説明

酸性水溶性標的物質吸着ポリマー及びその製造方法

【課題】酸性水溶性標的物質を選択的に吸着するポリマー及び酸性水溶性標的物質に対する特異的認識部位を有するポリマー、それらの製造方法、並びに酸性水溶性標的物質の吸着剤を提供する。
【解決手段】少なくとも1種の酸性水溶性標的物質を選択的に吸着するポリマーであって、アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーと不飽和カルボニル架橋剤とをマイケル付加反応した後にラジカル重合する2段階の反応により架橋した構造であることを特徴とするポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性水溶性標的物質を選択的に吸着するポリマー及び酸性水溶性標的物質に対する特異的認識部位を有するポリマー、それらの製造方法、並びに酸性水溶性標的物質の吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
標的物質の構造及び特性に基づく、標的物質の選択的分離技術は、各種の産業、並びに化学及び生物学の研究等に不可欠の技術である。選択的分離技術において、分子インプリンティング(molecular imprinting)法は、最も重要な方法の1つである(例えば、非特許文献1参照)。分子インプリンティング法で得られる分子インプリンテッドポリマー(molecularly imprinted polymer、以後MIPとも言う。)は、官能基を有する重合可能な分子を鋳型分子の存在下で重合させ、次いで、該鋳型分子を取り除くことにより、鋳型分子に相補的な特異的結合部位を有する特徴をもつ。
【0003】
MIPは、現在までに生物抗体の代替として、例えば、医療物質のクロマトグラフィー分離、環境由来または生物由来試料の前処理用固相抽出、イムノアッセイでの人工抗体、および構造特異性検出用のバイオセンサ用デバイスへの適用などが検討されている。
【0004】
一般的に、MIPの調製は、有機溶剤中で水素結合による相互作用を利用して行われる。したがって、水溶性化合物に対するMIPを有機溶剤中で調製することは、困難である。また、有機溶剤中で調製したMIPを水溶液中で使用すると、ポリマーが収縮することでMIPの鋳型分子に対する特異的認識能が低下するという問題がある。さらに、水分子は物質間の水素結合を解離する特徴があるために、水中でのMIPの調製、及び、使用は非常に困難である。更に、水溶液中では、疎水性相互作用による、ポリマーマトリックス表面への非選択的な吸着が生じやすい傾向にある。
【0005】
近年、水溶液中で調製された新規なMIPとして、アクリロイルシクロデキストリンとビスアクリルアミドを用いて調製されたもの(非特許文献2参照)や、ポリエチレングリコールジアクリレートを用いて官能基間距離固定化法により調製されたもの(特許文献1参照)が報告されている。これらのMIPは、ある程度の鋳型分子に対する選択的な吸着を示している。
【0006】
しかしながら、非特許文献1の製造方法では、過剰の機能性モノマーを用いてMIPを製造するため、MIPの鋳型分子に対する認識部位が均質でないと考えられる。また、特許文献1の製造方法では、有機溶剤中でイオン相互作用を形成してMIPを製造するため、有機溶剤中の官能基間距離は水溶液中での官能基間距離とは異なると考えられる。したがって、これらの方法ではインプリント効果が十分でないと考えられる。また、これらの方法では、芳香族等の疎水性骨格を有しない水溶性化合物に対しては利用することができないという問題がある。
【0007】
ところで、近年、慢性人工透析患者数は20万人を超え、年々増加傾向にある。このように多数の慢性腎不全症患者があるにも関わらず、根本的治療法はなく、延命を目的とした対症療法の血液透析療法しかないのが現状である。慢性腎不全の血液透析療法としては、セルロース系天然高分子物質、並びにポリスルホン及びポリメタクリ酸メチルなどの合成高分子物質を素材とした中空糸膜型人工腎臓を使用して、患者の血液中に産出、蓄積された尿毒症関連物質などの有害物質を除去するのが一般的である。
【0008】
中空糸膜壁には直径:10〜100nm程度の微細孔が貫通するように作製されており、この孔から有害物質は浸透圧差によって血液側から透析液側に移行する。現在、中空糸膜の性能は非常に向上しており、尿素及びクレアチニンなどの低分子量物質(500ダルトン以下)ばかりでなく、中分子量物質(500〜5000ダルトン)、あるいは分子量が1万ダルトン以上の低分子量蛋白質を慢性腎不全患者から透析によって除去できるようになっている。
【0009】
しかしながら、分子量の大きな病因物質を除去できる中空糸膜は、膜の構造と透過性の工学的根拠から、生体にとって必須であるホルモン、ビタミン、アミノ酸及び水を体外に除去し過ぎる傾向がある。そのため、人工透析を長く使用していると、これらが原因で骨・関節障害、貧血、血圧低下などの様々な合併症を引き起こすこととなる。
【0010】
上述のように、現在の中空糸膜による慢性腎不全の治療法では、溶質の選択的除去能に不十分な点が多く、生体に必須の低分子量物質も透析によって体外に失われるという問題がある。しかし、これまでのところ、透析治療ではこの問題の対処策は見出されていない。また、一般的な血液透析療法では病院での患者の束縛時間が非常に長く、社会的活動の負担が大きいという問題もある。
【0011】
【非特許文献1】B.Sellergren,:Molecularly imprinted polymers: man made mimic of antibodies and their application,Elsevier Science(2001)
【非特許文献2】H.Asanuma,T.Akiyama,K.Kajiyama,T.Hishiya and N.Komiyama,Anal.Chim.Acta,2001,435,25
【特許文献1】特開2006−137805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記を鑑み、尿酸およびクレアチンのような窒素代謝老廃物質、ヌクレオシド並びにアミノ酸等の酸性水溶性標的物質を選択的に吸着するポリマー及び酸性水溶性標的物質に対する特異的認識部位を有するポリマー、それらの製造方法、並びに酸性水溶性標的物質の吸着剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーと不飽和カルボニル架橋剤とをマイケル付加反応した後にラジカル重合する2段階の反応により架橋した構造のポリマーは酸性水溶性標的物質を選択的に吸着することができることを見出した。
【0014】
また、アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーと不飽和カルボニル架橋剤とをマイケル付加反応した後にラジカル重合する2段階の反応と、分子インプリンティング法とを組合わせて調製したポリマーは、酸性水溶性標的物質に対する親和性が高く、特異的に酸性水溶性標的物質を認識して吸着することができることを見出し、本発明の完成に至った。すなわち、本発明は下記の通りである。
【0015】
1.少なくとも1種の酸性水溶性標的物質を選択的に吸着するポリマーであって、アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーと不飽和カルボニル架橋剤とをマイケル付加反応した後にラジカル重合する2段階の反応により架橋した構造であることを特徴とするポリマー。
2.少なくとも1種の酸性水溶性標的物質に対する特異的認識部位を有するポリマーであって、該特異的認識部位が以下の(1)および(2)の工程を含む分子インプリンティング法により水溶液中で形成されることを特徴とするポリマー。
(1)少なくとも1種の鋳型分子の存在下で、該鋳型分子との相互作用が可能な少なくとも1種のアミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーと不飽和カルボニル架橋剤とをマイケル付加反応した後にラジカル重合する2段階の反応により架橋共重合体を得る工程
(2)工程(1)で得られた架橋共重合体から鋳型分子を遊離除去して該鋳型分子に対する特異的認識部位を形成する工程
3.前記鋳型分子が、酸性水溶性標的物質、または該酸性水溶性標的物質の擬似分子である前項2に記載のポリマー。
4.前記アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーが、アミノ基および/またはイミノ基以外に、酸性水溶性標的物質と相互作用可能な1種以上の官能基で修飾されたを有するポリマーである前項1〜3のいずれか1項に記載のポリマー。
5.前記酸性水溶性標的物質と相互作用可能な官能基が、ジアミノトリアジン誘導体、ジアミノピリダジン誘導体、グアニジン誘導体、イミダゾール誘導体、ポルフィリン誘導体およびシクロデキストリン誘導体のいずれか1であることを特徴とする前項4に記載のポリマー。
6.前記酸性水溶性標的物質が窒素代謝老廃物質、ヌクレオチドおよびアミノ酸のいずれか1であることを特徴とする前項1〜5のいずれか1項に記載のポリマー。
7.前記窒素代謝老廃物質が尿酸であることを特徴とする前項6に記載のポリマー。
8.前記不飽和カルボニル架橋剤が2つ以上の不飽和カルボニル基を有することを特徴とする前項1〜7のいずれか1項に記載のポリマー。
9.前記アミノ基および/またはイミノ基と前記不飽和カルボニル基とのモル比が0.15〜1.35であることを特徴とする前項8に記載のポリマー。
10.前記特異的認識部位により酸性水溶性標的物質と部分的に結合できることを特徴とする前項2〜9のいずれか1項に記載のポリマー。
11.水溶液中で酸性水溶性標的物質を選択的に吸着する前項1〜10のいずれか1項に記載のポリマー。
12.少なくとも1種の酸性水溶性標的物質を選択的に吸着するポリマーの製造方法であって、該酸性水溶性標的物質との相互作用が可能な少なくとも1種のアミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーと不飽和カルボニル架橋剤とをマイケル付加反応した後にラジカル重合する2段階の反応により架橋共重合体を得ることを特徴とするポリマーの製造方法。
13.少なくとも1種の酸性水溶性標的物質に対する特異的認識部位を有するポリマーの製造方法であって、該特異的認識部位が以下の(1)および(2)の工程を含む分子インプリンティング法により水溶液中で形成されることを特徴とするポリマーの製造方法。
(1)少なくとも1種の鋳型分子の存在下で、該鋳型分子との相互作用が可能な少なくとも1種のアミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーと不飽和カルボニル架橋剤とをマイケル付加反応した後にラジカル重合する2段階の反応により架橋共重合体を得る工程
(2)工程(1)で得られた架橋共重合体から鋳型分子を遊離除去して該鋳型分子に対する特異的認識部位を形成する工程
14.前記アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーが、アミノ基および/またはイミノ基以外に、酸性水溶性標的物質と部分的に結合できる1種以上の官能基を有するポリマーである前項12または13に記載のポリマーの製造方法。
15.前項1〜11のいずれか1項に記載のポリマーを含む酸性水溶性標的物質吸着剤。
16.前項1〜11のいずれか1項に記載のポリマーを用いて酸性水溶性標的物質を選択的に分離または除去する方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリマーは、酸性水溶性標的物質に対する優れた吸着性を有しており、生体類似環境においても、酸性水溶性標的物質のみをより選択的に吸着する性能を発現するため、生体必須成分を除去することなく、迅速に酸性水溶性標的物質のみを排除することが可能である。したがって、本発明のポリマーを主成分とする酸性水溶性標的物質の吸着剤は、従来の血液透析に比べて、合併症を引き起こすような血中栄養分の低下の抑制、及び社会的活動の負担の低減が可能であることから、透析療法の代替として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、酸性水溶性標的物質を選択的に吸着するポリマーを提供する。ここで、本発明において「酸性水溶性標的物質」とは、酸性官能基を含む水溶性化合物である。該酸性官能基としては、例えば、リン酸基、スルホン基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、イミノ基、アミド基、エステル基およびウレタン基等が挙げられる。
【0018】
前記酸性水溶性標的物質としては、例えば、尿酸、クレアチニンおよびビリルビン等の窒素代謝老廃物質(窒素を含む化合物の代謝によって生じた老廃物)、馬尿酸等の代謝物質、ウリジン、シチジン、アデノシンおよびグアノシン等のヌクレオシド、ヌクレオシドに5´−一リン酸化されたヌクレオチド、ヌクレオチドの共重合体であるポリヌクレオチドやオリゴヌクレオチド、ヌクレオシドに5´−二リン酸化されたヌクレオシド二リン酸、ヌクレオシドに5´−三リン酸化されたヌクレオシド三リン酸、アスパラギン酸、チロシン、セリンおよびアラニン等のアミノ酸、アミノ酸残基からなるポリペプチド、オリゴペプチド、コール酸等の胆汁酸、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸等の農薬、並びにビスフェノールA等の内分泌撹乱物質等が挙げられる。
【0019】
また、酸性水溶性標的物質の擬似分子とは、その主たる骨格が同一または類似し、他の分子と相互作用する官能基を含む骨格が同一または類似する分子を言う。例えば、UMP(ウリジン5’−一リン酸)とAMP(アデノシン5’−一リン酸)とは主たる五単糖の骨格が同一であり、相互作用に寄与するリン酸基を同一とするものであり、両者は擬似分子である。
【0020】
本発明のポリマーを慢性腎不全の透析療法の代替として用いる場合、酸性水溶性標的物質は、窒素代謝老廃物質、好ましくは尿酸であることが好ましい。
【0021】
本発明において、「選択的に吸着する」とは標的物質を優先的に吸着することを言う。本発明のポリマーによる酸性水溶性標的物質に対する選択的な吸着は、分光光度計による吸光度の測定、高速液体クロマトグラフィーによる溶離速度等により測定することができる。
【0022】
本発明の酸性水溶性標的物質を選択的に吸着するポリマーは、アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーと不飽和カルボニル架橋剤とをマイケル付加反応(第1段階目の反応)した後に、ラジカル重合(第2段階目の反応)する2段階の反応により架橋した構造である。アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーと不飽和カルボニル架橋剤とを当該2段階の反応により架橋させることにより、強固且つ高性能な特異的認識部位を有する架橋共重合体を得ることができる。
【0023】
〔第1段階目の反応:マイケル付加反応〕
第1段階目の反応であるマイケル付加反法では、アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマー及び不飽和カルボニル架橋剤等の反応成分と鋳型分子を重合溶剤に溶解させた後、アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーと不飽和カルボニル架橋剤を付加反応させて、架橋共重合体を得る。
【0024】
マイケル付加反応は、通常は、アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーを重合溶剤に溶解させたポリマー溶液と、ポリマー溶液を、不飽和カルボニル架橋剤を重合溶剤に溶解させた架橋剤溶液と合わせて、攪拌後、暗所で静置して反応させる。攪拌方法且つ時間は、特に限定されず、完全に混合させることが目的である。マイケル付加反応の反応温度は4〜90℃が好ましく、4〜35℃がより好ましい。また、反応時間は、1時間以上が好ましく、12時間以上(通常48時間以下)がより好ましい。
【0025】
(アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマー)
本発明のポリマーはアミノ基および/またはイミノ基を有することにより、酸性水溶性標的物質と相互作用できる。アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーとしては、例えば、第1級および/または第2級アミノ基を有するアリルアミンをモノマーとして用いるアリルアミン系重合体(例えば、ポリアリルアミン、およびアミノ基が一部アセチル化またはアルキル化されたポリアリルアミン等)、アルキレンイミン系重合体、ビニルアミン系重合体、リジン系重合体、キトサン、並びに第1級および/または第2級アミノ基もしくはイミノ基を複数有するポリマー等が挙げられる。
【0026】
前記アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーのなかでも、マイケル付加反応を効率良く行ない、酸性水溶性標的物質と静電的相互作用を効率良く発現する重量平均分子量20,000以下、好ましくは18,000以下(通常1000以上)のポリアリルアミンが好適に用いられる。アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーは、単独で用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本発明では、アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーは重合溶剤に溶解させてポリマー溶液として用い、該ポリマー溶液を、不飽和カルボニル架橋剤を重合溶剤に溶解させた架橋剤溶液と合わせて、マイケル付加反応溶液とすることが好ましい。該ポリマー溶液中のポリマー濃度は5〜40質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。ポリマーの濃度が40質量%より大きいと溶液粘度が高くなり取扱いが困難になる。
【0028】
また、マイケル付加反応溶液中のアミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーの濃度は2〜15質量%とすることが好ましく、3〜6質量%とすることがより好ましい。
【0029】
(不飽和カルボニル架橋剤)
本発明のポリマーは、アミノ基および/またはイミノ基と不飽和カルボニル架橋剤とをマイケル付加反応で架橋することで、酸性水溶性標的物質に対する特異的認識部位を形成するだけでなく、特異的認識部位に要しないアミノ基および/またはイミノ基をキャップすることができる。これにより、過剰の官能基による非選択的吸着を抑えることが可能となる。
【0030】
前記不飽和カルボニル架橋剤は2つ以上の不飽和カルボニル基を有する化合物であることが好ましい。かかる不飽和カルボニル架橋剤としては、例えば、N,N’−ビスアクリロイルピペラジン、N,N’−エチレンビスアクリルアミド、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートおよびトリメチロールプロパントリメタクリレート等が挙げられる。不飽和カルボニル架橋剤は、単独で用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
前記アミノ基および/またはイミノ基と不飽和カルボニル架橋剤との配合比は、特に限定されないが、(アミノ基および/またはイミノ基)/(不飽和カルボニル架橋剤の不飽和カルボニル基)のモル比を0.15〜1.35とすることが好ましく、より好ましくは0.25〜0.66である。
【0032】
前記(アミノ基および/またはイミノ基)/(不飽和カルボニル架橋剤の不飽和カルボニル基)のモル比が1.35より大きいと、アミノ基および/またはイミノ基が十分に不飽和カルボニル基と反応ができず、残存アミノ基および/またはイミノ基によって生体必須成分の吸着が増加する傾向にある。なお、当該モル比が0.15より小さいと、ポリマー内で特異的認識部位を形成できるアミノ基および/またはイミノ基の数が少なくなり、酸性水溶性標的物質の選択的吸着が発揮することができなくなる傾向にある。
【0033】
また、マイケル付加反応においては、得られる本発明のポリマーの吸着選択性を向上させるために、必要に応じて、不飽和カルボニル架橋剤以外の不飽和カルボニル化合物を同時又は後に反応させてもよい。かかる不飽和カルボニル化合物としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、アクリルアミドおよびアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0034】
(重合溶剤)
重合溶剤としては、例えば、水、メタノールおよびエタノール等のアルコール類、並びにジメチルホルムアミド等の有機溶剤等が挙げられ、中でも水が好ましい。溶剤として水溶液を用いることで、高親水性のポリマーが得られ、疎水性相互作用による非選択的吸着を抑えることができる。重合溶剤は、単独で用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
マイケル付加反応溶液における重合溶剤の濃度は特に限定されないが、前記(ポリマー溶液と上記架橋剤溶液で用いた重合溶剤の総量)/(不飽和カルボニル架橋剤とアミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーの総量)が1〜9で用いられることが好ましい。重合溶剤の総量比が大きいと生体必須成分の吸着が増加する傾向にある。
【0036】
重合溶剤は、重合開始剤を含有する。重合開始剤としては、ビニル基を活性化させてラジカルを生じるラジカル重合開始剤であれば特に限定されないが、例えば、2,2’−アゾビス(2−アミノジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス(N、N’−ジメチレンイソブチルアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(N−アリルアミジノ)プロパン]二硫酸塩、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]および4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)などのアゾ化合物、過硫酸ナトリウムおよび過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、並びにt−ブチルパーオキサイドおよびジスクシン酸パーオキサイドなどの有機過酸化物等が挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。また、これらの重合開始剤には、例えば、N、N、N’、N’−テトラメチルエチレンジアミン等の重合促進剤を併用しても良い。
【0037】
重合開始剤と不飽和カルボニル架橋剤との配合比は、特に限定されないが、十分な重合率でポリマーを得るためには、重合開始剤/不飽和カルボニル架橋剤のモル比が0.0025〜0.02であることが好ましく、より強固且つ高性能な架橋共重合体を得るためには0.004〜0.01であることが好ましい。
【0038】
〔第2段階目の反応:ラジカル重合反応〕
第2段階目の反応であるラジカル重合法では、マイケル付加反応終了後、マイケル付加反応溶液をラジカル重合させることにより、架橋共重合体を得るものである。このことにより、本発明のポリマーは酸性水溶性標的物質に対する高い選択的吸着を水溶液中で実現することができる。
【0039】
前記ラジカル重合反応は、周知の方法を用いることができ、例えば、40〜120℃に加熱する、または紫外線、電子線等の活性エネルギー線を照射して実施することができる。活性エネルギー線としては、紫外線が好ましい。
【0040】
紫外線照射によりラジカル重合する場合は、紫外線照射後に暗所に静置して反応させる。この場合、反応温度を4〜90℃とすることが好ましく、4〜15℃とすることがより好ましい。また、反応時間は12時間以上が好ましく、18時間以上(通常36時間以下)がより好ましい。
【0041】
上記のようにして得られた架橋共重合体は、ボールミル、ハンマーミル、ジェットミル、すり鉢等の方法で粉砕した後、特定の大きさのものを回収して用いても良い。また、架橋共重合体の形状は、特に特定されるものではなく、上記粉砕物を回収しても良いし、又は、公知の粒子製造方法、例えば、懸濁重合法や分散重合法等を適用することにより、予め特定の粒子形状に重合しておいても良い。
【0042】
本発明は、また、酸性水溶性標的物質に対する特異的認識部位を有するポリマーを提供する。ここで、「特異的認識部位」とは、ポリマーの認識対象となる酸性水溶性標的物質の鋳型に相当する部位であり、対象物質となる酸性水溶性標的物質に対して相補的な孔状部を意味する。
【0043】
前記特異的認識部位は、後述するように分子インプリンティング法により形成する。このことにより、該特異的認識部位は、生体類似環境下でも酸性水溶性標的物質に対する親和性が高く、本発明の酸性水溶性標的物質に対する特異的認識部位を有するポリマーは特異的な酸性水溶性標的物質認識能を発現できる。
【0044】
また、本発明の酸性水溶性標的物質に対する特異的認識部位を有するポリマーは、水性媒体との馴染が非常に良好であり、特定の酸性水溶性標的物質との吸着を迅速に達成することができる。
【0045】
本発明の酸性水溶性標的物質に対する特異的認識部位を有するポリマーは、該特異的認識部位が以下の(1)マイケル付加反応およびラジカル重合の2段階の反応により架橋共重合体を得る工程、および(2)鋳型分子に対する特異的認識部位を形成する工程を含む分子インプリンティング法により水溶液中で形成される。
【0046】
ここで、「分子インプリンティング法」とは、上述したように、官能基を有する重合可能な分子を鋳型分子の存在下で重合させ、次いで、該鋳型分子を取り除くことにより、鋳型分子に相補的な特異的結合部位を有するポリマーを調製する方法である。
【0047】
本発明において、分子インプリンティング法は水溶液中で行う。水溶液として重合溶剤は、例えば、アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーと鋳型分子である酸性水溶性標的物質との相互作用を損なわず、各重合成分を溶解することができ、かつ、多孔性にするための溶剤(ポロジェン)となり得るものが好ましい。
【0048】
前記重合溶剤としては、上述したように、例えば、水、メタノールおよびエタノール等のアルコール類、並びにジメチルホルムアミド等の有機溶剤等が挙げられ、中でも、血液や体液といった使用時環境の観点から、水が好ましい。重合溶剤は、単独で用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
以下、前記工程(1)および(2)について説明する。
(1)マイケル付加反応およびラジカル重合の2段階の反応により架橋共重合体を得る工程
この工程は、少なくとも1種の鋳型分子の存在下で、該鋳型分子との相互作用が可能な少なくとも1種のアミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーと不飽和カルボニル架橋剤とをマイケル付加反応した後にラジカル重合する、2段階の反応により架橋共重合体を得る工程である。
【0050】
前記「鋳型分子」とは、酸性水溶性標的物質を言う。また、前記「相互作用」としては、例えば、イオン結合、水素結合、ファンデルワールス力、配位結合、静電相互作用、双極子相互作用、π−πスタッキング等による分子間相互作用が挙げられる。
【0051】
前記ポリマー中のアミノ基および/またはイミノ基は、鋳型分子と相互作用することで、特異的結合部位の相互作用点として機能できる。また、当該アミノ基および/またはイミノ基がマイケル付加反応可能な不飽和カルボニル架橋剤と反応することで、特異的認識部位に要しないアミノ基および/またはイミノ基を架橋点として機能できる。このため、本発明の酸性水溶性標的物質に対する特異的認識部位を有するポリマーは、非選択的吸着を抑えるだけでなく、酸性水溶性標的物質に対して高い選択的吸着能を発揮できることとなる。
【0052】
前記ポリマーは、アミノ基および/またはイミノ基以外に、酸性水溶性標的物質と相互作用できる1種以上の官能基を有することもできる。これにより、上記標的物質と多点且つ特異的に相互作用することが可能となり、アミノ基および/またはイミノ基のみを用いた場合よりも、上記標的物質に対して強い選択的吸着能を発揮できる。
【0053】
前記酸性水溶性標的物質と部分的に結合できる官能基としては、標的物質と相互作用可能であれば特に限定されないが、例えば、ジアミノトリアジン誘導体、ジアミノピリジン誘導体、グアニジン誘導体、イミダゾール誘導体、ポルフィリン誘導体、シクロデキストリン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアゾール誘導体、ピロール誘導体、インドール誘導体、プリン誘導体およびアミド誘導体等が挙げられる。
【0054】
前記官能基は対応する化合物の骨格を有する置換基であればよく、これらの中でも特にジアミノトリアジン誘導体[下式(1)]、ジアミノピリジン誘導体[下式(2)]、グアニジン誘導体[下式(3)]、イミダゾール誘導体[下式(4)]、ポルフィリン誘導体[下式(5)]およびシクロデキストリン誘導体[下式(6)]が好ましく、イミド基と多点で相互作用可能なジアミノトリアジン誘導体(例えば、2,4−ジアミノ−s−トリアジン誘導体)がより好ましい。
【0055】
【化1】

【0056】
工程(1)において、酸性水溶性標的物質/(アミノ基および/またはイミノ基)のモル比は0.05以上とすることが好ましく、より好ましくは0.075〜0.125とする。当該モル比が0.05より小さいとポリマー内の特異的認識部位の存在数が少なくなり、酸性水溶性標的物質の選択的吸着が発揮することができなくなる傾向にある。
【0057】
(2)鋳型分子に対する特異的認識部位を形成する工程
工程(2)は、工程(1)で得られた架橋共重合体から鋳型分子を遊離除去して該鋳型分子に対する特異的認識部位を形成する工程である。
【0058】
鋳型分子である酸性水溶性標的物質を架橋重合体から遊離除去する方法としては、例えば、親水性溶剤で洗浄する方法が挙げらる。親水性溶剤としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、ピリジン、ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール、アセトンおよび水等が挙げられる。これらの溶剤は単独で用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
酸性水溶性標的物質を架橋重合体から遊離除去する方法の具体例として、例えば、以下の工程(a)および(b)を含む方法が挙げられる。
(a)水酸化ナトリウム水溶液を用いた場合、0.5mol/lの水酸化ナトリウム水溶液に架橋重合体を混合して攪拌し、上澄みに酸性水溶性標的物質が検出されなくなるまで繰り返し液を入れ替えて洗浄する。
(b)超純水で溶液を置換し、上澄み液のpHが7以下になるまで繰り返し液を入れ替えて脱塩した後、凍結乾燥して、酸性水溶性標的物質特異的認識ポリマーを得る。
【0060】
また、本発明の方法により重合体を得る工程を更に詳しく説明する具体例として、以下の工程(A)〜(D)を含む方法を挙げるが、重合体を得る工程はこの具体例に限られるわけではない。
【0061】
(A)重合溶剤としての水に、酸性水溶性標的物質(例えば、尿酸)を通常75mmol/l以上、好ましくは100mmol/l以上と、アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーとしてのポリアリルアミンを通常5〜40質量%、好ましくは5〜20質量%の濃度で溶解させてポリマー溶液を調製する。
(B)重合溶剤としての水に、不飽和カルボニル架橋剤(例えば、N,N’−ビスアクリロイルピペラジン)及び重合開始剤[例えば、2,2’−アゾビス(2−アミノジノプロパン)二塩酸塩]を溶解させて架橋剤溶液を調製する。
(C)(A)で調製したポリマー溶液に、(B)で調製した架橋剤溶液を添加し、30秒間攪拌を行った後、室温で16時間暗所に静置することで、マイケル付加反応による1段階目の架橋反応を行う。
(D)4℃にて24時間紫外線を照射して、ラジカル重合反応による2段階目の架橋反応を行う。反応後、塊状架橋共重合体をボールミルにより粉砕する。
【0062】
本発明のポリマーは、特異的認識部位により酸性水溶性標的物質と部分的に結合できることがより好ましい。酸性水溶性標的物質と部分的に結合できることにより、本発明のポリマーは、2種以上の酸性水溶性標的物質とも結合できるように設計することが可能となり、より効率良く酸性水溶性標的物質を吸着することができる。
【0063】
本発明は、本発明のポリマーを含む酸性水溶性標的物質吸着剤を提供する。本発明の吸着剤は、本発明の酸性水溶性標的物質を選択的に吸着するポリマーまたは酸性水溶性標的物質に対する特異的認識部位を有するポリマーを主成分とするものであり、物理的又は化学的に適合し得る1種類以上の吸着剤と混合しても良い。かかる吸着剤としては、例えば、活性炭、活性炭素繊維、カーボンブラック、シリカゲル、活性アルミナおよびゼオライト等が挙げられる。
【0064】
本発明の吸着剤を、酸性水溶性標的物質吸着の用途に用いる場合、特に限定されないが、例えば、吸着剤を吸着器の充填剤として用いて、その充填剤に酸性水溶性標的物質を含む溶液を加えて酸性水溶性標的物質のみを選択的に分離または除去することができる。
【0065】
また、酸性水溶性標的物質を含む溶液に吸着剤を加えて、ろ過又はデカントして、酸性水溶性標的物質が吸着している吸着剤を除去して、該溶液から酸性水溶性標的物質を選択的に分離または除去することもできる。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を揚げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0067】
[実施例1−1]
〔ポリマー溶液の調製〕
ガラス製ネジ付き試験管中で、10質量%に調製した分子量15,000のポリアリルアミン水溶液(1g当りのアミノ基総量は17.5mmol)(日東紡製)(PALA15)1.2ml(アミノ基2.14mmol)に尿酸(シグマ・アルドリッチ社)36.0mg(0.21mmol)を添加して尿酸を溶解させた。その後、窒素ガスを5分間バブリングしてポリマー溶液を調製した。
【0068】
〔マイケル付加反応〕
N,N’−ビスアクリロイルピペラジン(シグマ・アルドリッチ社)416.4mg(2.14mmol)と2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩2.9mg(0.017mmol)(シグマ・アルドリッチ社)を水2.7mlに溶解させ、窒素ガスを5分間バブリングして架橋剤溶液を調製した。該架橋剤溶液を前記ポリマー溶液に添加し、この状態で30秒間攪拌を行った。攪拌終了後、室温で16時間暗所に静置することで、マイケル付加反応による1段階目の架橋反応を行った。
【0069】
〔ラジカル重合反応〕
その後、4℃で24時間ブラックライトにより紫外線を照射して、ラジカル重合反応による2段階目の架橋反応を行い、前記1段階目の架橋反応後よりも強固な塊状架橋共重合体を得た。
【0070】
前記塊状架橋共重合体をボールミルにより粉砕した後、用いた尿酸を除去するために0.5mol/l 水酸化ナトリウム水溶液で充分に洗浄した。続いて、水でpH7になるまで洗浄した。遠心分離(6000rpm、15分)により上澄液を回収後、沈殿物を凍結乾燥し、酸性水溶性標的物質(尿酸)選択的吸着ポリマーの粒子を得た。
【0071】
[実施例1−2]
尿酸を配合しなかったこと以外は、実施例1−1と同様にしてポリマー粒子を調製した。
【0072】
[比較例1−1]
〔ポリマー溶液の調製〕
ガラス製ネジ付き試験管に、10質量%に調製した分子量15,000のポリアリルアミン水溶液(日東紡製)(PALA15)1.2mlと尿酸(シグマ・アルドリッチ社)36.0mg(0.21mmol)を添加して尿酸を溶解させた。その後、窒素ガスを5分間バブリングしてポリマー溶液を調製した。
【0073】
〔マイケル付加反応〕
水2.7mlにN,N’−ビスアクリロイルピペラジン416.4mg(2.14mmol)(シグマ・アルドリッチ社)と2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩2.9mg(0.0107mmol)(シグマ・アルドリッチ社)を溶解させ、窒素ガスを5分間バブリングして架橋剤溶液を調製した。この架橋剤溶液を上記ポリマー溶液に添加し、この状態で30秒間攪拌を行った。攪拌終了後、室温で16時間暗所に静置することで架橋反応を行った。
【0074】
前記マイケル付加反応による1段階目の架橋反応のみを実施した架橋共重合体をボールミルにより粉砕した後、用いた尿酸を除去するために0.5mol/l 水酸化ナトリウム水溶液で充分に洗浄した。続いて、水でpH7になるまで洗浄した。遠心分離(6000rpm、15分)により上澄液を回収後、沈殿物を凍結乾燥し、ポリマー粒子を調製した。
【0075】
[比較例1−2]
尿酸を配合しなかったこと以外は、比較例1−1と同様にしてポリマー粒子を調製した。
【0076】
[参考例1−1]
市販活性炭(アルドリッチ社製;粒径2−12μm)
【0077】
[尿酸吸着性能評価]
0.2mmol/lの尿酸(シグマ・アルドリッチ社)を含む1mmol/lの食塩水1mlに、実施例1−1および1−2、比較例1−1および1−2、並びに参考例1−1の各粒子 10mgを添加した。室温で16時間インキュベートした後、遠心分離(4000rpm、10分、室温)して被険液を得た。得られた各被険液について、尿酸の特徴的な290nmの吸収を分光光度計(ベックマン・コールター社、DU800)にて測定することにより、残存尿酸を定量し、その結果から尿酸吸着量を算出した。その結果を表1に示す。
【0078】
表1から明らかなように、実施例1−1のポリマーは、分子インプリンティング法および2段階反応(マイケル付加反応およびラジカル重合反応)によってポリマー内に尿酸に対する特異的認識部位を形成させることで、同じ樹脂組成で分子インプリンティング法を行わず2段階反応によりポリマーを調製した実施例1−2のポリマーに比べて尿酸の高い吸着性能を示した。
【0079】
また、分子インプリンティング法およびマイケル付加反応でポリマーを調製した比較例1−1も、同じ組成で分子インプリンティング法を行わずにマイケル付加反応のみでポリマーを調製した比較例1−2に比べて、尿酸に対する高い吸着性能を示した。これらのこことから、分子インプリンティング法によりポリマーを調製することにより、酸性水溶性標的物質に対して高い吸着性能を示すポリマーが得られることが分かった。
【0080】
一方、2段階反応のうち1段階目のマイケル付加反応のみでアミノ基を有するポリマーを不飽和カルボニル架橋剤とを架橋した比較例1−1および1−2のポリマーは、マイケル付加反応とラジカル重合との2段階反応で架橋した実施例1−1および1−2のポリマーよりも低い尿酸吸着量であった。このことから、当該2段階反応により架橋させることにより、酸性水溶性標的物質に対して高い吸着性能を示すポリマーが得られることが分かった。
【0081】
[特異的認識性能評価1]
生体にとって必須成分であるビタミンB(ニコチン酸アミド)(シグマ・アルドリッチ社)0.2mmol/lを含む1mmol/lの食塩水 1mlに、実施例1−1および1−2、比較例1−1および1−2、並びに参考例1−1の各粒子 10mgを添加した。室温で16時間インキュベートした後、遠心分離(4000rpm、10分、室温)して被険液を得た。得られた被険液について、ビタミンBの特徴的な260nmの吸収を分光光度計(ベックマン・コールター社、DU800)にて測定することにより、残存ビタミンBを定量し、その結果からビタミンB吸着量を算出した。その結果を表1に示す。
【0082】
表1から明らかなように、実施例1−1および1−2、並びに比較例1−1および1−2のポリマーは、参考例1−1に比べて、ビタミンBに対する低い吸着性を示した。ここで、尿酸吸着性能評価では、表1に示すように、参考例1−1は、実施例1−1および1−2のポリマーと比較して、酸性水溶性標的物質(尿酸)に対する高い吸着性能を示したが、生体必須成分のビタミンDに対しても高い吸着性能を示した。これらのことから、実施例1−1および1−2のポリマーは、酸性水溶性標的物質に対して高い吸着性能を示し、ビタミンBに対しては低い吸着性を示すことが確認された。
【0083】
[特異的認識性能評価2]
生体にとって必須成分であり、尿酸の類似構造を有するビタミンB(リボフラビン)(シグマ・アルドリッチ社) 0.08mmol/lを含む1mmol/lの食塩水 1mlに、実施例1−1および1−2、比較例1−1および1−2、並びに参考例1−1の各粒子10mgを添加した。室温で16時間インキュベートした後、遠心分離(4000rpm、10分、室温)して被険液を得た。得られた被険液について、ビタミンBの特徴的な264nmの吸収を分光光度計(ベックマン・コールター社、DU800)にて測定することにより、残存ビタミンBを定量し、その結果からビタミンB吸着量を算出した。その結果を表1に示す。
【0084】
表1から明らかなように、実施例1−1および1−2のポリマーは、特異的認識部位が形成されていないビタミンBに対して、参考例1−1に比べて低い吸着性を示した。参考例1−1は、実施例1−1および1−2のポリマーと比較して、酸性水溶性標的物質に対する高い吸着性能を示したが、生体必須成分のビタミンDに対しても高い吸着性能を示した。
【0085】
また、マイケル付加反応とラジカル重合との2段階反応により架橋した実施例1−1のポリマーは、1段階目のマイケル付加反応でのみ架橋した比較例1−1および1−2のポリマーに比べて低い吸着性を示し、2段階架橋によって高い選択的吸着性能を付与できることが分かった。
【0086】
これらのことから、実施例1−1および1−2のポリマーは、比較例1−1および1−2のポリマー並びに参考例1−1と比較して、酸性水溶性標的物質に対する高い特異的認識性能を有することが分かった。すなわち、2段階反応により架橋させて調製したポリマーは酸性水溶性標的物質に対する高い特異的認識性能を有することが分かった。
【0087】
また、分子インプリンティング法と2段階反応により架橋させた実施例1−1のポリマーは、2段階反応のみで架橋させた実施例1−2のポリマーと比較して、高い尿酸吸着量を示した。このことから、分子インプリンティング法と2段階反応を組合わせることにより、酸性水溶性標的物質に対する高い特異的認識性能がより向上することが分かった。
【0088】
【表1】

【0089】
[吸着速度評価]
0.2mmol/lの尿酸を含む1mmol/lの食塩水1mlに、実施例1−1の粒子10mgを添加した。室温で0.5、0.7、3、11、16時間インキュベートした後、遠心分離(10,000rpm、1分、室温)して被険液を得た。得られた被険液について、尿酸の特徴的な290nmの吸収を分光光度計(ベックマン・コールター社、DU800)にて測定することにより、残存尿酸を定量し、その結果から尿酸吸着速度を考察した。その結果を図1に示す。
【0090】
図1から明らかなように、実施例1−1のポリマーにより、酸性水溶性標的物質の吸着が1時間以内に飽和した。このことから、一般的な血液透析治療では1回3時間以上必要であることを考えると、本発明のポリマーは、迅速な吸着性能を発揮できることが期待される。
【0091】
[実施例2−1〜2−9]
(アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマー)
アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーとして、分子量3000のポリアリルアミン水溶液(1g当りのアミノ基総量は17.5mmol)(日東紡製)(以後、PALA03と省略する)、分子量15,000のポリアリルアミン水溶液(1g当りのアミノ基総量は17.5mmol)(日東紡製)(以後、PALA15と省略する)および2,4−ジアミノ−s−トリアジン基(以後、DAT基と省略する)を有するポリアリルアミン(以後、DAT−PALAと省略する)を使用した。DAT−PALAは以下のように合成した。
【0092】
・DAT−PALAの合成
フラスコに、40質量%に調製したPALA03 5ml(アミノ基総量 35mmol)、0.5mol/lの水酸化ナトリム水溶液 20ml、2,4−ジアミノ−6−クロロ−s−トリアジン(以後、Cl−DATと省略する) 1.018mg(7mmol)を加えて攪拌混合した。得られた混合液を110℃に昇温させ、このまま48時間攪拌および還流させることで、Cl−DATのアンモノリシス反応により、下式(7)に示すDAT−PALAを合成した。図2に得られたDAT−PALAのH−NMRスペクトルを示す。
【0093】
【化2】

【0094】
上記溶液を室温まで冷却し、不溶物を濾過除去した。得られた濾液を、60mlの強酸性陽イオン交換樹脂(Amberlite、IR120、H型)および60mlの強塩基性陰イオン交換樹脂(Amberlite、IRA400、OH型)に通過させることで脱塩した。その濾液を凍結乾燥し、DAT−PALAを得た。
【0095】
得られたDAT−PALAの構造を、IRおよびH−NMRにより確認した。DAT−PALAの合成に用いた上記ポリアリルアミンのアミノ基総量の20mol%にDAT基を導入され、DAT−PALAの1g当りのアミノ基総量は15.2mmolであった。
【0096】
(不飽和カルボニル架橋剤)
不飽和カルボニル架橋剤として、N,N’−ビスアクリロイルピペラジン(以後、BAPと省略する)(シグマ・アルドリッチ社)、N,N’−エチレンビスアクリルアミド(以後、EBAAと省略する)(シグマ・アルドリッチ社)を使用した。
【0097】
(重合開始剤)
重合開始剤として、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(シグマ・アルドリッチ社)を使用した。
【0098】
(重合溶剤)
重合溶剤として、超純水を使用した。
【0099】
(鋳型分子)
鋳型分子として、各酸性水溶性標的物質である、ウリジン5‘−一リン酸(以後、UMPと省略する)(シグマ・アルドリッチ社)、アデノシン5’−一リン酸(以後、AMPと省略する)(シグマ・アルドリッチ社)、N−カルボベンゾキシ−L−アスパラギン酸(以後、ZAspと省略する)(シグマ・アルドリッチ社)、尿酸(シグマ・アルドリッチ社)を使用した。
【0100】
下記手順により、表2に示す組成の各ポリマーを作製した。
〔ポリマー溶液の調製〕
ガラス製ネジ付き試験管中で、10質量% 水溶液(DAT−PALAは13.3質量%)に調製した、アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマー溶液に鋳型分子を添加して溶解させた。その後、窒素ガスを5分間バブリングしてポリマー溶液を調製した。
【0101】
〔マイケル付加反応〕
重合溶剤に不飽和カルボニル架橋剤と重合開始剤を溶解させ、窒素ガスを5分間バブリングして架橋剤溶液を調製した。この架橋剤溶液を上記ポリマー溶液に添加し、この状態で30秒間攪拌を行った。攪拌終了後、室温で16時間暗所に静置することでマイケル付加反応による1段階目の架橋反応を行った。
【0102】
〔ラジカル重合反応〕
その後、4℃で24時間ブラックライトにより紫外線を照射して2段階目の架橋反応させることにより、前記マイケル付加反応による1段階目の架橋反応後よりも強固な塊状架橋共重合体を得た。
【0103】
前記塊状架橋共重合体をボールミルにより粉砕した後、用いた鋳型分子を除去するために0.5mol/l 水酸化ナトリウム水溶液で充分に洗浄した。続いて、超純水でpH7になるまで洗浄した。遠心分離(6000rpm、10分)して上澄液を回収後、沈殿物を凍結乾燥し、各酸性水溶性標的物質に対する特異的認識部位を有する、ポリマー粒子を得た。
【0104】
[実施例2―10〜2−15]
表2に示すように、鋳型分子を配合しない限りは、実施例2−1〜2−9と同様の方法によって、表2に示す組成のポリマー粒子を得た。
【0105】
【表2】

【0106】
[比較例2−1〜2−4]
比較例2−1および2−2では、一般的に実施されている、機能性モノマーを使用した分子インプリンティング法によって表3に示す組成のポリマーを作製した。また、比較例2−3および2−4では、鋳型分子を配合しない限りは、比較例2−1および2−2と同様の方法により、表3に示す組成の従来の架橋共重合体粒子を得た。
【0107】
比較例2−1および2−2のポリマー粒子並びに比較例2−3および2−4の架橋共重合体粒子の原料には、以下を用いた。
鋳型分子:酸性水溶性標的物質である尿酸(シグマ・アルドリッチ社)
機能性モノマー:アリルアミン(ALA)(シグマ・アルドリッチ社)、ビニルイミダゾール(VID)(シグマ・アルドリッチ社)
架橋剤:EBAA(シグマ・アルドリッチ社)
重合開始剤:2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(シグマ・アルドリッチ社)
重合溶剤:超純水
【0108】
表3に示す組成で、重合溶剤に機能性モノマー、架橋剤、重合開始剤と鋳型分子を溶解させ、窒素ガスを5分間バブリングして原料混合液を調製した。その後、4℃で24時間ブラックライトにより紫外線を照射して架橋反応させることにより、強固な塊状重合体を得た。
【0109】
前記塊状重合体をボールミルにより粉砕した後、用いた鋳型分子を除去するために0.5mol/l水酸化ナトリウム水溶液で充分に洗浄した。続いて、超純水でpH=7になるまで洗浄した。遠心分離(6000rpm、15分)して上澄液を回収後、沈殿物を凍結乾燥し、参考例2−1および2−2のポリマー粒子並びに参考例2−3および2−4の架橋共重合体粒子を得た。
【0110】
【表3】

【0111】
[UMP吸着性能評価]
4本の2mlマイクロチューブに実施例2−1、2−2、2−4および2−10の各粒子 10mgを入れ、UMP 0.01mmol/lを含む1mmol/lの食塩水 1mlを添加した。室温で16時間インキュベートした後、遠心分離(4000rpm、10分、室温)して被険液を得た。得られた被険液について、UMPの特徴的な260nmの吸収を分光光度計(ベックマン・コールター社、DU800)にて測定することにより、残存UMPを定量し、その結果からUMP吸着量を算出した。
【0112】
また、分子インプリンティング法により付与されたUMP吸着向上効果を下式に従って算出した。その結果を表4に示す。
UMP吸着向上効果(nmol/10mg)=A/B
A:実施例実施例2−1、2−2または2−4のUMP吸着量
B:実施例2−1、2−2および2−4と同じ樹脂組成である、実施例2−10のUMP吸着量
【0113】
【表4】

【0114】
表4から明らかなように、UMPに対する特異的認識部位を有する実施例2−1のポリマーは、同じ樹脂組成である実施例2−2、2−4および2−10のポリマーに比べてUMPに対する高い吸着性能を示した。このことから、分子インプリンティング法によりポリマーを調製することにより、酸性水溶性標的物質に対する、より高い吸着向上効果が得られることが分かった。
【0115】
また、AMPに対する特異的認識部位を有する実施例2−2のポリマー、および、尿酸に対する特異的認識部位を有する実施例2−3のポリマーは、分子インプリンティング法を用いていない実施例2−10と同程度のUMPに対する吸着性能を示した。このことから、分子インプリンティング法により特異的認識部位を設計することにより、ポリマーがが酸性水溶性標的物質に対する高い選択的吸着性能示すことが分かった。
【0116】
[AMP吸着性能評価]
2本の2mlマイクロチューブに実施例2−2および2−10の各粒子 10mgを入れ、これにAMP 0.01mmol/lを含む1mmol/l 食塩水1mlを添加した。室温で16時間インキュベートした後、遠心分離(4000rpm、10分、室温)して被険液を得た。得られた被険液について、AMPの特徴的な260nmの吸収を分光光度計(ベックマン・コールター社、DU800)にて測定することにより、残存AMPを定量し、その結果からAMP吸着量を算出した。
【0117】
また、分子インプリンティング法により付与されたAMP吸着向上効果を下式に従って算出した。その結果を表5に示す。
AMP吸着向上効果(nmol/10mg)=A/B
A:実施例2−2のAMP吸着量
B:実施例2−2と同じ樹脂組成である実施例2−10のAMP吸着量
【0118】
【表5】

【0119】
表5から明らかなように、AMPに対する特異的認識部位を有する実施例2−2のポリマーは、同じ樹脂組成である実施例2−10のポリマーに比べてAMPに対する高い吸着性能を示した。このことから、分子インプリンティング法によりポリマーを調製することにより、酸性水溶性標的物質に対する、より高い吸着向上効果が得られることが分かった。
【0120】
[ZAsp吸着性能評価]
2本の2mlマイクロチューブに実施例3および比較例1の各粒子 10mgを入れ、これにZAsp 0.2mmol/lを含む1mmol/lの食塩水1mlを添加した。室温で16時間インキュベートした後、遠心分離(4000rpm、10分、室温)して被険液を得た。得られた被険液中の残存ZAsp量について、以下の条件により液体クロマトグラフィーを用いて測定し、その結果からZAsp吸着量を算出した。
【0121】
液体クロマトグラフィーは以下の条件で行った。
HPLC装置:Hitachi製のLachromシステム
カラム:Chromolith RP−18e
流量:0.5ml/min
検出器:LC7455 UV・254nm
注入量:100μl
溶離液:0.1%TFA水溶液/0.1%アセトニトリル=75/25
【0122】
また、分子インプリンティング法により付与されたZAsp吸着向上効果を下式に従って算出した。その結果を表6に示す。
ZAsp吸着向上効果(nmol/10mg)=A/B
A:実施例2−3のZAsp吸着量
B:実施例2−3と同じ樹脂組成である実施例2−10のZAsp吸着量
【0123】
【表6】

【0124】
表6から明らかなように、ZAspに対する特異的認識部位を有する実施例2−3のポリマーは、同じ樹脂組成である実施例2−10のポリマーに比べてZAspの高い吸着性能を示した。このことから、分子インプリンティング法によりポリマーを調製することにより、酸性水溶性標的物質に対する、より高い吸着向上効果が得られることが分かった。
【0125】
[尿酸吸着性能評価]
17本の2mlマイクロチューブに実施例2−1および2−4〜2−15、並びに比較例2−1〜2−4の各粒子10mgを入れ、これに尿酸 0.01mmol/lを含む1mmol/lの食塩水 1mlを添加した。室温で16時間インキュベートした後、遠心分離(4000rpm、10分、室温)して被険液を得た。得られた被険液について、尿酸の特徴的な290nmの吸収を分光光度計(ベックマン・コールター社、DU800)にて測定することにより、残存尿酸を定量し、その結果から尿酸吸着量を算出した。
【0126】
また、分子インプリンティング法により付与された尿酸吸着向上効果は下式に従って算出した。その結果を表7に示す。
尿酸吸着向上効果(nmol/10mg)=A/B
A:実施例2−1若しくは2−4〜2−9、または比較例2−1若しくは2−3の尿酸吸着量
B:実施例2−1若しくは2−4〜2−9、または比較例2−1若しくは2−3と同じ樹脂組成である、実施例2−10〜2−15または参考例2−2若しくは2−4(比較対照)の尿酸吸着量
【0127】
【表7】

【0128】
表7から明らかなように、尿酸に対する特異的認識部位を有する実施例2−4〜2−9のポリマーは、同じ樹脂組成の比較対照のポリマーに比べて尿酸に対する高い吸着性能を示した。また、UMPに対する特異的認識部位を有する実施例2−1のポリマーは、表4に示すように実施例2−4のポリマーと比較してUMPに対する高い吸着性能を示したが、尿酸に対しては低い吸着性能を示した。
【0129】
これらのことから、本発明の方法により調製したポリマーは、それぞれの標的物質に相補的な特異的認識部位を有し、該特異的認識部位により酸性水溶性標的物質に対する高い選択的吸着性能を示すことが分かった。
【0130】
また、機能性モノマーを用いて分子インプリンティング法により調製された比較例2−1および2−3の架橋共重合体は、尿酸に対して特異的吸着性能を示さなかった。このことから、本発明の方法で調製したポリマーは、アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーを用いることで、鋳型分子と多点で効率良く相互作用することができ、ポリマー内に効率良く特異的認識部位を形成できることが分かった。
【0131】
ここで、鋳型分子である尿酸/機能性モノマーのモル比は、尿酸の溶解性が乏しいために0.02が最大であり、ポリマー内の特異的認識部位の存在数をさらに増やすことが困難であった。
【0132】
(アミノ基および/またはイミノ基)/(不飽和カルボニル架橋剤の不飽和カルボニル基)のモル比を0.5とした実施例2−4は、当該モル比を0.25とした実施例2−6と比較して、尿酸吸着向上効果が小さくなった。このことから、強固な架橋構造によって特異的認識部位の形成が促進され、さらにポリマー単位重量あたりのアミノ基/イミノ基が減少したことで非選択的吸着を抑制できることが分かった。
【0133】
アミノ基とDAT基の両方を用いた実施例2−9のポリマーは、同じ樹脂組成である実施例2−15のポリマーと比較して、尿酸に対する高い吸着性能を示した。このことから複数の官能基を用いた分子インプリンティング法でも、高い特異的認識性能を付与できることが分かった。
【0134】
また、実施例2−9のポリマーは、アミノ基のみを用いた実施例2−4のポリマーよりも格段に高い尿酸吸着向上効果を示した。このことから、ポリマー内に酸性水溶性標的物質と相互作用可能な官能基を多数導入することで、酸性水溶性標的物質と多点且つ特異的に相互作用することが可能となり、酸性水溶性標的物質に対して高い吸着性能を発揮できることが分かった。
【0135】
[特異的吸着力評価]
2mlマイクロチューブに実施例2−4、実施例2−9、比較例2−1および比較例2−6の各粒子10mgを入れ、これに尿酸 0.01mmol/lを含む10mmol/lまたは150mmol/l食塩水の各1mlを添加した。室温で16時間インキュベートした後、遠心分離(4000rpm、10分、室温)して被険液を得た。得られた被険液について、尿酸の特徴的な290nmの吸収を分光光度計(ベックマン・コールター社、DU800)にて測定することにより、残存尿酸を定量し、その結果から尿酸吸着量を算出した。
【0136】
また、分子インプリンティング法により付与された尿酸吸着向上効果は下式に従って算出した。その結果を表8に示す。
各塩濃度における尿酸吸着向上効果(nmol/10mg)=A/B
A:実施例2−4または2−9の各塩濃度における尿酸吸着量
B:実施例2−4または2−9と同じ樹脂組成である実施例2−10または2−15(比較対照)の各塩濃度における尿酸吸着量
【0137】
【表8】

【0138】
表8から明らかなように、試験液中の塩濃度が増加するに従って、実施例2−4、2−9、2−10および2−15のポリマーによる尿酸吸着量が低下した。このことから、試験液中の塩成分がポリマーマトリックス表面への非選択的な吸着を抑制することが分かった。
【0139】
また、アミノ基のみを有するポリマーを用いて調製した実施例2−4のポリマーは、試験液中の塩濃度が増加するに従って、尿酸吸着向上効果が低下した。これに対し、アミノ基と、イミド構造と相互作用できるDAT基の両方を有するポリマーを用いて調製した実施例2−9のポリマーは、高い尿酸吸着向上効果を示した。
【0140】
このことから、本発明の方法により調製したポリマーは、酸性水溶性標的物質と相互作用可能な官能基を多数導入することで、酸性水溶性標的物質と多点且つ特異的に相互作用することが可能となり、酸性水溶性標的物質に対して強い特異的吸着性能を発揮できることが分かった。
【0141】
[選択的吸着能評価]
2mlマイクロチューブに実施例2−9および2−15の各粒子10mgを入れ、これに尿酸[下式(8)]と類似構造を有するチミン[下式(9)](シグマ・アルドリッチ社)、テオブロミン[下式(10)](シグマ・アルドリッチ社)、テオフィリン[下式(11)](シグマ・アルドリッチ社)またはカフェイン[下式(12)](シグマ・アルドリッチ社)を0.01mmol/l含む各150mmol/l 食塩水1mlを添加した。室温で16時間インキュベートした後、遠心分離(4000rpm、10分、室温)して被険液を得た。
【0142】
得られた各被険液について、各尿酸類似分子の特徴的な吸収(チミン;260nm;、テオブロミン;270nm、テオフィリン;270nm、カフェイン;270nm)を分光光度計(ベックマン・コールター社、DU800)にて測定することにより、各残存尿酸類似分子を定量し、その結果から各残存尿酸類似分子量を算出した。その結果を表8に示す。
【0143】
下式(8)〜(12)に示すように、各尿酸類似分子は尿酸と類似形状を有しているが、各尿酸類似分子の化学構造および大きさは実質的に尿酸と異なる。
【0144】
【化3】

【0145】
【表9】

【0146】
表9から明らかなように、尿酸に対する特異的認識部位を有する実施例2−9のポリマーは、同じ樹脂組成である実施例2−15のポリマーよりも尿酸の高い吸着性能を示したが、各尿酸類似分子(チミン、テオブロミン、テオフィリンおよびカフェイン)に対しては極めて低い吸着性能を示した。このことから、尿酸のようなイミド構造を有する分子に対して主にDAT基をポリマーの特異的認識部位の形成に使用することによって、非特異的な吸着を抑制できることが分かった。
【0147】
すなわち、本発明の方法で調製したポリマーは、酸性水溶性標的物質と相互作用可能な官能基を多数用いることで、酸性水溶性標的物質に相補的な特異的認識部位を有し、該特異的認識部位により酸性水溶性標的物質に対する高い選択的吸着性能を示すことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】実施例1−1のポリマーによる尿酸吸着速度を示す。
【図2】DAT−PALAのH−NMRスペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の酸性水溶性標的物質を選択的に吸着するポリマーであって、アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーと不飽和カルボニル架橋剤とをマイケル付加反応した後にラジカル重合する2段階の反応により架橋した構造であることを特徴とするポリマー。
【請求項2】
少なくとも1種の酸性水溶性標的物質に対する特異的認識部位を有するポリマーであって、該特異的認識部位が以下の(1)および(2)の工程を含む分子インプリンティング法により水溶液中で形成されることを特徴とするポリマー。
(1)少なくとも1種の鋳型分子の存在下で、該鋳型分子との相互作用が可能な少なくとも1種のアミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーと不飽和カルボニル架橋剤とをマイケル付加反応した後にラジカル重合する2段階の反応により架橋共重合体を得る工程
(2)工程(1)で得られた架橋共重合体から鋳型分子を遊離除去して該鋳型分子に対する特異的認識部位を形成する工程
【請求項3】
前記鋳型分子が、酸性水溶性標的物質、または該酸性水溶性標的物質の擬似分子である請求項2に記載のポリマー。
【請求項4】
前記アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーが、酸性水溶性標的物質と相互作用可能な1種以上の官能基で修飾されたポリマーである請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項5】
前記酸性水溶性標的物質と相互作用可能な官能基が、ジアミノトリアジン誘導体、ジアミノピリジン誘導体、グアニジン誘導体、イミダゾール誘導体、ポルフィリン誘導体およびシクロデキストリン誘導体のいずれか1であることを特徴とする請求項4に記載のポリマー。
【請求項6】
前記酸性水溶性標的物質が窒素代謝老廃物質、ヌクレオチドおよびアミノ酸のいずれか1であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項7】
前記窒素代謝老廃物質が尿酸であることを特徴とする請求項6に記載のポリマー。
【請求項8】
前記不飽和カルボニル架橋剤が2つ以上の不飽和カルボニル基を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項9】
前記アミノ基および/またはイミノ基と前記不飽和カルボニル基とのモル比が0.15〜1.35であることを特徴とする請求項8に記載のポリマー。
【請求項10】
前記特異的認識部位により酸性水溶性標的物質と部分的に結合できることを特徴とする請求項2〜9のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項11】
水溶液中で酸性水溶性標的物質を選択的に吸着する請求項1〜10のいずれか1項に記載のポリマー。
【請求項12】
少なくとも1種の酸性水溶性標的物質を選択的に吸着するポリマーの製造方法であって、該酸性水溶性標的物質との相互作用が可能な少なくとも1種のアミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーと不飽和カルボニル架橋剤とをマイケル付加反応した後にラジカル重合する2段階の反応により架橋共重合体を得ることを特徴とするポリマーの製造方法。
【請求項13】
少なくとも1種の酸性水溶性標的物質に対する特異的認識部位を有するポリマーの製造方法であって、該特異的認識部位が以下の(1)および(2)の工程を含む分子インプリンティング法により水溶液中で形成されることを特徴とするポリマーの製造方法。
(1)少なくとも1種の鋳型分子の存在下で、該鋳型分子との相互作用が可能な少なくとも1種のアミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーと不飽和カルボニル架橋剤とをマイケル付加反応した後にラジカル重合する2段階の反応により架橋共重合体を得る工程
(2)工程(1)で得られた架橋共重合体から鋳型分子を遊離除去して該鋳型分子に対する特異的認識部位を形成する工程
【請求項14】
前記アミノ基および/またはイミノ基を有するポリマーが、アミノ基および/またはイミノ基以外に、酸性水溶性標的物質と部分的に結合できる1種以上の官能基を有するポリマーである請求項12または13に記載のポリマーの製造方法。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のポリマーを含む酸性水溶性標的物質吸着剤。
【請求項16】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のポリマーを用いて酸性水溶性標的物質を選択的に分離または除去する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−197132(P2009−197132A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−40189(P2008−40189)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】