説明

酸化In系スクラップ粉からブラスト粉を分離する粉末濃縮方法

【課題】 主にITO粉とブラスト粉とを含むITOスクラップ粉のブラスト粉をできるだけ除去しITO粉の比率を高めること。
【解決手段】 ITOスクラップ粉を準備し、ITOスクラップ粉についてある一定の粒度範囲で分級を行い、ある一定の粒度範囲未満のITOスクラップ粉を粗選鉱用浮遊選鉱機に投入し、浮遊選鉱により粗選鉱された浮選粗精鉱である粉体と、浮選尾鉱である粉体と、を分離する。次に、粗選工程で粗選鉱された粉体を精選鉱用浮遊選鉱機に投入し、浮選精鉱である粉体と、浮遊中鉱である粉体と、を分離する。このようにして、浮遊選鉱法によりITOスクラップ粉からブラスト粉をできるだけ除去することでITO粉の比率を高める粉末濃縮を行う方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化In(インジウム)系粉のスクラップ粉からブラスト粉を分離し、酸化In系粉中のIn品位を高める粉末濃縮方法に関する。さらに詳細には、酸化In系粉の一例としてITO粉のスクラップ粉からブラスト粉を分離し、ITOスクラップ粉中のITO粉の比率(In品位)を高める粉末濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LCD(液晶ディスプレイ)やPDP(プラズマディスプレイ)等のデジタル家電製品が急速に普及している。これらのLCDやPDP等のデバイスの部品として必須なガラス上には光透過性および導電性を有する透明電極が施されている。
【0003】
この透明電極には、Inを主成分としたもの、例えば、IZO(InにZnOを1wt%〜30wt%添加したもの)、Inに種々の元素を添加した酸化In系粉の材料、ZnO系、SnO系の材料が使用されている。これらの代表例がITO膜から形成されたITO電極である。よって、酸化In系の材料から形成される電極としてITO電極を例にして本発明を以下説明することとする。
【0004】
上述したようにデジタル家電の急速な普及から、ITO膜の材料である酸化インジウム(若しくはインジウム)が市場において不足している。(注:ITOとは((Indium−Tin−Oxide);インジウム・錫・酸化物)の略称であって、一般的な組成は、Inが70wt%〜99wt%で残りが酸化錫により構成されている。特にIn−90wt%のもがITO膜の材料として良く使用される。)
【0005】
一般に、ITO膜はPVD(Physical Vapor Deposition)装置の真空チャンバー内において、ITOがターゲットとして使用され、スパッタされガラス基板上に蒸着され薄膜として形成されている。
【0006】
上記PVD装置において最も基本的な直流スパッタ法では、ターゲット電極に負のバイアスを印可して放電を起こし、次に、発生した電子がAr原子に衝突し、Arイオン(Ar+)ができる。そのAr+は負の方向、即ちターゲットに引き付けられ衝突し、それにより飛び出したITO分子がガラス基板上に薄膜として蒸着されてゆき透明電極が形成される。
【0007】
ところで、PVD装置内のチャンバー内で蒸気化されたITO分子は、当該チャンバー内の真空度が高いことからITO分子(蒸気分子)の平均自由行程が大きくなるため、ITO分子が三次元的にランダムに飛散し、ガラス基板以外のPVD装置のチャンバー内部(着脱・脱着可能な防着板や部品等を含む。)に付着する。これらの付着したITO材料はチャンバーが大気中に晒されたとき空気中の水分を含み得る。
【0008】
このため定期的に当該材料を除去しなければ、当該水の存在によりPVD装置内のチャンバー内部を蒸着可能な真空度達成までに長い時間が必要となり装置のランニングコストを上げてしまう弊害がある。さらには、防着板等から自然剥離するITO粉(固形の場合も含む。以下同様。)が、透明電極が形成されるガラス上に落下し不良発生の原因となるという弊害がある。
【0009】
したがって、上記弊害発生の未然防止のために、このITO膜形成にPVD装置のチャンバー壁等に付着したITO粉をITOスクラップ粉として定期的に除去する必要があり、一般的にはアルミナ粉等を用いたブラスト粉(研削砥粒)をエアガンにより強固に付着したITOに圧縮空気又は高圧水と共にブラスト粉を吹き付ける等によるメカニカルな除去を行っている。
【0010】
当該ブラスト除去法によれば、ITOが防着板等から除去されるものの、ITO粉と、ブラスト粉と、防着板材料である金属粉(例えばSUS304の微粉)とが混在したITOスクラップ粉が多量に産出される。これをリサイクルできれば前述した市場におけるITO材料不足の解消の一助となる。
【0011】
今までは、このようなITOスクラップ粉は(1)そのまま廃棄されるか(2)いわゆる酸浸出工程を主とする工程に投入され、酸化インジウムが分離・回収されてきた(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平2000−169991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、市場における酸化インジウム(若しくはインジウム)の不足感から酸化インジウム(若しくはインジウム)の価格が高騰し、(2)の酸浸出工程の分離・回収法において、さらに低コストかつ効率的に酸化インジウムを分離・回収する要請が生じてきた(以下、酸化インジウムというときはインジウム単体を含むものとする)。
【0013】
そこで、本発明者等は、(2)の分離・回収法によるコスト高の一因が、酸浸出工程の前段階の処理の材料(ITOスクラップ粉)にあることに着目した。
【0014】
即ち、酸浸出工程でITOスクラップ粉の全体の嵩及び重量が大きいと、酸浸出工程の処理槽を大きくする等全体の設備が大きくなりがちである。なお槽が大きくなればなるほど酸浸出の槽内ばらつきが生じるため好ましくない。そのため大きな撹拌設備も必要となりそのための電力消費もコスト上無視できない。
【0015】
さらに、ITOスクラップ粉のうちアルミナ粉等を用いたブラスト粉が多くの重量%を占め全体の嵩が大きくなることから、不要なブラスト粉のために一時ストックエリア確保が必要となる。さらには、同様に全体の嵩が大きいためITOスクラップ粉を酸浸出工程へ移動又は輸送する際のコストが高くなってしまう。よって、ITOスクラップ粉から酸化インジウムを分離・回収後にITO用材料として使用できたとしても、コスト的に見合わないという不具合が生じ得る。
【0016】
一方、ITOスクラップ粉に含まれる、ITO粉と、ブラスト粉と、その他の微粉とが一定の物理的な選鉱方法(例えば比重選別法、静電選別法、若しくは液体サイクロンによる分級法)あるいは他の分離方法を用いて事前に分離ができればよいが、上記選鉱方法は種々の条件で施しても技術上困難であった。この理由は主にITOスクラップ粉中のITO粉が非常に細かいため上記物理的な選鉱方法では分離が不可能であったためと考えられる。
【0017】
そこで、本発明者等は、鋭意検討の結果、酸化In系粉体のスクラップ粉の代表例である、ITOスクラップ粉からITO粉以外のブラスト粉及びその他の不要な微粉(本願において「ITO粉以外のブラスト粉及びその他の不要な微粉」は「ブラスト粉」と総称するものとする。)をできるだけ除去することで、ITOスクラップ粉の全嵩体積・全重量を低減しITO粉の比率を高めることができるITOスクラップ粉の濃縮方法を見出した(本願でいう「濃縮」とは、ITOスクラップ粉全体に対するITO粉の比率を高めること、すなわち、In品位を高めることをいうものとする。)。なお、In品位(%)は、産物であるITO粉中の金属In分をICP分析することによって求めたものである。
【0018】
すなわち、本願発明者等は、少なくとも、ITOスクラップ粉からITO粉が分離された後工程の酸浸出工程までの一時ストックコスト、及び移動若しくは輸送コスト、並びに酸浸出工程での処理コストをできるだけ抑制するために、ITOブラスト粉を分級し粒度を揃えた後、分級後のITOブラスト粉について浮遊選鉱(本願では適宜「浮選」というものとする。)の技術を用いることで、事前にITOスクラップ粉中に占めるブラスト粉をできるだけ除去しITO粉成分の比率(In品位)を高めた濃縮粉末を製造し、その後酸浸出等の工程に当該濃縮粉体を投入することでコストダウンを図ることができることを知見するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、浮遊選鉱法により酸化In系粉体とブラスト粉とを含む酸化In系スクラップ粉からブラスト粉を除去して酸化In系粉体の比率を高める酸化In系スクラップ粉のリサイクルのための粉体濃縮方法であって、
工程a.酸化In系粉体を含有するスクラップ粉について分級を行い適当な範囲の粒度未満に酸化In系スクラップ粉を分別する粉体分級工程、及び、
工程b.上記適当な範囲の粒度に分別された酸化In系粉体を含有するスクラップ粉について、主に酸化In系を含有する粉体を浮遊させつつ主にブラスト粉を含有する粉体を沈降させることにより、主に酸化In系粉体を含有する粉体を採取しつつ沈降した主にブラスト粉を含む粉体を除去する浮遊選鉱工程を含むことを特徴とする粉体濃縮方法を提供する。
【0020】
本発明は、上記酸化In系粉体を含有するスクラップ粉のリサイクル用粉体濃縮方法であって、
工程b−1.工程aで分別された酸化In系粉体を含有するスクラップ粉を粗選鉱用浮遊選鉱機に投入し、浮選粗精鉱粉体を浮遊させ、浮選尾鉱粉体を沈降させる粗選浮選工程、
工程b−2.工程b−1で得られた粗精鉱粉体を精選鉱用浮遊選鉱機に投入し、浮選精鉱粉体を浮遊させ、浮選中鉱粉体を沈降させる精選浮選工程
を含むことを特徴とする粉体濃縮方法を提供する。
【0021】
本発明は、上記の酸化In系粉含有スクラップ粉のリサイクルのための粉体濃縮方法であって、工程b−1の処理を所定回数行い、かつ、工程b−2の処理を所定回数行うことを特徴とする方法を提供する。
【0022】
上記「所定回数」は1回の場合も含む。例えば、工程b−1の処理が複数回で、工程b−2の処理が1回の場合も含み、又は、工程b−1の処理が1回で、工程b−2の処理が複数回の場合も含み、又は、工程b−1及び工程b−2の双方が複数の場合も含むものとする。
【0023】
本発明は、浮遊選鉱法によりITO粉とブラスト粉とからなるITOスクラップ粉からブラスト粉を除去してITO粉の比率(In品位)を高めるITOスクラップ粉のリサイクル用粉体濃縮方法であって、
工程a.ITOスクラップ粉について分級を行い適当な範囲の粒度未満にITOスクラップ粉を分別する粉体分級工程、及び、
工程b.上記適当な範囲の粒度に分別されたITOスクラップ粉について、主にITOを含む粉体を浮遊させつつ主にブラスト粉を含む粉体を沈降させることにより、主にITO粉を含む粉体を採取しつつ沈降した主にブラスト粉を含む粉体を除去する浮遊選鉱工程を含むことを特徴とする、浮遊選鉱法によりITO粉とブラスト粉とを含むITOスクラップ粉からブラスト粉を除去してITO粉の比率を高めるITOスクラップ粉のリサイクルのための粉体濃縮方法を提供する。なお、「主に」とあるのは、製造上必ずしもITOを含む粉体が100%選択的に浮遊するわけではなく、かつ、必ずしもブラスト粉を含む粉体が100%選択的に沈降するわけではないことを示す趣旨である。
【0024】
「ITOスクラップ粉」とは、ブラスターから圧縮空気又は高圧水と共に、射出したブラスト粉によりPVD装置の防着板から除去された、ITO粉と、ブラスト粉と、その他の微粉の混合粉を意味するものとする。圧縮空気はオイルフリーのエアーが供給されることを要する。
【0025】
「分級」とは、例えば、振動スクリーン等の篩いを用いて粉体を振動させることにより所望粒度について2つの閾値を設定し篩い分けを行い、この2つの閾値未満(閾値アンダー)の粉体を分別する方法である。湿式法と乾式法があるが、本実施例においては、粉体をスラリー化した後、水をかけながら篩い分けを行う振動篩分け装置(振動スクリーン)を用いた湿式法を用いている。
【0026】
さらに、本発明は、上記ITOスクラップ粉のリサイクル用粉体濃縮方法であって、
工程b−1.工程aで分級されたITOスクラップ粉を粗選鉱用浮遊選鉱機に投入し、粗精鉱粉体を浮遊させ、尾鉱粉体を沈降させる粗選浮選工程、及び
工程b−2.工程b−1で得られた粗精鉱粉体を精選鉱用浮遊選鉱機に投入し、浮選精鉱粉体を浮遊させ、浮選中鉱粉体を沈降させる精選浮選工程を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0027】
「粗選鉱用浮遊選鉱機」とは、本発明において粗選鉱と精選鉱とを区別する際に「粗選鉱用」と称しているが一般には特に区別する必要はなく単体で使われている一般の機械撹拌式浮遊選鉱機が用いられる。例えば、ファーレンワールド浮遊選鉱機(デンバーサブA型浮遊選鉱機)若しくはフォーガグレン浮遊選鉱機等の量産用浮遊選鉱機、又はMS型浮遊選鉱機(「MS」とはMineral Separation社の略称である。図2参照)等のパイロット試験用浮遊選鉱機が該当する。
【0028】
「浮選尾鉱」及び「浮選中鉱」とは、当該浮遊選鉱機を用いた浮選処理において沈降した粉体(鉱物の粉体)である。
【0029】
「精選鉱用浮遊選鉱機」とは、本発明では、細かい気泡(マイクロバブル)と長いカラム(円筒)部を利用して、粉体中の有用金属粉体をさらに厳に精選する特殊な浮遊選鉱機であって、例えばマイクロバブル型カラム浮遊選鉱機(図3)が該当する(詳細は後述する。)。
【0030】
さらに、本発明は、上記ITOスクラップ粉のリサイクル用粉末濃縮方法であって、浮遊選鉱機槽内の液体pH値を2.5〜4.5に設定することを特徴とする粉末濃縮方法を提供する。
【0031】
浮遊選鉱機槽内の液体pH値を2.5〜4.5に設定する理由は、沈降させるべき褐色コランダムはpH値を2.5未満の酸性領域で粉体の粒子表面が親水性となるため沈降し易くなり、一方、pHが4.5を超えると褐色コランダムの粒子表面が疎水性となり、浮きやすくなってしまい、浮遊選鉱による当該選別が不可能となる、またpHが2.5未満となると浮選剤の効力が著しく損なわれ、また、酸化インジウムの溶出が起こってしまうからである。以上の点を鑑みて、pH値を2.5〜4.5に設定することが製造上望ましい。
【0032】
さらに、本発明は、上記ITOスクラップ粉のリサイクル用粉末濃縮方法であって、
浮遊選鉱機の槽内の液体が、気泡を発生し易くする起泡剤と、粉体の表面を活性化する表面活性剤と、該活性化された粉体の表面を疎水化する捕収剤と、を含むことを特徴とする粉末濃縮方法を提供する。
【0033】
起泡剤、表面活性剤、及び捕収剤は、浮遊選鉱に必須のものである。それぞれについて本発明を実施するに際し所定のものを用いる必要があるが詳細については後述する。
【0034】
さらに、本発明は、上記粉末濃縮方法であって、前記ブラスト粉がコランダムからなる粉末であることを特徴とする粉末濃縮方法を提供する。「コランダム」には一般に褐色コランダムと白色コランダムがある。なお、ブラスト粉はコランダムに限定される訳ではなく、SiO系やFe系等様々な種類がある。したがって、本発明を実施するにあたり、コランダム以外のブラスト粉を用いることができることはいうまでもない。
【0035】
褐色コランダムは、ボーキサイトを溶融精製することによって作られる褐色の研削剤(研磨剤)である。含有するチタニア(TiO)のため褐色を呈している。高純度のアルミナからなる白色コランダムによる研削剤(研磨剤)もあるが、褐色コランダムが本発明の浮遊選鉱処理においては抑制(制御)がし易い傾向がある。
【0036】
さらに、本発明は、上記の粉末濃縮方法であって、前記分級の適当な範囲は25μm〜75μmの範囲であることを特徴とする粉末濃縮方法記粉末濃縮方法を提供する。
【0037】
ここで、ITOスクラップ粉を25μm〜75μmで分級するためには、25μm〜75μmの正方形ないし円形状の網を設置した振動スクリーン篩い分け装置を用いる。この理由はITOスクラップ粉中のITO粒子が殆ど25μm以下であるのに対し、ブラスト粉の粒子は殆どが75μm以上であることが挙げられる。よって、75μmより網目が大きければ大きいほど、ブラスト粉が網下へ行く量(網を通る量)が増え、In品位を下げる原因となり、75μmより網目が小さければ小さいほど、ITO粉は網上へ行き易くなり(残り易くなり)、採収率を下げる原因となる。
【0038】
さらにまた、ITO粒子が25μm以上のものもあり、ブラスト粉粒子も75μm以下のものもあるため元粉(ITOスクラップ粉)の粒度によって分級点に幅を持たすことにより、適切な分級点を選定して篩い分けを行う。
【0039】
なお、分級はITO粉の粒子が細かいため乾式で行うと、ブラスト粉粒子への表面付着により損出が大きくなるので、水洗が可能な湿式篩い分けが好ましい。そのため振動篩は本発明の実施には水洗スクリーン型(湿式)のものを用いる。
【0040】
本発明は、上記のITOスクラップ粉のリサイクル用粉体濃縮方法であって、
工程b−1の処理を所定回数行い、かつ、工程b−2の処理を所定回数行うことを特徴とする方法を提供する。
【0041】
上記「所定回数」は1回の場合も含む。例えば、工程b−1の処理が複数回で、工程b−2の処理が1回の場合も含み、又は、工程b−1の処理が1回で、工程b−2の処理が複数回の場合も含み、又は、工程b−1及び工程b−2の双方が複数の場合も含むものとする。
【0042】
工程bでは、以下のように低pHで浮遊選鉱処理が行われるため、浮選剤が分解し易く効力に持続性がない。よって、工程b−1又は工程b−1を2回〜5回繰り返すのが好ましい、さらに3回〜4回が好ましい。この理由は、1回であると濃縮が不十分であり、6回以上であると製造コスト上経済的でなく好ましくないからである。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、In含有粉体のスクラップ粉(本願明細書ではITOスクラップ粉を代表させている。)、In含有粉体のスクラップ粉からブラスト粉を浮遊選鉱によりできるだけ除去することで、In含有粉体のスクラップ粉のIn含有粉の比率(In品位)が高まりIn含有粉体のスクラップ粉が濃縮され、即ち、その結果、In含有粉体のスクラップ粉の全嵩体積・全重量を低減することができ、さらには、In含有粉体のスクラップ粉から酸化インジウムを分離・回収する一連のリサイクル処理のコストダウンを達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図1を参照して、簡潔にその流れを説明した後、詳細な内容について説明することとする。
【0045】
以下、本発明を実施するための最良形態、特に製造方法について説明するが、以下の説明では各試薬、各溶液等の数値等が示されているが、本発明を実施するのにあたり以下の数値に限定されるものではなく、例えばパイロットスケール若しくは量産スケール又はスクラップ粉に含有されるIn系粉末のブラスト粉の種類等に応じて、当業者により各試薬、各溶液等の量その他の条件を適宜変更することができることは言うまでもない。
【0046】
まず、例えばPVD装置の防着板等から除去されたITOスクラップ粉を準備する(S1)。次に、ITOスクラップ粉についてある一定の粒度範囲で分級を行う(S2)。ITOスクラップ粉を粗選鉱用浮遊選鉱機に投入し、浮遊選鉱により粗選鉱された浮選粗精鉱である粉体と、浮選尾鉱である粉体と、を好ましくは複数段で分離する(S3)。次に、粗選工程で粗選鉱された粗精鉱粉体を精選鉱用浮遊選鉱機に投入し、浮選精鉱である粉体と、浮選中鉱である粉体と、を好ましくは複数段で分離する(S4)。このようにして、浮遊選鉱法によりITOスクラップ粉からブラスト粉をできるだけ除去することでITO粉の比率を高める粉末濃縮を行うことができる。
【0047】
さらに、各工程について詳細に説明する。
【0048】
<ITOスクラップ粉準備工程;S1>
ITOスクラップ粉は、ガラス基板状へPVD装置で透明電極を施す製造拠点において基本的に従来は廃棄物として扱われてきたものであって、ITOスクラップ粉はPVD処理後、PVD装置内部の防着板等の外壁あるいは他の部分に付着したITO材料をエアガンから圧縮空気と共に吹き付けられたブラスト粉で取り除いたものである。本発明では、当該ブラスト粉はコランダムを用いる。但し、好ましくは褐色コランダム(Al)を用いる。
【0049】
<分級工程;S2>
次に、S1で準備されたITOスクラップ粉について分級を行い、浮遊選鉱前の粉体を準備する。具体的には、ITOスクラップ粉を、分級により25μm〜75μmアンダー、さらに好適には30μm〜50μmアンダーの粒度の粉体を得る。分級方法は公知の振動スクリーンによる湿式分級法による。
【0050】
<粗選工程;S3>
次に、分級されたITOスクラップ粉を、粗選鉱用浮遊選鉱機(機械撹拌式浮遊選鉱機)に投入し、浮遊選鉱法により、粗選鉱された浮選粗精鉱である粉体と浮選尾鉱である粉体とを分離する。
【0051】
以下の説明では、図2に示したような粗選鉱用浮選機としてMS型浮遊選鉱機(500g処理用)を用いた場合を例にしてこの粗選工程を説明する。
【0052】
図2に示されるように、MS型浮遊選鉱機100は、主に撹拌室5と泡沫室7とを備え、撹拌室5と泡沫室7とは細隙部9と細管17とを介して連通している。
【0053】
撹拌室5の中には周速が6m〜7m程度で回転する槽内の液体を撹拌するための撹拌用インペラ11が備えられている。
【0054】
起泡剤、表面活性剤、補収剤等の浮選用添加物が加えられた、適量の液体(例えば重量でITOスクラップ粉1に対して水9の割合が望ましい。)が投入口6から撹拌室5に供給されると共に、ITOスクラップ粉は、インペラ11により強く撹拌される。このとき同時に空気混和も行われる。当該液体はその気泡を含んだままの状態で、細隙部9から泡沫室7に送られる。
【0055】
泡沫室7は、静状態になっており、気泡が浮揚して泡沫状態が泡沫室7の液体の水面上付近に形成されている。ITOスクラップ粉中の疎水化されたITO粉はこの気泡と共に泡沫室7の水面上に浮かび上がり、浮選されたITO粉(精鉱)は出口19を介してタンク21へと採取されていく。この際、泡沫は流出し易くするため羽13及び羽15を回転させて泡沫を掻き出すようにされている。
【0056】
一方、気泡に着くべくして着き得なかったITOスクラップ粉の内のITO粉も存在するため、さらに繰り返し処理し、それらを浮遊させる必要がある。そのため、バッチ方式の場合には、さらに、ITOスクラップ粉が分散した液が隣接する撹拌室5のインペラ11の回転による吸引力により泡沫室7から撹拌室5へと戻すようにして上記と同様の動作を繰り返す。(以上「選鉱工学」(共立出版)参照)。
【0057】
このようにして、所定時間、浮遊選鉱処理をすることで粗選工程が完了する。
【0058】
なお、本発明に係る実施例ではMS型浮遊選鉱機による処理を3回(図1においてN=3と設定)行うことが好適であるとしている(後述)。しかし、品位又は製造コストとの兼ね合いを鑑みつつ、さらに繰り返すことで浮選粗選鉱が得られる限り、同一処理を繰り返すこともできる。
【0059】
本発明を実施するに場合のMS型浮選機100の浮選条件は、以下の通りである。
【0060】
25μmから75μmの範囲で分級された、当該範囲アンダーのITOスクラップ粉100gと、水0.8L〜1.0Lとを混合したもの(以下「スラリー」という。)を準備する。液温は常温とする。
【0061】
この際、当該スラリーpHは2.5〜4.5に設定することが好ましい。さらにpHは3〜4に設定することが望ましい。本発明では、HSO等の酸をpH調整用の条件剤として用いる。
【0062】
以下、元粉のITOスクラップ粉のIn品位が10%であるときを例にして浮遊選鉱に必要な添加剤の添加量の条件を説明するが、当該添加量は元粉のIn品位に比例するわけではないので、都度最適条件を決める必要がある。
【0063】
さらに、表面を活性化するために、元粉1tonに対して、100g〜500gのCuSO及び500g〜2000gのNaSを活性剤として上記スラリー溶液に加える。条件付け時間は各2分〜10分に設定する。
【0064】
CuSOを加える理由は、CuよりもInの方がイオン化傾向が強いことを利用して、ITOスクラップ粉のInの一部とCuSOのCu2+とを置換しITOスクラップ粉の粒子の表面をCuが被覆するであろうと考えられるためである。このようにしてCuがInと一部置換することによりITOスクラップ粉の粒子表面にCuが付され水面に浮き易くなるようになる。NaSを加える理由は硫化系被膜をITOスクラップ粉の粒子表面上に形成させてITOスクラップ粉がさらに疎水性の特性を持つようになるものと考えられるためである。
【0065】
さらに、ITOスクラップ粉を疎水性にして水面に浮き易くするために、当該液体に浮選剤(捕収剤及び起泡剤)を加える。捕収剤としては好適には100g/t〜1000g/tのKAX(カリウムアミルザンセート)を使用する。また、起泡剤として好適には10g/t〜50g/tのMIBC(メチルイソブチルカルビノール)を溶液中に添加する。なおこのときCuSO、NaS、及びザンセートはお互い直接反応してしまうため、同時に添加することはできないことに留意すべきである。
【0066】
ここで、KAXの代わりにKBX(カリブチルザンセート)やKEX(カリエチルザンセート)等を用いることもでき、MIBCの代わりにダウフロス250(ジエチレン・グリコール・モノブチルエーテル)又はエロフロス65(ポリグリコールエステル)等を用いることもできる。
【0067】
さらにpHを硫酸等で上述の初期設定値に再度調整する。
【0068】
以上のようにして作製されたスラリーを撹拌室5及び泡沫室7の双方を満たすように投入し、上述のMS型浮遊選鉱機100による浮遊選鉱処理を行うことで、泡沫室7において粗選鉱された粉体(ITOに富むITOブラスト粉)が、泡沫室7に満たされた液体上に泡沫と共に順次浮かび上がり、粗精鉱出口19から排出され、粗精鉱タンク21に貯められていく。このようにして粗選工程が進行する。
【0069】
<精選工程;S4>
さらに、図3を参照して、精選鉱用浮選機の代表例としてマイクロバブル・カラム浮選機200(MINERALS AND COAL TECHNOLOGIES社製)を用いた場合を例にして以下の精選工程を説明する。
【0070】
初めに、粗選工程と同様のpH調整および浮選剤の調整及び添加が必要である。その処方は粗選工程と同様なのでここではその説明を省略する。
【0071】
上記浮選剤を含む溶液をカラム中に満たした後、上記工程で浮遊選鉱により得られたMS型浮遊選鉱機のタンク21(図2)中の粉体スラリー(ITOに富むITOブラスト粉)を精選鉱用浮選機200((図3に示されたマイクロバブル・カラム浮遊選鉱機)の浮選給鉱用タンク35に投入する。
【0072】
図3(a)は、マイクロバブル・カラム浮選機200の概略的な断面図である。図3(a)に示されるように、マイクロバブル・カラム浮選機200は、カラムセル23と、気泡発生用ポンプ25と、インラインミキサー27と、リサイクル導管29と、エアーコンプレッサー31と、精鉱フロス洗浄用水供給部33と、浮選給鉱用タンク35と、フィードポンプ37と、を主に備えている(なお図3において「FC」は水や空気のフローコントロールを行う装置を意味する。)
【0073】
カラムセル23は、その形状は中空の円筒であり、例えば、その寸法は、高さが略250cm、内径が5cmである。このように縦長形状である理由は、浮遊選鉱による処理の浮遊距離を長くすることでカラムセル23内における浮沈分離時間を長くするためである。また、撹拌の影響がないためカラムセル23内が非常に静かで細かな粒子でもシャープに分離できるという利点を持つ。なお、このカラムセル200は円筒の3カ所の分割部23A、23B、及び23Cで分解でき、浮選状況に応じてカラムを追加・取り外すことにより長さを調整できるようになっている。
【0074】
気泡発生用ポンプ25は、浮選処理に必須な泡を作り出すのに必要なエアーと沈降した粉末スラリーを再度カラムセル200の頂下面からインラインミキサー27を経てカラムセル200内へ送るためのポンプである。
【0075】
インラインミキサー27は、図3(b)に示されるように、その形状は円筒状であり、かつ、円筒内部中空にジグザグ的な構造体を備えている。気泡発生用ポンプ25から送られるエアーとスラリーはインラインミキサー27を通過することで、エアーはマイクロバブル化され、スラリーはこのマイクロバブルと接触しながら、カラムセル23内へと鉛直上方に向けて送られる。
【0076】
リサイクル導管29は、カラムセル200の底部付近とカラムセル23の下方に設置された気泡発生用ポンプ25と結合している。沈降してくる粉体を循環させると共に、気泡発生用ポンプ25からの気泡と共に、再度カラムセル23の中を上方へ移動させ沈降物中に残る浮遊物(ITO粉)の再精選を行わせるためである。
【0077】
エアーコンプレッサー31は、フローコントローラーFCを備えており、カラムセル23の底部に位置するインラインミキサー27のエアー導入部(図3(b)参照)に圧縮空気を送るためのものである。
【0078】
洗浄用水供給部33は、フローコントローラーFCを備えており、カラムセル23の頂部口から浮遊してくる精鉱を排出口41から排出する前に最終洗浄するためのものである。
【0079】
浮選給鉱用タンク35は、粗選工程で得られた粗精鉱のパルプ濃度を調整し、再度粗選と同様の疎水化処理を施したものが入るタンクである。
【0080】
フィードポンプ37は、浮選給鉱用タンク35から粗選工程で得られた粗精鉱スラリーを必要な捕収剤等の浮選剤で処理したものをマイクロ・バルブ浮選機200の給鉱部へと移動させるためのものである。
【0081】
以上の構成から奏されるマイクロバブル・カラム浮選機200の動作について以下説明する。
【0082】
まず浮選給鉱用タンク35からフィードポンプ37を介して給鉱部39にMS型浮遊選鉱機100のタンク21で得られたITO粉末スラリーがカラムセル23の液面上部へと導入される。
【0083】
そして、浮遊するものは気泡に付着して浮き、沈降するべきもの及び浮ききれずに沈降したものは、カラムセル200の底部に沈降してくるのでITO粉末スラリーを気泡発生用ポンプ25からのエアーと共に、インラインミキサー27内においてITO粉体の沈殿スラリーを剪断しつつ浮遊選鉱に不可欠な気泡を微細化(マイクロバブル化)し、気泡とITO粉体粒子との接触を促進する。その後ITO粉体の回収に有効な微細な気泡(マイクロバブル)に付着したITO粉体たる浮遊精鉱とがカラムセル23の上部39まで浮き上がり、取出口41からITO粉体の精鉱を取り出すことができ、より純度の高い精選浮遊選鉱処理を行うことができる。このようにして精選工程が進行する。
【0084】
なお、本発明に係る実施例ではマイクロバブル型浮遊選鉱機による精選処理を、上述した粗選処理と同様に、3回(図1においてN’=3と設定)行うことが好適であるとしている。しかし、品位又は製造コストとの兼ね合いを鑑みつつ、さらに繰り返すことで浮選粗選鉱が得られる限り、同一処理を繰り返すこともできる。
【0085】
なお、この後、上記の方法により得たITOスクラップ粉の濃縮粉末を酸浸出法、溶媒抽出法、イオン交換法等を施して、酸化インジウムを得、ITOの材料をリサイクルすることになる(詳細については、本出願人による特願2004−02777号を参照されたい。)。
【0086】
ここでは、酸浸出法により酸化インジウムを得、ITOの材料をリサイクルする方法について、簡単に述べることにする。
【0087】
濃縮されたITOスクラップ粉(以下単に「ITO濃縮粉末」という。)を酸で浸出し、例えば酸とインジウムの化合物を得、この化合物から抽出剤を用いてインジウムイオンを溶媒抽出する。そして、得られた抽出液を無機酸により逆抽出してインジウム溶液を得、この溶液をアルカリと反応させ、得られた水酸化インジウムを焙焼して酸化インジウムを得ることができる。このようにしてITOスクラップ粉からITOの材料の酸化インジウムが採取することができ、結果としてITOの材料のリサイクルが可能となる。
【0088】
また、本発明を実施すると、同時にブラスト粉(ITO含)が副産物として産出されることで、ITO用ブラスト粉もまたリサイクルが可能となる。
【0089】
さらにまた、本発明は、ITO粉のみでなく、Inを主成分としたもの、例えばIZO(InにZnOを1wt%〜30wt%添加したもの)など、Inに種々の元素を添加した酸化In系粉のスクラップ粉にも適用可能であり、また、ITOと同様にして透明導電膜として使用されるZnO系、SnO系の材料にも適用できる。
【実施例】
【0090】
本発明に係る実施例を、図4及び図5を参照して以下説明する。
【0091】
S1:まず1000kg(1ton)のITOスクラップ粉(元粉)を準備した。この元粉のIn品位は3.3%であった。
S2:パルプ濃度が40%となるように上記元粉に1600Lの水を加え、その後槽内で十分撹拌した。
S3:上記元粉に対して射水1200Lを放ちつつ38μmで紛級(分別)可能な振動スクリーンにより分級処理(篩い分け処理)を行った。その結果、38μm未満(−38μm)粉体と38μm以上(+38μm)の粉体を得た。前者はITO粉の濃度が高まったITO濃縮ブラスト粉として、後者は粗粒ブラスト粉とした。
【0092】
S4:粗粒ブラスト粉は、乾重量(乾燥重量)700kg、In品位0.4%であった。ちなみに収率は約10%であり、水200Lを含んでいた。
S5:この粗粒ブラスト粉をパンフィルターで脱水・濾過した。濾液は150Lであった。
S6:次にS5で脱水した粗粒ブラスト粉をサイクロンドライヤーで乾燥し、残りの50Lの水分を除去した。
【0093】
この粗粒ブラスト粉は、上述したようにITO粉を含む(In品位0.4%)が38μm以上のコランダムからなるブラスト粉である。よってこのS6で得られた乾燥粗粒ブラスト粉は、再びITOをブラスターで機械的除去する際に使用することが可能(リサイクル可能)となる。
【0094】
S7:一方、ITO濃縮ブラスト粉300kgと水2600Lからなるスクリーンアンダースラリー(分級後の粉体スラリー)を条件槽の中に投入した(パルプ濃度10%)。この際の乾鉱(乾燥した状態でのITO濃縮ブラスト粉)でのIn品位は10%であった。
【0095】
S8−1:まずこの条件槽中に150gのCuSO4を投入しつつ、硫酸を適量添加して液pHを4に設定した。
S8−2:次に、600gのNaSを上記条件槽に投入した。
S8−3:次に、150gのKAX及び15gのMIBCを上記条件槽に投入した。
S8−4:ここでH2SO4を適量加えて液pHが4になるように再設定した。
【0096】
S9:上述したMS型浮選機100と機構・原理が同様の、量産スケールに対応可能なのMS型浮選機の原理を用いた浮選機を使用し、その撹拌室5に、上記条件槽で調整されたITOブラスト粉スラリーを投入し、浮遊選鉱処理(粗選)を行った(MS型浮選機100を例にした粗選の浮遊選鉱処理の流れは前述した通りであるであるのでここではその説明を省略する)。本実施例では当該浮遊選鉱処理(粗選)を3回行った。上記処理により、浮選粗精鉱(S10)と浮選尾鉱(S12)とに分別された。重量140kgのITO粉を含む浮選粗精鉱が得られ、In品位は20%であった。また、この時点の回収率は85%であった。
【0097】
S11:浮選尾鉱は脱水し産業廃棄物として廃棄した。この段階の浮選尾鉱は、S6のものとは異なり粒度が細かすぎてブラスト粉としては適当でないからである。一方、このときの脱水された水は一連の工程で使われる水として再利用する。
【0098】
S13:さらに精選選鉱処理を行うために、以下の溶液を条件槽で作成した。
S13−1:まずこの条件槽中に300Lの水と150gのCuSO4を投入しつつ、硫酸を適量添加して液pHを4に設定した。
S13−2:次に、600gのNaSを上記条件槽に投入した。
S13−3:次に、150gのKAX及び50gのMIBCを上記条件槽に投入した。
S13−4:ここでHSOを適量加えて液pHが4になるように再設定した。
【0099】
S14:上記浮選粗精鉱に対してさらに精選選鉱処理を行った(マイクロバブル・カラム浮選機200による当該精選選鉱処理は前述した通りであるのでここではその説明を省略する。)。本実施例では当該精選選鉱処理を3回行った。当該処理により、浮選中鉱(S15)と浮選精鉱(S17)とに分別された。
【0100】
S16:浮選中鉱(S15)は粗選鉱工程に繰り返すようにする(S7へ戻す。)。
【0101】
S17:浮選精鉱はITO粉を含むものであり、80kg得られ、In品位は30%であった。また、この時点の回収率は72%であった。
S18:上記浮選精鉱をパンフィルターを用いて脱水した。このとき280Lの水が脱水され、80kgのITO粉が濃縮された粉体が得られた。このときのIn品位は30%であり、回収率は72%であった。なお脱水しきれていない水分は20Lあった。
【0102】
以上により、3.3%のIn品位の1tonのITOスクラップ粉から、ブラスト粉を分級と3回の粗選浮選工程(S9)及び同じく3回の精選浮選工程(S14)を介して、80kgのIn品位30%のIn濃縮粉が得られた。なお回収率は72%であった。
【0103】
このことから、浮遊選鉱法を用いてITOスクラップ粉からブラスト粉を除去することにより全体の重量について1000kgから80kgに大幅に減少することができた。すなわち、言い換えると、全体重量を12.5分の1に減らすことができたことを意味する。それと同時にIn品位については3.3%から30%に向上(濃縮)することができた。
【0104】
このことから本実施例によれば、本発明の方法を実施することによって、上述の本発明の効果を奏することができることが分かった。
【比較例】
【0105】
<比較例1>
図4及び図5に示された実施例のフローにおいて、浮選処理液へ、硫酸銅CuSOを添加したとき及び硫酸銅CuSOを添加しないときの鉱量(精鉱の歩留(%))、In品位(%)、及びIn分布率(%)を表1に示す(他の処理条件は同一とした。)。なおこのときの硫酸銅CuSOを添加したときの硫酸銅CuSOの添加量は500g/tであった。
【表1】

【0106】
表1に示された比較例1の結果によれば、硫酸銅CuSOを添加したときの方が硫酸銅CuSOを添加しないときよりもIn分布率(%)が優れており、効率良く回収できることが分かった。
【0107】
<比較例2>
図4及び図5に示された実施例のフローにおいて、浮選処理液へ、硫化ナトリウムNaSを添加したとき及び硫化ナトリウムNaSを添加しないときのIn品位(%)、及びIn分布率(%)を表1に示す(他の処理条件は同一とした。)。なおこのときの硫化ナトリウムNaSを添加した場合の添加量は2000g/tであった。
【表2】

【0108】
表2に示された比較例2の結果によれば、硫化ナトリウムNaSを添加したときの方が硫化ナトリウムNaSを添加しないときよりもIn品位(%)、及びIn分布率(%)のすべての点において優れていることが分かった。
【0109】
<比較例3>
【0110】
図4及び図5に示された実施例のフローにおいて、浮選処理液の捕収剤をKAXとしたとき、捕収剤をオレイン酸ナトリウムとしたとき、及びドデシル硫酸ナトリウムとしたときのIn品位(%)、及びIn分布率(%)を表3に示す(他の処理条件は同一とした。)。なおこのときのそれぞれの捕収剤の添加量は、KAXについては500g/t、オレイン酸ナトリウムについては1000g/t、ドデシル硫酸ナトリウムについては200g/tであった。
【表3】

【0111】
表3に示された比較例3の結果によれば、捕収剤としてKAXを採用したときが、捕収剤としてオレイン酸ナトリウム若しくはドデシル硫酸ナトリウムを採用したときよりもIn品位(%)及びIn分布率(%)のすべての点において優れていることが分かった(さらに詳細には、オレイン酸ナトリウムにあってはIn分布率(%)が低く、ドデシル硫酸ナトリウムにあってはIn品位(%)が低いことが分かった。)。
【0112】
<比較例4>
図4及び図5に示された実施例のフローにおいて、浮選処理液のpHを2.5未満としたとき、pHを2.5〜4.5としたとき、及びpHを4.5〜6としたときのIn品位(%)、及びIn分布率(%)を表4に示す(他の処理条件は同一とした。)。なお、pHの調整は硫酸で行った。
【表4】

【0113】
表4に示された比較例4の結果によれば、pHとして2.5〜4.5を採用したときが、pHとして2.5未満若しくは4.5〜6を採用したときよりもIn品位(%)及びIn分布率(%)のすべての点において成績が良く、優れていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明によれば、ITO電極等の透明電極形成のためのPVD装置の防着板等から回収されたIn系粉を含むスクラップ粉からブラスト粉をある一定量除去することができ、In系粉の濃縮粉末を提供することができる。さらに、この後、酸浸漬を含む工程により、酸化インジウム(インジウム)を分離・回収し、当該酸化インジウムを透明電極用の材料としてリサイクルすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の最良の実施形態を説明するためのフロー図である。
【図2】粗選用浮遊選鉱機を説明するための概念図である。
【図3】(a)精選用浮遊選鉱機を説明するための概念図である。(b)精選用浮遊選鉱機に内蔵されるインラインミキサーを説明するための概念図である。
【図4】本発明の好適実施例を説明するためのフロー図である。
【図5】図4に続く、本発明の好適実施例を説明するためのフロー図である。
【符号の説明】
【0116】
5 撹拌室
7 泡沫室
9 細隙部
11 インペラ
13、15 羽
17 循環用導管
19 出口
21 タンク
23 カラムセル25
23A、23B、23C 分割部
25 気泡発生用ポンプ
27 インラインミキサー
29 リサイクル導管
31 エアーコンプレッサー
33 洗浄用水供給部
35 浮選溶液用タンク
37 フィードポンプ
41 排出口
100 MS型浮選機(粗選用浮選機)
200 マイクロバブル・カラム浮選機(精選用浮選機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程a及び工程bを含むことを特徴とする、浮遊選鉱法により酸化In系粉体とブラスト粉とを含む酸化In系粉体含有スクラップ粉からブラスト粉を除去して酸化In系粉体の比率を高める酸化In系粉体含有スクラップ粉のリサイクルのための粉体濃縮方法。
工程a.酸化In系粉体含有スクラップ粉について分級を行い適当な範囲の粒度未満に酸化In系粉体含有スクラップ粉を分別する粉体分級工程、及び、
工程b.上記適当な範囲の粒度に分別された酸化In系粉体含有スクラップ粉について、主に酸化In系含有粉体を浮遊させつつ主にブラスト粉を含む粉体を沈降させることにより、主に酸化In系含有粉体を含む粉体を採取しつつ沈降した主にブラスト粉を含む粉体を除去する浮遊選鉱工程。
【請求項2】
請求項1に記載された酸化In系粉含有スクラップ粉のリサイクルのための粉体濃縮方法であって、前記工程bが以下の工程b−1及び工程b−2を含むことを特徴とする方法。
工程b−1.工程aで分別された酸化In系粉体含有スクラップ粉を粗選鉱用浮遊選鉱機に投入し、浮選粗精鉱粉体を浮遊させ、浮選尾鉱粉体を沈降させる粗選浮選工程、
工程b−2.工程b−1で得られた粗精鉱粉体を精選鉱用浮遊選鉱機に投入し、浮選精鉱粉体を浮遊させ、浮選中鉱粉体を沈降させる精選浮選工程。
【請求項3】
請求項2に記載された酸化In系粉含有スクラップ粉のリサイクルのための粉体濃縮方法であって、
工程b−1の処理を所定回数行い、かつ、工程b−2の処理を所定回数行うことを特徴とする方法。
【請求項4】
以下の工程a及び工程bを含むことを特徴とする、浮遊選鉱法によりITO粉とブラスト粉とを含むITOスクラップ粉からブラスト粉を除去しITO粉の比率を高めるITOスクラップ粉のリサイクルのための粉体濃縮方法。
工程a.ITOスクラップ粉について分級を行い適当な範囲の粒度未満にITOスクラップ粉を分別する粉体分級工程、及び、
工程b.上記適当な範囲の粒度に分別されたITOスクラップ粉について、主にITOを含む粉体を浮遊させつつ主にブラスト粉を含む粉体を沈降させることにより、主にITO粉を含む粉体を採取しつつ沈降した主にブラスト粉を含む粉体を除去する浮遊選鉱工程。
【請求項5】
請求項4に記載されたITOスクラップ粉のリサイクルのための粉体濃縮方法であって、前記工程bが以下の工程b−1及び工程b−2を含むことを特徴とする方法。
工程b−1.工程aで分別されたITOスクラップ粉を粗選鉱用浮遊選鉱機に投入し、浮選粗精鉱粉体を浮遊させ、浮選尾鉱粉体を沈降させる粗選浮選工程、
工程b−2.工程b−1で得られた粗精鉱粉体を精選鉱用浮遊選鉱機に投入し、浮選精鉱粉体を浮遊させ、浮選中鉱粉体を沈降させる精選浮選工程。
【請求項6】
請求項5に記載されたITOスクラップ粉のリサイクルのための粉体濃縮方法であって、
工程b−1の処理を所定回数行い、かつ、工程b−2の処理を所定回数行うことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載のITOスクラップ粉のリサイクル用粉末濃縮方法であって、
粗選鉱用浮遊選鉱機及び精選鉱用浮遊選鉱機の、浮遊選鉱機槽内の液体pH値を2.5〜4.5に設定することを特徴とする粉末濃縮方法。
【請求項8】
請求項4〜請求項7のいずれか1項に記載のITOスクラップ粉のリサイクルのための粉末濃縮方法であって、
浮遊選鉱機の槽内の液体が、気泡を発生し易くする起泡剤と、粉体の表面を活性化する表面活性剤と、該活性化された粉体の表面を疎水化する捕収剤と、を含むことを特徴とする粉末濃縮方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の粉末濃縮方法であって、前記ブラスト粉がコランダムを含むブラスト粉であることを特徴とする粉末濃縮方法。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の粉末濃縮方法であって、前記分級の適当な範囲は25μm〜75μmの範囲であることを特徴とする粉末濃縮方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−150196(P2006−150196A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−342844(P2004−342844)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】