説明

酸性基を有するポリマーを使用して金属表面を不動態化する方法

酸性基を含む少なくとも1種の水溶性ポリマー及びZn、Ca、Mg、又はAlイオンを含む酸性、水性調製物で金属表面を処理することにより、金属表面を不動態化する方法であり、この方法は、特にストリップ金属の不導体化のための連続的な方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種の水溶性酸性基を含むポリマー、Zn、Ca、Mg又はAlイオン及びホスフェートイオン(燐酸塩イオン)を含む酸性、水性調製物で金属表面を処理することにより、金属表面を不動態化する方法に関する。本方法は、ストリップ金属の連続的な不動態化のために特に適切である。
【背景技術】
【0002】
今日、金属ブロック(いわゆる「スラブ」)を熱間ローリング及び/又は冷間ローリングすることにより製造され、及び保管と輸送のためにコイル状に巻かれる長い金属ストリップが、通常、例えば、自動車部品、車体部分、装備のライニング、ファサードクラッディング、天井クラッディング又は窓枠等の平板状の半加工品(製品素材:workpiece)を製造するための原料として使用される。
【0003】
金属ストリップは分割され、そして、パンチング、ドリリング、フォールディング、プロファイルへの変換、及び/又は深絞り等の適切な技術を使用して所望の形状をした物品に形成される。例えば、車体等の大きな部分は、適切であれば、数個の各部品を溶接することにより、組み付けられる。
【0004】
このような金属材料の腐食防止処理は、通常、多段階の操作で行なわれ、そして、処理された金属の表面は、通常、複数の異なる層を有している。腐食防止処理は、製造工程の種々のポイント(箇所)で行なうことができる。ここでは、恒久的な腐食防止と同様、一時的な腐食防止を行うことができる。一時的な腐食防止は、例えば、金属ストリップ又は他の金属製品素材の保管と輸送のためにだけ適用され、そして、最終的な加工を行なう前に再度除去される。
【0005】
メッキされた(亜鉛メッキ:galvanized)表面を有するストリップ、特に電気メッキ(電気亜鉛メッキ)された又は溶融メッキ(溶融亜鉛メッキ:hot-galvanized)された鉄又は鋼のストリップが、技術上及び経済上、特に重要である。亜鉛によって与えられた腐食保護は、亜鉛が、金属材料自身よりも非貴(less noble)であり、従って、最初に亜鉛自身の腐食が開始されるという事実に基づいている。金属材料自体は、亜鉛の連続層に覆われている限りは、損なわれずに保持される。更に、アルミニウム又はアルミニウム合金の金属ストリップは特に重要である。大気中酸素の存在下では、Zn、又はZn合金、Al、又はAl合金の表面上に、最初に薄い酸化物層が形成され、そして、下部の金属への腐食アタックが大きく又は若干減速されるが、その程度は外部条件に依存する。
【0006】
このような酸化物層の保護効果を強めるために、通常、Al及びZnの表面は、追加的な不動態化処理に付される。このような処理の過程において、保護されるべき金属の一部が溶解し、そして少なくとも一部が金属表面上のフィルム(薄膜:film)に再び組み込まれる。このフィルムは、どこにでも在るような酸化物フィルムに類似するものではあるが、通常、故意に導入されたホスフェート、重金属、及び/又はフッ化物を含んでいる。このフィルムは、亜鉛に自然に付着するフィルムよりも、腐食に対して強い保護を与え、そして、主に酸化亜鉛及び亜鉛炭酸塩(zinc carbonate)を含み、そして、通常、不動態化層と称される。不動態化層は、多くの場合、金属に施される塗装層の粘着も改良する。従って「不動態化層(passivating layer)」という用語の代わりに、「転化層(conversion layer)」という用語が、しばしば同義的に使用され、そして、時には「予備処理層(pretreatment layer)」という用語も使用される。亜鉛メッキ処理直後のストリップ鋼に施された不動態化層は、「後処理層(aftertreatment layer)」とも称される場合がある。不動態化層は、比較的薄く、そして通常、3μm以下の厚さである。
【0007】
腐食保護を強化するために、通常、別の(塗装)層を不動態化層に施す。このようなものは、通常、それぞれが異なる目的に作用する2層以上の塗装層の組み合わせを含む。これらは、例えば、不動態化層と金属を、腐食ガス及び/又は液体、及び例えばストーンチップ等の機械的損傷からも保護するために作用し、そして当然、美学的な目的にも作用する。塗装層は、通常、不動態化と比較して実施的に厚い。一般的には厚さは、4μm〜400μmの範囲である。
【0008】
今日まで、亜鉛又はアルミニウム表面上の不動態化層は、通常、保護が必要とされる半加工品を、クロム酸塩を含む水性酸性溶液で処理することによって得ていた。このような不動態化のメカニズムは複雑である。特に、金属Zn又はAlが表面から溶解し、そして、アモルファス層又は結晶性層の状態で再度沈殿するが、この再沈殿層は、亜鉛又はアルミニウムに加え、Cr(III)及び/又はCr(VI)が含められている。しかしながら、この層は、処理溶液からの他のイオン及び/又は別の成分、例えばホスフェートを含んでも良い。クロム酸で処理する場合、所定割合のCr(VI)も不動態化層に組み込まれることが特に望ましい。
【0009】
Cr(VI)溶液での処理を避けるために、酸性Cr(III)溶液で処理を行うことが提案されてきた。例えば、US4384902又はWO/40208を挙げることができる。しかしながら、例えば、自動車両及び電気設備の構成に関する法上の規定のために、又は、食料品が重金属成分と接触することを確実に除外するという顧客の要望のために、市場において、クロムを完全に使用しない不動態化方法を要求する適用例が増加している。Cr(VI)及びCr(III)の使用を避けるために、ポリマーを使用することが重要になってきている。更に、毒物学的理由及び/又は生態学的理由のために、金属表面の予備処理において、コバルト、フッ化水素酸、フッ化物及びヘキサフルオロメタレートを無くしたいという要望がある。
【0010】
特許文献1(DE−A19516765)には、Zn又はAlの金属表面上に転化被覆を製造するためのクロム不使用、及びフッ化物不使用の方法が開示されている。不動態化に使用される酸性溶液は、水溶性ポリマー、燐酸、及びAlキレート錯体を含む。任意に、(メタ)アクリル酸のポリマー及びコ(ポリマー)も使用される。
【0011】
特許文献2(DE−A19754108)には、Ti(IV)及び/又はZr(IV)のヘキサフルオロアニオン、バナジウムイオン、コバルトイオン及び燐酸を含む、クロム不使用の水性腐食抑制剤が開示されている。任意に、アクリル酸/マレイン酸コポリマー等のカルボキシル基を含むコポリマーを含んだ種々のフィルム形成ポリマーを追加することも可能である。
【0012】
特許文献3(WO2004/74372)には、50〜99.9質量%の(メタ)アクリル酸及び0.1〜50質量%の酸性コモノマーのコポリマーの使用下に、またエチレン性不飽和のジカルボン酸及び/又は重合可能な燐酸及び/又はホスホン酸存の在下に金属表面を不動態化するための方法が開示されている。ポリマーと亜鉛、Ca、Mg又はAlイオンの組み合わせは開示されていない。
【0013】
特許文献4(WO00/55391)には、金属表面の処理のために、SiO2と組み合わせた、ビニルホスホン酸ホモ−又はコオポリマーを使用することが開示されている。ポリマーの、亜鉛、Ca、Mg又はAlイオンとの組み合わせは開示されていない。
【0014】
【特許文献1】DE−A19516765
【特許文献2】DE−A19754108
【特許文献3】WO2004/74372
【特許文献4】WO00/55391
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、金属表面を不動態化するための改良された方法を提供することにある。好ましくは、本方法は、ストリップ金属及びストリップ金属から製造される成形物品の処理のために使用可能である、クロム不使用の方法であるべきである。本発明は、更に、フッ化物を使用しない、ニッケルを使用しない、及びコバルトを使用しないことが好ましく、そしてストリップを、洗浄を行うことなく1工程で行なうこと、すなわち、調製物処理(formulation)と次の乾燥処理により実施可能であることが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0016】
従って、酸性基を含む少なくとも1種の水溶性ポリマーX、及び少なくとも1種の金属イオンを含む酸性、水性調製物で金属表面を処理することにより、金属表面を不動態化する方法において、
・前記ポリマーが、少なくとも0.6モル酸性基/ポリマー100gを有し、
・処方された調製物のpHが、5以下であり、
・ポリマーXの量が、処方された調製物の全成分の量に対して1〜40質量%であり、
・金属イオンがZn2+、Ca2+、Mg2+、及びAl3+から成る群から選ばれる少なくとも1種であり、及び
・金属イオンの量が、ポリマーXに対して、0.01質量%〜25質量%である、
金属表面を不動態化する方法が見出された。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態では、この処方された調製物(formulation)は、更にホスフェート(燐酸塩:phosphate)イオンを含む。
【0018】
本発明の特に好ましい実施の形態では、ポリマーXは、カルボキシル基を含み、及び各場合において、コポリマー内で重合される全モノマーの量に対して、以下のモノマー単位、
(A)40〜90質量%の(メタ)アクリル酸、
(B)(A)とは異なり、及び1種以上の酸性基を有する、10〜60質量%の少なくとも1種の別のモノエチレン性不飽和モノマー、
(C)任意に、(A)及び(B)とは異なる、0〜30質量%の、少なくとも1種の別のエチレン性不飽和モノマー、
から成るコポリマーX1である。
【0019】
上述した組合せにより、実質的に改良された腐食保護(腐食防止)が得られることが見出されたことは驚くべきことであった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に関し、以下の事項が詳細に説明される。
【0021】
本発明に従う方法を使用して不動態化することが可能な金属表面は、特に非貴金属の表面である。これらは、例えば、鉄、鋼、Zn、Zn合金、Al又はAl合金、Sn及びSn合金、Mg又はMg合金である。鋼は、低合金鋼及び高合金鋼の両方で良い。
【0022】
本発明に従う方法は、Zn、Zn合金、Al又はAl合金を含む金属表面の不導体化に特に適切である。これらは、全体が上述した金属又は合金である立体物(body)又は半加工品の表面であって良い。しかしながら、これらは、Zn、Zn合金、Al又はAl合金で被覆された立体物の表面であっても良く、立体物は、他の材料、例えば、他の金属、合金、ポリマー又は複合材料で構成することが可能である。特に、表面は、亜鉛メッキされた鉄又は鋼の表面であって良い。「亜鉛メッキ」という用語は、当然、亜鉛合金での被覆を含み、特に、ZnAlでの溶融亜鉛メッキ及びZnNi、ZnFe、ZnMn及びZnCo合金での電気亜鉛メッキも含む。
【0023】
Zn及びAl合金は、この技術分野の当業者にとって公知である。この技術分野の当業者は、所望の使用に従い、合金成分の種類と量の選択を行う。亜鉛合金の一般的な成分は、特に、Al、Mg、Pb、Si、Mg、Sn、Cu又はCdを含む。AlとZnを、おおよそ同等の量で含むAl/Zn合金も可能である。被覆は、実質的に均一被覆又は濃度勾配を有する被覆で良い。このものの可能な例は、蒸気沈殿(vapor deposition)によってMgが付加的に施される亜鉛メッキ鋼である。結果として、Zn/Mg合金を表面に形成して良い。アルミニウム合金の一般的な成分は、特に、Mg、Mn、Si、Zn、Cr、Zr、Cu又はTiを含む。
【0024】
本方法の好ましい実施の形態では、ストリップ金属、好ましくはアルミニウム又はアルミニウム合金、又は鉄又は鋼、特に電気亜鉛メッキされたストリップ金属又は溶融亜鉛メッキされた鋼のストリップが関連する。
【0025】
更に、この表面は、切断、変形加工及び/又は接合等の加工処理によって上述したストリップ金属から得られる成形立体物であることが好ましい。例は、自動車量の車体又はこれらの部品、トラックの車体、例えば、洗浄装置、皿洗い器、洗浄−乾燥器、ガス及び電気調理器、マイクロウェーブオーブン、大型冷凍冷蔵庫、又は冷蔵庫等の家庭機器のライニング(裏張)、例えば機械、スイッチキャビネット、コンピュータハウジング等の技術的設備又は装置のライニング、またはこれに類するもの、壁部分、ファサード要素、天井要素、窓又はドアの枠(プロファイル)又は仕切り、金属キャビネット又は金属たな等の金属材料を含む家具等の建築分野の構成要素を含む。
【0026】
処理するべき金属表面は、当然、薄い酸化物性/水酸化物性、及び/又は炭酸化性の表面層又は類似した組成の層も有することができる。このような層は、通常、大気と接触することにより、金属表面上に自然に形成され、そして、「金属表面」という用語に含められる。
【0027】
不導体化のために使用される調製物(preparation)は、酸性基を含む1種以上の水溶性ポリマーXを含む。使用するポリマーXは、ホモポリマー(単独重合体)又はコポリマー(共重合体)で良い。処理の過程において、金属表面の化学的性質が変化する。
【0028】
酸性基は、好ましくは、カルボキシル基、スルホ基、燐酸基、又はホスホン酸基から選択される。これらは、特に好ましくは、カルボキシル基、燐酸基、ホスホン酸基である。
【0029】
本発明に従えば、使用するポリマーXの酸性基の(mol/ポリマー100g)は、少なくとも酸性基0.6mol/ポリマー100gである。この記載した量は、遊離酸基(free acid group)に関するものである。好ましくは、ポリマーは、少なくとも0.9molの酸性基/ポリマー100g、特に好ましくは、少なくとも1mol/100g、極めて好ましくは、少なくとも1.2mol/100gを有している。
【0030】
本願発明において、「水溶性」という用語は、使用するポリマー又はポリマーXが、水に均一に溶解し得ることを意図している。ポリマーXとしての、本質的に水溶性であるポリマーの、架橋したポリマー粒子の水性分散は、本発明の範囲内ではない。
【0031】
使用する、酸性基含有ポリマーXは、水に対して完全に混和できることが好ましいが、このことは、全ての場合において本質的なものではない。しかしながら、これらは、少なくとも、本発明に従う方法を使用した不導体化を行うことが可能な程度にまで、水溶性であるべきである。通常、使用するコポリマーの水溶性は、少なくとも50g/l、好ましくは100g/l、及び特に好ましくは少なくとも200g/lであるべきである。
【0032】
ポリマーの技術分野の当業者にとって、酸性基含有ポリマーの水への溶解度(溶解性)は、pHに依存して良いことは公知である。従って、それぞれの所望の使用のために望まれるpHは、各場合において、関連点(reference point)として選択されるべきである。所定のpHにおいて、意図された使用のための溶解性が不十分なポリマーが、他のpHで十分な溶解性を有していて良い。
【0033】
使用したポリマーXは、好ましくは、少なくとも2種類の異なる酸性基を含むモノマーのコポリマーであることが好ましい。例えば、ポリマーXは、(メタ)アクリル酸、及びマレイン酸、イタコン酸及び/又はビニルホスホン酸等の他の酸性モノマーのコポリマーで良い。コポリマーは、更に、任意に酸含有基を有しない別のモノマーを含んで良い。しかしながら、このようなモノマーの量は、コポリマー内で重合される全モノマーの合計量に対して30質量%を超えるべきではない。
【0034】
本発明の特に好ましい実施の形態では、ポリマーXは、(メタ)アクリル酸単位(A)、酸性基を有する、他の(異なる)モノエチレン性不飽和のモノマー(B)、任意にモノマー(C)を構成単位(structural unit)として含む1種以上の水溶性コポリマーX1である。
【0035】
コポリマーX1の製造用のモノマー(A)は、(メタ)アクリル酸である。モノマー(A)は、当然、アクリル酸とメタクリル酸の混合物を使用することも可能である。
【0036】
コポリマーX1中の(メタ)アクリル酸の量は、ポリマー中の全モノマーの合計に対して40〜90質量%、好ましくは50〜80質量%、及び特に好ましくは50〜70質量%である。
【0037】
モノマー(B)は、(A)とは異なるが(A)と共重合可能であり、及び1種以上の酸性基を有する、少なくとも1種のモノエチレン性不飽和のモノマーである。複数の異なるモノマー(B)を使用することも可能である。
【0038】
酸性基は、例えば、カルボキシル基、燐酸基、ホスホン酸基又はスルホ基であって良いが、本発明は、これらの酸性基に限られるものではない。
【0039】
このようなモノマーの例は、クロトン酸、ビニル酢酸、モノエチレン性不飽和のジカルボン酸のC1−C4モノエステル、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、ビニルホスホン酸、モノビニルホスフェート、マレイン酸又はフマール酸である。
【0040】
コポリマーX1中のモノマー(B)の量は、それぞれ、ポリマー中の全モノマーの合計に対して、10〜60質量%、好ましくは20〜50質量%、及び特に30〜50質量%である。
【0041】
本発明の好ましい実施の形態では、モノマー(B)は、4〜7個の炭素原子を有するモノエチレン性不飽和のジカルボン酸、及び/又はモノエチレン性不飽和の燐酸、及び/又はホスホン酸(B2)である。
【0042】
モノマー(B1)の例は、マレイン酸、フマール酸、メチルフマール酸、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、メチレンマロン酸、又はイタコン酸である。モノマーは、適切であれば、対応する環式無水物の状態で使用することも可能である。マレイン酸、フマール酸、及びイタコン酸が好ましく、及びマレイン酸及びマレイン無水物が特に好ましい。
【0043】
モノマー(B2)の例は、ビニルホスホン酸、モノビニルホスフェート、アリルホスホン酸、モノアリルホスフェート、3−ブテニルホスホン酸、モノ−3−ブテニルホスフェート、4−ビニルオキシブチルホスフェート、ホスホンオキシエチルアクリレート、ホスホンオキシエチルメタクリレート、モノ(2−ヒドロキシ−3−ビニルオキシプロピル)ホスフェート、(1−ホスホンオキシメチル−2−ビニルオキシエチル)ホスフェート、モノ(3−アリルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)ホスフェート、モノ−2−(アリルオキシ−1−ホスホンオキシメチルエチル)ホスフェート、2−ヒドロキシ−4−ビニルオキシメチル−1,3,2−ジオキサホスホール、2−ヒドロキシ−4−アリルオキシメチル−1,3,2−ジオキサホスホールを含む。これらは、好ましくは、ビニルホスホン酸、モノビニルホスフェート、又はアリルホスホン酸、であり、及び特に好ましくはビニルホスホン酸である。
【0044】
モノマー(A)及び(B)に加え、任意に0〜30質量%の少なくとも1種の、((A)及び(B)とは異なる)別のエチレン性不飽和モノマー(C)を使用しても良い。これに加え、及び更に、他のモノマーは使用されない。
【0045】
モノマー(C)は、コポリマーX1の特性の微細な制御に作用する。複数の異なるモノマー(C)を使用することも当然可能である。これらは、コポリマーの所望の特性に従い、及び更にこれらがモノマー(A)及び(B)と共重合しなければならないという条件において、この技術分野の当業者によって選択される。
【0046】
(A)及び(B)の場合のように、これらは、モノエチレン性不飽和モノマーであることが好ましい。しかしながら、特定の場合には、複数の重合可能な基を有する少量のモノマーも使用可能である。この結果として、コポリマーが、狭い範囲で架橋できるものとなる。
【0047】
適切なモノマー(C)の例は、特に、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクレーレート、又はブタンジオール1,4−モノアクリレート等の、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル又はヒドロキシアルキルエステルを含む。更に、適切なものは、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、ビニルシクロヘキシルエーテル、ビニル−4−ヒドロキシブチルエーテル、デシルビニルエーテル、2−(ジエチルアミノ)エチルビニルエーテル、2−(ジ−n−ブチルアミノ)エチルビニルエーテル又はメチルジグリコールビニルエーテル、又は対応するアリル化合物等のビニル又はアリルエーテルである。例えば、ビニルアセテート、又はビニルプロピネート等のビニルエステルを使用することも可能である。塩基性コモノマー例えば、アクリルアミド及びアルキル置換のアクリルアミドも使用して良い。アルコキシル化したモノマー、特にエトキシル化したモノマーも使用して良い。アクリル酸又はメタクリル酸から誘導されるアルコキシル化したモノマーが特に適切である。
【0048】
架橋モノマーの例は、複数のエチレン性不飽和の基、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート又はブタンジオール1,4−ジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート、又は、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のポリ(メタ)アクリレート、又はジ−、トリ−又はテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のオリゴ−又はポリアルキレングリコールのジ(メタ)アクリレートを有する分子を含む。更なる例は、ビニル(メタ)アクリレート又はブタンジオールジビニルエーテルを含む。
【0049】
一緒に使用される全モノマー(C)の量は、使用するモノマーの合計量に対して、0〜30質量%である。好ましくは、その量は、0〜20質量%、特に好ましくは0〜10質量%である。架橋モノマー(C)が存在する場合、その量は、この方法のために使用される全モノマーの合計量に対して、通常、5%を超えるべきでなく、好ましくは2%を超えるべきではない。その量は、例えば10ppm〜1質量%で良い。
【0050】
本発明の特に好ましい実施の形態では、コポリマーX1は、(A)に加え、少なくとも1種のモノマー(B1)及び少なくとも1種のモノマー(B2)を含む。更に、モノマー(A)、(B1)及び(B2)以外に、別のモノマー(C)が存在しないことが特に好ましい。
【0051】
モノマー(A)、(B1)及び(B2)のコポリマーX1が、本発明を行なうのに好ましく、この場合、(A)の量は、50〜90質量%で、(B1)の量は、5〜45質量%で、(B2)の量は、5〜45質量%の量で、及び(C)の量は、0〜20質量%である。(B1)及び(B2)は、各場合において1種のみのモノマー(B1)又は(B2)であって良く、又は各場合において、2種以上の異なるモノマー(B1)又は(B2)であって良い。
【0052】
特に好ましくは、(A)の量は、50〜80質量%、(B1)の量は、12〜42質量%、(B2)の量は、8〜38質量%であり、そして(C)の量は、0〜10質量%である。
【0053】
極めて好ましくは、(A)の量は、50〜70質量%、(B1)の量は、15〜35質量%、(B2)の量は、15〜35質量%であり、そして(C)の量は、0〜5質量%である。
【0054】
特に好ましくは、上述したコポリマーX1は、上述した量のアクリル酸、マレイン酸、及びビニルホスホン酸のコポリマーX1である。
【0055】
成分(A)、(B)及び任意に(C)は、原則として公知の方法で互いに重合することができる。対応する重合技術は、この技術分野の当業者にとって公知である。好ましくは、コポリマーは、上述した成分(A)、(B)及び任意に(C)の、水溶液中における遊離基重合によって製造される。更に、少量の水混和性有機溶媒が存在しても良く、及び、任意に、少量の乳化剤が存在しても良い。遊離基重合の実施の詳細は、この技術分野の当業者にとって公知である。
【0056】
酸性モノマーの場合、各場合において、フリーアシッド(遊離酸:free acid)をコポリマーX1の製造用に使用することができる。しかしながら、ポリマーの製造は、酸性モノマーの場合には、重合のためにフリーアシッドを使用することなく、そのエステル、無水物又は他の加水分解可能な誘導体の状態で行なうこともできる。これらを、水溶液中において、重合の過程で又は重合の後に加水分解させて、対応する酸性基を得ることが可能である。特に、マレイン酸又は他のシス−ジルボン酸が、環式無水物として使用可能である。これらは、通常、水溶液中で非常に迅速に加水分解され、対応するジカルボン酸が得られる。好ましくは、他の酸性モノマー、特にモノマー(A)及び(B2)が、フリーアシッドとして使用される。
【0057】
重合は、更に、少なくとも1種の塩基の存在下に行なうことも可能である。このことは、特に、例えば、マレイン酸等のモノマー(B1)のポリマーへの混合(incorporation)を改良し、重合されないジカルボン酸の割合が低く維持される。
【0058】
中和のための適切な塩基は、特に、アンモニア、アミン、アミノアルコール、又はアルカリ金属水酸化物である。当然、異なる塩基の混合物も可能である。好ましいアミンは、24個以下の炭素原子を有するアルカリアミン、及び24個以下の炭素原子を有するアミノアルコール、及び−N−C24−O−及び−N−C24−OH、及び−N−C24−O−CH3の型の構成単位である。このようなアミノアルコールの例は、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、及びこれらのメチル化した誘導体を含む。塩基は、重合の前又は間に加えることができる。塩基を使用せず、そして任意に重合の後に塩基を加えて重合することができる。この結果として、ポリマーのpHは、最適に調整される。
【0059】
しかしながら、中和の程度は、決して高くなく、しかし、十分なフリーアシッド基がポリマー中になお存在しているべきである。ポリマーの金属表面への特に良好な付着は、フリーアシッド基によって達成される。通常、ポリマーX又はコポリマーX1中に存在する酸性基の40mol%以下が中和されるべきであり、中和のmol%は、好ましくは0〜30mol%、特に好ましくは0〜20mol%及び極めて好ましくは0〜12mol%及び例えば2〜10mol%である。
【0060】
遊離基重合は、好ましくは、温度的に活性化可能な適切な重合開始剤の使用により開始される。
【0061】
使用する開始剤は、原則として、重合条件下に遊離基に分解する全化合物が可能である。熱的に活性化可能な重合開始剤中で、30〜150℃の範囲、特に50〜120℃の範囲に分解温度を有する開始剤が好ましい。この温度データは、通常、10時間の半減期(half-life)に関するものである。
【0062】
この技術分野の当業者は、原則として適切な開始剤から適切な選択を行なう。遊離基開始剤は、反応の溶媒中に十分な範囲で溶解し得るべきである。溶媒として水のみが使用された場合、開始剤は、水への十分な溶解性を有しているべきである。処理が、有機溶媒又は水と有機溶媒の混合物中で行なわれる場合、有機媒体中に可溶性の開始剤を使用することも可能である。水溶性開始剤を使用することが好ましい。
【0063】
適切な開始剤の例は、ペルオキソジサルフェート、特にアンモニウム、カリウム及び好ましくはナトリウムペルオキソジサルフェート、ペルオキソサルフェート、ヒドロペルオキシド、ペルカーボネート、及び過酸化水素等のペルオキソ化合物、及びいわゆる酸化還元開始剤を含む。ある場合では、異なる開始剤の混合物、例えば、過酸化水素及びナトリウム又はカリウムペルオキソサルフェートの混合物を使用することが有利である。過酸化水素及びナトリウムペルオキソサルフェートの混合物は、いかなる所望の割合でも使用可能である。
【0064】
更に、ジアセチルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、ジアミルペルオキシド、ジオクタノイルペルオキシド、ジデカノイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ビス(o−トロイル)ペルオキシド、スクシニルペルオキシド、tert−ブチルペルアセテート、tert−ブチルペルマレアート、tert−ブチウペルイソブチレート、tert−ブチルペルピバレート、tert−ブチルペルオクタノエート、tert−ブチルペルネオデカノエート、tert−ブチルペルベンゾエート、tert−ブチルペルオキシド、tert−ブチルヒドロペルオキシド(水溶性)、クミル(cumyl)ヒドロペルオキシド、tert−ブチルペルオキソ−2−エチルヘキサノエート、及びジイソプロピルペルオキシカルバメート等の有機ペルオキソ化合物も使用可能である。
【0065】
他の好ましい開始剤は、アゾ化合物である。適切な水溶性アゾ化合物の例は、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[2−(イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレート、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピンアミジン]テトラハイドレート、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}を含む。
【0066】
有機溶媒に可溶性のアゾ化合物の例は、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−ジメチルプロピネート)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1−[(シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)を含む。
【0067】
好ましい別の開始剤は、酸化還元開始剤である。酸化還元開始剤は、酸化成分として上述したペルオキソ化合物を少なくとも1種含み、及び還元成分として、例えば、アスコルビン酸、グルコース、ソルボース、アンモニウム−、又はアルカリ金属水素サルファイト、−サルファイト(亜硫酸塩)、−チオサルフェート、−次亜硫酸塩、−ピロサルファイト又は−サルファイド又は−硫化物(サルファイド)又はナトリウムヒドロキシメチルスルフォキシレートを含む。好ましくは、アスコルビン酸又はナトリウムピロサルファイトが酸化還元触媒の還元成分として使用される。重合に使用するモノマーの量に対して、例えば、1×10-5〜1mol%の(酸化還元触媒の)還元成分が使用される。
【0068】
開始剤又は酸化還元開始剤系(redox initiator system)と関連して、遷移金属触媒を付加的に使用しても良く、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、銅、バナジウム及びマンガンの塩を使用しても良い。適切な塩は、例えば、鉄(II)サルフェート、コバルト(II)クロリド、ニッケル(II)サルフェート、銅(I)クロリドである。還元作用を有する遷移金属塩は、モノマーの合計量に対して、通常0.1〜1000ppmの量で使用される。例えば、各場合において、モノマーの合計に対して、0.1〜500ppmのFeSO4・7H2O中の0.5〜30質量%の過酸化水素の組合せ等の、過酸化水素と鉄(II)塩の組合わせが特に好ましい。
【0069】
互いに逆効果(不利な作用)を及ぼさないという条件において、異なる開始剤の混合物を使用することも当然、可能である。その量は、所望のコポリマーに従い、この技術分野の当業者によって決定される。モノマーの合計量に対して、通常、0.05質量%〜30質量%、好ましくは、0.1〜15質量%、及び特に好ましくは0.2〜8質量%の開始剤が使用される。
【0070】
原則として公知の方法で、例えば、メルカプトエタノール等の適切な調節剤(regulator)を使用することが可能である。調節剤を使用しないことが好ましい。
【0071】
温度開始剤(thermal initiator)を使用することが好ましく、水溶性アゾ化合物及び水溶性ペルオキソ化合物が好ましい。過酸化水素及びナトリウムペルオキソサルフェート又はこれらの混合物が好ましく、任意に0.1〜500ppmのFeSO4・7H2O中との結合させることが極めて好ましい。
【0072】
しかしながら、重合は、例えば、適切な放射(radiation)によって、代わりに開始させることができる。適切な光開始剤の例は、アセトフェノン、ベンゾインエーテル、ベンジルジアルキルケトン、及びこれらの誘導体を含む。
【0073】
遊離基重合は、130℃未満の温度で行なわれることが好ましい。これとは別に、この温度は、使用するモノマーの種類、開始剤の種類、及び所望のコポリマーに依存して、この技術分野の当業者が、広い範囲内において種々に変更することができる。ここでは、最低温度を60℃とすることが有用であることがわかった。重合の間、温度を一定に維持することができ、又、温度プロフィール(profile)を使用しても良い。重合温度は、好ましくは75〜125℃、特に好ましくは80〜120℃、極めて好ましくは90〜110℃、及び例えば95〜105℃である。
【0074】
重合は、遊離基重合用の通常の装置で行なうことができる。処理を水又は水と別の溶媒との混合物の沸点以上で行なった場合、適切な圧力容器が使用され、他の場合には処理は、大気圧で行うことができる。
【0075】
合成されたコポリマーX1は、この技術分野の当業者にとって公知の方法を使用して、例えば、溶媒の蒸留(evaporating down)、スプレー乾燥、フリーズ乾燥、又は沈殿により水溶液から単離できる。しかしながら、コポリマーX1は、重合の後、水溶液から全く単離されないことが好ましく、しかし、コポリマーの結果として得られた溶液は、本発明に従う方法のために、それ自体で使用されることが好ましい。
【0076】
本発明に従う方法を行なうために、ポリマーXの酸性、水性調製物Z1を使用した。これは、当然、異なるポリマーXの混合物であることが可能である。コポリマーX1が好ましい。
【0077】
本発明に従う方法に使用されるポリマーXの分子量Mw(質量平均)は、所望の使用に従い、この技術の当業者によって決定される。例えば、3000〜1000000g/molの分子量Mwを有するポリマーを使用して良い。5000g/mol〜500000g/mol、好ましくは、10000g/mol〜250000g/mol、特に好ましくは15000〜100000g/mol及び極めて好ましくは20000〜75000g/molのポリマーが特に有用であることがわかった。
【0078】
調製物は、溶媒として水のみを含むことが好ましい。調製物は、水混和性の有機溶媒を含んでも良い。例は、メタノール、エタノール又はプロパノール等のモノアルコール、エチレングリコール又はポリエーテルポリオール等の高級アルコール、及びブチルグリコール又はメトキシプロパノール及びN−メチルピロリドン等のエーテルアルコールを含む。しかしながら、通常、水の量は、少なくとも80質量%、好ましくは少なくとも90質量%、及び極めて好ましくは少なくとも95質量%である。データは、各場合において、全溶媒の合計量に対してのものである。
【0079】
有利なことに、重合から得られるポリマー含有溶液を直接的に使用することができ、該ポリマー溶液は、任意に更に希釈される。このような、直接的な更なる使用を容易にするために、重合のために使用される水溶液の量は、溶媒中のポリマーの濃度が最初から適切に適用できる程度のものであるべきである。
【0080】
調製物Z1中のポリマーXの濃度は、処方された調製物の全成分の量に対して1〜40質量%である。好ましくは、その量は、2〜35質量%であり、そして特に好ましくは5〜25質量%である。調製物の特性は、例えば、これらの粘性(粘度)又はこれらのpHは、使用するポリマーの濃度と種類に影響され得る。従って、調製物の特性は、処理のための所定の工程技術に、最適に適合され得る。従って、例えば、スキージ(squeegee)技術の場合には、5〜15質量%の濃度が有用であり、そして、被覆ロールを使用して適用する場合には、15〜25質量%の濃度が有用であることがわかった。上述した濃度は、直ちに使用できる調製物に基づいている。最初に濃縮物を製造し、現場用に(on site)、水又は任意に他の溶媒混合物で所望の濃度に希釈することも可能である。
【0081】
本発明に従い使用される調製物Z1は、pHが5以下、得にpHが0.5〜5、好ましくは、1.5〜3.5である。この調製物のpHは、例えば、本発明に従い使用されるポリマーの種類と濃度によって制御され得る。当然、ポリマーの中和の程度は、ここでは重要な役割を担う。
【0082】
調製物は、更に、Zn2+、Mg2+、Ca2+、又はAl3+から成る群から選ばれる少なくとも1種の溶解した金属イオンを含む。イオンは、水和した金属イオンとして存在して良く、しかしイオンは、溶解した化合物、例えば、錯体化合物として存在しても良い。得に、イオンは、ポリマーの酸性基への錯体結合を有して良い。金属イオンは、得に、Zn2+、Mg2+、又はCa2+から成る群から選ばれる、少なくとも1種の金属イオンである。金属イオンは、好ましくは、Zn2+、又はMg2+であり、及び極めて好ましくはZn2+である。調製物は、別の金属イオンを含んでいないことが好ましい。
【0083】
しかしながら、別の金属イオン又は金属化合物も存在しる場合、調製物は、クロム化合物を含まないものであることが好ましい。更に、好ましくは、金属フッ化物又は錯体金属フッ化物が存在するべきではない。本発明に従う不動態化(処理)は、従って、好ましくはクロムを使用しない不動態化であり、得に好ましくはクロムとフッ化物を使用しない不動態化である。
【0084】
更に、本発明に従う方法では、亜鉛及び鉄のイオンを除いて、重金属イオンを使用しないことが好ましく、得にニッケル、マンガン、及びコバルトのイオンを使用しないことが好ましい。
【0085】
Zn2+、Mg2+、Ca2+、又はAl3+から成る群から選ばれる金属イオンの量は、各場合において、処方された調製物中の全ポリマーXの合計量に対して、0.01質量%〜25質量%、好ましくは0.5〜20質量%、得に好ましくは1〜15質量%、及び極めて好ましくは3〜12質量%である。
【0086】
本発明の好ましい実施の形態では、処方された調製物は更に、少なくとも1種の溶解したホスフェートイオンを含む。前記イオンは、ホスフェートイオンのどの種類のものであっても良い。例えば、上記イオンは、オルトホスフェート又はジホスフェートで良い。この技術分野の当業者にとって、水溶液中のイオンの異なる解離状態の間で、pHと濃度に依存して平衡が存在して良いことは明らかである。
【0087】
本発明の別の好ましい実施の形態では、更にメタンスルフォネートイオンを含むことができる。
【0088】
ホスフェートイオンが存在する場合、金属イオン及びホスフェートイオンは、本発明に従い、可溶性の塩の状態で使用されることが好ましく、ここで可溶性の塩は両方ともイオンを含むものである。このような化合物の例は、Zn3(PO42、ZnH2PO4、Mg3(PO42又はCa(H2PO42又はこれらの対応する水和物を含む。
【0089】
しかしながら、金属イオン及びホスフェートイオンは、互いに別々に加えることも可能である。例えば、金属イオンは、対応する硝酸塩、アルカンスルホネート、又はカルボキシレート、例えば、アセテートの状態で使用可能であり、及びホスフェートは燐酸の状態で使用可能である。例えば、対応するカルボネート(炭酸塩)、酸化物、水和物又は水酸化物等の、酸の影響下に溶解する、不溶性又は弱溶解性化合物を使用することも可能である。
【0090】
類似して、金属イオンとメタンスルホン酸は、例えば、Zn(CH3SO32等のメタンスルホン酸の金属塩として一緒に使用することが可能であり、又は他の金属塩とメタンスルホン酸の状態で別々に使用することが可能である。
【0091】
処方された調製物中のホスフェートイオン及び/又はメタンスルホネートイオンの量は、処方された調製物の所望の特性に従い、この技術分野の当業者によって決定される。存在する場合には、前述した量は、各場合において、オルトホスホン酸として計算して、及び各場合においてポリマーXに対して、通常、0.01質量%〜25質量%、好ましくは0.5〜25質量%、得に好ましくは1〜25質量%、及び極めて好ましくは5〜25質量%である。
【0092】
本方法の特に有利な点は、上述した成分だけを含む調製物であっても、上述した結果が達成されるということにある。しかしながら、調製物は、上述の成分以外に、任意に別の成分を含むことができる。
【0093】
別の成分として、無機又は有機酸、又はこれらの混合物を挙げて良い。このような酸の選択は、処方された調製物の他の成分と一緒になって、逆効果が発生しないという条件において、限定されるものではない。この技術分野の当業者は、適切選択を行なう。
【0094】
適切な酸の例は、燐酸、ホスホン酸、又は1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸(PBTC)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)(ATMP)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)(EDTMP)又はジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)(DTPMP)等の有機ホスホン酸、メタンスルホン酸、アミノスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、m−ニトロベンゼンスルホン酸等のスルホン酸及びこれらの誘導体、硝酸、蟻酸、又は酢酸を含む。H3PO4等の燐を含有する酸、ホスホン酸、上述した有機ホスホン酸、HNO3又はメタンスルホン酸が好ましい。H3PO4が特に好ましい。得に追加の酸が存在する場合、処方された調製物は、酸として専らH3PO4を含むことが極めて好ましい。
【0095】
酸として、メタンスルホン酸が更に特に好ましく、特にAl3+イオンを含む処方された調製物に使用するために好ましい。
【0096】
この調製物は、少なくとも1種のワックス(蝋)を処方された調製物中に分散状態で含むことができる。異なるワックスの混合物を使用することも当然可能である。「ワックス」という用語の意味は、実際のワックス、及び適切である場合には、ワックス分散の形成に使用される助剤の両方を含む。水性分散用のワックスは、この技術分野の当業者にとって公知であり、当業者は適切な選択を行なう。ワックスは、例えば、モンタンワックス、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンに基づいたワックス、PTFE等のフッ素化ポリエチレンに基づいたワックス、又はC、H及びFに基づいた他のポリマーに基づいたワックスであって良い。「ポリエチレン」という用語は、エチレンと、他のモノマー(モノマーは、特に例えばプロピレン等の他オレフィン)とのコポリマー(共重合体)を含むことも意図されている。このようなエチレンコポリマーは、エチレンを少なくとも65質量%含むことが好ましい。ワックスを加えることにより、表面と、加工用に使用される工具の表面との間の摩擦力を有利に低減させることができる。
【0097】
任意に使用されるワックスの量は、不動態化層の所望の特性に従い、この技術分野の当業者によって決定される。通常、各場合において、酸性基含有ポリマーXに対して、0.01〜70質量%、好ましくは0.5〜25質量%、及び特に好ましくは1〜10質量%の量が有用であることがわかった。
【0098】
更なる、調製物に任意に使用される成分は、界面活性化合物、腐食抑制剤、錯体化剤、一般的なメッキ助剤、又は本発明に従い使用されるポリマーXとは区別される別のポリマーを含む。別の可能な添加剤は、H.Kittel(編集者)Lehrbuch der Lacke und Beschichtungen, Volume5−Pigmente, Fullstoffe und Farbmetrik−2nd edition,S.Hirzel−Verlag,Stuttgart 2003.に記載されているような通常の被覆助剤である。
【0099】
この技術分野の当業者は、所望の使用に従い、原則として任意の使用が可能である成分と、これに関する量の適切な選択を行なう。しかしながら、任意の成分の量は、ポリマーXに対して、通常、20質量%以下、好ましくは10質量%以下、及び特に好ましくは5質量%以下であるべきである。
【0100】
本発明に従い使用される調製物は、成分を単純に攪拌することによって得ることができる。ワックスが使用された場合、ワックスは、最初に水中に別に分散され、そして分散物として他の成分と混合される。このようなワックスは、市販されてもいる。
【0101】
金属表面を不動態化するために、金属の表面は、例えば、スプレーがけ、浸漬又はロール処理(rolling on)によって、調製物と接触される。
【0102】
不動態化を行うための工程技術に関し、可能なものが数種類存在する。これらは、中でも、半加工品の形状、例えば、まだ成形されていない、平坦なストリップ又は金属シートが使用されるのか、又は例えば、表面や縁が湾曲した成形体が使用されるのかに依存する。処理は、複数の個々の工程段階を含むこともできる。連続的又は非連続的(batchwise)な方法を使用して良い。この技術分野の当業者は、可能な方法から適切な選択を行なう。
【0103】
処理は、例えば、調製物への浸漬、又は調製物のスプレーがけ、又は調製物を使用した被覆処理によって行なわれる。調製物は、好ましくは、金属ストリップ及び金属シート上に、ロール処理によって施され得る。金属ストリップは、更に、調製物のタンク又はスプレー装置にも通されることが好ましい。余分の不動態化溶液は、絞りロール(squeeze roll)によって除去され、そして、スプレー装置に再循環され得る。スプレー装置が連続的なスプレーミストを形成して良く、又は調製物をストリップ上に単純に滴下させて良い。例えば、通常のスプレー手段は、調製物をストリップ上に噴霧(スプレー)する開口部が、2〜10cmの距離に設けられたチューブからなるものである。調製物の流出と、次の絞り処理が、製造物の十分な分散(分配)をもたらす。圧縮空気で操作される付加的なノズルにより、ストリップの端部領域での調製物を均一に分散することの確実化が可能になる。鋼製ストリップの製造のための連続的な方法が、メッキステーション(亜鉛メッキステーション)も含んでいて良く、そして、メッキステーションの後には、調製物での不動態化のための装置が続いて良い。ロール処理の場合、通常、被覆材料は、採取ロール(take-up roll)によって桶から取り出され、そして次に、アプリケーターロールに移される。アプリケーターロールは、被覆材料をストリップ上に移す。採取ロールとアプリケーターロールを、それらの間に配置されたロールを介して連結させ、そして該連結したロールを介して被覆材料を移すことが可能である。このロールは、同一の方向に回転して良く、又反対の方向に回転して良く、そして、ストリップ走行に沿って又はストリップの走行とは逆方向に走行して良い。ストリップ上のロールの接触圧力を選択し、及びローラーの粗さと硬さを選択することにより、被覆の結果を追加的に決定して良い。
【0104】
浸漬工程又はスプレー工程の後に、半加工品をドリップオフ(滴除去)し、余分な処理溶液を除去することができ、しかしながら、金属シート、金属箔又はこれらに類似するものの場合には、例えば、スクイーズ又はドクターブレードによって、過剰の溶液を除去することもできる。使用した調製物の残留物を表面から除去するために、処理の後、洗浄液、特に水で、表面をリンス(洗う:rinse)することも可能である。
【0105】
この代わりの実施の形態として、この処理は、いわゆる「ノーリンス」法であって良く、「ノーリンス」法では、処理を施した後にリンスすることなく、処理溶液が、直ちに乾燥炉内で直接的に乾燥される。
【0106】
調製物での処理は、室温で行なうことが可能であり、又、温度を上昇させて行なうことが可能である。通常、処理は、20〜90℃、好ましくは25〜80℃、及び得に好ましくは30〜60℃で行なわれる。この目的のために、例えば、調製物の入った浴槽が加熱され得るが、しかし、暖められた金属を浴槽中に浸漬することにより、温度上昇を自動的に設定するようにしても良い。
【0107】
処理の継続時間は、層の所望の特性、処理のために使用した組成、及び通常の技術的条件に従って、この技術分野の当業者によって決定される。処理の継続時間は、実質的に1秒以下で良く、又は数分で良い。連続法においては、表面を調製物に、1〜60sの継続時間で接触させることが得に有用であることがわかった。
【0108】
処理の後、使用した溶媒(すなわち通常は水である)が除去される。この除去は、室温において、単に空気中に蒸発させることにより行なうことができる。しかしながら、溶媒の除去は、適切な補助手段、例えば、加熱、及び/又は気体流、特に空気流を通すことによって促進させることも可能である。例えば、IRランプ、又は例えば、乾燥トンネル内で乾燥させることによって、溶媒の蒸発を促進させることが可能である。30℃〜210℃の温度、好ましくは40℃〜120℃、及び特に好ましくは40℃〜80℃が、乾燥に適切であることがわかった。ここで、意味するものは、ピーク温度(ピーク金属温度)(PMT)であり、ピーク温度は、この技術分野の当業者に良く知られた方法(例えば、非接触式の赤外線測定又は粘着して結合された試験片を使用しての温度測定)で測定される。乾燥温度は、適切な場合には、高い温度に設定され、そして、この技術分野の当業者によって適切に選択される。
【0109】
本発明に従う方法は、任意に1工程以上の予備処理工程を含んでも良い。例えば、本発明に従い使用される調製剤で不動態化する前に、例えば、脂又はオイルを除去するために、金属表面を洗浄することができる。更に、酸化物沈殿物、スケール、一時的な腐食防止剤又はこれら類似するものを除去するために、不動態化の前に酸洗い(pickle)することもできる。更に、適切であれば、洗浄溶液の残留物又は酸洗い溶液を除去するために、このような予備処理工程の後及び間に、表面を水で洗浄される。
【0110】
不動態化層は、追加的に架橋しても良い。この目的のために、架橋剤を調製物に混合しても良い。しかしながら、金属は、最初に調製物で処理され、そして次に、例えば、架橋剤の溶液を噴霧することにより、層が適切な架橋剤で処理されて良い。
【0111】
適切な架橋剤は、水溶性又は少なくとも上記水性溶媒混合物に可溶性のものである。適切な架橋剤の例は、アジラン、オキシラン、又はチイラン基から成る群から選択される、少なくとも2種の架橋基を有するものを含む。適切な架橋剤とこれらの使用についての詳細は、WO05/042801、11頁、34行目〜14頁、39目に記載されている。
【0112】
架橋は、例えば、アルカノールアミン、多水酸基性アルコール、ジ−、オリゴ−及びポリアミン等の、1種以上のOH基、及び/又はNH2基を含む処方化合物(formulation compound)を加えることによって行なうこともできる。これらは、乾燥温度を適切に選択して架橋させることができる。
【0113】
本発明に従う方法により、特に、Zn、Zn合金、Al又はAl合金を含む金属表面上に不動態化層又は転化層が得られる。表面の処理の過程において、保護されるべき金属の一部が溶解し、そして、この後直ちに、金属表面上の酸化物フィルム中に組み込まれる。*酸性基の含有量が高く、及び中和の程度が低いコポリマーXを使用することにより、表面上での溶解が得に良好に行なわれ、そして優れた腐食防止が得られる。不動態化層の正確な構造と組成はわかっていない。しかしながら、上述した層は、アルミニウム又は亜鉛、及び任意に別の金属の、通常の無定形(アモルファス)の酸化物に加え、ポリマーの反応生成物、及び任意に架橋剤の反応生成物、及び/又は処方した調製物の別の成分も含む。不動態化層の組成は、通常、不均一であり、しかしその成分は、濃度勾配を有しているよう思われる。
【0114】
不動態化層の厚さは、所望の特性に従い、この技術分野の当業者によって調節される。通常、厚さは0.01〜3μmであり、好ましくは0.1〜2.5μmであり、そして特に好ましくは0.2〜1.5μmの範囲である。
【0115】
厚さは、例えば、適用される成分の種類と量、及び接触時間によって影響される。厚さは更に、工程パラメーターにより、例えば、ドクターブレード又はロールを使用しての過剰に施された処理溶液の除去により影響される。
【0116】
層の厚さは、本発明に従い使用される金属表面上の組成物の、作用の前後での計量差によって測定され、該測定は、層が1kg/lという密度(specific density)を有していると仮定して行なわれる。以降、「層厚さ」は、常にこの方法で決定された変数(パラメーター)を意味し、層の実際の密度とは無関係である。これらの薄い層は、顕著な腐食保護を得ることができれば十分である。この種の薄層により、不動態化した半加工品の寸法的な安定性が確保される。
【0117】
本明細書は、更に本発明の不動態化層を含む金属表面に関する。不動態化層は、実際の金属表面上に直接的に施される。好ましい一実施形態において、上述した金属表面は、Zn又はZn合金の被覆を含む鋼のストリップ金属であり、そしてZn又はZn合金の被覆の上に本発明の不動態化層が施されるものである。更に、金属表面は、本発明に従う不動態化層によって被覆された自動車の車体であって良い。
【0118】
本発明の好ましい実施の形態では、不動態化層を有する金属表面は、原則として公知の方法で、1種以上の着色塗装、又は有効塗装層で被覆することができる。一般的な塗装、塗装の組成及び複数の塗装層の場合の層の一般的な順序は、原則として当業者にとって公知である。本発明に従う不動態化は、塗装の粘着を改良し、そして浸透保護(潜入保護:undermigration protection)を形成する。
【0119】
本発明に従う不動態化は、異なる加工工程で使用される。例えば、製鋼所(steel producer)で行なうことができる。ここで、鋼ストリップは、連続法で亜鉛メッキすることができ、そして亜鉛メッキ処理後、本発明に従う処方した調製物を使用して直ちに不動態化される。この段階での不動態化は、この技術分野の当業者によって「後処理」とも称される。
【0120】
これは、保存の間と輸送の間及び/又は更なる工程において腐食防止に作用するが、しかし、恒久的な保護を施す前に再度除去されるような一時的な不動態化だけのもので良い。酸性コポリマーは、水性アルカリ溶液での洗浄により、表面から再度除去することができる。
【0121】
しかしながら、これは、ストリップ又は最終的形状とされた半加工品上に残り、及び追加的な塗装被覆が施される恒久的な腐食防止処理であっても良い。この段階(工程)での不動態化は、この技術分野の当業者によって、しばしば「予備処理」とも称される。
【0122】
本発明に従い、コポリマーX及びZn、Ca、Mg又はAlイオンの組合せを使用することにより、酸性ポリマーのみの場合と比較して、金属表面における、腐食防止の特性の実質的な改良を達成することができる。
【0123】
以下に実施の形態で本発明を詳細に説明する。
【0124】
使用したコポリマー:
60質量%のアクリル酸、20質量%のマレイン酸、及び20質量%のビニルホスホン酸を含む酸性基含有コポリマー。酸性基の量は、1.37mol/ポリマー100gである。酸性基の中和の程度は、約6mol%(トリエタノールアミンで中和)であり、Mw約25000g/molである。
【0125】
A)亜鉛イオンの添加
水中コポリマーの溶液を試験に使用した。その量を表1に示した。本発明に従う実施例のために、各場合において、Zn3(PO42を、表1に記載した量で溶液中に使用した。比較の目的で、Zn3(PO42を加えないポリマーの処方した調製物を使用した。更に、酸性亜鉛ホスフェートを、比較の目的で使用した。
【0126】
溶融亜鉛メッキした鋼シートに、被覆ロールを使用して溶液を施し、そして加熱して乾燥させた。各場合において異なる層厚さを有する2枚の鋼シートを被覆した。
【0127】
この後、金属シートを、DIN50017に従う塩スプレー処理し、そして、DINENISO10289に従い、腐食防止の品質を評価した。評価数は、金属シート上の白錆(white rust)の形成の測定である。高い評価数は防止が良好であることを表す。
【0128】
結果を表1に示す。
【0129】
結果は、Znイオンとホスフェートイオンの添加によって、被覆の腐食防止効果が実質的に増加することを示している。この効果は、腐食性媒体の作用期間が長い場合に特に著しいものであった。亜鉛とホスフェートイオンのみ、すなわち、ポリマーのないものの作用は、実質的に効果がなかった。従って、亜鉛及びホスフェートイオンは、ポリマーと一緒になって相乗的な作用を有している。
【0130】
B)アルミニウムイオンの付加
上述した水中のコポリマーの溶液を実験に使用した。部分的に中和したコポリマー(すわなち、塩基を含む)の溶液中の濃度は、45.5質量%(塩基を考慮しない場合、41.6質量%)であった。
【0131】
HNO3、又はメタンスルホン酸及び更に、次のいづれか、すなわちAl(NO339H2O又は塩基アルミニウムアセテートAl(CH3COO)2OHという各場合において、表2に記載された量を197gの上記溶液に加えた。この溶液を、各場合において、脱塩水(demineralized water)で、400gとした。比較の目的で、アルミニウムイオンを有しない、処方した調製物を製造した。製造した腐食防止処方調製物中の、部分的に中和されたコポリマーの濃度は、各場合において、処方した調製物の全成分に対して、22.5質量%であった。使用した処方調製物(処方した調製物)の組成を表2に示した。
【0132】
溶融亜鉛メッキ鋼シートを試験に使用した。各場合において、金属シートを室温で1秒間、表2に記載した処方調製物中に浸漬させ、ロール装置で絞り、そして乾燥炉内で160℃で12秒間乾燥させた。ここで、ピーク金属温度は、50℃を超えることがなかった。各場合において、2枚の金属シートを被覆した。
【0133】
この後、各場合において、DIN50017−KFWに従う縮合水(condensation)−環境変化試験を、大気の湿分と温度を変化させて金属シートで行い、及びDIN50021−SSに従う塩スプレー試験を金属シートで行なった。
【0134】
塩スプレー試験における、腐食防止の質を、所定の基準に従い、0〜10の評価数を与えることにより、DINENISO10289に従って評価した。評価数は、金属シート上の白錆の形成の測定値である。評価数が高い程、腐食された面積が小さくなり、そして腐食防止が良好になる。評価数の付与は、以下の表に従って行なった。
【0135】
【表1】

【0136】
KFW:
縮合水−環境変化試験を、1回以上の環境サイクルで、各場合において2個の試験区分で行なった。第1の区分では、試験試料を8時間、40℃の温度、及び100%の相対湿度(relative humidity)に付し、そして第2の区分において、上述した試験試料を、100%未満の相対湿度(環境条件)において、18〜28℃の温度に付した。従って、サイクルの持続時間は24時間である。
【0137】
試料の視覚的な評価を、以下の基準に従って行なった
0 チョーキング(chalking)なし
1 わずかなチョーキング
2 中程度のチョーキング
3 強いチョーキング
4 非常に強いチョーキング
f: わずかに斑点のある(spotty)構造
F: 明確に際立った斑点のある構造
WR: 白錆
LM: わずかにまだら状(mottled)
M: まだら状
【0138】
試験結果を表3にまとめた。
【0139】
実施例及び比較試験例は、金属塩の添加によりポリマーの腐食防止効果が、相当に改良されることを示している(表1)。更に、縮合水(condensation)−環境変化試験は、金属塩及び/又は酸の添加は、負荷の後、純粋なポリマーの結果と比較して、試験試料の視覚的な外観を改良することを示している。
【0140】
【表2】

【0141】
【表3】

【0142】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基を含む少なくとも1種の水溶性ポリマーX、及び少なくとも1種の金属イオンを含む酸性、水性調製物で金属表面を処理することにより、金属表面を不動態化する方法において、
・前記ポリマーが、少なくとも0.6モル酸性基/ポリマー100gを有し、
・処方された調製物のpHが、5以下であり、
・ポリマーの量が、処方された調製物の全成分の量に対して1〜40質量%であり、
・金属イオンがZn2+、Ca2+、Mg2+、及びAl3+から成る群から選ばれる少なくとも1種であり、及び
・金属イオンの量が、全ポリマーXの合計量に対して、0.01質量%〜25質量%である、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
処方された調製物が、更にホスフェートイオンを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
処方された調製物が、メタンスルホネートイオンを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
水溶性ポリマーXが、
コポリマー内で重合される全モノマーの量に対して、以下のモノマー単位、
(A)40〜90質量%の(メタ)アクリル酸、
(B)(A)とは異なり、且つ1種以上の酸性基を有する10〜60質量%の少なくとも1種の別のモノエチレン性不飽和モノマー、
(C)任意に、(A)及び(B)とは異なる、0〜30質量%の少なくとも1種の別のエチレン性不飽和モノマー、
から成るコポリマーX1であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
モノマー(B)が、
(B1)4〜7個の炭素原子を有する、モノエチレン性不飽和のジカルボン酸、及び/又は、
(B2)モノエチレン性不飽和の燐酸、及び/又はホスホン酸、
から成る群から選ばれるモノマーであることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
コポリマーが、少なくとも1種のモノマー(B1)及び少なくとも1種のモノマー(B2)を含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
モノマー(A)の量が50〜90質量%、(B1)の量が5〜45質量%、(B2)の量が5〜45質量%、及び(C)の量が0〜20質量%であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
モノマー(A)の量が、50〜80質量%、(B1)の量が、12〜42質量%、(B2)の量が、8〜38質量%、及び(C)の量が、0〜10質量%であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
(B1)がマレイン酸、そして(B2)がビニルホスホン酸であることを特徴とする請求項5〜8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
調製物が、ポリマーXに対して0.01〜70質量%の、少なくとも1種の分散されたワックスを更に含むことを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
金属表面が、Zn、Mg、Al、Sn、Fe、Ni又はこれらの合金を含む表面であることを特徴とする請求項1〜10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
金属表面が、ストリップ金属の表面であることを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
ストリップ金属が、電気亜鉛メッキ又は溶融亜鉛メッキされた鋼であることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
クロム不使用の方法であることを特徴とする請求項1〜13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
処理を、連続的方法により行なうことを特徴とする請求項12〜14の何れか1項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜15の何れか1項に記載の方法によって得られる、金属表面上の不動態層。
【請求項17】
層の厚さが、0.01〜3μmであることを特徴とする請求項16に記載の不動態層。

【公表番号】特表2008−509286(P2008−509286A)
【公表日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−525310(P2007−525310)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【国際出願番号】PCT/EP2006/063168
【国際公開番号】WO2006/134116
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】