説明

酸化重合硬化型油性塗料用ドライヤー及びそれを用いた塗料

【課題】酸化重合硬化型油性塗料のドライヤーとして、従来のコバルト・マンガン系ドライヤーと同等又はそれ以上の硬化促進性を有する塗料用ドライヤー及び該ドライヤーを添加した油性塗料を提供する。
【解決手段】有機酸コバルトホウ素金属塩及び有機酸マンガンホウ素金属塩からなる群から選択される少なくとも1種の有機酸金属塩からなる酸化重合硬化型油性塗料用ドライヤー及び該ドライヤーを添加した酸化重合硬化型アルキッド樹脂塗料、ウレタン塗料、変性エポキシ樹脂塗料。ドライヤーの好適例として、一般式(1) B(OMR) (1)(式中、Mはコバルト原子又はマンガン原子を表し、Rは有機酸基を表し、分子中の3つのRは同一でもよく又は異なっていてもよい。)で表される有機酸金属塩を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化重合硬化型油性塗料に好適に用いることができるドライヤー及びそれを用いた塗料に関し、更に詳しくは、コバルト・マンガン系ドライヤーと同等又はそれ以上の硬化促進性を有するドライヤー及びそれを用いた塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
常温で硬化可能な酸化重合硬化型のアルキド樹脂、ウレタン樹脂、変性エポキシ樹脂等をバインダー樹脂とする油性塗料には、バインダー樹脂の酸化重合に因る硬化反応を促進して塗料を硬化させるためには、通常、コバルト、マンガン、鉛、鉄、亜鉛、カルシウム、セリウム等の金属とオクチル酸、ナフテン酸、ネオデカン酸等の有機酸との塩である有機酸金属塩が、ドライヤー(硬化促進剤)として塗料中に添加されるのが一般的である。
酸化重合硬化型油性塗料は屋外で塗装されることが多いため、四季を通じた低温から常温に亘る外気温度下で塗料を短時間で硬化させ、屋外塗装の作業効率を高めることが求められている。このため、比較的強い硬化促進性を有するコバルトやマンガン等の有機酸金属塩が主として使用されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)が、これらの有機酸金属塩はその硬化促進性において必ずしも満足できレベルのものではなく、生産性向上の観点から、より強い硬化促進性を有するドライヤーとそのようなドライヤーを用いた酸化重合硬化型油性塗料が求められている。
【特許文献1】特開平11−323214号公報
【特許文献1】特開2000−26771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記事情に鑑みて発明されたものであり、その目的は、酸化重合硬化型油性塗料のドライヤーとして、従来のコバルト・マンガン系金属塩と同等又はそれ以上の硬化促進性を有するドライヤーを提供することにある。
本発明の他の目的は、そのようなドライヤーを含有し、低温から常温に亘る外気温度下で塗料を短時間で硬化させ、屋外塗装の作業効率を高めることのできる酸化重合硬化型油性塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、有機酸金属塩の分子中に2種又はそれ以上の異種金属を導入することによりドライヤーとしての硬化促進性を高める発想のもとで、複数の異種金属を含む各種有機酸金属塩について酸化重合硬化型油性塗料に対する硬化促進性を検討した結果、コバルトとホウ素の2種の金属又はマンガンとホウ素の2種の金属を含む有機酸金属塩が該塗料に対して非常に優れた硬化促進性を有するとの知見を見出した。本発明はこの知見に基づいて発明されたものである。
【0005】
すなわち、本発明は、有機酸コバルトホウ素金属塩及び有機酸マンガンホウ素金属塩からなる群から選択される少なくとも1種の有機酸金属塩(以下、「有機酸金属塩(A)」という。)からなる酸化重合硬化型油性塗料用ドライヤーを提供する。
更に、本発明は、酸化重合硬化型バインダー樹脂と有機酸金属塩(A)からなる酸化重合硬化型油性塗料用ドライヤーを含有する酸化重合硬化型油性塗料を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の酸化重合硬化型油性塗料用ドライヤーは、酸化重合硬化型油性塗料のドライヤーとして、コバルト・マンガン系ドライヤーと同等又はそれ以上の硬化促進性を有し、塗料の硬化速度を速めることができる。
また、本発明の酸化重合硬化型油性塗料は、強い硬化促進性を有するドライヤーを含有するため、低温から常温に亘る外気温度下で短時間で硬化することができ、屋外塗装の作業効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いる有機酸金属塩(A)は、分子中の金属原子として、コバルトとホウ素の2種の金属、又はマンガンとホウ素の2種の金属を含有する。これら有機酸金属塩の原料となる有機酸としては、従来からドライヤーの一般的原料として用いられている有機酸を特に制限なく使用することができる。具体的には、例えば、プロピオン酸、オクチル酸、ナフテン酸、ネオデカン酸、桐油酸、亜麻仁油酸、大豆油酸、樹脂酸等の有機酸を使用することができるが、優れた乾燥促進効果が得られる点から、炭素原子数3〜12の脂肪族モノカルボン酸を用いることが好ましく、オクチル酸、ナフテン酸、ネオデカン酸を用いることがより好ましい。これらは、単独で用いてもよく、又は2種以上を併用しても良い。
【0008】
本発明で用いる有機酸金属塩(A)は、その好適例として、一般式(1)
B(OMR) (1)
(式中、Mはコバルト原子又はマンガン原子を表し、Rは有機酸基を表し、分子中の3つのRは同一でもよく又は異なっていてもよい。)
で表される有機酸金属塩を包含する。
一般式(1)中、有機酸基Rは、例えばプロピオン酸、オクチル酸、ナフテン酸、ネオデカン酸、桐油酸、亜麻仁油酸、大豆油酸、樹脂酸等の有機酸のカルボキシレート基であり、好ましくは炭素原子数3〜12の脂肪族モノカルボン酸のカルボキシレート基であり、より好ましくはオクチル酸、ナフテン酸、ネオデカン酸のカルボキシレート基である。
【0009】
本発明において、有機酸コバルトホウ素金属塩及び有機酸マンガンホウ素金属塩は、単独で用いてもよく、また併用してもよいが、併用する場合、均一硬化が難しいとされる厚膜での塗膜の乾燥性に優れるので、その併用が好ましい。更に、本発明の有機酸金属塩と従来のドライヤーである有機酸マンガン金属塩を併用する場合、同様に厚膜での塗膜の乾燥性に優れるので、その併用が好ましい。また、有機酸コバルトホウ素金属塩と有機酸マンガン金属塩とを併用する場合、乾燥促進効果に優れる低価格のドライヤーが得られるので、その併用が特に好ましい。
【0010】
本発明で使用する有機酸金属塩(A)の化合物は特公昭63−63551号公報にゴム密着性促進剤として開示されているので、その化合物自体は公知のものであるが、本発明の特徴は、有機酸金属塩(A)を酸化重合硬化型油性塗料用ドライヤーとして応用する点にある。
【0011】
有機酸金属塩(A)の製造方法は、特に限定されないが、目的とする有機酸金属塩が効率的に得られる点から、例えば、特公昭63−63551号公報に記載されている次の方法で製造することが好ましい。
【0012】
まず、炭素原子数3〜12のカルボン酸と、酢酸又はプロピオン酸との混合物にコバルト又はマンガン、或いはこれらの水和物、水酸化物、炭酸塩等のコバルト化合物又はマンガン化合物を加えた後、通常40℃〜200℃、好ましくは80℃〜150℃で反応させる。ここで使用するコバルト又はマンガン、或いは、コバルト化合物又はマンガン化合物と、カルボン酸と、酢酸又はプロピオン酸の混合物とのモル比(カルボン酸と酢酸又はプロピオン酸の混合物/コバルト又はマンガン、或いはコバルト化合物又はマンガン化合物のモル比)は、通常1.0〜4.0、好ましくは1.5〜2.5である。また、酢酸よりプロピオン酸を使用する方が次工程の反応が穏やかに進行するので好ましい。
【0013】
次いで、得られたカルボン酸コバルト塩又はカルボン酸マンガン塩に有機ホウ素化合物を加え通常100℃〜250℃、好ましくは150℃〜230℃の温度で反応させ、副生する揮発性のエステルを常圧又は減圧下で、留去又は除去することにより、目的とする有機酸金属塩(A)を得ることができる。カルボン酸コバルト塩又はカルボン酸マンガン塩と、有機ホウ素化合物とのモル比(カルボン酸コバルト塩又はカルボン酸マンガン塩/有機ホウ素化合物のモル比)は、通常2.0〜7.0、好ましくは2.5〜5.5である。ここで使用する有機ホウ素化合物としては、例えば、アルキル又はアルキルオルトボレート、具体的にはn−ブチルオルトボレート又はメタボレートが好ましい。
【0014】
上記反応において、反応混合物が反応途中で固化したり粘性が高くなったりした場合、有機溶剤を添加してもよく、また、有機溶剤存在下において上記反応を行ってもよい。このとき用いる有機溶剤としては、特に限定されるものではなく、原料及び生成物に対して不活性なものであれば種々のものを使用することができるが、溶解性が良好で、且つ印刷塗料に添加した場合に除去する必要がなく、生産工程が簡略できる点から、塗料用溶剤として通常用いられる有機溶剤を用いることが好ましい。
【0015】
上記のようにして得られる有機酸コバルトホウ素金属塩及び有機酸マンガンホウ素金属塩は、未反応物や副生成物を含有した反応混合物であって、該反応混合物から目的とする有機酸金属塩のみを取り出すことは通常困難であり、また、生産性の上からも効率的ではない。しかしながら、得られる反応混合物をそのままドライヤーとして使用する場合、有機酸金属塩の製造方法によっては、目的とする十分な乾燥促進効果が得られない場合も生じる可能性がある。上記のような観点から検討を試みたところ、本発明で使用する有機酸金属塩(A)は、水で抽出されるホウ素の含有率が0.06重量%以下である。尚、このホウ素の含有率は、以下のようにして求めた値である。まず、反応混合物である有機金属塩10gを0.1mg単位まで精秤し、試薬特級トルエン300mlに溶解させた。この溶液に精秤した蒸留水100mlを加え、25℃で1.5分間攪拌した後、分液ロートに移し、30分間静置後、水層を採取した。採取した水層より5mlを精秤し、100mlのメスフラスコに移し、蒸留水でメスアップ(100mlにする)し、原子吸光測定用試料を作製した。原子吸光による定量は、ホウ素の原子吸光用標準溶液により検量線を予め作成して求めた。水で抽出されるホウ素の含有率が上記含有量のように低いということは、得られた反応混合物の中のホウ素の実質的全部が有機酸金属塩の分子内原子として存在していること、すなわち、反応混合物の中のホウ素の実質的全部が塗料の乾燥促進作用に関与することを意味する。上記方法で製造される本発明のドライヤーは、水で抽出されるホウ素の含有率が低いため、優れた乾燥促進性を有する。
【0016】
本発明のドライヤーは、塗料に添加する前に、予め有機溶剤で希釈しておくことが、取扱容易性と均一混合性の点から好ましい。希釈溶剤としては、有機酸金属塩(A)を均一に溶解でき、且つ有機酸金属塩(A)に対して不活性であればなんら制限されるものではなく、例えば、トルエン、キシレン、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ミネラルスピリット等の炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、プロパノール、シクロヘキサノール等のアルコール系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;プロピルエーテル、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、ブチルカルビトール等のエーテル系溶剤を使用でき、これらは単独で使用してもよく、又は2種以上を併用しても良い。
【0017】
本発明のドライヤーを配合すべき油性塗料のバインダー樹脂としては、特に限定されるものではなく、一般的に塗料用樹脂として使用されている酸化重合硬化型樹脂を使用でき、例えば、酸化重合硬化型のアルキド樹脂、ウレタン樹脂、変性エポキシ樹脂等を使用することができる。
【0018】
上記アルキド樹脂としては、多塩基酸成分、多価アルコール成分及び油脂肪酸がエステル化された樹脂であれば、特に制限なく使用することができる。
【0019】
上記多塩基酸成分としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸、無水マレイン酸等の二塩基酸;及びこれらの酸の低級アルキルエステル化物が主として用いられる。更に必要に応じて、無水トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、無水ピロメリット酸等の3価以上の多塩基酸;スルホフタル酸、スルホイソフタル酸及びこれらのアンモニウム塩、ナトリウム塩や低級アルキルエステル化物等を使用することができる。また、酸成分として、安息香酸、クロトン酸、p−t−ブチル安息香酸等の一塩基酸を分子量調整等の目的で併用することができる。
【0020】
前記多価アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチルペンタンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の二価アルコールを主成分として使用することができる。更に必要に応じて、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール;ポリオキシエチレン基を有する多価アルコール等を併用することができる。これらの多価アルコールは単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。また、前記酸成分、アルコール成分の一部をジメチロールプロピオン酸、オキシピバリン酸、パラオキシ安息香酸等;これらの酸の低級アルキルエステル;ε−カプロラクトン等のラクトン類等のオキシ酸成分に置き換えることもできる。
【0021】
前記油脂肪酸としては、例えば、ヤシ油脂肪酸、大豆油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、トール油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、キリ油脂肪酸等を挙げることができる。アルキド樹脂の油長は5〜80%、特に20〜70%程度の範囲内であることが、得られる塗膜の硬化性、強靭性、肉持ち感等の面から好適である。
【0022】
また、アルコール成分の一部としてエポキシ化合物を使用してエポキシ化合物を部分エステル化したエポキシ変性アルキド樹脂;アルキド樹脂に無水マレイン酸を導入してなるマレイン化アルキド樹脂;マレイン化アルキド樹脂と水酸基含有アルキド樹脂とを付加してなるグラフト化アルキド樹脂;アルキド樹脂にスチレン、(メタ)アクリル酸エステル等のビニルモノマーをグラフト重合させたビニル変性アルキド樹脂等も使用することができる。
【0023】
更に、資源のリサイクルのために回収されたポリエチレンテレフタレート(例えば、PETボトル)、産業廃棄物ポリエチレンテレフタレート、テレフタル酸を主原料とするポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル製品(フィルム、繊維、自動車部品、電子部品等)の製造に際して発生する屑等から再生されたテレフタル酸を主原料とするポリエステル樹脂(以下、「再生PES」と略す。)を利用して、上述のアルコール成分と多塩基酸成分との混合物中に、この再生PESを溶解させ、解重合するとともに、エステル化反応させることにより得られるアルキド樹脂や、該アルキド樹脂を無水マレイン酸と反応させて得られるマレイン化アルキド樹脂、該アルキド樹脂とエチレン性不飽和基を有さない酸無水物とを反応させて得られる変性アルキド樹脂等も使用することができる。
【0024】
前記ウレタン樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリオール、油脂と多価アルコールをウムエステル化したポリオール、及びポリイソシアネートとを反応させて得られるウレタン樹脂を使用することができる。
【0025】
上記ポリイソシアネートとしては、例えば、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,8−ジイソシアネートメチルカプロエート等の脂肪族イソシアネート類;3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、メチルシクロヘキシル−2,4−ジイソシアネート等の脂環族ジシソシアネート類;トルイレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフテンジイソシアネート、ジフェニルメチルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソサネート、4,4−ジベンジルジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート類;塩素化ジイソシアネート類、臭素化ジイソシアネート類等が挙げられ、これらを単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0026】
前記ポリオールとしては、通常ウレタン樹脂の製造に使用される種々のポリオール、例えば、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトン、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリチオエーテルポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリブタジエンポリオール、フランジメタノール等が挙げられ、これらを単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。
【0027】
前記油脂と多価アルコールをウムエステル化したポリオールとしては、例えば、ヨウ素価が7〜200の油脂とトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールとをウムエステル化したものが挙げられ、XP1076E、XP1077E、XP1580E、FB20−50XB(三井化学株式会社製)等の市販品も使用できる。
【0028】
前記酸化重合硬化型変性エポキシ樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂を不飽和脂肪酸成分と酸基含有アクリル成分を原料として、これらを反応させることにより得られる樹脂が挙げられる。樹脂原料配合が、原料の合計重量100重量%に対し、エポキシ樹脂30〜50重量%、不飽和脂肪酸成分25〜40重量%及び酸基含有アクリル成分10〜45重量%であると、硬化塗膜の物性に優れる点から好ましい。
【0029】
また、酸化重合硬化型変性エポキシ樹脂のヨウ素価は、良好な硬化性が得られる点から、30〜100が好ましく、特に35〜90が好ましい。
【0030】
原料として使用できるエポキシ樹脂としては、特に限定されるものではないが、変性が容易で且つ得られる硬化塗膜の性能に優れる点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。これらは、単独で用いてもよく又は2種以上を併用してもよい。
【0031】
不飽和脂肪酸成分としては、天然または合成系の不飽和脂肪酸がいずれも使用でき、例えば、桐油、アマニ油、ヒマシ油、脱水ヒマシ油、サフラワー油、トール油、大豆油、ヤシ油から得られる不飽和脂肪酸等が使用できる。
【0032】
また、酸基含有アクリル成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸と、スチレンや(メタ)アクリル酸エステル類等の酸基を含有しないアクリルモノマーとの混合物等を用いることができる。後者の酸基を含有しないアクリルモノマーとしては、優れた塗膜硬度が得られる点から、スチレンが好ましい。
【0033】
酸化重合硬化型変性エポキシ樹脂は、以下のようにして得ることができる。まずエポキシ樹脂と不飽和脂肪酸成分とからエポキシエステル樹脂を製造する。例えば、エポキシ樹脂と不飽和脂肪酸成分とを、トルエン、キシレン等の適当な溶媒中で、縮合触媒を用い、必要に応じて、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下において、150〜250℃で、所望の酸価となるまで反応させることによりエポキシエステル樹脂を得る。縮合触媒としては、例えば、ジブチル錫オキサイド、テトラn−ブチルアンモニウムブロマイド等が使用できる。
【0034】
次に、得られたエポキシエステル樹脂を、前記酸基含有アクリル成分と反応させて、酸化重合硬化型変性エポキシ樹脂を得る。エポキシエステル樹脂と酸基含有アクリル成分との反応は、重合開始剤の存在下、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下において、80〜150℃の温度範囲で行うことができる。重合開始剤としては、過酸化物、アゾ化合物等の種々のものが使用でき、例えば、化薬アクゾ製「カヤブチルB(アルキルパーエステル系)」等を、使用するモノマー合計量に対して0.1〜20重量%の割合で使用できる。
【0035】
本発明の酸化重合硬化型油性塗料は、前記アルキッド樹脂、ウレタン樹脂、変性エポキシ樹脂等の酸化重合硬化型バインダー樹脂と、前記ドライヤーと、バインダー樹脂を溶解する有機溶剤、更に必要に応じて、顔料等の色材;顔料分散剤、表面調整剤、紫外線吸収剤、消泡剤、増粘剤、硬化触媒、沈降防止剤等の各種塗料用添加剤を含有する。
【0036】
塗料に対するドライヤーの配合量は、特に限定されないが、バインダー樹脂固形分100重量部に対し、金属成分として0.005〜1重量部が好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明する。なお、例中の部及び%はすべて重量基準のものである。
【0038】
<合成例>
合成例1(ネオデカン酸コバルトホウ素金属塩の合成)
ネオデカン酸3モル、プロピオン酸3.1モルの混合物に水酸化コバルト3モルを添加し、その後190℃にて反応させ、6モルの水が生成留去するまで加熱を続けた。生成したコバルトのプロピオン酸塩にホウ酸n−ブチル1モルを添加し、220℃まで昇温して、生成留去するプロピオン酸ブチルが3モルになるまで加熱を続けることによって、目的とするネオデカン酸コバルトホウ素金属塩(A1)を得た。得られたネオデカン酸コバルトホウ素金属塩(A1)の水で抽出されるホウ素の含有率(測定方法は、本文中に記載)は0.04重量%であり、コバルト含有率は22重量%であった。
【0039】
合成例2(ネオデカン酸マンガンホウ素金属塩の合成)
合成例1において、水酸化コバルト3モルの代りに炭酸マンガン3モルを用いる以外は、合成例2と同様にしてネオデカン酸マンガンホウ素金属石鹸(B1)を得た。得られたネオデカン酸マンガンホウ素金属塩(B1)の水で抽出されるホウ素の含有率は0.03重量%であり、マンガン含有率は21重量%であった。
【0040】
実施例1〜4、及び比較例1〜3
合成例1、2で得られた金属塩、及び「Co−NAPHTHENATE 6%」、「Mn−NAPHTHENATE 6%」(いずれも大日本インキ化学工業株式会社製、商品名)を用いて、表1記載の配合比でドライヤーを調整した。
【0041】
【表1】

【0042】
試験例1〜4、及び比較試験例1〜3
チタンホワイト顔料(石原産業株式会社製R−820)1960g、アルキッド樹脂「ベッコゾールP−470−70」(大日本インキ化学工業株式会社製)3340g、希釈溶剤として「ミネラルスピリット」280g、皮張防止剤としてメチルエチルケトオキシム20gをボールミルで混練して油性塗料を得た。得られた油性塗料40gに、実施例1〜4及び比較例1〜3で得られたドライヤーを表2に示す割合で混合した。これをガラス板上にアプリケーターを用いて乾燥厚膜が50μmになるよう塗布し、ドライングレコーダーにて、乾燥時間を測定した。この結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
表2の脚注
配合量:樹脂不揮発分100部に対するコバルト金属量、マンガン金属量の合計量
乾燥時間:乾燥条件 25℃、湿度60% 単位:時間
【0045】
表1の結果から、本発明のドライヤーのネオデカン酸コバルトホウ素金属塩(A1)及びネオデカン酸マンガンホウ素金属塩(B1)は、比較例のナフテン酸コバルト及びナフテン酸マンガンよりも、塗料の乾燥時間を大幅に短縮できる優れた硬化促進性を示すことが理解できるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸コバルトホウ素金属塩及び有機酸マンガンホウ素金属塩からなる群から選択される少なくとも1種の有機酸金属塩(A)からなることを特徴とする酸化重合硬化型塗料用ドライヤー。
【請求項2】
有機酸金属塩(A)が、一般式(1)
B(OMR) (1)
(式中、Mはコバルト原子又はマンガン原子を表し、Rは有機酸基を表し、分子中の3つのRは同一でもよく又は異なっていてもよい。)
で表される有機酸金属塩である、請求項1に記載の酸化重合硬化型塗料用ドライヤー。
【請求項3】
有機酸金属塩(A)が、一般式(1)
B(OMR) (1)
(式中、Mはコバルト原子又はマンガン原子を表し、Rは炭素原子数3〜12の脂肪族モノカルボン酸のカルボキシレート基を表し、分子中の3つのRは同一でもよく又は異なっていてもよい。)で表される有機酸金属塩である、請求項1に記載の酸化重合硬化型塗料用ドライヤー。
【請求項4】
有機酸金属塩(A)が、一般式(1)
B(OMR) (1)
(式中、Mはコバルト原子又はマンガン原子を表し、Rはプロピオン酸、オクチル酸、ナフテン酸、又はネオデカン酸のカルボキシレート基を表し、分子中の3つのRは同一でもよく又は異なっていてもよい。)で表される有機酸金属塩である、請求項1に記載の酸化重合硬化型塗料用ドライヤー。
【請求項5】
有機酸金属塩(A)が、有機酸コバルトホウ素金属塩の少なくとも1種と有機酸マンガンホウ素金属塩の少なくとも1種からなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸化重合硬化型塗料用ドライヤー。
【請求項6】
更に有機酸マンガン金属塩を含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸化重合硬化型塗料用ドライヤー。
【請求項7】
有機酸金属塩(A)が有機酸コバルトホウ素金属塩であり、且つ、更に有機酸マンガン金属塩を含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸化重合硬化型塗料用ドライヤー。
【請求項8】
酸化重合硬化型バインダー樹脂と請求項1〜7のいずれか1項に記載の酸化重合硬化型塗料用ドライヤーを含有することを特徴とする酸化重合硬化型油性塗料。
【請求項9】
前記酸化重合硬化型バインダー樹脂が、酸化重合硬化型のアルキド樹脂、ウレタン樹脂及び変性エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂である、請求項8に記載の酸化重合硬化型油性塗料。

【公開番号】特開2007−284477(P2007−284477A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−109859(P2006−109859)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】