説明

酸性、中性アミノ酸含有反芻動物用飼料添加組成物及びその製造方法

【課題】 生物学的活性物質である酸性もしくは中性アミノ酸を多量に含有する分散型の反芻動物用飼料添加組成物及びその製造方法であって、ルーメンバイパス性を有し、かつ反芻動物の小腸で該生物学的活性物質を高濃度で放出して泌乳牛の乳量生産を促すことができ、飼料に添加した場合でも分級し難い任意の形状とすることができる顆粒と、該顆粒を効率よく連続生産する製造方法を開発すること。
【解決手段】 融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油または硬化動物油から選ばれる少なくとも1種の保護剤、レシチン、水及び酸性もしくは中性アミノ酸を含有する反芻動物用飼料添加組成物、及び、融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油または硬化動物油から選ばれる少なくとも1種の保護剤、レシチン及び酸性もしくは中性アミノ酸よりなる溶融混合物を水中に浸漬し固化することを特徴とする反芻動物用飼料添加組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は反芻動物用飼料添加組成物に関し、特に泌乳牛に対してルーメンバイパス可能な反芻動物用飼料添加組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反芻動物が飼料を摂取すると、第一胃(ルーメン)に生息する微生物の栄養源として飼料中の栄養素の一部が搾取されてしまうので、微生物に栄養素を搾取させずにルーメンを通過するよう、栄養素が保護剤で保護された、ルーメンジュースで分解されない反芻動物用飼料添加製剤が用いられている。
反芻動物用飼料に栄養素として補給される主な栄養素は、アミノ酸である。一般に、飼料において重要なアミノ酸は塩基性アミノ酸であり、塩基性アミノ酸含有反芻動物用飼料添加組成物についての先行技術は多数存在する。しかし、酸性もしくは中性アミノ酸反芻動物用飼料添加組成物については先行技術も少なく、適切な反芻動物用飼料添加組成物が存在しないことが実情である。
【0003】
栄養素が保護剤で保護された反芻動物用飼料添加製剤の一つに、栄養素と保護剤を混練りした分散型製剤がある。しかし、分散型製剤では製剤表面にアミノ酸が一部露出するので、pH6〜8のルーメンジュースに接触するとアミノ酸が溶出されやすく、アミノ酸のルーメンにおけるロスの防止は十分に行われているとは言い難い。また、製剤からのアミノ酸のロスを少なくするために色々な保護剤を用いて製剤化される結果、製剤中のアミノ酸の含有量は相対的に減少してしまうという問題も有しており、40重量%を超えてアミノ酸を含有する分散型製剤を製造することは、一般に困難である。また、分散型製剤におけるアミノ酸のロスを防止するために、分散型製剤を核としこれを被覆剤でさらに被覆しカプセル化した被覆型製剤が開発されているが、この製剤は、被覆によりアミノ酸が製剤表面に露出することは無いので比較的ルーメンジュース中では安定であるが、その製造工程が分散型製剤に比べ複雑でより多くの工程が必要となる、という製造上の欠点を有している。
【0004】
特公昭49−45224(特許文献1)には、保護剤として融点40℃以上の油脂と40℃以下の油脂との混合物を用い、これにアミノ酸またはペプチドを分散し、この混合物を直径0.8乃至数mmのノズルを通して20℃から40℃の水中に注加し、数mm以下の分散型の顆粒を製造することが記載されている。また特許文献1には、アミノ酸として水に対する溶解度の小さいL−メチオニンまたはL−イソロイシンを30乃至40%含有した顆粒を製造したことは記載されている。
【0005】
特開2005−312380(特許文献2)には、保護剤として硬化油とレシチン及び炭素数12−22を有する飽和又は不飽和脂肪酸モノカルボン酸塩を含む混合物を該保護剤の液状化温度50〜90℃で空気中に噴射する噴射造粒法で、直径0.5乃至3mmの球状に固化した分散型のルーメンバイパス剤を製造する方法が記載されている。また、特許文献2には、当該製造方法により、L−リジン塩酸塩を40.0重量%含有したルーメンバイパス剤を製造することができることが記載されている。しかし、特許文献2に記載された製造方法では噴射ノズルを通過させるために低い粘度の混合物を用いる必要がある一方、混合物中のL−リジン塩酸塩の含有量が40重量%を越えるとその溶融混合物が高粘度となるために噴射ノズルを通過させることは難しいことから、当該方法では、40重量%を越える高含有のL−リジン塩酸塩含有製剤は得ることができない。実際に、特許文献2には40重量%を越える高含有のL−リジン塩酸塩含有製剤は記載されていない。また、特許文献2に記載された方法は比較的粒度の揃った直径3mm以下の小さな球形の顆粒が得られるという特徴を有するが、当該顆粒には、飼料に混合すると小粒ゆえに干し草の間からもれ、分級し易いという欠点がある。
【0006】
特開2006−141270(特許文献3)には、A)硬化油、B)レシチン、C)防腐剤よりなる被覆組成物でL−リジン塩酸塩を被覆し、C)を0.01〜2.0重量%含有する反芻動物用分散型のルーメンバイパス剤を得たことが記載されている。また、特許文献3の表1には、L−リジン塩酸塩を37.5重量%含有する粒子が記載されている。しかし、特許文献3に記載の方法は、特許文献2に記載された方法と同様に混合物を押し出し機で空気中に噴射する噴射造粒法を利用しており、特許文献2に記載された方法において述べたとおり、含有量が40重量%を越えるL−リジン塩酸塩製剤は得ることができない。また特許文献3の実施例1には、0.5乃至2.0mmの球状に固化したルーメンバイパス剤を得たこと、明細書内段落[0005]には特開2000−60440号公報を引用し、『粒径は4〜15mmと大きいため咀嚼により崩壊しやすく・・・』と粒径が大きいと乳牛の咀嚼により物理的に破壊されルーメンバイパス効果が減少すること、さらに被覆型製剤について『・・・このルーメンバイパス剤は2重被覆しているため、反芻咀嚼などで核表面層部の被覆が破壊された場合は極端に保護効果が低下するなどの欠点があった。』と指摘している。
【0007】
一方、特開昭63−317053(特許文献4)には、L−リジン塩酸塩、その他賦形剤やバインダーからなる生物学的活性物質を含む核がレシチン及びグリセリン脂肪酸エステルを含有する脂肪酸モノカルボン酸、硬化油、ロウ・ワックスから選ばれた少なくとも1種で被覆された、被覆型の反芻動物用飼料添加物が記載されている。核中のL−リジン塩酸塩の含有量は65重量%であったが、最終製剤中で20−30重量%を占める被覆層も含むと、L−リジン塩酸塩の製剤含量は52−39重量%となる。
【0008】
また、特開平5−23114(特許文献5)には、L−リジン塩酸塩他の生物学的活性物質を含有する混合物をスクリーンから押し出して製造した円柱状の顆粒を球形にして核とし、これを脂肪族モノカルボン酸、硬化油、ロウ、ワックスから選ばれた1種とレシチン及び中性で安定かつ酸性下で可溶な無機塩との組成物で被覆した、被覆型の反芻動物用飼料添加組成物が記載されており、L−リジン塩酸塩を核中50重量%含有している製剤も記載されている。
【0009】
上記の被覆型製剤は生物学的活性成分を多く含有させる点で有利ではあるが、その製造には初めに生物学的活性成分を含む核を作り、この核をさらに被覆剤で被覆するため、連続的製造ができずバッチ式となり、製造工程が増えることは避けられない。また特許文献5に記載された発明では、泌乳牛の咀嚼による粉砕や傷により生物学的活性物質が表面に露出すると耐ルーメンジュース性が落ちるので、これを避けるために粒径を数mm以下、3mm以下に抑えているが、かかる大きさの製剤には、飼料に混合した場合に分級する問題を指摘することができる。
【特許文献1】特公昭49−45224号公報
【特許文献2】特開2005−312380号公報
【特許文献3】特開2006−141270号公報
【特許文献4】特開昭63−317053号公報
【特許文献5】特開平5−23114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、生物学的活性物質である酸性もしくは中性アミノ酸を多量に含有する分散型の反芻動物用飼料添加組成物及びその製造方法であって、ルーメンバイパス性を有し、かつ反芻動物の小腸で該生物学的活性物質を高濃度で放出して泌乳牛の乳量生産を促すことができ、飼料に添加した場合でも分級し難い任意の形状とすることができる顆粒と、該顆粒を効率よく連続生産する製造方法を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本願発明者らは鋭意研究した結果、顆粒を任意の形状にするため及び生産性を上げるため生物学的活性物質を含有する飼料組成物を押出し造粒機(エクストルーダー)のシリンダー内でスクリュウにより押出される間に加熱溶融し、排出された溶融混合物を一定の高さを有して水中に落下させると固化した混合物である顆粒が得られることを見出し、下記の各発明を完成させた。
(1)融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油または硬化動物油から選ばれる少なくとも1種の保護剤、レシチン、酸性もしくは中性アミノ酸及び水を含有する反芻動物用飼料添加組成物。
(2)融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油または硬化動物油から選ばれる少なくとも1種の保護剤、レシチン及び酸性もしくは中性アミノ酸よりなる溶融混合物を調製する工程、及び該溶融混合物を水中に浸漬して固化した混合物を得る工程を含む、反芻動物用飼料添加組成物の製造方法。
(3)溶融混合物を調製する工程がエクストルーダーを用いた加熱溶融によって溶融混合物を調製する工程であり、固化した混合物を得る工程が容器底に複数孔を有する多孔シューターに貯留した前記該溶融混合物を該複数孔より落下させることで水中に浸漬し固化した混合物を得る工程である、(2)に記載の反芻動物用飼料添加組成物の製造方法。
(4)固化した混合物を加熱処理する工程をさらに含む、(2)又は(3)のいずれかに記載の反芻動物用飼料添加組成物の製造方法。
(5)融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油または硬化動物油から選ばれる少なくとも1種の保護剤、レシチン及び酸性もしくは中性アミノ酸よりなる溶融混合物を調製する工程、及び該溶融混合物を水中に浸漬して固化した混合物を得る工程、により得られた反芻動物用飼料添加組成物。
(6)溶融混合物を調製する工程がエクストルーダーを用いた加熱溶融によって溶融混合物を調製する工程であり、固化した混合物を得る工程が容器底に複数孔を有する多孔シューターに貯留した前記該溶融混合物を該複数孔より落下させることで水中に浸漬し固化した混合物を得る工程である、(5)に記載の反芻動物用飼料添加組成物。
(7)固化した混合物を加熱処理する工程をさらに含むことにより得られた、(5)又は(6)のいずれかに記載の反芻動物用飼料添加組成物。
【発明の効果】
【0012】
本願発明の反芻動物用飼料添加組成物は、耐ルーメンジュース性と小腸での溶解性を持ち、高含有量の酸性もしくは中性アミノ酸を泌乳牛の小腸まで効率よく多量に運搬することができるため、泌乳牛が栄養素としてアミノ酸を多量に吸収することができ、泌乳量生産を増大することを可能とする。また、本発明の反芻動物用飼料添加組成物の製造方法は、例えばエクストルーダーで製造された溶融混合物を一時的に多孔シューターに貯留し、これを多孔シューター底に設けた複数の孔から落下させるので、エクストルーダーの能力に応じて飼料添加組成物の生産量を増大することが可能である。さらに、多孔シューターからの落下距離を調節することで、水表面に衝突するエネルギーによって、製造される組成物である顆粒の形状を球状、顆粒状、ペレット状、あるいは押し麦状の種々の形状とすることができ、特にペレット状や押し麦状の顆粒は、飼料に添加した際、分級し難い特徴があった。本発明の反芻動物用飼料添加組成物は、泌乳牛の咀嚼により粉砕され易い形状の顆粒を含むが、形状に因らずルーメンジュース中で安定である。また生物学的活性物質であるアミノ酸の含有量が高いので、泌乳牛の小腸で顆粒から該生物学的活性物質であるアミノ酸をより多く放出することができる高品質顆粒を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の反芻動物用飼料添加組成物は、融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油または硬化動物油から選ばれる少なくとも1種の保護剤、レシチン、水及び酸性もしくは中性アミノ酸を含有する。
【0014】
本発明で利用されるアミノ酸は、遊離の酸性もしくは中性アミノ酸の他に、その生理学的に許容される塩も含まれる。酸性アミノ酸の好適な例は、グルタミン酸又はそれらの塩である。中性アミノ酸の好適な例は、イソロイシン、メチオニン、グルタミン、トリプトファンもしくはスレオニン又はそれらの塩である。酸性もしくは中性アミノ酸は、市販品をそのまま又は粉砕してその他の原料と混合してもよい。粉砕されたアミノ酸の結晶としては、平均粒径100μm以下、さらには50μm以下であることが好ましい。なお、ここでいう平均粒径とは、メジアン径のことである。また、本発明の反芻動物用飼料添加組成物は、酸性もしくは中性アミノ酸の他に、リジンなどの反芻動物用飼料に添加することのできる他のアミノ酸などを含んでいてもよい。
【0015】
融点が50℃より高く、90℃より低い硬化植物油または硬化動物油から選ばれる少なくとも1種の保護剤は、大豆硬化油、菜種硬化油、落花生硬化油、オリーブ硬化油、綿実硬化油、パーム硬化油等の植物性硬化油が好んで用いられる。この他にもロウ、ワックス等を用いることも可能である。
【0016】
本発明の反芻動物用飼料添加組成物におけるレシチンの含有量は、特に限定されないが好ましくは1〜2重量%である。両性界面活性剤の一種であるレシチンを少量含有させることにより、アミノ酸(親水性)とレシチンの複合体を形成し、これを硬化油(疎水性)と一緒にして、水中で瞬間的に冷却固化させることにより、アミノ酸の水への溶出速度の極めて低い造粒物が取得できると考えられる。
【0017】
本発明の反芻動物用飼料添加組成物は、融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油または硬化動物油から選ばれる少なくとも1種の保護剤、レシチン及び酸性もしくは中性アミノ酸よりなる溶融混合物を調製する工程、及び該溶融混合物を水中に浸漬して固化した混合物を得る工程を含む方法により製造される。当該方法では、原料として、保護剤、レシチン及び酸性もしくは中性アミノ酸を用い、これらを溶融混合する。この溶融混合物を顆粒状にするために水中浸漬すると、一部の酸性もしくは中性アミノ酸は水中に溶出するが、その量は極僅かである。一方、この時に水が混合物に取り込まれる。この水はその後の乾燥工程で減少させることができる。
【0018】
本発明の連続的な製造方法における溶融混合物を調製する工程では、市販のエクストルーダーを用いることができるが、出口にあるダイプレートを除去することが好ましい。ダイプレートを除去することで、エクストルーダーのシリンダー筒内には圧力はそれほどかからない状態で、反芻動物用飼料添加組成物のための原料組成物の溶融混合物を得ることができる。酸性もしくは中性アミノ酸を多量に含有する溶融混合物は空中噴射による造粒が困難であるが、その様な溶融混合物も、適当な径の孔からそのまま自然落下させると連続した棒状の混合溶融物が細い糸状となり、やがて落下中に表面張力の作用で切断され、一つ一つ独立した液滴となる。その液滴を攪拌状態にある水中に落とすと、液滴は水中で瞬間的に冷却され固化される。飼料用組成物の生産量を左右するのはエクストルーダーの生産能力であるが、本発明の製造方法では、その上限で運転することが可能である。なお、原料組成物の溶融混合物を得ることができ、かつ落下中に液滴となる溶融混合物を調製することができるものであれば、利用可能な機器はエクストルーダーに限定されない。
【0019】
多孔シューターは、本発明の反芻動物用飼料添加組成物を製造する方法における生産量を増やすためには、必要な手段である。本発明における多孔シューターとは、底に複数穿孔された容器であって、エクストルーダーから排出された加熱溶融混合物を一時的に貯留する設備である。貯留された加熱溶融混合物が冷えないように、加温設備を備えることが好ましい。反芻動物用飼料添加組成物の生産量は、容器の底に設けた孔の数に比例する。多孔シューターの底面から水面までの距離(落下距離)は、最終的な顆粒の形状を決定する。加熱溶融混合物を温度65℃で落下させると、5cmから15cmの落下距離では球形からラグビーボールに近い形状の顆粒が得られる。また、落下距離をさらに大きくすると水面との衝突エネルギーが大きくなるので、より平坦な押し麦状の顆粒になり、50cm程度の落下距離では周辺が波打つ押し麦状の顆粒が得られる。多孔シューターの孔の直径は粘度と製造される顆粒の大きさにより選択される。小さな顆粒を製造する場合には0.5〜3mm、直径10mm程度の大きさの顆粒を得るには数mm程度の孔とすることが好ましい。通常は0.5〜5mmが好ましい。
【0020】
本発明の製造方法の工程について述べる。原料に使用する酸性もしくは中性アミノ酸は、粉砕して使用してもよい。粉砕は、例えばパルペライザーを用い、酸性もしくは中性アミノ酸の粒径平均が100μm以下、好ましくは50μmとなるまで行い、必要なら篩分する。レシチンの添加順序は特に定められるものではなく、酸性もしくは中性アミノ酸の表面にレシチンを被覆するために、この両者をナウターミキサーで混合しておいても良く、又生産効率を上げるならば、保護剤、レシチン及び酸性もしくは中性アミノ酸の三種類をほぼ同時に押出し機のシリンダーに投入しても良い。シリンダーの入り口近くの投入口より前記三種類の所定量をそれぞれ投入することも可能であるし、又酸性もしくは中性アミノ酸と硬化油を先に投入し室温付近で混合した後、レシチンを最後に投入して原料組成物を加熱溶融しつつ溶融混合物を得ることもできる。原料組成物を溶融混合する温度は硬化油の融点以上であれば良いが、例えば大豆極度硬化油の場合には、融点温度が67−71℃であるので溶融温度は80−85℃であれば良く、融点に5〜15℃増した温度で十分である。加熱温度は最初から融点以上に加熱する必要はなく、最初は融点より5〜10℃低い温度で予備加熱し、エクストルーダーのシリンダー内のスクリュウで原料を搬送し、次に融点以上の所定の温度にすると、効率的に安定した溶融混合物が得られる。排出された加熱溶融混合物を多孔シューターに一時的に貯留させ、底に設けた1乃至4mmの孔から溶融混合物を水中に自然落下させる。落下物を浸漬する水の温度は10〜30℃ほどで良い。多孔シューターから落下した溶融混合物は顆粒冷却用水槽内の攪拌された水中に落下しそこで瞬間的に固化する。水は常に補充され、かつ水温を一定に保つと同時に固化した混合物はオーバーフローする水に乗って顆粒冷却用水槽より排出される。固化した混合物は比重が約1.1で水に漂う。水槽から排出された固化した混合物である顆粒は、網や網容器で集められ、乾燥され、反芻動物用飼料添加組成物となる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
【0022】
<粘度測定方法>
エクストルーダーを用いて加熱(85℃)溶融して得られたスラリー状の溶融混合物を、200mlの耐熱ガラス製ビーカーに100g秤量し、90℃の恒温水槽に入れ、ゆっくり攪拌を行い溶融混合物の温度を90℃に設定した。90℃一定となったところで、TOKIMEC INC.製VISCOMETER MODEL BL計 回転粘度計を用いて、90℃における粘度測定を行った。測定はビーカー内の溶融混合物に直接粘度測定用回転棒を浸漬し、回転棒を回転させ粘度を数回測定し一定となったところで、90℃における回転粘度(Pa・s)とした。
【0023】
<製剤中のアミノ酸の含量>
50mlのFALCON製コニカルチューブに製剤4.00g、純水20.0gを秤量し、密栓して、85℃の恒温水槽に20分間浸して、大豆硬化油を溶融させ硬化油とアミノ酸を分離し、アミノ酸は水溶液中に溶解させる。このようにして回収されたアミノ酸は通常の液体クロマトグラフィにて分析し、製剤中のアミノ酸の含量(重量%)を求めた。
【0024】
<アミノ酸の溶出速度>
製剤2.00gを50mlのFALCON製コニカルチューブに秤量し、純水10.0gを加えて密栓し、チューブは真横にして40℃の往復振とう機にて10分間振とうした。次に、振とう前後における水溶液中のアミノ酸を分析し、40℃10分間によって溶出した製剤中のアミノ酸の割合を溶出速度(%)とした。
【0025】
<保護率>
製剤2.00gを50mlのFALCON製コニカルチューブに秤量し、純水10.0gを加えて密栓し、チューブは真横にして40℃の往復振とう機にて20時間振とうした。次に、振とう前後における水溶液中のアミノ酸を分析し、40℃20時間によって溶出しなかった製剤中のアミノ酸の割合を保護率(%)とした。
【0026】
[実施例1]
1リッターのステンレス容器に大豆極度硬化油(融点67℃;横関油脂工業(株)製)410gと大豆レシチン(味の素(株)製10.0gを秤量し、プレートヒーターの上で混合しながら85℃に加熱して大豆極度硬化油と大豆レシチンを融解した85℃の溶液を調製した。次に、その溶液(85℃)の中に表1に示す粉砕した医薬用アミノ酸を、少量ずつ加熱(85℃)した状態で十分に混合しながら投入を続け、アミノ酸の溶融スラリーが液滴を形成できる限界(スラリーの回転粘度5Pa・s/85℃)に達したところでアミノ酸の投入を停止した。次に、このアミノ酸の溶融スラリーを多孔シューター(孔の数;30個、孔の直径;2mm)に入れ、シューターの底面より液滴となって落下する液滴を、真下で攪拌状態にある水槽(温度;10℃、シューターの底面から水面までの距離;10cm)の中に投入し液滴を冷却することによって、瞬間的に固化した造粒物が得られた。この造粒物を回収し、脱水、乾燥(風乾)して、表1に示すアミノ酸の造粒物を得た。なお、取得した組成物中の原料、その他のロスは殆どなく、回収率は何れも98%以上と高かった。このようにして各アミノ酸の含量が高い造粒物(粒度;2.0〜5.6mm)が得られた。
トリプトファン以外は40重量%以上を含有することができ、発明した造粒物のアミノ酸の水への溶出速度は極めて低く、また、20時間溶出後のアミノ酸の保護率も高かった。
【0027】
【表1】

【0028】
[比較例1]
実施例1の発明において表示された各々のアミノ酸に大豆レシチンおよび大豆極度硬化油を添加した混合物100gを各々スピードブレンダーの容器に入れ、回転数15,700rpmで5分間、常温にて大豆レシチンと大豆極度硬化油を混合物の品温が55℃以上にならないようにして細かく破砕し、各アミノ酸と大豆レシチンおよび大豆極度硬化油が均一に混合された組成物を調製した。
表2に示すように、このような方法で取得された各アミノ酸の調製物では、アミノ酸の水への溶出速度は極めて高かった。
【0029】
【表2】

【0030】
[比較例2]
実施例1の発明において表示された各アミノ酸の含有量を各々更に高くすると粘度は急激に上昇し、液滴を形成できる粘度(回転粘度5Pa・s/85℃)を超えてペースト状態となってしまうため、溶融スラリーの分散ができなかった。その結果、水中で瞬間的に固化させることによって得られるアミノ酸の保護率の高い造粒物を取得できなかった。
【0031】
[試験例]
微粉砕した平均粒径75μmの飼料用リジン塩酸塩(味の素(株)製)、大豆レシチン(味の素(株)製)及び大豆極度硬化油(融点67℃;横関油脂工業(株)製)の3者100gを表3に示される重量%比でビーカーに秤量し、十分に混合しながら80℃に加熱してリジン塩酸塩の溶融スラリーを得た後、実施例1に記載した条件で多孔シューターによる溶融スラリーの分散、液滴化、水中冷却固化を行い、反芻動物用飼料添加組成物1〜7と比較用組成物8を調製した。なお、比較用組成物8の加熱溶融物は粘度が高く多孔シューターからの液滴が形成されなかったので、その加熱溶融物をミクロスパーテルで少量ずつ採取して直ちに水中に浸漬し固化させることで、造粒された組成物を調製した。
【0032】
各組成物2.00gを50mlのFALCON製コニカルチューブに秤量し、人工ルーメンジュース10.0gを加えて密栓し、チューブを真横にして40℃の往復振とう機にて20時間振とうし、振とう前後における水溶液中のリジン塩酸塩を分析し、単位時間当たりのリジン塩酸塩の溶出速度を算出した。その結果を表3及び図1に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
表3及び図1に示されるように、レシチンの添加によってルーメンジュース中での組成物からのリジン塩酸塩の溶出を抑制することができることが確認された。リジン塩酸塩の溶出の抑制効果は、約5重量%以下、特に1〜5重量%のレシチン添加量で顕著であった。なお、レシチンを6重量%以上原料に含有させることにより、レシチンを添加しない組成物と比較してリジンの溶出速度を高めることも出来る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】飼料組成物中のレシチン含有量とリジン塩酸塩の飼料からの溶出速度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油または硬化動物油から選ばれる少なくとも1種の保護剤、レシチン、酸性もしくは中性アミノ酸及び水を含有する反芻動物用飼料添加組成物。
【請求項2】
融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油または硬化動物油から選ばれる少なくとも1種の保護剤、レシチン及び酸性もしくは中性アミノ酸よりなる溶融混合物を調製する工程、及び該溶融混合物を水中に浸漬して固化した混合物を得る工程を含む、反芻動物用飼料添加組成物の製造方法。
【請求項3】
溶融混合物を調製する工程がエクストルーダーを用いた加熱溶融によって溶融混合物を調製する工程であり、固化した混合物を得る工程が容器底に複数孔を有する多孔シューターに貯留した前記該溶融混合物を該複数孔より落下させることで水中に浸漬し固化した混合物を得る工程である、請求項2に記載の反芻動物用飼料添加組成物の製造方法。
【請求項4】
固化した混合物を加熱処理する工程をさらに含む、請求項2又は3のいずれかに記載の反芻動物用飼料添加組成物の製造方法。
【請求項5】
融点が50℃より高く90℃より低い硬化植物油または硬化動物油から選ばれる少なくとも1種の保護剤、レシチン及び酸性もしくは中性アミノ酸よりなる溶融混合物を調製する工程、及び該溶融混合物を水中に浸漬して固化した混合物を得る工程、により得られた反芻動物用飼料添加組成物。
【請求項6】
溶融混合物を調製する工程がエクストルーダーを用いた加熱溶融によって溶融混合物を調製する工程であり、固化した混合物を得る工程が容器底に複数孔を有する多孔シューターに貯留した前記該溶融混合物を該複数孔より落下させることで水中に浸漬し固化した混合物を得る工程である、請求項5に記載の反芻動物用飼料添加組成物。
【請求項7】
固化した混合物を加熱処理する工程をさらに含むことにより得られた、請求項5又は6のいずれかに記載の反芻動物用飼料添加組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−125217(P2011−125217A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97408(P2008−97408)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】