説明

酸性化ポリエチレンイミンを用いる細胞への核酸導入方法

【課題】ポリエチレンイミン(PEI)のトランスフェクション効率の増加、およびその毒性の低減を達成する方法を見出し、トランスフェクション効率が高いPEIを提供し、さらにそのようなPEIを使用する効率的な細胞への核酸導入方法を提供すること。
【解決手段】酸性化PEIと核酸とを酸性条件下で混合し、得られた混合物で細胞を処理することを特徴とする細胞への核酸導入方法、並びに、酸性化PEI溶液からなる細胞への核酸導入試薬および該溶液を含む試薬キットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性化ポリエチレンイミンを用いる細胞への核酸導入方法に関する。より詳しくは、本発明は、酸性化ポリエチレンイミンと核酸とを酸性条件下で混合し、得られた混合物で細胞を処理することを特徴とする細胞への核酸導入方法に関する。また、本発明は、酸性化ポリエチレンイミン溶液からなる細胞への核酸導入試薬および該溶液を含む試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
核酸の細胞内への導入は、遺伝子治療のような医療応用はもちろんのこと、分子細胞生物学の基礎研究に必須である。例えば、遺伝子の細胞内への導入方法として、ウイルスベクターを利用したトランスフェクション方法や、非ウイルス性のトランスフェクション方法が知られている。
【0003】
ウイルスベクターを利用したトランスフェクション方法は高レベルの遺伝子導入をもたらす。ウイルスベクターは効率的な遺伝子導入担体であるが、それらの使用は、免疫応答の誘発およびウイルス関連の病原性のために制限がある。
【0004】
非ウイルス性のトランスフェクション方法は、ウイルスベクターを利用したトランスフェクション方法が有する問題がなく、核酸からの医薬品の創生に寄与するものである(非特許文献1)。本方法によれば、製品を高い再現性をもって許容できる価格で大量に産生することができ、そして長期に亘って安定に保存できる。
【0005】
非ウイルス性のトランスフェクション方法は多くの方法が知られており、その主要な方法としてカチオン性脂質および/またはカチオン性ポリマーを使用する方法を例示できる。現在、カチオン性脂質やカチオン性ポリマーを主成分とした一連の非ウイルス性トランスフェクション試薬が市販され、そして使用されている。しかし、このような試薬を使用するトランスフェクション方法では、核酸が試薬とともに細胞内に貪食作用によって取りこまれたとき、その多くがリソソームによって試薬とともに分解され、その結果トランスフェクション効率が低くなるという問題がある。また、市販のトランスフェクション試薬の多くは現在かなり高価であるため、それらが高価格であることが多数および/または大規模なトランスフェクションを伴う実験にとって問題である。
【0006】
カチオン性ポリマーであるポリエチレンイミン(以下、PEIと略称する)は、低価格、非ウイルス性、そして非リポソーム型のトランスフェクション試薬であり、最も費用効果的な媒体の1つとして知られている。PEIは、カチオン性電荷密度ポテンシャルが高く、DNAを効率的に凝縮(compaction)してポリプレックスと称される安定な複合体を形成する。ポリプレックスは細胞内にエンドサイトーシスにより取り込まれるため、PEIの使用により効率的にトランスフェクションが行われる(非特許文献2)。その上、PEIはpH緩衝能が高く、取り込まれたDNAをリソソームでの分解から保護し、そしてリソソームから細胞質へ効率的に放出させる。このようにPEIはトランスフェクション試薬として有用であり、DNAによる哺乳動物細胞のトランスフェクションにインビトロ(in vitro)およびインビボ(in vivo)で使用されている(非特許文献2-4)。
【0007】
しかしながら、PEIを使用するトランスフェクション方法には、PEIにかなりの毒性があること、およびPEIの安定性が低いためにトランスフェクション効率が大幅に低下することなどの問題がある。
【0008】
PEIのトランスフェクション効率を向上させるために、PEIの大きさ、構造、および化学修飾について広範囲にわたる研究が行われており(非特許文献4-11)、そしてPEI/DNAポリプレックスまたは凝縮されたDNAに補助剤を添加することも検討されている(非特許文献12-13)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2008-509076号。
【特許文献2】特表2006-516259号。
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Davis, M.E. (2002) Non-viral gene delivery systems. Curr. Opin. Biotechnol. 13, 128-131.
【非特許文献2】Boussif, O. et al., (1995) A versatile vector for gene and oligonucleotide transfer into cells in culture and in vivo: Polyethylenimine. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92, 7297-7301.
【非特許文献3】Abdallah, B. et al., (1996) A powerful nonviral vector for in vivo gene transfer into the adult mammalian brain: Polyethylenimine. Hum. Gene Ther. 7, 1947-1954.
【非特許文献4】Goula, D. et al., (1998) Size, diffusibility and transfection performance of linear PEI/DNA complexes in the mouse central nervous system. Gene Ther. 5, 712-717.
【非特許文献5】Zanta, M.A. et al., (1997) In vitro gene delivery to hepatocytes with galactosylated polyethylenimine. Bioconjug. Chem. 8, 839-844.
【非特許文献6】Fischer, D. et al., (1999) A novel non-viral vector for DNA delivery based on low molecular weight, branched polyethylenimine: Effect of molecular weight on transfection efficiency and cytotoxicity. Pharm. Res. 16, 1273-1279.
【非特許文献7】Ogris, M. et al., (1999) PEGylated DNA/transferrin-PEI complexes: Reduced interaction with blood components, extended circulation in blood and potential for systemic gene delivery. Gene Ther. 6, 595-605.
【非特許文献8】Wightman, L. et al., (2001) Different behavior of branched and linear polyethylenimine for gene delivery in vitro and in vivo. J. Gene Med. 3, 362-372.
【非特許文献9】Durocher, Y. et al., (2002) High-level and high-throughput recombinant protein production by transient transfection of suspension-growing human 293-EBNA1 cells. Nucleic Acids Res. 30, e9.
【非特許文献10】Brissault, B. et al., (2003) Synthesis of linear polyethylenimine derivatives for DNA transfection. Bioconjug. Chem. 14, 581-587.
【非特許文献11】Thomas, M. et al., (2005) Full deacylation of polyethylenimine dramatically boosts its gene delivery efficiency and specificity to mouse lung. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 5679-5684.
【非特許文献12】Ogris, M. et al., (1998) The size of DNA/transferring-PEI complexes is an important factor for gene expression in cultured cells. Gene Ther. 5, 1425-1433.
【非特許文献13】Tseng, W.C. et al., (2007) Trehalose enhances transgene expression mediated by DNA-PEI complexes. Biotechnol. Prog. 23, 1297-1304.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
PEIのトランスフェクション効率を向上させることを目的とし、PEIの大きさ、構造、および化学修飾に焦点をあてた研究がなされている。しかし、PEIのトランスフェクション効率の増加およびその毒性の低減は未だ充分に達成されていない。
【0012】
本発明の課題は、PEIのトランスフェクション効率の増加、およびその毒性の低減を達成する方法を見出し、トランスフェクション効率が高いPEIを提供し、さらにそのようなPEIを使用する効率的な細胞への核酸導入方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。本研究では、PEIの欠点を克服するために、PEI溶液およびポリプレックス形成の条件、並びにトランスフェクション期間を検討した。その結果、PEIの酸性化、および酸性条件下でのポリプレックス形成により、高いトランスフェクション効率を確保できることを見出した。さらに、トランスフェクション後にPEIを除去することにより、充分なトランスフェクション効率と毒性の低減が達成されることを見出した。本発明者らはこれら知見から本発明を達成した。
【0014】
即ち、本発明は以下に関する:
1. 下記工程を含む、細胞への核酸導入方法:
(1)ポリエチレンイミン(PEI)と核酸とを、pH 3.5からpH 4.5の酸性条件下で混合する工程、および
(2)得られた混合物で細胞を処理する工程、
2. 前記工程(2)についで下記工程を更に含む前記1.の細胞への核酸導入方法:
(3)細胞の培養培地を新鮮培養培地と交換する工程、
3. PEIが、直鎖PEIである前記1.または2.の細胞への核酸導入方法、
4. PEIが、分子量約25,000の直鎖PEIである前記1.または2.の細胞への核酸導入方法、
5. PEIと核酸との重量比が、4:1から8:1である前記1.から4.のいずれかの細胞への核酸導入方法、
6. 前記1.から5.のいずれかに記載のPEIが、pH 0.5からpH 2.0の溶液(PEI溶液)である前記1.から5.のいずれかの細胞への核酸導入方法、
7. 前記1.から5.のいずれかに記載のPEIが、PEIの塩酸溶液である前記1.から5.のいずれかの細胞への核酸導入方法、
8. 前記1.から5.のいずれかに記載のPEIが、PEIを0.2N 塩酸溶液に溶解することにより調製された溶液である前記1.から5.のいずれかの細胞への核酸導入方法、
9. 下記工程を含む、細胞への核酸導入方法:
(1)ポリエチレンイミン(PEI)と核酸とを、pH 3.5からpH 4.5の酸性条件下で混合する工程、
(2)得られた混合物で細胞を処理する工程、および
(3)細胞の培養培地を新鮮培養培地と交換する工程、
ここで、PEIは分子量約25,000の直鎖PEIを0.2N 塩酸溶液に溶解することにより調製された溶液であり、PEIと核酸との重量比が4:1から8:1である、
10. ポリエチレンイミン(PEI)溶液を含む細胞への試薬キットであって、PEI溶液のpHが0.5から2.0であることを特徴とする細胞への核酸導入用試薬キット、
11. 前記PEI溶液がPEIの塩酸溶液である前記10.の細胞への核酸導入用試薬キット、
12. 前記PEI溶液がPEIを0.2N 塩酸溶液に溶解することにより調製された溶液である前記10.の細胞への核酸導入用試薬キット、
13. 前記PEI溶液に含まれるPEIが直鎖PEIである前記10.から12.のいずれかの細胞への核酸導入用試薬キット、
14. 前記PEI溶液に含まれるPEIが分子量約25,000の直鎖PEIである前記10.から12.のいずれかの細胞への核酸導入用試薬キット、
15. ポリエチレンイミン(PEI)溶液を含む試薬キットであって、PEI溶液が分子量約25,000の直鎖PEIを0.2N 塩酸溶液に溶解することにより調製された溶液であることを特徴とする細胞への核酸導入用試薬キット、
16. ポリエチレンイミン(PEI)からなる細胞への核酸導入試薬であって、PEI溶液のpHが0.5から2.0であることを特徴とする該導入効率が保持された細胞への核酸導入試薬。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、PEIと核酸とを酸性条件下で混合し、得られた混合物で細胞を処理することを特徴とする細胞への核酸導入方法を提供できる。
【0016】
また本発明によれば、酸性化PEI溶液からなる細胞への核酸導入試薬および該溶液を含む細胞への核酸導入用試薬キットを提供できる。
【0017】
本発明に係る細胞への核酸導入方法では、様々な種類の細胞や培養細胞への核酸の導入において、高いトランスフェクション効率と最小限の毒性を達成できる。また、本核酸導入方法に要する費用は、様々な市販試薬を使用する核酸導入方法と比較して約1:10000にまで劇的に低減できる。
【0018】
また、酸性化PEI溶液は、中性化PEI溶液と比較して、長期間の保存においてもPEIのトランスフェクション活性が維持されており、そのため、細胞への核酸導入効率を維持することができる。
【0019】
このように、本発明により、簡便かつ費用効果的で高効率に、細胞への核酸導入を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1−A】酸性条件下でPEIによるDNA凝縮を行うことにより、PEI/DNAポリプレックスによるトランスフェクション効率が増加したことを示す図である。EGFP発現ベクターとPEIとをHBS(pH 7.4)またはLBS(pH 3.5)中で混合してDNA凝縮を引き起こした(図中、Compaction in HBS、または、Compaction in LBSと表示する)。得られたPEI/DNAポリプレックスでHeLa細胞の一過性トランスフェクションを行い、細胞のEGFP発現をフローサイトメトリーで解析した。無処理の細胞を同様に解析した(図中、No treatmentと表示する)。図の縦軸は細胞数(Cell number)を、横軸は蛍光強度(Fluorescence intensity)を示す。また、図中影付領域は、無処理細胞のヒストグラムを、実線領域はトランスフェクション処理した細胞のヒストグラムを示す。一過性トランスフェクション効率は、EGFPを高レベル(太矢印)および低〜高レベル(細矢印)で発現している細胞数を計数することにより評価した。(実施例1)
【図1−B】酸性条件下でPEIによるDNA凝縮を行うことにより、PEI/DNAポリプレックスによるトランスフェクションにおける細胞への毒性が低下したことを示す図である。図1-Aの説明に記載のようにトランスフェクションを行い、次いでトランスフェクションしたHeLa細胞をPI染色し、PIで染色された死細胞をフローサイトメトリーで分析した。データは平均±標準偏差で表す(n=3)。図の縦軸は死細胞の割合(Dead cells (%))を示す。(実施例1)
【図2−A】PEI/DNA比およびDNA凝縮pHがトランスフェクション効率に及ぼす効果を検討した結果を示す図である。 PEIおよびEGFP発現ベクターをLBS(pH 3.5)中で様々なPEI/DNA比で混合し、そして得られたPEI/DNAポリプレックスでHeLa細胞の一過性トランスフェクションを行い、EGFP発現と毒性をフローサイトメトリーで分析した。無処理の細胞を同様に解析した(図中、No treatmentと表示する)。図の縦軸は細胞の割合(% Cells)を示す。図中の数値は、トランスフェクションに用いたPEI/DNAポリプレックス調製時のPEI/DNA比を示す(Transfection [PEI/DNA ratio (μg/μg)])。図中、黒カラムはEGFP高発現細胞(Cells expressing high levels of EGFP)を、白カラムは死細胞(Dead cells)を示す。(実施例2)
【図2−B】PEI/DNA比およびDNA凝縮pHがトランスフェクション効率に及ぼす効果を検討した結果を示す図である。PEIおよびEGFP発現ベクターをPEI/DNA比6(μg/μg)となるようLBS(pH 3.5)中で混合し(図中、PEI/EGFP ratio=6と表示する)、そして得られたPEI/DNAポリプレックスでHeLa細胞の一過性トランスフェクションを行い、EGFP発現をフローサイトメトリーで解析した。無処理の細胞を同様に解析した(図中、No treatmentと表示する)。図の縦軸は細胞数(Cell number)を、横軸は蛍光強度(Fluorescence intensity)を示す。また、図中影付領域は、無処理細胞のヒストグラムを、実線領域はトランスフェクション処理した細胞のヒストグラムを示す。トランスフェクション効率は、EGFPを高レベル(太矢印)および低〜高レベル(細矢印)で発現している細胞数を計数することにより評価した。(実施例2)
【図2−C】DNA凝縮pHがトランスフェクション効率に及ぼす効果を検討した結果を示す図である。PEIおよびEGFP発現ベクターを比率が5(μg/μg)となるように、HBS(pH 7.4)またはLBS(pH 3.5、4.0、4.5)中で混合し、そして得られたPEI/DNAポリプレックスでHeLa細胞の一過性トランスフェクションを行った。図の縦軸はEGFP発現細胞数の増加倍率(Fold increase in the number of cells expressing EGFP)を示す。図中の数値は、DNA凝縮培地のpHを示す(pH of compaction medium)。図中、黒カラムおよび白カラムはそれぞれEGFPを高レベルで発現している細胞(High level expressionと表示する)および低〜高レベルで発現している細胞(Low to high level expression)を示す。データは平均±標準偏差で表す(n=3)。(実施例2)
【図3−A】酸性条件下で得られたPEI/DNAポリプレックスによりCOS-1およびHeLa S3細胞のトランスフェクションを行った結果を示す図である。EGFP発現を蛍光顕微鏡により検討した。細胞は、5μgのEGFP発現ベクターと25μgのPEIをLBS(pH 4.0)中で混合することにより形成させたポリプレックスを用いて一過性にトランスフェクションし、そして培養12時間後に培地を新鮮な血清含有培地と交換した。その後、ノマルスキー(Nomarski)微分干渉顕微鏡および蛍光顕微鏡で細胞形態およびEGFP発現を観察した。スケール目盛線(Scale bars)は10μm。(実施例3)
【図3−B】酸性条件下で得られたPEI/DNAポリプレックスによるトランスフェクションと、最適量のTransIT-LT1を用いたトランスフェクションとを、COS-1細胞を用いて比較検討した結果を示す図である。細胞は、1μgのEGFP発現ベクターと5μgのPEIをLBS(pH 4.0)中で混合することにより形成させたポリプレックス、または最適量のTransIT-LT1を用いて一過性にトランスフェクションした。その後、ノマルスキー(Nomarski)微分干渉顕微鏡および蛍光顕微鏡で細胞形態およびEGFP発現を観察した。スケール目盛線(Scale bars)は10μm。(実施例3)
【図3−C】酸性条件下で得られたPEI/DNAポリプレックスを用いて、浮遊培養したDami細胞のトランスフェクションを行った結果を示す図である。浮遊培養したDami細胞を培養ディッシュに接着させ、そして、4μgのEGFP発現ベクターと26μgのPEIをLBS(pH 4.0)中で混合することにより形成させたポリプレックスを用いて一過性にトランスフェクションした。その後、ノマルスキー(Nomarski)微分干渉顕微鏡および蛍光顕微鏡で細胞形態およびEGFP発現を観察した。スケール目盛線(Scale bars)は10μm。(実施例3)
【図3−D】酸性条件下で得られたPEI/DNAポリプレックスを用いて、PEIとの接触に対して感受性が高いために細胞凝集および細胞死が生じるHCT116細胞のトランスフェクションに成功したことを示す図である。細胞は、6μgのCD25発現ベクターと7.5μgのPEIをLBS(pH 4.0)中で混合することにより形成させたポリプレックスを用いて1回または2回、一過性にトランスフェクションし(図中、CD25 transfection (once)、または、CD25 transfection (twice)と表示する)、そして抗CD25抗体を用いて染色した後、セルソーターにてCD25発現を分析した。無処理の細胞を同様に解析した(図中、No treatmentと表示する)。図の縦軸はHCT116細胞数(Cell number (HCT116))を、横軸は蛍光強度(Fluorescence intensity)を示す。また、図中影付領域は、無処理細胞のヒストグラムを、実線領域はトランスフェクション処理した細胞を示す。トランスフェクション効率はCD25を低〜高レベル(細矢印)で発現している細胞数を計数することにより評価した。(実施例3)
【図3−E】酸性条件下で得られたPEI/DNAポリプレックスを用いて、安定トランスフェクション細胞クローンを作成した結果を示す図である。HeLa S3細胞の安定トランスフェクションを、EGFP発現ベクターとPEIとをLBS中で混合することにより形成させたポリプレックスを用いて行った(図中、Stable transfectionと表示する)。次いで、ゼオシン抵抗性コロニーを2週間でクローン化した(図中、HeLa S3 coloniesと表示する)後、ノマルスキー(Nomarski)微分干渉顕微鏡および蛍光顕微鏡で細胞形態およびEGFP発現を観察した。スケール目盛線(Scale bars)は10μm。
【図4】酸性化PEIを使用する細胞への核酸導入方法の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、PEIを用いる細胞への核酸導入方法に関する。本発明に係る方法は、PEIと核酸とを酸性条件下で混合し、得られた混合物で細胞を処理することを特徴とする。
【0022】
また本発明は、酸性化PEI溶液からなる細胞への核酸導入試薬および該溶液を含む細胞への核酸導入用試薬キットに関する。本発明に係るPEI溶液は、酸性溶媒に溶解されているPEI溶液であることを特徴とする。
【0023】
「核酸」とは、プリンまたはピリミジン塩基、糖、およびリン酸からなるヌクレオチドを基本単位とし、このリン酸が各ヌクレオチド間で糖の3'と5'位炭素の間にジエステル結合を形成することにより重合した鎖状のポリヌクレオチドをいう。糖の違いにより、糖部分がデオキシリボースであるデオキシリボ核酸(DNA)と 、リボースであるリボ核酸(RNA)とに大別される。
【0024】
用語「核酸」は、遺伝子、DNA、RNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドを包含する。また、用語「核酸」は、本明細書において、遺伝子、DNA、RNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用される。
【0025】
用語「細胞への核酸導入」は、本明細書において、用語「細胞のトランスフェクション」と互換可能に使用される。
【0026】
「細胞」は、単離された細胞、単離された生体由来組織に含まれる細胞、および培養細胞を包含する。細胞が単離された細胞または培養細胞である場合、細胞は接着性細胞であってもよく、浮遊性細胞であってもよい。
【0027】
PEIは、カチオン性ポリマーであり、核酸を効率的に凝縮(compaction)してポリプレックスと称される安定な複合体を形成する。ポリプレックスは細胞内にエンドサイトーシスにより取り込まれるため、PEIの使用により効率的にトランスフェクションが行われる(非特許文献2)。
【0028】
PEIは、直鎖PEIでもよく、分枝PEIでもよいが、好ましくは直鎖PEIを用いる。直鎖PEIは分枝PEIと比較してトランスフェクション効率が高い。PEIの分子量は、そのトランスフェクション効率を考慮すると、10,000-800,000Daが利用可能であり、好ましくは10,000-50,000Da、より好ましくは10,000-25,000Da、さらに好ましくは約25,000Daである。具体的には、分子量約25,000Daの直鎖PEIが好ましく用いられる。また、化学修飾された直鎖PEIまたは分枝PEIを用いることもできる。PEIは市販されており、容易に入手することができる。例えば、ポリサイエンシズ社(Polysciences, Inc., Warrington, PA, USA)製のPEIを好ましく使用できる。
【0029】
PEIは、酸性化PEI溶液であることが好ましい。本明細書において、「酸性化PEI溶液」とは、酸性溶媒に溶解されて調製されたPEI溶液を意味する。これに対し、「中性化PEI溶液」とは、中性溶媒に溶解されて調整されたPEI溶液を意味する。酸性化PEI溶液の酸性度は、好ましくはpH 0からpH 2.0であり、より好ましくはpH 0.5からpH 2.0である。酸性度がこの範囲外であると、PEIのトランスフェクション活性が低下する。酸性溶媒としては、PEI溶液の酸性度を上記範囲に保持し得る溶媒であって、かつ、PEIのトランスフェクション活性に悪影響を与えない溶媒であればいずれの溶媒も使用でき、例えば、塩酸(以下、HClと略称することがある)などの無機酸の他、グリシン塩酸水溶液などの酸性領域にpHを持つ有機酸などの酸性溶媒を例示できる。より具体的には、酸性溶媒として、0.01Nから0.5Nの塩酸、好ましくは0.2Nの塩酸を例示できる。
【0030】
酸性化PEI溶液の調製は、PEI粉末を購入後直ちに酸性溶媒に溶解することにより実施する。PEIは空気酸化され易いため、粉末状態でも不安定であって、開封後は粉末状態で-80℃にて保管しても、トランスフェクション活性が保管中に減少する。したがって、購入したPEI粉末は開封後直ちに酸性溶媒に溶解することが好ましい。PEI濃度は、保存中の安定性を保持するため、1mg/ml以上の濃度で酸性溶媒に溶解することが好ましい。
【0031】
今までに、中性化PEI溶液を用いたトランスフェクションの成功について多数報告されている(非特許文献2;非特許文献6;非特許文献12;Pham, P.L.et al., (2003) Large-scale transient transfection of serum-free suspension-growing HEK293 EBNA1 cells: Peptone additives improve cell growth and transfection efficiency. Biotechnol. Bioeng. 84, 332-342.;Ehrhardt, C.et al., (2006) Polyethylenimine, a cost-effective transfection reagent. Signal Transduction 6, 179-184.)。
【0032】
しかし、実際のところ、PEIの使用中に、そのトランスフェクション活性の予期せぬ減少がしばしば観察される。すなわち、中性化PEI溶液は不安定であると考えることができる。
【0033】
一方、酸性化PEI溶液は、長期間の保存後も、そのトランスフェクション活性をほぼ完全に保持していた。具体的には、PEIを0.2N HClに溶解する(pH 1程度を示す)と、4℃または-80℃での保存期間中少なくとも6ヶ月間に亙って完全にトランスフェクション活性が維持された。より具体的には、調製直後のトランスフェクション活性は、最大活性を示したが、6ヶ月間の保存後でも活性は全く失活せずに保持されていた。これに対し、PEIをHBS(pH 7.4)に溶解したとき、トランスフェクション活性は4℃または-80℃での1ヶ月の保存期間中に劇的に低減した。具体的には、調製直後のトランスフェクション活性を100%とすると、1ヶ月間の保存後には活性は0%となり、完全に失活した。さらに、PEIをエタノールに溶解すると、そのトランスフェクション活性が4℃での保存期間中2、3週間以内に劇的に低減した。具体的には、調製時のトランスフェクション活性を100%とすると、2-3週間保存後には、活性は0%となり、完全に失活した。
【0034】
酸性化PEI溶液では、全てのイミノ基の窒素原子のローンペアがプロトネーションされて、空気酸化されなくなるため、保存中のトランスフェクション活性の低下を防ぐことができると考えられる。
【0035】
本発明に係る細胞への核酸導入方法は、PEIと核酸とを酸性条件下で混合し、得られた混合物で細胞を処理することを特徴とする。PEIと核酸とを混合することにより、PEIにより核酸が効率的に凝縮され、PEIと核酸とからなるポリプレックスと称される安定な複合体を形成する。ポリプレックスは細胞内にエンドサイトーシスにより取り込まれるため、効率的にトランスフェクションを達成できる。
【0036】
本発明に係る細胞への核酸導入方法には、上記酸性化PEI溶液が好ましく用いられる。
【0037】
「酸性条件下」とは、pH 3.5-4.5、好ましくはpH 4.0の条件下であることを意味する。PEIと核酸との酸性条件下での混合は、例えば、PEIと核酸とを共に酸性溶媒に添加することにより実施できる。あるいは、PEIと核酸とをそれぞれ別個に酸性溶媒に添加し、その後、両者を混合することにより実施できる。以下、本明細書において、PEIと核酸との混合による核酸凝縮に用いる培地を凝縮培地と称することがある。凝縮培地は、pH 3.5-4.5の緩衝液として細胞に悪影響を与えないものであればいずれを用いることもでき、例えば乳酸緩衝生理食塩水(LBS)、酢酸緩衝生理食塩水、およびリン酸緩衝生理食塩水を利用できる。より具体的には、凝縮培地として、pH 4.0の乳酸緩衝生理食塩水(LBS)を例示できる。
【0038】
pH 3.5-4.5、好ましくはpH 4.0の条件下では、PEIが十分な正電荷を持ち、また、核酸のリン酸基も負電荷を持つため、PEIと核酸の電気的な会合が強力に働き、その結果、強固なポリプレックスが形成されると考えられる。中性条件下では、核酸は十分負電荷を持つが、PEIの正電荷が弱くなり、また、pH 3.5より強い酸性下では核酸が負電荷を持たなくなるため、これら条件下でのポリプレックス形成は不十分となる。核酸が凝縮してポリプレックスを形成しないと細胞に取り込まれず、また、強固なポリプレックスでないと、細胞に取り込まれてからリソソームに運ばれた際にヌクレアーゼで分解される。したがって、PEIと核酸との混合はpH 3.5-4.5、好ましくはpH 4.0の条件で実施する。PEIと核酸とで形成されたポリプレックスは、リソソームに運ばれた後に細胞質に漏れ易い性質を持ち、漏れ出て来た該ポリプレクスは核内に運ばれる。核では、核酸がポリプレックスから解離してリラックス構造に戻り、その機能を発揮する。
【0039】
PEIと核酸との混合物による細胞の処理は、該混合物を細胞溶液または生体由来組織を含む溶液に添加することにより実施できる。細胞溶液に含まれる細胞は接着性細胞であってもよく、浮遊性細胞であってもよい。
【0040】
PEIと核酸との混合物による細胞の処理時間は、高いトランスフェクション効率を得られる限りにおいて特に限定されず、簡単な繰り返し実験により適宜設定することができる。長時間処理すると、PEIの細胞毒性の影響により死細胞の割合が増加するため、トランスフェクション効率が低下する。細胞の処理時間は、具体的には好ましくは8時間から24時間、より好ましくは8時間から12時間、さらにより好ましくは8時間を例示できる。
【0041】
PEIによる細胞毒性を回避するため、PEIと核酸との混合物による細胞の処理後に、該細胞の培養培地を新鮮培養培地と交換することが好ましい。トランスフェクション後に培養培地を交換すると、高いトランスフェクション効率を犠牲にすることなく、PEIの毒性を最小限にすることができる。細胞に取り込まれたポリエチレンイミンは、過剰量にならなければ、代謝を受けて無毒されるものと考えられる。
【0042】
PEIと核酸の混合比は、高いトランスフェクション効率を得られる限りにおいて特に限定されず、簡単な繰り返し実験により適宜設定することができる。適当な混合比は、PEIの分子量により変化するものと考えられる。例えば、分子量25,000Da前後のPEIを使用する場合、PEIと核酸の混合比は、重量比で4:1から8:1の範囲内であることが好ましい。重量比がこの範囲外であると、PEIのトランスフェクション効率が低下する。さらに、重量比が8:1以上であると過剰量のPEIによる細胞毒性が高くなる。PEIが酸性化PEI溶液である場合、PEIと核酸の重量比は、酸性化PEI溶液に含まれるPEIと核酸との重量比で表される。また、PEIの毒性に対して感受性の高い細胞のトランスフェクションに分子量25,000Da前後のPEIを使用する場合、PEIと核酸の混合比を最大で1.25:1程度まで減らしたほうが好ましい。
【0043】
本発明に係る細胞への核酸導入方法は、好ましくは、分子量約25,000の直鎖PEIを0.2N 塩酸溶液に溶解することにより調製されたPEI溶液を用い、かつ、下記工程を含む:
(1)PEIと核酸とを、重量比4:1から8:1の範囲内で、pH 3.5からpH 4.5の範囲内の酸性条件下で混合する工程、
(2)得られた混合物で細胞を処理する工程、および
(3)細胞の培養培地を新鮮培養培地と交換する工程、
【0044】
本発明に係る細胞への核酸導入方法の具体例を図4に示す。
【0045】
本発明に係る細胞への核酸導入方法は、細胞への一過性核酸導入、および細胞への安定的核酸導入のいずれにも使用できる。
【0046】
さらに、本発明に係る細胞への核酸導入方法は、PEIに感受性が高く、PEIの細胞毒性の影響を受け易かった細胞にも適用できる。このような細胞を本方法でトランスフェクションする場合、PEIと核酸の混合比を通常よりは低減し、PEIと核酸との混合物による細胞の処理を複数回行うことにより、PEIの細胞毒性の影響を低減することができ、高いトランスフェクション効率を得ることができる。
【0047】
また、一般に、浮遊性の培養細胞の多くは化学トランスフェクション試薬を用いると充分に核酸が導入されないため、通常、電気穿孔法(electroporation)により核酸導入を実施するが、このような浮遊性の培養細胞にも本方法を適用して核酸導入を実施できる。本方法は、電気穿孔法と比べ、特別な機器を必要とせず、また、少量の細胞を用いて実施できるため有用である。
【0048】
本発明に係る細胞への核酸導入方法は、従来の中性化PEIを使用する細胞への核酸導入方法と比較して、トランスフェクション効率が約2倍〜約7倍程度高く、また、細胞毒性が低かった。さらに、本方法は、他の試薬を使用する非ウイルス性のトランスフェクション方法と比較して低費用であり、費用効果的である。
【0049】
上記酸性化PEI溶液は、細胞への核酸導入試薬として使用できる。すなわち、本発明により、PEI溶液からなる細胞への核酸導入試薬であって、PEI溶液のpHが0.5から2.0であることを特徴とする細胞への核酸導入試薬を提供できる。好ましくは、本発明に係る細胞への核酸導入試薬は、分子量約25,000の直鎖PEIを0.2N 塩酸溶液に溶解することにより調製されたPEI溶液からなる。
【0050】
上記酸性化PEI溶液は、該溶液を個別に包装された形態で含む試薬キットとして提供することができる。すなわち、本発明により、PEI溶液を含む試薬キットであって、PEI溶液のpHが0.5から2.0であることを特徴とする細胞への核酸導入用試薬キットを提供できる。好ましくは、本発明に係る試薬キットは、分子量約25,000の直鎖PEIを0.2N 塩酸溶液に溶解することにより調製されたPEI溶液を含む。本試薬キットは、本発明に係る細胞への核酸導入方法に好ましく使用できる。
【0051】
上記のように、PEIの酸性化により、様々な種類の細胞株へのDNAの導入において、そのトランスフェクション活性を長期間維持でき、そして高いトランスフェクション効率と最小限の毒性を達成できる。特に、酸性化PEIを用いる試験の費用は、様々な市販の試薬と比較して約1:10000にまで劇的に低減される。このように、酸性化PEIは費用効果的で高効率のトランスフェクションを達成する。
【0052】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【0053】
まず、下記実施例に使用した材料および方法について簡単に述べる。
【0054】
1. 試薬およびプラスミド
直鎖PEI(分子量25,000)は、ポリサイエンシズ社(Polysciences, Inc.)より購入した。PEI粉末は0.2N HClに5mg/mlの濃度で溶解し、そして一部を4℃または-80℃で保管した。HEPES緩衝生理食塩水(以下、HBSと略称する:20 mM HEPES-KOH、pH 7.4、および150 mM NaCl)および乳酸緩衝生理食塩水(以下、LBSと略称する:20 mM 乳酸ナトリウム, pH 3.5、4.0、または4.5、および150 mM NaCl)を調製した。TransIT-LT1トランスフェクション試薬は、マイラスバイオLLC社(Mirus Bio LLC)より購入した。強化緑色蛍光タンパク質(enhanced green flulorescent protein;以下、EFGPと略称する)をコードするベクターpcDNA4-TO-EGFPは、pcDNA4/TOベクター(Invitrogen社製)を用いて従前報告された方法で構築した(Nakayama, Y. et al., (2006) Involvement of the N-terminal unique domain of Chk tyrosine kinase in Chk-induced tyrosine phosphorylation in the nucleus. Exp. Cell Res. 312, 2252-2263.)。CD25をコードするpCAGベクター(pCAG/TetR-IRES-CD25)は従前報告された方法で構築した(Miyazaki, J. et al., (1989) Expression vector system based on the chicken beta-actin promoter directs efficient production of interleukin-5. Gene 79, 269-277.)。
【0055】
2. 細胞株
ヒト上皮HeLaおよびHeLa S3細胞(Japanese Collection of Research Bioresources、大阪)は、5%牛胎仔血清(FBS)および5%牛血清(BS)をそれぞれ含むイスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove's modified Dulbecco's medium;IMDM)中で培養した。ヒト巨核球系のDami細胞は、従前報告されたように、10%ウマ血清を含むIMDM中で浮遊培養により維持し(Greenberg, S.M. et al., (1988) Characterization of a new megakaryocytic cell line: The Dami cell. Blood 72, 1968-1977.;Hirao, A. et al., (1998) Overexpression of C-terminal Src kinase homologous kinase suppresses activation of Lyn tyrosine kinase required for VLA5-mediated Dami cell spreading. J. Biol. Chem. 273, 10004-10010.;Sato, I. et al., (2009) Differential trafficking of Src, Lyn, Yes and Fyn is specified by the state of palmitoylation in the SH4 domain. J. Cell Sci. 122, 965-975.)、2.5% FBSおよび2.5% ウマ血清を含むIMDM中で2-3日間培養することにより培養ディッシュに付着させた。
【0056】
3. DNA凝縮pHおよびPEI/DNA比のトランスフェクション効率への影響の検討
HeLa細胞を35mm培養ディッシュにディッシュ当たり1×105細胞となるように播種し、1-2日間培養した。トランスフェクション前に培養培地を新鮮な血清含有培地と交換した。PEI/DNAポリプレックスを形成させるため、1μgのpcDNA4-TO-EGFPを、100μlのLBSまたはHBS中で、後述するPEI/DNA比でPEIと混合し、そして当該混合物を室温で20分間放置した。初期の実験では1μgのpcDNA4-TO-EGFPと5μgのPEIを100μlのLBS中で直接的に混合したが、以降の実験では1μgのpcDNA4-TO-EGFPと5μgのPEIをそれぞれ50μlのLBSで別々に希釈してから混合した。得られたPEI/DNAポリプレックスは500μlの予め温めた血清不含IMDMで希釈し、そして各培養ディッシュに滴下して添加した。トランスフェクション後24時間目に、0.05% EDTAを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で静かにピペッティングすることにより細胞を剥離させた。遠心処理後、3% FBSおよび1μg/ml ヨウ化プロピジウム(PI)を含むPBSに細胞を再度浮遊させ、そして、蛋白質発現を検証するためにEGFP蛍光を、死細胞の検証のためにPI染色を、MoFloセルソーター(Beckman Coulter社製)を用いてフローサイトメトリーにより分析した。培養ディッシュで増殖したトランスフェクション細胞は、トランスフェクション後24時間目にツァイス LSM 5 パスカル デコンボリューション顕微鏡(Zeiss LSM 5 Pascal deconvolution microscope、Carl Zeiss社製)下で観察した。
【0057】
4. PEIの毒性に敏感な細胞株のトランスフェクションの検討
HCT116細胞はトランスフェクション試薬の毒性に敏感である。PEIの毒性を低減させると共にトランスフェクション効率を増加させるために、逐次トランスフェクション方法を開発した。具体的には、DNA/PEIポリプレックスを、7.5μgのPEIと6μgのpCAG/TetR-IRES-CD25を用いて調製し、35mmの培養ディッシュそれぞれに滴下により添加し、そして8時間インキュベーション後に培養培地を新鮮な血清含有培地と交換した。更なる次のトランスフェクションのために、新たに調製したDNA/PEIポリプレックスを1回目のトランスフェクションにおいて示したように細胞培養に添加し、さらに8時間インキュベーション後に培地を新鮮な血清含有培地と再び交換した。細胞を更に16時間培養して、抗CD25抗体で染色し、そして細胞表面のCD25発現をMoFloセルソーターを用いてフローサイトメトリーにより従前報告されたように分析した(Nakayama, Y. et al., (2005) Multi-lobulation of the nucleus in prolonged S phase by nuclear expression of Chk tyrosine kinase. Exp. Cell Res. 304, 570-581.)。
【0058】
5. EGFPを安定発現する細胞クローンの作成
HeLa S3細胞を60mm培養ディッシュにディッシュ当たり3×104細胞となるように播種し、1日間培養した。PEI/DNAポリプレックスを形成させるため、97.5μgのPEIと15μgのpcDNA4-TO-EGFPをそれぞれ50μlのLBS(pH 3.5)中に別々に希釈し、そして希釈物を混合して上記のようにトランスフェクションに用いた。トランスフェクション後24時間目に培養ディッシュ中で増殖した細胞を4つのディッシュに等分に分け、そして、安定トランスフェクション細胞の選択を、250μg/ml ゼオシン(Invitrogen社製)中でトランスフェクション後48時間目から実施した。
【実施例1】
【0059】
PEIの保存期間中の安定性、PEI/DNAポリプレックス形成、およびPEIの毒性に対する酸性pHの影響を検討した。
【0060】
今までに、中性化PEI溶液を用いたトランスフェクションの成功について数多くの報告が存在する。しかし、実際のところ、PEIの使用中に、そのトランスフェクション活性の予期せぬ減少がしばしば観察された。すなわち、中性化PEI溶液は不安定であると推測した。そこで、PEIの保存期間中の安定性に対する酸性pHの影響を検討した。
【0061】
PEIをHBS(pH 7.4)に溶解したとき、トランスフェクション活性は4℃または-80℃での1ヶ月の保存期間中に劇的に低減した。具体的には、調製直後のトランスフェクション活性は、トランスフェクション活性を100%とすると、1ヶ月間の保存後には活性は0%となり、完全に失活した。さらに、PEIをエタノールに溶解すると、そのトランスフェクション活性が4℃での保存期間中2、3週間以内に劇的に低減した。具体的には、調製時のトランスフェクション活性を100%とすると、2-3週間保存後には、活性は0%となり、完全に失活した。ここでトランスフェクション活性は、EGFP遺伝子を含むベクターをCOS-1細胞へ導入したときのEGFP遺伝子発現細胞数の全細胞数に対する割合で評価した。
【0062】
これに対し、PEIを0.2N HClに溶解する(pH 1程度を示す)と、4℃または-80℃での保存期間中少なくとも6ヶ月間に亙って完全にトランスフェクション活性が維持された。具体的には、調製直後のトランスフェクション活性を100%とすると、6ヶ月間の保存後でも100%であった。
【0063】
このことから、0.2N HCl中でPEIのアミノ基が充分にプロトン化されることにより空気酸化に対する保護効果が得られることが示唆される。一方、トランスフェクションに対するPEI粉末の潜在能力は、一旦容器を開封すると、4℃または-80℃での保存期間中に大幅に失われた。内部の空気によりPEIが酸化し始め、それによりトランスフェクション活性の低下を生じると考えることができる。
【0064】
次いで、ポリプレックス形成へのpHの影響を検討した。すなわち、酸性および中性の凝縮培地を用いてポリプレックス形成を行い、トランスフェクション効率を比較した。具体的には、PEIおよびpcDNA4-TO-EGFPをHBS(pH 7.4)またはLBS(pH 3.5)中でPEI/DNA比が5(μg/μg)となるよう混合し、そして得られたPEI/DNAポリプレックスでHeLa細胞を一過性にトランスフェクションした。トランスフェクション24時間後にEGFP発現をフローサイトメトリーで解析した。トランスフェクション効率は、EGFPを高レベルおよび低〜高レベルで発現している細胞数を計数することにより評価した。
【0065】
その結果、凝縮培地としてLBS(pH 3.5)を用いたときにEGFPを発現する細胞の数は、HBS(pH 7.4)を用いたときのものと比較してより多かった(図1-A)。同様の結果が蛍光顕微鏡観察によって得られた(データ未記載)。PEI分画のみがDNAと複合体を形成する生理的pHでは6アミノ基毎にプロトン化されていること、pH 5では半数のアミノ基がプロトン化されること、そしてpH 3では80%のアミノ基がプロトン化されることが報告されている(Suh, J. et al., (1994) Ionization of poly(ethylenimine) and poly(allylamine) at various pH's. Bioorg. Chem. 22, 318-327.;Clamme, J.P. et al.,(2003) Monitoring of the formation and dissociation of polyethylenimine/DNA complexes by two photon fluorescence correlation spectroscopy. Biophys. J. 84, 1960-1968.;Menzel, H. et al., (2003) Chemical properties of polyamines with relevance to the biomineralization of silica. Chem. Commun. 2003, 2994-2995.)。このことから、PEIの陽性荷電の増加がDNA/PEIポリプレックス形成を促進すると考えらることができる。
【0066】
さらに、PEIの毒性への酸性pHの影響を検討した。HBS(pH 7.4)またはLBS(pH 3.5)中で形成されたポリプレックスで一過性にトランスフェクションしたHeLa細胞をPI染色し、PIで染色された死細胞をフローサイトメトリーで分析した。
【0067】
その結果、LBSでは、PIで染色される死細胞数がHBSと比較してより少なかった(図1-B)。このことから、LBSを使用することによりPEIの毒性を緩和できることが示唆される。毒性のかなりの部分はDNAと複合体を形成しない遊離PEI分子に起因する(Godbey, W.T. et al., (2001) Poly(ethylenimine)-mediated gene delivery affects endothelial cell function and viability. Biomaterials 22, 471-480.;Moghimi, S.M. et al., (2005) A two-stage poly(ethylenimine)-mediated cytotoxicity: Implications for gene transfer/therapy. Mol. Ther. 11, 990-995.)。そのため、ポリプレックス形成の増強が毒性の軽減に寄与すると考えることができる。
【0068】
上記結果から、PEIの保存期間中の安定性を維持し、高いトランスフェクション活性を得るためには、酸性化PEI溶液による保存が好ましいことが判明した。
【0069】
また、上記結果から、ポリプレックス形成時の凝縮培地として中性凝縮培地ではなく酸性凝縮培地を採用するにことにより、トランスフェクション効率が改善されると共に毒性が緩和されることが判明した。
【実施例2】
【0070】
ポリプレックス形成時のPEI/DNA比の最適化および凝縮pHを検討した。
【0071】
PEIのトランスフェクション効率はDNAに対するPEIの割合に依存する(非特許文献2)。そこで、PEIとDNAとを、1から10までの範囲の様々なPEI/DNA比でLBS(pH 3.5)中で混合し、得られたポリプレックスを用いてトランスフェクション効率を比較検討した。具体的には、PEIおよびpcDNA4-TO-EGFPをLBS(pH 3.5)中で様々なPEI/DNA比で混合し、そして得られたPEI/DNAポリプレックスでHeLa細胞を一過性にトランスフェクションした。トランスフェクション24時間後に死細胞検出のために細胞をPI染色し、そしてEGFP発現と毒性をフローサイトメトリーで分析した。
【0072】
EGFP発現細胞数は、PEI/DNA比が4から8の範囲であるときに著しく増加した(図2-Aおよび2-B)。最適化したPEI/DNA比は、DNA中のリン酸に対するPEI中の窒素の割合(NP比)である40から50に一致した(図2-A)。ところが、中性凝縮培地中では直鎖低分子量PEIはNP比6で用いることが推奨されていた(非特許文献4および8;Ferrari, S. et al., (1997) ExGen 500 is an efficient vector for gene delivery to lung epithelial cells in vitro and in vivo. Gene Ther. 4, 1100-1106.)。PIで染色された死細胞数はPEI/DNA比が10のときに増加した(図2-A)。過剰な遊離PEI分子は、効率的なトランスフェクションに寄与するが、その高毒性によりトランスフェクション効率を抑制した(図2-A;Clamme, J.P. et al.,(2003) Monitoring of the formation and dissociation of polyethylenimine/DNA complexes by two photon fluorescence correlation spectroscopy. Biophys. J. 84, 1960-1968.;Ira, M.Y. et al., (2003) DNA vector polyethyleneimine affects cell pH and membrane potential: A time-resolved fluorescence microscopy study. J. Fluoresc. 13, 339-347.)。過剰量の遊離PEIのために、PEI/DNA比が低い(〜3)ときに効率的にトランスフェクションするには、大きなサイズのベクター(>10kbp)が好ましい(データ未記載)。
【0073】
次に、DNA凝縮pHがトランスフェクション効率に及ぼす効果を検討した。具体的には、PEIおよびpcDNA4-TO-EGFPを比率が5(μg/μg)となるように、HBS(pH 7.4)またはLBS(pH 3.5、4.0、4.5)中で混合し、そして得られたPEI/DNAポリプレックスでHeLa細胞を一過性にトランスフェクションした。
【0074】
その結果、凝縮培地としてpH 3.5、pH 4.0、およびpH 4.5のLBSを用いたときはいずれも、pH 7.4のHBSを用いたときと比較して、EGFP発現細胞数が2倍〜6倍に増加した(図2-C)。また、pH 4.0のLBSが、試験した凝縮培地の中では最も効率的な凝縮培地であることが判明した(図2-C)。
【0075】
したがって、高いPEI媒介トランスフェクション効率を達成するためには、好ましくは約pH 3.5〜約 4.5、より好ましくは約pH 4.0の凝縮培地、例えばこのようなpHのLBSを使用することが推奨される。
【実施例3】
【0076】
PEIを使用して様々な細胞のトランスフェクションを検討した。その結果、LBS(pH 4.0)で形成されたPEI/DNAポリプレックスを用いて、HeLa、HeLa S3、A431、COS-1、MCF7、NIH3T3、HCT116およびHEK293細胞をトランスフェクションすることができた。代表的な検討結果を以下に記載する。
【0077】
まず、COS-1およびHeLa S3細胞を5μgのpcDNA4-TO-EGFPと25μgのPEI(PEI/DNA比は5)をLBS(pH 4.0)中で混合することにより形成させたポリプレックスを用いて一過性にトランスフェクションし、そして培養12時間後に培地を新鮮な血清含有培地と交換した。そして、EGFP発現を測定し、トランスフェクション効率を評価した。その結果、COS-1およびHeLa S3細胞のトランスフェクション効率はそれぞれ〜80%および〜60%だった(図3-A)。
【0078】
次に、COS-1細胞を用い、LBS(pH 4.0)に溶解したPEIと市販のトランスフェクション試薬TransIT-LT1との間でトランスフェクション効率を比較検討した。具体的には、細胞を、1μgのpcDNA4-TO-EGFPと5μgのPEI(PEI/DNA比は5)をLBS(pH 4.0)中で混合することにより形成させたポリプレックス、または最適量のTransIT-LT1を用いて一過性にトランスフェクションした。そして、EGFP発現を測定し、トランスフェクション効率を評価した。その結果、PEIによるトランスフェクション効率はTransIT-LT1によるトランスフェクション効率に匹敵することが明らかになった(図3-B)。
【0079】
次に、浮遊性の培養細胞であるヒト巨核球性Dami細胞を用いて、PEIによる浮遊性細胞のトランスフェクションを検討した。浮遊性の培養細胞の多くは化学トランスフェクション試薬を用いると充分にトランスフェクションされないため、通常、特別な機器および大量の浮遊性細胞を用いて電気穿孔法(electroporation)によりトランスフェクションが実施されるが、このような方法では甚だしい細胞死が引き起こされる。そこで酸性化PEIを用いて酸性条件下で形成させたPEI/DNAポリプレックスを用いるトランスフェクション方法により、浮遊性細胞のトランスフェクションを実施できるか検討した。Dami細胞は、FBSおよびウマ血清(上記材料および方法を参照)を添加した培地中で増殖すると培養ディッシュに付着することが明らかになったため、浮遊培養したDami細胞を培養ディッシュに接着させ、そして、4μgのpcDNA4-TO-EGFPと26μgのPEI(PEI/DNA比は6)をLBS(pH 4.0)中で混合することにより形成させたポリプレックスを用いて一過性にトランスフェクションした。その結果、Dami細胞はLBS(pH 4.0)で形成されたPEI/DNAポリプレックスを用いてトランスフェクションすることができ、そのトランスフェクション率は3〜5%であって電気穿孔法によるトランスフェクション率に匹敵することが明らかになった(図3-C)。PEIを使用するトランスフェクション方法は、特別な機器も必要とせず、少量の細胞であっても適用できるため、電気穿孔法によるトランスフェクション方法と比較して浮遊性細胞のトランスフェクションに有用である。
【0080】
さらに、PEIとの接触に対して感受性が高く、そのため細胞凝集および細胞死が生じ易い細胞について、酸性化PEIを用いて酸性条件下で形成させたPEI/DNAポリプレックスを用いるトランスフェクションを検討した。PEIとの接触に対して感受性が高い細胞としてHCT116細胞を使用した。そして、PEIの毒性を軽減するためPEI/DNA比を1.25まで低下し、また、トランスフェクション効率を上げるためにトランスフェクション操作を2回連続して行った。具体的には、6μgのpCAG/TetR-IRES-CD25と7.5μgのPEIをLBS(pH 4.0)中で混合することにより形成させたポリプレックスを用いて1回または2回、一過性にトランスフェクションし、そして抗CD25抗体を用いて染色した後、セルソーターにてCD25発現を分析した。その結果、連続トランスフェクション方法により約30%のトランスフェクション効率が得られた(図3-D)。
【0081】
次に、酸性化PEIを用いて酸性条件下で形成させたPEI/DNAポリプレックスを用いるトランスフェクション方法により高トランスフェクション効率および低毒性が達成されたことから、安定トランスフェクション細胞クローンが容易に作成されるかどうかを検討した。具体的には、HeLa S3細胞の安定トランスフェクションを、pcDNA4-TO-EGFPとPEIをLBS中で混合することにより形成させたポリプレックスを用いて行った。次いで、ゼオシン抵抗性コロニーを2週間でクローン化した。その結果、単一細胞に由来しEGFPを安定的に発現する200個以上のコロニーを3×104 HeLa S3細胞から取得した(図3-E)。また、PEI感受性のHCT116細胞からも、安定トランスフェクション細胞クローンを作成することができた(データ未記載)。
【0082】
さらに、PEIを使用する本トランスフェクション方法により、様々な細胞株、例えばHeLa,、COS-1およびDami細胞を、遺伝子ノックダウンのためのshRNAベクターがで効率的にトランスフェクションできた(データ未記載)。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、高いトランスフェクション効率と最小限の毒性を達成する細胞への核酸導入方法を提供できる。さらに、本発明に係る方法は、従来法と比較して費用効果的である。また、本発明により提供される酸性化PEI溶液は、安定であり、そのトランスフェクション活性を長期間維持することができるため、細胞への核酸導入において高いトランスフェクション効率と最小限の毒性を達成できる。
【0084】
核酸の細胞内への導入は、遺伝子治療のような医療応用はもちろんのこと、分子細胞生物学の基礎研究に必須である。したがって、本発明は基礎科学分野から医薬研究開発分野まで広く寄与する有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を含む、細胞への核酸導入方法:
(1)ポリエチレンイミン(PEI)と核酸とを、pH 3.5からpH 4.5の酸性条件下で混合する工程、および
(2)得られた混合物で細胞を処理する工程。
【請求項2】
前記工程(2)についで下記工程を更に含む請求項1に記載の細胞への核酸導入方法:
(3)細胞の培養培地を新鮮培養培地と交換する工程。
【請求項3】
ポリエチレンイミン(PEI)が、直鎖PEIである請求項1または2に記載の細胞への核酸導入方法。
【請求項4】
ポリエチレンイミン(PEI)が、分子量約25,000の直鎖PEIである請求項1または2に記載の細胞への核酸導入方法。
【請求項5】
ポリエチレンイミン(PEI)と核酸との重量比が、4:1から8:1である請求項4に記載の細胞への核酸導入方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のポリエチレンイミン(PEI)が、pH 0.5からpH 2.0の溶液(PEI溶液)であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の細胞への核酸導入方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載のポリエチレンイミン(PEI)が、PEIの塩酸溶液であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の細胞への核酸導入方法。
【請求項8】
請求項1から5のいずれか1項に記載のポリエチレンイミン(PEI)が、PEIを0.2N 塩酸溶液に溶解することにより調製された溶液であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の細胞への核酸導入方法。
【請求項9】
下記工程を含む、細胞への核酸導入方法:
(1)ポリエチレンイミン(PEI)と核酸とを、pH 3.5からpH 4.5の酸性条件下で混合する工程、
(2)得られた混合物で細胞を処理する工程、および
(3)細胞の培養培地を新鮮培養培地と交換する工程、
ここで、PEIは分子量約25,000の直鎖PEIを0.2N 塩酸溶液に溶解することにより調製された溶液であり、PEIと核酸との重量比が4:1から8:1である。
【請求項10】
ポリエチレンイミン(PEI)溶液を含む試薬キットであって、PEI溶液のpHが0.5から2.0であることを特徴とする細胞への核酸導入用試薬キット。
【請求項11】
前記PEI溶液がPEIの塩酸溶液である請求項10に記載の細胞への核酸導入用試薬キット。
【請求項12】
前記PEI溶液がPEIを0.2N 塩酸溶液に溶解することにより調製された溶液である請求項10に記載の細胞への核酸導入用試薬キット。
【請求項13】
前記PEI溶液に含まれるPEIが直鎖PEIである請求項10から12のいずれか1項に記載の細胞への核酸導入用試薬キット。
【請求項14】
前記PEI溶液に含まれるPEIが分子量約25,000の直鎖PEIである請求項10から12のいずれか1項に記載の細胞への核酸導入用試薬キット。
【請求項15】
ポリエチレンイミン(PEI)溶液を含む試薬キットであって、PEI溶液が分子量約25,000の直鎖PEIを0.2N 塩酸溶液に溶解することにより調製された溶液であることを特徴とする細胞への核酸導入用試薬キット。
【請求項16】
ポリエチレンイミン(PEI)溶液からなる細胞への核酸導入試薬であって、PEI溶液のpHが0.5から2.0であることを特徴とする該導入効率が保持された細胞への核酸導入試薬。

【図4】
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【図1−A】
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【図1−B】
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【図2−A】
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【図2−B】
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【図2−C】
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【図3−A】
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【図3−B】
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【図3−C】
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【図3−D】
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【図3−E】
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【公開番号】特開2011−24493(P2011−24493A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174234(P2009−174234)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】