説明

酸性ガスの処理方法

【課題】フィードバック制御において、新たに高価な酸性ガス測定装置を導入せずに、酸性ガス測定装置の計測遅れによる酸性ガスの処理不良の改善並びにアルカリ剤の過剰添加を削減すること。
【解決手段】少なくとも2つの酸性ガス濃度の傾きの範囲を設定する工程と、少なくとも2つの傾きの範囲毎に酸性ガス濃度の制御目標値を設定する工程と、少なくとも酸性ガス測定装置の測定信号及び当該制御目標値に基づいてアルカリ剤の添加量を示す制御出力値を算出する工程と、を有し、制御目標値を設定する工程において、酸性ガス濃度の傾きの範囲が大きい場合(酸性ガス増加傾向時)に設定する制御目標値は、酸性ガス濃度の傾きの範囲が小さい場合(酸性ガス減少傾向時)に設定する制御目標値より小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、都市ごみ廃棄物焼却炉、産業廃棄物焼却炉、発電ボイラ、炭化炉、民間工場等の燃焼施設において発生する有害な塩化水素や硫黄酸化物等の酸性ガスの処理方法に関する。詳しくは、酸性ガスを処理するアルカリ剤の添加量を効率的に制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有害な塩化水素や硫黄酸化物を含む排ガスは消石灰や重曹等のアルカリ剤で処理され、その後バグフィルター(BF)等の集塵機で除塵された後、煙突から排出される。一方、集塵機で集塵された飛灰は、有害なPb、Cd等の重金属類を含有しており、これら有害重金属を安定化処理した後、埋立処分されている。
【0003】
酸性ガスを処理するアルカリ剤である5〜30μmに微粉加工された重曹は、消石灰に比べ反応性が高く、酸性ガスを安定的に処理できるとともに未反応分が少なく、埋立処分量を削減でき環境負荷低減に有効な手段である。また、重金属処理方法としてはジエチルジチオカルバミン酸塩等のキレートで不溶化処理する方法が一般的であり、短期的には重金属固定効果は高いが、最終処分場における酸性雨によるpH低下及びキレートの酸化自己分解により、鉛等の重金属が再溶出する問題が残る。一方、リン酸等のリン酸化合物による重金属固定は、無機鉱物であるヒドロキシアパタイト形態まで変化させる為、最終処分場における長期安定性に優れ、環境保護の観点から非常に価値の高い処理方法である。さらに、前記微粉重曹で処理した飛灰をリン酸等の重金属固定剤で処理する方法は、多くの環境負荷低減効果を持つ有効な手段である。
【0004】
ところで、塩化水素や硫黄酸化物等の酸性ガスを処理する消石灰や重曹等のアルカリ剤の添加量を制御することは、酸性ガス処理費用を削減できるだけでなく、アルカリ剤の未反応分を低減し、飛灰の埋立処分量を削減する効果が期待できる。
【0005】
塩化水素や硫黄酸化物等の酸性ガスを処理するアルカリ剤の添加量は、一般的に、バグフィルターの後段に設置されたイオン電極式の塩化水素測定装置で測定された塩化水素濃度をもとにPID制御装置によりフィードバック制御されている。しかしながら、焼却施設等の燃焼施設においては通常入口の酸性ガス濃度を測定する装置は設置されておらず、入口の変動状況がわからない状態でPID制御のパラメーターを設定し制御出力を調整する。ところがPID制御装置はP、I、D、添加量(出力)下限、添加量(出力)上限の5つの設定項目があるとともに各項目の設定値が複合して制御出力値を決めることから適正な添加制御を検討するのに多大な時間を要する。このため、一般的にPID制御装置による設定は、制御目標値(SV)を超えた際に添加量が大幅に増加する制御を実施している施設が多い。
【0006】
しかしながら、通常のPID制御装置の制御出力は、単一の上限しか設定できず、例えばHCl濃度の制御目標値(SV)を40ppmに設定した場合、40ppm以上の濃度で制御出力の単一の上限を限度としてアルカリ剤の添加をすることとなり、アルカリ剤を過剰添加する原因となる。また、上記フィードバック制御は、酸性ガス測定装置の計測遅れの影響を受ける。バグフィルター出口の塩化水素濃度は通常イオン電極法(例えば京都電子工業製HL−36)で測定され、硫黄酸化物濃度は赤外線吸収法(例えば島津製作所製NSA−3080)で測定されているが、試料排ガスのサンプリング時間、及び計測器の応答時間を含めると5〜10分の多大な計測遅れがある。本計測遅れは、アルカリ剤の添加ラグを引き起こし、酸性ガスの処理不良につながるとともにアルカリ剤の過剰添加を引き起こす原因となる。
【0007】
本課題を解決するため種々制御手法が検討されている。特許文献1においては通常のPID制御式にPを更に加える「P+PID制御」が提案されている。本提案は、通常のPID制御で困難な酸性ガスの突発的発生の対応を考えてのものである。また、特許文献2及び3においては、入口の酸性ガス濃度をもとにアルカリ剤の添加量を決めるフィードフォワード制御と、アルカリ剤が処理した後の酸性ガス濃度をもとにアルカリ剤の添加量を補うフィードバック制御と、を組み合わせる制御方式が提案されている。本制御方式はフィードバック制御の過剰添加を抑制する効果が見込まれ、酸性ガスの安定処理とアルカリ剤の過剰添加を削減する効果は得られるものと考える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−113327号公報
【特許文献2】特開平10−165752号公報
【特許文献3】特開2006−75758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1においては、入口の突発的対応はある程度可能であるが、前記測定装置の計測遅れは加味されておらず、計測遅れによるアルカリ剤の添加ラグによる酸性ガスの処理不良には対応することができない。また、特許文献2及び3においては、焼却施設等の燃焼施設において、出口の酸性ガス濃度しか計測していない施設が多くを占めており、本制御方式を実施するためには、入口の酸性ガス濃度を計測する新たに高価な酸性ガス測定装置を導入する必要がある。
【0010】
上記従来を勘案し、本発明は、新たな高価な酸性ガス測定装置を導入する必要のないフィードバック形式において、従来のフィードバック制御が抱える計測遅れによる酸性ガスの発生並びにアルカリ剤の過剰添加を抑制する酸性ガス処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1) 燃焼排ガスに含まれる酸性ガスにアルカリ剤を添加した後の工程に設置された酸性ガス測定装置の測定信号を基にアルカリ剤の添加量をフィードバック制御する酸性ガス処理方法において、少なくとも2つの酸性ガス濃度の傾きの範囲(例えば、後述する直近のHCl濃度の傾きの6秒平均が正の範囲及び負の範囲など)を設定する工程と、前記少なくとも2つの傾きの範囲毎に酸性ガス濃度の制御目標値(例えば、後述する実施例1における30ppm、40ppmなど)を設定する工程と、少なくとも前記測定信号及び前記制御目標値に基づいてアルカリ剤の添加量を示す制御出力値を算出する工程と、を有し、前記制御目標値を設定する工程において、前記酸性ガス濃度の傾きの範囲が大きい場合(例えば、後述する直近のHCl濃度の傾きの6秒平均が正の場合(酸性ガス増加傾向時))に設定する制御目標値は、前記酸性ガス濃度の傾きの範囲が小さい場合(例えば、後述する直近のHCl濃度の傾きの6秒平均が負の場合(酸性ガス減少傾向時))に設定する制御目標値より小さいことを特徴とする。
【0012】
従来のPID制御では、例えば酸性ガス濃度の制御目標値(SV)を40ppmに設定した場合、40ppmに達してから制御出力が増加しアルカリ剤が添加され、添加されたアルカリ剤が酸性ガスと反応することで酸性ガス濃度が40ppm以下に達してから制御出力が減少する挙動となる。よって、酸性ガス濃度の増減の傾向が考慮されていなかった。
【0013】
これに対し、(1)によれば、酸性ガス増加傾向時の酸性ガス濃度制御目標値を、減少傾向時の酸性ガス濃度目標値より小さくしたので、酸性ガス増加傾向時のアルカリ剤添加量の制御出力値が、酸性ガス減少傾向時の制御出力値に比べ大きくなる。
【0014】
(2) (1)に記載の酸性ガス処理方法において、アルカリ剤の添加量を示す制御出力値の下限値(例えば、後述する図15、図17、図19のLO[制御出力下限](微粉重曹の最小添加量))と上限値(例えば、後述する図15、図17、図19のLO[制御出力上限](微粉重曹の最大添加量))との間に、前記酸性ガス濃度(例えば、後述する図15、図17、図19のBF出口HCl濃度)に対応して前記制御出力値の新たな上限値(例えば、後述する図15、図17、図19の制御出力添加量)を1つ以上設定する工程をさらに有することを特徴とする酸性ガスの処理方法。
【0015】
通常のPID制御装置は一つの制御出力上限しかなく、例えば酸性ガスの制御目標値(SV)が一定であると酸性ガス濃度の大きさにかかわらず、その上限値を限度としてアルカリ剤が添加されるため、過剰添加を引き起こす。これに対し、(2)によれば、現在の酸性ガス濃度に応じた制御出力の制限を加える(後述するステップ制御方式)ことにより、酸性ガス濃度の大きさに応じてアルカリ剤の適正な添加が可能となり、添加量の削減が可能となる。
【0016】
(3) (1)または(2)に記載の酸性ガス処理方法において、前記酸性ガス測定装置がイオン電極法による塩化水素濃度測定装置であることを特徴とする。
【0017】
(4) (1)ないし(3)に記載の酸性ガス処理方法において、前記酸性ガス測定装置が赤外線吸収法もしくは紫外線蛍光法による硫黄酸化物濃度測定装置であることを特徴とする酸性ガスの処理方法。
【0018】
本発明に用いる酸性ガスの測定装置は計測方式によらず実施が可能である。塩化水素濃度は、イオン電極法、レーザーによる単一吸収線吸収分光法等で測定可能であり、硫黄酸化物は、赤外線吸収法、紫外線蛍光法等で測定が可能である。なお、本発明は、酸性ガスの計測遅れの改善を主な目的としていることから計測遅れが大きいイオン電極法による塩化水素測定装置や赤外線吸収法もしくは紫外線蛍光法による硫黄酸化物測定装置を用いてバグフィルター後段の酸性ガスを測定し、フィードバック制御を行っている施設において特に効果を発揮する。
【0019】
なお、燃焼施設のバグフィルター後段の塩化水素濃度を計測遅れのないレーザー形式で測定しフィードバック制御することによりフィードバック制御の過剰添加を改善できる可能性がある。しかしながら、レーザー方式は、JIS認定に技術的課題を残し、最終排ガスの酸性ガス濃度を判定する測定装置として普及が進んでいないのが従来である。
【0020】
(5) (1)ないし(4)に記載の酸性ガス処理方法において、制御目標値を設定する酸性ガス濃度の傾きを直近7分以内の平均値とすることを特徴とする。
【0021】
制御目標値を設定する酸性ガス濃度の傾きは、直近7分以内の平均値を用いるのが望ましい。7分以内の酸性ガスの傾きの平均値を用いた場合、適正な選択が可能となり、酸性ガスを安定して処理することができる。
【0022】
(6) (1)ないし(5)に記載の酸性ガス処理方法において、塩化水素濃度から演算された制御出力と硫黄酸化物濃度から演算された制御出力の両出力を用いてアルカリ剤の添加量を制御することを特徴とする。
【0023】
産業廃棄物焼却炉や民間工場の燃焼施設においては、塩化水素と硫黄酸化物が高濃度で発生することが多い。この際には、塩化水素と硫黄酸化物の両方が処理対象となり、バグフィルター後段に設けられた塩化水素濃度測定装置の塩化水素濃度をもとに求められた制御出力と硫黄酸化物濃度をもとに求められた制御出力を例えば加算することにより、塩化水素並びに硫黄酸化物の両酸性ガスを安定して処理することができる。
【0024】
(7) (1)ないし(6)に記載の酸性ガス処理方法において、酸性ガスを処理するアルカリ剤は、平均粒子径が5〜30μmの微粉重曹であることを特徴とする酸性ガスの処理方法。
【0025】
本発明に用いるアルカリ剤は、特に酸性ガスとの反応性が速い平均粒子径が5〜30μmに調整された微粉重曹であることが好ましい。微粉重曹の反応性が速いことから制御応答性が良く、本発明の性能を効果的に発揮することができる。ただし、本発明は制御手法によるものであり、消石灰でも適用が可能である。消石灰は、酸性ガスとの反応性が高い比表面積が例えば30m/g以上である高比表面積の消石灰である方が、本発明の性能を発揮できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、新たな高価な酸性ガス測定装置を導入する必要のないフィードバック形式において、従来のフィードバック制御が抱える酸性ガス測定装置の計測遅れによる酸性ガスの処理不良の改善並びにアルカリ剤の過剰添加を削減し、効率的なアルカリ剤の添加で安定した酸性ガスの処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】焼却施設における排ガスであるHClに微粉重曹を添加する酸性ガス処理システム1の構成を表すブロック図である。
【図2】シミュレーション反応系1の基本構成図である。
【図3】微粉重曹添加当量とHCl除去率の関係を示すグラフである。
【図4】実機のバグフィルター出口HCl濃度の挙動を示すグラフである。
【図5】シミュレーション反応系1のバグフィルター出口HCl濃度の挙動を示すグラフである。
【図6】シミュレーション反応系2の基本構成図である。
【図7】排ガス反応における微粉重曹添加当量とHCl除去率の関係を示すグラフである。
【図8】バグフィルター上反応における微粉重曹添加当量とHCl除去率の関係を示すグラフである。
【図9】シミュレーション反応系2のバグフィルター出口HCl濃度の挙動を示すグラフである。
【図10】比較例及び実施例ごとのバグフィルター出口HCl濃度等を示す表である。
【図11】入口HCl濃度の挙動を示すグラフである。
【図12】比較例1における微粉重曹添加量および出口HCl濃度の挙動を示すグラフである。
【図13】実施例1における微粉重曹添加量および出口HCl濃度の挙動を示すグラフである。
【図14】実施例2における微粉重曹添加量および出口HCl濃度の挙動を示すグラフである。
【図15】比較例2におけるステップ制御方式の制御設定の表である。
【図16】比較例2における微粉重曹添加量および出口HCl濃度の挙動を示すグラフである。
【図17】実施例3におけるステップ制御方式の制御設定の表である。
【図18】実施例3における微粉重曹添加量および出口HCl濃度の挙動を示すグラフである。
【図19】実施例4等におけるステップ制御方式の制御設定の表である。
【図20】実施例4における微粉重曹添加量および出口HCl濃度の挙動を示すグラフである。
【図21】実施例5における微粉重曹添加量および出口HCl濃度の挙動を示すグラフである。
【図22】実施例6における微粉重曹添加量および出口HCl濃度の挙動を示すグラフである。
【図23】実施例7における微粉重曹添加量および出口HCl濃度の挙動を示すグラフである。
【図24】実施例8における微粉重曹添加量および出口HCl濃度の挙動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に実施形態を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
図1は、焼却施設における排ガスであるHClに微粉重曹を添加する酸性ガス処理システム1の構成を表すブロック図である。
【0030】
酸性ガス処理システム1は、制御装置11、微粉重曹添加装置12、バグフィルター13及びHCl測定装置14から構成されている。制御装置11は、HCl濃度測定信号等に基づいて微粉重曹添加量の制御出力値をPID制御方式により算出する。微粉重曹添加装置12は、制御装置11が算出した微粉重曹添加量の制御出力値に基づいて排ガス中のHClに微粉重曹を添加する。
【0031】
バグフィルター13は、排ガス中のHClと微粉重曹の反応後の粉塵を除去する。HCl測定装置14は、バグフィルター13上に蓄積した微粉重曹(排ガス中のHClとの反応によって残存した微粉重曹がバグフィルター13上に蓄積される)と排ガス反応後のHClとが反応した後のHCl濃度(後述するバグフィルター出口HCl濃度)を測定して、HCl濃度測定信号を制御装置11に送信する。
【0032】
酸性ガス処理システム1は、このようなサイクルを繰り返してフィードバック制御を行うことで、制御装置11は、微粉重曹添加量の制御出力値を適切なものとする制御を行う。
【0033】
なお、HCl濃度測定装置14は、イオン電極式の塩化水素濃度測定装置である。
【0034】
また、図1に示すように、バグフィルター13上に蓄積した微粉重曹と排ガス反応後のHClとが反応した後のHCl濃度(後述するバグフィルター出口HCl濃度)を測定するようにHCl濃度測定装置14を設置するのが好ましい。これは、排ガス中のHClとの反応によって残存した微粉重曹がバグフィルター13上に蓄積され、この蓄積された微粉重曹が排ガス反応後のHClと反応するため、より正確にHCl濃度の測定ができるからである。
【0035】
なお、HCl濃度測定装置14の設置については、上記に限定されず、排ガス中のHClに微粉重曹添加装置12により添加された微粉重曹を添加した後の工程であれば、いずれの工程であってもよい。
【0036】
さらに、制御装置11が行う制御について詳細に説明する。
【0037】
制御装置11は、HCl濃度の傾き(濃度の時間変化率)が正の範囲と負の範囲の2つの範囲を設ける。そして、これら2つの範囲毎にHCl濃度の制御目標値を設定する。
【0038】
ここで、HCl濃度の制御目標値の設定は、HCl濃度の傾きが正の範囲に対して設ける制御目標値が、負の範囲に対する制御目標値よりも小さくなるようにする。このようにすることで、HCl濃度が増加傾向時の微粉重曹添加量の制御出力値を、HCl濃度が減少傾向時の制御出力値よりも大きくすることができる。
【0039】
なお、HCl濃度の減少傾向時において、微粉重曹添加量の出力値を例えば0.7倍とする制御を併せて実行することにより微粉重曹添加量を直接小さくしてもよい。このようにすることで、HCl濃度の減少傾向時に添加量をはやく低下させることができ、過剰添加を低減することができる。
【0040】
次に、制御装置11における制御方式を、PID制御方式に変わりステップ制御方式について説明する。
【0041】
ステップ方式は、HCl濃度に応じた制御出力を段階的に設定する制御方式である。具体的には、PID制御方式において設定されている制御出力値の上限値に加えて、制御出力値の新たな上限値をHCl濃度に対応して設定する。
【0042】
ここで、通常のPID制御では、微粉重曹の添加量の上限値は1つしかないため、HCl濃度にかかわらずその上限値に達する範囲内で微粉重曹を添加してしまうこととなり、過剰添加が引き起こされる。そこで、ステップ制御方式を採用することにより、現在のHCl濃度に応じた新たな制御出力上限値を加えることにより、酸性ガス濃度の大きさに応じてアルカリ剤の適正な添加が可能となり、添加量の過剰添加の抑制が可能となる。
【0043】
ここで、HCl濃度に対応して新たな制御出力上限値が設定されるが、HCl濃度が高いほど新たな制御出力上限値も高く設定される。ただし、アルカリ剤の過剰添加の抑制のためには、PID制御方式において設定されている制御出力値の上限値(例えば、後述する図15、図17及び図19のLH[制御出力上限])より小さい値とすることが好ましい。
【0044】
新たな制御出力上限値の設定例としては、後述する図15、図17及び図19に記載のBF出口HCl濃度[演算入力値]に対応する制御出力添加量のように、HCl濃度が高いほど新たな制御出力上限値も高く設定することが好ましい。
【0045】
なお、本実施形態に用いる酸性ガス測定装置は、塩化水素(HCl)濃度測定装置(HCl測定装置14)に限られず、赤外線吸収法もしくは紫外線蛍光法による硫黄酸化物濃度測定装置であってもよい。
【0046】
また、本実施形態では、HCl濃度の制御目標値を設定する酸性ガス濃度の傾きは、直近7分以内の平均値である。7分以内の酸性ガスの傾きの平均値を用いた場合、適正な選択が可能となり、酸性ガスを安定して処理することができるからである。
【0047】
また、本実施形態では、塩化水素から演算された制御出力のみを用いたが、塩化水素濃度から演算された制御出力と硫黄酸化物濃度から演算された制御出力の両出力を用いてアルカリ剤の添加量を制御してもよい。産業廃棄物焼却炉や民間工場の燃焼施設においては、塩化水素と硫黄酸化物が高濃度で発生することが多いからである。
【0048】
この場合には、塩化水素と硫黄酸化物の両方が処理対象となり、バグフィルター後段に設けられた塩化水素濃度測定装置の塩化水素濃度をもとに求められた制御出力と硫黄酸化物濃度をもとに求められた制御出力を例えば加算することにより、塩化水素並びに硫黄酸化物の両酸性ガスを安定して処理することができる。
【0049】
本実施形態で用いる微粉重曹は、特に酸性ガスとの反応性が速い平均粒子径が5〜30μmに調整された微粉重曹であることが好ましい。微粉重曹の反応性が速いことから制御応答性が良いからである。
【0050】
本実施形態では、アルカリ剤として微粉重曹を用いたが、本実施形態の効果を発揮するアルカリ剤としては特に制限はない。微粉重曹以外のアルカリ剤としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、セスキ炭酸ナトリウム、天然ソーダ、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム等が例示できる。また、アルカリ剤が粉体の場合、酸性ガスとの反応性が高い粒子径が30μm未満、特に5〜20μmの微粉のほうが好ましい。あらかじめ粒径を調整した剤を適用しても良いし、現地に粉砕設備を設け、粒径の粗いアルカリ剤を現地で粉砕しながら添加しても良い。
【0051】
また、入口の酸性ガスを測定している燃焼施設においては、フィードフォワード制御に加え、本制御方式でフィードバック制御するのも有効な手段である。更にバグフィルター後段に脱硝触媒設備が設置されている場合には200℃前後で適用する必要があることからバグフィルター温度を180〜230℃に調整することにより再加熱エネルギーの熱的ロスを削減でき、経済的な運用が可能となる。
【実施例】
【0052】
[試験例1]
実機検討結果からシミュレーション反応系を制作した。まず、第1のパターンとしてシミュレーション反応系1について説明する。なお、前記実機検討結果は、都市ごみ焼却施設において、平均粒子径8μmに調整した微粉重曹(栗田工業製ハイパーサーB−200)を従来制御であるPID装置を用いてイオン電極法で測定(京都電子工業製HL−36)された塩化水素濃度をもとにフィードバック制御したものである。
【0053】
[シミュレーション反応系1]:排ガスにおける反応を想定
シミュレーション反応系1を検討するにあたり、重曹と塩化水素(HCl)の反応が排ガス中で瞬時におきる反応とし、シミュレーション反応系1を図2に示すように構成した。
【0054】
図2を参照して、シミュレーション反応系1の基本構成を説明する。
焼却施設における薬注制御は、バグフィルター出口に設置されたイオン電極式HCl濃度測定装置のHCl濃度(処理後)信号を元にPID等の制御式の演算により薬剤添加量(微粉重曹添加量(Ag))を決定し、決定した添加量の微粉重曹(酸性ガス処理剤)を排ガス(入口HCl濃度(Hi))に添加する。煙道に添加された微粉重曹は排ガス中のHCl等の酸性ガスと反応し、排ガス中のHClが除去される(HCl除去率(α)に基づいて除去される)。本反応後のバグフィルター出口HCl濃度(Ho)がイオン電極式HCl測定装置で測定されるが、施設による計測遅れ、排ガスサンプリングによる計測遅れ、及びイオン電極式の測定による計測遅れ(応答時間)があり、フィードバック特有の制御遅れが発生する。そこで、本シミュレーションにおけるHClの計測遅れ時間(T)を下記式(1)のように設定した。
【0055】
T=T1+T2+T3 (1)

T:シミュレーション反応系の計測遅れ時間
T1:施設の遅れ時間(sec)[30sec設定]
T2:HCl測定装置の排ガスサンプリング時間(sec)[240sec設定]
T3:HCl測定装置の90%応答時間(sec)[180sec設定]
【0056】
なお、イオン電極式の90%応答時間(計測遅れ)には、HClガスの吸収液への拡散が影響するため、T3は下記式(2)とした。今回のシミュレーション検討において、本シミュレーションの計測遅れ時間は、施設の状況からT1=30秒,T2=240秒,T3=180秒と設定した。
【0057】
T3=2.3×τ (2)

=Yn−1+(X−Yn−1)÷τ×Ts (3)

τ:時定数(sec)
Ts:単位シミュレーション時間(=データサンプリング時間)(sec)[0.5sec設定]
:現在の測定装置入力HCl濃度(ppm)
:現在の測定装置出力HCl濃度(ppm)
n−1:前回[Ts(sec)前]の測定装置出力HCl濃度(ppm)
【0058】
また、微粉重曹による入口HCl濃度(Hi)のHCl除去率(α)は、栗田工業製微粉重曹の適用知見から微粉重曹添加当量(J)とHCl除去率の関係(図3)から試算した。また、HCl濃度と微粉重曹の反応は瞬時とした。なお、微粉重曹添加当量(J)は、下記式(4)により算出される。
【0059】
J=Ag÷{Hi÷0.614÷1000÷M1×M2×F÷1000} (4)

J:微粉重曹添加当量
Ag:微粉重曹添加量(kg/h)
Hi:入口HCl濃度(ppm)
M1:HCl分子量[36.5で設定]
M2:重曹分子量[84で設定]
F:排ガス量(Nm/h)[25,000Nm/hで設定]
【0060】
本理論に基づき微粉重曹を添加した実機と同一のPID制御条件「P(比例ゲイン)=10%,I=0.1秒,D=0.1秒,添加量出力下限5kg/h,添加量出力上限100kg/h」でシミュレーションした結果、シミュレーションと実機とでは出口HCl濃度(Ho)の挙動は異なった(図4、図5)。なお、出口HCl濃度(Ho)は、下記式(5)により算出される。
【0061】
Ho=Hi×(1−αg÷100) (5)

Hi:入口HCl濃度(ppm)
Ho:バグフィルター出口HCl濃度(ppm)
α:HCl除去率(%)[添加当量とHCl除去率の関係(図3)から設定]
【0062】
微粉重曹を添加したHCl処理後のHCl濃度の推移を比較すると、本シミュレーション反応系1のHCl濃度の上昇速度は、実機に比べはやい。上記の計測遅れ時間等のパラメーターを変え検討したが、実機とシミュレーションの結果は一致しなかった。従って、実機における上記のHCl濃度上昇速度が本シミュレーション反応系1に比べて遅くなる原因は、バグフィルターで捕集された未反応の微粉重曹が、HClと反応していることと考えられる。
【0063】
[試験例2]
次に、第2のパターンとしてシミュレーション反応系2について説明する。
【0064】
[シミュレーション反応系2]:排ガスとバグフィルター上における複合反応
上記検討結果から、バグフィルター上の未反応の微粉重曹とHClとの反応を勘案し、前記排ガスにおける反応に加え、バグフィルター上での反応を図6に示すように構成した。また、バグフィルターにおける捕集物の滞留時間は、通常2時間程度である。従って、本シミュレーション反応系2においては、バグフィルター上の微粉重曹は、規定時間(約2時間で設定)で消滅する形とした。
【0065】
図6を参照して、シミュレーション反応系2の基本構成を説明する。
まず、焼却施設における薬注制御では、バグフィルター出口に設置されたイオン電極式HCl濃度測定装置のHCl濃度(処理後)信号を元にPID等の制御式の演算により薬剤添加量(微粉重曹添加量(Ag))を決定し、決定した添加量の微粉重曹(酸性ガス処理剤)を排ガス(入口HCl濃度(Hi))に添加する。
【0066】
排ガスにおける反応後のHCl濃度(Hg)は、排ガス反応の微粉重曹添加当量(Jg)と排ガス反応HCl除去率(αg)により導かれる(下記式(6))。なお、排ガス反応の微粉重曹添加当量(Jg)は、下記式(7)により算出される。
【0067】
Hg=Hi×(1−αg÷100) (6)

Hi:入口HCl濃度(ppm)
Hg:排ガス反応後HCl濃度(ppm)
αg:排ガス反応におけるHCl除去率(%)
[排ガス反応微粉重曹添加当量とHCl除去率の関係(図7)から設定]
【0068】
Jg=Ag÷{Hi÷0.614÷1000÷M1×M2×F÷1000} (7)

Jg:排ガス反応微粉重曹添加当量
Ag:微粉重曹添加量(kg/h)
Hi:入口HCl濃度(ppm)
M1:HCl分子量[36.5で設定]
M2:重曹分子量[84で設定]
F:排ガス量(Nm/h)[25,000Nm/hで設定]
【0069】
また、排ガス反応により残存した微粉重曹は、バグフィルター上に随時蓄積する。バグフィルター上に蓄積した微粉重曹は、排ガス反応後のHClと反応し、バグフィルター出口のHCl濃度(Ho)が決まる。この際、バグフィルター上蓄積微粉重曹量(As)は、排ガス反応で蓄積した微粉重曹からバグフィルター上でHClと反応した微粉重曹量を差し引いて求めた。
【0070】
また、本バグフィルター上蓄積微粉重曹量(As)と排ガス反応後のHCl濃度(Hg)から試算されるバグフィルター上微粉重曹添加当量(Js)からバグフィルター上でのHCl除去率(αs)を決め、バグフィルター出口のHCl濃度(Ho)を決定した(下記式(8))。なお、バグフィルター上微粉重曹添加当量(Js)は、下記式(9)により算出される。また、HCl計測の遅れはシミュレーション反応系1と同様にT(=T1+T2+T3)とした。
【0071】
Ho=Hg×(1−αs÷100) (8)

Hg:排ガス反応後HCl濃度(ppm)
Ho:バグフィルター出口HCl濃度(ppm)
αs:バグフィルター上反応のHCl除去率(%)
[バグフィルター上微粉重曹添加当量とHCl除去率の関係(図8)から設定]
【0072】
Js=As÷{Hg÷0.614÷1000÷M1×M2×F÷1000} (9)

Js:バグフィルター上微粉重曹添加当量
As:バグフィルター上微粉重曹量(kg/h)
Hg:排ガス反応後HCl濃度(ppm)
M1:HCl分子量[36.5で設定]
M2:重曹分子量[84で設定]
F:排ガス量(Nm/h)[25,000Nm/hで設定]
【0073】
As=Z÷Ts×3600 (10)

:バグフィルター上微粉重曹蓄積量(kg)
Ts:単位シミュレーション時間(=データサンプリング時間)(sec)
[0.5sec設定]
【0074】
=Zn’×(1−2.3÷T4×Ts) (11)

n’:未反応微粉重曹量(kg)
T4:バグフィルター上蓄積微粉重曹90%消滅時定数(sec)
[7,200sec設定]
Ts:単位シミュレーション時間(=データサンプリング時間)(sec)
[0.5sec設定]
【0075】
n’=(Ag÷3600×Ts−Rg)+(Zn−1−Rs) (12)

Ag:微粉重曹添加量(kg/h)
Ts:単位シミュレーション時間(=データサンプリング時間)(sec)
[0.5sec設定]
Rg:排ガス反応における重曹反応量(kg/h)
n−1:Ts(Sec)前のバグフィルター上微粉重曹蓄積量(kg)
Rs:バグフィルター上反応における重曹反応量(kg/h)
【0076】
Rg=(Hi÷0.614÷1000÷M1×M2×F÷1000)÷3600×Ts×αg÷100 (13)

Hi:入口HCl濃度(ppm)
M1:HCl分子量[36.5で設定]
M2:重曹分子量[84で設定]
F:排ガス量(Nm/h)[25,000Nm/hで設定]
αg:排ガス反応におけるHCl除去率(%)
【0077】
Rs=(Hg÷0.614÷1000÷M1×M2×F÷1000)÷3600×Ts×αs÷100 (14)

Hg:排ガス反応後HCl濃度(ppm)
M1:HCl分子量[36.5で設定]
M2:重曹分子量[84で設定]
F:排ガス量(Nm/h)[25,000Nm/hで設定]
αs:バグフィルター上反応のHCl除去率(%)
【0078】
本理論において、排ガスにおける反応とバグフィルター上における反応によるHCl除去率を変えシミュレーションを行った結果、排ガス反応とバグフィルター上反応は、図7、図8に示すHCl除去率[排ガス反応95%、バグフィルター上の反応75%]で実機におけるバグフィルター出口HCl濃度の挙動(図4)とほぼ一致した(図9)。これは、バグフィルター上の微粉重曹がHClと反応しているため、HCl上昇速度が緩和されていることを裏付ける結果である。また、本シミュレーションにおいてはバグフィルター上でのHClとの反応は排ガス反応に比べ劣る結果である。これは、バグフィルター上での反応は、処理すべきHCl濃度が排ガス反応に比べ低いためHCl除去率が低いことによると考えられる。また、バグフィルターに蓄積する微粉重曹は、排ガスの温度により熱分解し炭酸ナトリウムになっていると考えられる。炭酸ナトリウムのHCl除去率は、微粉重曹に比べ劣るためバグフィルター上での除去率が低下した可能性がある。
【0079】
本検討結果から燃焼排ガスにおける微粉重曹とHClの反応は、排ガスにおける反応とバグフィルター上に蓄積した微粉重曹の反応が複合した反応系となっているものと考えられる。また、バグフィルター出口のHCl濃度の挙動が実機とほぼ一致したことから、本シミュレーション反応系2は、微粉重曹を用いた制御手法を評価するツールとして有効であることがわかる。
【0080】
本シミュレーション反応系2において各種制御手法を検討した結果を以下に示す。
なお、以下の実施例1〜8において用いた微粉重曹の平均粒子径は5〜30μmである。また、実施例1〜8において用いたHCl測定装置14は、イオン電極法による塩化水素濃度測定装置である。
【0081】
[比較例1]
図11に示す入口HCl濃度を用いて、シミュレーション反応系2においてPID制御方式「P(比例ゲイン)=10%,I=0.1秒,D=0.1秒,添加量出力下限5kg/h,添加量出力上限100kg/h」においてHCl処理の制御目標値(SV)を40ppmに設定し制御した。微粉重曹添加量と微粉重曹で処理した後のバグフィルター出口HCl濃度(平均,1時間平均最大,瞬時最大)を図10に示す。また、本制御時の微粉重曹添加量とバグフィルター出口HCl濃度の挙動を図12に示す。
【0082】
[実施例1]
比較例1に示すPID同一設定条件において、直近のHCl濃度の傾きの6秒平均が正の場合、制御目標値(SV)を30ppmとし、直近のHCl濃度の傾きの6秒平均が負の場合、制御目標値(SV)を40ppmとして制御した。同様に微粉重曹添加量と微粉重曹で処理した後のバグフィルター出口HCl濃度(平均,1時間平均最大,瞬時最大)を図10に示す。また、本制御時の微粉重曹添加量とバグフィルター出口HCl濃度の挙動を図13に示す。
【0083】
HCl濃度の傾きが正(増加傾向)の場合、制御目標値を低く設定したことにより、HCl濃度増加傾向時の微粉重曹添加量が多くなりHClのピークの発生を防止する効果があることがわかる。また、HCl平均並びに1時間平均最大も低下しており、狙いどおりHClを安定して処理する効果が得られた。ただし、従来制御(比較例1)に比べ微粉重曹の添加量は増加するため、本制御は、HCl濃度を例えば30ppm以下と安定して処理することが必要な施設において適した制御設定である。
【0084】
[実施例2]
比較例1に示すPID同一設定条件において、直近のHCl濃度の傾きの6秒平均が正の場合、制御目標値(SV)を30ppmとし、直近のHCl濃度の傾きの6秒平均が負の場合、制御目標値(SV)を50ppmとして制御した。同様に微粉重曹添加量と微粉重曹で処理した後のバグフィルター出口HCl濃度(平均,1時間平均最大,瞬時最大)を図10に示す。また、本制御時の微粉重曹添加量とバグフィルター出口HCl濃度の挙動を図14に示す。
【0085】
HCl濃度の傾きが正(増加傾向)の場合、実施例1と同様にHClピークの発生を防止する効果が得られるとともにHClも従来制御(比較例1)に比べ安定して処理することができた。また、HCl濃度の傾きが負(減少傾向)の場合、実施例1に比べて制御目標値(SV)を大きくしたので、微粉重曹添加量が少なくなり添加がはやめに終了し、微粉重曹の添加量は実施例1に比べて低下した。ただし、従来制御(比較例1)に比べ添加量は増加していることから、本制御は、HCl濃度を例えば30ppm以下と安定して処理することが必要な施設において適した制御設定である。
【0086】
以下、比較例2及び実施例3〜8について説明する。比較例2及び実施例3〜8ではPID制御方式に代わりステップ制御方式による制御を行う。
【0087】
ここで、ステップ制御方式の概要を説明する。ステップ制御方式はPID制御方式と異なり、出口のHCl濃度に応じて出力を段階的に規定する制御方式とした。まず、比較例2(図15)で説明するとHCl濃度がSV制御目標値[制御出力開始濃度(出力下限以上)]〜SM1間は制御出力をLOとLM1間で段階的に出力する。HCl濃度がSM1〜SM2間ではLM2で設定した制御出力を出力し、SM2以上ではLH(制御出力上限)を出力する形式とした。なお、通常のPID制御式では出力制限がなく、LOとLHの設定だけである。また、HCl傾きによる制御演算で用いるHCl濃度と制御出力を決めるテーブルの補正はSVA1とSVB1で行い、HCl傾きが正の時は演算で用いるHCl濃度からSVA1を引き、HCl傾きが負の時は演算で用いるHCl濃度にSVB1を足した。これにより同一のHCl濃度を入力した際に演算される制御出力が、HCl傾きの値が大きい場合(酸性ガス濃度が増加傾向)の制御出力値がHCl傾きの値が小さい場合の制御出力値に比べ大きくなる形式とした。
【0088】
[比較例2]
図11に示す入口HCl濃度を用いて、シミュレーション反応系2においてステップ制御方式において制御目標値(本方式ではアルカリ剤の制御出力が出力下限以上に添加される濃度をSVと規定する)を40ppmに設定し制御した。微粉重曹添加量と微粉重曹で処理した後のバグフィルター出口HCl濃度(平均,1時間平均最大,瞬時最大)を図10に示す。また、バグフィルター出口HCl濃度に応じた微粉重曹の制御出力添加量を図15に示す。さらに、本制御時の微粉重曹添加量とバグフィルター出口HCl濃度の挙動を図16に示す。
【0089】
本制御方式においては、制御出力の下限と上限の間にHCl濃度範囲により制御出力に制限を加えたことから、段階的にアルカリ剤が添加することができている。これより、アルカリ剤の過剰添加が防止され、微粉重曹の添加量は大幅に低下した。しかしながら、処理すべきHClの処理レベルは、従来制御(比較例1)に比べ大幅に悪化した。
【0090】
[実施例3]
比較例2と同一のステップ制御方式において、直近のHCl濃度の傾きの6秒平均が正の場合、制御目標値(SV)を30ppmとし、直近のHCl濃度の傾きの6秒平均が負の場合、制御目標値(SV)を40ppmとして制御した。同様に微粉重曹添加量と微粉重曹で処理した後のバグフィルター出口HCl濃度(平均,1時間平均最大,瞬時最大)を図10に示す。また、バグフィルター出口HCl濃度に応じた微粉重曹の制御出力添加量を図17に示す。さらに、本制御時の微粉重曹添加量とバグフィルター出口HCl濃度の挙動を図18に示す。
【0091】
本制御方式においては、比較例2と同様、段階的にアルカリ剤が添加され、従来制御(比較例1)に比べ微粉重曹添加量を削減する効果が得られた。また、HClが増加傾向時は、計測遅れを考慮して微粉重曹をはやく添加したことにより、安定してHClを処理する効果が得られた。本制御手法は、従来制御(比較例1)に比べHClの処理レベルが向上するとともに添加量削減効果が得られており、非常に有効な手法である。
【0092】
なお、今回バグフィルター出口HCl濃度の測定値が40ppm〜50ppmの間はHCl濃度に応じた添加量を設定し制御したが、本範囲間をPIDにより制御しても制御出力の下限と上限の間にHCl濃度が50ppm以下では制御出力を50kg/h以下、50ppm〜60ppm間では制御出力を70kg/h以下と制限を加えていることから、同等のHCl処理効果と添加量削減効果が得られるものと考えられた。
【0093】
[実施例4]
比較例2と同一のステップ制御方式において、直近のHCl濃度の傾きの6秒平均が正の場合、制御目標値(SV)を30ppmとし、直近のHCl濃度の傾きの6秒平均が負の場合、制御目標値(SV)を50ppmとして制御した。同様に微粉重曹添加量と微粉重曹で処理した後のバグフィルター出口HCl濃度(平均,1時間平均最大,瞬時最大)を図10に示す。また、バグフィルター出口HCl濃度に応じた微粉重曹の制御出力添加量を図19に示す。さらに、本制御時の微粉重曹添加量とバグフィルター出口HCl濃度の挙動を図20に示す。
【0094】
本制御方式においては、比較例2と同様、段階的に微粉重曹が添加されるとともにHClが減少傾向時は実施例3に比べて制御目標値(SV)を大きくしたので、微粉重曹添加量が少なくなり添加がはやめに終了し、従来制御(比較例1)に比べ添加量を削減する効果が得られた。また、添加量を削減できたにもかかわらずHClの処理レベルも従来制御(比較例1)と同等レベルの処理が可能であった。本制御方式も、従来制御とほぼ同等のHCl処理を行えるとともに添加量を削減する効果が得られており非常に有用な制御手法と考えられた。
【0095】
[実施例5〜8]
実施例4と同一の制御条件で制御演算式を選択する直近のHCl濃度の傾きの適正な平均時間を検討するため、本HCl濃度の傾き平均時間を変えて検討を行った。同様に微粉重曹添加量と微粉重曹で処理した後のバグフィルター出口HCl濃度(平均,1時間平均最大,瞬時最大)を図10に示す。また、本制御時の微粉重曹添加量とバグフィルター出口HCl濃度の挙動を図21〜図24に示す。
【0096】
本検討の結果、制御式を選択するHCl濃度の傾きの平均時間を10分にした際に大きなHClピークが発生した(実施例8)。これは、傾きの平均時間を長くとることにより微粉重曹を添加するタイミングがずれていることを示しており、7分超に設定した場合、本制御に不具合を生じることを示す。一方、本平均時間が7分以下の際には異常なHClの発生は見られず、適正なHCl傾きの平均時間は7分以下と考えられた(実施例5〜7)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼排ガスに含まれる酸性ガスにアルカリ剤を添加した後の工程に設置された酸性ガス測定装置の測定信号を基にアルカリ剤の添加量をフィードバック制御する酸性ガス処理方法において、
少なくとも2つの酸性ガス濃度の傾きの範囲を設定する工程と、
前記少なくとも2つの傾きの範囲毎に酸性ガス濃度の制御目標値を設定する工程と、
少なくとも前記測定信号及び前記制御目標値に基づいてアルカリ剤の添加量を示す制御出力値を算出する工程と、を有し、
前記制御目標値を設定する工程において、前記酸性ガス濃度の傾きの範囲が大きい場合に設定する制御目標値は、前記酸性ガス濃度の傾きの範囲が小さい場合に設定する制御目標値より小さいことを特徴とする酸性ガスの処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の酸性ガス処理方法において、
アルカリ剤の添加量を示す制御出力値の下限値と上限値との間に、前記酸性ガス濃度に対応して前記制御出力値の新たな上限値を1つ以上設定する工程をさらに有することを特徴とする酸性ガスの処理方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の酸性ガス処理方法において、
前記酸性ガス測定装置がイオン電極法による塩化水素濃度測定装置であることを特徴とする酸性ガスの処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3に記載の酸性ガス処理方法において、
前記酸性ガス測定装置が赤外線吸収法もしくは紫外線蛍光法による硫黄酸化物濃度測定装置であることを特徴とする酸性ガスの処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4に記載の酸性ガス処理方法において、
前記制御目標値を設定する酸性ガス濃度の傾きを直近7分以内の平均値とすることを特徴とする酸性ガスの処理方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5に記載の酸性ガス処理方法において、
塩化水素濃度から演算された制御出力と硫黄酸化物濃度から演算された制御出力の両出力を用いてアルカリ剤の添加量を制御することを特徴とする酸性ガスの処理方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6に記載の酸性ガス処理方法において、
酸性ガスを処理するアルカリ剤は、平均粒子径が5〜30μmの微粉重曹であることを特徴とする酸性ガスの処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−86105(P2012−86105A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232342(P2010−232342)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】