説明

酸化還元応答性メソポーラス無機材料及びその誘導体の調製方法並びに触媒

【課題】内包物質の放出制御又は触媒反応の制御に用い得る材料を提供する。
【解決手段】一次元細孔が規則的に配列した構造を有するメソポーラス無機材料であって、酸化剤もしくは還元剤の作用により可逆的に結合を形成もしくは開裂させ得る官能基を細孔口に有するメソポーラス無機材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細孔配置がヘキサゴナル状のメソポーラス無機材料、特にメソポーラスシリカおよびその誘導体に、酸化還元作用により可逆的に結合を形成・開裂する置換基を有する有機官能基を修飾した有機基修飾メソポーラス無機材料、およびこの有機基修飾無機材料を用いて、酸化還元作用により有機基の形態を変化させることによりメソポーラス体の細孔内外のアクセスを規制・制御するシステム及び触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
化学物質を固体材料内に包含し、内部から外部への徐放機能を用いる技術は、コントロール・リリース・システムと呼ばれ、近年注目されている技術である。産業での利用としては、例えば、医薬、農薬、化粧品類、種々の触媒、肥料、香料等、与えられた環境に応じて、種々の機能を発揮する化学物質を必要な時、必要な量供給できる技術となる。このことは、化学物質の有効利用のみならず、環境へのリスク(化学物質による汚染)の低減や医療においては副作用の抑制(ドラッグ・デリバリー・システム)等の先端技術とも直結する。従来のコントロール・リリース・システム技術では、連続的に化学物質を徐放することはできても、必要な時に必要なだけ化学物質を徐放するというオン−オフ制御を備えたものは少なかった。
【0003】
このような化学物質のアクセスをオン−オフ制御するコントロール・リリース・システムに、シリカ固体を用いることが検討され始めている。シリカ(ゲル)は、環境や生体へのリスクのほとんどない無害な化合物であるため、今後広く実用化される可能性の高い材料であるからである。その一つの特徴は、材料内部に大きな細孔を持つことであり、内部に種々の化学物質を吸着、内包することができる。この内包化学物質の外部へのアクセスは、徐放的に行うコントロール・リリース・システムに応用できると期待できる。さらに最近、シリカゲルやカプセル状シリカに徐放のオン−オフ制御機能を持たす技術も特許として出願されている(特許文献1〜3)。しかしながら、内包物の徐放制御は、外部へのアクセス、すなわち外部への出口が均一のものがより精密な制御を可能にすると期待される。
【0004】
細孔の直径や配置構造が規則正しいMCM−41等のメソポーラスシリカ体、およびその誘導体を、この徐放機能材料へ応用する例が、最近脚光を浴びている。このMCM−41内に包含された薬物の自然拡散による徐放の特性については報告がなされているが(非特許文献1)、その細孔の出入口近傍に、光応答性有機官能基を導入し、その可逆的光二
量化反応により細孔入口の開閉をオン−オフ制御して、メソポーラスシリカ体のコントロール・リリース・システムおよびドラッグ・デリバリー・システムへと応用した技術もその後報告された(特許文献4)。また、最近、細孔内に修飾した光応答性有機置換基の運動により徐放速度を促進させる技術も報告されている(特許文献5)。しかしながら、従
来の技術では、可逆的酸化還元応答性を持った技術、およびそれを触媒活性の制御に用いる例は知られていない。
【0005】
酸化還元反応を可逆的に行う有機置換基としては、例えば、ジスルフィド基が知られている。そして、この置換基をシリカ材料に導入することは、多く検討されている。しかしながらそのほとんどは、ゴム等へスルフィド基を有するシリカを添加して、ゴム等の機械的強度や振動や老朽化への耐久性を向上させる等に用いられている(特許文献6〜11)の
みであり、シリカ細孔を塞ぐという目的には用いられていない。また、酸化還元作用によるドラッグデリバリーシステムとしては、硫化カドミウムのナノ粒子(非特許文献2)や
環状高分子(非特許文献3)をメソポーラスシリカのフタとして用い、還元剤の作用でそ
のフタをはずすという技術が報告されているが、このフタは一度離れると元には戻れないため、非可逆的システムである。
【特許文献1】特開2000-279717
【特許文献2】特開2001-131249
【特許文献3】特開2001-213992
【特許文献4】特開2004-026636
【特許文献5】特願2005-074209
【特許文献6】特開2003-055506
【特許文献7】特開2000-296703
【特許文献8】特開2000-119400
【特許文献9】特開平10-182847
【特許文献10】特開平09-328576
【特許文献11】特開平08-259739
【非特許文献1】M.Vallet−Regiら、Chem.Mater.Vol.13,308頁、2001年
【非特許文献2】C.-Y. Lai, B. G. Trewyn, D. M. Jeftinija, K. Jeftinija, S. Xu, S. Jeftinija, V. S.Y. Lin, J. Am. Chem. Soc., vol-125, 4451-4459 (2003)
【非特許文献3】R. Hernandez, H.-R Tseng, J. W. Wong, J. F. Stoddart, J. I. Zink, J. Am. Chem. Soc., vol-126, 3370-3371 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、酸化還元条件に可逆的に応答性できる機能を持ったメソポーラス無機材料、およびそれを用いてのコントロール・リリース・システムおよびドラッグ・デリバリー・システム技術、および触媒活性のオン−オフ制御技術に関する技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
MCM−41等のメソポーラス無機材料の細孔入口近傍に、酸化還元の刺激に対し可逆的に化学結合を形成・開裂することができる有機官能基を選択的に導入し、その可逆的反応を細孔のバルブのように作用させ、細孔入口の開閉をオン−オフ制御し、細孔内外での化学物質のアクセスを酸化還元作用により制御できることを見いだし、また、その作用が触媒反応の進行の制御にも応用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、以下の発明を提供するものである。
1. 一次元細孔が規則的に配列した構造を有するメソポーラス無機材料であって、酸化剤もしくは還元剤の作用により可逆的に結合を形成もしくは開裂させ得る官能基を細孔口に有するメソポーラス無機材料。
2. 前記無機材料がシリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、リン酸スズ、リン酸ニオブ、リン酸アルミニウム、リン酸チタン、並びにそれらの酸化物、窒化物、硫化物、セレン化物、テルル化物、複合酸化物及び複合塩からなる群から選ばれるいずれか1種である項1に記載のメソポーラス無機材料。
3. 前記無機材料が細孔内部で触媒部位を有する項1記載のメソポーラス無機材料。
4. 前記官能基の酸化型がジスルフィド基(−SS−)、還元型が2つのチオール基(−SH)から構成される、項1〜3のいずれかに記載のメソポーラス無機材料。
5. 細孔内に機能性物質が充填されてなる項1〜4のいずれかに記載のメソポーラス無機材料。
6. 機能性物質が細孔内に充填されたメソポーラス無機材料の製造方法であって、
(1)水溶液中で界面活性剤を鋳型として、一次元細孔が規則的に配列した構造を有する
メソポーラス無機材料を調製する工程、
(2)界面活性剤を除去する工程、
(3)工程(2)において得られたメソポーラス無機材料に、酸化剤の作用により可逆的に結合を形成し得る還元型官能基をメソポーラス無機材料の細孔口に導入する工程、
(4)機能性物質をメソポーラス無機材料の細孔内に充填する工程、及び
(5)(3)で導入した官能基に酸化剤を作用させて可逆的に結合を形成する工程を含む、製造方法。
7. 機能性物質の放出を制御する方法であって、(1)項5に記載のメソポーラス無機材料に還元剤を与えて官能基の結合を可逆的に開裂して機能性物質を放出させる工程、及び(2)酸化剤により官能基の結合を形成して(1)における機能性物質の放出を停止させる工程を有する、方法。
8. 細孔内に触媒部位を有し、かつ、酸化剤もしくは還元剤の作用により可逆的に結合を形成もしくは開裂させ得る官能基を細孔口に有するメソポーラス無機材料に触媒の作用を受け得る物質を共存させた触媒システムにおいて、酸化剤もしくは還元剤を使用して細孔内で起こる触媒反応の進行を制御する触媒システム。
9. 一次元細孔が規則的に配列した構造を有し、かつ、前記細孔内に触媒部位を有するメソポーラス無機材料系触媒であって、酸化剤もしくは還元剤の作用により可逆的に結合を形成もしくは開裂させ得る官能基を細孔口に有する触媒。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の酸化還元応答性有機基修飾メソポーラス無機材料、例えばメソポーラスシリカ体およびその誘導体は、例えば、次のように調製される。
【0010】
すなわち、既知の方法あるいは既知の方法を改良した方法で、界面活性剤を鋳型として調製したMCM−41型メソポーラスシリカの鋳型除去前の粗生成物を焼成処理して、メソポーラスシリカ体を得る。この際用いる鋳型としての界面活性剤は、水溶液中で棒状ミセル作るものなら特に限定されず、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、臭化オクタデシルトリメチルアンモニウム、臭化デシルトリメチルアンモニウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルジメチルエチルアンモニウム、ヘキサデシルアミン、ドデシル硫酸ナトリウム等をあげることができる。また中性の界面活性剤であるヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、Triton-X 100、Triton-X 114、Brij58、Brij76、Pluronic L121、Pluronic L164、Pluronic
P123等も用いることができる。既知の方法の改良により、細孔径や構造の均一性が増し
安定性は向上するが、内包物の徐放制御機能に関しては、際立った差はない。またここでメソポーラス無機材料とは、上記等の界面活性剤のミセル等を鋳型として用いた無機材料のことを指す。
【0011】
無機材料としては、例えば、シリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、リン酸スズ、リン酸ニオブ、リン酸アルミニウム、リン酸チタン、ならびにそれらの酸化物、窒化物、硫化物、セレン化物、テルル化物又は複合酸化物、複合塩などを用いることができる。このうち、特にシリカ等の含ケイ素酸化物が耐熱性、耐薬品性、及び機械的特性に優れる点で好ましい。
【0012】
一方、酸化還元応答性有機官能基をメソポーラス無機材料に導入するためには、酸化還元により化学結合が可逆的に形成・開裂する有機基を用いる。酸化反応により結合が形成する有機化合物ならば特に限定されないが、チオール基を有する化合物をあげることができる。酸化還元応答性有機官能基をメソポーラス無機材料に導入する際、チオールをあらかじめ酸化してジスルフィド基にした有機官能基を用いた方が良い。メソポーラス無機材料に導入するには、例えば無機材料がシリカの場合には、アルコキシシラン基を有する有機化合物を用いることが有効であるので、分子内にアルコキシシラン基とジスルフィド基
を共に有する有機官能基を用いることが良い。このような有機化合物としては、特に限定はされないが、例えば下記のような化合物をあげることができる。
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、Rは、同一又は異なって、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の直鎖又は分岐を有するC〜Cの低級アルコキシ基、Cl,Br,F,I等のハロゲン原子
、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、t-ブチル等の直鎖又は分岐を有するC〜Cの低級アルキル基、フェニル基、トルイル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基等のジ(C〜Cの低級アルキル)アミノ基、トリメチルシロキシ基等のシロキシ基を示す。)。
【0015】
以下、メソポーラス無機材料としてメソポーラスシリカを例に取り説明するが、メソポーラス無機材料であれば同様に実施することができる。
【0016】
酸化還元応答性有機化合物をメソポーラスシリカに導入するには、酸化還元応答性有機化合物を溶解した溶液にメソポーラスシリカを加え還流処理する。用いる溶媒は特に限定されないが、トルエン等の沸点が100℃以上で酸化還元応答性有機化合物と反応しない
ものが良い。この酸化還元応答性有機化合物の分子の長さは2ナノメートル程度となるものが多く、細孔径が3ナノメートル程度のメソポーラスシリカの細孔内には容易には侵入できないため、メソポーラスシリカの外表面および細孔の出入口近傍にのみ導入される。また、細孔径が3ナノメートルよりも大きなメソポーラスシリカの場合は、酸化還元応答性有機化合物をより大きな分子にすれば良く、その方法としては、例えば、図1におけるケイ素に結合しているアルキル基の長さを長くすることによって調節することができる。図1においては、アルキル基はプロピル基であるが、これをブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等にするのである。また、単なるアルキル基以外にもフェニル基、エーテル基、エステル基、アミド基、炭酸基等を用いて長さを調整しても構わない。したがって、このような調節が十分な場合は、焼成処理等により界面活性剤を除去したメソポーラスシリカ体を用いても、細孔内の奥が修飾されることはほとんどない。
【0017】
本発明の無機材料に包含されるメソポーラスシリカの誘導体としては、メソポーラスシリカから容易に誘導できる材料であるならば特に限定されないが、無機物導入体では、例えば、アルミニウム導入メソポーラスシリカ体、チタン導入メソポーラスシリカ体、ジルコニア導入メソポーラスシリカ体等をあげることができる。また有機物導入体では、スルフォン酸基導入メソポーラスシリカ体、アミノ基導入メソポーラスシリカ体、白金金属錯体導入メソポーラスシリカ体、パラジウム金属錯体導入メソポーラスシリカ体、鉄金属錯体導入メソポーラスシリカ体等の金属錯体導入メソポーラスシリカ体、白金微粒子導入メソポーラスシリカ体等の金属微粒子導入メソポーラスシリカ体等をあげることができる。合成方法は特に限定されないが、例えば以下のような方法で行うことができる。アルミニウムのトリアセチルアセトン錯体を乾燥トルエンに溶解させた溶液に、焼成処理により界面活性剤を除去したメソポーラスシリカを加え、加熱処理を行う。エバポレーションにより溶媒を留去したのち、固体を550℃で6時間焼成処理することで、メソポーラスシリカ誘導体の一つである、アルミニウム導入メソポーラスシリカを合成することができる。この材料内ではアルミニウムはメソポーラスシリカ表面に原子レベルで分散し、強酸点を発現する。金属錯体導入メソポーラスシリカでは、導入された金属錯体独自の触媒機能、例えば、水素添加等の機能を持たすことができ、細孔内で起こる触媒反応の進行を制御する触媒あるいは触媒システムとして有用である。
【0018】
このように合成した酸化還元応答性メソポーラスシリカなどのメソポーラス無機材料は、ジスルフィド基が細孔に架橋する形になっているため、ほとんどの分子は、細孔内に入ることができない。メソポーラス無機材料が細孔内に触媒活性点を有していれば、細孔出口に架橋された応答性有機官能基によって、触媒反応の進行を制御することができる。すなわち、応答性有機官能基が架橋されて細孔が塞がれている場合は、反応基質が活性点に到達できないため触媒反応は進行せず、応答性有機官能基が架橋されておらず細孔が塞がれていない場合は、反応基質が活性点に到達できるため触媒反応は進行することになる。
【0019】
触媒反応としては特に限定されないが、実施例としては、酸化還元による制御の実験のモデル反応としてα−メチルスチレンの二量化反応を試みた。しかしながら、この細孔の出入口に可逆的に開裂・形成する有機官能基を導入し、その開裂・形成により細孔内で起こる触媒反応の進行を制御するという概念に合致するものならば、触媒反応としては特に限定されない。ここでα−メチルスチレンの二量化反応の触媒反応を検討した理由は、一つの反応原料より進行する反応であるため、二つの原料による細孔アクセスの違い等を物質を考慮せずにすむためモデル反応として優れているからである。この基質は酸触媒により種々の二量体を生成する。メソポーラス無機材料内に酸点を導入し、その後、細孔の入り口にジスルフィド結合を持つ分子の「ドア」を修飾し、その開閉により、α-メチルス
チレンの二量化反応を制御することを試みた。その結果、酸化処理により細孔入口が塞がれている場合は、触媒反応が進行しない一方、還元処理により細孔入口を開放すると触媒反応が進行し、α−メチルスチレンの二量体が生成した。このように、細孔の出入口に可
逆的に開裂・形成する有機官能基を導入し、その開裂・形成により細孔内で起こる触媒反応の進行を制御するという触媒材料の概念を実現することができた。
【0020】
【化2】

【実施例】
【0021】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
実施例1:メソポーラスシリカ体の合成
水酸化ナトリウム(2.706 g、67.65 mmol)をとり、脱イオン水(97mL、5.389 mmol
)を加えて均一溶液とし、その水酸化ナトリウム水溶液をn-ヘキサデシルトリメチルアンモニウム・ブロミド(9.858 g、27.05 mmol)に加えた。これを室温で30分間撹拌させた
。その後、十分に乾燥させたシリカゲル(メルク・シリカゲル60)(16.853 g、280.5 mmol)を加え、さらに30分間撹拌させ、オートクレーブ中で水熱合成(115 ℃、20時間)した。ろ別、撹拌洗浄(脱イオン水 1L、2回)、120 ℃で一晩乾燥の後、これを550℃
で6時間焼成処理、メソポーラスシリカ体を得た(約12.5g)。サンプル1とする。
【0022】
実施例2:アルミニウム導入メソポーラスシリカの合成
アルミニウムアセチルアセトナート錯体2.43g(7.50 mmol)をトルエン溶媒50mLに溶かし、実施例1で合成したメソポーラスシリカ体8.5gを加え、2時間環流処理した。その後、ロータリーエバポレーターで溶媒を留去し、さらに80℃で乾燥の後、550℃で8時間焼成処理、アルミニウム導入メソポーラスシリカ体を得た(約8.4g)。サンプル2とする。
【0023】
実施例3:酸化還元応答性有機化合物の合成−1
市販の6−ヒドロキシ−2−ナフチルジスルフィドを0.070 g(0.200 mmol)と、市販
の3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン(0.099 g、0.40 mmol)を脱水ジメチルホルムアミド5mLに溶かした溶液を、窒素雰囲気下で120 ℃で42時間加熱し、目的と
する酸化還元応答性有機化合物を得た。
【0024】
実施例4:酸化還元応答性有機化合物の合成−2
4-ヒドロキシチオフェノール(1.634 g、12.95 mmol)をメタノール30mL に溶かし、室温で2時間撹拌させた。ヨウ素(1.633 g、6.43mmol)をメタノール30mLに溶かし2 時間撹拌させた。ヨウ素溶液を4-ヒドロキシチオフェノール溶液に加えると褐色が消え、無色透明になった。この溶液をさらに室温で一晩撹拌させた。炭酸ナトリウム(2.016 g、19.02mmol)を水20mLに溶かし、一晩撹拌させた。この溶液を上記溶液に加え、30 分撹
拌させた。この溶液をろ別し、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去した。ジエチルエーテル100mLと脱イオン水100mLを加え、分液ロートにより分液し、エーテル層に無水硫酸マグネシウムを加え、一晩静置させた。このろ液をろ別し、この溶液の溶媒を減圧蒸発させて、固体を得た。クロロホルムを加え、加熱させて固体を溶かした後冷蔵庫で一晩冷やし、固体を析出させた。この溶液をろ別し、4-ヒドロキシ-1-フェニルジスルフィド
(0.296 g、1.182 mmol)を得た。この固体を0.0502 g(0.2005 mmol)用い、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン(0.099 g、0.40 mmol)を脱水ジメチルホルムアミ
ド5mLに溶かした溶液に加え、窒素雰囲気下で120 ℃で42時間加熱し、目的とする酸化
還元応答性有機化合物を得た。
【0025】
実施例5:酸化還元応答性有機置換基修飾−メソポーラスシリカ
実施例3で得られたジスルフィド溶液0.4 mLをトルエン100mlに溶かした溶液に、実
施例1で得たメソポーラスシリカ体を10.01 g加え、120 ℃、24時間で加熱還流した。ロ
ータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去させ、80 ℃で4時間減圧乾燥した。溶媒洗浄(ベンゼン400mLを用い計2回)し、酸化還元応答性有機置換基修飾−メソポーラスシリカを得た。
【0026】
実施例6:酸化還元応答性有機置換基修飾−アルミニウム導入メソポーラスシリカ−1
実施例3で得られたジスルフィド溶液0.4mLをトルエン100mLに溶かした溶液に、実施例2で得たアルミニウム導入メソポーラスシリカを10.01 g加え、120 ℃、24時間で加
熱還流した。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去させ、80 ℃で4時間減圧乾燥した。溶媒洗浄(ベンゼン400mLを用い計2回)し、酸化還元応答性有機置換基修飾−アルミニウム導入メソポーラスシリカを得た。サンプル3とする。
【0027】
実施例7:酸化還元応答性有機置換基修飾−アルミニウム導入メソポーラスシリカ−2
実施例4で得られたジスルフィド溶液0.4 mlをトルエン100mLに溶かした溶液に、実
施例2で得たアルミニウム導入メソポーラスシリカを10.01 g加え、120 ℃、24時間で加
熱還流した。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去させ、80 ℃で4時間減圧乾燥した。溶媒洗浄(ベンゼン400mLを用い計2回)し、酸化還元応答性有機置換基修飾−アルミニウム導入メソポーラスシリカを得た。
【0028】
実施例8:酸化還元応答性有機置換基修飾−アルミニウム導入メソポーラスシリカの還元
実施例6で得た酸化還元応答性有機置換基修飾−アルミニウム導入メソポーラスシリカ2gに、DL−ジチオスレイトール0.67g(4.34mmol)を40mLに溶かした脱イオン水溶液に加え、室温で16時間撹拌、ろ別、室温で放置、自然乾燥させて酸化還元応答性有機置換基修飾−アルミニウム導入メソポーラスシリカの還元体を得た。サンプル4とする。図2より、還元処理前のサンプル3には、ジスルフィド基(S−S)に相当する吸収が250nmにあるが、還元処理によりジスルフィド基の吸収が消失し、還元的に開裂して生成したチオール基の吸収が235nmに観測された。また、再酸化処理後では、還元処理前とほぼ同じスペクトルが得られ、再びジスルフィド基が生成したことを確認した。
【0029】
実施例9:酸化還元応答性有機置換基修飾−アルミニウム導入メソポーラスシリカの還元
実施例6で得た酸化還元応答性有機置換基修飾−アルミニウム導入メソポーラスシリカ2gに、L-システイン(3.649 g、30.09 mmol)を脱イオン水100 mlに溶かした水溶液に加
え、室温で16時間撹拌、ろ別、室温で放置、自然乾燥させて酸化還元応答性有機置換基修飾−アルミニウム導入メソポーラスシリカの還元体を得た。
【0030】
実施例10:酸化還元応答性有機置換基修飾−アルミニウム導入メソポーラスシリカの再酸化
実施例8で得た酸化還元応答性有機置換基修飾−アルミニウム導入メソポーラスシリカ還元体1gをヨウ素0.7gを溶解させた脱イオン水50mL、酢酸50mLの混合溶液に加え、50℃で16時間反応させた。ろ別、室温で放置、自然乾燥させて酸化還元応答性有機置換基修飾−アルミニウム導入メソポーラスシリカの再酸化体を得た。サンプル5とする。
【0031】
実施例11:酸化還元応答性有機置換基修飾−アルミニウム導入メソポーラスシリカの再酸化
実施例8で得た酸化還元応答性有機置換基修飾−アルミニウム導入メソポーラスシリカ還元体1gをシャーレ上にごく薄くなるように展開し、空気中で408時間放置し、空気中
の酸素により再酸化させ酸化還元応答性有機置換基修飾−アルミニウム導入メソポーラスシリカの再酸化体を得た。
【0032】
実施例12:α−メチルスチレンの二量化反応
α−メチルスチレン0.118g(1 mmol)を溶かしたトルエン溶液10 mlに、修飾アルミニウムメソポーラスシリカを20 mg加え、窒素雰囲気下、110℃で2時間反応させた。α−メ
チルスチレンの3つの二量化生成物は、それぞれガスクロマトグラフィーにより定量した。表1には、それぞれの酸化還元応答性有機置換基修飾−アルミニウム導入メソポーラス
シリカの構造特性とα−メチルスチレンの二量化反応の収率を示す。また図3には、酸化還元応答性有機置換基修飾−アルミニウム導入メソポーラスシリカによる触媒反応進行の概念図を示す。
【0033】
【表1】

【0034】
実施例13:応答性ドラッグデリバリーシステム
実施例5で合成した酸化還元応答性有機置換基修飾−メソポーラスシリカ2gに、L-システイン(3.649 g、30.09 mmol)を脱イオン水100 mlに溶かした水溶液に加え、室温で2
0時間撹拌、ろ別、室温で放置、自然乾燥させて酸化還元応答性有機置換基修飾−メソポーラスシリカの還元体を得た。このサンプル2gをフェナントレン1gを溶解させたn−ヘキサン溶液50mLに加え、20時間撹拌の後、ろ別、80℃で6時間で乾燥した。このサンプルを、ヨウ素1.2gを溶解させた脱イオン水100mL、酢酸50mLに加え、50℃で20時間反応させた。ろ別、80℃で6時間乾燥させ、その後、十分量のn−ヘキサンで洗浄できるフェナントレンを除去した。TGAの結果より、得られたサンプルの約5重量%分が内包されたフェナントレンであった。このサンプル0.5を、DL−ジチオスレイトール0.67g(4.34mmol)を40mLに溶かしたアセトン溶液に加え、室温で20時間撹拌した。ろ別、80℃での乾燥の後、TGA分析の結果、内包されていたフェナントレンの90%以上が溶媒中に放出されていた。
【0035】
想定される応用例
本特許で新しく提案する細孔内への反応物質のアクセスを細孔出口近傍の有機置換基の架橋等の状態により抑制し、触媒反応の進行を制御することは、化学工業において、触媒反応の稼働を分子レベルで制御できることとなる。例えば、本特許においては、反応を進行させたいときは還元剤を反応系に加え、反応を停止させたい時は酸化剤を加えることで
、触媒反応の進行の制御を完全に行うことができる。このように、化学工業における生産の開始と停止を、単に反応系にわずかな量の添加物を加えるだけで行えることは、化学工業における生産の機動性、すなわち需要に合わせた機敏な生産調整等、化学プロセスの効率化に寄与できると期待される。
【0036】
また、酸化還元によって細孔内外のアクセス制御する技術に関しては、環境中や生体内環境においては、酸素の存在の有無等により系が酸化雰囲気あるいは還元的雰囲気となることが多く(例えば、生体内では血液中は酸化雰囲気であり、また細胞内は還元雰囲気である)、そのような環境変化に応じて、細孔を開閉できることは多くの応用を可能とする。例えば、酸化的雰囲気の血液中では内包された薬物を放出しないが、細胞内等の還元的雰囲気になると内包薬物を放出するという応答性ドラッグデリバリーシステムを構築することが可能となる。また、還元雰囲気の細胞中では、細孔内の触媒反応を進行させて、生体内で必要な物質を生産するが、血液中等の酸化的雰囲気下では触媒反応を進行させず、生体物質を生産しないという応答性触媒システムを構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】酸化還元応答性有機置換基修飾−メソポーラスシリカの合成スキームの例
【図2】サンプル3,4の拡散反射紫外線スペクトル
【図3】酸化還元応答性有機置換基修飾−アルミニウム導入メソポーラスシリカによる触媒反応進行の概念図。上:酸化状態下で有機置換基が架橋されているため、原料物質が触媒活性点に到達できず反応が進行しない。下:還元状態下で有機置換基が架橋されていないため、原料物質が触媒活性点に到達でき反応が進行する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次元細孔が規則的に配列した構造を有するメソポーラス無機材料であって、酸化剤もしくは還元剤の作用により可逆的に結合を形成もしくは開裂させ得る官能基を細孔口に有するメソポーラス無機材料。
【請求項2】
前記無機材料がシリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、リン酸スズ、リン酸ニオブ、リン酸アルミニウム、リン酸チタン、並びにそれらの酸化物、窒化物、硫化物、セレン化物、テルル化物、複合酸化物及び複合塩からなる群から選ばれるいずれか1種である請求項1に記載のメソポーラス無機材料。
【請求項3】
前記無機材料が細孔内部で触媒部位を有する請求項1記載のメソポーラス無機材料。
【請求項4】
前記官能基の酸化型がジスルフィド基(−SS−)、還元型が2つのチオール基(−SH)から構成される、請求項1〜3のいずれかに記載のメソポーラス無機材料。
【請求項5】
細孔内に機能性物質が充填されてなる請求項1〜4のいずれかに記載のメソポーラス無機材料。
【請求項6】
機能性物質が細孔内に充填されたメソポーラス無機材料の製造方法であって、
(1)水溶液中で界面活性剤を鋳型として、一次元細孔が規則的に配列した構造を有するメソポーラス無機材料を調製する工程、
(2)界面活性剤を除去する工程、
(3)工程(2)において得られたメソポーラス無機材料に、酸化剤の作用により可逆的に結合を形成し得る還元型官能基をメソポーラス無機材料の細孔口に導入する工程、
(4)機能性物質をメソポーラス無機材料の細孔内に充填する工程、及び
(5)(3)で導入した官能基に酸化剤を作用させて可逆的に結合を形成する工程を含む、製造方法。
【請求項7】
機能性物質の放出を制御する方法であって、(1)請求項5に記載のメソポーラス無機材料に還元剤を与えて官能基の結合を可逆的に開裂して機能性物質を放出させる工程、及び(2)酸化剤により官能基の結合を形成して(1)における機能性物質の放出を停止させる工程を有する、方法。
【請求項8】
細孔内に触媒部位を有し、かつ、酸化剤もしくは還元剤の作用により可逆的に結合を形成もしくは開裂させ得る官能基を細孔口に有するメソポーラス無機材料に触媒の作用を受け得る物質を共存させた触媒システムにおいて、酸化剤もしくは還元剤を使用して細孔内で起こる触媒反応の進行を制御する触媒システム。
【請求項9】
一次元細孔が規則的に配列した構造を有し、かつ、前記細孔内に触媒部位を有するメソポーラス無機材料系触媒であって、酸化剤もしくは還元剤の作用により可逆的に結合を形成もしくは開裂させ得る官能基を細孔口に有する触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−176762(P2007−176762A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378794(P2005−378794)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】