説明

酸性土壌用中和材および酸性土壌の処理方法

【課題】取り扱いが容易で、かつ、環境に優しい中和処理を可能とした、酸性土壌用中和材および酸性土壌の処理方法を提供する。
【解決手段】乾燥後に粉砕または裁断等により予め傷つけられた鐘乳体形成植物(桑科、楡科、キツネノマゴ科、ウリ科、イラクサ科、ツル科、カナビキボク科、マンサク科、ミズキ科)の葉や堆肥化した鐘乳体形成植物の葉からなる酸性土壌用中和材2を酸性土壌1と混合、或いは、酸性土壌用中和材2と土壌とを混合した混合土壌により酸性土壌1の表面を被覆する酸性土壌1の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性土壌用中和材および酸性土壌の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設発生土等の中には、空気に触れることで酸性化するものがある。このような酸性土壌は、中和材を添加混合して中和処理を施した状態や、表面が中和材を含有する材料により覆われた状態で、埋設処分や盛土等をするのが一般的である(例えば特許文献1や特許文献2参照)。
【0003】
従来、酸性土壌用の中和材としては、消石灰、生石灰、炭酸カルシウムといった石灰化合物が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−033130号公報
【特許文献2】特開2007−113391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
消石灰や生石灰の過剰施用はアルカリ汚染を引き起こすおそれがあるため、汚染濃度と混合量との関係を十分に検討したうえで実施する必要があり、その作業に手間を要する。
また、生石灰は水分と反応すると高温になるため、その取り扱いに注意が必要である。
さらに、消石灰および生石灰が降雨等により流出すると、周辺環境にアルカリ汚染を引き起こすおそれもある。
【0006】
炭酸カルシウムからなる中和材は、反応が遅いため微粉末状で使用するのが望ましいが、微粉末状で使用する場合は、飛散により周辺環境に影響を及ぼすことのないように取り扱う必要があり、作業に手間を要する。
一方、粒状の炭酸カルシウムを使用すると、表面に石膏が生成されてしまい、中和反応が阻害される場合がある。
【0007】
そのため、本発明は、取り扱いが容易で、かつ、環境に優しい中和処理を可能とした、酸性土壌用中和材および酸性土壌の処理方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決する本発明に係る酸性土壌用中和材は、鐘乳体形成植物の葉からなることを特徴としている。
【0009】
かかる中和材によれば、植物により構成されているため、自然由来で環境に優しい中和を実現することが可能となる。
また、鐘乳体に含まれる方解石による中和であるため、多量に使用したとしてもアルカリ汚染を引き起こすおそれがない。
【0010】
鐘乳体形成植物の葉をそのまま酸性土壌用中和材としてもよいし、予め傷つけられた鐘乳体形成植物の葉(乾燥後に粉砕されたものや予め裁断されたもの等)を酸性土壌用中和材としてもよい。
【0011】
予め傷つけられた鐘乳体形成植物の葉を使用すれば、硬い葉であっても、葉の内部に形成された鐘乳体を酸性土壌と反応させることが可能となる。
【0012】
前記鐘乳体形成植物の葉が堆肥状であれば、酸性土壌の中和とともに、植生の肥料としても機能する。
【0013】
また、本発明にかかる第一の酸性土壌の処理方法は、酸性土壌に鐘乳体形成植物の葉を混合することを特徴としている。
【0014】
かかる酸性土壌の処理方法によれば、植物の葉を利用して酸性土壌を中和するため、環境にやさしいとともに、微粉末状の中和材と異なり、飛散により周辺環境に悪影響を及ぼすおそれがない。
【0015】
また、本発明にかかる第二の酸性土壌の処理方法は、鐘乳体形成植物の葉が予め混合された混合土壌により酸性土壌の表面を被覆することを特徴としている。
【0016】
かかる酸性土壌の処理方法によれば、酸性土壌からの酸性水等の流出を抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の酸性土壌用中和材および酸性土壌の処理方法によれば、取り扱いが容易で、かつ、環境に優しい中和処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の好適な実施の形態に係る酸性土壌の処理方法を示す断面図である。
【図2】(a)〜(c)は酸性土壌の処理方法の変形例を示す断面図である。
【図3】酸性土壌1m当たりの中和に必要な鐘乳体形成植物の木の本数の目安を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態では、図1に示すように、掘削等に伴い発生した建設発生土(酸性土壌1)を地盤G内に埋設する場合について説明する。建設発生土は、空気に接触することで酸性化しているため、中和処理を施してから埋設する。
【0020】
本実施形態の酸性土壌の処理方法は、酸性土壌1に対して鐘乳体形成植物の葉からなる酸性土壌用中和材2を混合することにより行う。
【0021】
鐘乳体形成植物とは、葉の表面側に鐘乳体と呼ばれる細胞内構造物が形成される植物である。そして、この鐘乳体には、方解石(炭酸カルシウム)が蓄積されている。そのため、鐘乳体形成植物の葉を酸性土壌と混合することで、この葉が含有する鐘乳体により酸性を中性に中和することができる。
【0022】
鐘乳体形成植物としては、桑科(ガジュマルやインドゴムノキ等)、楡科(楡属やエノキ属等)、キツネノマゴ科(コエビソウ等)、ウリ科、イラクサ科(カラムシ等)、ツル科(ツルレイシ等)、カナビキボク科、マンサク科フウ属、ミズキ科ミズキ属等がある。
【0023】
鐘乳体形成植物の葉は、落葉樹である鐘乳体形成植物の落ち葉を採取してもよいし、鐘乳体形成植物を伐採して採取してもよい。
【0024】
酸性土壌用中和材2を構成する鐘乳体形成植物の葉は、この葉が含有する鐘乳体が酸性土壌1と接触することが可能となるように、少なくとも表面が傷つけられているのが望ましい。
【0025】
本実施形態では、酸性土壌用中和材2として、乾燥させた後に粉砕した鐘乳体形成植物の葉を使用する。なお、鐘乳体系性植物の葉として、裁断されたものを使用してもよいし、堆肥化したものを使用してもよい。
【0026】
以上、本実施形態の酸性土壌用中和材2および酸性土壌の処理方法によれば、鐘乳体形成植物の葉を酸性土壌1に混合するため、葉に内包された方解石が飛散により周辺環境に悪影響を及ぼすおそれがない。
【0027】
自然由来の植物の葉を利用するため、環境に悪影響を及ぼすおそれもない。
また、植物の葉を利用しているため、軽量であり取り扱いやすく、石灰石等と比較して輸送のコストも安価である。
【0028】
植物性であるため、腐葉土化が可能であり、植生の促進も期待できる。そのため、植生層を別途形成する必要がなく、施工のコストや手間を省略することができる。
また、鐘乳体に含まれる方解石による中和であるため、多量に使用したとしてもアルカリ汚染を引き起こすおそれがない。
【0029】
落葉樹である鐘乳体形成植物の葉を利用するため、落ち葉を集めることにより酸性土壌用中和材2を生成することができるため、入手が容易でかつ安価である。
【0030】
方解石は、酸性土壌1を中和した後、カルシウム成分が残り、このカルシウムは空気中の二酸化炭素と反応して再度炭酸カルシウムかして土壌の固結化、方解石の皮膜化による不透水層の形成を促進する。このため、遮水層が形成されることで、雨水等が酸性土壌内に大量に浸入することを防止するとともに、酸性土壌1からの酸性水の流出を防止することが可能となる。
【0031】
鐘乳体形成植物の葉は、乾燥後に粉砕されていたり、予め裁断されていたりすることなどにより、予め傷つけられたものであるため、硬い葉であっても、葉が内包する鐘乳体を酸性土壌と反応させることができる。
また、鐘乳体形成植物の葉が堆肥状であれば、酸性土壌1の中和とともに、植生の肥料としても機能する。
【0032】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の各実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能であることはいうまでもない。
【0033】
前記実施形態では、酸性土壌1に酸性土壌用中和材2を混合して混合土壌3とした後、地盤G中に埋設する場合について説明したが、混合土壌3の処分方法は限定されるものではなく、例えば図2の(a)に示すように、地盤G上に盛土処分してもよいし、谷などの傾斜部等に盛土してもよい。
【0034】
また、前記実施形態では、酸性土壌1全体に対して酸性土壌用中和材2を混合するものとしたが、酸性土壌用中和材2は、必ずしも酸性土壌1全体に対して投入する必要はない。
例えば、図2の(b)に示すように、酸性土壌1を埋め立てた後、表面に土壌(酸性土壌1も含む)と酸性土壌用中和材2とが混合されてなる混合土壌3により被覆してもよい。
【0035】
また、図2の(c)に示すように、混合土壌3により切土面や盛土面の表層を覆ってもよい。このようにすれば、酸性化した土壌の表面を覆い、酸性水等の流出を防止することができるとともに、方解石の固結化により法面の安定化を図ることもできる。
なお、傾斜面に適用する場合には、必要に応じて釘やネットにより養生してもよい。
【0036】
酸性土壌1が強酸性の場合は、酸性土壌用中和材2(鐘乳体系性植物の葉)に加えて炭酸カルシウムを併用してもよい。これにより、比較的小量の石灰石等により強酸性土壌の中和が可能となる。
【0037】
以下、黄鉄鉱を含有する土壌に対して、中和に必要な鐘乳体形成植物の木の本数を計算する。
【0038】
式1に示すように、黄鉄鉱が酸素や水と反応することで、硫酸(HSO)が発生する。
FeS+7/2O+HO → FeSO+HSO ・・・ 式1
【0039】
硫酸は、式2に示すように、炭酸カルシウム(CaCO)と反応することで中和される。
CaCO+HSO → CaSO+HO+CO ・・・ 式2
【0040】
式1および式2より、1molの黄鉄鉱(119.8g/mol)は、1molの炭酸カルシウム(100g/mol)により中和できることがわかる。
【0041】
鐘乳体系性植物の葉に含有される炭酸カルシウム(方解石)が、平均的に0.4mg/cmであるとし、木の幹の太さと葉の面積の合計との関係を表1に示すように仮定して、酸性土壌1m当たりの中和に必要な鐘乳体形成植物の木の本数を計算した。
【0042】
【表1】

【0043】
計算の結果、酸性土壌1m当たりの中和に必要な鐘乳体形成植物の木の本数は、図3に示すグラフを目安とすることができる。
【0044】
図3に示すように、幹の直径が20cmの木であれば、黄鉄鉱の含有率が0.4%〜1.2%の酸性土壌に対して、20本程度〜50本程度で中和することが可能である。また、幹の直径が15cmの木であれば、黄鉄鉱の含有率が0.4%〜1.2%の酸性土壌に対して、20本程度〜70本程度で中和することが可能である。また、幹の直径が10cmの木であれば、黄鉄鉱の含有率が0.4%〜1.2%の酸性土壌に対して、50本程度〜150本程度で中和することが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 酸性土壌
2 酸性土壌用中和材
3 混合土壌
G 地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鐘乳体形成植物の葉からなることを特徴とする酸性土壌用中和材。
【請求項2】
予め傷つけられた鐘乳体形成植物の葉からなることを特徴とする酸性土壌用中和材。
【請求項3】
乾燥後に粉砕された鐘乳体形成植物の葉からなることを特徴とする酸性土壌用中和材。
【請求項4】
裁断された鐘乳体形成植物の葉からなることを特徴とする酸性土壌用中和材。
【請求項5】
堆肥化した鍾乳体形成植物の葉からなることを特徴とする酸性土壌用中和材。
【請求項6】
酸性土壌に鐘乳体形成植物の葉を混合することを特徴とする、酸性土壌の処理方法。
【請求項7】
鐘乳体形成植物の葉が混合された混合土壌により酸性土壌の表面を被覆することを特徴とする、酸性土壌の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−224801(P2012−224801A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95677(P2011−95677)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】