説明

酸性ゲル状食品調製用キット

【課題】本発明は、水の存在下で二価金属イオンと二価金属イオン反応性ゲル化剤とを反応させて酸性ゲル状食品を製造する際に、均質性の高いゲルの形成を可能にする手段を提供することを目的とする。
【解決手段】二価金属イオンと二価金属イオン反応性ゲル化剤とのゲル形成反応において、反応系中に乳タンパク質等のタンパク質を添加することにより、均質性の高い酸性ゲルを形成することができる。そこで本発明は、二価金属イオンと未反応の状態の二価金属イオン反応性ゲル化剤を含有する液状の素材Aと、二価金属イオンを含む素材Bとを、相互に混じり合わない形態で含み、素材A、素材B及び別の素材Cの少なくとも一つにタンパク質を含むキットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の存在下で二価金属イオンと二価金属イオン反応性ゲル化剤とを反応させて酸性ゲル状食品を製造するためのキット、及び該食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低メトキシルペクチン、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム等は、水の存在下でカルシウム、マグネシウム等の二価金属イオンと反応して網状構造のゲルを形成すること、並びに、この性質を利用したゲル状食品の製造方法が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には低メトキシルペクチンを含有するゲル化剤組成物と、牛乳等のカルシウムを含有する食品素材(二価金属イオンを含む水性媒体)とを組み合わせることによりゲル状食品を形成する方法において、ゲル状食品のpHを低下させた場合に、ゲル状食品中の蛋白質が酸凝固を起こして組織が分離してくると共に、離水現象を起こして脆いゲルとなり、爽快な酸味となめらかな食感を有するゲルを得ることができないという問題点を改良する技術が開示されている。具体的には特許文献1には、少なくとも低メトキシルペクチン、糖類、有機酸、および有機酸塩からなり、必要に応じてこれらに果実、果汁、液糖、着色料、色素等を加えたデザート組成物において、有機酸としてクエン酸、そして有機酸塩としてクエン酸ナトリウムを使用すると共に、該クエン酸と該クエン酸ナトリウムの重量比を1対1〜1.5となし、かつ、該デザート組成物のpHを3.8〜4.3に調整した後、密封した状態で加熱処理し、その後、これに牛乳等のカルシウムを含有する礎材を添加する酸性ゲル状デザートの製造法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭59−4104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水の存在下で二価金属イオンと二価金属イオン反応性ゲル化剤とを反応させて酸性ゲル状食品を製造する場合において、栄養性の強化を目的として素材中の二価金属イオンの量を増加させた場合には、部分的に凝集が生じた不均質なゲル(モロモロのゲル)が形成されるという問題がある。この現象は、高密度の二価金属イオンと、ゲル化剤とが局在的に反応して凝固することが原因であると考えられる。部分的に凝集が生じた不均質なゲルは、均質なゲルと比較して好ましくない外観を呈するとともに、食感の滑らかさに欠けるという問題がある。
【0006】
そこで本発明は、水の存在下で二価金属イオンと二価金属イオン反応性ゲル化剤とを反応させて酸性ゲル状食品を製造する際に、均質性の高いゲルの形成を可能にする手段を提供することを目的とする。また、二価金属イオン(ミネラル)の量を増加させた、均質性の高い酸性ゲル状食品を製造するための手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、二価金属イオンとゲル化剤とのゲル形成反応において、反応系中に乳タンパク質等のタンパク質を添加することにより、均質性の高いゲルを形成することが可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は以下の発明を包含する。
【0008】
(1)水の存在下で二価金属イオンと二価金属イオン反応性ゲル化剤とを反応させて酸性ゲル状食品を調製するための酸性ゲル状食品調製用キットであって、
二価金属イオン反応性ゲル化剤を含有する液状の素材Aと、二価金属イオンを含む素材Bとを、相互に混じり合わない形態で含み、
素材A、素材B及び別の素材Cの少なくとも一つにタンパク質を含む、
前記キット。
(2)素材A及び素材Bの少なくとも一方が前記タンパク質を含む、(1)のキット。
(3)二価金属イオン反応性ゲル化剤が低メトキシルペクチン、カラギーナン、及びアルギン酸ナトリウムからなる群から選ばれた1つ以上である、(1)又は(2)のキット。
(4)タンパク質が乳タンパク質及び大豆タンパク質からなる群から選ばれた1つ以上である、(1)〜(3)のいずれかのキット。
【0009】
(5)素材Bが、二価金属イオンを含む水性媒体と混合されて二価金属イオンを含む調整水性媒体を調製するためのものであり、
素材Aが、前記二価金属イオンを含む調整水性媒体と混合されて酸性ゲル状食品を調製するためのものである、
(1)〜(4)のいずれかのキット。
(6)素材Bが粉粒体である、(5)のキット。
(7)前記キットが、酸性ゲル状食品の調製のために配合されるキット中の全成分の合計湿重量に対して、0.005〜1.3重量%の二価金属イオン(該イオンに対応する元素の金属換算濃度)と、0.01〜16重量%のタンパク質と、0.6〜4重量%の二価金属イオン反応性ゲル化剤とを含む、(1)〜(6)のいずれかのキット。
(8)素材Bが、二価金属イオンを含有する調整水性媒体である、液状の素材であり、
素材Aが、素材Bと混合されて酸性ゲル状食品を調製するためのものである、
(1)〜(4)のいずれかのキット。
【0010】
(9)素材Aがクエン酸及びクエン酸ナトリウムを含む、(1)〜(8)のいずれかのキット。
(10)素材Aがクエン酸ナトリウム0.1〜2重量%を含む、(9)のキット。
(11)素材AのpH値が3.8〜4.3である、(1)〜(10)のいずれかのキット。
(12)水の存在下で二価金属イオンと二価金属イオン反応性ゲル化剤とが反応して形成された酸性ゲル状食品であって、該食品の全体の湿重量に対して、0.09〜0.76重量%の二価金属イオン(該イオンに対応する金属元素の金属換算濃度)と、1.7〜10重量%のタンパク質と、0.3〜2重量%の二価金属イオン反応性ゲル化剤とを含む、酸性ゲル状食品。
【0011】
(13)水の存在下で二価金属イオンと二価金属イオン反応性ゲル化剤とを反応させて酸性ゲル状食品を製造する方法であって、反応系中にタンパク質を添加する工程を含むことを特徴とする酸性ゲル状食品の製造方法。
(14)(5)又は(6)のキットを用いて実施される、(13)の方法であって、
素材Bと、二価金属イオンを含む水性媒体とを混合して二価金属イオンを含む調整水性媒体を調製する工程1と、
素材Aと、前記二価金属イオンを含む調整水性媒体とを混合して酸性ゲル状食品を製造する工程2とを含む、前記酸性ゲル状食品の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水の存在下で二価金属イオンと二価金属イオン反応性ゲル化剤とを反応させて酸性ゲル状食品を製造する際に、均質性の高いゲルの形成が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の酸性ゲル状食品の製造方法の好適な実施形態を模式的に示す。
【図2】実施例1〜3及び比較例1の酸性ゲル状食品の外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の酸性ゲル状食品調製用キットは、二価金属イオンとは未反応の状態の二価金属イオン反応性ゲル化剤を含有する液状の素材Aと、二価金属イオンを含む素材Bとを、相互に混じり合わない形態で含む。タンパク質は素材A、素材B及び別の素材Cの少なくとも一つに含まれる。
【0015】
当該キットに含まれるタンパク質は、驚くべきことに、二価金属イオンと二価金属イオン反応性ゲル化剤とが局在的に反応して凝集が生じることを抑制する作用を有する。タンパク質としては乳タンパク質、大豆タンパク質等を使用することができ、乳タンパク質が特に好ましい。乳タンパク質としてはホエイタンパク質、カゼイン等を使用することができ、ホエイタンパク質が特に好ましい。ホエイタンパク質としてはαラクトアルブミン、βラクトグロブリン等を使用することができる。これらのタンパク質は複数種組み合わされて用いられてもよい。
【0016】
タンパク質は、素材A及び素材Bの少なくとも一方に含まれることが好ましく、ゲルの均質性を高めるためには素材A及び素材Bの両方に含まれることがより好ましい。また、素材A及び素材Bとは「別の素材C」をキット中に含ませ、これにタンパク質を含んでもよい。素材B及びCの少なくとも一つにタンパク質を含む場合には、タンパク質は粉粒体の形態や、液状の形態など種々の形態をとることができる。
【0017】
タンパク質が素材Aに含まれる場合、二価金属イオン含有量の少ないタンパク質を使用して、素材A中のゲル化剤との反応を抑制することが好ましい。二価金属イオン含有量の少ないタンパク質としては、膜濾過や脱塩処理を経て製造されたホエイタンパク質が挙げられる。
【0018】
本発明では、酸性ゲル状食品を調製する際に、二価金属イオンと二価金属イオン反応性ゲル化剤とが局在的に反応して凝集が生じることを抑制する作用を奏するように、タンパク質を加配することに技術的な意義ある。したがって、後述するものに代表されるキットの実施形態等に応じて、前記の作用を奏するように、素材A、素材B及び別の素材Cの少なくとも一つにタンパク質を含んでキットを構成すればよい。タンパク質をいずれの素材に、どの程度の量加配するかは、キットの実施形態等に応じて、実験的に確認すればよい。
【0019】
二価金属イオン反応性ゲル化剤としては低メトキシルペクチン、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。低メトキシルペクチンとはエステル化度が50%以下のメトキシルペクチンを指し、好ましくはエステル化度が25〜40%のものである。
【0020】
素材Aは二価金属イオン反応性ゲル化剤、及び、必要に応じて上記のタンパク質等の他の成分が水中に溶解又は分散された液状の素材である。二価金属イオン反応性ゲル化剤は、素材Aに酸性ゲル状食品を調製する際に二価金属イオンと反応し得る状態(二価金属イオンと未反応の状態)で含まれることが望ましい。乳タンパク質等に含まれるカルシウムイオン等の二価金属イオンが素材A中に含まれて一部のゲル化剤と反応していてもよい。素材Aにタンパク質を含む場合は、二価金属イオン含有量の低いタンパク質、つまりゲル化剤と反応し難いタンパク質を含むのが望ましい。
【0021】
タンパク質以外の他の成分としては、大豆多糖類、糖類、有機酸、有機酸塩、果実、果汁、食塩、液糖、着香料、色素等が挙げられる。
【0022】
素材AのpH値は3.8〜4.3(測定温度25℃)に調整されていることが好ましい。pHは有機酸の1つであるクエン酸と、有機酸塩の1つであるクエン酸ナトリウムとの使用量及び使用比率により調整することが望ましい。クエン酸ナトリウムは、素材Aの全重量(湿重量)に対して0.1〜2重量%の量含まれていることが好ましい。有機酸としては酒石酸、リンゴ酸、乳酸等を使用することもできる。有機酸塩としては酒石酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム等を使用することもできる。
【0023】
糖類としては最終製品に好ましい甘味と組織を与えるものが挙げられ、単糖類、二糖類が好ましく、例えばグラニュー等、上白糖、三温糖等を使用することができる。更にブドウ糖、デキストリン等を使用することもできる。
【0024】
果実及び果汁としてはオレンジ、ストロベリー、ピーチ、パイン、バナナ等の果実及び果汁を使用することができる。
【0025】
素材Aは容器に収容し、密封した状態で加熱処理してキットの構成要素とすることができる。素材Aを酸性(例えばpH値3.8〜4.3)のものとして、殺菌の意図で行う上記加熱処理を100℃以下の温度で実施することができる。このことは、二価金属イオン反応性ゲル化剤を、酸性ゲル状食品を調製する際に二価金属イオンと反応し得る状態(二価金属イオンと未反応の状態)で含有し、かつ常温で保存することができる素材Aを実現する上で重要な要素となる。
【0026】
素材Bは二価金属イオン、及び、必要に応じて上記のタンパク質等の成分を含有する素材である。
【0027】
二価金属イオンとしてはカルシウムイオン、マグネシウムイオン等の食品として許容される二価金属イオンが挙げられる。二価金属イオンはリン酸三カルシウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、リン酸三マグネシウム等の種々の形態で素材Bに配合することができる。更に二価金属イオンを含有するタンパク質の形態で素材Bに配合することもできる。このため、素材Bがタンパク質を含有する実施形態では、タンパク質として二価金属イオン含有量の高いタンパク質、例えばカゼインや脱塩処理されていないホエイタンパク質等を用いることができる。素材Bに二価金属イオンがミネラルとして含まれ、最終的に調製される酸性ゲル状食品に栄養源であるミネラルを高濃度で含ませることができる。
【0028】
素材Bは粉粒体等の固体形態であってもよいし、溶液、分散液等の液状の形態であってもよい。
【0029】
素材AとBとは相互に混じり合わないように、例えば異なる容器に封入されている等の物理的に隔てられた形態でキット中に含まれる。なお、キットとは、素材AとB(とC)とを組合せて、酸性ゲル状食品を調製することができるものを指し、各々容器に封入された素材A、B、Cが1つの容器に収納されてもよいし、各別に提供されてもよい。
【0030】
典型例として、素材AとBは、最終製品である酸性ゲル状食品を製造する方法に応じて2つの実施形態をとることができる。
【0031】
本発明のキットの第一の好適な実施形態では、素材Bが、二価金属イオンを含む水性媒体と混合されて二価金属イオンを含む調整水性媒体を調製するためのものであり、素材Aが、前記二価金属イオンを含む調整水性媒体と混合されて酸性ゲル状食品を調製するためのものである。
【0032】
本発明のキットの第二の好適な実施形態では、素材Bが、二価金属イオンを含有する調整水性媒体である、液状の素材であり、素材Aが、素材Bと混合されて酸性ゲル状食品を調製するためのものである。
【0033】
「二価金属イオンを含む水性媒体」とは、乳、豆乳等の形態の、二価金属イオンを含む水性媒体を指す。乳としては、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」で「乳」と定義されたもの、好ましくは「牛乳」と定義されたもの(一般に二価金属イオン含有量が0.105〜0.120重量%、タンパク質含有量が3.0〜3.5重量%のもの)を用いるのがよい。
【0034】
「二価金属イオンを含む調整水性媒体」とは、最終的に調製される酸性ゲル状食品に含まれることとなる二価金属イオンを全部又は一部含有する水性媒体であって、素材Aと混合したときに、二価金属イオンと二価金属イオン反応性ゲルとの過剰反応を抑制して酸性ゲル状食品を調製することができる状態のものを指す。
【0035】
まず、本発明のキットの第一の好適な実施形態について説明する。
第一の好適な実施形態では、素材Bと、牛乳等の前記二価金属イオンを含む水性媒体とが混合されて「二価金属イオンを含む調整水性媒体」が調製される。この場合、素材Bは好ましくは粉粒体等の固体の形状である。
【0036】
ここで、本発明のキットの実施形態にかかわらず、最終的に調製される酸性ゲル状食品は、二価金属イオンの濃度(該イオンに対応する金属元素の金属換算濃度)が好ましくは0.09〜0.76重量%、より好ましくは0.09〜0.58重量%となるように二価金属イオンを含有することが望ましい。
【0037】
また、そのためには「二価金属イオンを含む調整水性媒体」は、キットの実施形態にかかわらず、二価金属イオン濃度(該イオンに対応する元素の金属換算濃度)が好ましくは0.18〜1.16重量%となるように、二価金属イオンを含有することが望ましい。
【0038】
したがって、牛乳等の水性媒体の二価金属イオン濃度に応じて、当該水性媒体を用いて調製される、調整水性媒体及び酸性ゲル状食品の二価金属イオンの濃度が前記の数値範囲となるように、素材Bの二価金属イオン量を決定する。
【0039】
例えば、第一の好適な実施形態における素材Bは、キット中の全成分(素材A,素材B及び必要に応じて素材Cを指す。以下同じ)の合計湿重量に対して、好ましくは0.005〜1.3重量%、より好ましくは0.005〜1.1重量%となる量の二価金属イオンを含有する。なお、本発明において、二価金属イオンの濃度及び重量は、二価金属イオンに対応する元素を金属として換算した場合の濃度及び重量を指す。素材Bに上記の範囲で二価金属イオンを含有することで、広範な二価金属イオンを含む水性媒体を用いて調整水性媒体を調製し、素材Aを上記調整水性媒体と混合して、均質性の高い酸性ゲル状食品を調製することができる。なお、この場合に、調整水性媒体1重量部に対して、素材A0.5〜1.5重量部、好ましくは0.9〜1.1重量部を用いることが望ましい。また、二価金属イオンを含む水性媒体として、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」で「乳」と定義されたもの、好ましくは「牛乳」と定義されたものを用いればよい。(本明細書において、以上の調整水性媒体と素材Aとの使用割合及び使用する二価金属イオンを含む水性媒体を好適レシピという場合がある)。
【0040】
最終的に調製される酸性ゲル状食品において二価金属イオン反応性ゲル化剤の濃度が好ましくは0.3〜2重量%となるようにするのがよい。素材Aは、これが達成されるように二価金属イオン反応性ゲル化剤を含有する。典型的には、第一の好適な実施形態の素材Aは、キット中の全成分の合計湿重量に対して、好ましくは0.6〜4重量%となる量の二価金属イオン反応性ゲル化剤を含有するのがよい。これにより、素材Aは、広範な二価金属イオンを含む水性媒体を用いて、均質性の高い酸性ゲル状食品を調製することができるものとなるが、特に、前記の好適レシピに対応するものとして望ましいものとなる。なお、素材Aの構成は、第二の好適な実施形態において共用される。
【0041】
タンパク質は、キットの実施形態にかかわらず、最終的に調製される酸性ゲル状食品に、タンパク質の濃度が好ましくは1.7〜10重量%、より好ましくは1.7〜6重量%となる量で含まれるのがよい。これが達成されるように、第一の好適な実施形態では、典型的には、タンパク質は、キット中の全成分の合計湿重量に対して、好ましくは0.01〜16重量%、より好ましくは0.01〜9.8重量%となる量でキット(素材A、B及びC)に含まれる。これにより、キットは、広範な二価金属イオンを含む水性媒体を用いて、均質性の高い酸性ゲル状食品を調製することができるものとなるが、特に、前記の好適レシピに対応するものとして望ましいものとなる。
【0042】
次に本発明のキットの第二の好適な実施形態について説明する。
第二の好適な実施形態では、素材B自体が「二価金属イオンを含む調整水性媒体」である。二価金属イオンを含む調整水性媒体としては、前記の組成を有するものが使用できる。
【0043】
第二の好適な実施形態では、素材Aと素材Bと(必要に応じて素材Cと)を混合することにより酸性ゲル状食品を製造することができる。
【0044】
第二の好適な実施形態の素材Bは、調整水性媒体の組成を有する液状物として提供され、これと素材Aを混合して酸性ゲル状食品を調製することができる。
【0045】
以上、本発明のキットの好適な実施形態について説明したが、本発明のキットの実施形態はこれらに限られず、下記する酸性ゲル状食品を製造する方法にしたがって、種々の応用変形をなし得る。
【0046】
本発明は更に、水の存在下で二価金属イオンと二価金属イオン反応性ゲル化剤とが反応して形成された酸性ゲル状食品であって、該食品の全体の湿重量に対して、0.09〜0.76重量%、好ましくは0.09〜0.58重量%の二価金属イオン(該イオンに対応する金属元素の金属換算濃度)と、1.7〜10重量%、好ましくは1.7〜6重量%のタンパク質と、0.15〜1重量%、好ましくは0.3〜2重量%の二価金属イオン反応性ゲル化剤とを含む、酸性ゲル状食品を提供する。
【0047】
本発明は更に、水の存在下で二価金属イオンと二価金属イオン反応性ゲル化剤とを反応させて酸性ゲル状食品を製造する方法であって、反応系中にタンパク質を添加する工程を含むことを特徴とする酸性ゲル状食品の製造方法を提供する。前記の反応が起こる前に反応系中にタンパク質を添加することが望ましい。この方法は本発明のキットを用いて実施することができる。本発明者らは、最終的に調製される酸性ゲル状食品に含まれることとなる二価金属イオンの全部又は一部を予め水系中に十分に分散させた後に、二価金属イオン反応性ゲル化剤を混合させることにより、二価金属イオンと二価金属イオン反応性ゲルとの過剰反応を抑制することができ、均質なゲルを調整することができることを見出した。
【0048】
例えば、第一の好適な実施形態に係る本発明のキットを使用する場合には、図1に示すように、素材Bと、二価金属イオンを含む水性媒体とを十分に混合して二価金属イオンを含む調整水性媒体を調製する工程1と、素材Aと、前記二価金属イオンを含む調整水性媒体とを混合して酸性ゲル状食品を製造する工程2とをこの順序で実施することが好ましい。この場合、タンパク質は、素材A及びBの少なくとも一方に含まれた状態で反応系に添加してもよいし、別の素材Cとして、素材Aの添加と同時又はそれより前の時点で反応系に添加してもよい。
【0049】
素材Aと二価金属イオンを含む調整水性媒体とを混合して酸性ゲル状食品を製造する工程は、液状物である両者をボール等の容器に入れて、スプーン等で緩やかに混ぜることで、二価金属イオンと二価金属イオン反応性ゲル化剤とを反応させて酸性ゲル状食品を調製する操作等に代表されるものである。
【実施例】
【0050】
1.材料
二価金属イオン反応性ゲル化剤を含有する液状の素材Aとして、表1に示す材料の混合物をパウチ容器に収容、密封し、90℃で15分間加熱処理して素材A1〜A6を調製した。また、表1に示す材料の混合物A7を調製した。
【0051】
二価金属イオンを含む粉粒体の素材Bとして表2に示す材料の混合物をパウチ容器に収容、密封して素材B1〜B6を調製した。
二価金属イオンを含む水性媒体として表3に示す牛乳を準備した。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
2.材料の配合
前記の素材A1とB1、A2とB2、A3とB3、A4とB4、A5とB5とを組合せたキットを、それぞれ実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5とした。また、A6とB6とを組合せたキットを比較例1、素材A7を比較例2とした。
【0056】
各キット(合計100g)と牛乳100gとを用いて、下記3に示す手順により最終的に200gの酸性ゲル状食品を調製した。
【0057】
実施例1〜5及び比較例1における、素材A+素材Bの合計100gあたりの二価金属イオン量及びタンパク質量と、素材A+素材B+牛乳の合計100gあたりの二価金属イオン量及びタンパク質量とを表4に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
3.酸性ゲル状食品の調製手順
以下の二通りの手順で酸性ゲル状食品を調製した。
【0060】
<調製手順1>
各々常温において、牛乳100g(品温5℃)と、表2に示す量の素材Bとを十分に混合し、二価金属イオンを多く含む均一な乳液(二価金属イオンを含む調整水性媒体)を調製した(工程1)。
【0061】
次に、各々工程1で得られた前記二価金属イオンを含む調整水性媒体の全量と、表1に示す量の素材Aとをボールに入れてスプーンで緩やかに混ぜてゲル化させた(工程2)。こうして200gの酸性ゲル状食品を調製した。
【0062】
<調製手順2>
各々常温において、牛乳(品温5℃)100gをボールに入れ、これに表1に示す量の素材Aと、表2に示す量の素材Bとをほぼ同時に加えてスプーンで緩やかに混ぜてゲル化させた。こうして200gの酸性ゲル状食品を調製した。
【0063】
4.評価
ゲルの外観を目視により評価した結果を表5にまとめた。図2に写真1(実施例1、調製手順1)、写真2(実施例2、調製手順1)、写真3(実施例4、調製手順1)、写真4(比較例1、調製手順1)を示す。
【0064】
乳タンパク質を素材A及びBのどちらにも配合していない比較例1の配合では、調製手順に関係なく部分的に凝集した不均質なゲルが形成された。比較例2のものは、表1に示す材料を混合した時点で、ゲル化剤が反応してゲル状となり、部分的に凝集した不均質なゲルとなった。
【0065】
乳タンパク質を素材A及びBの少なくとも一方に含む実施例1〜5の配合では、牛乳中に予め素材B(二価金属イオンを多く含む)を分散させた後に、ゲル化剤を含有する素材Aを混合させた場合に凝集のない均一なゲルが形成された。
【0066】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水の存在下で二価金属イオンと二価金属イオン反応性ゲル化剤とを反応させて酸性ゲル状食品を調製するための酸性ゲル状食品調製用キットであって、
二価金属イオン反応性ゲル化剤を含有する液状の素材Aと、二価金属イオンを含む素材Bとを、相互に混じり合わない形態で含み、
素材A、素材B及び別の素材Cの少なくとも一つにタンパク質を含む、
前記キット。
【請求項2】
素材A及び素材Bの少なくとも一方が前記タンパク質を含む、請求項1記載のキット。
【請求項3】
二価金属イオン反応性ゲル化剤が低メトキシルペクチン、カラギーナン、及びアルギン酸ナトリウムからなる群から選ばれた1つ以上である、請求項1又は2記載のキット。
【請求項4】
タンパク質が乳タンパク質及び大豆タンパク質からなる群から選ばれた1つ以上である、請求項1〜3のいずれか1項記載のキット。
【請求項5】
素材Bが、二価金属イオンを含む水性媒体と混合されて二価金属イオンを含む調整水性媒体を調製するためのものであり、
素材Aが、前記二価金属イオンを含む調整水性媒体と混合されて酸性ゲル状食品を調製するためのものである、
請求項1〜4のいずれか1項記載のキット。
【請求項6】
素材Bが粉粒体である、請求項5記載のキット。
【請求項7】
前記キットが、酸性ゲル状食品の調製のために配合されるキット中の全成分の合計湿重量に対して、0.005〜1.3重量%の二価金属イオン(該イオンに対応する元素の金属換算濃度)と、0.01〜16重量%のタンパク質と、0.6〜4重量%の二価金属イオン反応性ゲル化剤とを含む、請求項1〜6のいずれか1項記載のキット。
【請求項8】
素材Bが、二価金属イオンを含有する調整水性媒体である、液状の素材であり、
素材Aが、素材Bと混合されて酸性ゲル状食品を調製するためのものである、
請求項1〜4のいずれか1項記載のキット。
【請求項9】
素材Aがクエン酸及びクエン酸ナトリウムを含む、請求項1〜8のいずれか1項記載のキット。
【請求項10】
素材Aがクエン酸ナトリウム0.1〜2重量%を含む、請求項9記載のキット。
【請求項11】
素材AのpH値が3.8〜4.3である、請求項1〜10のいずれか1項記載のキット。
【請求項12】
水の存在下で二価金属イオンと二価金属イオン反応性ゲル化剤とが反応して形成された酸性ゲル状食品であって、該食品の全体の湿重量に対して、0.09〜0.76重量%の二価金属イオン(該イオンに対応する金属元素の金属換算濃度)と、1.7〜10重量%のタンパク質と、0.3〜2重量%の二価金属イオン反応性ゲル化剤とを含む、酸性ゲル状食品。
【請求項13】
水の存在下で二価金属イオンと二価金属イオン反応性ゲル化剤とを反応させて酸性ゲル状食品を製造する方法であって、反応系中にタンパク質を添加する工程を含むことを特徴とする酸性ゲル状食品の製造方法。
【請求項14】
請求項5又は6記載のキットを用いて実施される、請求項13記載の方法であって、
素材Bと、二価金属イオンを含む水性媒体とを混合して二価金属イオンを含む調整水性媒体を調製する工程1と、
素材Aと、前記二価金属イオンを含む調整水性媒体とを混合して酸性ゲル状食品を製造する工程2とを含む、前記酸性ゲル状食品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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