼鉄をつくる転炉から排出される転炉スラグの他に、銅製錬工程から排出されるカラミ鉄精鉱等がある。これらのスラグには、CaOやCaCO3 等のカルシア源と、Fe2 3 やFeO等のフェライト源とを含むものや、カルシア源及びフェライト源のうちのカルシア源のみを含むもの等がある。例えば、鉄鉱石から粗鋼をつくる高炉から排出された高炉スラグの組成の一例を下記表4に示すように、この高炉スラグはカルシア源及びフェライト源のうちのカルシア源としてのCaOのみを含む。また、銅製錬工程から排出されたカラミ鉄精鉱(フェライト源を含む鉄鋼スラグ)の組成の一例を下記表5に示すように、このカラミ鉄精鉱はフェライト源としてのFeOを主成分として含むとともに、カルシア源としてのCaOを少量含む。このため、スラグは、例えば、単独で前記原料としたり、他のカルシア源含有廃棄物又はカルシア源を含む工業原料と混合して前記原料としたり、フェライト源を含む他の廃棄物又はフェライト源を含む工業原料と混合して前記原料としたり、あるいは他のカルシア源含有廃棄物又はカルシア源を含む工業原料及びフェライト源を含む他の廃棄物又はフェライト源を含む工業原料と混合して前記原料としたりすることができる。
【0031】
【表4】

【0032】
【表5】

【0033】
コンクリートがらは、建設・土木業において建設作業の工程で排出される廃棄物である。コンクリートがらは、カルシア源としてのカルシウムを含む酸化物やその水和物を含む。このため、コンクリートがらは、例えば、フェライト源を含む他の廃棄物又はフェライト源を含む工業原料と混合することで、前記原料とすることができる。
【0034】
セメントスラッジは、建設・土木業においてセメントの利用や輸送の工程で排出される廃棄物である。セメントスラッジは、カルシア源としてのカルシウムを含む酸化物やその水和物CaCO3 を含む。このため、セメントスラッジは、例えば、フェライト源を含む他の廃棄物又はフェライト源を含む工業原料と混合することで、前記原料とすることができる。
【0035】
下水汚泥焼却灰は、下水処理工程で排出される廃棄物であり、カルシア源としてのカルシウムを含む酸化物やその水和物を含む。このため、下水汚泥焼却灰は、例えば、フェライト源を含む他の廃棄物又はフェライト源を含む工業原料と混合することで、前記原料とすることができる。
【0036】
製紙スラッジは、製紙業において製紙の排水処理工程で排出される廃棄物である。製紙スラッジは、カルシア源としてのカルシウムを含む酸化物やその水和物を含む。このため、製紙スラッジは、例えば、フェライト源を含む他の廃棄物又はフェライト源を含む工業原料と混合することで、前記原料とすることができる。
【0037】
磁性材料を使用した製品としては、特に限定されず、フェライト磁石、ビデオテープや録音テープ等の磁気テープ、フロッピーディスク等の磁気ディスク、磁気カード、フェライトコア、磁気センサや磁気スイッチ等を例示することができる。
【0038】
磁性材料を使用した製品の製造工程より排出されるフェライト汚泥(フェライトスラッジ)は、フェライト磁石、磁気テープ、磁気ディスク、磁気カードやフェライトコア等の磁性材料を使用した製品を製造する際に発生する廃棄物であり、原料であるフェライトを含む廃水やそれを脱水した汚泥である。
【0039】
無機廃液フェライト処理残留物は、重金属を含む無機廃液にフェライトを大量投与してフェライト化合物として重金属を固化する廃水の重金属固定化処理工程において発生する大量のフェライト化合物である。
【0040】
鉄研磨くずは、鉄製品加工業において研削、研磨加工をする際に発生する、いわゆる研削くず、研磨くずである。
【0041】
酸化鉄ケーキは、鉄製品加工業において研削、研磨加工をする際に発生した研削くず、研磨くずを水洗することにより発生する、鉄が酸化した酸化鉄を含んだケーキ(固形化物)である。
【0042】
酸化鉄を含む製鉄廃棄物は、電気炉ダストやスラッジ、ミルスケールといった酸化鉄を含む製鉄廃棄物や、製鉄業で研磨、研削工程より排出される酸化鉄を含む排水とその固形化物の総称である。
【0043】
赤泥は、アルミニウム製造工程から排出される廃棄物である。ボーキサイトを水酸化ナトリウムで処理して、アルミナを抽出した後に排出された赤泥の組成の一例を下記表6に示すように、この赤泥はフェライト源としてのFe2 3 を主成分として含むとともに、カルシア源としてのCaOを含む。このため、赤泥は、例えば、単独で前記原料としたり、他のカルシア源含有廃棄物又はカルシア源を含む工業原料と混合して前記原料としたり、フェライト源を含む他の廃棄物又はフェライト源を含む工業原料と混合して前記原料としたり、あるいは他のカルシア源含有廃棄物又はカルシア源を含む工業原料及びフェライト源を含む他の廃棄物又はフェライト源を含む工業原料と混合して前記原料としたりすることができる。
【0044】
【表6】

【0045】
ここに、後述するように、原料準備工程で準備する原料におけるカルシア源とフェライト源との混合モル比Ca/Feの値と、焼成工程における加熱温度とに応じて、焼成工程で得られる酸化触媒の種類が変化し、触媒活性が変化する。
【0046】
焼成工程で触媒活性の高い酸化触媒を得る観点より、混合モル比Ca/Feの上限は3.0とすることが好ましく、2.0とすることがより好ましく、1.0とすることが特に好ましい。また、同様の観点より、混合モル比の下限は0.33とすることが好ましい。後述するように、混合モル比Ca/Feの値が1を超え、かつ、焼成工程の加熱温度が600〜1438℃であるときは、CaO粉末とCa2 Fe2 5 の組成式を有するカルシウムフェライト粉末との混合粉末よりなる酸化触媒を得ることができるが、このときの混合モル比Ca/Feの値が3.0を超えると、CaO粉末とCa2 Fe2 5 の組成式を有するカルシウムフェライト粉末との混合粉末中に占めるCaO粉末の割合が大きくなりすぎて、触媒活性が低下する。一方、後述するように、混合モル比Ca/Feの値が0.5未満で、かつ、焼成工程の加熱温度が600〜1155℃であるときは、CaFe2 4 の組成式を有するカルシウムフェライト粉末とFe2 3 (ヘマタイト)粉末との混合粉末よりなる酸化触媒を得ることができるが、このときの混合モル比Ca/Feの値が0.33未満になると、CaFe2 4 の組成式を有するカルシウムフェライト粉末とFe2 3 (ヘマタイト)粉末との混合粉末中に占めるFe2 3 (ヘマタイト)の割合が大きくなりすぎて、触媒活性が低下する。
【0047】
なお、前述したように、前記原料に用いる廃棄物は、カルシア源及びフェライト源以外の種々の不要成分を含んでいる。これらの不要成分は、焼成工程後に、カルシウムフェライト粉末と独立して存在するか、あるいはカルシウムフェライトに一部が取り込まれて存在するものの、カルシウムフェライトの触媒機能には悪影響を及ぼさないため、問題とならない。
【0048】
前記焼成工程では、前記原料を酸素雰囲気で600〜1449℃に加熱して、Ca2 Fe2 5 の組成式を有するカルシウムフェライト及びCaFe2 4 の組成式を有するカルシウムフェライトのうちの少なくとも一種を含む酸化触媒を得る。
【0049】
この焼成工程における加熱温度が600℃未満になると、得られるカルシウムフェライトの酸化触媒機能が不十分になるおそれがある。焼成工程での加熱温度の下限は、好ましくは800℃である。
【0050】
酸素雰囲気における酸素濃度は特に限定されないが、なるべく高い方が望ましく、5%以上とすることが好ましく、10%以上とすることがより好ましい。また、加熱時間は1時間以上とすることが好ましく、2時間以上とすることがより好ましい。なお、加熱時間の上限は5時間程度とすることができる。なお、加熱後は、炉内で徐冷することが望ましいが、加熱終了後に炉外で急冷してもかまわない。
【0051】
そして、この焼成工程では、原料準備工程で準備した原料中の混合モル比Ca/Feに応じて、加熱温度を600〜1449℃の範囲内で適宜調整することにより、図3のCa−Fe−O系の相平衡図に示されるように、混合モル比及び加熱温度に応じて、それぞれ所定の生成物を得ることができる。
【0052】
なお、図3の横軸はCaOとFe2 3 の重量比を百分率で表したものである。また、図3の横軸において、58の値の近傍にある白丸は、前記混合モル比がCa/Fe=1のときであり、このときにCa2 Fe2 5 が単相で得られ、また、74の値の近傍にある白丸は、前記混合モル比がCa/Fe=0.5のときであり、このときにCaFe2 4 が単相で得られ、また、85の値の近傍にある白丸は、前記混合モル比がCa/Fe=0.25のときであり、このときにCaFe4 7 が単相で得られる。
【0053】
すなわち、前記混合モル比Ca/Feが1.0<Ca/Feであるときに600〜1438℃の加熱温度で加熱したときは、CaO粉末とCa2 Fe2 5 の組成式を有するカルシウムフェライト粉末とを理論的には得ることができる。また、前記混合モル比がCa/Fe=1であるときに600〜1449℃の加熱温度で加熱したときは、Ca2 Fe2 5 の組成式を有するカルシウムフェライト粉末を理論的には得ることができる。また、前記混合モル比が0.5<Ca/Fe<1であるときに600〜1216℃の加熱温度で加熱したときは、Ca2 Fe2 5 の組成式を有するカルシウムフェライト粉末とCaFe2 4 の組成式を有するカルシウムフェライト粉末とを理論的には得ることができる。また、前記混合モル比がCa/Fe=0.5であるときに600〜1216℃の加熱温度で加熱したときは、CaFe2 4 がの組成式を有するカルシウムフェライト粉末を理論的には得ることができる。また、前記混合モル比が0.25≦Ca/Fe<0.5であるときに1155〜1205℃の加熱温度で加熱したときは、CaFe2 4 の組成式を有するカルシウムフェライト粉末と、CaFe4 7 の組成式を有するカルシウムフェライト粉末とを理論的には得ることができる。また、前記混合モル比が0<Ca/Fe<0.5であるときに600〜1155℃の加熱温度で焼成したときは、CaFe2 4 の組成式を有するカルシウムフェライト粉末と、Fe2 3 (ヘマタイト)粉末とを理論的には得ることができる。また、前記混合モル比が0<Ca/Fe<0.25であるときに1155〜1226℃の加熱温度で焼成したときは、Ca2 Fe2 5 の組成式を有するカルシウムフェライト粉末と、Fe2 3 (ヘマタイト)粉末とを理論的には得ることができる。
【0054】
なお、前記混合モル比Ca/Feが1.0≦Ca/Feであるときに1438℃以下の加熱温度で加熱した場合に得られるCaO粉末は、原料中のCaOがそのまま残存したものである。同様に、前記混合モル比が0<Ca/Fe<0.5であるときに600〜1155℃の加熱温度で焼成した場合、及び前記混合モル比が0<Ca/Fe<0.25であるときに1155〜1226℃の加熱温度で焼成した場合に得られるFe2 3 (ヘマタイト)粉末も、原料中のFe2 3 がそのまま残存したものである。また、加熱温度の上限が上述した範囲から外れると、液相ができてしまい、得られる粉末の酸化触媒機能が不十分となる。
【0055】
また、焼成工程での加熱温度は、上述した所定の範囲内であまり高くしすぎても、それによるメリットはない。このため、焼成工程での加熱温度の上限は1200℃とすることが好ましく、1000℃とすることがより好ましい。
【0056】
こうして、前記焼成工程では、理論的には、前記混合モル比がCa/Fe=0.25であるときを除き(理論的には、Ca/Fe=0.25であるときはCaFe4 7 の組成式を有するカルシウムフェライトが得られ、Ca2 Fe2 5 の組成式を有するカルシウムフェライトもCaFe2 4 の組成式を有するカルシウムフェライトも得られない。)、Ca2 Fe2 5 の組成式を有するカルシウムフェライト及びCaFe2 4 の組成式を有するカルシウムフェライトのうちの少なくとも一種を含む酸化触媒を得ることができる。
【0057】
この焼成工程で得られるCa2 Fe2 5 の組成式を有するカルシウムフェライト又はCaFe2 4 の組成式を有するカルシウムフェライトは、高い触媒活性を示し、大きな酸化触媒機能を発揮する。このCa2 Fe2 5 の組成式又はCaFe2 4 の組成式を有するカルシウムフェライトが高い触媒活性を示すメカニズムは必ずしも明らかではないが、以下のように考えることができる。すなわち、Ca2 Fe2 5 又はCaFe2 4 は、200℃程度以上の温度域で圧縮や引っ張り等の力が加わることによって構造中の酸素が不安定となり、これが活性酸素となって、スーパーオキサイドアニオン(O2 - )等の活性酸素を構造中に内包する。そして、このようにCa2 Fe2 5 又はCaFe2 4 中に内包された活性酸素が外部に放出されると、高い触媒活性を示して大きな酸化触媒機能を発揮する。活性酸素を放出したCa2 Fe2 5 又はCaFe2 4 には外部からの酸素が構造中に取り込まれる。そして再びCa2 Fe2 5 又はCaFe2 4 の構造中の酸素が不安定になり、活性酸素として外部に放出される。このようにCa2 Fe2 5 又はCaFe2 4 は、構造中で不安定となって生成した活性酸素を外部に放出し、外部から酸素を構造中に取り込み、そして再び活性酸素として外部に放出することを繰り返して、大きな酸化触媒機能を発揮すると考えられる。
【0058】
また、前記焼成工程で得られるCaFe4 7 の組成式を有するカルシウムフェライトもCa2 Fe2 5 又はCaFe2 4 の組成式を有するカルシウムフェライトと同様のメカニズムによって、高い触媒活性を示し、大きな酸化触媒機能を発揮すると考えられる。
【0059】
さらに、前記焼成工程で得られるCaO及びFe2 3 は、上述したカルシウムフェライトとは異なるメカニズムにより、酸化触媒機能を発揮する。
【0060】
本発明の製造方法により得られるCaO粉末、Ca2 Fe2 5 の組成式を有するカルシウムフェライト粉末、CaFe2 4 の組成式を有するカルシウムフェライト粉末、CaFe4 7 の組成式を有するカルシウムフェライト粉末及びFe2 3 (ヘマタイト)粉末のうちでは、Ca2 Fe2 5 の組成式を有するカルシウムフェライト粉末が最も高い触媒活性を示し、CaFe2 4 の組成式を有するカルシウムフェライト粉末がその次に高い触媒活性を示す。このため、少なくともCa2 Fe2 5 の組成式を有するカルシウムフェライト粉末が得られるような混合モル比及び加熱温度を採用することが好ましい。
【0061】
このように本発明の酸化触媒の製造方法によれば、原料準備工程で、カルシア源及びフェライト源のうちの少なくとも一方を含む少なくとも一種の廃棄物を少なくとも一部に含む原料を準備し、この原料を酸素雰囲気で600〜1449℃の範囲内で加熱するという、極めて簡単な方法により、高い酸化触媒活性を示すCa2 Fe2 5 の組成式を有するカルシウムフェライト及びCaFe2 4 の組成式を有するカルシウムフェライトのうちの少なくとも一種を含む酸化触媒を得ることができる。また、このとき得られる他の粉末もそれぞれが酸化触媒機能を発揮する。このため、本発明の製造方法によれば、廃棄物を利用するとともに、貴金属に比べて安価なカルシア源及び/又はフェライト源を含む工業原料を必要に応じて用いることにより、高い触媒活性を示す酸化触媒を極めて安価に得ることができる。しかも、原料調整工程で、特定の一点をねらって前記混合モル比を調整する必要がない。したがって、本発明の製造方法によれば、高い触媒活性を示す酸化触媒を安価かつ容易に得ることが可能となる。
【0062】
また、カルシア源及び/又はフェライト源を含む産業廃棄物の再生利用を図ることが可能となる。
【0063】
本発明の製造方法により得られた酸化触媒の使用形態としては特に限定されない。例えば、前記焼成工程で得られた粉末を酸化触媒としてそのまま用いたり、該粉末を所定形状に成形した成形体を酸化触媒として用いたり、あるいは担体上に該粉末を担持させて用いたりすることができる。
【0064】
なお、成形体の形状は、使用目的に併せて任意に決定され、顆粒、平板、柱状、円筒管、中空糸、モノリスやハニカムなどが例示される。また、成形時には形状とともに成形体の緻密さ、あるいは多孔質化が求められ、これらはその使用目的等に応じて、任意に設計することができる。成形方法としては、セラミックス成形体の製造において使用される通常の方法を用いることができ、例えば、鋳込み成形、加圧成形、乾式CIP成形、射出成形、シート成形などを使用することができる。
【0065】
よって、本発明の酸化触媒の製造方法により得られた酸化触媒は、例えば排ガス浄化用触媒、特に自動二輪車用の排ガス浄化用触媒に好適に利用することができる他、ボイラー等の各種燃焼装置から排出される排ガス浄化用触媒や薬品等の化学物質の生成反応を促進させる反応促進用触媒にも好適に利用することができる。
【0066】
加えて、前記焼成工程で得られるCa2 Fe2 5 等の組成式を有するカルシウムフェライト及び未反応物としてのCaOやCa(OH)2 等の石灰は、上述した酸化触媒機能の他に酸性ガス吸収機能を併せもつ。すなわち、これらのカルシウムフェライトや石灰は、例えば都市ごみ焼却場から排出されるガス中の塩化水素(HCl)等の酸性ガスを中和反応により除去、回収することのできる酸性ガス吸収機能をもっている。このため、例えば、F、ClやBr等のハロゲンを含む含ハロゲン有機化合物(例えば、クロロベンゼンやクロロフェノール)の酸化分解を行う場合に、分解生成物中に含まれるハロゲン化合物(酸性ガス)を、本発明の製造方法により得られた酸化触媒で、有効に吸収することができる。また、本発明の製造方法により得られた酸化触媒は、例えば都市ごみ焼却場の炉中に吹き込まれることにより、炉中で燃えていないすすや炭化水素を酸化により完全に燃焼させる酸化触媒機能と、排ガス中の酸性ガスを除去、回収することのできる酸性ガス吸収機能とを発揮しうるので、ダイオキシン等の生成を抑制することも可能となり、都市ごみ焼却場の排ガス浄化剤として極めて有効に利用することができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0068】
<原料準備工程>
産業廃棄物の一種として、カルシア源含有廃棄物として、下記表7に組成(酸化物換算値)を示す石灰スラッジを準備した。
【0069】
【表7】

【0070】
この石灰スラッジは、カルシア源としてのCaOを主成分として41.5wt%含み、かつ、フェライト源としてのFe2 3 を1.6wt%含むものである。この石灰スラッジにおけるCaOとFe2 3 の量論比は、Fe2 3 に対してCaOが圧倒的に多い。このため、本実施例では、フェライト源の不足分を補充すべく、前記石灰スラッジに対して市販の工業原料(Fe2 3 )を所定量添加して、混合原料を準備した。
【0071】
このとき、この混合原料におけるカルシア源とフェライト源の混合モル比を下記表8に示すものとして、No.1及び2の混合原料とした。
【0072】
【表8】

【0073】
<焼成工程>
次に、上記混合原料を電気炉に入れ、空気雰囲気下で室温から1000℃まで約1時間で昇温し、その温度で3時間保持した後、自然放冷してNo.1及び2の触媒試料を得た。
【0074】
なお、得られた触媒試料は外気に触れないよう、プラスチック製試料ビンに入れた保存した。
【0075】
(XRD(結晶相)評価)
触媒試料No.1及び2について、触媒試料中に含まれる結晶相を同定するため、粉末X線回折装置(製品名「RINT−2600TTR」、理学電機社製)を用いて、以下に示す手順により回折パターンを測定した。
【0076】
まず、乳鉢を用いて触媒試料を十分に微細化した。そして、触媒試料を測定用サンプルホルダ(ガラス製、深さ0.2mm)に適量とり、ガラス板を押し付けてセル上の粉体表面を平らにした。このサンプルホルダをX線回折装置にセットし、触媒試料表面にCuKα線(管電圧50kV、管電流100mA)を照射してX線回折パターンを測定した。なお、ゴニオメーターの走査範囲は2θ=10.0〜80.0°、スキャンスピードは1.0°/minとした。また、結晶相の同定はASTM(Ca2 Fe2 5 :47−1711、CaFe2 4 :32−0168)カードを用いて行った。
【0077】
その結果、前記混合モル比Ca/Feが1.0である試料No.1は、Ca2 Fe2 5 に帰属する回折パターンが確認された。また、前記混合モル比Ca/Feが0.5である試料No.2は、CaFe2 4 に帰属する回折パターンが確認された。
【0078】
これらの結果は、図3に示すCa−Fe−O系の相平衡図により、理論的に予測できるものと同様であった。
【0079】
(比表面積測定)
試料No.1及び2について、以下に示す手順の窒素吸着法による一点法で、U字管型のガラス製セルを使用して、BET比表面積を測定した。
【0080】
まず、セルの重量を測定後、セルに触媒試料を0.50g入れた。そして、触媒試料を入れたセルに逆止弁付きコネクタを取り付け、脱気ポートに装着し、セル下部からマントルヒータをかぶせた。ヘリウムと窒素の混合ガスをU字管内に流しながら105℃で約20分間加熱し、予め触媒試料に吸着している成分を除去し、同時に混合ガスでセル内をパージした。そして、セルを脱気ポートから取り外し、比表面積測定ポートに装着した。そして、セル内の圧力が0.02Torr以下で飽和するまで脱気した。それから液体窒素によりセルを冷却し、触媒表面に窒素を十分吸着させた。液体窒素からセルを取り出し、ファンによる温風で加熱しながら圧力変化を測定し、脱離した窒素ガス量を算出した。そして、測定後の試料の入ったセル重量と、測定前のセル重量との差から触媒単位重量当たりの窒素脱離量を求め、BET多分子吸着モデルに基づき触媒の比表面積を算出した。
【0081】
結果を前記表8に示すが、No.1の触媒試料は比表面積が3.2m2 /gであり、No.2の触媒試料は比表面積が1.6m2 /gであった。
【0082】
(ラマン分光測定)
試料No.1及び2の触媒試料について、構造中に含まれる活性酸素の有無及び種類を確認するため、以下に示す手順でラマンスペクトルを測定した。
【0083】
まず、乳鉢を用いて触媒試料を十分に微細化した。そして、触媒試料をスライドガラス上に適量とり、カバーガラスを押し付けて粉体表面を平らにした。このスライドガラスをラマン分光分析装置(製品名「NRS−1000」、日本分光社製)にセットし、スリットにより減光したレーザビーム(ビーム径1μmのグリーンレーザ(波長:532nm))を触媒試料粒子に照射してラマンスペクトルを測定した。なお、測定に際し、スペクトルの積算回数は2回、露光時間は1回当たり2分間とした。
【0084】
Ca/Feが1.0であり生成物がCa2 Fe2 5 である試料No.1は、1093cm-1にラマンシフトが確認され、Ca/Feが0.5であり生成物がCaFe2 4 である試料No.2は、1022cm-1と、1093cm-1とにラマンシフトが確認された。従来の研究(S.Fujita et al., Chem.Mater., 15, 4879(2003)、L.C.Campelo et al., J.Raman Spectrosc., 10, 33(1981))により、O2 - が1075cm-1付近に、O3 - が1019cm-1付近にスペクトルをもつことが報告されていることから、試料No.1はO2 - の活性酸素、試料No.2はO3 - とO2 - の活性酸素を構造中に内包すると考えられる。
【0085】
(触媒性能評価)
試料No.1及び2について、触媒性能を評価するために、図1に模式構成図を示すガス流通式触媒反応装置を用いて、以下に示す手順で、プロピレン酸化に対する触媒活性を調べた。
【0086】
このガス流通式触媒反応装置は、サンプルガスを混合するガスミキサー1と、電気炉2と、電気炉2内で所定温度に加熱される石英ガラス製の反応管3と、FIDガスクロマトグラフ(有機ガス検出用)4と、TCDガスクロマトグラフ(無機ガス検出用)5とを備えている。なお、FIDガスクロマトグラフ4には[Porapak(登録商標) Type Q」を用いた。また、TCDガスクロマトグラフ5には、「Active Carbon、Mesh60/80」をステンレス製カラム(2m)に充填したものを装着した。
【0087】
また、サンプルガスは、ヘリウムバランスプロピレンガス(C3 6 :2000ppm)、純酸素ガス、純ヘリウムガスを混合希釈したものを用いた。
【0088】
まず、乳鉢を用いて触媒試料を十分に微細化した。そして、触媒試料を反応管3に充填した。反応管3は内径4mm、高さ約150mmのU字形をしており、触媒の充填層高さが10mmとなるように0.084g充填した。なお、充填層の上下は適量のロックウールでパッキングした。そして、この反応管3を電気炉2に設置した。充填層温度は、予め充填層横の管壁に取り付けた熱電対により計測し、温度コントローラを用いて制御した。なお、試料粉末により充填層の圧損が異なることから、石けん膜流量計を用いて反応管出口ガスの流量を保証した。サンプルガスの全ガス量は20mリットル/minに調整した。そして、反応管3内に酸素及びヘリウムの混合ガス(O2 :10vol%)を流し、管内をパージした。電気炉2を昇温加熱し、所定温度(〜900℃)に到達した後、サンプルガスにプロピレンガスを加え、反応管3入り口ガスの組成を、C3 6 :1000ppm、O2 :10%とした。そのまま30分間定常化のため放置してから、触媒性能評価を開始した。
【0089】
触媒性能評価にあたり、反応管3の入り口/出口ガスに含まれるC3 6 濃度をFIDガスクロマトグラフ4により、CO2 濃度及びCO濃度をTCDガスクロマトグラフ5により測定した。なお、FIDガスクロマトグラフ4及びTCDガスクロマトグラフ5のカラム温度はそれぞれ100℃及び160℃とした。クロマトグラフはインテグレータを用いて記録・解析し、C3 6 ガス、CO2 ガス及びCOガスの各ピーク面積より各ガス濃度を算出した。
【0090】
そして、以下に定義されるC3 6 分解率、COX 選択率により、触媒活性を評価した。
【0091】
(C3 6 分解率)[%]={1−(反応管出口のC3 6 濃度)/(反応管入り口のC3 6 濃度)}×100
(COX 選択率)[%]=[(反応管出口のCOX 濃度)/{(反応管入り口のC3 6 濃度−反応管出口のC3 6 濃度)×3}]×100
試料No.1及び2について、プロピレン分解率と反応温度との関係を図2に示す。なお、図2中、Ca/Fe=1.0が試料No.1に対応し、Ca/Fe=0.5が試料No.2に対応する。また、比較のため、触媒試料を入れなかった場合のデータも併せて図2に示す。
【0092】
試料No.1及び2は、いずれも300℃以上で触媒活性を示し、また、いずれも600℃程度で100%の分解率となった。
【0093】
これらの試料No.1及び2は、比表面積が3.2m2 /g及び1.6m2 /gであり、通常の酸化触媒に用いられる白金触媒やフェライト(Fe2 3 )触媒の比表面積が100〜200m2 /g程度と比べて、1〜2桁も小さいにもかかわらず、白金触媒に近い触媒活性を示すことが確認された。
【0094】
(比較例)
前記原料準備工程で、カルシア源含有廃棄物としての石灰スラッジを用いる代わりに市販の工業原料(CaO粉末)を用いこと以外は、前記実施例と同様にして、混合原料を得た。なお、この混合原料における前記混合モル比はCa/Fe=1とした。そして、前記実施例と同様にして、この混合原料から比較例の触媒試料を得た。
【0095】
得られた比較例の触媒試料について、前記実施例と同様にして、前述の触媒性能評価を行った。その結果、カルシア源含有廃棄物を用いたNo.1の触媒試料(Ca/Fe=1)の触媒活性は、カルシア源及びフェライト源ともに市販の工業原料を用いた比較例の触媒試料(Ca/Fe=1)に比べて劣るものの、その際は反応温度で100℃程度であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本実施例に係る触媒試料No.1及び2について、触媒性能を評価するために用いたガス流通式触媒反応装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本実施例に係る触媒試料No.1及び2について、プロピレン分解率と反応温度との関係を示す図である。
【図3】Ca−Fe−O系の相平衡図である。
【符号の説明】
【0097】
1…ガスミキサー 2…電気炉
3…反応管 4…FIDガスクロマトグラフ
5…TCDガスクロマトグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシア源及びフェライト源のうちの少なくとも一方を含む少なくとも一種の廃棄物を少なくとも一部に含む原料を準備する原料準備工程と、
前記原料を酸素雰囲気で600〜1449℃に加熱して、Ca2 Fe2 5 の組成式を有するカルシウムフェライト及びCaFe2 4 の組成式を有するカルシウムフェライトのうちの少なくとも一種を含む酸化触媒を得る焼成工程とを備えていることを特徴とする酸化触媒の製造方法。
【請求項2】
前記原料は、石灰スラッジ、石灰残土、貝殻、フライアッシュ、石炭灰、スラグ、コンクリートがら、セメントスラッジ、下水汚泥焼却灰、製紙スラッジ、磁性材料を使用した製品、該磁性材料を使用した製品の製造工程より排出されるフェライト汚泥、無機廃液フェライト処理残留物、鉄研磨くず、酸化鉄ケーキ、酸化鉄を含む製鉄廃棄物及び赤泥よりなる群から選ばれる少なくとも一種の廃棄物を含むことを特徴とする請求項1記載の酸化触媒の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−297324(P2006−297324A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−125146(P2005−125146)
【出願日】平成17年4月22日(2005.4.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月1日 国立大学法人名古屋大学主催の「平成16年度 名古屋大学工学部分子・生物化学工学科分子化学工学コース 卒業研究発表会」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年3月22日 社団法人化学工学会主催の「化学工学会 第70年会」において文書をもって発表
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】