説明

酸味が強化されたグミキャンディ

【課題】口に入れた瞬間の酸味の発現を強め、さらに有機酸の吸湿によるグミキャンディ部の劣化を抑制した経時的に安定なグミキャンディを提供する。
【解決手段】全固形分重量に対してHMペクチンを0.1〜1.0重量%、澱粉を4〜16重量%およびグリセリンを1〜10重量%含み、かつ、水分値が11%以下であるグミキャンディ部の表面に、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、アスコルビン酸、アジピン酸およびコハク酸よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の有機酸を、グミキャンディ部の全重量に対して4〜8重量%含むコーティング層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸味が強化されたグミキャンディに関する。さらに詳しくは、本発明は、有機酸をコーティングすることにより酸味が強化されたグミキャンディに関する。
【背景技術】
【0002】
グミキャンディは、菓子の中でも世界中の幅広い人々に認知されており、噛み応えのある食感と風味とを楽しむ菓子として親しまれている。中でも、刺激や爽快感の得られる有機酸を含んだ酸味の強いグミキャンディは人気があり、さらなる酸味のインパクトが求められている。また、有機酸の一つである、クエン酸は、爽やかな酸味を持つばかりでなく、疲労回復や健康増進のためのサプリメントとしても広く用いられており、非常に幅広い分野で用いられている有機酸である。リンゴ酸や酒石酸などその他の有機酸に関しても、同様に健康補助の効果がうたわれており、嗜好面と健康面との両方の観点から、それらの有機酸を多く含むようなグミキャンディの開発が待たれている。
【0003】
しかし、通常のグミキャンディは、耐酸性が弱く、有機酸の吸湿により経時的な安定性が低下するため、グミキャンディ中に含有させ得る有機酸量はせいぜい5%程度に過ぎない。このため、グミキャンディに劇的な酸味を付与することは望めなかった。ノーベル製菓株式会社製「サワーズ(登録商標)」、カンロ株式会社製「ピュレグミ(登録商標)」、味覚糖株式会社製「シゲキックス(登録商標)」等においては、グミキャンディ表面に有機酸をコーティングする事により、グミキャンディに酸味を付与する方法がとられているが、この場合においてもクエン酸をはじめとする有機酸は、吸湿およびべとつきの原因となり、少量の使用に限られており、また、経時的にも不安定なものであった。
【0004】
これまでにも、グミキャンディの耐熱性や安定性を向上させる目的で、いくつかの試みがなされている。その具体例としては、水溶性カラギナンを添加する事で耐熱性を向上させたグミキャンディ(特許文献1)、乾燥条件を一定の条件で行う事で耐熱性を向上させたグミキャンディ(特許文献2)、および、2種類の異なる粘度を持ったゼラチンを組み合わせる事によって耐熱性を向上させたグミキャンディ(特許文献3)が挙げられる。これらのグミキャンディは、単体では耐熱性や安定性が向上している。しかし、その表面に有機酸をコーティングした場合には、温度変化や経時変化に伴ってその表面がベタ付く「なき」という現象が見られるなど、十分な安定性は得られていなかった。
【0005】
また、特許文献4には、特定の糖組成を有することにより長期保存を可能にした可食性ゼラチンゲルからなる容器の中に、炭酸水素ナトリウム等の吸湿性粉末を密封したゲル食品が提案されている。しかし、特許文献4には、吸湿性粉末として有機酸は例示されていない。また、このゲル食品は吸湿性粉末を密封する事で吸湿性粉末を安定化させているため、有機酸が表面にコーティングされているような物に関して、安定性を保証するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3583714号
【特許文献2】特開2002−360174号公報
【特許文献3】特許第3167284号
【特許文献4】特開平8−9901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、口に入れた瞬間に今までにない強い酸味を感じ、且つ、経時的にも安定なグミキャンディを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、有機酸を比較的多量にコーティングした場合でも、長期間安定で、口に入れた瞬間に今までに無い強い酸味を感じるグミキャンディを得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、グミキャンディ部と、グミキャンディ部の表面に形成されるコーティング層とを含むグミキャンディであって、グミキャンディ部が、その全固形分重量に対して、HMペクチンを0.1〜1.0重量%、澱粉を4〜16重量%およびグリセリンを1〜10重量%含み、かつ、水分値が11%以下であり、コーティング層が、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、アスコルビン酸、アジピン酸およびコハク酸よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の有機酸を、グミキャンディ部全重量に対して4〜8重量%含む、酸味が強化されたグミキャンディに関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、口に入れた瞬間に今までにない強い酸味を感じ、且つ、経時的にも安定なグミキャンディを提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のグミキャンディは、グミキャンディ部と、グミキャンディ部の表面に形成されるコーティング層とを含む。グミキャンディ部は、その全固形分重量に対して、HMペクチンを0.1〜1.0重量%、澱粉を4〜16重量%およびグリセリンを1〜10重量%含み、かつ、水分値が11%以下であることを特徴とする。また、コーティング層は、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、アスコルビン酸、アジピン酸およびコハク酸よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の有機酸を、グミキャンディ部の全重量に対して4〜8重量%含むことを特徴とする。
【0012】
本発明においては、上記特徴を有するグミキャンディ部と、上記特徴を有するコーティング層とを組み合わせて用いることにより、本発明の優れた効果が得られる。すなわち、グミキャンディ部の耐酸性、耐熱性や長期安定性が向上するだけでなく、コーティング層に含まれる有機酸の吸湿およびそれに伴うグミキャンディ部の安定性の低下が抑制される。その結果、本発明のグミキャンディを口に入れた瞬間に、今までのグミキャンディにはない強い酸味を感じることができる。しかも、本発明のグミキャンディは、グミキャンディ部に比較的多量の有機酸をコーティングしているにもかかわらず、長期間保存した後でも、口に入れた瞬間に強い酸味を感じることができる。
【0013】
以下、グミキャンディ部およびコーティング層に含まれる各成分について、詳しく説明する。
【0014】
[グミキャンディ部]
グミキャンディ部は、糖分と共に、HMペクチン、澱粉およびグリセリンを含み、残部が水である。
糖分としては特に限定されないが、たとえば、砂糖、水飴等が挙げられる。これらの糖分を水に溶解して、糖液として用いてもよい。グミキャンディ部における砂糖の含有量は特に限定されないが、好ましくは、グミキャンディ部の全固形分重量に対して20重量%〜50重量%である。また、グミキャンディ部における水飴の含有量も特に限定されないが、好ましくは、グミキャンディ部の全固形分重量に対して30重量%〜70重量%である。
【0015】
HMペクチンは、メチルエステル化されたガラクツロン酸の含有割合(%)を示すエステル化度(DE)が50%以上の高メトキシル(HM)ペクチンである。HMペクチンとしては特に限定されないが、リンゴ由来のものおよび/またはシトラス由来のものを好ましく使用できる。グミキャンディ部におけるHMペクチンの含有量は、グミキャンディ部の全固形分重量に対して、0.1重量%〜1.0重量%であり、グミキャンディ部の経時的な安定性を一層向上させるという観点から、好ましくは0.3重量%〜0.7重量%である。
【0016】
HMペクチンの含有量が0.1重量%未満では、グミキャンディ部の熱安定性が不十分になる傾向がある。HMペクチンの含有量が1.0重量%よりも多いと、後述するゼラチンとのゲル化競合が起こって、グミキャンディ部が不安定になり、経時的な安定性が不十分になる傾向がある。
【0017】
澱粉としては特に限定されず、とうもろこし、米、馬鈴薯、タピオカ等の各種澱粉含有植物由来の澱粉を使用できる。また、酸処理、架橋処理などを施した加工澱粉も用いる事が出来る。グミキャンディ部を作製する上での作業性の観点から酸処理された加工澱粉が好ましい。グミキャンディ部における澱粉の含有量は、グミキャンディ部の全固形分重量に対して、4重量%〜16重量であり、グミキャンディ部の経時的な安定性を一層向上させるという観点から、好ましくは5重量%〜10重量%である。
【0018】
澱粉の含有量が4重量%未満では、グミキャンディ部の熱安定性が不十分になる傾向がある。澱粉の含有量が16重量%よりも多いと、後述するゼラチンとのゲル化競合が起こって、グミキャンディ部が不安定になり、経時的な安定性が不十分になる傾向がある。
【0019】
グリセリンは、グリセロール又は1,2,3−プロパントリオールとも呼ばれる、無色透明の粘性液体である。グミキャンディ部におけるグリセリンの含有量は、グミキャンディ部の全固形分重量に対して、1重量%〜10重量%であり、グミキャンディ部の経時的な安定性を一層向上させるという観点から、好ましくは3重量%〜7重量%である。グリセリンの含有量が1重量%未満では、グミキャンディ部の経時的な安定性が不十分になる傾向がある。グリセリンの含有量が10重量%よりも多いと、グミキャンディ部が適度な弾力を失い、ベトつきが発生する傾向がある。
【0020】
グミキャンディ部は、糖分、HMペクチン、澱粉およびグリセリンの他に、ゼラチンを含むことが好ましい。ゼラチンを含むことにより、グミキャンディとしての食感がさらに向上する。ゼラチンは、例えば、コラーゲンを含むゼラチン原料を酸処理またはアルカリ処理した後、水洗、抽出および精製することにより製造できる。このとき、酸処理またはアルカリ処理における処理の仕方によって、グミキャンディ部の食感に変化を与えることができるので、酸処理叉はアルカリ処理の方法を適宜変更してもよい。そして、いずれの処理を施したゼラチンを用いても良い。コラーゲンを含むゼラチン原料としては、例えば、牛骨、牛皮、豚骨、豚皮、鶏骨、鶏皮等の獣や鳥由来の原料、魚等の水生生物由来の原料等が挙げられる。ゼラチンは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。グミキャンディ部におけるゼラチンの含有量は特に限定されないが、グミキャンディ部の全固形分重量に対して、好ましくは3〜15重量%、さらに好ましくは4〜10重量%である。
【0021】
グミキャンディ部は、必要に応じて、グミキャンディに一般的に用いられる添加剤の1種または2種以上を含んでいてもよい。このような添加剤としては、たとえば、香料、酸味料、高甘味度甘味料(アスパルテーム、グリチルリチン、サッカリン、ステビア、ズルチン、アリテーム、トリクロロシュークロース、ソーマチン、アセスルファムカリウム、スクラロースなど)、着色料、油脂、乳化剤、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸、乳製品、果汁等が挙げられる。これらの添加剤を含有させることで、グミキャンディ部の嗜好性の幅を広げることが出来る。
【0022】
グミキャンディ部の水分値は、グミキャンディ部の安定性に密接な関係があり、本発明では11%以下になるように調整され、中でも9〜10%であれば安定であり、且つ、グミキャンディとしてより好ましい食感が得られる。なお、水分値は、減圧乾燥法により測定される値である。
【0023】
なお、グミキャンディ部が、上記した糖分、HMペクチン、澱粉、グリセリンおよびゼラチンを含む場合は、各原料の合計量が100重量%になるように、各原料の含有量を決定するのが好ましい。各原料の含有量は、上記した各原料の含有量の範囲の中から適宜選択される。
【0024】
[コーティング層]
コーティング層は、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、アジピン酸およびコハク酸よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の有機酸を含む。本発明のグミキャンディにおける有機酸の含有量は、グミキャンディ部の全重量に対して4〜8重量%であり、好ましくは5〜6重量%である。有機酸の含有量が4重量%未満になると、グミキャンディの酸味が弱くなり、口に入れた瞬間のインパクトに乏しい。有機酸の含有量が8重量%よりも多いと、吸湿性が高くなり過ぎ、表面がべとつく「なき」という現象が発生しやすい。
【0025】
[グミキャンディの製造方法]
本発明のグミキャンディは、グミキャンディ部の作製工程と、コーティング工程とを含む一般的な製造方法で作ることができる。その一例を示せば、次の通りである。
【0026】
グミキャンディ部の作製工程では、まず、ゼラチンを水に膨潤させてゼラチン溶液とし、60℃に保温する。別に、砂糖や水飴を水に溶解して糖液を調製し、これにHMペクチン、澱粉およびグリセリンを添加し、加熱してこれらを溶解する。この糖液と先に保温しておいたゼラチン溶液とを攪拌混合して、グミキャンディベースを調製する。この混合の際、有機酸や香料、色素等を加えておくのが一般的である。
【0027】
さらに、上記で得られたグミキャンディベースを成形することにより、本発明のグミキャンディの芯材となるグミキャンディ部が得られる。成形は、例えば、グミキャンディベースをモールド(型枠)内に充填し、その状態で乾燥させることにより行われる。乾燥は、グミキャンディベースの水分値が11%以下になるまで行われる。乾燥及び水分値の測定には、公知の手段および装置を利用すればよい。乾燥後、前記モールドから取り出すことでグミキャンディ部を得ることができる。この後、コーティング工程に移る。
【0028】
コーティング工程では、上記で得られたグミキャンディ部の表面の少なくとも一部に、所定量の有機酸をコーティングする。コーティング方法としては、例えば、グミキャンディ部の表面を蒸気や砂糖溶液等で湿らせた後、有機酸を付着させる方法が挙げられる。このコーティング方法は、回転釜などを用いて行えば良い。これにより、本発明のグミキャンディが得られる。
【実施例】
【0029】
次に、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0030】
(実施例1)
表1に示す組成(重量%)になるように、各原料を用いた。まず、グラニュー糖および水飴を用いて糖液を作製した。得られた糖液と、水で膨潤したゼラチン溶液とを混合した。得られた混合液に酸味料としてクエン酸および香料としてレモン香料を添加し、水分値を28%に調整し、グミキャンディベースを作製した。得られたグミキャンディベースを直径1.0cm、高さ0.8cmの円柱状の型を抜いたコーンスターチモールドに単重1.0gになるように充填し、40℃の乾燥庫で水分値が10%になるまで乾燥させ、グミキャンディ部を作製した。
【0031】
その後、コーンスターチモールドからグミキャンディ部を取り出し、コーティングを行った。コーティングは、オニオン型回転釜内にて撹拌状態にあるグミキャンディ部に70重量%砂糖溶液を噴霧して湿らせた後、グミキャンディ部の全重量に対して5重量%のクエン酸をグミキャンディ部表面に付着させ、目的のグミキャンディを得た。
【0032】
得られたグミキャンディは、口に入れた瞬間にインパクトのある強い酸味を感じ、37℃の雰囲気下で30日間保存しても、「なき」はみられず、経時的安定性の良い物であった。
【0033】
(実施例2)
実施例1と同様にしてグミキャンディ部を作製した。このグミキャンディ部に、有機酸の種類および有機酸のグミキャンディ部全重量に対する割合を、クエン酸5重量%からクエン酸3重量%およびリンゴ酸2重量%に変更する以外は、実施例1と同様にして、有機酸のコーティングを行ない、目的のグミキャンディを得た。得られたグミキャンディは、口に入れた瞬間にインパクトのある強い酸味を感じ、37℃の雰囲気下で30日間保存しても、「なき」はみられず、経時的な安定性の良い物であった。
【0034】
また、クエン酸やリンゴ酸以外に、酒石酸、アスコルビン酸、アジピン酸、コハク酸などを用いてコーティングを行った場合にも同様の結果が得られた。
【0035】
(比較例1)
クエン酸のグミキャンディ部全重量に対する割合を5重量%から3重量%に変更する以外は、実施例1と同様にして、目的のグミキャンディを得た。得られたグミキャンディは、口に入れた瞬間のインパクトに乏しいものであった。
【0036】
(比較例2)
クエン酸のグミキャンディ部全重量に対する割合を5重量%から9重量%に変更する以外は、実施例1と同様にして、目的のグミキャンディを得た。得られたグミキャンディは、口に入れた瞬間にインパクトのある強い酸味を感じるものの、37℃の雰囲気下で30日間保存すると、「なき」がみられ、経時的安定性の悪いものであった。
【0037】
(比較例3)
グミキャンディ部の水分値を10%から13%に変更する以外は、実施例1と同様にして、目的のグミキャンディを得た。得られたグミキャンディは、口に入れた瞬間にインパクトのある強い酸味を感じるものの、37℃の雰囲気下で30日間保存すると、「なき」がみられ、経時的安定性の悪いものであった。
【0038】
(比較例4〜9)
表1に示す組成(重量%)になるように各原料を用いる以外は、実施例1と同様にして、それぞれ目的のグミキャンディを得た。得られたそれぞれのグミキャンディは、口に入れた瞬間にインパクトのある強い酸味を感じるものの、37℃の雰囲気下で30日間保存すると、表面がべとつく「なき」がみられ、経時的安定性の悪いものであった。
【0039】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
グミキャンディ部と、前記グミキャンディ部の表面に形成されるコーティング層とを含むグミキャンディであって、
前記グミキャンディ部は、その全固形分重量に対して、HMペクチンを0.1〜1.0重量%、澱粉を4〜16重量%およびグリセリンを1〜10重量%含み、かつ、水分値が11%以下であり、
前記コーティング層は、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、アスコルビン酸、アジピン酸およびコハク酸よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の有機酸を、前記グミキャンディ部の全重量に対して4〜8重量%含む、酸味が強化されたグミキャンディ。